山を紅く染める妖精

作者:白鳥美鳥

●山を紅く染める妖精
 山の中、そろそろ木の葉が紅く染まっていく。特に山の紅葉はとても美しい季節。
 晃は高機能のカメラを用意して、紅く染まっている木々を見上げながら、山道を歩いていた。
「この紅葉……実は妖精が染めているっていう話なんだよな」
 晃は薄らと紅く染まる葉を見上げながら、綿密に見ていく。
「妖精だから小さいかもしれないしね。見落とさないように、見落とさない様に……。見つけたら、写真に収めたいなあ。出来るかなあ」
 そうやって、妖精を探す晃の前に第五の魔女・アウゲイアスが現れ、彼の心臓を鍵で突き刺した。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 崩れ落ちる晃。そして、彼から朱に染まった可愛らしい妖精が現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「これからは紅葉の景色だよね。とっても綺麗だと俺は思うよ」
 そう言ってから、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、ケルベロス達に話し始める。
「実は、夜月・双(風の刃・e01405)が予知した事件が起きてしまったようなんだ。『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようなんだけど、奪われた『興味』を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしているみたいなんだ。みんなには、このドリームイーターの撃破をお願いしたい。後、無事に倒せたら、『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるから、安心して良いよ」
 デュアルは状況について伝えていく。
「場所は、紅葉が綺麗な山の中。木々が多いから、足場や戦い方は工夫した方が良いかもね。そして、このドリームイーターは朱に染まった妖精の姿をしている。それで、このドリームイーターはね、『自分が何者か?』っていう問いかけをしてきて、正しく対応出来なければ殺してしまうみたいなんだ。でもね、このドリームイーターは、自分のことを信じていたり、噂をしている人がいると、その人の方に引き寄せられる性質があるんだ。だから、それを上手くつかば、有利に戦えるかもしれないよ」
 デュアルは皆にケロべロス達に訴えかける。
「自然ってね、凄く綺麗なものでしょう? 紅葉もその一つで、秋の美しい景色の一つだよね。その紅葉がドリームイーターになってしまうのは、とても残念な事だよ。だから、みんなの力を貸してほしいんだ。応援しているよ!」


参加者
夜月・双(風の刃・e01405)
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)
ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)
ヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)
玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)
弐番堂・むささき(紫電の歯車・e31876)
ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)

■リプレイ

●山を紅く染める妖精
 場所は山中。紅葉の美しい季節に合わせた紅に染めらる場所。……葉は、まだ紅く染まらない程度だけれど……それでも、秋の訪れを感じさせる綺麗な景色だった。
 山の中なので、人が来ないとは言い切れない。夜月・双(風の刃・e01405)は、殺界形成を行って、人を寄せ付けないようにする。
(「妖精が木々を染めている、か。紅く色づく魔法を掛けながら、木々の間を縫うように華麗に飛ぶんだろうか? ふむ…見てみたいものだな、その妖精の姿を」)
 そんな事を、木々を見上げながら、双は思った。
「この辺りが大丈夫そうだな」
 グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)は、戦う場所として、木々が少なく、開けた場所を選んだ。
 戦い方としては、ドリームイーターを呼び寄せる役、奇襲をかける役に分かれている。奇襲をしかけるケルベロス達は、木々の中に身を潜めていた。
(「綺麗な場所ですね、妖精の夢が出るのも無理がないかもしれません」)
 沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)も、綺麗な景色を見てそう思う。
「紅葉を紅く染める妖精……」
 ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)は、そう零した。
 どことなく引かれるような感じがして参加したが、相手がドリームイーターである事がとても残念なのだ。
(「もし本当の妖精が居たら、会いたいな……」)
 そう思ってしまう。
(「地球の紅葉、綺麗だね。僕、この景色を見にこれて嬉しいよ。本当に妖精がいるよ、きっと」)
 ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)は、繊細な銀の髪を風に揺らし、そんな思いを馳せて。
 一方で、噂話も始まっている。
 弐番堂・むささき(紫電の歯車・e31876)は、一眼レフに植物図鑑を持参してカメラを回す。
「紅葉が赤くなる瞬間を激写したいでござるよ。その瞬間を捕えれば珍妙な生き物が写るという噂があるの知ってるでござるか?」
「お、この辺はきれいに紅く染まってるな。こっちは下の方はまだまだ下は夏の色ってトコか。これから……むささきが言う所の珍妙な生き物……妖精さんが染めに来るのかもしれねえな」
 景色を見渡しながら、グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)が、そう続けた。
「秋の妖精……羽根は紅葉なのかしら? きっと可愛らしいんでしょうね。紅葉の中を飛び回るなんて、素敵よね」
 玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)も、頷く。こころの心の中はドリームイーターを倒したい気持ちが一杯だけれど、それを何とか抑えて。
 妖精に思いを馳せたり、噂に興じるケルベロス達の傍に、可愛らしい顔立ちの妖精が現れる。特徴的なのは、翅が赤く染まった落ち葉になっている所だ。そして、全体的に朱を思わせる。
「こんにちは、こんにちは! 秋の山へようこそ!」
 そう明るく言うと、朱色の妖精は落ち葉の翅を羽ばたかせるようにして、くるりと回った。
「ねえねえ! あたし、誰だと思う? 誰だと思う?」
 そう、無邪気に訪ねてくる。とても楽しそうな笑顔だ。
「……! どこからきたでござるか!?」
 大袈裟に喜ぶむささき。
「あなたはあなた、です」
 それに対して、淡々と言葉を返すのはヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)だ。
 そして、何より厳しい言葉を投げかけたのは、こころ。
「随分と大きいのね。これじゃ妖精どころか……残念な仮装よ。自然の美しさじゃないわ、不自然な妖精擬きよ。南瓜行列の会場はここじゃないわ、哀れな紛いモノさん」
 こころの言葉が、開戦の火蓋を切った。

●朱色の妖精型ドリームイーター
 ドリームイーターより先に瀬乃亜とティティスが攻撃をしかける。瀬乃亜はドリームイーターへ魂を喰らう一撃を与え、ティティスは大鎌を回転させながら飛ばして斬りつけた。
 続いて、ラームスの星の力から生まれる光が、双達へと加護を与えていく。
 ドリームイーターの方も、やられてばかりではいない。奇襲を受けて崩れた体勢を直すと、こころへ向かって攻撃をしかけた。ドリームイーターが合図する様に手を挙げると、こころを中心に紅葉の渦で包み込む。荒ぶる紅葉に風の渦。それが、こころを次々と斬りつけ意識をぼんやりとさせていった。
 双は緑色の粘菌を召喚すると、ドリームイーターへと放つ。妖精のドリームイーターは、翅を羽ばたかせて避けようと動いたのだが、一部かわしきれず、ある程度はダメージは受けたようだ。
「……やはり、当てにくいか」
 妖精だけに、動きが軽やかだ。これは、まずは攻撃を当てる事に苦労する事になるだろう。
 何とかドリームイーターの攻撃に耐えきったこころは、双の言葉に頷いた。
「伽藍装甲、八門覚醒」
 こころの纏うオウガメタルから、オウガ粒子がグレイン達の感覚を研ぎ澄ませる。
「ガラン行って、任せるわ」
 こころの言葉に、ミミックのガランは飛び出すとドリームイーターへと向かって噛みついた。
「へえ、こいつは本当に山の秋をまとったみてえだな」
 グレインはドリームイーターを見て、そう言うと、サポートの為に、瀬乃亜達へと星の力を使った加護の力を与えていく。
「状態異常に対する耐性の向上及び機体損傷の修復を行います」
 続いてヴィキは、体内にあるナノマシンを使って耐性を向上させていった。
「命中率を高めるのでござる」
 むささきはオウガメタルのオウガ粒子を放って、ヴィキ達の命中率を上げていく。一方、彼女のウイングキャットのぐんじょうは瀬乃亜達へと護りの風を送っていった。
 トントンっと妖精のドリームイーターは踊るようにリズムを取る。するとドリームイーターの足元の落ち葉が渦巻いて、的確に攻撃の要の一人である双を狙う。それを、こころが庇ったが、かなりのダメージを負ってしまった。
「私は大丈夫だから……あのドリームイーターを倒して」
「ああ、こころも無理はしないでくれ」
 こころに思いを託された双は攻撃に移る。
「来い……主殺しの黒騎士よ。闇纏う剣を振るうが良い」
 双が召喚するのは、主を斬り殺し、地獄に幽閉されたとされる、鎖絡み付く黒き騎士。それは、ドリームイーターへ向かい、闇を纏う禍々しい大剣で斬りつけ恐怖を与える。
 一方、ラームスは、こころの状態を確認しながら施術による大幅な回復を行った。
 瀬乃亜は素早いドリームイーターへ、急所を狙う一撃を加えていく。こころは、まだ完全には癒えきれていない身体だが、今後の戦いの為に、むささき達へとオウガ粒子を放って、命中率を高めていき、続けてガランが眠りを誘う攻撃を行った。
 グレインは、ドリームイーターが木々の多い方に攻撃をさせまいと位置取りを考えながら動いていく。ここにある木々をなるべく傷つけない為だ。それから、こころへと幻影を纏わせる加護の力と癒しの力を送っていった。
 ヴィキは攻撃に移る。しかし、その攻撃はドリームイーターへと届きそうになるが、華麗なステップでさけられてしまい、空振りにはならなかったが、確実には当たらなかった。
「まだ、当たらないでござるか。なかなか手強いでござる」
 むささきは再び、命中率を高める為にオウガ粒子を飛ばして双達の集中率を高めていった。ぐんじょうも重ねる様に加護の力を送っていく。一方、ティティスはドリームイーターへと降魔の一撃を放った。
 ドリームイーターは、舞い始める。それは軽やかで華麗な仕草とステップ。目を奪われそうになる踊り。そして、薄い朱に染まっていた姿が濃い朱色に変わっていった。その朱色は、確実にドリームイーターの傷を癒していく。
「残念ながら、こちらの能力も上がっている。……逃がしはしない」
 双はガトリング銃を構えると、ドリームイーターへと次々と弾丸を撃ち放っていく。そこに瀬乃亜の煌めきを伴う重い蹴りが入った。
 ラームスは星の輝きの力を使って瀬乃亜達に加護の力を送る。
「一度、攻撃に転じてみるわ」
 こころは、重なっている命中率を信じて攻撃に転じる。素早い動きのドリームイーターへと、強い思いを込めて。
「我が身に宿るは数多の無念……これにて穿つ!」
 こころの蹴りがドリームイーターへと叩き込まれる。
「よし、当たったわ!」
 確実性は随分上がった様だ。ガランもエクトプラズムで武器を作り出し、続けてドリームイーターへと斬りつけた。
「俺も攻撃してみるか。油断は禁物だけどな」
 グレインはゾディアックソードを構え、魂を喰らう一撃をドリームイーターに叩き込む。今回も、しっかりと当たった。これは、攻撃が入るとみていいかもしれない。
 二人の様子を見ていたヴィキは、両手に装備した愛用のバトルガントレットを構える。そして、ドリームイーターへと聖なる左手で引き寄せ、闇の右手を使って渾身の一撃を叩きつけた。
 一方のむささきは次の一手に出る。ティティス達へと爆破による鼓舞によって、力を上昇させていった。ぐんじょうの方は、もう一度、グレイン達へと加護の力を送っていく。
 力の援護を貰ったティティスは、心で感謝しながら御業を炎へと変えてドリームイーターへと放ち、燃え上がらせた。
 ドリームイーターは、とんとんっと舞い踊る。今度は、護りの要であるラームスを中心に紅葉を巻き上がらせようとするが、グレインがそれを庇った。
「大丈夫か?」
 グレインの言葉に、ラームスはこくりと頷くと、直ぐに彼へと治癒の為の施術を行い、体力を回復させていく。
 双が放つのは緑色の粘菌。それがドリームイーターを捕えて、その動きを抑制させた。その動きに合わせて瀬乃亜の魂を喰らう一撃が炸裂する。
「泡沫夢幻、砲一夢散、伽藍開砲……断滅、爆ぜろ」
 こころの力強い詠唱が響く。それに合わせてガランが巨大化し、厳かな大砲と化してエクトプラズムの奔流を放った。それは、ガランがこころの想いを代弁するかのようにも見える。
 ……そして、その攻撃を受けたドリームイーターは、妖精の姿をしていただけあり、美しい木の葉となって消えていった。

●紅葉を愛でて
 まずは、被害者の昇を探しに行く。彼は、戦場となった場所から少し離れた紅葉の木々が多い中で眠っていた。紅葉を染める妖精を探していたから、ある意味、当然かもしれない。
 ラームスは、彼を抱き起すと治療のヒールをかけていく。すると、昇はぼんやりと目を覚ましてくれた。
「目を覚ましてくれたな」
「ああ……」
 昇の無事を確認して、双とラームスは安堵の息を漏らす。
「今回は大変な目に遭ってしまったが……今はこの紅葉を楽しまないか?」
「私もあなたの気持ちは分かるつもりだ。もし、今後、何かあったら、これを使って欲しい」
 二人は、彼の想いを否定しない。双は昇に声をかけ、ラームスはケルベロスカードを渡した。
「ありがとうございます」
 嬉しそうに微笑む昇の顔が、二人にはとても嬉しい。
「お、昇、気が付いたのか?」
 周囲を回って、被害の程度を見ていたグレインが帰ってくる。余りにも大きな傷はヒールをしてきたが、そうでもないものは紅葉の回復力に任せる事にして来た。それは、ありのままの自然が良いと思っているグレインの考え方によるものだ。
 そんな様子を、一歩下がった所でティティスが見ている。昇の様子が気になるのだが、人馴れしていない為に入っていけないのだ。
「ティティス、昇が気になるのなら来いよ。顔色も良くなってるし」
「う、うんっ」
 グレインに声をかけられ、ティティスは嬉しくて、ふにゃりと微笑むが、直ぐに真っ赤になってしまう。でも、勇気がでたので、皆の輪に混ざり、彼の様子を見に行った。
 ヴィキは、戦いが終わってゆっくりと紅葉を見て回る。彼女は、あまり感情を理解できない所があるのだが、ここの紅葉は見事で綺麗だと思う。そのくらい、彼女の心の旋律を動かしてくれた。
「……守らなくてはなりませんね、これからも」
 改めて、ヴィキは決意を固める。この美しい景色を護る、それがとても大切だと、心から思って。
 無事に宿願の一つを果たしたこころは、ガランと一緒に、紅葉を見上げながら景色を楽しんでいた。
「紅葉……こんなに綺麗なのね」
 ぽつりとそう零す。ドリームイーターに対しての気持ちがかなり強かった彼女だけれど、改めてこの景色を見渡すと、とても綺麗だと思った。心がとても安らぎ、癒してくれる。
 ……優しい世界が、こころの心を満たしていた。
 その頃、むささきは、皆の写真を持ってきていたカメラで紅葉と共にそっと撮影して回っていた。一番撮影したいのは紅葉と一緒に写る瀬乃亜。赤い彼女は、きっと美しいと、そう思って。
 その瀬乃亜は、膝の上にぐんじょうが乗せて座っている。
「紅葉はせのあ殿のようでござるな。真っ赤で美しいでござるよ」
 本気でそう思い話しかけるむらさきに瀬乃亜はくすりと微笑む。
「私は確かにいろいろと赤いですが、狩れるものではありません」
 そんなゆったりとした会話を楽しむ二人。
 昇と共に紅葉を楽しむのは、双、ラームス、グレイン、ティティス。
「ひと仕事終えた後だとまた格別だな」
 そう背を伸ばすグレインの隣で、昇はティティスを見る。
「君は銀色の髪に青い瞳、それに翼。何だか、僕が見たかった妖精とは違うけれど……何となく、君は妖精みたいな感じがするね?」
「そ、そうかな……」
 そう言われて、ティティスは恥ずかしくて俯く。
「でも、本当の妖精がいたら、会いたいね……」
 ラームスの言葉に、ティティスも昇も頷いた。
 双は真っ赤に染まった落ち葉を一つ拾う。栞にする為に。秋の夜長……読書の彩となってくれるだろう。
 ……そんな、秋に触れる美しい時間だった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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