恨みを喰らう九尾の狐

作者:天木一

 既に放置されて長い年月の経っているようなぼろい廃寺。その前で一台のバイクが止まる。
「んー……ここかな?」
 ポケットから取り出したスマフォを見ながら、ヘルメットを取ったのは大学生くらいの若い男だった。
「噂では尻尾が9本ある妖怪の狐が居るって話しだけど……」
 周囲を見渡すが、人の気配どころか、動物も居そうにない。
「えーっと、確か生贄を捧げれば恨みを晴らしてくれるって話だよな」
 リュックから取り出したのはビニールに入った鶏の丸焼きだった。それを適当なところに置くと拍手を打つ。
「お願いします九尾の狐様、俺の彼女を寝取ったダチと裏切った彼女に天罰を与えてください……」
 切実に男が手を合わせて目を閉じて祈っていると、背後にいつの間にか現われた女が手した鍵で背中から心臓を一突きする。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 第五の魔女・アウゲイアスがそう告げると、男は傷一つ無く意識を失い崩れ落ちる。
『コォーーン!』
 その横に大きな狐が姿が現われた。尻から生える尻尾は9本。爪でビニールを引き裂き、鶏の丸焼きを噛み千切る。獣らしく貪りニタリと目を細めると、宙に青白い鬼火を浮かせた。
 
「お忙しい中、集まっていただきありがとうございます。第五の魔女・アウゲイアスが現われ、新たなドリームイーターを生み出してしまったようなのです」
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)が一礼して集まったケルベロス達に事情を説明すると、詳しい事件の説明をセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が引継ぐ。
「魔女は人から『興味』を奪い、ドリームイーターを生み出しているようです。そのドリームイーターが人々を襲う前に、皆さんに倒してもらいたいのです」
 ドリームイーターを倒せば、『興味』を奪われ眠り続ける男性も助ける事が出来る。
「事件が起きるのは栃木県にある廃寺です。周辺は山近くの自然ばかりの場所なので、他の人を巻き込む心配はありません」
 現場には昼過ぎに到着でき、狐はまだ寺の周辺にいる。男性は入り口付近で倒れている。
「ドリームイーターは2mほどの9本の尻尾を持つ狐の姿をしています。鬼火のような炎を武器にしているようです」
 周囲は死角になりやすい草木に囲まれており、障害物を利用して動き回られると面倒な事になる。
「ドリームイーターが人を襲う前に、そして眠りについた人を助ける為にも、逃さぬよう倒してください。よろしくお願いします」
 説明を終えセリカが急ぎヘリオンの出発準備に向かう。
「この願い事をした男性は本気だった訳ではないでしょう。裏切られた気晴らしに伝説を追っていただけ、それを利用し人を誑かす狐は悪狐と呼びます。これ以上不幸が連鎖しないよう必ず退治しましょう」
 気合十分の風音の言葉にケルベロス達も力強く頷き、それぞれ作戦準備を始めた。


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)
エンデ・シェーネヴェルト(青い眼のねこ・e02668)
星河・湊音(燃え盛りし紅炎の華・e05116)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)

■リプレイ

●廃寺
 町外れにある廃寺周辺は人気も無く、生者の気配を感じさせない静かな場所だった。
 そんな長年放置されたぼろぼろの廃寺にケルベロス達が近づく。
「……たっく、悪趣味め……ドリームイーターってのはこんなんばっかかよ」
 碌でもない嗜好を持った敵に、エンデ・シェーネヴェルト(青い眼のねこ・e02668)は悪態をつく。
「九尾の狐か……伝承に曰く、かの妖を退治したのはこの地の武士であるとか」
 紅の竜のような姿をしたヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)が、狐に関する伝承を語る。
「今回は我らがその役を担うという訳だ。侍の技と精神を学ぶ身としては、気張らねばなるまい」
 やる気十分に金色の瞳を油断なく周囲に向けた。
「まー、人を恨みたくなる気持ちはわかんねーでもねえけどさあ。それでドリームイーターに狙われるってはた迷惑な野郎だぜ」
 対して黒い竜のような姿の十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)は頭の後ろで手を組んで愚痴る。
「でもまー放っとくわけにもいかねーし、やりゃいいんだろやりゃあ」
 面倒くさくとも任務は果たすと、手を解き手にした刀を担いだ。
「いかにも狐が出そうな場所だよね……」
 寺へ向けた星河・湊音(燃え盛りし紅炎の華・e05116)の視線にバイクが映る。そして入り口付近に男が倒れているのを発見した。
「ただ興味があって近づいただけで被害に遭うなんて……。彼を助けるために頑張らないとね」
 こんな事件で犠牲になることはないと、湊音は足を止め敵の姿を探して周囲を見渡す。だが狐の姿は見当たらなかった。
「では作戦通りに、私は幸せ一杯ですからきっと狙われないはず」
「不幸不安になりそうなら十夜さんの腕を見てください。約束ですよ?」
 倒れた男性の救出へ向かうアレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)に、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が腕に編み込んだストラップを見せて囁く。アレクセイは頷き狐と男性が居る場所へと接近する。
 すると近くの茂みから視線を感じる。見れば草木の隙間に鳥の骨を銜えた大きな狐の姿があった。9本の尻尾をゆらゆらと振り、睨み付けるようにケルベロス達を値踏みしていた。
「不幸な奴を嬲るのが好きだなんて、イイ性格してるぜ」
 狐の嗜好に眉を寄せたレンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)は吐き捨てるように言う。そして地面に剣を突き立て、星座の力で仲間を包み込んだ。
「裏切られた事はつらいでしょうが……不幸の連鎖を願うのはいただけませんね。その思いを悪用する悪狐も然り、です」
 不幸の連鎖をここで終わらせようと、翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)は槍を大きく振り回し、飛び込むと同時に周囲の草木ごと狐を薙ぎ払う。
『クォンッ』
 狐の口から骨が転がり落ち、炎で身を守りながら吹き飛ばされ、回転して受身を取って着地する。その目は敵としてケルベロス達を認識した。
「全く……人を呪わば穴二つ、といいますでしょう。まだまだ、詰めが甘いですよ」
 その間にアレクセイは眠り続ける男を抱え、戦場となる廃寺から離れた場所へと運び出す。

●九尾
『コーン、コンコン!』
 炎を飛ばしながら位置を悟らせないように草むらを狐が駆ける。
「その程度の火では私を倒せん。炎による守護、其の精髄を見よーー!」
 恐れることなく前に出たヴァルカンが丹田で煉った氣を炎の息吹と共に放つと、紅蓮の壁が構築され敵の炎を遮った。驚いた狐は炎を避けるように方向を変える。
「さーて、それじゃあぶった斬ってやるぜ!」
 刀など届かぬ離れた位置から刃鉄は鞘走りさせ抜き打つ。その刀身に宿る風が刃として放たれ、狐の体を斬り裂く。
「興味によって出てきた狐さんですか、問いかけがない分厄介ですね」
 踏み込みながら泉は大鎌を横に薙ぎ払い、ぼうぼうに生える雑草ごと狐の腰を斬りつけた。
「人の過去を掘り起こすなんて、悪趣味にも程があるぜ」
 弧を描くように背後に回り込みながらエンデがローキックを放ち、狐の体を蹴り上げた。
『コン!』
 宙に舞いながら狐はエンデ目掛けて炎を連続で撃ち出す。
「炎は私達が防ぎます」
 風音は鋼を鎧のように纏って炎を受け止める。そしてオウガ粒子を放って感覚を鋭く高める。ならばと着地した狐が次々と鬼火を浮かべて飛ばしてくると、対抗してボクスドラゴンのシャティレもブレスを吐いて防ぐ。
「火遊びは大怪我するぜ」
 レンカはオーラを掌に集めて放ち、風音の体を活性化させて傷を癒し炎を消し去る。
「まずは動きを止めた方がいいかな?」
 湊音の両腕が地獄の炎で燃え盛り、小さな竜と化して敵に襲い掛かる。炎の竜は喰らいつくように狐の胴に噛み付き、そのまま行動を邪魔する。
「お待たせ致しました。さ、狩りましょう」
 男性を安全な場所に置いて戻ったアレクセイがそのまま駆け寄り、硝子の刀身を持つナイフで狐の脇腹を斬り裂いた。
『コンコン!』
 狐はケルベロスを近づかせまいと鬼火を放って牽制し、茂みに身を隠そうとする。
「こそこそと隠れさせないよ!」
 湊音が地面に黒い液体を広げ、その上を通った狐を罠に捕えるように下半身を飲み込んだ。
「興味以外の人間の攻撃的な部分が反映されているのでしょうか、はたして……」
 敵の行動原理に興味を持ちながらも、隙を見せた敵に泉はナイフを腹に突き立て肉を引き裂いた。
「薔薇の天使姫がこの胸に宿る限り、私の幸せをそんな幻で覆い隠す事はできませんよ」
 続いて星屑煌めかせながら駆けるアレクセイが、流星のように飛び蹴りを叩き込む。吹っ飛んだ狐は木に叩きつけられた。
『クゥォオオンッ』
 狐はその背を恨みの籠もった目で睨み付ける。
「性格の悪さが目つきの悪さに出てんな」
 そこへエンデがバールをスイングして腹に突き刺す。すると狐の吊り上がった目が輝きエンデを見つめた。眼が合うと視線が離せなくなる。
『ウラメシ――ヤ』
 ぼうっとエンデが魅入られると、その瞳にはかつて裏切られた過去の映像が映り、心を抉るように傷つける。表情の変わったエンデを眺め、狐は歯を見せニタリと目を細めた。
「人の苦しむ様を見て笑うなんて、まさに悪狐の所業ですね」
 風音が槍を足払いのように振り抜き、狐の前足を斬りつけ転倒させた。
「人の嫌な記憶を弄るなんざ、タチ悪すぎだぜ」
 その間にレンカがすぐにオーラで浄化し、エンデの見る幻を打ち消した。
「ちっ、性根が腐ってやがるな!」
 憎たらしい狐の笑みを打ち消そうと、刃鉄が横から狐を蹴り飛ばす。
「こちらの相手もしてもらおうか」
 そこに待ち構えていたヴァルカンは長大な刀を抜き放ち、軽々しく上段に構え大きな踏み込みと共に振り下ろした。刃が狐の顔を抉り、血に染まった狐の目が怒り燃え上がった。
『コォーーーーン!』
 一際高い鳴き声を上げると、空気が振るえケルベロス達の心を侵食するように痺れさせる。
「魔女の魔法は基本マレフィキウムなんだが。ま、たまには慈悲深い癒し手を演じてやるよ」
 レンカが両腕を広げると、周囲に炎が走り仲間を包み込む。その火の粉は一瞬にして天使の羽根となり、優しく傷も穢れも取り除いていく。
「この幸せを、愛しの姫をもしも奪う者がいたならば……」
 例え幻でもそんな状況を想像しただけでアレクセイの顔に殺意の籠もった冷たい笑みが浮かぶ。その手から竜の幻を生み出し、口から全てを焼き尽くすように炎が吐き出される。
『コンッ』
 襲い来る炎から逃れるように狐が茂みに駆け出す。
「他人様の不幸を勝手に覗いたんだ、祟られても文句はねーよな。黒猫は祟るもんって決まってるんでね」
 僅かに顔をしかめたエンデは、後ろ髪を猫の尻尾の様に靡かせながら疾走し、狐に追いつくと炎を纏わせた足で回し蹴りを叩き込んだ。
「ちょろちょろと、大人しくやられとけ!」
 地面を転がる狐に向け、刃鉄か刀と反対の手に持ったライフルの引き金を引いた。放たれた光線が狐の足を地面に縫いつけるように凍らせる。
「どんどん動きを鈍らせていくよ!」
 更に湊音が槍を横腹に突き入れ、電撃を流して身体機能を狂わせる。
『コンコンー!』
 狐は鬼火を幾つも周囲に浮かべ、燃やし尽くすように飛ばしてくる。
「人魂を模した炎でしょうか、何にしても邪魔ですね」
 泉は大鎌を振り抜いて鬼火を消し飛ばした。鬼火が掻き消えると狐は慌てて大きな木の裏へと身を隠す。
「それで隠れたつもりか、甘い!」
 長刀を手にヴァルカンは木に向かって突きを放つ。切っ先は紙のように木を貫き、その向こうに居る狐の胴に突き刺さった。
「こちらも続きます!」
 回り込んだ風音が槍を突くと狐は身を捻って飛び退く。穂先は足を掠めただけで傷は浅い。だが槍に流れる雷が伝わり狐の動きを鈍らせた。

●恨み
『クォーーン』
 狐は傷ついた体で警戒しながら逃走経路に視線を向ける、そして鬼火を浮かべて距離を取ろうとした。
「絶対逃がさねー!」
 刃鉄が刀を振り、風の刃でその背中を斬り裂いた。
「逃げられると思ったのか? あんな真似しといてそれは甘いんじゃねーの」
 エンデがバールを投げると、回転して狐の尻に突き刺さった。バールについた紐を引っ張ると、尾を一本引き千切って手元に戻る。
『ウラメシ――』
 狐の輝く目がまたエンデに向けられる。それを防ごうと風音が割り込んだ。くらりと視界に過去がフラッシュバックしていく。
「こんな……幻に………」
 風音は失った家族の幻に視界を覆われ、苦悶に歪む顔を隠そうと顔を伏せる。そこへシャティレが守るように敵との間に割って入った。
「それ以上はさせん!」
 ヴァルカンが長刀を横に一閃し、狐の顔に深い傷を刻む。
「人を呪っても自分が幸せになる訳ではないのですよ」
 更にアレクセイが狐を蹴り、ボールのように木にぶつかって地面を転がる。倒れながら顔を上げた狐の視線がアレクセイと交差した。
「大丈夫ですよ」
 駆けた泉が狐を横から蹴り飛ばし、それ以上術を続けさせない。
「悪あがきするんじゃないぜ」
 レンカがオーラを風音に分け与え、幻の影響を消し去る。
『コンコンッ』
 身を隠すように狐は木々を壁にして移動していく。
「一緒にいる仲間もいるし、家族仲もいいし、何よりも今を一生懸命に楽しめているからボクは幸せだよ。だからこそ、それを脅かす物は許せないよ!」
 湊音が黒い液体を木の上へと登らせていた。それがどろりと落下し狐の全身を呑み込む。
「愛する者を奪われた悲しみと怒り……わかります。もしも我が愛しの姫が……と想像するだけでも腸が煮えくり返ります。けれど復讐を呪詛に頼るのは些か、ね?」
 そんな負の連鎖をここで断ち切ると、月のように魔眼を輝かせるアレクセイは、虚空に無数の剣を生み出し敵に向けて一斉に降り注がせる。数本避けたところで、次々と襲い掛かる刃に貫かれて狐の全身がハリネズミのようになった。
「重く壊す一撃と首を狩りのどちらがお好みでしょう?」
 そう問いかけながら泉は大鎌を構える。逃げようとする狐に向け、鋭く一切の無駄のない踏み込みと腕の振りで、正確に狐の後ろ足を斬り落とした。
『クォォン!』
 脅えたように近づくなと手負いの狐は鬼火を飛ばしてくる。
「そんなもん効くかよ!」
 炎を気にも留めず刃鉄が突っ切り刀を振り下ろす。狐の肩から胴へと真っ赤な血が噴出した。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
 両手にガントレットを装着したエンデは猫のように軽やかに駆け出す。迎撃に生み出された炎を躱して懐に飛び込むと左右の腕を振り抜く。指から突き出た仕込み爪が幾筋もの傷を全身に刻み込んだ。
「でっかい一撃、叩き込むよ!」
 そこへ止めとハンマーを担いだ湊音は木を蹴って大きく跳躍し、体重を乗せて狐の頭上から振り下ろした。咄嗟に避けようとする狐の背中を打ち据え、地面に叩き付けた。
『コォ……ン………』
 力尽きたように狐が動きを止める。死んだかと思わせた次の瞬間、地を這うように駆け出していた。死んだ振りで騙そうとしたのだ。だがその勢いが急に鈍る。
「お前みたいなイイ性格してる奴の考えてることなんて、簡単に予想できるぜ」
 狐の進む足元にレンカが蔓を伸ばしていたのだ。蔓は四肢を絡め取って動きを封じる。
『コォオオオオン!!』
 ならばと輝く目でレンカに術を掛けようとする。その視界を遮るようにヴァルカンが立ち塞がった。目の合ったヴァルカンが幻に魅入られ膝をつく。
「主観になるが、今の私はとても幸福だ。大切な人が帰りを待っている。故に、夢喰い如きにこの命、くれてやる訳にはいかんな」
 自分と繋がりある人々の思い出して術を破ったヴァルカンは。屈んだまま下段から長刀を振り抜く。刃は狐の前足を斬り飛ばした。
「人の不幸を楽しむ悪狐よ、ここで散りなさい」
 風音は周囲の木の葉に魔力を込め、刃と化して放つ。風に乗った無数の刃は次々と襲い掛かり、全身を赤く染めた狐は崩れ落ちた。

●願い事
「あれ? 何で俺寝てんの?」
 眠っていた男性が目覚め、周囲を見渡してケルベロス達に気付く。
「一発殴って活でも入れてやろーか?」
 そんな寝ぼけた男性に刃鉄が拳を見せて意識をはっきりさせ、事情を説明してやった。
「す、すみませんでした!」
「危ないことはだめですよ?」
 頭を下げる男性に泉が危険な真似は止めるように注意を促す。
「もうこんなバカな真似はしません!」
「不幸の連鎖はお終い、良き出会いがまたありますよ」
 深く頭を下げる男性をアレクセイが優しく励ました。
「廃寺とはいえ、荒れるままにしておくのは忍びないのでな」
「しかたねー、ヒールしてやるかな、どうなるかは直ってからのお楽しみ? ってな」
 ヴァルカンがヒールを掛けるとレンカも手伝い、壊れた廃寺や倒れた木々が修復されていく。すると寺は西洋の寺院が混じったような和洋折衷の建物へと変貌していた。それはまた不思議ないわくがつきそうな姿だ。
「……戦いの間は気にならなかったけど、廃寺ってちょっと不気味だね」
 静かになった廃寺は独特の雰囲気がある。湊音はそわそわとするのを誤魔化そうと色付き始めた木々を見上げた。
「チッ」
 忌々しそうに舌打ちしたエンデが、無意識に首の辺りを擦る。そこはかつて首輪がされていた場所だった。
「……終わったならさっさと帰ろう」
 過去を振り切るように、エンデは廃寺に背を向けた。他の仲間達もその後に続き、男性はもう一度頭を下げてバイクに乗った。
「……お狐様だって、聞くなら良い願い事の方がよいですよね、きっと」
 一番後ろを歩く風音が、過去を鮮明に思い出してしまい足を止めて暗い顔を隠そうする。そんな隣に飛んできたシャティレがそっと寄りそう。風音は優しく抱きとめ、暖かさを感じながら顔を上げ、過去ではなく未来へと進むように、足早に仲間を追いかけた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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