漆黒に騒めく蔓

作者:雪見進

「お悔やみ申し上げます」
 その日はお葬式だった。長年連れ添った大切な人を見送ったおばあちゃんは、とても寂しそう。そんな寂しそうなおばあちゃんに優しく声をかける人は多いものの、その寂しさを和らげるのは難しそうだった。
「それじゃあ、行こうかね」
 曲がった腰でゆっくり荷物をまとめ、行くのはおじいちゃんが好きだった場所……。
 少ない手荷物で向かった場所は森の中。自作のベンチがあって、そこで静かに腰を下ろして、隣におじいちゃんの位牌と写真を添える。
 そこで静かに故人を想い、ゆっくりと過ごしていた。
 
「あれ、何だろウネ……ヨンデイルノ?」
 突然、目の前が揺れたかのような激しいめまいを感じたおばあちゃん。突然立ち上がり、普段は入らないような森の中へ手荷物と一緒に入って行く。
「イカナクチャ……」
 険しい森を慣れた道のように進んで行く。進むにつれて周囲も暗くなっていく。そんな暗い中で、森の奥から蛍のような光と共に攻性植物が現れた。
 その光りに照らされ、見えた攻性植物の胴体には幼子が捕らわれているようにも見える。
「……」
 そして攻性植物が動き、おばあちゃんを包み込む。包み込まれた頭部が光を放ち始める。その光が強くなるのと同時に、首から蔓が伸びて身体を包み込んでいく。
「イキナサイ……」
 そのまま攻性植物と化し、街へ向かって進んで行くのだった。

「攻性植物が現れました」
 静かに説明をしているのはチヒロ。手元の本はお葬式に関する本。まだまだ、定命化してからそれほど長くないチヒロは色々と勉強中のようだ。
「今回の攻性植物は、最近現れたタイプのようで、今までの攻性植物と比べ知的な行動を取る事が分かっています」
 お葬式についての勉強はともかく、今回の攻性植物について説明をするチヒロ。隠密行動をしたりする攻性植物……。
「この攻性植物には一人のおばあさんが捕らわれてるのですが、そのおばあさんを救う方法がありません」
 さらに被害者を助ける事が出来ない点などで共通点がある。
「ごめんなさい……」
 色々とチヒロも調べているようで、手元には様々な攻性植物事件のレポートが整理されていた。しかし、残念ながら有効な対策が見つかっていない。
「ともかく、皆さんには攻性植物の退治をお願いします」
 しかし、このまま攻性植物を放置は出来ない。今までの行動から、街へ向かっている事は分かっているものの、それ以上の目的は不明だ。
「それでお願いなのですが、出来れば森での撃退をお願い出来ませんか?」
 ちょっと珍しい事を提案してくるチヒロ。同時に地図を広げるのだが、その街は森と住宅地が隣接していて、戦いに向いているような広い場所が無いのだ。
「もちろん、近くの人には避難してもらうのですが……。確実に発見出来る場所で、戦いになると周囲にかなりの被害が出ると思うのです」
 もちろん壊れた場所をヒールすればいいのだが、ヒールしても完全に元に戻る訳ではない。
「付近に住んでいる人は『いいよ壊れても。それで人の命が救えるなら』って言ってくれたのですが……」
 なので、これはチヒロからのお願いに過ぎない。住宅地への出現時間に余裕がある為、森の探索を行い、攻性植物が発見出来なければ急いで戻って迎撃する事も可能だ。
「ともかく、最優先事項は攻性植物の撃破です。森で撃退するか、それとも市街地で迎撃するかは皆さんにお任せします。どうか、よろしくお願いします」
 そう言って、後を託すのだった。

「攻性植物の行動が激しいでござるな」
 首を傾げながら、チヒロから情報をメモして準備をするウィリアム。
「それにしても、被害者に何か共通点があるでござるか?」
 静かに呟くウィリアムであった。


参加者
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
神地・滄臥(ウォーガンナー・e05049)
織戸・来朝(爆音鳴らす蒼き狼・e07912)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)
佐伯・誠(シルト・e29481)

■リプレイ


 ここはとある街の境目。そこにケルベロスたちが集まっていた。
「最近多いな……寄生型攻性植物……」
 森の方向を見ながら呟くのは神地・滄臥(ウォーガンナー・e05049)。
「攻性植物が以前より力を付けてきているのでしょうか」
「そうかもしれぬ。元々が植物に似ている故に、隠れられると発見は難しいでござるな」
「私はこのタイプの攻性植物は初めて見ますね」
 ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)とウィリアム・シュバリエ(ドラゴニアンの刀剣士・en0007)と倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)は、この最近出現した特殊な行動を取る攻性植物について話をしていた。
「ちょっとやっかいな相手でござる」
 このタイプは以前までの攻性植物とは違った行動を取る。分かりやすい特徴なのは、隠密行動を取る事だ。今までであれば出現と同時にグラビティチェインを求めて襲いかかっていた。しかし、今回いは街の何処かを目指し移動している。
 話をしながら、森の方向を見つめる柚子。攻性植物は森から現れる。今回は森の中で攻性植物を捜索し、退治する作戦なのだ。ただ、隠密能力を得た結果なのか、それとも個体差なのかは不明だが、今回の攻性植物は戦闘能力が低めらしい。発見さえ出来れば負けるような相手ではない。

「そして、やはり被害者が助けられない案件なのですね……最近多いですね」
 ダリルが呟く。その言葉に視線を落とす者も多い。
「歯痒いな……」
「胸糞悪い話だ」
 改めて確認する事実に辛い想いを感じている佐伯・誠(シルト・e29481)とマサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)。その足元ではオルトロスのはなまるが主人を不安そうに見上げている。
「殺して救うなんてのは、救いになりゃしないのに……結局俺は殺すしか出来ないのかよ」
 救えない以上、倒すしかない。氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)もそんな自分の無力さを痛感していた。
「大切な人を失うと同時に、こんな事になるなんて……」
 アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)が呟く。被害者のおばあちゃんは長年の伴侶を亡くしたばかりだったのだ。
「早くボスをみつけねぇとドンドン被害は増えていく一方だ……」
「ああ、一刻も早く、この一連の事態を鎮静化しなければ」
 他の寄生型攻性植物事件に関わった滄臥と緋桜としては、より強い気持ちがあるのだろう。
 それは依頼を出すヘリオライダーたちも一緒だ。何か力になれないかとヘリオライダー達もとにかく情報を集めているらしい。事件が起きた場所に近い病院の患者リストや、付近で行ったお葬式など、とにかく関係ありそうなデータを集め整理しているらしい。その情報は今は意味が無いが、何か元凶の攻性植物についての情報があれば、そこから調べられるようにだ。
 今回も森の情報についても、街に現れる場所計算して、探索するエリアをかなり絞る事が出来ている。
「囚われた方を救出できないのは悲しいですが、被害を出すわけにもいきませんし、しかりと止めていきましょう」
 皆、色々な想いがあるが今は攻性植物の侵攻を止めないとどんな被害が出るか分からない。
「そうだな、今は依頼に集中しねぇとな……」
 今回は相談の結果、攻性植物を退治する前に探索して発見する必要があるのだ。余計な事を考えて取り逃がす訳にはいかないのだ。

 だから、作戦の準備に皆、余念がない。
「ウィリアムさん、文明の利器は自宅警備員の特権じゃねーんスよ」
 そう言いながらハンズフリー機能の説明とイヤホンマイクを渡す織戸・来朝(爆音鳴らす蒼き狼・e07912)。
「……なるほど、これは便利で……っと、ここはどうするでござる?」
「ここは、これでいいっスよ」
 ウィリアムに細かな説明をしながらちょっと話をする。
「ちなみに、前回はどんな事件だったんです?」
「以前の事件でござるな……」
 メモを取り出しながら前回と前々回の事件について、来朝に説明をする。
「んー。自殺願望、いや希死念慮? 次が生きる事に強い不安を感じてた。で、今回が伴侶を無くした老人かあ……」
 答えを出すのは、この事件を解決してからだろう。しかし、思い当たる事がある者は何人かいる様子だ。

 装備の確認を行いながら声をかけて回るウィリアム。
「一緒に残ってくれるフローネ殿と大地殿もよろしく頼むでござる」
「はい、任せて下さい」
「一緒に頑張りましょう」
 ウィリアムとサポートに駆けつけてくれたフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)と大原・大地(元守兵のずんぐり型竜派男子・e12427)は、万が一森で攻性植物を発見出来なかった場合の保険として街に残る。
「それじゃあ、ここは頼んだよ」
「探索は任せたでござる」
 避難誘導及び最終防衛線を任せ、出発していくケルベロスたち。
「……もしかして、俺の家を壊さない為だけに無理をするのか?」
 その側で不安そうな表情をしているのは、攻性植物が街に入って来ると予知されている場所にある家の家主。最悪の場合、ここでの戦いになってしまう。しかし、家主は『人の命が救えるなら壊れてもいい』と了承してくれた優しい人。
 そんな家主が、フローネに問いかける。
「大丈夫、我々ケルベロスにお任せください」
 その問いにはあえて答えず、笑顔で『大丈夫』だと説明するフローネ。答えれば優しい家主が気を使うかもしれない。だから、必要な事だけを伝える。
「そうか……」
 そんな笑顔に肩から力が抜ける家主。当たり前だが家を壊されたい人など居ない。
「ま、任せるよ」
 そう言って、家主も避難する。
 そんな背中を見送り……そしてケルベロスたちが向かった森の方向を見つめる。しかし、フローネにしても大地にしてもウィリアムにしてもあまり心配している様子は無い。彼らならきっと見つけてくれる。そう信じているからだった。


 探索班は二名4班に分かれ行う。サポートに駆けつけてくれた村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)は、アーニャ、誠班に同行してくれた。
 最初に攻性植物に接近したのは緋桜、ダリルペアだった。緋桜はサーモグラフィーゴーグルで暗闇でも発見出来るような装備をし、ダリルは翼を羽ばたかせやや高い位置から探索していた。
 その方法が悪かった訳では無い。ただ……『運』が悪かった。それ以外に説明出来ない、偶然により二人の警戒を逃れた攻性植物は街へ近づいてくのだった。

 だが、ケルベロス達にとっての不幸、攻性植物にとっての幸運はそこまでだった。
「攻性植物を発見!」
「来朝、下がってろ。それと他の連中に連絡を」
 発見したのは柚子・滄臥班、そしてマサヨシ・来朝班。二班同時の発見だった。
 発見された攻性植物は普通に見れば植物にしか見えない外見だった。しかし、この攻性植物は普通の植物と比べ温度が高い個体。なので、柚子たちが装備していた熱線映像装置にはしっかりと映し出されていたのだ。
 滄臥とマサヨシたちの『隠された小道』による影響もあっただろう。様々な準備をしていたケルベロスたちの捜索から逃れる事は出来なかったようだ。
 来朝へ連絡を頼んだマサヨシはそのまま鉄塊剣を構え、獰猛な笑みを浮かべる。
「オレが相手だ!」
 そのまま力任せに鉄塊剣を攻性植物へ叩きつけ、滄臥が的確な射撃で攻性植物の急所を撃ち抜く。
 その後ろから連絡を終えた来朝が支援行動に移る。イヤホンマイクとハンズフリーにしてあるから連絡もすぐに終わった。
「さあ、吼えるよヤロウ共! 地獄の扉をこじ開けるぜッ!」
 自分で書き上げた曲を爆音演奏と共に歌い上げ、仲間を鼓舞する来朝。同時に柚子も光り輝くオウガ粒子を放出し、ウィングキャットのカイロは羽ばたき、邪気を払うと同時にオウガ粒子を仲間たちへ降り注がせる。
 戦闘を開始すれば激しい音が響き、その音ですぐに他のケルベロスたちも集結してくる。
「キシャァ!」
 包囲されたと気づいた攻性植物も戦闘態勢を整え反撃に蔓を伸ばしてくる。戦いの開始だ!


 一番近くにいた緋桜は到着と同時に拳を握る。
「いくぜッ!」
 髪をかきあげ逆立てると同時に拳に虹色の光を収束させ、バトルガントレットを出現させる。
 降魔の力を込めた連続打撃で攻性植物へダメージを蓄積させていく。
「ギギ!」
 緋桜の攻撃を受け、蔓を伸ばし攻撃する攻性植物。そこへ走りこむマサヨシ。
「おいおい、オマエの相手はオレだろ?」
 蔓の攻撃を身体を張り防ぎ挑発する。蔓の攻撃を受けても、微動だにせず獰猛な笑みを浮かべるマサヨシ。笑みを浮かべたまま、鉄塊剣で攻性植物に反撃する。
 そんなマサヨシへヒールを行う来朝。手に月の光を集め、その光をマサヨシへ投げ傷を癒すと同時に支援を行う。
「感謝するぜッ!」
 比較的弱い相手なので、来朝のヒールで十分なマサヨシ。なので余裕のある柚子は攻撃の手を増やす。
「確実に行きましょう」
 妖精の加護を宿した矢で打ち抜くのと同時に来朝のサーバント、オルトロス・リアが神器の瞳で睨み、攻性植物を焼く。
「せめて早く安らかに眠れるように」
 誠が精神を集中させると、攻性植物の蔓が爆発し弾け飛ぶ。さらにオルトロスのはなまる号が誠の攻撃に合わせて斬撃を繰り出す。
「貴女を、止めます……」
 そのタイミングでアーニャはアームドフォートを展開させ、砲門をすべて攻性植物へ目標を定める。
「貴女の為にも……っ!」
 このまま放置すれば、街で被害が出るだろう。それを望むような被害者でないのは間違い無い。そんな想いを込め、アーニャの斉射が攻性植物を撃ち抜く。
「少し止まってもらう」
 両手のリボルバーを乱射しながら蔓を撃ち落とす。身体で覚えたリロードのタイミングで弾丸を変更、そのまま発射した弾丸が命中すると、命中箇所からゆっくりと石化が始まる。
「ギギ!」
 それでも蔓を動かし攻撃してくる攻性植物。
「くっ!」
 その攻撃を避けながら、電光石火の蹴りを繰り出すダリル。しかし、その脚の先には被害者のおばあちゃん。ダリルは思わずそこを避け攻撃するも、当たりが小さくなってしまう。
「気持ちは分かるけどさ」
 そんな気持ちが伝わったのか、来朝が軽く声をかける。
「そうですね。少しだけ……失礼しますね」
 このまま放置しれば、別の被害者が増える。ダリルは被害者への敬意を持ち覚悟を決める。まずはこれ以上の被害を防がなければならないのだ。


 ケルベロスたちの攻撃でボロボロになっていく攻性植物。同時におばあちゃんの身体も傷ついていく。サーモグラフィーで確認して分かっていた。体温は人間とは比較にならないほど低い。以前の事件の事を考えるともうすでに……。
「……」
 だからと言って割り切れる人だけじゃない。
(「救う方法は無い……って言われましたけど」)
 その光景にアーニャから流れた一雫。それは涙か夜露か。
「私に時間を下さい!」
 アーニャの言葉と、そして流れた一雫に気付いたケルベロスたちが動く。
 しかし、その言葉に反応したのか、攻性植物がアーニャを狙い今までに無いほどの大量の蔓を生やし攻撃を繰り出す。
「これで守る!」
「アメジスト。シールド、全力展開!!」
 そこへ駆け込むのは大地とフローネ。攻性植物発見の報を受け駆けつけ、二人同時にアーニャを守る。
「凍てつきの青の力! 顕現せよ!」
 氷の力を秘めたカードを発動させ右側に回り込む柚月。
「受けよ、竜の息吹!」
 同時に左側に回り込むウィリアム。
「アイスエンジェル!」
「ドラゴンブレス!」
 右からの蔓を凍結させ、左からの蔓を炎で焼く。
 駆け付けた仲間たちが作った道を進み、見えない希望への道を作ろうと全力で動く。
「これが……俺の全力全開だ!」
 滄臥は銃弾を雨のように振らせ、同時に攻性植物の『周囲』に手榴弾を投げる。
「寄生型攻性植物、覚悟しろ……!」
 爆風が攻性植物を包む中、両手のリボルバー銃、フォーマルハウトとアークトゥルスのグリップから刃を展開、同時に高速の斬撃で蔓を片っ端から切り落とす。
「俺も……この婦人を救いたいんだ!」
 蔓が無くなった処へ踏み込む誠。おばあちゃんと攻性植物を繋ぐ場所へ、全力でグラビティチェインを叩き込む。
「……」
 その一撃でズタズタになる攻性植物。
「皆さん、ありがとうございます」
 そこへグラビティチェインを収束させていたアーニャが動く。
「時よ凍って……!」
 大量のグラビティを用いて時を停止させる。停止した時の中でアーニャはおばあちゃんの身体と攻性植物を切り離し、その身体を抱きしめ離脱する。
「黄泉の扉をこじ開けるぜッ!」
「これが私の万能薬です」
「否を是に、歪を正に、在るままに」
 意図を理解した来朝と柚子とダリル。同時に全力でヒールを行う。
「……」
 その背後では植物特有の生命力かそれとも、ただの慣性の動きか不明だが、動きを止めない攻性植物へマサヨシと緋桜が拳を握る。
「魂すら残さないで極炎の中で滅べ!」
 蒼白く輝く地獄の炎を拳に集中させるマサヨシと、ダークエネルギーを拳に集めた緋桜。
 二人の拳が同時に攻性植物に叩き込まれる。
(「あんたの死は無駄にしない。だから……」)
 ただ、同じタイプの攻性植物との戦闘経験のある緋桜には分かってしまった。だから、そのまま拳を引くと同時に静かに目を閉じる。
「……」
 攻性植物はそのまま断末魔すら上げる事も無く炭化していった。
 ケルベロスたちの勝利だ……。


「ごめんなさい……私の力じゃ、救えなかった」
 抱きしめたおばあちゃんの身体は、静かに消滅を始めていた。以前と同様に被害者の身体は炭化し消滅していく。
 来朝も柚子もダリルも手を止める。いかに強力なヒールであっても、万能薬であっても、失った命は元に戻らない。
「やりきれねぇよな。どうにもよ」
 黙祷を捧げてから、静か呟く緋桜。無謀であっても……無理をして……無茶をして……その結果がこれだ。『やりきれない』と想いが胸に刺さる。
「まだ、婦人が旦那に逢いに行くには早かったんだ。まだ、まだ……なのに」
 押し殺した誠の声が静かに響く。
(「やはり……デウスエクスは悪だ……必ず……絶対に滅ぼしてやる」)
 そんな被害者に黙祷を捧げる滄臥。

 しかし、ここで立ち止まる事は出来ない。
「失礼します」
 同じく黙祷を捧げたダリルや柚月が遺品を調べる。おばあちゃんの懐から位牌と2つの封筒が見つかった。
『旦那様へ』
 それは亡くなった旦那への手紙だった。沢山の『ありがとう』で綴られた手紙の最後には……。
『もうすぐ側に行きます』
 という言葉で締められていた。
 そしてもう一つの封筒は遺言書だった。正式な書類で捺印もある。内容は自分の財産の分配やお葬式など、自分が亡くなった後に困る人が出ないようにと配慮された内容だった。
 手紙の最後の言葉、そして一緒にある遺言書の事を考えると、どうしても悪い方向に考えてしまう。しかし、その真実はもう分からない。ただ、死んだ後の事を考えていたのは間違い無いだろう。
「そーいう後追いは、あの世で逢えないから、ホンマに」
 来朝が思わず呟く。
「このような人をこれ以上出さないようにな、力が欲しいな」
 そんな状況に誠は静かに呟く。誰も殺させぬ、被害を出さぬ、守り救う力。それを望む気持ちを持つ人は多いだろう。しかし、人に出来る事は限られている。しかし、諦めぬのがケルベロスなのかもしれない。
「アンタの仇と無念、俺たちケルベロスが晴らしてやるからな」
 決意を口にするマサヨシ。
「……」
 そんな皆が黙祷を捧げるなか、静かに鎮魂曲を演奏する来朝。せめて、その魂が安らかに眠れるようにとの想い。

「もしかして、この一連の事件で狙われているのは『死に近い人間』……?」
「死を思っている人間が誘われている?」
「そうですね、被害者は全員、生きる気力を無くしていたような気がしますね……」
 犠牲者を想う者だけでなく、次の為に考察する柚月と大来朝と大地。そう考えるなら、そういう場所が次に狙われる可能性がある。また、この街には病院や療養施設がある。
 しかし、すべて推測に過ぎない。事後処理が終わった後、行動してみるしかないだろう。
「ウィリアムたちもお疲れ様な」
「なんの、今回は何もしておらぬでござる」
 そんなマサヨシにウィリアムが笑顔を見せる。今回の役割が保険であり、それが役に立たなかった事を素直に喜んでいる。少しでも被害が無い方がいいのだ。
 ともかく無事だった街の明かりを見ながら、事件の元凶を追い詰める方法を考えるケルベロスたちであった。


作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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