海亀島の財宝

作者:玖珂マフィン

●海亀島の伝説
 その島には本来名前がなかった。
 海岸から泳いで渡れるほどに近く、10分もあれば一周できるほどの小島。
 地図にも乗らないその島を、地元の人間は海亀島と呼んでいた。
 この地にはかつて海賊が住んでいたという伝承がある。
 そして、海賊は隠し財宝を残し、今でもそれは海亀島に隠されているそうだ。
 けれど、決して財宝に手を出してはならない。
 どれほどの時間が過ぎようと、強欲な海賊の亡霊は、宝を奪うものを許すことはないだろう――。
「お宝だ!」
 小学校の社会の時間。地元の歴史を習ってからクラスで流行りだした噂を確かめるため、少年は海亀島に渡ろうと海岸に訪れていた。
 夏場であれば地元の若者が泳ぐついでに行くこともあるのだが、秋も深まるこの季節。他に人影はなかった。
「待ってろよ、海賊! 宝は僕が――!」
 冒険への高揚。宝への期待。海賊への好奇心。
「――私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 それは正に、ドリームイーターの望む『興味』そのものだった。
 胸に鍵を差し込まれた少年はどさりと砂浜に倒れ込む。
 少年の影から這い出るようにトライコーンを被った悪党が姿を表そうとしていた。 
 
●海賊ワルダーの財宝
 海亀島には海賊の隠し財宝があり、亡霊が今でも宝を守っている。
 そんな噂への『興味』がドリームイーターによって海賊の亡霊へと変えられてしまう事件が発生した。
「騎士として、見逃す訳にはいかない」
 ヘリオライダーから伝え聞いた予知を語り、カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)は静かに義憤を燃やす。
 このまま放っておけば『興味』を奪われた少年は目を覚ますことはない。
「だが、今ならば現れた海賊を倒すことで、少年を助けることができる」
 『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているが、現れた海賊は海亀島で訪れるものを襲おうと待ち構えているようだ。
 上陸後、宝を守るという性質通り、財宝を探すような態度を見せれば襲い掛かってくるようだ。
 海賊はトライコーンにサーベル、ピストルと、如何にもといった典型的なパイレーツ装束で現れる。部下などはおらず、船長ただ一人のみで現れるようだ。
「……本来であれば、この地にいた海賊とは、当然日本の水軍だったとは思うのだが」
 小学生の噂が元である。実際の歴史とは違いもあるのだろうと、カジミェシュは少し考えてから頷いた。
「現れた海賊を見逃せば、近隣の平和は乱れ少年が目覚めることもない」
 誇り高き騎士の末裔であるカジミェシュには、それを許すことはできなかった。愛竜ボハテルと共にカジミェシュはヘリポートを見渡した。
「――海亀島の平和、そして少年のために。どうか協力して貰えないだろうか」
 強き意志を灰の瞳に宿し、カジミェシュは仲間達へと呼びかけた。


参加者
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)
陸野・梅太郎(ゴールデンサン・e04516)
佐藤・非正規雇用(店長を添えて・e07700)
箱島・キサラ(チェイサー・e15354)
御簾納・希(不撓不屈の拳・e16232)

■リプレイ

●海賊の時代
 海亀島には海賊の埋蔵金が隠されている。
 いつからか、まことしやかに地元住民の間で囁かれるようになった噂話だ。
「――ナイスボート」
 フッと爽やかな笑顔を浮かべながら、佐藤・非正規雇用(店長を添えて・e07700)は地元民に借りたボートから、噂の地『海亀島』へと降り立った。
 小さいながら森や砂浜もあるこの島は、何か隠されたものがあるのではないか、と感じさせる浪漫が漂っていた。
「宝探し! それは永遠の男の浪漫!」
 しゅたりと勢い良く、続けて陸野・梅太郎(ゴールデンサン・e04516)も大地に立つ。
 冒険の経験も豊富で宝探しも得手とする梅太郎。気合十分に小さな島を見渡した。
「宝探しかぁ……なんや、ワクワクドキドキしてきますわぁ」
 なぁ、と自らのサーヴァント、スピカに呼びかけて、御簾納・希(不撓不屈の拳・e16232)も浮かれたように笑顔を見せた。
「宝物なんて、見つけたところで面倒なだけじゃない」
 はしゃぎまわる仲間たちを見て、古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)は少し離れた場所で呟いた。
 確かに無人島であれ持ち主がいる。宝が隠されていたとして、届け出なければ犯罪に、知らせれば持ち主と折半だ。
 現実的に考えればトレージャーハントは、割に合わないと言えるだろう。
「おや、隠された財宝だなんて子供なら誰しも夢見ることでしょう?」
 わたくしも冒険心や興味は生涯追い求めて行きたいものです。と、箱島・キサラ(チェイサー・e15354)は自信ありげにるりに語りかけた。言葉通り冒険心のある、羽根帽子にドレスコスチュームと、気合の入った女海賊装束に身を包んでいる。
「見えぬものを探すというのは、ロマンを感じさせるのでしょうね」
 柔和な表情でアリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)も仲間たちを見守る。
「……解らないことはないわよ、浪漫だって」
 るりとて、去年のハロウィンパーティでは海賊の仮装をした程度には海と財宝の物語を好んでいる。
 斜に構えながらも、水を差そうと言うほど野暮ではない。
「……ふむ。もし、本当に財宝が手に入ったならどうするか……」
 トライコーンにキャラコのシャツ。赤の上着にカットラス。扮装に合わせて少し海賊に考えが寄っているのか、資金にできればいいのだが、と。若干本気の目でカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)は島を眺める。
「ふふ、ちょっと気が早いですよ、カミル。浪漫もわかりますけど」
 対になるように二丁拳銃の海賊装束となった アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)は、張り切るカジミェシュに微笑みかけた。

●執念の財宝
 さて、いよいよ宝探しの冒険が始まる。
「ボク、宝の地図持って来てん。どこにありますやろ」
 好奇心いっぱいの笑みを浮かべて希は自作の地図を広げてみせた。
 かつては自分も冒険に夢中だったと懐かしく感じながら、キサラはではとコンパスを出して、笑みを向ける。
「見つけた財宝は全員で山分けですわよ。楽しみですわね」
「よし! 穴掘りなら任せとけ!」
 梅太郎も腕を掲げてやる気充分、森の中へと繰り出していく。
 見送った仲間たちは、いつでも駆けつけられるように準備しつつ、宝探しには興味がないフリに勤しんだ。
「この辺りちゃうかなぁ?」
「よし、ここだな!」
 適当な場所に目星をつけて、希の言葉に従い梅太郎は地面を掘り返そうとする。
 その時。
「――俺の宝を奪おうってのか、てめぇら!!」
 梅太郎の足元に放たれる一発の銃弾。どこから現れたのか。
 影から生まれたかのように、爛々と瞳を妖しく輝かせ海賊ワルダーがそこに居た。
「あなたの宝ですって!」
 キサラはわざと大きな声をあげて海岸に残った仲間たちに敵の出現を知らせながら、ワルダーを見る。
 トライコーンにサーベルにピストル。眼帯までつけた古典的なパイレーツが、本性を露わに銃を突きつけている。
「その通り、お前の宝はこの俺が頂く!」
 あえて挑発するように、梅太郎は宝を狙っていることを明らかにする。
「そうかいそうかい……。ならよぉ、お代はてめぇの命だぜ!」
 勢い良く啖呵を切り、サーベルを抜く海賊船長。一対三とはいえ実力は侮れない。
 十分に押し切れると見てワルダーは口元を歪める。
「そう簡単に、命を奪われるわけにはいきません」
「なにぃ……!」
 背後から響く声に振り返るワルダー。そこには、白い羽を広げ弓を構えるアリシアの姿が。
 更に響く足音。見渡せば周囲にはケルベロスたちが集っていた。
「しかし、まさか本当に海賊が出るとはな」
 自分が推理したとは言え本物を目の当たりにして気が引けたか。現れたカジミェシュは呆れたようにワルダーを見た。
「いや、そんな格好までして結構ノリノリだよな? しかもカップルで!」
「婚約者ですから」
 ツッコむ非正規雇用に海賊衣装と小物までカジミェシュと揃いに合わせたアイラノレが笑顔で答える。
「…………。何処の海賊かは知らんが、宝を渡せば命ばかりは勘弁してやろう。どうだ」
 敢えてか気付かずか。どうせ仮装するなら最後まで、ということか。
 やり取りを流しつつカジミェシュは海賊らしく悪ぶった態度で挑発を重ねる。
「っ、ちぃっ! 揃いに揃ってゾロゾロと……。そんなに俺の宝が欲しいってか!!」
 大声で銃と剣を突きつけるワルダーに、るりは年に似合わぬ落ち着いた表情で魔導書を広く。
「……あなただって、元々は誰かから奪ったんでしょう?」
 るりの言葉をカカカと笑い、海賊は大声で答えた。
「ハ! そぉれがどうしたってんだぁ! どんな方法だろうが、俺が手に入れた、俺の宝なんだよ!」
 宝への執念の噂から生み出された怪物は、元からそれしか持っていなかった。
 銃声と怒号。仮初の宝を奪い合う戦いが、そうして幕を開けた。

●銃と剣
 海賊ワルダーの戦闘は、どこまでもシンプルである。
「まどろっこしいことはなしだぜぇ!?」
「……流石船長、と言うところなのかしら」
 るりが重ねた不調を海賊は財宝への執念で振り払う。
 付与をサーベルで破壊し、隙を見つければ銃弾を勢い良く連射する。
 搦手など一切用いないが、だからこそ単純な力強さがあった。
 だが。
「そうだ! そこに来るのを待ってた!」
「ガッ! て、てめぇ、また……!」
 自ら傷つくことを顧みず仲間を庇っていた梅太郎から、会心のカウンターを受けたワルダーは怒りを見せる。
 これまでに何度か受けたカウンター。必然的に怒りの矛先は梅太郎へと向かう。
 望むところだと言わんばかりに、梅太郎はワルダーの攻撃の多くを受け止め続けた。
「店長! 俺に続け!」
 敵の注意が梅太郎へと向けられた間に、オルトロスの店長と同時に、非正規雇用は斬撃を放つ。
 敵の防御すら切り裂いて、後に続くものたちへの道筋を切り開く。
「勇士らへ送る旋律はせめてもの癒しを。戦場に翔ける風よ、せめて彼の者らに今一度立ち上がる力を――」
 アリシアの歌声が力を帯びて戦線に響き渡り戦士たちに力を授ける。
 その歌は美しくも鋭く。力を受けたボクスドラゴンのシグフレドも張り切ってワルダーへと体当たりを仕掛ける。
「畜生がぁ! 調子に乗りやがって……!」
 ケルベロスたちを見渡す船長の瞳から輝きが薄まっていく。例え強かろうと多勢に無勢。
 番犬の連携を覆せるほど、銃と剣は力を持っていなかった。
「回復、おおきになぁ。ボクも力貸すな。行くで、スピカ!」
 ウィングキャットのスピカに呼びかけて、希は勇気の力を仲間に与える。合わせるように、スピカも翼を広げて護りの力を振りまいた。
「さあ、敵海賊を討ち破り財宝をわたくしたちのものにするのですわ!」
 後、もう数撃。敵は瀕死と見たキサラは後衛から一気に接敵。迷いなく容赦もなく光り輝く細剣で何度も切り付け切り裂いた。
「こいつ……!」
 衝撃を受けたワルダーが反撃をしようとサーベルを振り上げても、既にそこにキサラの姿はない。
 ヒットアンドアウェイ。嵐のような荒々しい斬撃と同時に、キサラも手の届かないところまで離れている。
 ここまで積み重なれば、多少の回復は意味がない。敵の弱さを積み上げるのはるりの仕事だった。
「消えて終わりよ……ジャッジメント!!」
 裁くのは誰か。罪と罰。どのような海賊であれど悪であれど、末路は変わらない。
 報いは必ず訪れる。出現した神の槍が、海賊船長の脹脛を貫いた。
「ぐぁあ……! この、ガキ……!」
 海賊の足が、止まる。
「――さあ、それじゃトドメは譲りましょう」
 るりの言葉と、『それ』はどちらが早かったのだろう。何もない空間に、無数の砲門と銃口が現れていた。
 アイラノレは言う。
「嵐の夜も、蝕む二豎も、鋼鉄の雨もベルフェの壁も。破り、弾き、切り開け!」
 合図のように振るわれた腕とともに放たれる銃弾の雨。あらゆる困難すら打ち砕き乗り越える意志の弾丸が、海賊の意志さえ砕くように放たれる。
「があぁっ!? くそがっ、俺は、俺は、負けねぇんだよ……! 俺の船だ、俺の航海だ、俺の略奪だ、俺の全てだぁ!!」
 だが、宝への執念未だ衰えず。海賊ワルダーは弾丸の雨の中を一歩踏みしめる。ギラギラとした瞳にアイラノレを映して、震える手でピストルを構えて銃口を突きつける。
「――悪いが……私が乗るのは船でなく、騎馬でな」
 ボハテル。竜にして英雄の名を持つ自らの相棒に騎乗して、最後の一撃は騎士としてカジミェシュはワルダーへと突撃する。自らの宝刀を振り上げて、海賊の夢想を終わらせようと駆け抜けた。
「あぁ!?」
 ワルダーの銃口が動く。銃弾と砲撃の雨の中、走る騎馬と迎え撃つピストルが交差する。
「…………。ああ、くそ……。へへ……。こんな、もんかよ……」
 自らが負った傷の深さに気がついて、海賊ワルダーはなぜか、笑った。
 サーベルとピストルが手から離れ、塩の柱のように崩れ落ちた。
 夢が覚めていく。銃撃と砲撃の硝煙が晴れた頃、海賊は、跡形もなく消えていた。

●浪漫の海
 行き掛けに砂浜で倒れていた少年は、ボートを借りる際に事情を説明して地元の人に預かってもらっていた。
 ケルベロスがボートを返しに戻ったときには、何が起こったのか分からないと言った感じでぼんやり不思議そうに座っていた。
「目が覚めたのですね」
 にこやかに、アリシアは少年へと話しかける。
「……? お姉さんたち、誰?」
 突如現れたケルベロスに少年は戸惑いを見せる。
「海賊……は、さっきで廃業しましたわね」
「海賊は去年ね。今年はライオン」
 財宝は手に入りませんでしたけど、と残念そうなキサラの言葉に続き、るりはクールにハロウィンの仮装を答える。
「えっ……。えっとなぁ、ボクらケルベロスなんよぉ」
 周りの様子にちょっと困りつつ希が事件を説明し、やっと少年は納得が行ったとばかりに頷いた。
「それで、怖くありませんでしたか……?」
 怪我はないか、怖がっていないだろうか。心配していたアイラノレは少年に質問するが、さっきまで眠っていた少年はどこ吹く風。それよりも噂の海賊に会って冒険してきたケルベロスたちを羨ましがっていた。
「よし、では少年。君にはこれをやろう」
 私が被るのは兜だからな……。と、カジミェシュはトライコーンを脱いで少年に渡す。
 現金なもので、受け取った少年は目をキラキラと輝かせてトライコーンを被ってはしゃぎだした。
「マジで!? いいの? 話せるーっ! じゃあ、その剣もちょうだい!」
「こいつは駄目だ」
 にこやかにキッパリと、カジミェシュはそのおねだりを却下した。
 ケチ! と文句をつける少年へと如何にこの剣が重要なものか語りだすカジミェシュ。
 そんな微笑ましい光景を見ながら、キサラは微笑んでアイラノレに話しかけた。
「――やっぱり幾つになっても冒険と浪漫はいいものですわね」
「はい……」
 感慨深そうに、アイラノレも頷いた。
 水平線に夕日が沈んでいく。夢のような海賊ごっこも、こうして幕を下ろす――。
「……あれ、一人足りなくない?」
 ――下ろそうとした時。うんうんと冒険の結末に満足していた梅太郎がふと気がついたように呟いた。
 数えてみるとケルベロスは全部で七人。……一人、足りない。
「……あれ? 非正規雇用さん、どこ……?」
 希が慌てたようにきょろきょろと回りを見渡した。
 ――その頃、海亀島。
「『決して財宝に手を出してはならない』って、そういうことか……!」
 本当は本当に財宝が隠されているのではないか?
 そんな疑いを持ってこっそり島に残った非正規雇用は呻いていた。
 小さな島はすぐに探索し終わった。宝はなかった。そしてボートも、もうなかった。
 島から出ることが出来なくなっていた。この季節、泳ぐに海水は冷たすぎる。
「おーい、誰か助けろー!」
 沈みゆく夕日で朱く染まる海へ非正規雇用は叫ぶ。答えるものは誰も居なかった。
 ……結局、非正規雇用が自分で飛んで陸まで戻れることに気がついたのは、日が沈みきった後のことだった。

作者:玖珂マフィン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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