虫たちの挽歌

作者:baron

「朕の臣民共よ、奮励せよ、邁進せよ! 黙示録騎蝗による勝利を、朕に捧げるのだ!」
 ローカストを支配する、太陽神アポロンの叫びが、山の空気に虚しく響く。
 周囲に集うローカストの重鎮達は、イエフーダーや阿修羅クワガタさんと言った勇者が倒されたことを始めとしたローカスト達の窮状を訴え、黙示録騎蝗の中断を願い出るが、太陽神アポロンはまったく役に立たぬやつらよと罵るだけで聞く耳を持たなかった。
 既に限界を迎えたローカストの中には、理性も知性も失い、黙示録騎蝗の軍勢から脱落していくものも出始めている。
 このままでは、軍だとか隊といった秩序だけでなく、ローカストという種族すら滅びかねないだろう。
 だが、それでも、太陽神アポロンの権威は、ローカスト達を縛りつけ続ける。
「朕を崇めよ、ローカストを救う事ができるのは、黙示録騎蝗と太陽神アポロンのみであるのだ」
 この呪縛は、太陽神アポロンが黙示録騎蝗の中断を命じるか、或いは死ぬまで続くだろう。
 或いは、グラビティ・チェインの枯渇によって理性を失うその時まで……。その時はそう、遠くないのかもしれない。


 ヴヴヴヴ……。
 広島県北部の町へローカストが現われた。
 冬にはスキー客で賑わうこの地域も、秋野菜を順々に取り入れるのに忙しい。
 そこへ羽音を鳴らしながら、ナニカがやって来た。
「逃げろ、デウスエクスだ! ひっ痛い痛い痛い」
『ウガー! がってがっ、はふはふムシャむしゃ』
 直立する昆虫のような形をしたナニカ、ローカスト達は農村で汗を流す農民達を見つけると、次々に飛びかかって食い付いて行く。
 一人を食らえば次の一人と、まるでゾンビ映画のようだ。
 あえて違いをあげるとするならば、ゾンビよりも貪り食らう量が多い等食欲に忠実というくらいだろう。
 彼らの暴挙は止まることなく、町を恐怖に陥れたのである。


「さきの阿修羅クワガタさんとの戦いに、ケルベロスは勝利しました。ご参加なさった方には、感謝の言葉もありません」
 ユエ・シャンティエがローカスト事件と書かれた巻き物を広げた。
 そこには広島のイェフーダーの事件に続いて、阿修羅クワガタさんの挑戦と記載され、新たらしい項目に墨が入れられている。
「事件の阻止に成功したことにより、次々と行動部隊を失ったローカスト達は、ローカストの残党の勢力は大きく弱まっている筈です。ただ、彼らのグラビティ・チェインが枯渇していると言う事は、良い面も多いですが、そうでない面もあるのです。そう……理性を失ったローカスト達が、人里を襲撃する事件が、広島県北部で予知されたのです」
 ユエはそう言って、メモとして半紙に短く文言をまとめる。
 敵部隊撃破、グラビティの枯渇、理性の消失。
 この3つである。
「ロ-カストの数は6体で種目はバッタのようですね。それほど強力なローカストではありませんが、飢餓状態で特攻してくるので、予想外の強さを発揮することもあるかもしれません」
 そこまで説明したユエは、全員が理解するのを待ってから話し始める。
「ここで考えられる方法は二つです。一つ目は襲われる町で待ち構える事、二つ目はこちらから探しに行く方法です。それぞれに一長一短があり、町での迎撃は餓えたローカストが戦闘より虐殺を優先する可能性、創作する場合は発見する事に失敗する可能性です。もっとも、相手に知能が残って居ないので難しいと言う程でも無いと思われますけど」
 ローカストが比較的に強くないとい言っても、それはあくまでケルベロスと比較しての話だ。
 竜牙兵のように強者を優先しない上に、知能が無いために危険を危険と思わず背を向けてまで人に襲いかかる可能性がある。
 そして捜索する場合は、相手に知能が無いため一直線に人里に向かっているはずだが、万が一、すれ違うとかなり危険である。
「それと、念のために申し上げておきますが、それほど強くないと言うのは、相対的な物です。隊を分けてしまった場合、特攻によって押し切られてしまう可能性が非常に高まるでしょう、その事だけはご注意くださいね」
 多少離れて警戒網を広げるならまだしも、戦闘はほんの数分である。
 km単位で捜索した場合は、本隊に合流して戦うのは、殆ど無理と言って差し支えあるまい。
 ユエは軽く釘をさした上で、周囲の地図を渡してくれた。
「人々が飢えたローカストによって被害にあわないように、お願いたしますえ。しかし……今回のような脱落者が多数出るようになれば、ローカストの残党が瓦解するのは時間の問題やもしれませんなあ」
 ユエはそう言うと、少しだけ悲しい顔をした。
 知能のあるローカストが、考えることすらできずにただ暴れると言うのは、いっそ哀れでもある。だが、それを口にして同情する訳にもいかないだろう。
 軽く首を振ってそういった考えを追いだすと、改めて頭を下げて、皆を送り出して行った。


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
ミリム・ウィアテスト(ブラストトルーパー・e07815)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
風音・和奈(固定制圧砲台・e13744)
カロリナ・スター(ドーントレス・e16815)

■リプレイ


「あの神社この辺のランドマークで……ということは向こうに大型スーパー。よしっこれで大丈夫じゃないかしら」
 秋の空と刈り取られた田園……、どこまでも同じ様な眺めが続く道に元気な声が響く。
 風音・和奈(固定制圧砲台・e13744) は地図を広げながら、ペンでマークを付け始めた。
「おおよその地形は把握したし、似たような光景とは言え、GPSと同期すれば問題ないわね。連絡網も用意済みっと」
 全周の可能性を両儀に分かち、四方に配分する。
 和奈は無関係なエリアを大胆に消去していくと、残りのエリアを全員に配布した。
 まず彼女を示す炎翼マーカーが表示され、やや遅れて全員の端末に情報更新メールが届くと、各員を示す補助マーカーが記される。
 おむすびや猫さんに羊さん、スカーフェイス、紫水晶と色々特徴的だ。
「ここを基点に、手分けをして捜索を開始しましょうか。まずは、この県道からは完全に除外エリアとして……」
「それなんでやすが、やっこさん達は理性が残ってないそうです。となれば、有る程度の想像はつきやす」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は全員分のマーカーをまとめてホールどすると、残ったエリアに集中的に投入した。
 彼女が自身を示す紫水晶に紐のような線を付けたあたりで、茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)が声を掛ける。
「ルートは一直線でござんしょうから、進めばどこかでランデブーするって寸法でさ」
 三毛乃はGPS画像の隅っこの方にバッタのマークを載せて、そのまま現在位置まで動かした。

 敵ローカストは末期にあるといい、理性を失ってただ暴れるだけだと言う。
 そんな奴らがフェイントや潜伏を行うとは思えず、町に向けて真っ直ぐ来ただけだろうと指摘した。
「そんなところですかね? 分散は禁物だから、ほどほどの距離に別れましょう」
「音と言うのは思ったよりも響かないからね。攻撃の音を合図にして気がつかなかった例は多い、注意しととこっか」
 フローネがひとまとめにしたマーカーを弄って等配分し直すと、カロリナ・スター(ドーントレス・e16815)は拡声器を持ち出してニコリと笑った。
 この拡声器で呼び掛けられる範囲というのが、手分け出来る限界線だろう。
 数分で戦闘が終わるのに、再集結に五分も時間がかかるくらい分散する訳にも行かない。
『テステス、マイクテス。それじゃあ、移動開始だね。聞こえたらみんなヨロシク!』
「「諒解!」」
 和奈がヘッドセットのインカムをオンにして舞い揚がると、一同は手を挙げて合図を返した。

 飛べる者を両翼に放射状へ散らばった後、一定範囲で固まって、扇形に捜索陣形を組んだ。
「えー、平素より大変お世話になっております。ケルベロスでございます。只今この地域にローカストの襲撃が予知されております。住民の皆様にあっては屋内への避難をお願いします」
 ちゃめっ気を出したカロリナは、軽トラックがよくやるように拡声器でアナウンス。
 ご不要の御握りがありましたら、御相伴に預かりますと鼻歌を詠い始める。
 多少賑やか過ぎる気もするが、囮を兼ねても居るのでこんなものだろう。
「カロリナさん何言ってんだろ……? とりあえず1匹も逃すわけには行かないよ……。喰らいつくならアタシに来い……!」
 音の対岸に居る和奈は首を傾げつつ、双眼鏡を覗きこんで周囲を捜索し始めた。


「同じ反応なのは良いことなのか、悪いことなのか。……便りが無いのは良い知らせと思うしかないな」
 新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)は道々状況を村人に説明しながら、空を見上げた。
 そこには和奈が飛んでいるのだが、キョロキョロするばかりで先ほどと差はない。
 見れば山道に差し掛かり、一目で足元を確認できないようであった。
「ここから先は木々が増えるのか……目を皿の様にせねば。サーチアンドデストロイ。打ち漏らすわけにはいかんぞ」
 万が一にでも、一体でも逃せば大事だ。
 一般人では倒す事ができないどころか、満足に逃げる事すらかなわない。
 これまでは収穫が過ぎて刈り取られた畑が多かったが、ここから先はそうもいくまい。
 木々の影や、山の陰を利用した旬が襲い山畑が増えるからである。
『こちら新城、飛行組を追って山間に入る』
 恭平はウイザードハットのマーカーを動かすと、仲間に連絡を入れて山間部に向かった。
『フィルトレーゼも追随します。そろそろ想定の時間の直前です、上下左右に注意して参りましょう』
 その呼びかけにフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)は応えつつ、時間の到来を告げる。
 もう数分すれば予知された時間になるはずであり、移動距離を逆算すれば、すれ違って居なければ、そろそろ出くわすはずだったからだ。
『そういえば……もう少しで予定時刻か。みんな気を抜くなよ。樹上もだが、くれぐれも数には注意が必要だ』
『こちらウィアテスト、諒解。聞き耳立てて、すれ違わないように注意するよ! 全頭数も確認していかないとね』
 恭平が気を引き締め直すと、ミリム・ウィアテスト(ブラストトルーパー・e07815)の元気な答えが返って来た。
 確かに異様な物音も重要だろう。

 何しろ餓え切った相手である、できるだけ体力を使わないよう、あるいは他のデウスエクスに見つからないように逃げ隠れしてる可能性もある。
 そんな中で、扇型に捜索陣形を組むケルベオスの中で、要である根元の位置に少女は心細げに歩いて居た。
「(こ、此方にはいないと良いね……)」
 声には出さずに呟き、メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)はトボトボと歩く。
 キョロキョロと左右を窺い、おっかなびっくり羊さんを抱えて歩く。
「(だ、だって……こ、来ない方が良いでしょ? 怖いし、ローカストさんが諦めてくれる可能性だって……)」
 メリノはファミリアのタルタリカに語りかけながら歩くのだが、見る上げられる瞳は抗議の視線に見える。
 それはそうだろう、ここまで来て闘わずに済むだとか、交渉できるだなんて夢のまた夢なのだ。
 彼女と手自分でそう理解しているからこそ、ファミリアの瞳が呆れている様にも見え……。
「(グラビティの枯渇に理性の消失……色々辛そうだけど、グラビティの枯渇に理性の消失……色々辛そうだけど……)」
『居た! 四体居るけど、探してっ……数が合わない!』
 メリノが今は果てない夢を口にしようとした時、ミリムから通信が響き渡った。
 耳を澄ませなくとも、近くでガサガサと物音がする。……そうだ、駆け付けられる距離で陣形を組んで居るんだった。
 どうしよう、具体的な考えに至る前に、現実が先にやって来た!
『一体発見! 放物線を描いて飛……』
『中央のシープ、こちらでも飛行する敵を確認、今から向かい……ふえ?』
 フィルトリアの声と共に、上にバッタがジャンプしているのが見える。
 それを逃がさないように向かおうとした処で、奇妙なモノを見つけた。
 なんと、一体のバッタ型ローカストが、トボトボと歩いて居るのだ。まるで戦いなど眼に入らないように……。


「人襲うのやめて欲しいってお願いすれば考えてくれるかな? あ、こっちに……どうしようどうしよう」
『喰イテエ~クイテー』
 メリノが抱えていたタルタリカも杖に変化して、とうとう独りぼっちだ。
 闘うべきか、仲間の元まで合流するべきか悩む前に、敵の方から向かってきた。
 せっかく見つかった獲物を嬉しそうに笑うのではなく、せっぱつまった表情(?)で喰いついて来る!
 そこには理性の欠片も交渉の余地も見られず、サバンナで餓えた獣が獲物に貪りつくようであった!

 なんということだろう、プルプル増える得る羊さんは、このまま喰われてしまうのだろうか?
 これがダメ男と女子高生の出逢いなら……別の意味で食べられ……どっちもやらせる訳にはいかないねえ!!
「こいつァひでえ。飢えた手勢を故意に選んで繰り出すイェフーダーどころの話じゃァねえ、どいつもこいつも単純に飢え乾いていやがる」
 羊娘のピンチに駆け付けた三毛乃は、腕を差し込んで危いところで間にあった。
 そして腕が喰われていると言うのに、平然とした顔で、もう片方の手で軽く拝む。
「窮鼠を狩るは猫の務め。化猫任侠黒斑一家当代目付役、家長・茶斑三毛乃。お相手仕りやす……南無!」
 かっ!
 三毛乃が右眼を見開くと、炎があふれ出て地獄を描く。
 喰われつつある拳は籠手を活性化し、内側から無数の御霊を呼び寄せる!!
「お待たせしました。既に一体撃破済み。二体目に取りかかります」
「参りやしょうかフローネ嬢あっしらが盾で、そして壁だ」
 元より近くで捜索していたこともあり、フローネも僅かな時間を置いて駆け付けて来た。
 三毛乃は顔を見合わせた後で頷くと、メリノを……いや、世界を守る壁と成ることを決意する。
『この紫水晶の輝き、貴方に無視できますか?』
 無視した。
 先ほどの個体は注視したのに、この個体は脅威が訪れたにもかかわらず抱きつくように喰いついたまま……。
 フローネは無視された事よりも、そんな理性すら残ってないのかとキっと唇を結んで紫水晶の輝きを展開する。
 ここで同情するなど安い涙にしかならない、ならばこの感情はアポロンに向ける怒りとして取っておこうと、ココロに刻み痛いほどに唇を噛み締める。
『盛大な花火のお披露目だ!』
『痛い、痛タ……。ウメー!? ウメエエよお』
 吹っ飛べええ!!
 次に同じ方向から駆け付けたミリムは、鈍器で叩きつけると、巻きつけておいた爆薬を炸裂させる。
 爆導索に絡みつかれて二転三転、吹き飛んだにも関わらず、餓えたローカストは血を舐め取るようにグラビティを吸収していた。
「ボク、つい最近まで正気を失ったローカストが哀れだと思ってたんだ。だけど、先の阿修羅クワガタさんとその仲間との戦いと今回で改めてわかったんだ……」
 ミリムは動揺しない。
 動揺しないと決めたんだ!
「結局は喰うか喰われるか……悪も正義も慈悲も無いシンプルな生存競争に戻っただけなんだって。それだけならボクは今回の人類の敵も躊躇無くブラストす(喰う側にな)るだけだ!」
 ボクはとっくに覚悟完了。
 ケルベロスにだって滅多に居ない、気の良い連中だった。
 そんな相手と殺し合うのが運命なら、今は戦い抜くだけだとミリムは腰を浮かせて何時でも飛びかかれるように身構える。
『そいつも、まあ、一つの結論でしょうねぇ。こちらスター……んーっと、そっちから見て八時の方角で本隊を組んで戦闘中。厳し目なら、引き付けて合流してくださいな』
 敵の一体を引っ張って来たカロリナは、残る味方にアナウンスを掛けながら合流してきた。
 石化の魔力を放って突き放すと、勢いを殺しながら着地する。
 ここまで来て合流すれば、あとは倒すだけなのだから。


『天に滅せよ!!』
 合流を果たしたカロリナは、引き寄せて来た敵では無く、光の矢を中央の敵に放つ。
 その一撃は再び三毛乃に食らいついた敵を背後から穿ち、絶命させたのである。
「はっ! 残りは後、何体ですか?」
「え、えーっとえーっと。ゴメンなさい。私はずっとここに居たので……」
 ずぱん! と斧と牙が森を割り、敵と共に飛び出すフィルトリアの質問に、メリノは涙目になりながら、一生懸命治療した。
 最初はおびえていたまま殴りあったし、三毛乃たちが来てからは治療に掛り切りだったのだ。
「これで最後だ」
 恭平が紫電を放ちながらバックステップで合流すると、追いかけるようにしてもう一体が空中より現われる。
 先ほどカロリナが連れた一体、既に倒した敵も合わせて都合六体の勘定が成立した。
 願いましては、せめて、苦しむ事無き最後を。

 理性を失ったローカストでも、中には野生の本能から楽には狙えぬ獲物と判断した個体も居るのだろう、顔を左右して……。
「逃げるんじゃないよ! 動くなっ! ゴメン、残りの敵を連れて来るのに時間がかかったみたいねっ」
 途中で地上に降りた為か、最も遅れて和奈が恭平に連れられるように合流。
 電磁弾頭を高速で叩き込みながら、顔を左右して逃げ場を探した敵を優先的に狙い始めたのである。
『あっしのドンパチのタネは何も右目だけたァ限りやせんぜ?』
 なおも逃げようとする敵の眼前へ、三毛乃が弾丸を置いておいた。
 なんという超予測、猫が獲物の前で待ち構えるように、銃弾を次々と、回避方向に向けて放っていたのだ。
「ひそやかな羽ばたきは滅びに誘うだろう……良い悪夢を。現実は疲れたろう?」
 恭平は餓えなどない世界を、夢の中に紡いだ。
 耐えても苦しい現実があるばかり……既に限界まで傷ついて居たローカストは、凌駕する兆しも見せず満足して永遠の眠りについたのである。
「残る『敵』は後わずか! アメジスト・ドローン! ここは守りますよ!」
 フローネはあえて敵と言い切ることで、仲間達の、自分のココロへ叱咤を掛ける。
 引き締め直すその言葉と共に、ドローンが守る為、傷を癒す為に飛び交って行く。
「切り込むんで、後は任せた」
「ごめんなさい……救う事ができないなら。これ以上苦しみを重ねる前にこの悲劇を終わらせます」
 カロリナがジャンプ一番、最後の敵に精神力の剣で斬りかかると、フィルトリアは地面に激突するような低い姿勢で猛然とダッシュを慣行。
 転げながら組み伏せると『貴方の罪、私が断罪します……!』と鉄拳を上から叩きつけて葬り去ったのである。

「任務達成。村人に危機は去ったことを伝えよう。それと……」
「敵さんの潜伏先だねっ。ちょっとバラけてたけど予測通りだったし、進軍データを集める事で、グラフが出来るはず」
 恭平が終わりを告げると、ミリムは頷いて地図を取り出した。
 それは出がけに仲間が持ち出した物とは別の、複数枚コピーされた中国地方の地図である。
「アポロン……」
「見つかるといいですね……これ以上ナニカ起きる前に」
 フローネが呟くローカストのいや倒すべき悪党の名を、フィルトリアが拾った。
「元はと言えば、アポロンを倒せなかったのが原因……。村の人にも、このローカスト達にも迷惑をかけちゃったのかな」
「ごめんなさい、成仏してね……」
 和奈とメリノはローカストの死体を弔いながら、悲しそうな顔をした。
 まさか、正気でないというのが、あんなにも悲しい事だとは知らなかったのだ。
 勝利の最善手どころか、まとりまりすら無い。
「結果は結果だ。この後の最善を尽くすとしやしょう」
「アポロン倒せば少しくらいは良くなるんじゃない?」
 そんな少女達の様子に、三毛乃やカロリナは慰めるのではなく……。
 目指すべき明日を示したのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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