パッチワークハロウィン~ぱんな・こったは服従の印

作者:質種剰

●宴の後
 10月31日、ハロウィンの夜。
 とある別荘地のコテージでは、ついさっきまでハロウィンパーティーを楽しんでいたのだろう、色紙の飾りつけもそのままの室内に照明だけ消されて、宴の後の寂しさが際立っていた。
 テーブルにはカボチャを模した菓子入れが中のキャンディーやマシュマロ毎放置され、ソファーには魔女の帽子やミイラ男の包帯が無造作に置かれている。
 そんな窓も扉も施錠されていた筈の屋内へ、一体どこから入り込んだものか、いつの間にか1人の女が佇んでいた。
「私が失っていた『服従』の心は満たされた。あぁ、誰かに服従し、その為に働く事の、なんと甘美なる事か」
 暗い緑のドレスに身を包んだ女が、まるで歌うような口ぶりで呟く。
「魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスが、その役目を果たすとしよう」
 女——ヘスペリデスが片腕を持ち上げるや、その掌に眩い光を放つ果実が顕現した。
「ユグドラシルにおられる、『カンギ様』の為に、私の黄金の林檎からハロウィンの日に相応しい植物を生み出そう」
 その黄金の林檎がふわっと手から離れたかと思うと、
「さぁ、お前達、ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては、『カンギ様』の為に」
 巨大なスイーツの攻性植物へと変貌した。
 白くてつるんとしたゼラチン質の円柱形に真っ赤なベリーソースがかかり、周りに沢山のラズベリーが飾られていて可愛らしい。
 天辺に飾られた苺は本体と繋がった視覚器官であるらしく、瞼を閉じている。
「さぁ、人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、ぱんな・こったよ。人間どもを喰い散らかすがいい」
 ヘスペリデスの命を受けて、生まれたばかりのぱんな・こったが目を覚ました。

●ヘスペリデスの凶行
「皆さん、ハロウィンパーティー楽しかったでしょうか?」
 小檻・かけら(貝作るヘリオライダー・en0031)は、そんな切り出し方から話を始めた。
「パーティーが終わったばかりでありますが、辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)殿が、新たな敵の動きを見つけてくださったでありますよ」
 麟太郎の調べでは、ハロウィンパーティーが終わった直後だというのに、パッチワークの魔女の1人が動き出したらしい。
「動き出したのは、パッチワークの魔女の1体、第十一の魔女・ヘスペリデス……」
 ヘスペリデスは、日本各地のハロウィンパーティーが行われた会場に現れ、会場に残ったハロウィンパーティーの残滓と彼女が持つ黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出すようだ。
「このままですと、パーティーを楽しんで家路につこうという方々が襲われて、殺されてしまうかもしれないであります」
 そんな懸念を口に出し、かけらは深々と頭を下げる。
「楽しいハロウィンを惨劇で終わらせない為に、パーティー会場に向かって、現れた攻性植物を撃破してください。宜しくお願い致します……!」


 今回の戦場は、長野県某所のコテージ。
 パーティーの参加者は全員が別棟へ引き上げて就寝した為、ハロウィンパーティー会場周辺は無人となっている。
「皆さんに戦って頂く攻性植物は、ぱんな・こった……1体のみではありますが、体長3メートルを越す強敵であります」
 ぱんな・こったは、光花形態と捕食形態を使い分けて攻撃してくる。
 頑健さを活かした『光花形態』は、破壊光線を撃って火傷を負わせてくる。射程の長い単体魔法攻撃だ。
 また、理力に満ちた『捕食形態』は、ハエトリグサのように変形して近くの敵単体へ喰らいつき、毒を注入してくる。
 時に『収穫形態』へと変じて自分の傷を治す事もあるようだ。
「パッチワークの魔女がハロウィンに事件を起こすのは納得でありますが、現れる敵が攻性植物であるのは、不自然でありますね……」
 説明を締め括ったかけらが、ふと首を傾げる。
「ヘスペリデスが、攻性植物を武器にしているのか、或いは、攻性植物がヘスペリデスを手駒にしたのか……ともあれ、楽しいハロウィンが台無しにならないよう、討伐宜しくお願い致します」


参加者
不知火・梓(酔虎・e00528)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
羽丘・結衣菜(まだまだ修行中のマジシャン・e04954)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)

■リプレイ


 深夜の別荘地。
 ——ドシャアッ!
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は、相変わらず小檻にヘリオンから蹴り落とされていた。
 機内でいつもの如く彼女へ悪戯した結果らしい。流石は落ちる男である。
「……うん。確かに『悪戯するしお菓子も貰うぜ』って答えた。そして悪戯もしたさ……」
 とはいえ、彼の述懐からするに、今回の悪戯はハロウィンの定番文句トリックオアトリートに端を発しているらしい。
「甘いお菓子というのは人を襲ったりしないものが良かったんだけど……」
 ぱんな・こったが自分の宿敵であるにも拘らず、何というタイミングで現れたものか、とぼやく蒼眞だ。
「さーて、今回の作戦は氷漬けね。あ、コオリって言ってもかけらちゃんのことじゃないわよ?」
 そんな仲間をチラと見てからかうのが、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)。
 ミミックのヒガシバを従えた自宅警備員のオラトリオで、若々しく見えるも実年齢は還暦目前。前夫との子どもどころか孫までいるそうな。
 蒼眞へ小檻まくらを贈ったのはソフィアである為、外見的に彼を小檻漬けにした張本人といえよう。
「うんうん、決して小檻漬けじゃないですよ?」
 羽丘・結衣菜(まだまだ修行中のマジシャン・e04954)も、ソフィアの冗談を受けてこくこく頷いた。
 茶色いポニーテールと屈託のない笑顔が魅力的な、シャドウエルフの女の子。
 常々マジシャンとして手品の腕を磨いているが、オフの時は髪を下ろして多少雰囲気を変えた姿も見られる——この日は、折角のハロウィンだからと烏天狗の仮装をしていた。
 烏天狗の蓑とシャーマンズゴーストのまんごうちゃんとの取り合わせが妙にぴったりで面白い。
「やっぱりかけらちゃんに悪戯したんですね……」
 愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)は、落ちてきた蒼眞へ呆れたふうな視線を向けるも、
「人を襲うって……あれ? 先輩やけにアレについて詳しくないです??」
 すぐに意識をぱんな・こったの事へ戻して首を傾げた。
 艶々した銀髪と大きな藍色の瞳が大人しそうな雰囲気を漂わせるが、実際は明るく元気で天真爛漫な電波系アイドルのミライ。
 今日もボクスドラゴンのポンちゃんと共に、ミライは宇宙を救うべく敵へ立ち向かう。
「パンナコッタ、おいしいです、よね。たくさん食べた後でも、ぷるぷる、つるんって食べられて、甘くておいしいので、わたしは好きですっ」
 一方、相変わらずおどおどしつつも幾分楽しそうに言うのは、相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)。
 黒いお下げ髪と大きな瞳が可愛らしい、幼い風貌のメイドさん。
「でも、生クリームだから食べた後は運動しないと、ですね」
 人見知りで緊張しやすく、いつもびくびく臆病な性格らしいが、日々ご主人様に尽くそうと頑張る努力家。
「……あれ? でも戦闘するのは食べる前、ですよね……?」
 しかし、接客や給仕が不得手なせいか、ドジを踏む事もしばしば——どうやら彼女の不治の病とはドジっ娘属性らしい。
「去年のハロウィンも事件が起きたらしいから、今年も何か起こるかも、って警戒してたけど……ほんとに起きちゃったね……!」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、自分の予想が当たったのへ驚いてか、いささか興奮した物言いだ。
 褐色の肌と夜明け色の瞳が印象に残る美少女で、柔らかな黒髪に飾ったハイビスカスの赤がよく似合う。
 海や花、夜や夕焼け、そしてパンケーキが好きという、素直で純真なオラトリオである。
 全員が降下するのを待ってコテージ内へ踏み込んだ時、丁度生まれたてのぱんな・こったが目を覚ましたところだった。
「美味しそうだね……! ちょっとハウピアにも似てるね」
 その白くてプルプルした外見のせいか、奴を一目見るなり美味しそうに感じたマヒナは、ハウピアというココナッツミルクを固めたハワイの伝統的なデザートを思い浮かべている。
 他方。
「菓子の形をしているのは、パーティの夢を取り込んだ所為か。ならば貴様を焼き尽くし、その夢を取り戻す」
 ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)は、ぱんな・こったを鋭い目つきで見据え、毅然と言い放つ。
 元ダモクレスの指揮官機だが、平時は極々一般的な地球人に偽装する為、中肉中背に黒髪と記憶に残らない外見に努めている。
 普段の言動は理知的でクール、復讐に狂った心——もっともこれは地獄化で補っているらしい——を表に出す事もなく他人と円滑なコミュニケーションを計る、真面目かつ良識派である。
「お祭り済んで日が暮れて~って、家が焼けたりヘソクリが取られたりはしてねぇが、このままだともっと酷ぇことになるよなぁ」
 と、気の抜けたような間延びした話し方をするのは、不知火・梓(酔虎・e00528)。
 加齢臭と腹回りを気にする、どこからどう見てもおっさんだが、
「こっからは祭りの二部、喧嘩祭りといこうかねぇ。こっちの方が好みだしなぁ」
 禁酒は途中で挫折したものの休肝日を作ったり普段から酒量を減らす努力を続けていて、一方の禁煙は今も長楊枝咥えて継続中という、なかなか意志の強い中年男である。
 また、心の片隅では真剣での戦いを望んでいる熱いところもあった。


 目を覚ましたぱんな・こったは、苺の果肉の内で瞳をギョロつかせながら、光花形態へと変貌を遂げる。
 苺のがくからするすると伸びて咲き誇った白い花が撃つのは、七彩に輝く破壊光線だ。
 ちゅいーん!!
「マヒナさん!」
 旅団の仲間を太い光芒が貫いたように見えて、ミライが悲鳴をあげる。
 だが、間一髪でハートレスのライドキャリバー、サイレントイレブンがマヒナの前へ走り込み、彼女の代わりにダメージを受けた。
「……まあ、久しぶりだな、というべき、なのか……?」
 蒼眞は、やたらと可愛らしい外見のぱんな・こったを胡乱そうに眺めて、斬霊刀を抜く。
 傑出した力量にて斬り払う太刀筋は、まさに達人の一撃と称するに相応しい威力で、ぱんな・こったへ鋭い刀傷と凍傷を残した。
「あ……わかりました! 動いた後に食べるから、減った分を補充できてるんですね!」
 得心した様子で両手を前方へ翳すのは愛。
 掌から『ドラゴンの幻影』を放って、ぱんな・こったを焼き捨てんばかりの勢いで炎に包んだ。
「斬り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 踏み込みゆかば 後は極楽、ってなぁ」
 梓は、咥えていた長楊枝を吐き捨てて戦闘へ意識を切り替える。
 Gelegenheitによる卓越した剣技に曝されて、ぱんな・こったの柔らかそうな胴体に幾筋もの切り傷が疾り、疾った先から凍りついていく。
 刀身が閃く度に赤い液体が飛び散って痛々しいが、よく見るとどれもベリーソースである。
 もっとも、このベリーソースもぱんな・こったの体液に違いないだろうが。
「ふふ、そううまくはいかせないわよ」
 冥府から黒い羽根を大量に打ち出して攻撃するのはセレスティン。
「あっ……!」
 黒い羽根が戦場に舞った事で、ミライは物陰に潜んでいたセレスティンへ気づいた。
 笑顔を向ける彼女へ、セレスティンもウィンクで応じる。
「しかし、このシュールな見た目。エネルギー源はハロウィン。ここまでならドリームイーターっぽいのに、実は攻性植物なのよね」
 確かにどこかちぐはぐな印象ね——と考え込みつつ、全身の装甲からオウガ粒子を放出するのは結衣菜。
 光輝く粒子を前衛陣へ降り注がせて、彼らの超感覚を覚醒させた。
「ま、それは後で考えるとして、ハードな初陣だけど頑張ろうね、まんごうちゃん」
 そうにこやかに語りかける結衣菜の意志へ忠実に、まんごうちゃんは非物質化した爪を振るって霊魂へ直に攻撃をぶち当てている。
(「……誰かのために頑張れることをも、服従と呼べるなんて知らなかった。私はそれを、自由と呼ぶのだけれど」)
 ミライはメディックとして回復に専念。
「さぁ、災厄を祓うお祭りの成果、見せてあげましょう!」
 願望こそ人類の原動力たることを証明する歌を歌って、サイレントイレブンをもう少し頑張れる状態へと導いていく。
 その傍らでは、ポンちゃんがボクスブレスを吐いて、蒼眞や梓が与えた凍傷の痛みを倍加させようと奮闘していた。
「これだけ人数いるなら、おばちゃんは高みの見物でも……はいはい、やるわよ」
 初っ端からサボりを決め込むつもりのソフィアだったが、草臥・衣(古着・en0234)に冷ややかな目で見られて渋々動く。
「同族の子も結構いるしね。調停期を生き抜いたのは伊達じゃないってとこを見せようかしら?」
 やればできると信じる心を魔法に変えるや、ぱんな・こった目掛けて将来性の感じられる一撃を叩きつけた。
 大器晩成——長い冬の時代を具現化したせいか、ベリーソースがビキビキと凍りつく。
「ん」
 安心して頷いた衣は、御業を鎧へと変形させて、愛に守護を齎す。
 エクトプラズムで作った裁ち鋏を振り下ろし、ぱんな・こったを斬りつけるのは御衣櫃だ。
「貴様らの居場所は地獄の底だ。迎えは今呼んでやる」
 ハートレスは機体を変形展開して発射口を出現させ、地獄の炎から生み出した熱線を放つ。
 それへ合わせて、サイレントイレブンも車体に炎を纏い、勢いよく突撃した。
 超高熱に曝されたぱんな・こったの体力は大幅に削られ、身体の一部が生クリームに戻っていそうな程どろどろになった。
「ハロウィンの夜はそろそろ終わり。おやすみの時間、だよ」
 縛霊手の掌から、ぱんな・こったを呑み込むぐらいの巨大光弾を発射するのはマヒナ。
 しっかりダメージを与えると同時に、その強い衝撃にて身体へ痺れを残すと、
「一口くらいはいいかな……」
 どこから取り出したのか、マヒナはスプーン片手にぱんな・こったへ近寄り、生クリームを固めたような身体を掬ってぱくり。
「甘くて美味しい……!」
 その顔がぱぁっと輝くのを見て、蒼眞も、
「じゃあ、俺もひと口」
 ぱんな・こったの一部を匙で掬った。
「ああ……カロリー高そうではあるが、結構美味しいな」


 ぱんな・こったは、光花形態と捕食形態を交互に使い分けて攻撃してくるも、その度に身体中の凍りついた箇所や火傷の幾つかが痛むらしく、じわじわと疲弊していった。
 時に収穫形態になって己が傷を癒すも、破壊光線の火の回りの速さからして、ぱんな・こったの立ち回りはジャマー。
 今まで受けた凍傷を異常耐性で振り切るにしても、到底完治には程遠い。
 何せ、こちらは総がかりで奴を氷漬けにすべく尽力しているのだ。
「……まあ、ぱんな・こったは一応知らない相手でもないんだし、流石にこれの犠牲者が出たりすれば寝覚めが悪そうだしな……」
 と、空の霊力を帯びた斬霊刀を振るい、ぱんな・こったの凍傷を正確に斬り広げる蒼眞。
 凍りついたラズベリーが赤い氷片となって飛び散る様は妙に美しく、食欲をそそった。
「おっかたーづけー♪ おっかたーづけー♪ さぁさみんなでおっかたーづけー♪」
 愛は歌いながら魔導書を開いて、箒やチリトリ、モップにバケツを召喚。
 これら魔法の掃除道具で、ぱんな・こったをお片づけしようとお掃除するのだった。
 一方、ぱんな・こったの捕食形態に噛みつかれて、不思議とテンションが上がっているのは梓。
 どうやら、自身の負傷や流血に高揚感を覚える戦闘狂のようだ。
「我が剣気の全て、その身で味わえ」
 正中に構えた刀身へ溜めた己の全剣気を、ぱんな・こったに斬りかかると共に飛ばす。
 剣気はぱんな・こったの表面を一切傷つけることなく体内まで浸透、心臓部へ到達してから絶大な威力を解放した。
「どこかで見たことがあるような無いような……キッチン……料理失敗……うにうに……ウッ、思い出してはいけない気がするわ!」
 結衣菜は突然頭を抑え、某旅団での大惨事もとい奇跡的な大失敗が脳裡をよぎるのへ困惑する。
「と、とにかく、音も、光も、そして拍手も無いマジックショーの開幕よ」
 だが、すぐに気を取り直してコテージ内の環境を魔術的に操作。
 光を曲げ、音を歪めて自らの気配を極限まで殺し、姿を消したも同然の一撃をぱんな・こったへお見舞いした。
 まんごうちゃんも物言わぬ祈りを捧げて、梓の傷を治癒している。
 衣は影の如き視認困難な斬撃で。ぱんな・こったの太く長い蔓を掻き斬ってダメージを与えた。
「案外、美味しそうな見た目だからって、マヒナさんに手を出すなんて言語道断なのです! ここが貴方の冷凍庫だ!」
 きっぱりと断言して、クッキーちゃんから精製した『物質の時間を凍結する弾丸』を撃つミライ。
 その傍らでは、ポンちゃんがボクスタックルをぶちかまし、ぱんな・こったの異常耐性を打ち消そうと努力している。
「オレの地獄に付き合ってもらう」
 抑揚のない声音と共に、バスターライフルの太く長大な銃身を向けるのはハートレス。
 狙い澄まして放った凍結光線がぱんな・こったの胴体を貫き、その体温を一気に奪った。
 サイレントイレブンは激しくスピンしながらぱんな・こったへ肉薄。
 ガラスの器のように見える足をガリガリと轢き潰していく。
「ほんとに氷漬けだね。フローズンぱんなこったになりそう」
 ぱんな・こったが情け容赦ない量の氷に覆われているのを見やり、どことなく楽しそうに呟くマヒナ。
 広げた翼から聖なる光を照射、ぱんな・こったの罪を直接攻撃した。
「さて」
 ソフィアは時空の調停者たるオラトリオの力を発揮。
 時間を停止させた空間にぱんな・こったを閉じ込めるや、縛霊手で圧倒的な火力を見舞う。
「——そして時は動き出す」
 正確に命中した叡智の世界によってもはや虫の息のぱんな・こったへ、ヒガシバもしっかりと齧りついていた。
「ランディの意志と力を今ここに! ……全てを斬れ……雷光烈斬牙……!」
 そして、ぱんな・こったにトドメを刺したのは、蒼眞が繰り出した一閃であった。
 とある冒険者がそうしたように斬霊刀の刀身へ稲妻の闘気を篭め、ぱんな・こったに飛びかかって距離を詰めるや、着地と同時に斬り裂く。
 脳天を見事に割られた形のぱんな・こったは、すっかりひしゃげた苺を振り回して痛がった末、ぴくりとも動かなくなった。
「貴様が盗んだ夢、返してもらったぞ。今からはまた、平和なハロウィンの夜だ」
 それを見下ろしたハートレスが静かに告げる。
 もはや絶命したと看て取り、ケルベロス達は戦場となったコテージの修復にかかる。
「お掃除は得意ですのでっ」
 荒らしてしまったパーティー会場を、てきぱきと掃除していくのは愛だ。
「助力感謝する、おかげで助かった」
 ハートレスもヒールを手伝いながら、衣へ語りかけていた。
「いや、こちらこそ有難う、ハートレス」
「あーもう疲れたー。今夜すごい頑張ったししばらく頑張らないでいいかしらね」
 ソフィアはソファへごろりと寝転がって寛いでいる。
「オーズの種の時みたいに手掛かりが残る可能性も……これ、持って帰っていいかな?」
 ぱんな・こったの器から、ラズベリーをぶちりともぎ取るのは結衣菜。
 どうも、去年と言い今年と言い、ハロウィンの時期に現れたデウスエクスの中には、遺骸のそのまま残るタイプが少なくないようだ。
 ハロウィンパーティーの飾りつけにぴったりかもしれない。
「黄金の林檎……出てくるのは北欧神話だったか? 確か、神々の不死性は、こいつで維持されてるんだったよなぁ」
 そんな結衣菜の様子を眺めて、梓が洩らす。
「単なる攻性植物の核、っつーにゃぁ、曰くがあり過ぎるよなぁ」
 一方で、蒼眞はヒール作業の合間に、何やらケルベロスカードへ書き込んでいた。
『Happy Halloween』
 家人達の知らぬ間に戦場へしてしまった事から、彼らを不安にさせない為の気遣いであろう。
 ふと、マヒナは月のない夜空を見上げて、ぽつりと呟く。
「服従の魔女ってことは、攻性植物が魔女を配下にしたのかな……?」

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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