夜からの呼び声

作者:洗井落雲

●新たなる犠牲者
 深夜、森の中にて――。
 二人の男がいた。
 一人は民族衣装風の服装をした男。
 もう一人はスーツを着た、サラリーマン風の男である。
 だが、一目見れば気付くだろう。彼らの身体から生える無数の植物に。
 彼らは、攻性植物である。
「この生命体にとって、最も大切なモノは家族であるという」
 民族衣装風の服装をした男が――厳密には、彼に寄生した攻性植物が――言った。
「ならば、家族とやらから見ても、お前は重要な存在である」
 サラリーマン風の男に寄生した攻性植物が頷く。
「これを利用せよ。我の配下を増やすために。人の関係とやらを使うのだ」
「仰せのままに」
 サラリーマン風の男に寄生した攻性植物は立ち上がると、夜の街へ向けて消えていった。
●攻性植物迎撃
「はいはーい! 今日もお仕事の説明でーす!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が元気いっぱいに言った。
 彼女によれば、攻性植物による市街地への襲撃事件が発生するという。
「そして、この攻性植物には、また人が囚われてるんです。誰かの配下になってるみたいで、救出は出来ないみたいなんです……」
「どうやら、私が追っていた人物のようですね……」
 以前、同様の事件に遭遇した弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)は、独自に黒幕の調査を行っていた。
 その過程で、彼は数日前から家族を残し行方不明になっていた人物を発見。違和感を覚え、その足取りを追っていたのである。
 仁王の言葉に、ねむは頷いた。
「この人は、市街地を襲撃してグラビティ・チェインを奪った後、家族を黒幕さんに差し出すつもりみたいなんです……」
 それは、グラビティ・チェインの収奪とはまた別の理由だろうか?
 いずれにせよ、被害者を増やすわけにはいかない。
 敵は、市街地から離れた森林地帯を移動中だ。市街地に到達する前に、この森林地帯で敵を止めなくてはならない。
 夜間であるため周囲は暗く、明りの用意も必要になるかもしれない。
 時間帯の関係から、周囲に人はいない。人払いも必要ないだろう。
「攻性植物に寄生されてしまった人を救うことはできないんです……辛いかもしれないですけど、頑張ってください!」


参加者
クイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)
尾守・夜野(雨は上がらず・e02885)
リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)
東雲・時雨(宵闇の三日月・e11288)
ケイト・スター(ヘルダイバー・e26698)

■リプレイ

●闇夜の捜索
 深夜、ケルベロス達はヘリオンから、月明かりのみが照らす森林地帯へと降下した。
 森林地帯に灯りはなく、巨大な穴へと降下するかのような錯覚を覚える。
 着地したケルベロス達を待ち受けていたのも、また闇である。鬱蒼と生い茂る木々は月明かりを阻み、光源なしでは周囲の状況を把握することも難しいだろう。
「……家族の絆を利用して、か。ほんと、いやな奴だね」
 ケイト・スター(ヘルダイバー・e26698)がライトを用意しつつ、言った。
「あぁ、嫌なもんだねぇ」
 頷くように、山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)。
 ケルベロス達は、二人一組となり、標的を捜索する作戦をとった。各々通信機器とライトを装備、離れすぎない距離で包囲網を形成し、標的を見つけ次第攻撃する。
「ああ、全く嫌なものだねぇ。絆を抉って傷つけるなんざ外道のすることさ」
「家族を襲わせて……何が楽しいのよ」
 憤慨するケイト。2人とも、この手の事件にかかわることは初めてではない。それ故に、元凶となる攻性植物への敵意は増している。
 ケイトは直情的に怒りを表していた。紅旗は表情や雰囲気こそ穏やかなものではあったが、その言葉には明らかな嫌悪の色がある。
「たかだか草っ葉には、分からんのさねぇ。それが触れちゃいけないモノだってことに……ケイトちゃん、援護、たのむよぉ」
「うん……じゃぁ、行くよ」
 その言葉に、紅旗は神経をとがらせ、周囲を探索し始めた。その護衛についたケイトもまた、気を張り詰める。
 リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)と綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)のコンビもまた、索敵を開始していた。
「……警戒していたが、同じ事件が起きてしまったか」
 リヴィが歯噛みしながら言う。人間に寄生する攻性植物事件はここ最近頻発している。
 そのいら立ちをぶつけるように、彼女の攻性植物で邪魔な小枝を払った。
「……改造でなく寄生なのが、せめてもの救いですか、ね」
 鼓太郎が呟くように言った。もしこの救いようのない事件に救いを見出すならば、遺体だけは家族のもとに返せるかもしれないという望みだけだろうと。
 かつて、似たような――罪のない者がその愛を踏みにじられた――現場に居合わせた事も有る彼は、その時と、今回を、どうしても重ね合わせてしまう。
 だが、あの時と違う物があるとするならば、それは鼓太郎の覚悟だ。事件に幕を引くという覚悟が、この事件の敵を必ず倒すという覚悟が、彼を再び、同じ場所へと立たせている。
(「本当は……生きて帰せるのが一番なのだが、な……」)
 リヴィは胸中でつぶやいた。考えても仕方のないことだとは理解している。だから、言葉にはしなかった。胸の内に秘めておくことにした。
 仕方のないことなのだ。
 ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は尾守・夜野(雨は上がらず・e02885)と共に探索を続けていた。
「……家族の絆を逆手に取るなど、許されないことだ」
 油断なく周囲を見回しながら、ビーツーが言う。
「……不安なのか? 緊張しているように見えるが」
「……うん」
 夜野は素直に頷いた。ビーツーは、ふむ、と唸ると、
「何か、今回の件に思う所があるのか?」
「……なんだか、嫌な予感がするんだ。この前……同じような依頼をこなした後から」
「同じような?」
「家族の絆を利用して、何かをしようとする攻性植物だよ」
 そういうと、夜野は押し黙った。
 いやな予感、と彼は言った。ビーツーにはその出所は分からなかったが、家族、というキーワードが引っ掛かった。
(「おそらく、尾守殿の内面より生ずる問題なのだろう。今の俺にはかけられる言葉は少ないか……」)
 ビーツーは考えを巡らせた後、
「……そうか。もし辛いのであれば、下がっていても構わないが」
 その言葉に、夜野は慌てて、
「う、ううん! 大丈夫だよ……今は依頼に集中しないとだよねぇ」
 しかし、それもどこか、空元気のように見えたのだった。
 東雲・時雨(宵闇の三日月・e11288)とペアになったのはクイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)だ。
「人の体を使わなきゃ何も出来ないような奴に、いつまでも好き勝手させてあげる程オイラは優しくないよ。ホラ、すぐに消してあげるから……早く出ておいで?」
 どこかヘラヘラとした調子で言うクインだが、その眼光は鋭く、冷たい瞳で周囲を油断なく見まわしている。
「……気配が……近づいてきます」
 敵の気配を察知したのか、時雨が刀に手を伸ばしながら言う。
 それからすぐに、二人の前にサラリーマン風の男が現れる。だが、両手や体中に巻き付くツタや、不気味な光を放つ花を見ればわかる。
「攻性植物か……救えないならせめて楽に逝かせてやるのが武士の情け」
「最近植物にはイラついてるんだよね☆」
 仲間に連絡し終えたクインが、仕舞っていた角と翼を解放。悪魔のような微笑を浮かべる。彼が戦闘態勢に入った合図だ。
 2人を敵と判断したか、男がツタを鞭のようにしならせる。
 すぐに、残りのケルベロス達が駆け付けた。全員が一斉に戦闘態勢に入る。
「皆さん! なるべく無傷で、ですよ」
 時雨の言葉に、ケルベロス達は頷いた。
 かくして、戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。
 
●闇夜の攻防
「助けて! 私はただ……」
 悲痛な表情で男=攻性植物が口を開く。だが、その言葉を遮るように、リヴィは叫んだ。
「人間のフリをするな! 貴様らのやり口は分かっている!」
 彼女の展開した黄金の果実からケルベロス達に聖なる光が降り注ぐ。
「被害者の知識を利用して……分かってはいましたが……!」
 鼓太郎が言う。なんと醜悪な手口だろう。彼が以前遭遇した敵もまた悍ましい手口を使い、人の絆を弄んだが、それに勝るとも劣らぬ所業だ。
「守り給え、祓え給え」
 鼓太郎は御業を鎧へと変化、クインを援護する。
「その所業、許すわけにはいかない」
 ビーツーが地面に描いた守護星座が輝く。
「全力で、お相手させていただこう。」
 その言葉に同意する様に、ボクスが小さく鳴いた。ボクスもまた、援護行動をとる。
「聞こえてる? この先を通すわけにはいかないよ」
 ケイトが言いつつ、飛び掛かった。彼女の右拳をオウガメタルが包み込み、必殺の武器へと変化させる。
 彼女が声をかけたのは、もちろん、攻性植物へではない。
「この先にいるのはキミの愛した、そしてキミを愛してるヒト達なんだ」
 届かぬとはわかっていながらも、それでも、伝えずにはいられなかった。
 右拳で思い切り殴り抜ける。攻性植物はそれをツタで受けた。数本のツタを引き裂いて、拳が止まる。同時に、彼女は後方へと大きく跳躍。距離を取り、再び拳を構える。
「だからせめてそれだけは壊さないように……ここで終わらさせてもらう!」
「ああ、やめて……やめてください……!」
 悲鳴をあげながら、攻性植物はツタをしならせ、激しく打ち付けてくる。ビーツーは回避を試みたが無理と判断。武器でそれを受けた。
(「……もしかしていなくなったおとーさんもおかーさんも……?」)
 夜野は紙兵をばら撒きながら、胸中でつぶやく。行方不明となった父と母。そして、今目の前にいる――人間に寄生する攻性植物。
 もし、そうであれば……。
「くそっ、ダメだ! 今は考えるな! 集中しろ!」
 頭を振り、浮かんだ考えを振り払う。
「人の真似ならもっと上手にしなよ」
 紅旗が言う。と、同時に、攻性植物のツタがはじけ飛んだ。いつの間にか、紅旗の手には一丁の拳銃が握られていて、銃口から硝煙が立ち上っていた。
 予備動作なしで放たれる神速の銃弾。それが、紅旗の『暮夜の星(ボヤノホシ)』だ。
「……貴様ら、『仲間』と遭遇したことがあるようだな?」
 すっ、と、攻性植物の顔から表情が消えた。
「ならば、擬態も必要なし」
「それが本性かぁ。全く、本当に趣味が悪いねぇ。隠れん坊はお終いだ。さ、その人は返してもらうよ」
「オイラが言うのも何だけど、そう言う『噓つき』は許せないんだよね!」
 クインが跳躍。一気に距離を詰める。
「覚悟はできてる? ……ま、できてなくても倒しちゃうケドね~☆」
 クインが笑みを浮かべ、激しい蹴りを見舞う。最小限の攻撃で最大限のダメージを与えるための一撃。
「足を止めます!」
 時雨が竜砲弾を放つ。足止めを狙った一撃は、攻性植物の脚部に生えていたツタを吹き飛ばした。
「……夜野さん、大丈夫ですか?」
 夜野の様子を見たのか、鼓太郎が彼に声をかける。
 夜野は頭をふると、
「ああ……大丈夫、大丈夫だから」
 鼓太郎は、何も言えなかった。
 心配ではある。だが、これは夜野自身が立ち向かわなければ、解決しない問題だ。
「……肉体の傷は全て癒して見せましょう、後方支援はお任せを」
 そう告げると鼓太郎は再び戦いの中へと舞い戻る。
 戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

 防御を重点に置いたケルベロス達に、攻性植物側は大きなダメージや不利を与えることができなかった。
 同時に、防御に比重を置いた結果ケルベロス達自体も攻撃面で多少の不足を抱えていたが、もとより『被害者の肉体のダメージを限りなく抑える』という戦法をとっていたケルベロス達にとっては、想定された事態である。
 結果、戦闘時間は相応に長引いてしまったものの、攻性植物とケルベロス達の手数の差により、じわじわと攻性植物は圧されていく。
 やがて、その戦力差は覆せぬほど大きなものとなっていった。

「フフ……そろそろ限界って感じなのかな?」
 クインが嘲笑する。彼の言う通り、攻性植物は体中のツタや花もボロボロで、立っているのもやっとという様子だ。
 クインはブラックスライムを槍のように変化させ、攻性植物を貫いた。
「痛い? 苦しい? フフ、可哀想だね~。……さぁ、その体、返してもらうよ」
「ぐ……お……」
 攻性植物が苦しげにもがく。
「これで、終わりだ……!」
 時雨が両手、両足に雷を螺旋にまとわせる。東雲流の体術が一つ。その名も『奥義『螺旋雷迅勁』(オウギ ラセンライジンケイ)』。
 時雨は素早く攻性植物に接近、雷を纏う拳を一撃、繰り出した。
 その一撃ですべては事足りる。
 拳より伝わる雷撃は生き残った攻性植物の尽くを焼き尽し、この世から完全に消滅せしめたのだった。

●夜、未だ明けず
「さて、これでよいだろう」
 ビーツーが、一人ごちた。視線の先には、彼の手で綺麗に整えられた、男の遺体があった。
 ケルベロス達の努力により、大きな傷はほとんど見当たらない。
 ビーツーが、男の遺体を毛布で包んだ。
「どうか、安らかに」
 時雨が、遺体に手を合わせ、冥福を祈る。
 ケイトもまた、瞳を閉じ、黙祷をささげた。
「……お疲れ様。おやすみなさい」
 紅旗が、男の遺体の肩に手をやりながら、言った。ふと、彼の視界の端に移る物があった。
 それは、奇妙な花の、花弁の欠片である。青白く輝く、この世の物とは思えない花。
(「何の花なんだろう。種か花粉か……分かるかなぁ」)
「それ……」
 夜野が、紅旗が手にした花弁を見つめながら言う。
「ん? 何か心当たりがあるのかい?」
「……う、ううん。気のせいみたい」
 夜野が、慌てて首を振る。
 そんな様子を、鼓太郎はどこか心配げに見つめていた。
「さて、そろそろ行こうか」
 リヴィが、毛布に包まれた男の遺体を、優しく抱き上げる。
「早いところ、家族のもとに帰してあげないとね」
 クインが同意した。

 かくして、一行は、男の家族のもとへと向かった。
 胸に、事件の影に潜む存在への怒りを秘めて。
 手を伸ばせば、必ず、その影を捕らえることができるだろう。
 そしてその手を伸ばすかどうかは、ケルベロス達にかかっている。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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