闇の使徒ビルシャナ・ザ・ダーク

作者:吉北遥人

「我は光の使徒でありながら闇の寵愛を受けし者。闇の力もて常世の悪を糺す者」
 月光がかすかに届く山奥。廃墟の暗がりにうっそり佇む黒翼のビルシャナが、信者たちに厳かに告げた。
「そなたにも闇の恩寵を授けよう。右手を出しなさい」
 進み出たドワーフの男性が右手を出すと、ビルシャナはそこにバンテージを器用に巻いていく。
「それは封印である。真に力を揮うべきとき、悪滅の闇を解き放つのだ」
 六人の信者、いや、闇の騎士たちは右手を胸にあてて忠誠を誓った。

「……という、闇が格好いいと主張する、いわゆる中二病ですね」
「ぶッちゃけたな……」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明に、クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は低く笑った。
「お遊びみたいなもんか」
「そうですね。ですが、ビルシャナが関わっては遊びでは済みません。悪を滅ぼすと言いながら何をするか……。これ以上信者を増やされる前に手を打つ必要があります」
 現場は山奥の廃墟だ。かつては何かの建物があったようだが、今は雨風凌げる程度に残骸があるだけだ。
 ビルシャナは雰囲気重視でそこを布教場所としたのだろうが、広いうえに他に誰かを巻きこむ心配もないためケルベロスたちにとっては戦いやすいと言える。
「信者は六人。いずれも闇の波動に目覚めた騎士としてビルシャナに心酔しています。生半可な説得は効かないでしょう。光よりも闇に魅了された彼らを元に戻すには、理屈よりもインパクトの強い説得が大事です」
 最悪、倒すことでも正気には戻せる。
 だが、信者たちは戦闘になればビルシャナを守るように動く。そのうえ過剰に攻撃すれば死んでしまうため、厄介な存在となるだろう。
「ビルシャナは闇の氷輪を広範囲に、暗黒の炎を単体に向けて攻撃してきます。また、闇の恩寵と称するキュア効果付きの単体回復も用います」
 なお演出のつもりか知らないが、今回のビルシャナは全身真っ黒だ。身も心も闇に染まっている。
「信者たちの心はビルシャナの闇に囚われています。どうか皆さんの光で、彼らの闇を晴らしてください」
「了解だ……ところでよ」
 ヘリオンに乗りこみながら、クラムはセリカに訊ねた。
「闇を晴らせ、か……言ッてて恥ずかしくならなかッたか?」
「……少しだけ」


参加者
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
玖良・竜(灰燼葬列・e13082)
ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485)
リサ・ギャラッハ(フィオナはライバル・e18759)
春告・不確か(すっげえヒーロー不確かさん・e21461)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)

■リプレイ

●スリラールーインズ
 月光が暗雲に霞んで、消えた。
 夜気が魔女の接吻さながらに冷たい。黒翼のデウスエクス――闇の使徒ビルシャナ・ザ・ダークは、跪く六人の信者たちに厳かに告げる。
「完全なる闇……ぬばたまの夜こそ、我らが創世の兆し! さあ行け、我が忠実なる騎士たちよ。魔都に潜む、享楽に溺れし悪の徒を粛清せよ。然るのちに時空に埋もれた同胞たちを救い出し、この地まで導くのだ!」
「はっ!」
 殺戮と拉致の命令に、信者たちがお揃いの黒マントをなびかせ、鉄パイプを片手に颯爽と立ち上がる。そうして廃墟を出て行き――かけたところで、彼らは異変に気付いた。
 信者たちの足を止めたのは、どこからか聞こえてくる旋律だった。
 軽快でありながらおどろおどろしく、恐怖を煽りながらもコミカル……不気味ながらも耳馴染みある旋律が、夜の精のように風に乗って響き渡る。それに合わせて廃墟の入り口から現れたのは、幾人ものゾンビダンサーたちだ。
 提灯を持つリサ・ギャラッハ(フィオナはライバル・e18759)を先頭に、鴻野・紗更(よもすがら・e28270)がスライドイン。墓底からの目覚めを歓喜するような仕草で天に腕を伸ばす。ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485)と春告・不確か(すっげえヒーロー不確かさん・e21461)が地を蹴って、交差するように宙返りを決めれば、その間をすり抜けてセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)とレイ・フロム(白の魔法使い・e00680)が前に出る。両腕を突き出し、死人のような足取りでセレスティンとレイは信者たちに接近。呆然と立ちすくむ彼らの手を取り、肩に腕を回し、六人まとめて引っ張り込む。
「へいかもーん! おーらおら、闇に燻ってちゃ楽しめない、とびきりのパーティタイムだぜー!」
 信者たちに笑顔で手招きしつつ、不確かは竜翼を広げた。廃墟の天井まで一気に飛び上がるや、探索用ライトをいくつも梁に引っ掛けていく。
「な、何をする!」
「さあ、一緒に踊って楽しんでこ? ほらほら、そんな鉄パイプなんかより、両手にラヴを!」
 光から顔を庇うビルシャナには目もくれず、不確かが元の場所へ着地。戸惑っている信者たちをダンスに誘う。そのときには紗更も廃墟の各所に携帯照明を設置し終えていた。後方からはライドキャリバーの春告伍号もライトアップに一役買う。
 黒ローブのミハイルが膝を屈伸しつつ上体を大きく右から左へ回せば、少しタイミングをずらしてセレスティンが、さらに遅れてリサが、レイが、紗更が、そして不確かが同様に上体を回してウェーブを作る。真似しやすい動きに信者たちもつられて続いた。ウェーブがさらに大きくなる。
「乱入作戦は成功。上出来すぎるくらいだな」
 少し離れた場所から成り行きを見守りつつ、クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は独りごちた。相棒であるボクスドラゴンのクエレに曲の再生を続行するよう指示しつつ、自らもギター演奏を続ける。裏方でバックアップは気楽だ。ニヤリと笑う。
「……しかし、ゾンビダンスか。中二病どももたいがいだが、俺らも飛び具合は負けず劣らず……いや止そう、考えるべきじャあねェ……」
 今や一列に並んで踊るケルベロスと信者の計十二人――何人かは相当練習を積んできたのか動きがキレッキレだ――を眺め、そろそろアクセントを入れようかとクラムが考えたところで、
「何をしておるか、騎士たちよ!」
 闇そのもののような重く暗い怒声が轟いた。

●己が闇を恐れよ
「黒翼のビルシャナか……格好いいな」
「ええ、なんと美しい……」
 ミハイルとセレスティンが陶然と呟く。
 設置した照明で、廃墟は当初よりずいぶん明るくなっている。ビルシャナ・ザ・ダークの姿も、濡れたように黒い羽の模様まで浮き上がって見えるようだ。
「何を踊っている!」
「ゾンビダンスでございます」
「そんなことは訊いておらぬわ! 足踏みしながら指を差すのをやめろ! 騎士たちよ、騙されるな!」
 紗更に怒鳴り返して、ビルシャナは信者たちに命じた。
「その者たちは危険だ。そなたたちを害なす悪に相違ない。今こそ悪滅の時! 己が闇を解き放て!」
 信者たちがハッとしたようにケルベロスたちから離れた。右手の包帯を解こうと手をかける。
「ふふふ……」
 ――セレスティンの妖しげな微笑は、信者たちの動きを止めるのに充分な響きを有していた。
 スリットの入った黒衣を揺らし、ヒールを鳴らして彼女は信者たちに近づく。
「貴方たち、大切な人を亡くした経験はある? それも目の前で。生半可な覚悟で闇に染まっても、それは灰色よ」
 ここに彼女をよく知る者がいれば、彼女の称号の意味を思い返していたに違いない。暗い音響を背景にセレスティンがもう一歩踏み込む。
「真の闇に染まりたくば悲しみは不可欠……というわけで、貴方たちが拝むビルシャナを倒すわね」
「な、ダーク様を!?」
 信者たちがざわめいた。正気か、と罵る声も上がる。
「私は自分の闇に従っているだけよ……何も問題はないわ。さあ、真の闇に耳を傾ける準備はオーケー?」
 邪悪な微笑に信者たちがたじろぐ。無理もない、騎士だの言っても所詮は中二病だ。ガチの暗黒に、身を寄せ合って怯える。
「無様だな……闇に魅入られし者たちよ、俺は嘆かわしい!」
 黒魔術師然のミハイルがそんな彼らを睥睨した。
「己の闇を自覚しながら、何故徒党を組む! 闇とは孤独! 闇とは拒絶! 理解されない、いや理解を必要としていない!」
 一喝とともにペンライトをチカチカ灯し、上空に向け掲げる。
「真の闇、その真髄を見せてやる!」
 その言葉とともに、空から人の形をした闇が降り落ちてきた。
 獄炎を纏う着地で廃墟の床に亀裂を作ったのは、竜翼を背に戴いた戦士だ。黄金に縁取られた漆黒の鎧には鋭角的な装飾が施され、提げ持つ大剣と併せて重厚な威圧感を備えている。
 ミハイルが戦士――兄を指差した。
「見よ! これが、闇に堕ちた者の末路! いや、覚悟を! 信望? 心酔? 生温い! 闇の祝福を受けたと言うならば、己の闇で相手の闇を呑み込む程のものを見せろ!」
 クラムのギターとリサのヴァイオリンによる凶悪なBGMの中、漆黒の竜戦士――玖良・竜(灰燼葬列・e13082)は信者たちを見据え、ゆっくりと口を開いた。
「闇に魅入られた者たちよ……貴様らにも家族や親しい者、大切な者、愛する者がいるのならば、この場所より立ち去るがいい。闇の中に救いはない。あるのは――出口のない迷宮よ」
 竜の登場で信者たちは慄くばかりだ。うわ言のように闇恐い闇恐いと呟く信者たちに、竜が「どうしてこうなった」と誰にも聞こえない声で漏らす。
 一方、竜を中二病代表として無理やり連れ出してきたミハイルは、この結果に心の中で満足していた。
「狼狽えるな騎士たちよ!」
 ビルシャナが叱咤した。
「確かにその者らの闇は見事。だが恐れることはない。そなたらもまた闇を開花させ、力を得るのだ!」
「それはいけない。闇の恐ろしさは身に沁みただろう。闇に捕らわれてはいけない。そう、今こそ白に目覚めるのだ……」
 純白のローブに鍔広帽。まさしく白の魔法使いと呼ぶべき出で立ちのレイが、ビルシャナの誘惑を遮った。

●白き光に導かれ
 甘く艶やかな弦の調べが場に満ちていく。
「白は良いぞ。何ものにも染まらない無垢なる色。全てを温かく、そして優しく包み込む」
 レイ自身、光と闇が表裏一体なことは承知している。
 光が強ければ闇もまた強くなる。その理、存在までは否定する気はない――だが、人に迷惑をかける類は許されぬ。
「それに白、もとい光属性は皆からも好かれる。主人公の属性だからな。その点、闇属性は人を惹きつけるものこそあるが、暗黒に堕ち、闇の力に呑まれた者はいずれ破滅する。悲惨な末路だ」
 信者たちからの注目を確信しながら、レイがとどめを切り出す。
「そう! 君たちは今、光に目覚める時なのだ。闇から光への転向、それはまさに選ばれし者の特権。闇の力を光に変えて、悪しきビルシャナを討つ我々を応援してほしい」
 ほどよく中二心をくすぐるレイが手で示す先では、愛らしく飛び跳ねる白く眩い獣がいた。リサがシャーマンズカードから召喚した光のドラゴンだ。
「いかがですか。光は格好良いでしょう? さあ、光を浴びて生まれ変わりましょう。そうそう、ハロウィンの時期でもありますし……」
 ヴァイオリンを脇に挟み、リサはポシェットからお菓子を取り出した。テレビウムのフィオナに横取りされないよう高く持ち上げながら信者たちへ振る舞うが、なぜか彼らは受け取ろうとしない。
「本当にいいのか、俺たちが……」
 右手の包帯を押さえつつ、信者の一人、ドワーフの青年が苦しげに声を絞り出した。
「闇に堕ちた俺たちが、今さら光を求めるなんて許されるのか……」
「もちろんでございますよ」
 青年の苦悩を、紗更が柔らかく受け止める。
「光の概念があるからこそ闇の概念があり、逆もまた然り。誰に許しを得るものでもありません。片方を拒絶するのではなく、共存を狙うことこそが真の闇、または真の光に住まう者の姿なのでございます」
 少し気恥ずかしげに諭す紗更の言葉に、セレスティンは「あぁ、このように光があるからこそ、私の闇は輝くのよ」と頷いた。彼女もまた、万象の理の中に生きている。
「そもそも、さっき一緒に踊ったろ」
 不確かが信者たちの背中を叩いた。
「なら遠慮はいらない。自信出してこ! 世界の闇ごと包んじまえるくらいのラヴが、キミたちの胸にもあるはずだぜぇ!」
 不確かのウィンクに、信者たちの顔がパッと輝いた。リサからお菓子を受け取ったり、光のドラゴンに駆け寄ったりする。
 説得は成った。あとは――。
「フッ……」
 長らく沈黙していた黒鳥が、うっそりと嗤った。

●闇
「手下に去られたッてのに、ずいぶん余裕だな?」
「去られた? 否、闇は常にそこにある」
 BGMを荘厳なものに切り替えたクラムの疑念を、ザ・ダークは一笑に付した。
「闇は確固たるもの、目をそらせぬもの。信奉者などまた集めればよい。そなたらを始末した次に、ゆっくりとな」
「次なんか無い」
 レイの携える大鎌が真白の光を散らす。
「ここで討つ。それで終わりだ」
「ならば終わらせてみよッ!」
 黒翼が拡がった。直後、生成された闇色の氷輪がケルベロスたちに殺到する。
「冥府に住まう蒼き黒き炎の精霊、我が呼び声に応えよ――」
「キミの闇に染まったハート、光で射抜いていくんだぜ!」
 セレスティンの冥炎の弾丸が氷輪を追尾し、破砕した。なおも降り注ぐ闇の氷を、疾走する春告伍号に飛び乗った不確かが照準。座席に仁王立ちのまま、ガトリングの掃射で撃墜する。
「いざ、参りましょうか」
 光と闇の乱舞の下、紗更が疾駆した。リサがもたらすムーンストーンの加護をその身に受け、最小限の動きで大鎌を旋回する。
「図に乗るな!」
 黒羽が散った。ビルシャナが反撃に闇の炎を撃ち出すが、それは間に差し込まれた大剣に阻まれる。
「光の存在でありながら闇に身を浸す者よ。異端の者よ。此方に下る気ないか? 貴様が望むならば、我が魂の名にかけてこの世の半分を貴様にやろう」
「我と交渉か? たわけたことを!」
 闇の炎を、竜が弾いた。間髪容れず振り下ろされた鳥爪を竜の大剣が受け止める。
「我は闇の恩寵を受けし使徒! なんじょう施しを受けようや! 異なる闇の者よ、疾く逝け!」
 竜の顔面近くで闇の炎が燃え上がる――だがそれが放たれるより早く、フィオナの一撃がビルシャナの胸を貫いていた。
 自らを貫く光の剣を忌々しげに見下ろし、ビルシャナがフィオナを殴り飛ばす。転がったテレビウムをクラムが受け止め、ボクスドラゴンのニオーが闇属性のオーラを注いで傷を癒す。
「闇の恩寵だなどと自惚れるな」
 よろめくビルシャナに、レイの大鎌が宙を滑った。
「天誅……! 天の怒りに触れた者はこうなる運命だ」
 鮮血は天井まで達した。黒翼を断ち割られたビルシャナが憤怒の絶叫をあげる。
 その瞬間、輝く数多の羽がビルシャナを取り囲んだ。
「その魂、貰い受ける!!」
 叫んだミハイルの背後で光が収束。絶叫すら掻き消して、撃ち放たれた極太の光線はビルシャナの全身を焼き尽くした。

 カードに写る黒翼のビルシャナにミハイルが満足していると、廃墟の外でケルベロスを呼ぶ声が聞こえた。元信者の一般人たちだ。セレスティンが殺界形成で逃がしたのだが、戦闘が早くに終わったためか、まだ近くにいたようだ。
「いかがされましたか?」
「その、夜道が恐くて……」
 訊ねた紗更に、気恥かしげな声が返ってきた。
 たしかに、こんな山奥では遭難してしまうかもしれない。
「ヘリオンで途中まで送りましょうか――ってダメ、フィオナ! それ、わたしのお菓子!」
 隙あり! とポシェットをかすめ取ったテレビウムと、リサが綱引きを始める。どちらも顔が紅潮し、遊びの色がない。
「ケルベロスの皆さん、ありがとうございます。先ほどはご迷惑をおかけしたのに……」
「信者だッたときのことか? 気にすんな。碌なことにならねェのは実際に力があるとき……詰まる所ビルシャナが悪い」
 うつむく青年を、クラムが笑い飛ばした。クエレが一般人たちにまったく懐く気配がないのを見ながら、
「まァ、それさえ片付きャ文句はないんで、好きに生きてくれや」
 夜空を見上げ、ヘリオンの降下を待った。

作者:吉北遥人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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