屍が紅に染めし漁港

作者:なちゅい

●恐怖の屍隷兵
 岩手県久慈市。
 市街地より県道268号線を南に行くと、玉の脇と呼ばれる地域がある。
 その海岸にのそり、のそりと人型の何かの集団が上陸してくる。一般成人男性の倍はあるそれらは、多数の死体を強引に繋ぎ合わせたような姿をしていた。
 屍隷兵ヘカトンケイレスと呼ばれる彼らは、小さな漁港ともなっているこの地に住む人々を見つけるや否や、指を伸ばして貫き、力任せに体を引き裂く。
「キャアアアアアアッ!!」
 撒き散らされる赤い物体。そして、それまで知人だったモノが肉塊に成り果てる様に女性が甲高い声を上げるが、彼女もまたすぐに同様の塊となってしまう。
 人外の襲来に人々はそれに恐怖しながらも、成す統べなく殺戮されてしまう。漁港は家も、船も、海も、人々の血で紅く染まってしまうのだった……。
 
 新たなる事件を耳にしたケルベロス達は、ヘリポートへと向かう。
 そこではすでに、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)がヘリオンの離陸の準備を進めつつケルベロス達の来訪を待っていた。
「ようこそ。今回は手短に説明させてもらうね」
 挨拶もそこそこに、彼女は事件について話す。
 ケルベロスによる空中戦において、見事に月喰島から出現した冥龍ハーデスを撃破する事ができた。これで、事件は決着したかと思われたのだが……。
「どうやら、冥龍ハーデスは、月喰島から配下の戦力も進軍させていたらしいね……」
 灰木・殯(釁りの花・e00496)が予測していたように、日本各地に『ヘカトンケイレス』という種類の屍隷兵が、次々と上陸してくる事件が予見された。
 冥龍ハーデスが既に死亡していている為、敵の統率は取れてはいない。10体程度の少数で群がり、太平洋側の海岸地帯にバラバラに上陸してくるようだ。
「皆には、屍隷兵の迎撃に当たってほしい。それほど強敵ではないけれど、人間を見つけ次第、無差別に襲撃、虐殺を行おうとするのが厄介だね……」
 迎撃に失敗すると、大きな被害が出る危険性がある。なんとしても屍隷兵を撃破したいところだ。
 現れる屍隷兵は10体。いずれも、伸ばした腕、怪力での引き裂き、強烈な回し蹴りでの攻撃を行う。
 敵が出現するのは、岩手県久慈市、玉の脇と呼ばれる場所だ。ここは漁港となっており、海側から敵がバラバラに上陸してくる。
「上陸場所、襲撃時間は予測がついているから、余裕を持って迎撃が可能だよ」
 近隣住人の避難を終えてから敵と対することができるので、その撃破に集中することが出来るだろう。
「屍隷兵……、なんとも不気味な敵だな……」
 話を聞いていた雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が嘆息する。
 予知によって、こいつらに虐殺される人々を目の当たりにしているリーゼリットが身を震わせる。それを、現実のものとするわけにはいかない。
「どうか、速やかな屍隷兵達の撃破を。……よろしく頼んだよ」


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
夜殻・睡(虚夢氷葬・e14891)
平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)

■リプレイ

●海より来たる大きな屍
 岩手県までやってきたケルベロス達。
 そこは、小さな漁港となった玉の脇と呼ばれる場所だ。
 到着したメンバー達はまず、状況を確認する。黒い狐のウェアライダー、岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)はすぐに海を見つめ、敵が上陸するタイミングを見計らう。
「先手を取れれば少しは楽になる、かな」
 女性メンバーから少し距離を置く夜殻・睡(虚夢氷葬・e14891)は一般人がいないかと、念の為にと周囲を見回す。
「ん」
 彼はそのとき、それらを発見する。バラバラになって海から頭を出し、沖から歩いてくる群れを。
「あれが……屍隷兵か」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)がそれを目の当たりにし、呟く。4メートルもの巨体を持つ屍隷兵ヘカトンケイレス。それらは、腐臭を漂わせながら陸地、こちらへと近づいてくる。
「……でかいな。ついでに悪趣味だ」
 やや眠たげな瞳の睡だが、これから始まる戦いの為か、気を強く持ってそいつらを見つめる。
「海からやって来るのは海坊主……ならぬ、海巨人……海ゾンビ? 何だか、磯臭くも生臭い連中のお出ましだねぇ」
「屍隷兵と対峙するのは2回目ですが、嫌な臭いは変わらずですかね」
 レプリカントの平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)と、玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)は海から続々と上がってくる敵を目にし、その臭いに顔を顰める。
「こりゃまた面倒くさい置き土産だこと……。きちんと後片付けしてから、くたばって欲しいもんで」
「これはまた、この大きさの敵が大挙してとなると壮観だね」
 ドワーフの少女、グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)は嘆息しながらも、冥龍ハーデスの遺した巨大な敵を見据えた。若干の時間差はあったが、続々と上陸してくる10体の屍隷兵達。サイボーグ拳法家の鋼・柳司(雷華戴天・e19340)は目視でその数を確認し、ゆっくりと構えを取る。
「情報は色々と伺っているが、屍隷兵に遭遇するのは初めてだな。さて、どれほどの物か」
「所詮意志なき兵隊、とはいえ。これだけの数なら十分な脅威ね――。少しは、楽しめるかしら?」
 落ち着いた雰囲気をしたオラトリオのユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)。この美貌で10代の娘の母というから驚きだが、柔和な表情を浮かべる彼女の瞳の奥には、剣呑な本性が潜んでいる。
 対する目の前の屍隷兵が虚ろな瞳でケルベロスに狙いを定めると、問答無用で襲い掛かってきた。
「屍隷兵、か……酷い存在だ」
 クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)は『カナンの槍』を手にして、敵へと突きつける。
「ならば、私はヴァルキュリアとして。その偽りの生に……幕を、引いてやろう」
「不快なものにはこれ以上上がってもらわずに、退治いたしましょうか」
 旅団の同僚でもあるクオンに続き、儚も敵の前に立ち塞がる。
「冥龍の最後っ屁に、好き放題させる訳にゃ行かないからね」
 破敵剣【Sagittarius】を握り締め、時枝は眼前の敵を見つめる。
「平島・塵風斎・時枝、推して参る!」
 ケルベロス達は屍隷兵の殲滅の為に、それらへと立ち向かっていくのだった。

●力こそ脅威だが……
 戦いの口火を切る時枝が真っ先に敵へと飛び込む。
「さーて、お太刀合い……。お、乙女の純情ミッサーイル!」
 彼女はまず服を捲り上げ、胸部から敵陣へとミサイルを飛ばす。敵前衛へと浴びせかけられるミサイルが煙を巻き起こした。
 そこで彼女は、死天剣戟陣を展開し、天空から無数の刀剣を召喚しようと動いていたようだ。
 その先制攻撃を受けただけでは、屍隷兵は倒れない。敵は前衛7体、中衛3体というやや前のめりな布陣のようだ。そいつらは力任せに腕を伸ばし、足を振り回す。
「恐るべき攻撃……だが、単調だ。これならば、対処も無理ではない!」
 敵を観察しながら、柳司はその攻撃を受け止める。 破壊力は恐ろしいものがあるが、その対策が比較的立てやすいことが救いか。まずは、その怪力がもたらす効果から仲間を守る為、柳司は紙兵を撒いていく。
「相変わらず嫌な姿だね」
 こちらも敵を間近にし、怪力で体を引き裂かれかける儚。彼は一度、屍隷兵を目にしたことがあるのだろう。その醜悪な姿に眉を寄せる。
「いくよ、てれ。今回は調査じゃなく防衛戦。一匹も後ろに逃がさないようにね」
 儚は同行するテレビウムに語りかけると、テレビウムのてれは画面で同意のサインを出して前へと飛び出る。
「我は守り、刃を研ぐもの。そして刃の道を作るもの」
 儚は守り手としてもおなじないを呟き、他の仲間を庇うように敵の攻撃を受け止めていた。
「数だけ多くてもってところ、教えてあげるよ」
 その上で、彼は反撃にも打って出る。露出を控えた服の下からミサイルポッドを出現させ、屍隷兵達に大量のミサイルを浴びせかけていた。
 それに続くのは、チームの主戦力として立ち回るクオンだ。彼女は敵が10体揃って出現したことで、全力で敵の駆除に当たる。
 まずは、敵の数を減らすべく、クオンは武器をファミリアロッドへと持ち替え、燃え盛る火の球を飛ばし、屍の集団の中央で燃え上がらせた。
 屍隷兵は勢いのままに力を振り回し、殴りかかってくる。とりわけ、重機すら引き裂こうとする握力は脅威だ。
(「破壊力はさすがだな……」)
 さっさと数を減らせば被弾も減る。睡はその一撃に注意しながらも、1体ずつ撃破をと考え、仲間が攻撃を浴びせる敵の胸目掛けて斬霊刀『雨燕』を一閃させた。
「いらっしゃい。……歓迎はしかねるけれど」
 その傷口を凍りつかせた屍隷兵に、響が挨拶を交わす。その体を貫こうと腕を伸ばすそいつを在るべき場所に返すべく、彼女は樹木の精霊へと語りかけた。
「ウェンカムイも畏れる一矢……受けてみる勇気は在りや、否や?」
 ウェンカムイとは、悪神のこと。それすらも滅ぼす毒矢で響は敵を射抜き、痺れを走らせて動きを止める。
 そいつ目掛け、ユリアが迫る。おっとりとした印象をした大人の女性だが、戦いとならば己の感じるままに刃を振るう。両手に持ったナイフで、ユリアは屍隷兵の巨体を難なく捌いていく。彼女が動きを止めたとき、そこにはバラバラになった屍隷兵が転がっていた。
(「最優先は、回復とのことだったな」)
 リュエンはユリアの指示を受け、チームメンバーの援護を行う。まずは電気ショックを飛ばし、火力となるメンバーへと力を与えていたようだ。
 同じく、回復役となるグーウィ。
「命無くば運命に迷わず、迷い無くば惑いに導けず……ガチでやれってことっすか」
 相手に知性など見受けられない。そうなれば、得意の弁舌は使えないと、彼女は独り言のように語る。
 敵の攻撃は威力はかなりのもの。グーウィはゾディアックソードで地面に守護星座を描き、その攻撃から仲間を守るのである。

●屍の猛攻に耐えながら……
 屍隷兵ヘカトンケイレス。
 強引に攻め立ててくる彼らの攻撃に、ケルベロス達もやや手を焼いてしまうが、攻撃一辺倒の相手となれば比較的組しやすいとメンバー達は考える。
 睡は次なる相手を攻撃すべく、精神を集中させて爆発を巻き起こす。絡め手を行うよりも確実にダメージを与え、敵の数を減らそうと睡は考え、攻撃を続けていく。
 時枝が天空から呼び出し、地面に突き刺さった刀剣を使って敵陣に斬りかかったところで、クオンが精霊魔法を紡いで氷河期の精霊を呼び出す。その精霊は屍達を氷に閉ざそうとするが、敵は身を凍らせながらも氷をぶち破って襲ってくる。
 ディフェンダーとなるのは、響、儚、柳司、それに、テレビウムのてれ。力だけを振りかざす屍の攻撃に耐える彼らの傷は、決して浅くはない。
「荒ぶる雷よ、来いその力をまとって、激情に身をゆだねよ」
 儚は想像以上の敵の火力に苦しめられつつ、自身を含めた前列メンバーへと活力を与える雷を降り注がせる。それにより、多少なりとも傷を塞ぎ、敵を倒す為の力を与えていた。
「倒れる未来は見えません……。勝利をあなたに」
 回復一辺倒で立ち回ろうと考えていたグーウィはやや後手に回っていたが、テレビウムのてれに応援動画による単体回復を任せ、自らは広範囲を癒せる守護星座の光で仲間の手当てを行うなど、効果的な回復に当たっている。
「そちらに、回復を頼みます」
「了解した」
 グーウィの呼びかけに応え、リュエンはライトニングロッドを振るって傷つく仲間に活力を与えていた。
 無理やり腕を伸ばし、蹴りを繰り出す屍隷兵の攻撃を、柳司は素手で受け止めようとする。
「ほう。独特では有るが、格闘じみた攻撃か」
 その動きに柳司が興味を示すのは、サイボーグ拳法家としての性だろうか。
 しかしながら、感心ばかりもしてはいられない。自身を含めた盾役メンバーを後ろの仲間が回復してくれているが、ダメージ自体は積み重なっている。
 何時まで持つか分からぬ為、柳司は全身に出現させたミサイルポッドから屍隷兵らにミサイルの雨を降り注がせ、一気に殲滅を図った。
 ユリアはその内から、傷つく1体を見定める。
「もっと、私を楽しませてね」
 剣術を修めた経験などないユリアだが、生来、彼女は剣に愛されていた。ユリアはくすりと笑い、両手の惨殺ナイフを無造作に振るう。
「ひぃ、ふぅ、みぃ――とぉ」
 如何なる刃だろうと、ユリアが振るうとあらゆる道理を切り伏せてしまう。一振りするごとに、屍隷兵の体に集まる無数の屍の塊を切り落としていく。
 それでも、太い腕で響を引き裂こうとする屍隷兵。
「重い攻撃、だね」
 自ら後方に跳んだ響はその衝撃を殺しつつ呟き、再び毒矢を作り上げる。
「けど、止めれないほどじゃない!」
 響が毒矢で素早く敵の顔面を射抜くと、頭を粉砕されたそいつは肉体を滅したのだった。

●一気に攻勢へ……!
 ケルベロス達は屍隷兵と戦ううちに悟る。厄介な相手ではあるのだが、一対一でもさほど問題ない戦いができると。
 だからこそ、ケルベロス達はチームで連携を図りながら、その数を徐々に減らしていく。
 剣と銃を合わせて戦うのが時枝のスタイル。伸びてくる敵の腕を銃弾で迎撃して軌道を逸らした彼女は、敵へと直接切り込んでいく。
「バッラバラになって、魚のエサになんなぁ!」
 破敵剣【Sagittarius】に空の霊力を纏わせた彼女は、仲間がつけた傷へ重ねるようにして刃で断ち切った。
 傷がより深くなって苦悶する屍隷兵に、クオンが迫る。
 『緋の巨獣』の二つ名をもつクオンだが、今回は魂を導く『戦乙女』として、屍隷兵と言う存在に真なる安らぎを与えるべく参戦していた。
「……貴様らの時は、もう既に終わってる」
 クオンが手にする『カナンの槍』は姉より譲り受けたもの。その穂先を淡い銀色に発光させた彼女は、そのまま敵の腹を貫いた。
「その魂。輪廻の中に還り、次なる生を得るまで今は……眠れ」
 普段は激しく感情を爆発させて戦うこともあるクオンだが、今回は静かに、荘厳な雰囲気すら纏って槍を操る。彼女の言葉に応じてその槍は全体を輝かせ、聖なる光を持って敵を焼き滅ぼした。
 同じく前線で敵を叩く睡。火力重視での戦略でなければ、自らの固有技を仕掛けることも出来たかもしれないが。彼はある程度敵の回避を懸念しながらも、鋭い視線で斬霊刀『雨燕』で敵の首を狙い、切り落とさんとする。
 テレビウムてれの応援、そして、リュエンの降らせる癒しの雨。メディックメンバーで回復が回り出したのを確認し、チームに余裕がでてきたことを受け、儚も攻撃に乗り出す。
「こいつらも哀れな犠牲者さんなのかもだけど、新たな犠牲者を出させるわけにはいかないからね」
 やや寂しげに呟く儚は、仲間の攻撃が集中するその屍隷兵にライトニングロッドを差し向け、迸る雷で躯を撃ち抜く。体を痺れさせたそいつは体細胞が維持できなくなって散っていき、2度目の死を迎えた。

 数が減れば、それだけケルベロス達の攻勢も強まっていく。
 響は大鎌と惨殺ナイフで交互に敵から体力を奪い去る。こうすることで、仲間の回復の負担を軽減し、継続して戦うことができるよう立ち振る舞う。
 響のナイフを浴びた敵の体が揺らいだのを時枝が見逃さず、高速で詰め寄っていく。
「天道より駆け降りて雲霞を斬り割り、悪心禍根を地に伏せん」
 先ほど、天空より呼び出した刀。それらを時枝は次々に抜いて敵へと浴びせかけるのを繰り返し、連続攻撃を見舞う。そして、トドメに彼女は神速の踏み込みと体捌きと共に、剣を一閃させる。
「……つまりは、死ねって事よ。喰らえ、天剣らいおっとおおぉぉぉうぅ!!」
 時枝の怒号がこだました直後、屍隷兵は彼女の斬撃に沿って細切れになっていく。
 その隣の敵へ、すかさずユリアが仕掛けていた。
 彼女は強敵との斬り合いを楽しみたいと考えながら、この場で刃を振るう。盲目的に力を行使する敵に物足りなさはあったようだが。
「ふふ、なかなかやりますね」
 仲間の援護がなければ、深手を負う一撃はあった。そういう意味では、ユリアはそれなりに楽しみながら、自身の感性のままに刃で屍隷兵へと切りかかる。
 柳司はその敵へ、トドメを与えるべく全身の魔導回路にエネルギーを漲らせていく。
「点穴を突き気脈を絶つのに、距離を問う必要など無い。雷華戴天流、絶招が一つ……紫光裂針翔!!」
 柳司が指先から飛ばした針のようなもの。紫の雷刃が敵の点穴を突き、その気脈を歪めてしまう。これは、魔導発勁に真髄を置く異形の拳法、『雷華戴天流』の一つ。
 気脈を立たれた屍隷兵は全身を維持できなくなり、真下に落ちるように崩れ落ちた。
 気づけば、敵影は残り1体にまで減っている。
 回復に回っていたグーウィも、最後ばかりは攻撃に出ていたようだ。
「お金があれば大体のことは何とかなります。しかし、どうにもならないこともある。例えばそう、ここに見える貴方の終焉のように」
 彼女は突きつけた水晶玉に映るのは、覆すことのできない滅びの結末……と思わせておいて。
「ま、単なる幻影なんですけどね」
 グーウィは考えうる最善手で敵を追い込んだ場合の結末を、敵に見せ付けていただけ。その足止めの間に、彼女は至近距離から魔力の塊を叩き込む。
 幻影は頭を砕かれて倒れる屍隷兵が映っていたが。さほど変わらぬ状況で、そいつは果てていったのだった。

●青い海を見渡しながら
 無事、屍隷兵の群れから漁村を護りきったケルベロス達。
 戦場となった場所の片づけを行うメンバー達。雷の壁の構築などしてリュエンが破壊箇所の修復していたが、睡はヒールグラビティを活性化していなかった為、その手伝いを行う。
 グーウィは倒した残骸が分裂したり、海から新手が来たりしないかと一応確認する。
「流れ着いたもんが全部片付いたら終わり。……だと、いいんすけど」
「こんな奴らがあとどれだけいるのか……。ゾンビみたいで恐ろしいよ」
 グーウィが水平線の向こうを見て呟くのに、儚は顔を顰めてしまう。
「さてまぁ、連中が最後のドラゴンと不愉快な仲間たちだとは思えない、ってか?」
 時枝も軽く笑みを浮かべてから、仲間と一緒に海を眺める。
「次が無きゃ良いんだけどねぇ……」
 海は蒼く、穏やかに波打つ。ケルベロスによって護られたその漁村には人が戻り、いつも通りの時が流れるのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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