標的は裏方職人之巻

作者:雷紋寺音弥

●究極の裏方職人
「お呼びでございましょうか、ミス・バタフライ」
「来ましたね……。早速ですが、あなた達にも新たな使命を与えましょう」
 どことも言えぬ、光の射さない薄暗い場所。螺旋の仮面を付けた奇術師のような姿の女が、暗闇から湧いて出た二人の男に指令を出していた。
 二人の内の一人は、道化師風の衣装に身を包んでいる。もう一人の方は、こちらは随分と細身で長身だ。全身タイツのような衣装を纏い、装飾品の類は極めて少ない。そして、そんな二人の顔もまた、螺旋の仮面で覆われており。
「この街に、舞台衣装を作ることを生業とする職人がいるそうです。その者と接触して仕事内容を確認し、可能ならば習得した後……殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「畏まりました……。些細な事件はありますが……これも、いずれは巡り巡って、地球の支配権を揺るがすきっかけになるのですね」
 奇術師のような姿をした女性、ミス・バタフライからの指令を受け、二体の螺旋忍軍は再び闇の中へ紛れて消えた。

●『形』を紡ぐ者
「召集に応じてくれ、感謝する。呉羽・律(凱歌継承者・e00780)の懸念していた通り、螺旋忍軍のミス・バタフライが、舞台衣装を作る職人を次のターゲットに選んだようだ」
 その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)からケルベロス達に告げられたのは、仮装やコスプレ、舞台衣装などを作る職人の、宮木・晃一郎(みやき・こういちろう)という男が螺旋忍軍に狙われているとの報だった。
「宮木が作っているのは、主に演劇や野外ショーで使用する舞台衣装のようだな。その気になれば、本格的な着ぐるみまで制作できる腕前を持っている。彼と接触した螺旋忍軍は、その仕事の情報を得たり、或いは習得した後に殺そうとするようだ」
 直接的には大した事は無い事件だが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれない。事実、この時期になると宮木はハロウィン用の仮装を作成する仕事も引き受けている。放っておけば、巡り巡ってケルベロス達に不利な状況が発生する可能性もある。
「宮木・晃一郎に接触出来るのは、事件の起こる3日程前だな。事情を話して仕事を教えてもらうことができれば、囮になって螺旋忍軍にこちらを狙わせることも可能だが……」
 その一方で、事前に説明して被害者を避難させてしまうと、予知が崩れて被害を未然に防ぐことができなくなってしまう。また、囮になるためには見習い程度の力量は必要なので、かなり真剣に技術を学ばなければならない。
 舞台衣装と一口に言っても、簡易なコスプレから演劇で使う王侯貴族の衣装、果ては特撮ヒーローの仮面から、ゆるキャラの着ぐるみまで多岐に渡る。それぞれ、制作方法も違う上に制作時間が必要なものばかりなので、ゼロから衣装を作るというよりも、自分の得意分野や興味のある分野に絞った上で、製作途中の作業を手伝わせてもらいながら学んだ方が早そうだ。
「敵の螺旋忍軍は、道化師のような格好をした男が一人と、サーカス団にいそうな細身の男が一人ずつだな。どちらも身が軽く、特に細身の男の方は、変幻自在の足技を使って相手を翻弄するのを得意とするようだ」
 道化師風の男は日本刀を、細身の男はエアシューズを武器とする。どちらも機動力が高い上に、こちらが戦闘中に得た力を破壊する技を持っているので、セオリー通りの戦い方では苦戦を強いられる可能性もある。
「螺旋忍軍が現れるのは、被害者が使っている工房兼倉庫だ。囮になることに成功すれば、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始めることも可能だろうな」
 状況と作戦次第では、敵を分断したり、一方的に先制攻撃を加えたりすることもできる。工房にある道具や設備も考慮して、上手く騙すことを考えてみるのも良いかもしれない。
「舞台衣装を作るというのは、それを演じる役者の『形』を作るに等しい仕事だ。裏方でも、誰かに夢を与えているということに変わりはない」
 そんな名もなき誰かの夢を守るため、皆の力を貸して欲しい。そう結んで、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
キャスパー・ピースフル(壊れたままの人間模倣・e00098)
珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)
呉羽・律(凱歌継承者・e00780)
レティシア・リシュフォー(声援アステリズム・e01576)
水無月・一華(華冽・e11665)
暁・万里(紅蓮の飼い猫・e15680)
キアラ・カルツァ(狭藍の逆月・e21143)
アイシア・ウノ(番犬の往く先を・e31428)

■リプレイ

●究極の裏方
 工房の扉を開けると、糊と石膏の微かな香りが混ざった空気がケルベロス達の鼻腔を刺激した。
「話は聞かせてもらっているよ。さあ、こちらへどうぞ」
 バンダナを頭に巻いた作業着姿の青年が、工房の中へと案内する。舞台衣装職人、宮木・晃一郎。飄々とした雰囲気の漂う軽い感じの男だが、その腕だけは確かなのだろう。
「はわー。やっぱり間近で見ると、しっかり工夫を凝らして作ってあるんですね」
 工房の中に置かれた様々な衣装に、レティシア・リシュフォー(声援アステリズム・e01576)が早くも目を凝らしつつ感心していた。
 中世ヨーロッパの王侯貴族の衣服から始まり、中東の商人が着ているような衣服や、果ては騎士鎧の類まである。それだけでなく、作業台の上には製作途中のヒーローや怪人のマスクが置かれており、野外ショーで使われる怪獣の着ぐるみや、ゆるキャラの着ぐるみまで並べられていた。
「演劇や野外ショーだと、お客さんが間近で衣装を見ることは少ないと思いますけど……それでもここまで作り込むんです?」
「ああ、そうだよ。テレビの撮影と違って、舞台じゃ映像処理で誤魔化すことはできないからね」
 レティシアの問いに、晃一郎は当然のように答えて言った。もっとも、何も知らない者からすれば、ここまで精巧な衣装を作るのは正に究極の職人技だ。
「舞台衣装……! やぁ、舞台の花って言ってもいい重要な役どころじゃない!」
 いつの間にか、アイシア・ウノ(番犬の往く先を・e31428)が持ち込んだビデオカメラ工房内を撮影しているが、それはそれ。普段は入ることのない職人の仕事場に、興味が湧くのも無理のない話。
「舞台のお衣装というのは、どのような物も皆々素敵です。全てに物語があり、心が籠っておりますもの……」
 水無月・一華(華冽・e11665)もまた、工房の中に置かれた様々な衣装に見惚れている。そんな彼女達にひとしきり仕事場を案内したところで、晃一郎は呉羽・律(凱歌継承者・e00780)の姿に気が付いた。
「おや? もしかして、君は劇団SEASONSの呉羽・律さん?」
「お見知り置きいただき、光栄だ。今は『人魚姫』の公演で、王子役をやらせてもらっている」
 もしかすると、劇団が衣装を発注したこともあるかもしれない。そんな話を織り交ぜつつ語る律を後押しするように、キャスパー・ピースフル(壊れたままの人間模倣・e00098)が付け加える。
「律の旦那は実際に舞台に立つ人だから、生の声は服飾作りの参考になるよ」
「なるほど、確かにね……。だったら、ちょっとお願いしたいことがあるけど、いいかい?」
 本物の劇団員がいたことで、晃一郎も職人魂に火が着いたのだろうか。何やら軽く腕をまくると、銀ベラを片手にケルベロス達を未完成の衣装が置かれた場所へと案内し。
「折角、本物の劇団員さんが来てくれたんだ。調度、新しく『眠り姫』の王子の衣装を受注していてね。演目は違っても、少しばかり参考に意見を聞かせてくれないか?」
 その代わり、こちらは技術習得に必要な道具や資材を、何でも好きなだけ用意する。失敗は気にしなくても構わないので、何でも言ってくれと晃一郎はケルベロス達に告げた。
「着ぐるみとか覚えられたら、ミサに来る子達が喜ぶかな……?」
 頭のない動物の着ぐるみを横目に、キアラ・カルツァ(狭藍の逆月・e21143)は自分の作るものを決めたようだ。
「しかし……照明の下では布地の色味が変わって見えたり、飾り等も強い反射をするものがNGだったり、着替えやすさ動きやすさを考慮したり……デザインからして考えることが沢山だな」
 その一方で、型紙の書き起こしから挑戦している暁・万里(紅蓮の飼い猫・e15680)は、慣れない作業に少々苦戦している模様。もっとも、彼が本当に心配なのは技術の習得云々よりも、不器用な一華の方であり。
「お裁縫は得意な方ではございません……。ですが、宮木さんを守れるよう精一杯頑張ります」
 そう言いながら、針を持つ彼女の手が震えているので、気が気でなかった。
「裁縫か……。まあ、患者の傷を縫い合わせるのと同じだと思えばいいかねぇ」
 外科手術のことを思い浮かべながら、着ぐるみの破れ目を補修する珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)。それぞれの得意分野を生かしながら仕事を進めれば、気が付くと辺りはすっかり日が落ちていた。

●戦劇・序幕
 工房に二人組の来客が訪れたのは、それから三日後のことだった。
「つかぬことを聞くが……ここに、舞台衣装の作成に携わっている職人がいると聞いたのだが……」
 サングラスとマスクを身に付けた男が、唐突にケルベロス達へと尋ねて来た。なんというか、見るからに怪しい。どうやら、彼らが晃一郎を狙っている螺旋忍軍に違いない。
「舞台衣装の作製が生業の職人? そりゃ、きっと僕達の事だね」
 すかさず、キャスパーが話を合わせ、何の用かと聞いてみる。案の定、弟子入りをお願いしたいという話が飛び出してきたところで、示し合わせたように万里が声を掛けた。
「ちょっと手伝ってくれる? 布を運ばないといけないんだ」
「君が、この工房の責任者か? 手伝いとあらば、こちらの者を遣わそう」
 どうやら、相手は完全にケルベロス達を職人だと信じている模様。ならば、このまま上手く分断してしまえば、後は各々で叩くのみ。有無を言わさず細身の男を手伝いへと回し、工房には律とキャスパー、そしてマスクの男だけが残された。
「ふむ……それにしても、実に色々な衣装を取り揃えているのだな」
「知っていたか? 衣裳にはファスナーの他に、それが壊れた時にも素早く着衣できるようホックがついているのだよ」
 服飾談義に華を咲かせ、可能な限り足止めを。そんなケルベロス達の思惑などは露知らず、気が付けば細身の男は工房から少し離れた資材倉庫の近くまで誘き出されていた。
「この倉庫から、布を運び出すのですか?」
 そう言って男が振り返ったが、ケルベロス達は答えない。代わりに飛んで来たのは、久繁とアイシアの放った鋼の拳。
「……っ! な、何を……!?」
 これには、さすがの螺旋忍軍も驚きを隠せなかったようだ。慌てて変装を解き本来の姿へと戻るが、既に周りはケルベロス達が完全に囲んでいる。
「覚悟はいい? お仕置きの時間よ」
 ハンチング帽被り直しを被り直し、吹き飛ばされた螺旋忍軍にアイシアが告げた。見れば、その他の者達も各々に、オウガメタルの粒子や星辰の紋章を広げ、戦闘準備を整えている。
「ここから先は、行かせません!」
 再び動き出す前に、キアラの放ったケルベロスチェインが敵の身体を絡め取った。だが、完全に不意を突かれたのにも関わらず、細身の螺旋忍軍は、仮面の奥で不敵な笑みを崩してはいなかった。
「ふっ……なるほど、どうやら我々は嵌められたようですね。しかし……貴重な奇襲の一手を、戦闘準備で潰してしまったのは悪手ですよ!」
 その言葉と同時に、敵の放った強烈な蹴りがケルベロス達の身体を纏めて吹き飛ばした。元より、前のめりな陣形だ。固まっているところを狙われれば、それだけ被害も拡散する。
「大丈夫ですよ、星の加護がついていますぅ!」
 再びレティシアが星辰の紋章を広げて行くが、それだけでは敵を倒す決定打にはならない。短期決戦を挑む以上、強力な攻撃の連続で一気に倒すことを考えねば。
「まずは、その厄介な足を止めさせてもらわないとね」
 万里の放った竜砲弾が、正面から敵の身体へと襲い掛かる。凄まじい衝撃を全身で堪える螺旋忍軍だったが、それはあくまで見せ技であり。
「……っ!?」
「綺麗に斬るのは得意なのよ」
 瞬間、擦れ違い様に、一華が光剣で敵の脇腹を斬り裂いていた。
「どこを見ているのですか? 今度は私が相手です!」
「悪いけど、こっちにもいるんだよね」
 意識が逸れた一瞬の隙を突いて、キアラが猛毒の手裏剣を、アリシアがエクスカリバールを投げ付ける。
「くっ……! こんなところで、本懐も果たさずに逝くわけには……」
 歯噛みする螺旋忍軍。初動こそ誤ったように見えたものの、戦いの流れは徐々にケルベロス達の優勢へと傾いていた。

●戦劇・本幕
 工房の外で戦いが繰り広げられている最中、中では律とキャスパ―が、懸命にマスクの男を引き留めていた。
 だが、それにしても連絡が遅い。もしや、何か不測の事態が起きたのでは。ふと、そんな考えが二人の頭を過ったところで、ようやく外からの連絡が入った。
「お、そっち片付いた? りょ~♪」
 さりげなく席を外し、キャスパーは律に影から合図を送る。それを見た律は、手間取っているから手伝ってくれとだけ男に告げて、工房の外へと誘い出した。
「それにしても、たかが布を運び出すのに、これほど時間が掛かるものなのかね?」
 倉庫の近くまで来たところで、訝しげに男が首を傾げる。だが、そんな彼のサングラスの奥に隠された瞳は、倉庫の前に転がっているものを見た瞬間に豹変した。
「むっ……! あれは、まさか……!?」
 そこにあったのは、激戦の果てに撃破された、細身の螺旋忍軍の成れの果て。もっとも、敵が未だ事態を完全に把握していない以上、このチャンスを棒に振るようなお人好しはいない。
「……ぐっ!?」
 男がサングラスとマスクを外し、その顔が螺旋の描かれた仮面に覆われた矢先、脚にミミックのホコロビが噛み付いていた。
「さぁ、戦劇を始めようか!」
 その言葉と共に、律の脚が大地を蹴る。キャスパーも続き、宙に飛び出した二人の身体は、流星の如き蹴りを伴って敵の身体に降り注ぐ。
「ぬぉぉぉっ!!」
 真正面から二つの蹴りを同時に受けて、吹き飛んだ螺旋忍軍の身体が倉庫のシャッターに激突した。だが、衝撃で拉げたシャッターに人型の跡が付いたものの、それでも死んでいない辺り、さすがはデウスエクスといったところか。
「後ろは任せてくださいですぅ!」
「ならば、私は敵の動きを止めましょう」
 レティシアが魔法の木の葉を散布する中、キアラの放ったケルベロスチェインが容赦なく敵の身体を締め上げる。それだけでなく、久繁の使役する攻性植物までもが絡み付き、果てはアイシアの斬撃が美しい弧を描いて急所を斬り裂き、完全に敵の動きを封じ込めた。
「皆々全て、祓い清めて癒しましょう」
 連戦の疲労で回復が行き届かない分は、一華が剣舞にてフォローを入れる。その力に鼓舞されたのか、今度は万里も最初から、小細工なしの全力勝負だ。
「悪いけど、こういう攻撃もあるんだよ」
 身動きの取れなくなった敵に、容赦なく粘菌を呼び出して纏わりつかせる。混沌を司りし異形の存在は、獲物に食らい付いたら最後、死ぬまで悪夢を見せ続けるのだ。
「やってくれたな、貴様達……。こうなれば、一人でも多くのケルベロスを道連れにしてくれる!」
 不意を打たれ、完全に激昂した螺旋忍軍が、刃を抜いて襲い掛かって来た。しかし、奇襲を許してしまった時点で、既に戦いの結果は見えていた。
 工房の裏手に刃と刃のぶつかる音が響き渡り、幾度となく激しい応酬が繰り広げられる。が、それでもメンバーの全員が揃った以上、今のケルベロス達に死角はない。
「一華、正面だ!」
 敵の次なる狙いを察し、万里が一華に向かって叫んだ。しかし、彼女は避けることを良しとはせずに、敢えて敵の攻撃を正面から受け止めた。
 ここで避けたり弾いたりすれば、他の誰かが傷を負う。ましてや、自分が倒れでもしたら、後にいる万里にまで攻撃が及ぶ可能性もある。
 だからこそ、ここは退くわけにいかない、倒れるわけにもいかないと、一華は自らに言い聞かせて踏み止まった。肩口に食い込む敵の刃を物ともせず、敢えて満面の笑みを浮かべて見せ。
「ごめんなさいね、加減が出来ない性質ですの」
 それだけ言って、久繁とアイシアに目配せする。二人とも、一華の狙いが分かったのか、無言のまま頷いて拳を構えた。
 オウガメタルに覆われた鋼の拳が、三方向から同時に螺旋忍軍へと襲い掛かる。それは、さながら鉄塊の雨。攻撃が炸裂する度に何かの砕けるような音がしたが、それだけでは終わらない。
「さて、そろそろ終劇と行こうか。相棒のように、上手くできるといいんだが……」
 怒りの鉄拳。そんな言葉を思い出しつつ苦笑して、律は吹き飛ばされて来た敵の身体に、真後ろから超高速の拳を叩き込んだ。
「ば、馬鹿な! この私が、こうまで手も足も出せずに翻弄されるとは……!?」
 豪快にカチ上げられ、螺旋忍軍の身体が宙を舞う。受け身さえ取れずに落下して、無機質な地面に叩き付けられた敵の身体が、水風船が割れるような音を立てて動かなくなった。

●制作依頼?
 戦いが終わり工房へ戻ると、そこには晃一郎が何ら変わらぬ様子で待っていた。
「いやぁ、さすがだね。やっぱり、君達に来てもらって正解だったよ」
 倉庫の周りこそ荒らしてしまったものの、工房の中にある衣装は全て無事だ。だが、それ以上に大切なのは、やはり晃一郎の命が救われたことに他ならない。
「大丈夫かい、一華? 随分、無茶をしたな……」
 そんな中、万里は戦闘中に傷を負った、一華のことを案じていた。
「わたしは平気だよ。万里くんが無事なら、それで……」
 幸い、傷はそこまで深くはなく、痕が残ることもなさそうだ。思わず万里が胸を撫で下ろしたところで、晃一郎は改めてケルベロス達に提案を持ちかけて来た。
「それにしても、今回は本当に助かった。君達が良ければ、俺の方で好きな衣装を一人につき一つ、カスタムメイドで作ってあげるけど?」
 勿論、料金は必要ない。そんな彼の気遣いに、律は首を軽く横に振って答えた。
「折角だが、他の者はいいとしても、俺だけ無料で作ってもらうのは仲間の劇団員に申し訳ないな。どうせなら、いずれ新しい衣装が必要になったときに、正規の依頼としてお願いするというのはどうだろう?」
 今回は、こちらも色々と学ばせてもらった。その辺りは、持ちつ持たれつということで。
 時刻は既に、午後の二時を回っていた。螺旋忍軍の襲撃を退けた昼下がりの工房に、晩秋にしては暖かな空気が流れていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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