「朕の臣民共よ、奮励せよ、邁進せよ! 黙示録騎蝗による勝利を、朕に捧げるのだ!」
ローカストを統べる太陽神アポロンの叫びが、山の空気に虚しく響く。
周囲に集うローカストの重鎮達は誰一人、明るい顔をしていない。何れも暗い表情を浮かべているが、それでも言葉を口にせず、首を振る。
彼らには判っている。このままではローカストは緩やかな滅亡を歩む事になる、と。
重鎮の中にはローカスト達の窮状を訴え、黙示録騎蝗の中断を願い出る者もいた。だが、その訴えに太陽神アポロンは聞く耳を持たなかった。
そして、彼らの訴えた窮状は現実の物となり始めていた。限界を迎えたローカストの中には、理性も知性も失い、黙示録騎蝗の軍勢から脱落していく者も出始めている。
だが、それでも。
「朕を崇めよ、ローカストを救う事ができるのは、黙示録騎蝗と太陽神アポロンのみであるのだ」
太陽神アポロンの権威は、ローカスト達を縛り続ける。
この呪縛は、太陽神アポロンが黙示録騎蝗の中断を命じるか、彼が死ぬまで続くだろう。
太陽神アポロンが滅ぶのが先か、自分達が理性を失うのが先か、はたまた……。
ローカストの未来を覆う暗雲を前に、重鎮の一人は天を仰ぐ。この窮地の打開策は何一つ、思い浮かばなかった。
広島県山間部。
島根県との県境に位置するこの村は、近隣に大きな道路もなく、それ故、緩やかな過疎を迎えていた。
今や、日本各地でそんな村が増えている事を知る者達は、それでも仕方ないと日々を過ごしている。
この村は滅ぶ運命にあった。それは事実だ。だが。
それはこのような最期である筈はなかった。
もはや村に何もなかった。農作物も、家畜も、そして村人達も。
全てが貪り食われ、物言わぬ骸――残骸と化していた。
村を襲った蟻人――ローカストは何も言わない。ただ、目の前にある食料を喰らい、グラビティ・チェインを得るだけだ。
血に染まった顎を舐め上げ、そして再び肉を、食料を喰らう。
彼らの顔を覆う黒曜石のような複眼からは既に、知性の色が失われていた。
「まずは阿修羅クワガタさんの撃破、おめでとう。……大変な敵だったけど、倒せた事について、流石だと思うわ」
リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の浮かべた微笑みは心の底からそれを祝福するものだった。
広島市を襲ったイェフーダーの事件の解決、そして阿修羅クワガタさんの挑戦を打ち破った事により、ローカスト勢力は大きく弱まっている筈である。それは誇っていい事だとはリーシャの弁だった。
だが、それが一瞬にして真顔に転じる。それは次の事件の到来を意味していた。
「二つの事件をみんなが解決したことによってローカストのグラビティ・チェインは大きく減衰している。だけど、それは全てが良い方向に向かっているわけじゃないわ」
そして自分の見た未来予知の内容を告げる。グラビティ・チェインの枯渇により理性を失ったローカストが人里を襲う事件が発生する、と。
「未来予知に見えた光景は広島県と島根県の県境近くにある山間の村。そこを理性を失った四体のローカストが襲撃するわ」
そして、グラビティ・チェインを得る為に無辜の村人達を惨殺するのだと。
それを告げる表情は、悲痛な色で曇っていた。
「全て蟻のローカストね。揮発性の体液を吐く事以外、目立つ能力は持っていないわ。蟻の膂力に気を付けるぐらい、かな。個体としての強さはさほどではないけど、飢餓状態の特攻を行う為か、簡単に攻略出来る相手でもないみたい」
ケルベロスが力を合わせれば倒せない相手ではないが、油断すればどうなるか判らない。そう告げた彼女はその飢餓状態であることが難しい、と眉を顰める。
「そして、その対処は村の中で迎撃するか、外で迎撃するか。その二択になるわ」
それぞれ利点と欠点がある。飢餓状態のローカスト達による襲撃である。村の中で迎撃すれば、彼らはケルベロス達の撃破よりも村人を襲う事を優先するだろう。
それをさせない為には村に向かうローカストを発見し、撃破するという手がある。だが、万が一、発見できなかったときは村の被害は免れないだろう。
「ローカストは集団で行動しているから、発見さえ出来れば問題はないだろうけど……」
山間部であり森林地帯である。地理はそれが容易では事を示していた。また、ケルベロスに気付けば迎撃を優先するだろう。その為、散開しての探索も得策ではないと思われる。
「かと言って、事前に村人を避難させる事は出来ないわ」
予知と違う状況を作れば襲撃そのものが変わってしまう。難しい局面だが、何れかを選択し、それを叶える為に動く必要があるのだ。
「今回の様な脱落者が出るのは軍隊として行き詰まっている証拠よ。ローカストの残党が瓦解するのは時間の問題かも知れない」
だが、その為にもまずは今、目の前に迫った脅威を取り除く必要がある。
だから、とリーシャはいつも通り皆を送り出す。
「さぁ。いってらっしゃい」
参加者 | |
---|---|
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277) |
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629) |
白波瀬・雅(サンライザー・e02440) |
レオナール・ヴェルヌ(軍艦鳥・e03280) |
アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764) |
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499) |
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) |
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330) |
●森を駆ける
がらがらとリアカーの駆ける音が森の中に響き渡る。ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)によって引かれたその荷台には大量の焼き芋が積まれ、香ばしい匂いを周囲に撒き散らしていた。
その足が止まらないのはユージン・イークル(煌めく流星・e00277)とアルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)による隠された森の小路の恩恵だ。木々はまるで道を譲る様に空間を作り、その行く手を阻む事は無い。
走り回る六人のケルベロス達は、一個の群れとなって深い森の中を駆け巡る。目指すは飢餓によって狂乱した四体のローカスト。彼らが無辜の村人に手を出す前に発見し、撃破する為に。
――そう。それは間違いなかった。
(「でも……」)
白波瀬・雅(サンライザー・e02440)は表情を硬くする。時折、目を閉ざし、瞑想にも似た呼吸を行うのは周囲の気配を探ろうとするが故だった。
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)と共にヘリオンからローカストを発見する試みは失敗に終わっていた。幾ら外見が目立つローカストとは言え、その数は僅かに四体。視認出来る程の大きさは無く、彼らを隠せるぐらいに森は深い。或いは羽根蟻ならば飛行中の様子を捉える事が出来たかも知れなかったが、四体ともそうでは無かった様だ。
今もなお、上空ではレオナール・ヴェルヌ(軍艦鳥・e03280)と神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)の二人が周囲を警戒している。ローカストが村に到着する前に発見する。その気概は失われておらず、その為に索敵を続けている。
だが。それでも。
狭い日本の一地方とは言え、目当ての集団を見つけ出す事は困難だ。それ故、誘き寄せる為の手段としてこの大量の焼き芋を用意した。
「ヘリオライダーの予知では、流石に遭遇場所まで判らなかったけど」
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)の声は浮かない。赤髪のヘリオライダーが告げた予知はローカストによる村襲撃の光景であり、それを現実のものとしない為に彼女たちは村の外での迎撃を選んだ。襲撃方法、即ち、どの方角から襲ってくるか判明すれば、迎撃も容易になる。その目論見の上で確認を行ったものの、未来予知はそこまで万能では無かった。
(「だから仕方ないのだけど」)
雅は焦燥感を拭い去る事が出来ない。ボタンの掛け違いの様に浮かぶ焦りは、何が起因となって発せられているのか、自身でも判断が付かなかった。
「グラビティ・チェイン枯渇による飢餓か。どのくらい苦しいんだろうね」
殊更、大きな声をアルレイナスが上げるのも、ローカストを引き付ける為だ。それに応じたユージンの言葉に、雅ははっと息を飲む。
「狂乱するぐらいだからね。ボクらの『お腹空いた』程度では無いんだろうけど」
(「狂乱?」)
我を失う程狂っている。アポロン達からの脱走も、村への襲撃もその元に行われた。
彼女と同じ考えにヒメも思い当たったのだろう。足を止め、その名を呼んでいた。
「ミリオ!」
急停止したレプリカントの少女は一瞬、訝しげな表情を浮かべたが、二人の視線が裾から伸びている赤い糸に気付くと、それを持ち上げ、くいっと引く。村と彼女を繋ぐアリアドネの糸は、始点への最短距離を示している筈だ。
「村に戻ろう!」
上空を飛ぶ二人にも届かんばかりの大声を上げ、雅は駆け出す。
――農作物も家畜も食い荒らされていた。
ケルベロス達はそれを好みと判断した。
だが。
それがもしも、グラビティ・チェイン枯渇による狂乱の末、見境の無い捕食だったとすれば。
「あくまで、ローカストの目的はグラビティ・チェイン!!」
隠された森の小路に作られる通路を間に合えと、駆け抜ける。上空では二つの影――鈴のサーヴァントであるリュガを含めれば三つの影が、地上の彼らに負けじと空を駆け抜けていた。
●狂乱の獣
漂う異臭にユージンは顔を歪める。鼠のウェアライダーである彼の嗅覚は、その異臭を的確に捉えていた。
視線の先ではレオナールと鈴、そしてリュガが四体のローカスト相手に大立ち回りを行っている。時間にして20秒ほどのそれは、しかし、村の命運を分かつ時間でもあった。
粘度の高い揮発性の体液が、三者の身体を侵している。ユージンが嗅ぎ取った異臭は、彼らの皮膚が爛れる臭いだった。
「すまん。少し遅れた」
Blood・Rootから発する聖なる光で仲間の傷を癒しながら、ゼフトが短い詫びの言葉を口にする。リアカーを捨てたとは言え、地上を走る彼らと空を飛ぶ二人の間では速度が違う。結果、二人と一匹に負担を強いる事となってしまった。
「間に合った。だから、それだけでいい」
鈴の施す癒しのオーラを纏いながら、レオナールは首を振る。自分達が礎となり村人達を救えるのであれば問題無いと力強く頷いて。
「そう。今はそれで充分」
機械仕掛けの妖精達を召喚しながら、ヒメがレオナールの言葉を肯定する。
狙いを北東に絞っていた事が幸いした。そうでなけば、慌てて引き返したとしても北東から侵入するローカストと遭遇する事は叶わなかっただろう。間一髪、と言う言葉が頭に過ぎる。
「ジグザグに動いていなければ、遭遇したのかな?」
「いや、結果論だね」
ユージンの不安げな声を吹き飛ばしたのはアルレイナスの放つ回し蹴りだった。口腔からの体液噴霧の体勢を取るローカストの首筋に、暴風の様な一撃が放たれる。
足から伝わる感触は硬く。鎧にも似た蟻の外骨格が致命傷になり得ない事を示していた。
「目標捕捉、オープンコンバット。――今は敵を排する事を優先しましょう」
淡々とした口調と共に放出されたミオリのオーラはローカスト達を包み、その身体を凍結させていく。自身らを覆う霧氷を身震いで粉砕したローカストは自身の牙をケルベロス達に突き立てようと肉薄する。
「このぉ!」
大顎から繰り出される牙を受け止めたのは、ユージンの盾、そしてアルレイナスの直剣だった。噛み砕かんばかりの勢いに押されながらも、しかし、鍔迫り合いの如く力を拮抗させる。
「反省は後からでも出来る。でも、後悔しても遅い状況を作るわけに行かないよね」
アルレイナスの、否、ケルベロス達の背後に広がるのは、平和な営みを享受する村だ。村民達には家の中に籠もる様に指示をしているが、家屋の壁如き、デウスエクスに対する防壁には程遠い。自分達が突破されれば、未来予知の惨劇を招く事は火を見るよりも明らかだ。
そんな事、正義に燃える自分達が許すわけに行かない。
「だりゃッ!」
力任せに振り抜いた剣戟はローカストの身体を吹き飛ばした。しかし、地面に軽やかに降り立ったそれは着地後、再びケルベロス達へ跳躍。緋雨と緑麗の対となる斬霊刀を構えるヒメに牙を剥く。
「グラビティ・チェインが欲しいなら、ボク達を倒してからにしなさい」
牙と刃が打ち合う、甲高い悲鳴が森の中に響いた。
●蟻と番犬の輪舞曲
上気した呼吸音が辺りに響く。剣戟と怒号と悲鳴。ぎちぎちと牙や外骨格がこすり合う音の他、周囲に響く音はケルベロス達が上げるものだった。
「――リューちゃん!」
鈴から上がった悲痛な叫びは自身のサーヴァントが無へと帰された為だった。執拗に繰り返された侵食攻撃はディフェンダーの役目を担う四者の包囲をかいくぐり、ボクスドラゴンの身体を蝕んだのだった。
「ごめん」
自身の身体を侵す火傷をエネルギーの光球で癒しながら、ユージンが呻く様に呟く。
明らかに回復手が足りていなかった。列回復のグラビティは五人と一体の前衛の数に阻まれ、上手く作用していない。ならばと単体回復に切り替えたものの、当初予定していたエンチャントの付与が不発に終わっている以上、被ダメージは想定以上のものとなっていた。
だが、それはローカスト達も同じ筈だ。八人と二体による猛攻は四体の内の一体に集中する事により、体力と気力、その双方を奪っている筈だった。
――それでも、ローカストは倒れない。飢餓による狂乱は、彼らに力尽きる事を許さなかった。
「直線的な攻撃は読み易い。……筈なのだけど」
光線で牽制するミオリの言葉は苦々しく響く。彼女の評価通り、彼らの繰り出す一撃を見切るのは容易い。その筈だった。だが、飢餓による執念によるものか、気魄に裏打ちされた一撃は避けきる事は叶わず、ケルベロス達の身体を切り裂き、或いは灼いていく。
対するケルベロスの攻撃は、効果的な打撃を与えていると言い難かった。スナイパーである自身の攻撃はともかく、他の攻撃はローカストに全て届いていると言い難い。鈴が時折、祖霊の魂付与による命中の上昇を試みるものの、減衰の壁に阻まれ、目論見通りの役割を果たしていなかった。
「ヤードさんっ!!」
リュガが倒れた以上、次の目標は明確だった。サーヴァントのウイングキャットに殺到するローカストの牙が、爪が、噴霧する体液が、悲鳴を周囲に響かせる。
「あ、ああ、あああ」
無論、ユージン本人に痛みがあるわけでは無い。だが、半身をもぎ取られたかの様な消失感は、彼を虚脱させるのに充分だった。
ヤードを貪ったローカスト達の目が輝く。全ての傷が癒えない彼にそれを阻む力は無く。
「ヴァルキュリア・ストラァァァイク!」
ローカストの一体が宙を舞った。雅による蹴撃、投げ槍の一撃とも見紛う飛び蹴りがその身体を吹き飛ばしたのだ。幾多のケルベロスの攻撃を受けたローカストはその一撃で決壊、光の粒子へと転じていく。
「これ以上は苦しまないように、せめて」
荒い息を零す彼女も、全身に火傷、そして裂傷が走っている。前線として戦場を支えた彼女もまた、無事とは言い難かった。
だが、この身体はまだ動く。人々を守る事が出来る。
ならば、諦める道理は無かった。
「たかが一体。されど、一体」
ゼフトによる埋葬はローカストに混乱を誘い、闇雲に体液を噴霧するローカストは同士討ちの如く、仲間の身体を灼く。立ちこめる異臭は蟻の皮膚が焼ける臭いでもあった。
それでもローカストは動きを止めない。数々のバットステータスに阻まれようとも、その歩みは止まらない。
飢餓による苦しみは何者にも勝ると言わんばかりの行軍に、レオナールは息を飲む。
「アポロンの……『神』と言う名の強制力、か」
宗教とは即ち、生きる指標でもある。神の命令であれば命を投げ出す事を厭わない事は、何もローカストの専売特許では無い。その挙げ句、使い捨てにされる彼らに憐憫の情が沸かないわけでもなかった。
だが、そうだとしても彼らの飢餓を満たす事は出来ない。自分達が守る者達の為。そして、彼らを一介の獣に堕とさない為に。
「風よ、風よ、我が手に集え! ……大気の鉄槌を其の身に受けろ!」
拳に宿った空気の塊――風鎚をローカストの身体に打ち付ける。これもまた一つの爆弾と放たれた打撃はローカストの外骨格を貫き、体内で弾き飛ぶ。体内で力を解放された暴風は、そのエネルギーを縦横無尽に駆け巡らせ、ローカストの身体を破裂させた。
それは、ジバクアリの名に相応しい最期でもあった。
「シャァーーっ!」
仲間の最期にしかし、ローカストから悲嘆の声は飛ばない。それよりも捕食を優先すべしと牙を剥き、ケルベロスへと殺到する。
「その輝きを……どうして他の事に使えなかったのさ!」
無数の星形の光が舞った。誘蛾灯の如く、ユージンから発せられた輝きに、ローカスト達の視線が一斉に彼に注がれた。
「そんな――!」
「馬鹿なっ!」
彼の意図を理解し、ミオリとゼフトが呻く。
サーヴァントが失われた以上、次にローカストが牙を剥く相手はサーヴァント使いであるユージン、もしくは鈴だろう。組みやすい相手を狙うのは当然の事。二体にまで減ったとは言え、デウスエクスの集中砲火を、体力に劣る彼が耐えきれる筈も無い。
それでもユージンは輝きを放つ。仲間をこれ以上傷つけさせないと、はにかむ笑顔がそう伝える様であった。
「……戦術としては正しい」
ヒメの言葉は唇を噛みしめ、紡がれる。背を向ける形となったローカストを雷の霊力で切り裂く彼女は、血塗れになった彼を称えるかの様に頷いた。
ユージンに攻撃を集中させると言う事は、他の七人から注意を逸らすと言う事だ。ヒメを始めとした全てのケルベロスに、無防備な背を晒す事がそれを示していた。
背中を切り裂かれたローカストの身体が崩れる。そこに殺到する無数の銃弾は、ミオリの放つ跳弾だった。縫い止める様に形成された銃弾の檻は、ローカストをその場に釘付けにしていた。
「さあ、ゲームを始めよう。運命の引き金はどちらを選ぶかな?」
銃弾の檻を抜けたゼフトは、その眉間に自身の拳銃を押し当て、引き金を引く。放出された弾丸はローカストの体内で弾け、皮を、肉を、神経をグチャグチャに掻き回していた。
「最期はジョーカーだったようだな」
光の粒へと化していくローカストへ手向けとばかりにジョーカーの札を捧げる。ただの紙の札に過ぎないそれは、高熱を帯びたローカストに触れると、次第に焼失していった。
「ジャスティス力が溢れて満ちるッ! 正義がこの手を求めて集うッ!」
そして残ったローカストもまた、最期を迎える。アルレイナスは輝く掌でその顔面を鷲掴みにすると、勢いのまま、そびえ立つ樹木へ叩き付けていた。
光が溢れる。ローカストの吐き出す体液が掌を、身体を侵すが気にしない。それに臆するようでは、正義では無い。
「爆砕ッ! ジャスティスフィンガァァー! ボンバァァーッ!!」
そして、光が炸裂した。ジャスティス力と名付けたグラビティがジバクアリの身体を駆け巡り、破壊の力となって吹き荒れる。零距離で炸裂した力はアルレイナス本人にも爪痕を残すが、その痛みすら受け入れる。
それは他者を屠る痛み。相手が受ける痛みはその比ではないと、納得した上での痛みだった。
光が駆け抜けた後、そこには何も残されていなかった。
ただ、アルレイナスの身体を灼く異臭が、最期を物語るだけだった。
●終結の園
「痛いッ!」
「生きているのだから当然です」
アルレイナスの悲鳴を無視し、鈴はてきぱきと治癒を施していく。無茶をしたユージンには可能な限りの処置を施したが、ついぞ、意識は取り戻せなかった。ヘリオン到着次第、急ぎ病院へ運ぶ必要があるだろう。
「周囲に敵性存在なし。クローズコンバット。……ですが」
「アポロンの居場所、探らないとね」
ミオリの言葉をレオナールが引き継ぎ、それに雅、ゼフト、ヒメと言った面々も強く頷く。元を立たねば再び同じ事が起きてしまう。それは彼らの共通認識だった。
ケルベロス達は皆、同じ思いを抱いていた。
――こんな馬鹿げた黙示録騎蝗は早く終わらせなければ、と
作者:秋月きり |
重傷:ユージン・イークル(煌めく流星・e00277) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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