殺シテ壊シテ、狂イ咲ケ

作者:朱乃天

 暗雲立ち込める空から絶え間なく雨が降りしきり、地面を激しく打ち付ける。
 既に夜も更けて、こんな時に外へ出歩く者など誰もいないと思われていた矢先。
 セーラー服を着た一人の少女が、雨に濡れながら人気のない夜道を彷徨っていた。
 時折身体がよろめき、足取りはふらついて。夢遊病のように心ここに非ずといった様相で、歩みを進めて辿り着いたその場所は――山の麓に位置する森の中だった。
 少女は尚も構わず、木々が生い茂る森の奥へと踏み込んでいく。まるで何かに吸い寄せられるかのように。
 彼女の瞳はどこか虚ろで、目に映るはずの景色も認識できていないように思えてしまう。
 暫くすると、遠くから草木を掻き分ける音が聞こえてきた。雨音に交じりながら音が次第に近付いてきて、やがて少女の目の前に、一人の女性が姿を現した。
 露わになった白磁色の肌に蔓草を巻き付けて、頭上には薄紫の花を咲かせた異形の乙女。
 女性は蔓草を伸ばして少女の身体に絡ませる。すると少女はすっと手を上げて、女性に向けて差し出した。その手首には包帯が巻かれていたが、雨に打たれて解けると、複数の傷跡が痛々しく刻まれている。
「お前も人が憎いか……ならば私の『仲間』だ。その力で人間共を……狩り尽くして来い」
 女性は表情を変えることなく冷たい声で言い放ち。蔓草の群れに飲み込まれた少女の胸に、妖艶な蒼い花が咲き誇る。
 禁断の契りを交わし終え、禍々しい花の化生に転じた少女。それはこの地に、再び新たな災厄の芽が産み堕とされた瞬間だった――。

「長野県飯田市に、また攻性植物が現れたみたいだよ」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を前にして、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が予知した事件を語り出す。
 人に寄生した攻性植物が、グラビティ・チェインを求めて街を襲撃する事件。今回も同様に迎撃をして、事件を未然に防ぐのが主な任務だ。
 そして攻性植物に囚われた人間は、例によって何者かの配下となっており、説得するのは不可能な状態である。
「被害に遭ったのは、中学生の少女だよ。彼女も森の中に入ったところを、攻性植物に襲われたと思うんだけど……どうにもちょっと引っかかるんだ」
 シュリが釈然としない様子で話すのには理由があった。少女は中学校からの下校途中、家に戻らず行方不明になったらしい。事情は定かではないが、気掛かりな点ではある。
 様々な謎が憶測を呼ぶが、今はとにかく攻性植物を倒すことが優先だ。
「少女を取り込んだ攻性植物は、前と同じくトリカブトの花みたいだね。敵は道路を道沿いに進んで、市街地に向かおうとしているよ」
 ずっと降り続ける雨に紛れつつ、道端の草叢や雑木林に身を隠して市街地に侵入し、人々を襲う心算のようだ。そうしてグラビティ・チェインを集めると同時に、新しい犠牲者候補を浚って連れ帰る。更にあわよくば市街地の制圧をも目論んでいるという。
 しかし今から駆けつければ、雑木林に潜みながら移動している攻性植物を、道路沿いで待ち伏せすることができる。
 攻性植物の攻撃方法だが、呪詛を帯びた花粉を撒き散らし、浴びた者は自責の念に駆られて自傷行為に及んでしまう。
「ちなみに道路を真っ直ぐ進んだ先には、少女が通う中学校もあるんだ。もしこのまま少女が街に入り込んだら、彼女の友達を殺してしまうかもしれないね」
 友人を自らの手に掛けることになってしまえば、それは悲劇以外の何物でもない。少女を救うにはもはや手遅れだが、せめて被害が大きくなる前に食い止めなければならない。
「この事件の元凶に関する手掛かりは、まだ掴めていないけど……。もしキミ達の方で気になったことがあったら、後で教えてほしいんだ」
 例え些細な事柄でも、それが足取りを掴める切欠になる可能性だってある筈だ。シュリはケルベロス達にそう懇願しながら、最後にもう一つだけお願いを付け加えた。
 どうか、少女の魂だけは安らかに眠らせてあげてほしい、と――。


参加者
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)
白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308)
ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)
結城・勇(贋作勇者・e23059)
死屍・骸(空想的フィロソフィ・e24040)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)

■リプレイ


 厚い黒雲に覆われて、暗澹とした夜の空から冷たい雨が打ち付ける。
 全てを掻き消すような激しい雨音は、これから起こる戦いを人々に晒させない為であろうか。
 誰にも知られずに、災厄の芽が街を侵食しようと蔓延りつつある。そうした危機を見過ごせず、攻性植物の目論見を打ち破ろうとケルベロス達が集う。
「助けることが可能な内に見つけられれば良かったのですが……。戻れないなら安らかに眠って頂くしかないのでしょうね」
 攻性植物に寄生された少女をこの手で救出することは、もはや叶わない。リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)は奥歯を噛んで悔しさを押し殺し。それならせめて、人として生を終わらせようと気持ちを切り替える。
 敵が身を潜めている雑木林の中は、明かりが灯らず深淵の闇に覆われた状態だ。
「こいつは迂闊に踏み込めば、敵に捕まっちまうかもな」
 結城・勇(贋作勇者・e23059)が遠目から雑木林の様子を伺っている。この付近で光源となるのは、道路に設置された街灯のみだ。明かりは雑木林の奥には届いておらず、相手の動向を探りながらの捜索となる。
「しっ……。今、あの辺で何か動きました」
 話し声を制するように人差し指を唇に当てて、ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)が目線で一つの方向を仲間に伝える。
 ドワーフの夜目なら、少しの照明さえあればそこは昼間の景色に映る。ミゼットが金色の双眸で目視したのは、胸に蒼い花を咲かせたセーラー服の少女の姿だ。
 どうやらまだこちらには気づいていない。ケルベロス達は慎重に移動して、攻性植物との距離を徐々に縮める。
 隠密気流を纏った白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308)と空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)が先頭に立ち、敵の姿をその目に捉えて待ち伏せをする。後は機を窺いながら仕掛けるだけだ。
「申し訳ありませんが貴女にはここで果てていただきます、理由はお分かりですね?」
 雑木林を抜けて市街地に向かおうとしていた攻性植物の前に、雪兎が物陰から姿を現して立ちはだかった。しかし攻性植物の少女は驚くこともなく、人形のように無表情で雪兎の顔を漠然と眺める。
「悪いな、けど新たな犠牲者を出す訳にはいかねぇ。その御霊、貰い受ける」
 次いで満願が武器を構えて、攻性植物の少女に宣戦布告する。少女はそこで初めて置かれた状況を理解したのか、体内から蔓を伸ばして敵意を剥き出した。
「ふん……少女の事情など知ったことではない。が……野放しにしておくのも面倒だ。早々に始末してやろう」
 小柄な少女のペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が、目深に被ったフードの奥から殺意の目を光らせる。
「あなたはなぜこの場所に来て、どうやってその力を手に入れたのかしら? 答えられるなら、聞かせてほしいわ」
 華奢な矮躯で、見る者に儚げな印象を与える死屍・骸(空想的フィロソフィ・e24040)が、攻性植物の少女に話しかけるが反応はない。
「また逢ったね『魔女の花』。そして恨みを糧に咲く『復讐の花』」
 抑揚のない口調で、ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)が攻性植物の少女に淡々と語りかける。ウェインは前回も、寄生型攻性植物と戦った経験を持つ。
「その願いを、叶えさせてあげるわけにはいかない――摘み取らせてもらう」
 口にしたのは揺るがぬ決意。少女の全てを無に還すべく、無情なる戦いの幕が開く。


「催眠攻撃は厄介ですからね。先ずは補助に徹しましょう」
 敵のどの攻撃よりも、一番の脅威は味方が操られることだ。そうした事態を防ぐ為、リコリスが身体に纏った攻性植物に命じると。聖なる光が眩く溢れ、仲間に加護の力を付与させる。
 ケルベロス達と相対する攻性植物の少女。その表情には生気がなくて、瞳も虚ろな様子で焦点が定まっていない。少女は蔓草を鞭のように撓らせて、邪魔な番犬達を排除しようと襲い掛かってくる。
「私がいる限り、誰一人として傷付けさせません」
 そこへ雪兎が前に歩み出る。彼が携えるのは、かつて倒した竜の角から錬成した斬霊刀。雄々しき竜の戦士の名を冠した刃を振り翳し、迫り来る蔓の触手を斬り払う。 
 攻性植物の少女が蔓を伸ばしたその一瞬。満願は彼女の手首に刻まれた傷痕を視る。少女はおそらく自分で身体の一部を傷付けたのだろう。果たしてそれが何を意味するか……しかし今は理由を考えず、ただ敵を倒すことだけに心血を注ぐ。
「雑草が……。彼女の全てを奪った報い、償ってもらう」
 怒りに満ちた地獄の炎が、身体の底で燃え上がる。満願の全身を鎧う銀鋼が竜の容を象って、降魔の力を宿した鋼の竜が、攻性植物の生命力を啜り喰らう。
「それじゃ今度は、こっちの竜でも食らいな」
 勇が掌を翳して念じると、空気が揺らいで実体無き竜が顕れる。竜が一吹きすれば炎が放射され、紅蓮の幕が少女を包んで灼き焦がす。
「最早人の身ではない輩に容赦は要らんな? クク……覚悟するといい」
 ペルが不遜な笑みを浮かべつつ、品定めでもするかのような視線で攻性植物を狙う。
「そら、大人しくするといい」
 小さな身体に似合わぬ巨大な縛霊手を高く掲げると、霊糸の網が放たれ攻性植物の少女を瞬く間に絡め取る。
 ペル達が攻撃に専念する一方、ミゼットは魔女が用いる秘術を駆使して守りを強化する。
「ぶつくさ言わずに働け、根っこども」
 薬に漬けた種を散布させると、歪な人の形を成してゆき、邪なる力を防ぐ形代となって味方に取り付き援護する。
「さあ――懺悔の時間だ」
 ウェインの小さな呟きは、自分自身にしか聞こえない。それはこれから人を手に掛けることに対する、戒めの言霊であり。雷纏いし破壊の槍で、紫電が奔るが如く音速の突きを繰り出せば。槍を持つ手に肉体を穿つ感触が伝わってくる。
「ねえ、わたしともちょっと遊んでよ」
 子供らしく無邪気な笑顔を浮かべる骸。そんな彼女の両手に握られたのは、二振りの戦槍だった。まるで戯れるように残酷に、雨霰のような刺突の連打を攻性植物へ浴びせ続ける。
「その手首の傷はどうしたの? もしかして、いじめでもされてたのかしら」
 攻撃中に攻性植物の手首の傷が目に映り、感じた疑問を骸がそのまま素直に問いかける。攻性植物の少女の表情は変わらないものの、チラリと骸の顔に目を向けて、僅かに反応を示したかのように見えた。
 攻性植物の蔓草の一部が食虫植物のように変形し、ケルベロス達を喰らうべく醜悪な口が開かれる。毒花の口が狙ったのはリコリスだ。
 毒の唾液を滴らせ、巨大な口がリコリスに喰らいかかったが。そうはさせじと雪兎が鉄壁の守りを見せて被害を食い止める。だが棘のような牙から毒が侵食し、徐々に体内を蝕んでいく。
「この程度では、まだ倒れません……。慈悲の名を持つ碧き刃よ、今こそ我が手に来たれ」
 雪兎は毒が齎す苦痛に耐えつつ霊力を練り上げて、癒しの力を宿す短剣を造り出す。 
「破壊と癒しを司る荒れ狂う嵐神の力をその刀身に宿し――あらゆる病毒を吹き飛ばせ!」
 刃を自身に向けて身体を突き刺すと、凝縮された癒力が注ぎ込まれて、雪兎に蔓延る毒が浄化されていく。
「残念ながら……既に住人は居りますので、貴女を受け入れる余地はありませんよ?」
 リコリスの腕に巻き付いているのは、常世へ誘う赤い花。トリカブトの花を司る少女に弦を絡めて締め付けて、蒼と朱の彩華が妖艶に交わり乱れ咲く。
 少女の胸に咲き誇る忌まわしき花。以前に交戦した攻性植物と何の違いがあるのだろう。ウェインは頭に残る記憶を思い返して相違点を見出そうとする。
「無駄に傷付けるわけにもいかないからね。速やかに殲滅させてもらうよ」
 意識を集中させるとウェインの胸部が砲台に変形し、魔力を篭めた波動が攻性植物の少女を撃ち抜いた。
「命を創り、命を育み、命を支え、命を運ぶ、四つの力を貸し与えよ……」
 勇が呪文を詠唱すると、橙色に光る幾何学模様の魔法陣が攻性植物の頭上に召喚されて。魔法陣の中心から覗き込むのは巨大な単眼だ。
「燃え盛る火、命を創る力よ。今その緋色の眼で、命を一つ、創り直せ!」
 詠唱を終えると同時に緋色の眼が開き、高熱の火柱が天を砕いて攻性植物に降り注ぐ。
「オールドローズよ、あの者の動きを止めるが良い」
 ミゼットの指示に従って、黒い看護服のビハインドが攻性植物に攻め込んでいく。煙のように消えたと思えば敵の背後に回り込み、血に塗れたような紅い大鎌で少女の背中を斬りつける。
「お前は石ころの様になれ」
 ペルの人差し指から一筋の光線が発射され、古代の呪いが攻性植物の体力を削いでいく。
「あなたの友達に罪があるのかないのかはわからないけれど、わたしはその人たちを守らないといけないから」
 人々の命が奪われることは看過できない。骸が内に秘めた決意を言葉で表して、軽やかな身のこなしで攻撃の手を緩めず攻め立てる。


 ケルベロス達の雪崩れるような波状攻撃に、攻性植物は押され気味の状況だったが。突如険しい形相に変貌し、群がる番犬達を睨めつける。
「――あんな奴等、死んだって構わない。だって私が殺すから」
 低く口籠りながら言い放った一言は、明確な殺意が込められていた。寄生された少女の身体は攻性植物の苗床でしかなくて、意識は既に融合されている。攻性植物は宿主の知識や知性を利用して、語らせているだけに過ぎない。
 憎悪を抱いて自らの肉体を痛めつけた少女の怨念が、毒の花に取り込まれて花粉を生成し、呪詛を帯びた粒子が大気中に撒き散らされる。
「そいつにだけは……ミレイにだけは、指一つとして触れさせねぇ!」
 ミゼットに背を向けるようにして、満願が盾となって攻性植物の花粉を受け止める。だが彼女を庇ったことにより、満願は呪いの洗礼を代わりに浴びてしまう。
 少女の殺意が全身を駆け巡り、彼の心の中に去来したのは、双子の妹達を守れなかった辛い過去だった。非力な自分を嘆くも悔やみきれなくて、地獄の炎が身体の内から己を喰い破ろうとする。
「ミツキ……ッ! 正気を取り戻して!」
 朧気な意識にある満願を、ミゼットが必死に呼びかけながら癒しの気を流し込む。すると満願の体内から瘴気が消え去って、正常な状態へと回復していった。
「地獄を灯せ。群れなす魚群よ。我らの役目を此処に示せ」
 リコリスの胸に灯るのは、血が錆びたような赤黒い煉獄だ。炎が魚の群れと成し、虚空を泳ぎ回るように憑りついたのは雪兎の体内で。炎の鱗が彼に纏わり灼熱の装甲と化す。
「どんな理由があったとしても、友人達への襲撃などさせるわけにはいきません」
 強固な守りを得た雪兎の両脚から、炎が激しく燃え盛る。静かな闘志を沸き上がらせて、漲る気合を込めた渾身の蹴撃を攻性植物に叩き込む。
「ああ。勇者たる者、斯くあるべしだ」
 勇が思い描く『勇者』としての気迫が、超常的な力を呼び起こし。剣を振るえば卓越した一撃となり、空気を断って攻性植物をも斬り裂いた。
「――白き魔力よ、破壊と引き合わす引力を宿せ」
 ペルの拳に白い闘気が渦巻いて、発生させた魔力が攻性植物を吸引し、彼女の間合いの中へと引き寄せる。
「我の間合いから逃げてくれるな、手間が掛かるだろう?」
 帯びた魔力はペルの火力を増幅させて、攻性植物を抉るように破壊の拳を捻じ込んだ。
「ごめんね、あなたのことは助けられないの。だからせめて、苦しまないで逝かせてあげるから――ゆっくりとお休みなさい」
 骸が慈愛に満ちた眼差しで、祈りを捧げるように放った閃光は、攻性植物を細胞から冒して生命活動を停止させていく。
「そうやって、みんなで私のことを……」
 攻性植物の命の灯が潰えようとする。死の淵に立たされながら、しかし怨讐の炎は消えることなく、死に物狂いでケルベロス達に牙を剥く。
「あんた達も……みんな死んじゃえばいいんだ!」
 少女の狂気が暴走し、手当たり次第に攻撃を振るう。破滅思考に陥る彼女を止めたのは、高く突き出した満願の右腕だった。
「許せとは言わん、だが――お前さんを弄んだ奴は必ず地獄に叩き落す」
 攻性植物の少女に送る餞の言葉。内に燻る怒りの炎を、腕に備えた龍型の籠手に呼び寄せて。巻き上がる黒炎は獣が猛るかの如く、地獄の顎門が少女の魂を貪り喰らう。
「Overcharge――大丈夫。護るよ、君は」 
 ウェインが向けた銃口の先。少女の蒼い花を摘むように、青白い十字架が浮き上がる。
「――さよなら」
 『救えない』悔しさを胸に押し込んで。別れを告げる一撃は、一直線に少女の胸を貫いて――蒼い花弁が闇夜に儚く舞い散った。

 攻性植物と共に少女の肉体も消滅し、戦いの傷痕を洗い流すように雨が降り続く。
 自分達の手で、果たして少女の悲しみを救うことはできただろうか。それぞれが複雑な想いを抱きつつ、骸は彼女の死を悼み、魂の安寧を祈って目を閉じる。
 少女の御霊があるべき場所に還れるように。ミゼットは異形に変じた少女に、過去の自分を重ね合わせて。俯きながら打ち拉がれていた。
 力なく項垂れる彼女を励ますように、満願が掌を頭に乗せて優しく撫でる。添えられた手の温もりに、ほんの少しだけ勇気を分けてもらったような気がした。
 攻性植物に囚われた少女は、事件に巻き込まれたのか。それとも少女が望んだことなのか――足取りを調べてみたら、元凶たる存在も見つかるかもしれない。
「経路を遡って調べれば、大元の居場所が掴めないかしら」
 ミゼットの提案にリコリスも同調し、調査に向かうことを思案する。
「ふむ、もしかしたら何か手掛かりが見つかるかもしれないな」
 聞き耳を立てていたペルも興味深そうに頷いて。身を乗り出す勢いで早速準備し始める。
 空を見上げれば、雨が止む気配は未だなく。いつか全てに決着を付けられる日を願い――雨に濡れる身体を拭って、ケルベロス達は戦場を後にした。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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