青息吐息の掃討戦

作者:雨乃香

「朕の臣民共よ、奮励せよ、邁進せよ! 黙示録騎蝗による勝利を、朕に捧げるのだ!」
 ローカストを支配する、太陽神アポロンの叫びが、山の空気に虚しく響く。
 周囲に集うローカストの重鎮達は、ローカスト達の窮状を訴え、黙示録騎蝗の中断を願い出るが、太陽神アポロンは聞く耳を持たなかった。
 既に限界を迎えたローカストの中には、理性も知性も失い、黙示録騎蝗の軍勢から脱落していくものも出始めている。
 このままでは、ローカストという種族すら滅びかねないだろう。
 だが、それでも、太陽神アポロンの権威は、ローカスト達を縛りつけ続ける。
「朕を崇めよ、ローカストを救う事ができるのは、黙示録騎蝗と太陽神アポロンのみであるのだ」
 この呪縛は、太陽神アポロンが黙示録騎蝗の中断を命じるか、或いは死ぬまで続くだろう。
 或いは、グラビティ・チェインの枯渇によって理性を失うその時まで……。

 鳥取県の山中に位置する、小さな山村。
 普段であれば静かで、外から人が訪れるようなこともめったに九なく、まるで世界から切り離され、忘れ去られたかのように緩やかな時間の流れるその村は、今や世界の中でもっとも凄惨な光景の広がる、隔離された小さな地獄となっていた。
 村中、濃い血の臭いが漂い、絶え間なくどこかから悲鳴が上がっている。
 その惨状を作り出したのは理性を失い、もはや見た目どおりの化け物とかしたローカストの群れ。
 彼らは悲鳴を上げ逃げ回る人々を生きたまま喰らい、泣き叫び許しを請うその言葉すらも理解せず、ただ自らの飢えを満たそうと、足に、腕に、腹に、頭に、その鋭利な牙を突き立て、血肉を喰らいグラビティ・チェインを取り入れる。
 しかし、長く続く無理な戦いの影響下にあった彼等の飢えは満たされない。
 更なる食料を求めローカスト達は目に付く者を手当たり次第に襲い、喰らい、ただ貪り続ける。

「さてさて、先日は阿修羅クワガタさんとの戦い、お疲れ様でしたね。思いの外ローカストとの戦いも長期化していますが、イェフーダーの事件でもこちらの勝利に収まり、敵の勢力はまさに虫の息といったところでしょうが……」
 いつもであればその言葉遊びに全力で得意げな顔を見せるであろう、ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は、芳しくない表情をみせつつ軽く唸り声をあげる。
「ローカストの末端に属する者達のグラビティ・チェインが底をつきはじめている様で、その結果理性を失くし、暴走したローカスト達が人里を襲うとしているみたいなんですよ」
 ニアは唇を尖らせ、溜息を吐きつつ、襲撃が予知されている小さな山間の村の立地を軽く説明し、そこで相対するであろう敵について語り始める。
「敵はシロアリ型のローカストで、個々はそれ程強力な固体ではありませんが、数が四体、加えて飢餓状態でなりふり構わない戦闘方法を取ってくるため、普段どおりのスペックで考えていると痛い目をみることになりますよ」
 念を押すようにいいつつ、ニアはローカスト達が村の周りの木々の生い茂る森から、村へと一直線に向かって来ているということを説明しつつ、ケルベロス達に二つの案を出す。
「一つは敵を村で迎えうつ方法。もう一つは森の中でローカストをこちらから襲撃する方法。
 前者は村の中での戦闘になるため、敵が皆さんとの戦闘より食事を優先する場合があるため、そのあたり注意をする必要があるでしょう。
 対して後者ですが、敵の通り道はわかっていますので発見は比較的容易ですが、万が一、発見に失敗した場合は確実に村の人々に大きな被害がでます」
 どちらの作戦を取るか、その決定権は現場で戦う皆さんの判断に任せますとニアは告げ、端末を置いてケルベロス達に、まっすぐな視線を向ける。
「このような事件が起きてしまうのは喜ばしいことではありませんが、敵の戦力が末端から瓦解していっているという事でもあります。ここを凌ぎきって、ローカストに引導を渡してあげましょう」


参加者
ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
屋川・標(声を聴くもの・e05796)
九十九折・かだん(ヨトゥンヘイム・e18614)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)

■リプレイ


 とある山中に存在する小さな村。
 木々の生い茂る豊かな森に囲まれ、普段であればひっそりと静かな時が流れるその村は、今日に限っては慌しく、騒然としていた。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。今この村にはローカストの一群が迫っています」
 春日・いぶき(遊具箱・e00678)の言葉に、集った村人達の間にどよめきが起こる。その反応はもっともなことだろう。
 いかに日本各地、どこにデウスエクスが現れてもおかしくない情勢とはいえ、このような山間の小さな村を侵攻しようなどと言うデウスエクスがいるなど、思いもよらぬことだ。
「ですが、安心してください。僕たちがあなたたちを絶対守ります」
 いぶきの隣、もくもくと水蒸気を上げるおかしな拡声器を手に、屋川・標(声を聴くもの・e05796)はそう強く言い切り、人々を安心させた後さらに続けて、避難誘導を行う。
「この村に彼らを入れる気はまったくありませんが、念のためですが家に入って待機していて下さい」
 一般的な家屋に隠れたところでデウスエクスの脅威から逃れることなどできはしない、しかし、このような事態が起きたときには、そういった指示があることで無用な混乱を避けられ、従う方もまた、その行動に集中することで一時的ではある恐怖から逃れることができる。
 二人の指示にしたがい村人達がそれぞれの家の中へと帰っていくと、途端にあたりは静かになる。周囲に話を聞きそびれたものや、逃げ遅れた者がいないことを確認し、二人が次の場所へと向かおうとしたところで反対から、ニケ・セン(六花ノ空・e02547)と九十九折・かだん(ヨトゥンヘイム・e18614)の二人がやってきたところだった。
「取りあえず森周辺の民家への声かけは終わったよ」
「そっちはどうだ?」
 ニケとかだんの言葉に、いぶきと標もまた、担当していた地区の中でも危険度の最も高いと思われる場所の避難が終わったことを告げる。
「あとは……村の中央部だな」
「人づてにある程度話が回ってるといいんだけどね」
「なんにしろ急ぎましょう。あちらも四人ではもしもの時心配です」
 すぐさま踵を返したかだんにニケといぶきも続き、村の中心部へと向かい歩を進める。
 一人足を止めた標は、未だ騒がしい物音一つ起きない、不気味な静けさに包まれたままの森方に視線をやる。
「あっちもうまくやってくれてるといいんだが」
 不安げにそう呟いた後、すぐさま仲間たちの後を標も駆け足で追いかけていく。


「この静けさは、……少し怖い」
 小鳥の囀りすら聞こえない、木々の鬱蒼と茂る森の中、ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)の発したその独白に、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は視線を落としていた手元の地図から顔を上げた。
「嵐の前の、ってやつだな」
 これから始まるであろう戦いの激しさを想像し、そう零した千梨に対し、まさか聞かれるとは思っていなかったルビークは武器の柄を引き寄せるように握りつつ、苦笑を漏らす。
 視界の悪いこの森の中、村で避難誘導を行うケルベロス達よりもはやく、探索に入った四人のケルベロス達は敵の姿を探していた。
 いち早く、敵影を見つけ出し、なんとしても村に立ち入られる前に足止めし、迎撃するため、彼らは布陣をしきつつ、耐えず、視線を彷徨わせている。
「そっちはどうだ、ガイスト?」
「今の所異常はない。このまま場所を変えつつ引き続き、警戒にあたろう」
 端末越しに千梨が会話するのは、森の中でも、背の高い木々を飛び渡り、高い位置から敵の姿を探っているガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)だ。
「了解だ、こっちも軽く移動する。フローライトの方も問題はないか?」
 同様に端末越しに会話する、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)は手にしたスコープを覗き込みつつ、遠方の敵の姿を探すものの、未だに、敵の気配は掴めないでいた。
「こっちも、ダメ……このまま、移動する」
「各自、警戒を怠らず、敵発見後は、むやみに仕掛けず合流を」
 ルビークの言葉に、各自が了解の意を示し、一度通信が途絶える。
 固体的に弱い種のローカストであったとしても、その膂力は単純にケルベロスのそれを上回る。飢えて理性のない状態であれば尚の事、その凶暴性から迂闊に近づくのは得策ではないといえる。
 未だ敵の姿が見えていないのは、それだけ村の方で非難を行っているケルベロス達と合流できる可能性が上がる分、ある意味では彼らにとって僥倖であるといえた。
 いつ敵が現れるともわからぬ森の中を黙々と進んでいくのに、どうしても顔には緊張の色が浮かぶ。
 不意に、藪が不穏な音を上げて揺れる。
 咄嗟にルビークと千梨は武器に手をかけ音の市方向へと振り向いた。
 しかし、飛び出してきたのはローカストではなく、一匹の野良犬。その犬は二人にも目をくれずそのまま村の方へ走っていく。
 思わず二人から溜息が漏れる。
 万が一にも四匹のローカストに先手を打たれる様なことがあれば、散り散りな今の状況では各個撃破されるのが関の山であろう。最悪、命を落とすことすらある。
 村の安全を優先した結果とはいえ、リスクの大きな策であることは間違いない。
 再び移動を再開しようとした千梨とルビークはふと、足を止め、互いに視線を交わす。
「ガイスト、一時方向に変化は?」
「フローライト一時方向、敵影はないか?」
 二人の声が端末越しに、それぞれに届く。
 樹上に降り立ち、ガイストは指示された方向へと目を凝らし、フローライトは昼間でも薄暗い、森の奥へとスコープを向けた。
「まだ、遠いが、不自然な木々の揺れを確認した。恐らくは――」
「こっちも……なにか、いる……白い、影」
 その通信が入るや否や、四人は一斉に駆け出している。
 静かな森を越え、村まで響くガイストの鳴らす警笛。
 大雑把ながら、現在の自分たちの位置と敵の移動経路を予測した千梨はその情報を送信すると、走ることにだけ意識を裂き、暗い森の中を駆けていく。


 樹上を、藪を、飛び、跳ね、六本の手足を器用に使い、四匹のローカスト達は森の中を縦横無尽に駆け回る。
 彼らの目的はただ一つ、進行方向に存在する村にいる人々を貪り、喰らい、己が糧とすること。
 彼らに理性が残されていれば、もう少し移動はスマートであっただろう。しかし、今の彼らに残されているのは本能だけ。隠密行動などという煩わしい概念は消失し、ただ、素早く、効率よく移動することだけを目的とし、森の中を一直線に走っていく。
 単純故に効率はよく、しかし、単純故に、その経路はあっさりと見抜かれる。
 狩場までもうあと少し、待ちに待った食事の時間を目の前に興奮する彼らに、ケルベロス達が立ちふさがる。
 先頭をいくシロアリ型のローカストが、樹上から地へと降り立とうとしたその瞬間。
 行く手を阻むように、ふらりと現れたルビークが、手にした武器を振り上げる。
 鈍い音と共に振るわれた無骨な剣が、シロアリの胴を強く殴打する。
 仲間が攻撃され、吹き飛ばされたのも構わず、他の三匹のローカスト達は直進を続けようとしていた。しかし、彼らの前にも同様に、ケルベロス達が、姿を現す。
「生憎と、此処は通せない」
「飢え、理性を失い……堕ちたものだな
 否、元より其れが本質か」
 立ちはだかる千梨とガイストを前にしたローカスト達は、目の前に現れた邪魔者を排除すべく、その勢いのままに襲い掛かる。
 ガイストの放つ突きを避ける素振りもなく真っ直ぐに突き進むローカストは、腹部を貫かれながらもその牙をガイストの肩口に突き立てる。
 一方千梨の方は、回避し損ねた鋭い鉤爪による斬撃を受け、軽い傷を負いつつも御業の鎧を纏い、傷をごまかし敵の足を止めさせることには成功していた。
 最後尾を走っていたローカストは、突如進行方向が騒然とし始めた事を受け、足を止め戦場の様子を伺っていたが、自分達を退ける程の脅威がいないことを確認すると、食事の邪魔をされぬ様にと、ケルベロス達を蹴散らすべく、戦いへと介入し、その背に生えた羽をこすり合わせ、破壊音波による攻撃を放つ。
 交戦中であったルビークとガイストの両名は、至近距離でその音に曝される。
 片膝をつき、耳元を押さえふらつくルビークに対し、目の前のローカストが鉤爪を振り上げ迫る。
「……鬼さん……こちら……「誘導音波」……鳴る方へ……」
 そこへフローライトの構える杖から発せられる不快な音が響き、ローカスト達はそちらに一瞬意識を取られるものの、離れた位置にいる彼女を狙うよりも、まずは手の届く範囲にいる相手を屠るべきと踏んだのか、すぐに視線を目の前の標的に戻し、襲い掛かる。
 ルビークの脇腹に深く突き立つ鉤爪。アルミ化液が体内に注入される痛みと不快感にルビークの視界が明滅する。
 ガイストと対峙するローカストはその本能からか、先ほど肩口に喰らいついた時に出来た傷口を執拗に狙い、攻撃を重ね続けている。
 少しでも敵の攻勢を抑えようと、千梨の読み上げる祝詞の効果で彼自身は何とか目の前のローカスト相手に持ちこたえているものの、何時までもそれだけで凌ぎきるのは無理な話。
 気づけばいつの間にか、敵の音による攻撃は止まっており、そのローカストの姿が見えなくなっている。フローライトがその事に気づき、敵の姿を見つけたときには既に、ローカストはルビークの背後に忍び寄っている。


 ケルベロスとローカスト、両者の視界に赤が散る。
 しかしそれは、鮮血の赤ではない。
「私に、堕ちろ」
 舞い散るのは、地獄の炎の赤。枝を離れ、ひらひらと舞い落ちる紅葉の如く、かだんの繰る炎の渦が敵群を焼く。
 ルビークの背後に忍び寄っていたローカストもその炎にまかれ、一時、攻撃の手を緩めたことにより、フローライトは間一髪のところでその間に割り込み、その攻撃を杖の柄でしっかりと受け止める。
「間一髪、って所だね」
 周囲の木々が道を開き、そこを真っ直ぐに進んできたニケは戦場の様子を把握すると、桐箱のようなミミックの口元から、古ぼけた家財道具を撒き散らさせつつ、ローカストと交戦中の味方を護るため、黒鎖を繰り魔方陣を描きあげる。
「生とは、煌めいてこそ」
 ローカストの攻撃が陣により防がれている間に、いぶきの振りまくガラスの粉塵が、キラキラと輝きながら、傷を負った仲間の血に溶けその傷を癒し、固まったそれは薄い皮膜の盾となる。
 全快とまではいかないものの、治療を受け、敵を取り逃す心配のなくなった今、ガイストは目の前の敵を打ち倒すため、全力を振り絞る。
 敵の振り上げる鉤爪の一撃を、必要最低限の動きで避け、被る傘が宙に舞う。
「――推して参る」
 風を纏う一閃が、ローカストの喉元を撫でる。ガイストの最初の一撃を受け、動きを鈍らされていたローカストは反応することも許されず、一瞬で首を落とされる。
 流れは一瞬でケルベロス達へと傾いた。
「行くよ、相棒!」
 標の振るう斧が唸りを上げ、ローカストへと襲い掛かる。重量のある斧に振り回されることなく、しっかりと重心を保ったその動きに隙はなく、彼と対峙するローカストは防戦に回ることしか出来ない。
 鋭い袈裟切りに腕を一本斬り飛ばされ、このままではジリ貧だと悟ったのだろう。ローカストは宙へと飛び上がり、自らの放てる最大限の威力の蹴りを標へと放つ。
 その前に、聳え立つ、雷の障壁。
 フローライトの出現させたその壁は、敵の蹴りの威力を減衰させ、標はそのままローカストの体を打ち返す。
 知能を失っても本能で危機を察せられるのだろうか? これ以上の戦力の低下を防ぎたいのか、ん下出されたローカストを庇うかの様に、もう一体のローカストがケルベロス達を牽制するかのようにその身を割り込ませる。
「腹が減ると、辛いな」
 そのローカストの前に立ちはだかるのは、かだん。同意するように頷く彼女の瞳には、しかし、同情の色はない。
 無骨な武器が無慈悲に振り上げられ、放たれた横薙ぎの一撃は身を割り込ませたローカストをも巻き込み、食事に必要であろうその下顎を斬り飛ばし、倒れていたローカストを絶命させる。


 退くだけの知能もなく、退いて永らえる命もないローカストはただ、本能に従い、ケルベロス達に襲い掛かることしか出来ない。
「命がけなのだろう……だが俺も退く気はない」
 だが、ケルベロスの方も退くわけにはいかない。背にする村を守る為には、その身を賭す以外の術はない。治療を受けているとはいえ、戦闘開始から仲間を守るために前にたつルビークの傷は特に手酷く、本来なら立つのもやっとという所だろう。
 対峙するローカストが、地を這い迫る。小さな羽を羽ばたかせ、目の前で跳ね上がる体。
 反応したルビークの体がローカストを蹴り落とすものの、着地し、再び地を這う敵は、狙いを変えることなく、再び迫る。
 次も同じ様に迎撃できるかどうか、ルビークは痛む脇腹を押さえ、苦い笑みを浮かべる。同時に敵が来る、先程よりも早い動き。
「借りるは千筋の蜘蛛の糸」
 響くのは千梨の声。
 展開された結界から、際限なく湧き出すのは蜘蛛の糸。細くも強靭なそれは、敵の体を雁字搦めに縛り上げ、その動きを封殺する。
「生き地獄に蜘蛛の糸とは、洒落がきくな」
 皮肉りながらも、ルビークを背に庇うように千梨が立ち、駆け寄るいぶきがルビークの体をしかと掴み、ほんの一瞬、捉えられ暴れるローカストに複雑そうな表情を向けると同時。
 その体は、ニケの使役する炎の竜の幻影に焼き払われ地面に倒れ伏す。
 そうして視線を外したいぶきは有無を言わせぬままにルビークの治療を始める。
 残るローカストももはや虫の息。
 フローライトの放ったミサイルポッドの雨を潜り抜け、かだんの斬撃に片足を失い。それでも尚、飢えを満たそうと、あがく彼に標が引導を渡す。
「これで終わりにするよ」
 振り下ろされた斧がローカストの体を裂くその重さを、標は感じながら、加減することなくそのまま斧を振りぬく。両断されたローカストの体は、数度痙攣した後、そのままやがて動かなくなった。


 静けさを取り戻した森の中、ケルベロス達は木々に寄りかかったり、横になったりと、色濃い疲労にすぐには動けだせないでいた。特にガイストとルビークの外傷は酷く、暫くは療養が必要であろうことは間違いない。
 しかし、ルビークはいぶきの処置が終わるや否や、誰よりもはやく立ち上がる。
「……埋葬し弔ってやりたいんだが……いいか」
 たった死地を潜り抜けた後だというのに、穏やかなその声に、ケルベロス達は苦笑を漏らしつつ、重い腰を上げた。
 名も知らぬ亡骸を、せめて安らかに眠れるようにと。 

作者:雨乃香 重傷:ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512) ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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