飢餓の末の凶行

■リプレイ

●ローカストに同情すれど……
　岡山県新見市。
　この地にローカストが襲来するという情報を受け、ヘリオンで駆けつけたケルベロス達は現地へと降り立つ。
「種族の頭が脳筋だと、どうしようもないな……」
　軍人スタイルのトープ・ナイトウォーカー（影操る戦乙女・e24652）。その戦いの経験からか、搦め手を使われた方が苦戦することになったろうがと、彼女は語る。
「哀れだな。仕えると決めた者、仕える立場に生まれた者の末路は」
　何処もこんなものかと、ロイ・メイ（荒城の月・e06031）はぼそりと自身の素直な気持ちを口にする。
「ローカストさん、初めはすごく怖いって思ってた」
　ただ、ずっとお腹をすかせたローカストの姿を思い浮かべると、ゲリン・ユルドゥス（白翼橙星・e25246）は哀れみの情すら抱いてしまう。
「もちろん、人を守りたい。でも、ローカストさんが苦しんでるのも、なんとかしなきゃ……」
　ゲリンはそう呟くも、しばし考え事をしていた雨之・いちる（月白一縷・e06146）が小さく首を振る。
「思うところはあるけれど、罪の無い人達に害を成すというのなら 、こちらも全力で挑むしかないね」
　今は、襲われる人々を救出する為に。ケルベロス達はローカストの討伐に臨む。

　新見駅に到着してすぐ、ケルベロス達は周囲の人々に危険を知らせようと動く。
　トープは駅から離れるようにと指示を出し、ゲリンが駅北口に近づかないようにと呼びかける。
　アリューシア・フィラーレ（亡羊の翼・e04720）は目に付いた人々へとデウスエクスの襲撃を伝え、いちるは避難を呼びかけながらも殺界を形成していた。
　そして、ある程度人払いを済ませたタイミングで、予め決めた作戦通り、ロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）、志藤・巌（壊し屋・e10136）の２人がローカストを誘き寄せる。２人の共通点は地球人であること。地球人のグラビティ・チェインが他種族に比べ吸収しやすいという情報を元に、メンバーは選出していた。
　ややあって、そいつらは空から舞い降りてくる。赤い背中に７つの黒い紋があるローカスト達だ。
「ウアアア、アアアアアァァッッ！！」
　飢餓の末に理性すら失ってしまった４体のローカストは、ギラリと赤く目を光らせた。
「向こうも随分大変みたいだね。……といっても、一方的に餌になってあげる筋合いは無いんだよね」
　ロベリアの視線の奥にちらりと、逃げる一般人が見えた。
「流石に、目の前で犠牲者が出られると寝覚めが悪いし。助けるよ」
　出来る限り敵を逃がさぬように、ロベリア、巌がローカストを誘導する。ローカストはすぐさま攻撃を仕掛けて２人に飛び掛かり、傷を負わせてきていた。
「狂う程の飢え、か。……安心しろ。お前らの飢えは今日で終いだ。あの世でたらふく食うんだな、虫野郎」
　巌はローカストに近づき、言葉で煽りながら、自分達の方へと４体全てのローカストの誘導を試みる。
「さあ、相手してあげるよ」
　ロベリアは頃合いを見計らい、腕力を使って大鋏のような形の鉄塊剣を振り下ろし、手近なローカストを叩き潰そうとする。
　２人の誘導の甲斐もあり、現れた他のメンバー達がローカスト達を囲むように布陣していく。
　アーネスティン・サニーライト（春色マーチ・e33435）はローカスト達を一度見つめる。彼女はデウスエクスに恨みなどは抱いていない。できるのならば、仲良くすらしたいと考えている。しかし……。
「恨みはないけど、みんなに危害が及ぶなら黙っていられないよね……」
　すでに、地球人２人はローカストの強襲によって、全身から血を流している。危害を及ぼす行為を許すわけにはいかない。アーネスティンはそんな正義感を抱き、ヒールを行うべくグラビティを発動させていく。
　敵の退路を断つゲインは、餓死寸前のローカストの姿に胸を痛め、顔を顰めてしまう。
「……飢えを凌いで、皆で生きるために、姿まで変えて、決死の思いで、見知らぬ遠い地へ来て。……だのに、終わりがこれって、何というのかな……。『空しい』、かな」
　せめて、こうなっていない人達でも、何とか……。そう思うのはエゴなのだろうか。アリューシアはしばし自問自答する。
「へぇ……。殺る気満々、って感じだね」
　同じく、ローカストの退路を断ついちるは、大切な相棒魔導書『虚喰』を一撫でしてから広げる。
「元の貴様等がどんな性格だったのかは知らん。だが……」
　トープは用意した武装のうちから、ゲシュタルトグレイブを手に取った。
「人類に害を及ぼすのならば、倒さねばなるまい。悪く思うなよ」
　チームの火力となるべく飛び出すトープ。ローカストをこの場で抑えるべく、ケルベロスは交戦へと入る。

●この場で食い止めるべく……
　情報によれば、この場に現れたナナホシテントウのローカストは、さほど強力ではないという。しかし、敵は飢餓という極限状態にある相手だ。油断するわけにも行かない。
　敵の姿を目にしたロイは、過去に仕えていた主を失ったことを思い出す。
　あの時、騎士としての死を選ばず、生に固執してしまった。その後悔がロイの脳内に蘇る。
　自身の前に現れているのは、仕えるべき相手に仕えた目の前のローカスト達。彼らに哀れみがないわけではないが、敵は敵でしかない。
「状況も立場も理解できるが……、貴様らは斬って捨てねばならん」
　騎士として、刃を浴びせる前に。ロイはすっと息を吸ってから手前のローカストに告げる。
「よく見ろ。私を、全てを」
　ロイが言葉を掛けたことで、目の前のローカストはロイの意思を垣間見る。それにより、刹那身を竦ませたローカストの胸に氷が張っていく。
「どこ行くつもり？　させないよ……！」
　自分達から目を逸らそうとするローカストの前に立ついちるは、魔導書『虚喰』に自らの血を捧げる。
「封じられし邪神、私に力を貸して。……さぁ、思う存分喰らいつくして」
　いちるが召喚したのは、終焉を詠う邪竜。咆哮によって近場のローカスト達の動きを奪った邪竜は、そいつらの身を喰らおうと襲い掛かった。
　仲間達な順調に攻めてくれている。ならば、盾となる巌も倒れるわけには行かない。
（「俺が戦場に立つ時間が長ければ長い程、敵にとっては厄介極まりないはずだ」）
　今のところ、ケルベロス達の布陣もあり、ローカストが一般人を襲おうとする様子はない。
　先ほどから、敵２体が巌を狙って襲い掛かっている。噛み付いて毒を流し込み、あるいは食らい付いて自身のグラビティ・チェインを満たそうとしていた。
「よく味わえよ。できるモンならな」
　巌は余裕すら感じさせるアピールをする。力を持つ煽り言葉は、ローカスト達に怒りを覚えさせ、巌へとねらいを定めてその体を貪り食おうとしていた。
　仲間が駆けつけたことで、後方へと下がっていたロベリアにも、１体のローカストが食らいついてきたままだ。ビハインドのイリスに盾を任せ、ロベリアは自らの両手を構成する地獄を無数の刃に変形させる。
「地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる」
　剣風を巻き起こしたロベリアは、自身を狙うローカストに刃を叩きつけて行く。一見舞い散る花にも見える刃はローカストの体を刻み、その傷痕を蝕むことでそいつを苛む。
　１体がフリーになったのを見計らったトープ。彼女はそいつを仲間達のそばへと押し戻した直後、手にするゲシュタルトグレイブを頭上に投げ飛ばす。
　ローカスト全員を狙えればと考えたが、敵にも布陣があるらしく、纏めて狙うことは叶わない。それでも、降り注ぐ槍の雨に、２体のローカストが戸惑い始めていた。
　残る２人にもゲリンが天空に投げ飛ばす槍を分裂させ、頭上から降らせていく。こちらもまた、混乱を起こしていたようである。
　攻撃だけではない。アーネスティンは傷つくメンバーの為にとカラフルな爆発を巻き起こし、士気を高めていく。
　アリューシアもまた、囮となっていた巌やロベリアをメインに、光の盾を展開した。ボクスドラゴン、リュカはアリューシアの指示に応じて、属性ブレスをローカストへと吹き付ける。
　すでに、近辺の一般人は避難している。観客がないまま、新見駅でのローカストとケルベロスの戦いは続く。

●飢えからの解放
　ローカストを包囲しつつ、ケルベロス達はその撃破を目指す。
　序盤から敵を引き付けるメンバー……特に巌は、がむしゃらに襲いくるローカストの攻めによって、かなり深い傷を負っている。
　彼を嫌そうと、アーネスティンは緊急手術を施して傷を塞いでいく。
　後方にはいるが、ロベリアの傷もかなり深い。アリューシアは彼女を侵す毒を癒すべく、そして、飛び掛かりによって抑えられた武器を仕えるようにと、オーロラの光でロベリアを包み込む。
　それでも手が足りぬと判断したロイ、いちるも、回復を援護すべく溜めたオーラを撃ち出して行く。それによって、２人は幾分か持ち直したようだ。

　分かれて移動しそうなローカストを抑えるのを最優先にしつつ、ケルベロス達は１体ずつ集中して叩く。メンバー達のほぼ、それに合わせる形で立ち回っている。
　徐々に肩が下がってくるローカスト目掛け、仲間の癒しを受けたロベリアが敵の胴目掛けて鉄塊剣を振るう。
「終わらせてあげる。恨み言は好きにどうぞ」
　彼女はざっくりとそいつの胴を切り裂く。その切り口はすぐに凍り付いていった。
　それでも倒れぬそのローカストを、同じく鉄塊剣で戦う巌が渾身の力で叩き潰す。地面にめり込んだ体勢のまま、そいつはついに果てていった。
（「まだ、問題はなさそうね」）
　２人はまだ戦えていると判断したいちるも敵の動きを注視しつつ、掌からドラゴンの幻影を飛ばし、ローカストを焼き捨てようとする。
　逆サイドでは、ロイが手前の敵を追い込んでいた。そいつが飛びかかってくるのを全身で押さえつけ、彼女は稲妻の闘気に満ちたゲシュタルトグレイブで貫く。
　だが、抵抗を続けるそいつへとトープが迫る。その手には、圧縮された霊子によって生成された非実体の剣が握られていた。
「霊子よ、我が手に集え。彼の者を切り裂く刃となれ」
　ほのかに光る剣がローカストの肉体をすり抜け、精神を直接斬り付ける。
「アアアアアァァッッ！！」
　絶叫したそのローカストは次の瞬間、完全に力尽きてしまっていた。
　敵が減れば、それだけ各メンバーの負担が減る。アリューシアも時に回復の手を止め、タックルを仕掛けたリュカに続いて仕掛けていく。
「狂気よ、蝕め」
　アリューシアの唱えた古代語に応じて、生み出された光の球。それがローカストへと叩き込まれ、体内から自己崩壊を始める。
　ここぞとアーネスティンも息を吸い込む。
「とっておきの唄で、バイバイしてあげるねっ！」
　彼女は元々歌うことが大好きだ。ギターを演奏してバンドを組めたら。ゆくゆくはメジャーデビューできたらという夢も抱く。
「あなたの魂をアーネに預けて。――おやすみ」
　それは、ヴァルキュリアのアーネスティンがまだ、デウスエクスだった頃に教わった、彷徨える魂を沈めるための願い。それを唄としたものだ。
　ゆっくりと瞳を閉じていくローカスト。その最後は幾分か安らかな表情をしていたようにも見えた。
　仲間を失ったからか、いや、失ってもなお暴れ続ける最後のローカスト。赤い羽根を羽ばたかせたそいつはただ、目に付くケルベロスへと飛び掛るだけ。そこには知性も何も感じることはできない。
　ゲリンはそんなローカストを捉え、純白の羽根を散らしながら自身の体を光の粒子へと変えた。
　再度、痛々しいローカストの姿に胸を痛めたが、それでも、ゲリンは明るい声を出し、突撃する。
「ドーンッ！」
　全身全霊を込めてぶつかったゲリンは人型に戻った。
「ア、アア……ッ」
　その衝撃によってようやく飢えから解放されたローカストは、安らかな表情を浮かべて崩れ落ちていったのだった。

●太陽神はいずこに……
　傷を負いながらもローカストを撃破したケルベロス達。
　巌は持ち出したお菓子を４つ備え、施餓鬼の真似事を行う。
「おいしいもの、食べさせてあげられなくて、ごめんね……。生まれ変わったら幸せになってね……」
　ゲリンはローカスト達が天国に行くことが出来るようにと、子守唄を口ずさんでいた。
　しかしながら、彼らはこれだけで作戦を終了させることはなく、その場で各自が話し合いながら動き始める。
　ロイが提案したのは、他にも起こっているローカスト事件の討伐に当たる他チームとローカストの進軍方向を共有し、太陽神アポロンの潜伏先を割り出そうというものだ。
　アーネスティンもロイに合わせ、調査に協力する。ゲリンも光の翼を使い、空腹であるはずのローカストがいる場所が感じられないかと試していた。
「デウスエクス達のピラーに、異常が起きなければ……、こんなことに、ならなかったんだろうね」
　二千年前に、一体、何があったのか。侵攻痕跡などを調査するアリューシアはそんなことを考える。
「ゲートが破壊されている以上、魔空回廊を使って現れた訳ではない、か」
　駅周辺にローカストが残した痕跡を確認しながらも、トープはそんな考えを口にする。ヘリオライダーに伝えることで、敵の居場所を掴むことはできるだろうか。
「早く、頭を何とかしないとね」
「……アポロン、絶対に胸のズキズキごと、ドーンッと吹っ飛ばしてやる！」
　旅立ってしまったローカスト達の為にも、いちるも、ゲリンも、アポロン打倒を誓う。
　そうして仲間達の集めた情報をロイは分析しつつ、他チームと情報を共有しようとする。
「これで、何か変われば良いのだが」
　この作戦が成功するように。今はただ、ロイは静かに祈るのである。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年10月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 1／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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