●祭の終わり
薄い黒霧のような紗が頭上から垂れこめる地で、緑色の魔女はうっとりと目を細めた。
「私が失っていた『服従』の心は満たされた」
――嗚呼、誰かに服従し、その為に働く事の何と甘美なる事か!
血色の瞳が恍惚とした歓喜に染まる。
「魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスが、その役目を果たすとしよう」
こつり、床を鳴らして歩を進めると、からん、小振りなしゃれこうべが転がった。
「ユグドラシルにおられる、『カンギ様』の為に、私の黄金の林檎からハロウィンの日に相応しい植物を生み出そう」
無造作に放られていた朽ち木の十字を杖で払い除け、魔女は『残滓』に呼びかける。
「さぁ、お前達。ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては『カンギ様』の為に。人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、攻性植物『ぷりん・あら・もーど』よ。人間どもを喰い散らかすがいい」
言うと、魔女は抱えた籠から、黄金の林檎を一つ中空へと放った。
ぱぁん。
弾けたのは、隅に置き忘れられていたジャック・オー・ランタン。
そして中に詰め込まれていたカラフルなキャンディが四方に散るに合わせたように、まるで巨大菓子な攻性植物が顕現した。
●終わらない夜への誘い
辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が新たな敵の動きに気付いたのは、ハロウィンパーティーがお開きになったばかりの頃合い。
まだまだ余韻に浸っていたいのに、パッチワークの魔女の一人――第十一の魔女・ヘスペリデスが日本各地のハロウィンパーティーが行われていた会場に現れる。
「ヘスペリデスは会場に残ったハロウィンパーティーの残滓と、彼女が持つ黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出すようなんです」
このままでは楽しい思い出を胸に家路についた人々が襲われ命を落としてしまうんです、とリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は言う。
惨劇を防ぐにはパーティー会場に向かい、出現した攻性植物を倒すしかない。
「というわけで、皆さんに赴いて頂きたい場所ですが――」
そうしてリザベッタは、とある街にある公民館を示した。
ここの大会議室で行われていた地域のハロウィンパーティーの残滓を餌に、プリン・ア・ラ・モードによく似た攻性植物が生み出される。
「美味しそう、ですけどね。まぁ、体長はざっと3mほどありますが……」
流石の甘いもの好きでも完食は難しいだろうサイズのプリン・ア・ラ・モードに、リザベッタの視線が若干彷徨った。
「でも大丈夫です。食べるわけではありませんから」
――当然だ、敵は攻性植物なのだから。
そんな無言のツッコミを感じてか、こほんと少年紳士は咳ばらいを一つして、話を元に戻す。
「えっと、この攻性植物はですね。甘い香りで誘惑したり、アイスクリーム爆弾を飛ばしてきたり、全身でぷるんっと体当たりしてきたりするようです――あ、いえ。ぷるんの前に器の方がガツンと来そうですね。でも、攻性植物だから全体的にぷるんとしてるかもしれないし……」
どうにも話が脱線しがちなのは、リザベッタもハロウィンの余韻の繭から脱しきっていないからか。
そしてぷるんかがつんな攻性植物と戦う公民館の会議室も、ハロウィンパーティーの名残が色濃い。
天井のあちこちからドレープをきかせた黒い紗幕が垂れ下がり、床には墓場をイメージした各種置物に、大小様々なジャックオーランタン型の風船が転がっている。
片づけを明日に残したそこは、一日限定のホラーハウス。仮装をした子供たちが脅かしあった楽し気な声の残響が、聞こえてきそうだ。
「まぁ、戦闘の邪魔にはなる事はありませんし。せっかくですから、雰囲気を楽しんでしまうというのもありかもしれませんね」
パッチワークの魔女がハロウィンに事件を起こすのは納得だが、現れる敵が何故、攻性植物なのかという疑問がないではないが。
ハロウィンの夜は未だ終わっていない。
トリック、オア、トリート?
お菓子を呉れても、デウスエクスは退治してしまおう。
参加者 | |
---|---|
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218) |
春日・いぶき(遊具箱・e00678) |
市松・重臣(爺児・e03058) |
樒・レン(夜鳴鶯・e05621) |
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909) |
リヒト・セレーネ(玉兎・e07921) |
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810) |
御ヵ啼・文(花色ヴァンガード・e33000) |
●いざ勝負――の、前に
抜き足、差し足。
喧騒の温もりを仄かに残す乳白色のビニル床の廊下を、八人と三体はそろそろと歩く。辿り着いた一室の前で互いに顔を見合わすと、何とも言えない高揚感が込み上げる。
「に、似合うかな?」
照れたように、困ったように。御ヵ啼・文(花色ヴァンガード・e33000)が眉を下げて笑うと、さしゃりとしなやかな衣擦れの音が微かに鳴った。
「えぇ、とってもお似合い……なの」
興奮気味になりそうだった感嘆を、思い出したようにぐっと堪え、メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)は音をたてぬように手を叩く。だって文の仮装は目にも鮮やか。幾輪もの大輪の薔薇咲く濃紫のサテンのドレスに、肩から羽織る漆黒の魔女のマント。手にする雷杖にも歯車をモチーフにした飾りが一つ。
「時を操る魔女さま、なのね」
華やかな衣装に年頃の少女らしく目を細めたメイアは、しかし薔薇の一輪にほつれをみつけると、素早く手を伸ばして応急処置を施す。だって常は瓶屋さんのメイア、今日は可愛らしいお針子さん。細いレースをあしらった白い前掛けは品良く清楚に、そして左手には針山を。ゲシュタルトグレイブも待ち針にアレンジしたし、いつも一緒のボクスドラゴンのコハブもお揃い衣装に身を包んでいる。
「本当、皆さんお似合いなの――ね、いぶきちゃん?」
「はい」
先日お散歩先で出逢った間柄。親しく向けられた視線にニコリと笑み返す春日・いぶき(遊具箱・e00678)は、どこからどう見ても海賊船長。レースアップの麻のインナーの上に革のベストと黒のコートを羽織り。黒のパイレーツパンツにロングブーツを合わせ、腰にはサッシュ。頭の上はお約束のトライコーン。
「ふむ、年甲斐もなく張り切ってしまったのう……っと、いけないいけない」
豪快に笑いかけ慌てて口を押えた市松・重臣(爺児・e03058)は、腰から下はいぶきと同じだが、上半身は裸身にベストを羽織っただけ。しかし目を惹くのは、人派の竜族らしい彼自前の角を活かしたヴァイキングヘルム。連れるオルトロスの八雲も頭にバンダナを巻いて、ボーダー柄のTシャツを着ている。
「さしずめ時の魔女に呪いをかけられたアンデッド海賊団だな」
黒コートの代わりにロングベストを纏い腰のサッシュでまとめ、頭にはロングバンダナを巻いた――ただし色は黒で統一――樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が、いぶきや重臣、メイアの顔を見て言う。だってレンを含め彼ら彼女らの顔は血糊ペイントが施され、帽子やバンダナ、針山には紫薔薇の柄が入っているのだ。
「アンデット海賊団なら、ぼくは何でしょう?」
「多分、幸運の猫だと思うっすよ。猫は船の守り神って言うっすからね」
「なるほど!」
「そして自分は、皆さんの勇気に憧れたライオンっすね」
海賊衣装を纏った猫の着ぐるみを着たリヒト・セレーネ(玉兎・e07921)の問いに、ライオンの着ぐるみ姿に肩に青瞳の鴉をとまらせたザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)が応える。二人の頭にも、紫薔薇のコサージュが存在を主張。
「ふふ、じゃあボクはみんなに食べられちゃわないよう気を付けないと」
すすすっと海賊たちの波を掻き分け、プリンが行く――もとい、プリンの被り物をしたアストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)と、同じ格好のミミック、ボックスナイトが行く。
そうして用心深く引き戸に張り付いた少女は、くるり一同を振り返ってぷるんと身を震わせた。
「目には目を、プリンにはプリンを――だよっ。さぁ、いこう」
がらりと扉を開けると、そこは戦場。
(「本当にプリンの攻性植物が出て来るなんてびっくりだね」)
内心の驚きはプリンに秘め、アストラは時の魔女、そして呪われたアンデッド海賊団と共に、己が宿敵と定めた相手と対峙すべくホーンテッドハウスへ飛び込んだ!
●いざ勝負!
今晩は、良い夜ですね――そんな挨拶代わりに、メイアは待ち針槍で手近なジャック・オー・ランタン型風船をちくんと一刺し。
「っ!?」
パァンと乾いた破裂音に、中から飛び散る七色の飴たち。突然破られた静寂に、室内をうろうろしていた巨大プリンの頂点にある瞳らしきものが見張られる。
「えへへ、おどろいた?」
――わぁ、甘くていいにおい! しかも、おっきい! 美味しそう!
パチリと合った、瞳と瞳。同時にふわりと鼻先を擽った蜂蜜とバニラの香りに、メイアの心はメレンゲみたいに泡立つ。でも、これは戦い。海賊団の今宵の狙いは巨大プリン!
「というわけで、まずはビリビリしびれちゃってね――ライちゃん」
星の煌き宿す声音で呼び込むのは、名を与え約を結んだ雷獣。けれど神速の獣は誰の目にも留まらず。ただ轟音と光の軌跡のみ残し、巨大プリンをビリリと灼いた。
「食べられるのかしら?」
「うーん、きっと無理かな?」
仄かにビターになった香りにむにゅりと口元を緩めたメイアの疑問に、お針子コハブに自浄の加護を授けられたアストラは真顔で答えると、改造スマホを高速操作する。
『そして見た目より、すばしっこいと思うの』
見る間に打ち出されたコメント弾幕が、破壊と盾を担う者たちの助言となった。果たしてその言葉は正しく、くるりと踵を返した巨大プリンは、ケルベロス達から少し間合いを取って甘い息を吐き出す。
「助かった」
襲い来た強い香りからプリン(小)ことナイトボックスに庇われたレンは、螺旋の力を練り上げる。
(「暗躍する魔女の狙いが何かは知らんが、ハロウィンの折角の楽しき思い出を血で染めさせてなるものか。この忍務、必ず成し遂げる」)
「夜鳴鶯、只今推参」
放たれた氷の螺旋に、巨大プリンの一部がぴしりと凍てつく。
「そういえば、プリンは凍らせた方が美味しいとかいいましたっけ?」
――甘い誘惑に、美味しそうな外見。なんて卑怯な敵でしょう!
事を終えたら美味しいおやつを沢山頂かないと割に合いません、とペロリ唇を舐めたいぶきは、凶つ刃を巨大プリンへ掲げる。途端、念の為にと用意し、腰から下げたランプがぼんやりゆらゆら。
(「……っ!」)
垂れた紗幕を透かし人魂のようになった灯りに、リヒトが内心竦み上がる。皆の仮装はとっても素敵だけど、この部屋は心臓にあんまり宜しくない。
(「ううん、今日のぼくは幸運の守り神」)
けれど自らを鼓舞し、リヒトは猫尻尾を揺らして跳躍した。流星の輝き纏う蹴りを叩きつけるのは、勿論巨大プリン。
「この会場は、ちょーっとホラー寄り過ぎっすよね」
蔦を巻かれた十字に、意味深な髑髏。転がるそれらを一瞥したザンニも、乾いた笑いでリヒト同様、自分に喝を入れる。楽しい事が終わらないのは、夢のような事。そしてケルベロスはデウスエクスの企みを阻止する存在!
(「けど、出来ればトリックよりトリートを頂きたいところっす」)
ひらり紙兵を最後列の面々へ向けて撒くのが、ライオンザンニにとって最初のお仕事。
沈黙に支配されていた一時前が嘘のよう。パーティー会場は再び息を吹き返す。
「ふんっ、楽しい夢の名残を利用するなぞ無粋の極み。子らの思い出が踏み躙られぬよう、必ずや完食……もとい、成敗してくれよう!」
一部本音をちょい漏らし、磊落爺――ではなく、重臣がバールをぶん投げると、それを追いかけ海賊八雲がわふわふ走った。
「あはっ、楽しいね!」
リヒトとザンニには若干異論がありそうな感想を快活に飛ばし、文はひらりと薔薇のドレスを翻す。
トリック、アンド、トリート。択ばないでいいって、何て贅沢。
「来たれ、十二が星の一。天の輝き、守護の御星――スターサンクチュアリ!」
ワクワクし過ぎてついグラビティを発動する気合も十割増し。けど今宵は許されるから、と厨二全開台詞を文は謳う。
●ビターorスウィート
お化け屋敷は苦手だけれど、ハロウィンは大好き。
「素敵な仲間もいるもの!」
弾むリズムでドラゴンの幻影で巨大プリンを炙ったメイアは、くるりターンを決めて、また提灯ジャックをチクリ。爆ぜて飛ぶ飴に、甘い敵と――ついでにリヒトもびくりと肩を跳ねさす。
「っ、そうですね」
萎んでしまいがちな勇気は表に出さず、背伸びしたい年頃の少年は虚勢を張る。うん、怖くない、怖くない――いや、怖い。灯りを持ったいぶきがデウスエクスに肉薄してナイフを手に踊ると、下から照らされぼんやり浮かび上がる巨大プリンのシルエットはほぼほぼホラー。同じくランプを持参した重臣と八雲が仲良く駆ける様は、遠めに眺めると二つの火の玉みたいだし。あと、皆が楽しく風船を割ってる音も、ラップ音のよう。
ぱん、ぱん、ぱぁん!
ぶわっとリヒトの背中の毛が――着ぐるみの――逆立つ。
「大丈夫……近づかなければ、怖くない」
「そっ、そうですね」
ザンニの呟きは、勇気が欲しい自分へ向けたもの。けれど内心はそっくり着ぐるみコンビのお兄さんの言葉に、リヒトはさっきメイアに返したのと同じ是を返し。同時に、むくりと興味の頭を擡げさせた。
(「ぼくも割っちゃえば、怖くないかな」)
恐る恐る、手近な一つをえいっと一突き。
「……わぁ!」
仄かな明かりに照らされ飛んだ七色の飴は、ちゃんと見ると星屑にも似て。ついでにそれを華麗にキャッチしたかと思うと、ぺりっと包みを剥いて口に放り込んだレンは、妖精の国に住む永遠の少年のようで。
しかし。
「なかなか美味だな」
分身との挟撃を巨大プリンに仕掛けたレンの一言が、思わぬ興味に火を点けた。
「!?」
「本当です、美味しい」
はくり、もぐり。むぐむぐ、ごっくん。どさくさに紛れていぶきが咀嚼したのは、飴ではなく巨大プリンのぷるんな部分。
「え!? そうなの、そうなの!?」
衝撃のコメントに、プリン(中)なアストラの声がひっくり返る。何それ、食べられたの!?
「まぁあ! わたくし、自分より大きなプリンを食べるのちょっと夢だったの」
瞳を輝かせ、メイアが走った。
「ぼくも、食べてみたいですっ」
さっきまでの恐怖は何処へやら、ずっと美味しそうだと思ってたリヒトもまろび出る。
「あ、でも。ちょっと大人味かもしれません」
ほんのりビターなのは、きっと凍らせたり焦がしたりしたせい。けれど忠告は既に遅し。メイアとリヒト、背伸びしてかぷ。
「まっ、まぁまぁ、だと思うの」
「……っ」
「ふむ、なあらばわしは美味いと思うクチかのう?」
少女が辛うじて大人ぶり、少年は思いっきり顔を顰めた結末に、重臣が新たに身を乗り出し、八雲もわふんと目を輝かせた――が。
「あまり遊んでいると終わらないぞ」
「ふぁっ!?」
神出鬼没黒づくめレンが紗幕の影から巨大プリンへ一撃くれたついでに忠告を。愉快な事になっている戦場、これもハロウィンの夜がみせる魔法?
「いいな、いいな!」
回復役はちゃんと後ろでお仕事。でも仲間のはっちゃけぶりに、文は薔薇のドレスをフルフル揺らす。
「ボクはアイスクリーム爆弾を味わってみたい~」
「や、それ流石に――」
止めた方がいいんじゃないっすか――というザンニの台詞が途中で途切れたのは、ジャストタイミングでアイスクリーム爆弾が飛来したせい。
「すまん、間に合わなかったのじゃー」
「んー、大丈夫だよ!」
庇い切れなかったのを詫びる重臣に、にゅっとアイスの塊から首を出して文は笑う。べちゃっとしちゃったけれど、ぺろりと舐めたアイスはとっても美味。それに『冷』と『熱』の両方を楽しむみたいに点いた消えぬ炎も、ザンニがかけてくれていた自浄の加護のお陰ですぐ消えそうだし。
「……そういうことなら、自分も」
「ダメだよ、思い出して! あれは本物のプリン・ア・ラ・モードじゃないよ! ちょっと変わった攻性植物だよ!」
ふらり興味を惹かれたザンニを、文の傷を真に自由なる者のオーラで癒しながらアストラが押し留める。そう、忘れちゃいけない。アレは、れっきとしたデウスエクス。
●トリック&トリート
「物騒な菓子をくれた礼は、たっぷりせねばのう」
ちゃっかり齧った巨大プリンのお味は、どうやら重臣の口には合わなかったらしい(お子様舌の疑惑)。そんな恨みつらみも全部込め、長じて幼い男は被っていたヴァイキングヘルムへ手をかける。
「祭の締めに悪夢は無用、消え失せよ!」
「っ!?」
そのままそいやぁっと放られたヴァイキングヘルムに、まさかそれが飛んで来るとは思ってなかった風情で、直撃を喰らった巨大プリンの身が固まった。
受け止めきれなかった衝撃に攻性植物の身が傾ぎ、風船が散らばる床に転がれば、幾つもの飴が雨のように降る。
「悪いプリンは倒します。さぁ――遊んでおいで」
口の中に残る苦みを噛み潰し、リヒトは魔力で練り上げた光弾を、八雲とじゃれるように跳ねさせた。
遊んでいたようで、やるべきことはしっかりやっていたケルベロス達。気付くと巨大プリンは嵩激減(そんなに食べたわけではない)。
「じいちゃん直伝! ヘドロ瓶くらえー!」
麗しの衣装とは裏腹に、文もどこからともなく取り出したヘドロ瓶を敵へ投げつける。
「うふふ、楽しくなってきちゃった」
ね、コハブ。今すぐスキップしたい心地で、お針子メイアは待ち針槍で巨大プリンをずくり。そして小さなお針子も鞠のように弾んでタックル。
「本当、いつもこういう戦いならいいですね。というわけで、甘いトリートのお返しに、可愛らしいトリックですよ」
「この仮装も、やっと馴染んできた所だったのにな」
海賊船長いぶきを横目に、レンも薄闇を走った。迎え撃つように繰り出されたぷるんな体当たりは、正面で受け止める。
「お前も収穫祭に加わり共に楽しみたかったのかも知れぬが、乱暴狼藉は許すわけにはいかぬのだ」
魔女の傀儡、哀れなる者。せめて倒す事で、憐れなる定めから解放しよう、とレンは掌に螺旋の力を集める。
「覚悟!」
触れたのは一瞬だけ。しかしずるりと命を吸い上げられ、巨大プリンはほぼ形を失う。
終わりは、もう間際。
「っ! ドットーレ」
杖に転じさせていた鴉を獣の形へ戻し、ザンニは空を駆けさせる。飛翔する美しい姿に、内側から勇気が湧いてくるようだった。
「プリンとしてなら、ボクの方が上手だったって事だよ。焼きプリンになって、反省するんだね!」
かくて最後はプリン対決。巨大プリンへ、プリン(中)とプリン(小)――つまり、アストラとボックスナイトが肉薄し。渾身の力を込めたスマホの一撃と、がぶっと噛み付く牙に、ついにプリンのお化けは完全に形を失い、授かったばかりの命に終わりを迎えた。
くふふ、くふふ、と。
堪え切れない笑いを零しながら、アンデット海賊団と時を操る魔女様、そして中小プリンは『現世』へ還る。
抱えきれない虹色の飴玉を今宵の戦利品にして。
ハッピーハロウィン!
お菓子をくれても、悪戯しちゃったぞ☆
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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