鉄の着ぐるみ、熊五郎!

作者:霧柄頼道

「はあ……これでお前達ともお別れか……」
 街角の路地に面した小さな喫茶店。ちかちかと瞬く電球の灯る店内で、椅子に座り込む店主の男が鬱々とひとりごちながら壁際へ目をやる。
 そこに並んでいたのはデフォルメされた熊やウサギ、亀といった着ぐるみ達。喫茶店では店主自ら着ぐるみに扮し、接客を行っていたのだが。
 よくよく見ればそれらは普通の着ぐるみではない。全身が金属と金具で構成された金属着ぐるみなのだ。
 豊かなカラーリングを施され、薄明かりをメタリックに反射する身体の表面や、中に入ったものの動きを阻害しないよう施された関節部分の細工が、金属着ぐるみ一体一体が精巧に作成されたものだと伺えた。
「ひどいよなあ……こんなに可愛らしく作ったのに、きもいだの何だの……」
 店主一押しの『熊五郎』の顔を撫で、うなだれる。
「まぁ、ちょっとくらい前が見えにくかったり、力加減が分からなかったりしたけど、お前達を着こなせるように身体だって鍛えたのに……」
 その結果店のあちこちに転がる家具の残骸や、開いた床の穴や壁の亀裂にはあえて目を向けず、男は金属着ぐるみ達に背を向けた。
 だが目前には、一人の女が立っている。そしてその手にあった鍵が男の胸を貫いたのは同時だった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 第十の魔女・ゲリュオンがそう呟き、男が倒れる。
 次の瞬間壁の中から、ぎこちない動きの金属着ぐるみが現れた。
『ヤァ、ボク、熊五郎!』
 ノイズ混じりの不気味な機械音声が響き渡ったと思うと、空洞のように真っ暗な瞳の奥からモザイクをうごめかせ、ドリームイーターは動き出したのだった。
 
「金属の着ぐるみのいる喫茶店……斬新なアイデアと根性でその夢をかなえたけれども、結果として店を潰してしまった店主の方が、第十の魔女・ゲリュオンに狙われてしまったみたいです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、集まったケルベロス達に事件の発生を告げる。
「店主の方は意識を失い、『後悔』を元に現実化したドリームイーターが一人、いまだ店を開いていますね。このまま放っておけば一般人の方に被害が出てしまうでしょう。そうなる前に、皆さんに撃破をお願いします」
 そうすれば店主もまた目を覚ますだろう。ケルベロス達の了解を得たセリカは、続く状況の説明を始めた。
「倒すべき相手は店主一押しの『熊五郎』を模したドリームイーターです。内装はその……色々あって多少荒れてはいますが戦闘に支障はありませんね」
 店内に乗り込んで攻撃を仕掛ける事もできるが、客として着ぐるみの接客を受け、そのサービスを心から楽しんであげると、ドリームイーターの戦闘力は低下するようだ。
「着ぐるみドリームイーターを満足させてから倒せば、その後意識を取り戻した店主の後悔が薄れ、きっとまた前を向いて歩き出してくれるでしょう」
 ドリームイーターは全身が金属なだけありタフな重量級で、戦いになれば掴みかかったり体当たりしたりと、店主が営業に行き詰まった原因をベースに遠慮なく攻めてくる。
「サービスを受けるとなると簡単にはいかないでしょうが……店主の方の命を助け、その夢を守るためにも、よろしくお願いします」
 セリカは頷きかけ、そう締めくくるのだった。


参加者
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
エンミィ・ハルケー(白黒・e09554)
妹島・宴(幽囚に疼く・e16219)
榧本・風吹(アンフルラージュ・e22163)
エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318)
スマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)
ミュルミューレ・ミール(カンパネラ・e24517)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)

■リプレイ


「着ぐるみさまのお店! とーっても楽しみなのですよぅ」
 はしゃぐミュルミューレ・ミール(カンパネラ・e24517)が意気揚々と先頭に立ち、目的の喫茶店を目指し歩を進めるケルベロス達。
 いくつかの角を曲がり、通りを抜けると、目立たない路地の先にその店はぽつんとあった。
 窓越しに店内を覗けば、可愛らしい塗装とメカメカしいパーツがアンバランスな金属着ぐるみ達と、奥の方で何やら動くシルエットがある。
「金属の着ぐるみ……それって動物モチーフな鎧、だよね。それって、きもいって言うか、怖かったんじゃ……」
 それを目にして秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)は思わず呟いた。
「それに鎧とどう違うんだろ、全身鎧だよね?」
 プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)の言葉に、ナノナノのパウゼをもふもふしながら榧本・風吹(アンフルラージュ・e22163)も小さく首を傾げる。
「金属のきぐるみって初めて聞くけど、それをたくさん作ったってことは本当に好きなのね」
 遠目に一見するだけでも造形の巧緻さは伝わってくる。これを諦めざるを得なかった心残りはいかばかりか。
 ドリームイーターを倒すにしても、できるだけ後悔の感情は薄れさせてあげたいものだ。「こんにちはー」
 店内へ続くドアを開けるエルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318)。
 すると数秒も経たずして、通路側からがしゃんがしゃんと重厚な音を立てながら、一体の金属着ぐるみ、熊五郎のドリームイーターが現れた。
「モシカシテ、オ客サン?」
 開かれた大口からモザイクを漏らしながら、だみ声めいた機械音声で尋ねて来る。
「良さそうなお店、でしたのデ、立ち寄らせてもらいましタ」
「かわいいクマさんだね、お勧めの料理とかあるかな?」
 ものすごい近い距離まで寄られても慌てず騒がずエンミィ・ハルケー(白黒・e09554)とプランが頷くと、熊五郎はその場でぶんぶん両手を振り回して喜び始めた。
「ヤッタ、ヤッタ! オ客サンダ! ボク、熊五郎! ヨロシクネ!」
 合金じみた強度の腕が遠慮なくぶん回され、手近にあったドアが粉砕される。
「強烈ッ!」
 とどまらず、直線上にいたスマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)までもがぶっ飛ばされた。
「だ、大丈夫っ?」
「平気平気。こう見えてプロレスラーだからね!」
 ぎょっとした結乃の声に、回転して受け身を取っていたスマラグダはあっさり立ち上がる。
「ぼく、アグレッシブな人すきですよ」
 一方でドアの破片が雨あられと降りかかるのを避けながら妹島・宴(幽囚に疼く・e16219)が棒読みで漏らす。
 でもこれも悪意はなく、やる気が勢い余っての結果なのだ。そう考えるとちょっぴり切ない。
 ケルベロス達は大仰な熊五郎の身振り手振りに巻き込まれないようにしながら、席まで案内してくれるその背を追うのだった。


「わぁ! 可愛らしい動物さまがたくさん! すべて被ることができるなんて、すごいのです」
 職人芸とも呼ぶべきメタリックな着ぐるみ達を間近で見られ、きゃっきゃっと喜ぶミュルミューレ。
「ミンナ、ゴ注文ハ何ガイイカナ?」
 テーブルについた面々へ熊五郎がメニューを渡してくるが。
「よ、読めない……」
 エルザートのぼやき通り、どれもよれよれに潰されぶっちゃけ紙くずにしか見えない。
「ドリンクとカ、軽食ハ、何かおすすめの物は、あるでしょうカ?」
 エンミィが機転を利かせ、熊五郎から色々と聞き出している。
「ええと、それじゃ紅茶とケーキで」
「さ、サンドイッチと、クリームソーダを……」
 そうして時間を稼いでいる間に他の仲間も何とかメニューを解読していた。
「ワカッタ、スグ持ッテクルヨ!」
 一苦労しつつ注文を終え、熊五郎がのっしのっしと厨房へ消えていく。
 その隙に何度か殴られていた(主に盾となったスマラグダ)面々は互いにヒールを掛け合うのだった。
 やがて、その巨体に似合わず器用に飲み物や料理を抱え、熊五郎が歩いてくる。
「サァミンナ、ドウゾ……ワ、ワッ」
 一刻も早く作り立ての料理を食べて欲しかったのだろうが、急ぐあまりに体勢を崩し、砲弾のような勢いで飛び込んで来た。
「これは中々ハードっすね」
 宙を舞う食事。涼しい顔で椅子に腰掛けたままひょいと取り上げる宴を中心に仲間達は慌てて掴み取りながらも。
「みんな、ここは私が押さえるから料理取って!」
 身代わりとなって押し潰されるスマラグダの勇姿をきっと忘れないだろう。
「ウーン、マタヤッチャッタ」
「すごイ! 斬新、なドリンクの提供方法。より美味しそう、に見えてきまス!」
「ソ、ソウカナァ?」
 すかさず褒めるエンミィに熊五郎は元気を取り戻したようだ。
「お料理も大体大丈夫なのです!」
「パウゼが紅茶をキャッチしてくれたわ」
 続々と届く無事との報告。
「……うん、大事ないみたいで良かった」
 しかし、やや引きつった顔で笑う結乃の手元には炭酸があふれ、中身がぶちまけられて半分くらいになったクリームソーダのコップが握られていた。
「料理の味もいけますね。普通にすごいっす」
 テーブルが壊れたので膝の上に軽食の皿を置き、舌鼓を打つ宴。
「そうね。あれだけ大きくて太い手で、こんなに美味しく作れるなんて……」
 微妙に受け取り損ねて指先についた生クリームをぺろりと舐め、プランも同意する。
「ミンナ、ボクノダンス、見テ欲シイナ!」
「待ってました!」
 お客に楽しんでもらいたいのだろう、エルザートが歓声を上げる中熊五郎はやたらめたらに身体を動かし、得意のダンスをし始めたのである。
「これはいいものね。見ているこっちも元気になるわ」
 風吹の言う通り、リズム無視で暴れ回っているようにしか見えない以外はとても金属とは思えないほどの軽やかな動きだ。
「クマ、クマ、クマァッ!」
 その上調子外れの歌やミュルミューレのピッコロが奏でる美しい音楽が合わさり、いろんな意味で破壊力は抜群である。
「なんだか私も踊りたくなって来た。そこの亀の着ぐるみを着て一緒に楽しんでもいい?」 
 イイヨ! と鷹揚な返事に甘え、スマラグダは亀の着ぐるみに近づく。
 まん丸な目をした着ぐるみには名札が貼り付けられ、インクで『亀ジロー』と書かれている。
「私モ、気分がノッて来ましたのデ、ご一緒、したイですね」
 亀ジローを着込んだスマラグダと見よう見まねのエンミィもダンスに加わり、観衆の拍手や手拍子が送られる事で、ひどく奇怪だけれどとても盛り上がるパフォーマンスになっていた。


 ダンスの締めには風吹が回復も兼ねてライトニングウォールを使い、花火のように一際大きな光を発する事で熱気冷めやらぬ喝采を起こさせる。
「あのあの、ペンギンさまの着ぐるみはございますか? きらきらのぺんぎんさまにお逢い出来たら……ミュル感激なのっ」
「ウン! アルヨ!」
 熊五郎は何体かの着ぐるみにかけられていた、埃から守るためのシートを引きはがす。
「わぁ、可愛いですっ……」
 そこには確かに、『ペン三郎』と名札のついたペンギンの着ぐるみがじっと佇んでいた。
 磨き上げられた青く丸っこい姿に目を細め、ミュルミューレが感極まった声を上げる。
 瞬間、ペン三郎の頭が叩き潰された。
「デモ、今ハボクダケヲ見テ欲シイナ」
 ペン三郎を握り潰した後、無機質な声音で瞳のモザイクをうごめかせる熊五郎に、ミュルミューレはしばし言葉をなくす。
「……そろそろ会計だね」
「うん」
 おもむろに椅子から立ち上がったプランの視線に、結乃も表情を引き締めて同じようにする。
「ア! オ会計ダネ!」
 ぐりん、と振り向いた熊五郎がカウンターまで走っていく。
「オ代ハ、コレクライダヨ!」
「ありがとウ、とてモ楽しイ時間、でしタ」
 代金を支払うエンミィが手を出すと、熊五郎も満面の笑みで受け取りに手を伸ばす。
 ぐしゃめきぼきゃ。
 握手のように二人の手が重なり合った時、嫌な音が熊五郎に握り込まれた手から聞こえて来た。けれどエンミィは顔色一つ変えず、黙って会計を終わらせる。
 ついにサービスが終わりを告げた。それは戦いの幕が斬って落とされる瞬間でもある。
「それでは行きます……!」
 身構えたエルザートがライトニングボルトを熊五郎へ浴びせると、相手は一気にたたらを踏む。
「ペン三郎さま、ごめんなさい……後できっと直しますので!」
 無惨な鉄くずと化したペン三郎を一瞥し、ミュルミューレが熊五郎めがけて光の剣を突き入れる。
「狙いは外しませんよぅ、お覚悟をっ」
「ワワワ」
 次々ぶち込まれる攻撃に後退する熊五郎だが、だしぬけに腕を伸ばしていた。
「オ客サン、駄目ダヨ、暴レチャ」
「うぐ……っ」
 首を掴まれ、締められながら持ち上げられる宴。もがくも一向に熊五郎が手放す気配はない。
「これまだ、接客のつもりなんだ――でも!」
 力がありすぎてプロレス技っぽくなっている熊五郎に得心しながらも、結乃は落ち着いて自前の50口径、アンチマテリアルライフルの射程を合わせていた。
「……捉えるっ」
 極限まで研ぎ澄まされた精神と収縮した瞳孔が敵の急所一点へと集中したかと思うと、銃口から銃弾が猛スピードで撃ち出され、頭部へと吸い込まれていったのである。
 一拍遅れて轟音が響き、のけぞった熊五郎からぼろぼろとボルトや部品が飛散しながら宴が解放された。
「ほら……きっと、癖になっちゃいますよ?」
 同時に放たれた『甘き疼痛(キャンディペイン)』が熊五郎の足下をよろけさせ、毒へと浸していく。
「アウウ~クラクラ~」
 かと思えば桃色の霧が広がり、甘い香りがただでさえ危うかった体勢の敵をあっさりとくずおれさせる。
「気持ちいい? 楽にしていいよ。何も考えれないくらい気持ちよくしてあげる」
 『甘く痺れる悦楽の香(サキュバスパヒューム)』で店内を満たしたプランは、ふらふらと頭を揺らす熊五郎を見つめてささやくのだった。
「接客、で結構ダメージをもラっているのデ、先に回復、しまス」
 圧壊した片手を含めて少しでも傷を治癒させつつ、大暴れする熊五郎から仲間をかばうエンミィ。
「身体を張ったのも無駄じゃなかったね……攻撃が浅い!」
 よほど満足してくれたのだろう、相手の一撃は明らかに弱く緩くなっている。散々直に受けてきたスマラグダが言うのだから間違いない。
 これまでのお返しとばかり螺旋掌を叩き込み、熊五郎の胴体をがくがくと揺さぶってやった。
「パウゼ、油断せずいきましょう」
 ナノナノと頷き合い、風吹が気咬弾を発射。オーラの塊はまっすぐ飛来し、熊五郎を壁へと叩きつける。
 そしてパウゼはバリアをエンミィへと張り、減っていた体力を回復するとともに防備を固めさせるのだった。


「ガガ、ガ……ミンナ、オトナシクシテー!」
 途切れ途切れの機械音声で、お客を永遠に黙らせるべく熊五郎があの破壊ソングを歌い始めた。
「着ぐるみさまやお店への一生懸命な想い……悪事になんてぜーったい利用させないのですっ」
 決意を込めて叫んだミュルミューレが、ピッコロをさっと構える。
「くるくるまわる、星の時間。運命のそのときを、お知らせするのがミュルの使命!」
 歌に対抗するように、あるいはまだまだ盛り上げようというように、奏でられる『Sternstunde(シュテルンシュトゥンデ)』が互いの音を引き立て合い、真っ白なエゾモモンガが舞い飛ぶ。
「金属の猛獣とは、厄介っす」
 跳躍を繰り返し、三次元的な機動で壁や天井から襲い来る敵をエルザートの破鎧衝と宴のフロストレーザーが叩き落とす。
 そこへプランが生成した、自らに似た容姿の氷結の槍騎兵を熊五郎へ突撃させる。
「ハーレムだね。皆で抱きついて可愛がってあげる」
 これでもかと包囲殺到する形で、まだまだ美しい騎兵達を生み出していく。
「どちら、のクマパワーが上か……熊五郎さン、いざ、尋常、に勝負でス」
 アヒィヤラレチャウーだのと緊張感なくわめいている熊五郎へ狙いを定め、エンミィが汎用クマの顔型血戦兵器・アルクトス――要するに熊の髪飾りのつぶらな瞳からまばゆい破壊光線を発射する。
「アルくん、ビーム」
 光線は熊五郎へと着弾、情けない悲鳴を巻き込み爆音を張り上げて吹っ飛ばす。
 だが素早く起き上がった熊五郎はスマラグダ目指して突進、その重量に任せて押し潰そうと飛び上がっていた。
「何度も潰されちゃ……たまらない!」
 垂直落下してくる熊五郎を踏ん張って押し返すスマラグダだが、形勢はどう見ても悪く陥没した床に半身が呑まれつつある。
「そうはさせないわ」
 側面から接近した風吹が、熊五郎の横っ腹を蹴り上げた。
「パウゼ、お願い」
 衝撃で熊五郎の重心がずれた矢先、パウゼのハート型バリアがスマラグダを癒していく。
「てーいっ!」
 回復したパワーを満身に込め、逆に熊五郎を抱えて縦回転しながら投げ飛ばし、中空で螺旋氷縛波をぶちかます。
 半ば凍り付いた熊五郎を、結乃の照準は逃がさない。
「これで……っ」
 直後、撃ち込まれた精密な弾丸がヒビだらけになっていた熊五郎の胸部を穿つ。
「マタ来テネー!」
 最後まで店員としての役目を果たしたのだろう、お客さんを送り出す言葉を最後に、熊五郎のドリームイーターは粉みじんに砕け散っていった。

 風吹の提案で裏を見に行くと、ちょうど目を覚ました店主を発見した。
「ロボットみたいな着ぐるみって、やっぱりロマンだろ? だから作りたいと思ったんだ……」
「少しは分かるような気がしますね」
 ぽつぽつと話す店主を横目に宴達は荒れ果てた店を修復していく。
「熊五郎さン、のいる喫茶店。悪くありませン、でしタ。次、はもっと安全、にきをつけれバ、上手くゆく、と思います。また一かラ、ふぁいと。応援しテ、いまス」
 エンミィの励ましに、結乃もうんうんと頷く。
「ご飯はおいしかったし、力加減さえできるようになったら、固定ファンはつくと思うんだけどなっ」
「そうかな……」
「そうだよ、メタルなお人形も可愛いかったしねー」
 と、目線を流せばスマラグダが亀ジローを抱えてやってくる。
「もし良かったら、この亀ジロー、譲ってくれない? 着心地もいいし、なんだかとても気に入っちゃって」
「構わないよ。どうせ手放さなきゃいけないし、誰かにもらってくれた方がそいつも幸せだと思うからね……」
 やった、とガッツポーズ。するとミュルミューレもためらいがちに口を開く。
「ペン三郎さまの事、壊されちゃってごめんなさいなのです」
 だからせめて、とヒールで直そうとするのを、店主が手を上げて止めた。
「次はもっと素晴らしくなるよう作る……いや、作りたいんだ。その時はまた、新しいペン三郎を見に来て欲しい……いいかな?」
「……はいなのです!」
 こぼれる二人の笑顔。
 そうしていつかまた、素敵な夢がみられますように。

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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