飢え乾きしものたち

作者:そうすけ


「朕の臣民共よ、奮励せよ、邁進せよ! 黙示録騎蝗による勝利を、朕に捧げるのだ!」
 ローカストを支配する、太陽神アポロンの叫びが、山の空気に虚しく響く。
 周囲に集うローカストの重鎮達は、ローカスト達の窮状を訴え、黙示録騎蝗の中断を願い出るが、太陽神アポロンは聞く耳を持たなかった。
 既に限界を迎えたローカストの中には、理性も知性も失い、黙示録騎蝗の軍勢から脱落していくものも出始めている。
 このままでは、ローカストという種族すら滅びかねないだろう。
 だが、それでも、太陽神アポロンの権威は、ローカスト達を縛りつけ続ける。
「朕を崇めよ、ローカストを救う事ができるのは、黙示録騎蝗と太陽神アポロンのみであるのだ」
 この呪縛は、太陽神アポロンが黙示録騎蝗の中断を命じるか、或いは死ぬまで続くだろう。
 或いは、グラビティ・チェインの枯渇によって理性を失うその時まで……。
 

 深刻な飢餓は、種族の底辺に属するローカストたちの精神を荒廃させ、理性を奪った。
 グラビティ・チェインのみならず、この地球のすべてを、時間と空間を含員り食いたいというほどまでに膨れ上がった圧倒的な飢餓感。それを前にしたら、他の生き物の存在など何の価値もなくなってしまう。
 予知された夜、ケルベロスたちが助けに行かねば、飢餓ローカストたちに襲われた村は凄惨を極めることになる。
 ローカストたちは村の端から順に家に押し入ると、見つけた「人間」を片っ端から食い殺していく。赤子、子供、大人、年寄り。たとえ自ら身動きできない者であっても、息をして生きている限りは「餌」となる。彼らはイナゴの大群そのもの、貪欲に「餌」に食らいつく。あとには何も残されない。
 家への侵入にしても、ドアはもちろん窓から入るなどという生易しいことはしない。目の前に壁があればぶち抜き、柱があればへし折りながらいて進むのだから、彼らが通った後は倒壊した家の瓦礫がうずたかく積み上がり、時を置いて炎が盛るのだ。
 だが、火の粉を流す風の中に、焼けた肉の匂いを嗅ぐことはない。煤で黒く汚れた骨だけが、そこに人が住み、暮らしていた証となるだろう。
 

「阿修羅クワガタさんとの戦いはボクたちケルベロスの勝利に終わった。だけど、それが皮肉にも新たな悲劇を引き起こすことになりそうなんだ」
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は前置きなしに話を切り出した。
「イフェーダ戦、阿修羅クワガタ戦の連勝は、ローカストの残党に深刻なグラビティ・チェイン不足をもたらした。彼らはまさに種の滅亡に直面している。普通なら……民を導く指導者なら、ここで黙示録騎蝗を中断して、他のデウスエクス勢力の門下に下るか、地球との和平の道を探るだろう。でも、あの偽神は……」
 太陽神アポロンは僅かに残ったグラビティ・チェインを、戦えるもの、それもより強きもののみに分け与えているらしい。黙示録騎蝗を続けるためだけに。
「グラビティ・チェインの配給が止まった下級ローカストたちは飢えから暴走し、上部の命令を無視して勝手に街を襲いだす。ああ、予知を得たのはボクだけじゃないんだよ。多くのヘリオライダーたちが、飢餓ローカストによる人里の襲撃予知しているんだ」
 まさに死に物狂いで進む飢餓ローカストたち。何としても彼らの進撃を止めなくてはならない。
「村を襲う飢餓ローカストの数は5体。見た目はすべて働き蟻だよ。もとが戦闘要員ではないから一体一体はさほど強くない。だけど、飢餓状態で特攻してくるから気をつけて。油断すると予想外の強さを発揮してやられてしまうかもしれないから」
 ケルベケスたちは襲撃される村の少し手前でヘリオンから降下、やってくる働き蟻の一群を村に至る一本道で迎え撃つことになる。
 道の左右は稲が刈り取られたばかりの田んぼだ。一番近い民家まで約100メートル。時刻は午後10時過ぎ。
「わかっていると思うけど、キミたちは村の人たちにとって最後の砦。負けてしまたら……ううん、たとえ一体でも抜けさせてしまったら、村に大きな被害が出てしまう。だから全員で力を合わせて倒して」
 ヘリオンの降車口が開いた。
 ゼノは最後に、と歩き出したケルベロスたちに声をかける。
「……話し合いは無理だと思って。己の野望の為にグラビティ・チェインを独占するアポロンが、彼らを壊してしまったから。悲しいけど、もう彼らに理性が戻ることはないんだ」
 そう、真の敵は太陽神アポロンなのだと、ゼノの瞳は怒りの涙で燃え揺れる。
「向かう場所は岡山県真庭郡新庄村。街灯はあるけど、暗いから何か光源になるものを一つ二つ持って行ってね。ローカストたちはみんな黒い艶消しの外骨格を纏っているから、闇に溶け込まれたら厄介だよ」


参加者
リブレ・フォールディング(月夜に跳ぶ黒兎・e00838)
エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)
ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)
コルチカム・レイド(突き進む紅犬・e08512)
ガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)
砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)
グレッグ・ロックハート(泡沫無幻・e23784)
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)

■リプレイ


「いい加減、虫野郎の相手も飽き飽き……と言いてー所ですが、そうもいかねーですか」
 リブレ・フォールディング(月夜に跳ぶ黒兎・e00838)は額の上に手を伸ばし、ライトの位置を直した。
 隣でコルチカム・レイド(突き進む紅犬・e08512)が、小さく鼻を鳴らした。一本道の先へ向けられた緑の瞳は、暗がりの中では黒く見える。
「ほんと、最近虫ばかり相手してる気がするわね! 早いとこ終わらせて御飯食べたいわ!」
 ふと、道のわきに顔を向けると、闇よりも黒い塊が動くのが見た。肘の先でリブレをつつく。
「ちょっと、バカ兎」
「なんですか、バカ犬」
 つつき返す反対側からガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)の低い唸り声が聞こえてくると、リブレはあわてて訂正した。
「あ、誤解ですよ。バカ犬ってのは――」
「違う。来た」
 ガルフは喰いしばった牙の間から言葉を押し出すと、蛍光塗料のボールを手に握りしめた。出会い頭にぶつけてマーキングするためだ。
 守ろうとしている山間の集落は、深い木立に囲まれた黒瓦屋根の古い家々である。周りは田畑で時刻は午後10時過ぎ。都会と違い、村はもう眠りについている。
「……これ、投げる。目印つける」
「闇に紛れられると厄介ですからね。お願いします」
 エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)は、泣いた子供も凍りつきかねない狩人の顔つきで敵を睨みながら、全身から殺気を放った。
 戦闘音を聞きつけて家の外へ出た村人が、好奇心から近づいてこないようにするためである。
 雲が切れ、月の下に灰色の一本道が浮かび上がった。そこへ小柄な黒い影が次々と道へ上がってくる。アリ型のローカストだ。五体いる。
「ここまでです! この先には行かせません。私たちケルベロスが相手です!」
 エスカは腹に力を込めて、名乗りを上げた。
 黒い影たちは一斉に身をすくめたのち、ゆっくりと振り返った。ケルベロスたちと向き合う。
 遠目にもローカストたちがまとう外骨格に艶かないことか判った。そのくせ、両眼は月明りを弾いて黒々と光っている。黒い顔の下に尖った牙が見え、そこから死と腐敗の悪臭が放たれていた。どこかで野生動物を襲ってからここへ来たらしい。
 だが、飢えは満たされなかったようだ。行く手を阻むものたちがケルベロスと知ってもなお、五体のローカストたちはグラビティチェインを求め、障害を撃ち破らんと隊列を整えだした。
「アポロンの下にはもう、いくらもまともな兵が残っていねェはずなんだがな。飢えて理性がぶっ飛んでいても、訓練で体にしみ込んじまった動きてェのは自然と出ちまうものなのか」
 ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)は闇の中で苦笑いを浮かべた。目の前のケーカストたちを哀れに思うと同時に、太陽神アポロンに対して強い怒りを感じた。
「民を食わせられねェ執政者ってェのァド三流。……使い潰すのァ……流れに数える方が間違ってらァねェ」
「そうですね。民が飢えで壊れてしまったのに無視。本当にあの神は……」
 ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)はライトニングロッドを握る手に力を込めた。
(「あの時はお義父さんが助けてくれた……。今度は私達の番!」)
 目の前のケーカストたちには同情するが、だからといって凶行を見逃すつもりはない。自身もデウスエクスで壊滅した村の生き残りなれば、己の目の前で惨劇の再現を許すなど断じてできない。
「コルチー、ガルフ。後ろは任せて! わん!」
 砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)は割り込みヴォイスを使って、この時間まだ起きている村民たちに家から出ないよう呼び掛けた。それから、戦いに備えてオウガメタル――Croonを硬化させた。Croonにはあらかじめ蛍光塗料を塗ってある。目的は仲良しの大犬と同じだ。
「この道は通さない、誰も渡さない。クルーンと一緒に絶対守るよ」
 体が放つ淡い光に覚悟をにじませつつ身構える。
「間に合ったな。遅くなってすまない」
 グレッグ・ロックハート(泡沫無幻・e23784)が村から出るすべての道にキープアウトテープを貼り終えて戻って来た。暗視ゴーグルを顔にかけ、白銀のケルベロスコートの内側から蛍光塗料入りカラーボールを取り出す。
「さあ、ただ悲しいだけの物語を終わらせよう」
 

 配給が止まって数日。生きていくために充分なグラビティチェインが足らず、飢えに飢えていた。それゆえ、喰える物には何にでも食らいつく。たとえそれが天敵ケルベロスであったとしても。生き残るためには、他に選択肢はないのだから。
 
 あ、と思ったときにはもう黒い顔が目の前にあった。
 決して油断していたわけではなかったが、ローカストたちはケルベロスたちが思いもしなかったスピードで一気に距離を詰めると、躊躇なく襲い掛かって来たのだ。
「くっ……」
 コルチカムは、とっさに額に傷のある個体を狙っていた黒兎を横へ突き飛ばすと、ローカストの一体から肩に鋭い牙を受けた。
 ローカストは得物の背に腕を回し、赤い髪の間に頭を沈めたまま、つがつとむさぼるように肉に食い込んだ牙を動かし続ける。
 悪友を死の抱擁から解放すべく、リブレが拳を振り上げる。
「女の趣味が悪りーヤツですね。飢えているとはいえ、よりにもよって鳥頭に抱きつくとは!」
 振り抜かれた拳は即座に音速を超え、黒い外骨格に包まれたローカストの肩を砕き、腕を一本落とした。
 牙の先から肩の肉と血を飛ばしながら、ローカストが赤犬の体から離れる。
「いっ! 痛いじゃないの。やるならやるで、もっと気を使いなさいよ、バカ犬!」
「え……邪魔されたくなかったですと?」
「いつ、私がそんなことをいった!」
 ガルフはいがみ合う二人の間に割って入ると、傷ついた仲間を庇って前に立ち、下がっていく片腕のローカストに向けてカラーボールを投げつけた。
 カラーボールは片腕の背に当たって割れ、黄色の液体を飛び散らせた。
「喧嘩、後で。コル、手当してもらえ」
「ありがとう。でも、もう少し頑張れるわ」
 傷を負いながらも気丈に立続ける赤犬の後ろで、エスカは両手にバスターライフルを構えた。
「想定よりも動きが速い。死に物狂いというやつでしょうか。ローカストたちはこれほどまでに……。前を開けてください」
 引き金を絞り、隊列を整えて前進を始めたローカストに向けて魔力の籠った巨大な一撃を放つ。 
「これで……まれにですが、意図したように動けなくなります」
「十分ですよ。あとは私がライトニングウォールでみんなの異常耐性を高めておけば万全でしょう」
 ゼラニウムはライトニングロッドを振るって、仲間たちを目に見えぬ電磁波の壁で囲った。
 一旦は下がった片腕のローカストが、牙をがちがちと鳴らしながらジリ、ジリッと間合いを詰めて来た。どうやら味を占めたらしい。他のローカストたちも相伴にあずかろうと、ゆっくりと足を動かしだした。
「おや、シビレが足りねェみたいだな」
 ウォーレンはゲシュタルトグレイブを構えた。蛍光塗料を塗った槍先が淡い光を放っている。
「お前たちがどんなに飢え苦しんでいようとも、この先にある村へ行かせるわけにはいかねェんだよ」
 片腕のローカストが右足を踏み出すと同時に、稲妻を帯びた槍を黒い胸につき入れた。すまんと零した唇をかみしめながら、戦慄く体から槍を引き抜く。
 膝を折った仲間の後ろで、後にいた二体のローカストが左右に広がった。道をはずれて田に降りようとしている。すぐ目の前にこの激しい飢えを満たすものがあるのだ。ケルベロスたちの手さえかわしきれれば――。
「ごめん。ダメなものはダメなんだ」
 イノリはかつて手にかけたデウスエクスたちの魂に思いをはせ、いままた討なくてはならない者たちへの哀しみを胸に歌いだした。
『覚えている……! 感じている……!』
 横へ飛び、道の左側へ降りたローカストにカラーボールを投げつける。アリ面にボールが当たって割れ、頬から肩にかけて白い塗料がついた。 
 片頬を白くしたローカストは傷つきよろめきながらも、まだ湿って柔らかい土の踏みしめ夜の闇の中へと逃げいく。
 イノリは歌を「殲剣の理」に変えて追撃したが、怒らせて気を引くことはできなかった。
 道の反対側で、カチカチと牙を鳴らして作られた単調な音が鳴らされた。ケルベロスたちを迂回して村へ進もうとしていたもう一体のローカストが足を止め、眠気はもたらす破壊音波を撃ったのだ。
「ウォーレン、白頬の追跡は任せた」
「オーケー。任せろ」
 グレッグはドラゴニックハンマーを回して砲撃形態に変えると、竜の口にカラーボールを咥えさせた。左 腕で轟竜砲を装着した右手を支え、牙を鳴らすローカストに狙いをつける。
 危険を察したアリが背を向けて走り出した。
「…………」
 グレッグは引き金を絞った。
 竜頭をかたどった波動がローカストに追いつき、牙をむく。
 背を撃たれたローカストは、黒い背を黄緑色に染めて顔から田に倒れ込んだ。
「目印はつけた。これで闇に溶け込めまい」
 額に傷のあるローカストが、起き上がった片腕とまだ無傷の仲間を背に連れて、ケルベロスの壁を打ち破るべく突貫を仕掛けてきた。
 行くも地獄、戻るも地獄。どちらに進んだところで待つのは飢餓による死である。ならばわずかな可能性でもかけてみようとするのが生存本能というものだろう。
 額傷の決死の突撃は、コルチカムとガルフ、両犬の楯を突き飛ばして突破口を開いた。自身は両犬とともに道に倒れたまま、仲間たちに背を踏ませた。
 コルチカムの肩の下で、鮮血の海が広がっていく。
 自由になる手で叩いて牙をむく額傷を怯ませようとするが、アルミニウム鎧化された体にはなかなか有効打が入らない。
「ガゥッ!」
 ガルフは額傷と仲間の間に腕を差し入れると、力任せに振り上げた。飢え細った体は思いのほか軽く、空高く飛んでいく。
 跳ね起きると、鼻面を天で止まったローカストへ向けた。
(「傷のある奴……仲間を守ってついた傷? ……理性なくしても、守る想いは残ってるのかな」)
 されど、仲間を思う気持ちはこちらも同じである。
『ガルルル……!!』
 欠け耳の大犬は落ちてくる黒い体に向かって敵意に満ちた唸り声を上げた。同情はするが手加減はしない。改めての宣戦布告だった。
 額傷は理力によって軌道を曲げられ、黄緑の背の横に落ちた。柔らかい土の上で枯れた稲の破片とともにバウンドし、体を一回転させてから倒れた。
「あたしの横をそう簡単に抜けられると思わねーで欲しいですね」
 リブレは闇の中を回り込むと、防衛ラインを抜けた片腕の前に姿を現した。
 片腕は突如現れた敵に食いつこうとしたが、思うように顎が開かず、閉じたままの牙を空振りした。
「あたしの大事な友達を傷つけた……これはそのお返しです」
 黒兎は牙を交わして反対側に回り込むと、闇そのものを重力で固めて作ったいくつもの殲滅ナイフを片腕の全身に突き込み、ねじ回した。
『乱れ散れ』
 怒りとともに手に残していた最後の一本を突き入れる。
 片腕の全身に刺さっていたナイフが一斉に重力を開放し、黒い外骨格の内側で爆ぜた。
 ゼラニウムはコルチカムに駆け寄った。血だまりの中に膝をつき、微かに上下する胸に手を当てる。
『見つけました! これがあなたの「核」……「核共鳴」!』
 まぶたを閉じると、手のひらから命の温もりとともに癒しの波動を送り込んだ。義父から受け継いだ破壊の技を紐解き、転じさせて生み出した高度な癒しの術だ。必ず治しきってみせる。
 安堵の吐息にまつげを揺らされて、ゼラニウムは目を開いた。
「立てますか?」
「もちろん! 逃げた連中はみんなに任せて倒れている奴らを倒しましょう!」
 

 尻を淡く光らせたローカストが角を曲がって姿を消した。抜けられる寸前に、イノリが腰に飛びついて蛍光塗料をつけていたのだ。
 エスカは切れて風に舞い上がったキープアウトテープを手で払い、エアシューズのローラーから火花を散らしながら光る尻を追いかける。
「そこで止まりなさい!」
 急停止して空回りしたローラーがアスファルトを擦り上げ、炎を立ち上げる。エスカは警告を無視して、腕から出した刃で民家の門を破ろうとしたローカストに炎の蹴りを放った。
 門扉に炎に包まれた黒い体がたたきつけられ、騒がしい音を立てた。
 玄関灯がついて、ガラス戸の裏に人影が二つ浮かび上がる。
「そのまま家の中にいてください! 出てきちゃダメ」
 イノリは魔力を籠めた咆哮を上げて光る尻の動きを止めた。
 グレッグが駆けつけてきて、変形した門の隙間に挟まった体を打たんと拳を振り上げた。
『加減はしない……精々楽に死ねるよう、祈りながら打つ』
 そう、これ以上の苦痛を与える必要ない。この一撃で飢えのない世界へ送ってやろう。
「さらばだ」
 地獄で補われた左腕が、魂をあの世へ引き摺る黄泉の紅き炎を吹きあげる。豪腕一閃。風を喰い勢いを増した紅蓮の炎が、ローカストを包み焼き、ひと塊の炭に変えた。
 村の中に立った火柱を木々の間に見下ろしながら、ウォーレンは細く息を吐いた。方角からして逃走先にあるのは果たして比婆山か、道後山か。名を上げておいてから、決めつけはよくないな、と苦笑いする。
「また一体、仲間が逝ったようだぜ」
 白頬のローカストは大木に背を押しつけた。ガチガチと牙を鳴らして怪音を出し、目の前に立つ恐ろしい地獄の番犬を眠らせようとした。
 だが――。
「無駄だ。俺には効かねェよ。ゼラニウムの術がしっかりと守ってくれているからなァ」
 眼光鋭く選ばれし者の槍を構える。
「野郎ども、出撃だ!」
 どこからともなく乾いた熱い風が木々の間を吹き渡り、砂塵とともにかつてウォーレンともに夢を追った戦友たちの御霊が機関銃を手に現れた。
 四方を取り囲まれた白頬が激しく牙を打ち鳴らして威嚇する。
「無駄だといッただろ? 本意じゃねェかもしれねェが……今のお前さんらは、子供の未来も食い荒らしちまうからなァ。ここで死んでくれ」
 光る槍が動くと同時に、複数の突撃銃が火を噴いた。
 その直後、ゼラニウムたち道に残っていた四人が田に倒れていた二体を撃破した。
 村からグレッグたちがみんなを連れて戻って来た。
「アポロン……とても太陽とは言えませんね」
 ローカストたちの遺体に手を合わせながら、エスカが怒りに震える声でつぶやく。
 イノリは死者の前に金平糖を供えた。
「地球では死者に食べ物をささげるんだ。飢えや乾きが癒えるようにって願いながら……」
 山から戻ってくるなりウォーレンは、ローカストたちがやって来た方角を睨んだ。
「ああ。もう、戦わなくて……腹空かせなくていいンだ。ゆっくり休め……民を顧みない独裁者、アポロンはオレたちが必ず倒す」

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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