スイート&パティスリー

作者:宮内ゆう

●目指すその果てに
 お菓子の家。それは甘い甘い夢のようなもの。
 そして誰もが知っている。
 そんなものは童話の世界、もしくはテーブルの上の小さな世界にしか存在しないことを。
 だが存在するわけがないからこそ、彼は信じたのかもしれない。
「お菓子の家!! お菓子の家ェェアアアア!!」
 発狂したように連呼しながら、木々に囲まれた峠道を青年は走るような勢いで進んでいく。
「ケーキの壁! ビスケットの扉! クッキーで出来た屋根を覆う生クリームの雪!!」
 彼はお菓子の家の存在を友人から聞いたそうだ。最初はそんな夢物語は信じていなかった。
「もう少し先か……アイツの言っていたのは!」
 しかし彼は気付いてしまった。携帯端末の地図上に『お菓子の家』と書かれた場所が存在することに。
「うおおおお! 窓には飴細工ぅぅあああ! チョコレートの家具!!」
 居ても立ってもいられず出発したせいで日は傾き始めており、人はおろか車さえも行き来しない。電灯もまばらで、このままでは峠道は闇に沈むことだろう。
 だが彼は歩みを止めない。
「お菓子の家エエアアアア!」
 それを見つけ出す、その時まで。
 だがそんな折、彼は後ろから響く声を聞いた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 振り向いたか振り向いていないか。よくわからない。
 ただはっきりしているのは、その直後に意識が途絶えたことだけである。
 
●甘い夢
 事件について話を聞いていた颯・ちはる(悪徳・e18841)は何とも曖昧な表情をした。
「ちはるちゃんが想像してた話となんかちがう」
 印象の問題である。
 彼女はお菓子の家に対する興味が狙われると推測したのであり、何一つ間違っていない。
「むしろホラーだよね、これ」
 ちふゆさんが何か言いたげにその場をぐるぐる周回しているが間違っていない。
「ま、まあ、とりあえずですね」
 改めてヘリオライダーの茶太が説明を始める。
 不思議な物事に強い『興味』を持つものがドリームイーターに襲われるという事件がおきている。
 この『興味』という感情を奪われた結果、襲われた人は意識を失い、その『興味』をもとにした怪物型のドリームイーターが生まれるのだ。
「今回でいえば……お菓子の、家?」
 被害者の青年が信じて止まなかったお菓子の家。
 そう、故に家が襲ってくる。
 とはいえさすがにサイズは大型動物とか人間より多少大きい程度だろう。世の中箱も動くのでそう驚くほどの話ではないかもしれない。
「この手のドリームイーターは、人を見つけると自分が何者であるかを問うらしいです」
 これに正しく対応すると何もせずに去って行くが、間違うと襲いかかって殺してしまうのだとか。
「聞いてくるんだ……? 家が……?」
 シュールな話だと茶太は首を捻るが、よくわからない。
「うーん、倒すべき相手なので深く考えなくていいかも。ただ、自分のことを信じていたり、噂していたりする人がいるとそっちに引き寄せられる性質のドリームイーターのようですよ」
 そのあたり上手く利用すれば、敵の注意をうまく引きつけられることだろう。
「というかさ、地図上にあるお菓子の家って、それさぁ……」
 何か言いたげの犬。でもいっちゃいけない気がする。
「……うん、夢のある興味を奪うだなんて。しかもそれで人を昏睡させて怪物を生み出すなんて許せないことですね!」
 夢は壊さないことにした。
「どうかドリームイーターの撃破をよろしくお願いします」
 頭を下げる茶太に、立ち上がることで応えるケルベロスたち。だがひとり、セティだけは俯いたまま落ち込んでいた。
「そうです、世界は……残酷なんです」
 どこか悲愴な面持ちで拳を握る。それは彼女が同行する意思の表示に他ならなかった。


参加者
ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)
早川・夏輝(お気楽トルーパー・e01092)
エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
バンシー・ファーニバル(心毀宵葬曲・e01609)
ディートヘルム・ベルネット(銀色の魔物・e04532)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
颯・ちはる(悪徳・e18841)

■リプレイ

●峠の小屋
 黄昏が近づき、日が傾いていく峠道に朗らかな声が響き渡る。
「おっかしーおっかしー、おっかしーのおーうちーはどーんなーあじー?」
 期待に胸を膨らませ、笑顔を振りまくミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)。
「まさかお菓子の家を目にできるとは、これは楽しみなのじゃ」
 冷静に振る舞うそぶりを見せながらも、そわそわとどこか落ち着きのないウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)。
 どちらも年相応にお菓子の家を楽しみにしている様子だ。
「お菓子の家だなんて。とても。夢のあるお話、なのだけれど」
 無邪気な子供たちに頬を緩ませたバンシー・ファーニバル(心毀宵葬曲・e01609)だったが、すこし目線をずらしたところで現実に引き戻される。
「――これは何だか、悪い夢のようね?」
「え、なにがですか!?」
 なにがって、お菓子の家の存在をガチで信じ込み、本気で食べる用意始めているエルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)の存在である。歳を考えてほしいと、ファミリアのハイルさんのみならず、リヒトさんやカイさんまでもが深いため息をついている。この時点で悪夢。
「だって楽しみじゃないですか。ふふふ、小さいころからの夢だったんですよね」
 子供の頃、お菓子の家が欲しいと叔父に泣きついた。もちろん作ってくれたのだが、それはテーブルサイズのお菓子。本当の家がよかった幼きエルトベーレは文句を垂れた。でも食べた。
「私は未だ、お菓子の家への夢を捨て切れないわけですよ! 絶対! 絶対どこかにあるはずなんです! お菓子の家……ってなんでどん引きしてるんですか!?」
「あ、いや、うん。憧れる気持ちは、分かる~……わよ?」
「ベーレさんはかわいそ……かわいらしい人ですね」
 うんうんと頷きあう早川・夏輝(お気楽トルーパー・e01092)とセティ・フォルネウス(オラトリオの鹵獲術士・en0111)のふたり。なんか不穏な言葉が出た気がする。
「クッキーの椅子に座ってお茶を飲んだりマシュマロのベッドに寝転んだりとか夢が広がっていいわよね~」
「椅子に座るときはちゃんとドーナツクッション使いましょうね!」
「本当にドーナツ好きね」
 空想の輪を広げ、とりあえずごまかす。
「確かに憧れるよな~でもだからって人が住めるサイズじゃねーし」
 何かを思い返すように腕を組んだディートヘルム・ベルネット(銀色の魔物・e04532)が空を仰いだ。なんか遠くからイエアアアアとか聞こえてきた気がした。すぐ傍らにいた颯・ちはる(悪徳・e18841)が舌打ちしたけど聞かなかったことにした。
「けど現実には無理があるよな。森の中にそんなのあったら先に虫が食ってるだろうし」
 無理だからこそ憧れるのだろう。逆説的にいえば、あり得ないからこそ夢があるのであり、存在すればただの現実に過ぎないともいえる。
「でまァ、現実的な話なんだが……」
 神妙な表情でダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)が言う。やや足を引きずっているのは気のせいではない。
「犬っぽいの達が俺の脚をやたら咬んでくるンですケド。どうにかならないんですかねェ……」
「ぎゃおー、がおー!」
 リリウムとオルトロスのルシエドが思いっきり脚にかじりついていた。めちゃくちゃ怒ってる。すごい唸ってる。
 恐ろしいまでの気迫にディートヘルムも戦慄した。
「お前……なにしたんだよ」
「俺が聞きてェよ!」
「夢を壊すようなこと、言ったのかしら」
「お菓子の家は食べられない、とか?」
 バンシーとセティが顔を見合わせる。そこに反応したのがミューシエルだ。
「ええええ、また食べられないのー!? ひどいです、そんなのおかしの家じゃないとおもいます!」
「お菓子の家が食べられない……じゃと……!?」
 ウィゼも聞きつけてそんなことを言う。動揺が隠し切れない。
「いや、まて、落ち着け。濡れ衣だ」
「そんな子供の夢を壊すようなことを言ったの?」
 言い訳しようとするダレンに夏輝が畳みかける。
「俺は言ってねえ! あ、ちょなんでみんな距離取るの!」
 今日の戦犯が確定した。冤罪かどうかはともかく。
「しょうがないなー」
 なにやらちはるがライドキャリバーのちふゆさんに括り付けていた箱をはずしてきた。
「ホントは被害者の青年に持ってきたんだけど」
「わあっ」
 箱に入っていたのは小さなお菓子の家だった。手作りです、妙齢お姉さんの。皆の視線が一気に集まり誰ともなく声が上がる。
「でも今は我慢だよっ、お楽しみは仕事の後……ねっ?」
 人差し指を自分の唇に当てて首をかしげる。楽しみも出来たところで全員が嬉しそうにうなずいた。

●我問わん、汝答えよ
 天気は晴れ。
「お菓子のー……イ゛ェアアア!!」
 ところにより、横になった残念イケメンが真上に上昇していくでしょう。
 ケルベロスたちの前にお菓子の家が唐突に現れて、次の瞬間に起きたのがこの事象である。
「え、なにがなんだか……ダレンさんが変な吹き飛び方してるんですけど」
 あからさまに困惑したセティを落ち着かせるように、ちはるが肩を叩く。
「じゃ、よろしく」
 とてもいい笑顔で丸投げ。つまりこう言ってる。わざと間違えて敵の注意を引きつけろと。そう言われては従わざるを得ない。傍らに寄り添ったルシエドと共にお菓子の家に向き直る。
「……答えよ……我は……何者か……」
「私、コンビニの特典で冷凍ゴマ団子がほしかったんですッ」
 ばくんっ。
「おぉい! セティが家に食われたぞ!? つか質問答えてねえ!!」
「えっ、セティちゃんひとりでお菓子の家に入ったんですか!? っずるい!」
「そーじゃねえだろ、助けねえと!」
 突っ込みが追い付かない。エルトベーレが役にたたないので、ファミリアさんたちにお菓子の家の扉をこじ開けてもらい、ディートヘルムがセティを引っ張り出す。クリーム的ななにかがべっとり。
「お、恐ろしい攻撃じゃのう……」
「うう、べちゃべちゃやだなぁ。エプロンつけたほうがいいかも」
 凄惨な様子にウィゼとミューシエルが声を震わせる。でもこれグラビティじゃないのでダメージはなさそう。
「うーん、中はちゃんとしてるのねぇ……って、チョコレートの家具って触ったら溶けるんじゃない?」
 夏輝が窓からお菓子の家の中を覗き込んでそんな一言。そこへバンシーが感情を殺したような、淡々とした口調で声をかける。
「随分と、冷静なのね」
「ごめん、あなたほどじゃないわ」
「……そう、でもないわ」
 ぽたりと、白いものが地面に垂れた。
「何だか、わたしも夢が壊れた心地」
 いつのまにやら、バンシーもクリーム的な何かの流れ弾をくらっていたらしい。
「うん、怒っていいと思う」
 戦意十分、いや、戦いはもう始まっている。
「ああああ! バンシーさんもおいしそう、ずるいです!」
「おちつきがないのじゃ。子供みたいなのじゃ」
「……ッ!!」
 騒ぐエルトベーレにウィゼが一言。これにはさすがに衝撃を受けた様子だが、ハイルさんは当然とばかりに頷いていた。7歳未満疑惑。
 ここまでの流れに、ちはるは完全に頭を抱えていた。
「っかしいな……なんかこう……もっとさ、メルヘンというか……いや、別にアタシはどうでもいいけど……でもまぁたまにはそういうのも……なんだ、その……」
 何やら殺気が膨れ上がる。もはや隠そうともしていない。
「……チッ、死ねドリームイーター!」
 ちふゆさんと一緒に家に突撃していく。
「……ち、チハルのおねーさん……?」
 その背中に、ミューシエルは大人の闇を見た気がした。

●地震雷火事
 金平糖のミサイルを潜り抜け、その爆風さえも利用して上空に舞い上がる。
「真上、取ったぜ……」
 絶好のタイミング。お菓子の家よりも高い位置でダレンが大上段に刀を振りかぶると、刀身が輝きだす。
「釣りは要らねェ。全部持って行きやがれ!」
 目が眩むほどの大光量が炸裂し、お菓子の家など溶けてしまうのではないかというほどの熱があたりに広がった。
「フッ、こりゃ苦情が来ちまうかな」
 今日こそみんなの視線を釘づけ、眩しい思いをしてたら謝らなきゃなどと仲間の方へ向き直る。
「はやまらないで、落ち着いてくださいベーレさん!」
「離してください! 私もお菓子の家に! 入りたいんです!」
「おい誰かそいつ止めろ!」
「ベーレ、新しいドーナツよー!」
「ありがとうございます!」
「誰よ煽ってるの!?」
 すっとんでくるドーナツ。犯人は灯。
「ええぇ……」
 なんかそれどころじゃなかった。仲間たちが集まって混乱している。入り乱れて状況が把握できないが、中心人物が誰かはわかる。
「りっちゃん、カイ、ハイルさん! 私の代わりに中のリサーチを!」
 エルトベーレである。
 命令されたファミリアさんたちは首を振った。心底いやそうだ。
「あ」
 ちはるが何か気付いた。
「みんな、下がっていいよ」
 その場から仲間が散った次の瞬間。
 エルトベーレがクッキーな砲弾の餌食になった。スナイパーという後衛ポジションでありながら、頑なにお菓子の家を信じ続けて敵の注意を引き、攻撃をその身に受ける気概は天晴れとしか言いようがない。
「見た目のわりにちゃんと威力あるのねぇ……お菓子モチーフのアームドフォートってのもありかしら?」
 落ち着いている夏輝。慣れてる。
 そこから執拗に砲弾で狙われて逃げ続けるエルトベーレを見て、セティが声をあげた。
「今ですね、ベーレさんが人身御く……敵を引きつけているうちに倒してしまいましょう。いつの間にかお菓子の家もボロボロですし!」
「それ俺、俺ね!?」
 ダレンがなんか言ってるけどそれどころではない。この機を逃す理由はないのだ。
「それじゃちふゆちゃん、いっちゃおっか!」
 ちはるの一撃が地を揺らし、お菓子の家の動きを奪ったところで、緩んだ壁にちふゆさんが燃えながら突っ込んでいく。
 地震に事故。お菓子の家にとっては脅威でしかない。
 流れに乗ってリリウムが雷を落としていたりする。避雷針やばい。
 ふぅ、と溜息ひとつ。炎が燃え上がる。
「……素敵な夢を。こんな風に形にしたこと、ゆるさないわ」
 その炎がお菓子の家を焼く。静かな怒りを体現したかのような炎はバンシーの心を示しているのかもしれない。彼女だってお菓子の家をちょっとは期待していたのだから。
「なるほど、炎か。菓子で出来てんなら良く燃えんだろ!!」
 完全にディフェンダーの役割を取られてしまったディートヘルムも攻撃側に回る。
「黒コゲの失敗作にしてやるぜ!」
 腕から火柱のように迸る青い炎をそのままお菓子の家に叩きつけた。
 ビスケットが割れ、チョコレートが溶け、ウェハースが燃え盛る。火事まで加わり、いくつもの災害に見舞われつづける。
 そこへ左から駆け込むミューシエル。
「ミューはね、ちゃんと食べられるおうちがほしいの! こんな食べられないのなんて……」
 同時に右から駆け込むウィゼ。
「仮にもお菓子の家を名乗るのなら、あたしがリフォームしてやるのじゃ。この、喋る……」
 左右からの同時攻撃、逃れるすべはない。
「お菓子モドキ!!」
 ふたりの声が重なった。
「あら、息ぴったり」
「モドキだってかみついちゃうのよ! おかしの恨みは怖いんだから!」
「本物のお菓子にしたうえで、食らいつくしてやるのじゃ」
「と思ったけど、ふたりともやりたい放題してるだけね」
 ミューシエルが触れたところからお菓子の家の形が崩れ始め、緩んだところからウィゼが解体していく。
 やり取りにどこかほっこりしながら夏輝が苦笑い。
「それでも連携は完璧、っと」
 あとは崩れるままのお菓子の家、ここまで来れば吹き飛ばすことも可能だろう。
 夏輝がお菓子の家の壁に砲身を押し付ける。
「お菓子の中に鉛玉はいかがかしら……なんてね」
 接した状態から放たれた弾は、勢いそのままに炸裂し、お菓子の家を突き抜けた。まるでお菓子の家から吐き出されたように。
「これがあたしの切り札よ」
 一面の壁を失い、その場に崩れ落ちて消えていくお菓子の家をウインクで見送った。

●夢の欠片
 件のお菓子の家に辿り着いたケルベロスたち。
 地図上に表示されるものといえば、地名だったり建物の名前だったり……。
「店の名前、そういうことか」
 合点がいったようにディートヘルムが頷いた。お菓子の家とはつまり、お菓子屋さんだったわけだ。まあ、こんな峠道に店を構えて売れるかどうかはさておいて。
「おかしの家じゃないけど、おかしの家ね!」
 興奮し気味にミューシエルが言う。ちょっと混乱しそうだが間違っていない。ちなみに意訳すると、早く中に入りたい、だ。
 外の看板からすると、イートインもやっているそうで。
「では、行きましょうか。いざお菓子の家へ!」
 先ほどのドリームイーターが消滅してから、世界の終わりのような表情で意気消沈していたエルトベーレがいつの間にか元気になっていた。お菓子の家の真実を見つけたから仕方ない。
 どこかメルヘンな世界に迷い込んだかに見える佇まいの小屋、ビスケット風にアレンジされた扉を開けるとそこには……オルネラとシグリットがいた。
「私たちはさながらヘンゼルとグレーテ……」
 ばたん。
 オルネラのセリフの途中でシグリットによって扉が閉められた。なんか中から止めろとか歳を考えろとか修羅場っぽいセリフが聞こえてきたので聞かなかったことにする。
「ヘンゼルとグレーテル……え、ええそうですね」
 目頭を押さえて消極的肯定をする灯。一方その頃ダレンはルシエドにかじられてた。
「ちょっと見てきたけど、そろそろ閉店みたいね。お菓子もほとんど残ってなかったわ」
 一連の流れをなかったことにして、夏輝が言った。今の間に売り場の方を見てきたらしい。これにはウィゼもしょんぼり。
「なんと、結局お菓子の家はなかったということじゃろうか……いや」
 だがすぐにその瞳に輝きが戻る。
「ないなら作ればいいのじゃ!」
「あ、ミューもやるー!」
「はいはい、お店の人にお願いして来るからね。あなたも作る?」
 ミューシエルも大賛成。なんだか保護者のような気持になりつつ、夏輝がバンシーにも声をかける。
「そうね。お手伝い、させてもらおうかしら」
 そう言ってクスリと笑う。
「お菓子の家には、魔女も必要ではないかしら?」
 迷い込んだ兄妹もいたし。
 そうして始まったお菓子の家づくり。
 しばらくの間、作る速度と同じスピードで食べていくアホ毛の存在があったために、進行が進まなかった。これを等価交換の法則という。アホ毛が強制退場させられてからようやく進み始めた。
 ケーキ作りを眺めながら、他の者たちが会話に花を咲かせる。
「ドーナツは! お菓子の家に! ドーナツは! 含まれますか!?」
「リースとか作ってドアに提げればいいんじゃないでしょうかもぐもぐ」
「なるほど、って食べられてます!?」
 エルトベーレがドーナツを出した瞬間にセティがひょいぱくり。カイさんもおいしそうに頬張ってる。貴様にはやらんというオーラを感じる。
「あ、セティちゃん今回もお疲れさまー」
「いえ、ベーレさんががんばってくれたので」
 労いの言葉と共に、ちはるがドーナツ引換券を差し出す。しっかり受け取るセティ。
「食べられっぷりは見事だったねっ」
「忘れてください」
「まあなんだ、気を落とすな。これやるから」
「うう、ありがとうございます」
 ディートヘルムからもドリンク券をもらった。いろいろ潤う。
「そういえば今日相方さんは?」
「ユズなら実家のお祭りにいってるぜ」
「……実家……」
 もうあなたとはいられません! 実家に帰らせていただきます!
「まて、今何を想像した」
「あ、いえ。嫁とかそういうことは考えてませんよ」
「嫁!?」
「家庭的、っていいですよね」
「なんか恐ろしいこと考えてねえか……?」
 気のせいです、といわんばかりににっこりほほ笑むセティ。なんか怖い。
「そーいやァ、前から気になってたンだケド、作るのはどうなんだ?」
 犬たちの猛攻を耐え抜き、ダレンが聞いてきた。
「そうですねぇ、最近はコンビニのおかずを温めるのがおおおいですけど、前は自炊してました」
「どんな感じよ?」
「木の実を採ったり、鹿を狩ったり?」
「狩猟か!?」
 そうしているうちに、ケーキ製のお菓子の家が完成した。
 大きさとしては大きめのホールケーキ程度。
「しかし、これがあたしたちのお菓子の家なのじゃ」
 胸を張ってミュゼが言う。スナックの柱にカステラの壁を張り、クリームで塗り仕上げ。屋根はフルーツとアラザンで飾りつけ。紛うことなく自信作だ。
「たべたい……もったいない……たべたい……もったいない……」
 ミューシエルも葛藤がすさまじいことになっている様子。
「食べていい? ちょっとだけ、ね、ね、ちょっとだけだから、ね? ダメ?」
 ものすごく食い下がるちはる。でも子供より先に食べるのは大人げないので我慢。
「……とっても、素敵ね」
 子供たちの様子か、完成したお菓子の家か、どちらを示していったかはわからないが、バンシーが微笑む。
 小さいながらもそこに夢がある、それが心を満たしてくれるのだと教えてくれるような優しい笑みだった。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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