一人芝居を二人で会得せよ、ですって?

作者:秋津透

 群馬県前橋市、郊外の山の中。
 ほとんど人の立ち入ることのない山林の一隅に、異様な三人組が出現した。一人は奇術師のような派手な服装の若い女性、一人はだぶだぶの道化師服を着た性別不明の小柄な人物、一人は蝶ネクタイをつけた給仕のような格好をした大男だが、三人とも顔面を螺旋模様の仮面で覆っている。デウスエクス・スパイラス……螺旋忍軍だ。
 そして奇術師のような姿の女が、他の二人に命令口調で告げる。
「この街に、一人芝居の興行を仕事にしている人間がいるようです。その人間と接触し、仕事内容を確認、可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「……一人芝居、ですか?」
 それはいったい何でしょう、と大男が首をかしげ、さすがに説明不足と思ったか、奇術師風の女が補足する。
「ええと、この星の人間たちは、役者と称される者たちが事実の再現や架空の物語の構成を行い、観客と呼ばれる者たちを楽しませる、芝居という娯楽を嗜んでいるの。普通、役者は何人もが連携して芝居を行うのだけれど、一人芝居の役者は、それを一人でやってのけるのよ」
「はあ……」
 ますますわからん、という風情で大男は溜息をついたが、小柄な道化師が甲高い声で応じる。
「了解しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの作戦も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう?」
「ええ、その通りよ。あなたたちの働きに、期待します」
 ミス・バタフライと呼ばれた奇術師風の女は、ちょっと安堵したような口調で応じると、そのまま姿を消す。その後には、半透明な蝶が何匹か舞っていたが、やがてカードに変化して地面に落ちた。

「またもミス・バタフライが、わけのわからない指令を出したみたい」
 憮然とした表情で、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)が告げる。
「今度は、一人芝居をする人の仕事内容を確認、可能ならば習得した後、殺害せよ、ですって。そもそも、一人芝居の会得を二人の螺旋忍軍に命じる時点で、根本的に間違ってると思わない?」
「ええと……群馬県前橋市で、螺旋忍軍のミス・バタフライが策動を行うという予知が得られました」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、当惑気味の表情で告げる。
「例によってミス・バタフライは、二体の配下に向け、前橋市に住むある人物の仕事内容調査、可能なら技術技能の習得、そして殺害を命じました。今回狙われているのは、既にロベリアさんが言われていますが……一人芝居を行う役者さんです」
 そう言って、康は一同を見回す。
「調べたところ前橋市には、一人芝居の興行を定期的に行っている早野キンゾーさんという役者さんが住んでいるようです。コメディアンとしても高名な方なので、おそらくミス・バタフライ配下の二体の螺旋忍軍は、この人に接触してくるでしょう。しかし、事前にこの人に警告して、避難とか身を隠すとかの対応をすると、別の役者さん……場合によっては落語家さんや一人喋りの漫才師の方が狙われるかもしれません。そうなると、防ぎようがなくなってしまいます」
 螺旋忍軍が、一人芝居の役者さんと、落語家さんや一人喋りの漫才師の方の区別がつくかどうか、はなはだ怪しいですから、と呟き、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「早野キンゾーさんは、前橋市郊外の邸宅に一人住まいされているようです。弟子入り志願をするか、一人芝居の興行を依頼するか、何かの取材と称するか……とりあえず急ぎさえすれば、螺旋忍軍に先んじて早野さんに接触することはできると思います」
 接触した後どうするかは、状況次第だと思いますが、と、康は肩をすくめる。
「ミス・バタフライが差し向けてくる螺旋忍軍は、二体。予知の中では道化師の服を着た小柄な人物と、お仕着せ姿の大男の二人でしたが、さすがに、そのままの格好で接触しては来ないと思います。どんな格好で、どうやって接触してくるのかは、まったく分かりませんが、大柄と小柄の二人組に対しては、警戒が必要かもしれません」
 そう言って、康は一同を見回す。
「ミス・バタフライ……螺旋忍軍が、なぜ一人芝居をする役者さんをわざわざ狙うのかは分かりませんが、風が吹けば桶屋が儲かる式に、連鎖しての大事件を起こそうとしているのかもしれません。いずれにしても、螺旋忍軍が一般人を狙っているのを、放置はできません……どうか、よろしくお願いします」


参加者
君影・リリィ(すずらんの君・e00891)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
ガンバルノ・ソイヤソイヤ(リペイント・e18566)
真昼間・狗狸狐(なにもかもなにもかも・e22743)
ホルン・ミースィア(見た目は巨神っ頭脳は子供・e26914)
三上・詩音(オラトリオの鹵獲術士・e29740)
青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474)

■リプレイ

●……その問題は気付かなかった
「……デウスエクスが、僕の技能と命を狙っている?」
 日本における一人芝居の第一人者として名高い個性派コメディアン、早野キンゾー氏は、草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)が渡したケルベロスカードを見詰めて唸る。
「冗談じゃないようだけど、でも……何で?」
「それは、俺たちにも分かりません。デウスエクスってのは、ホントに何考えてっかわかんねー連中で」
 渋い表情で、あぽろが応じる。
「ま、敵が何考えてよーと、貴方は俺たちが守ります。ただ、敵がいつ、どんな具合に来るかわからねーんで、住み込みの弟子ってことで、身辺警護させてもらえませんか?」
「そうだね。地球を守るヒーローケルベロスに頼まれては、イヤとは言えないが」
 そう言って、早野氏は肩をすくめる。
「ただ君たちは、実際は強力なヒーローなのだろうが、外見は可愛い女の子だ。正直、君たち全員を住み込み弟子にしたら、キンゾーの野郎、いい年こいてロリコンハーレム作りやがった許せねぇ、とかいわれて、芸人仲間に警察通報されかねない」
「……はあ」
 言われて、あぽろは仲間を見回す。八人全員が女性で、しかも六人が未成年。最年長が二十一歳のガンバルノ・ソイヤソイヤ(リペイント・e18566)で、最年少は十歳の赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)。あぽろ自身も、実は十六歳の金髪紅瞳超絶美少女だったりする。
 すると君影・リリィ(すずらんの君・e00891)が、幾重にも猫をかぶった静かな口調で告げる。
「キンゾーさまに、汚名を着せるわけには参りません。私は通いの外弟子として、昼間伺うようにします」
「んーむ。ま、何が起こるか分からねーから、一人は内弟子として入るとして、他は急報受けたら駆けつけられるよう、近接待機か」
 眉を寄せて、あぽろは再度一同を見回す。
「で、誰が内弟子入る?」
「それはやはり、成年に達している方でしょう」
 リリィが応じると、十二歳の真昼間・狗狸狐(なにもかもなにもかも・e22743)と、十一歳のホルン・ミースィア(見た目は巨神っ頭脳は子供・e26914)が抗議の声を上げる。
「成年に達しておらずとも、護ることなら誰にも劣らぬ! わしに任せい!」
「子供の見かけがダメなら、鎧装展開するよ! それならいーでしょ?」
「ダメに決まってんだろ。特にホルン! ゴツい鎧装したのが居ると知られたら、螺旋忍軍が計画変えて他の人を襲っちまうだろうが!」
 あぽろに一喝され、少女と大型鎧装戦士の二つの姿を持つホルンは目を丸くする。
「そ、そか……じゃ、鎧装展開して師匠の肩もみするとかも、ダメ?」
「ダメ! 戦闘時以外は、鎧装厳禁! 絶対禁止!」
 あぽろが言い放ち、ホルンはふえーんとべそをかく。
 すると三上・詩音(オラトリオの鹵獲術士・e29740)が、物憂げな口調で告げる。
「私は成年に達しているけど、その方には興味を持てないので、内弟子は辞退するわ。その代わり、皆のサーヴァントを預かって隠れているわね」
「あ、そーだな。サーヴァント付いてたら、ケルベロスだってモロばれだもんな」
 あぽろが応じると、そこまでサーヴァントのテレビウムに、小声で延々と話しかけていた青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474)が、愕然とした声を出す。
「そ、それじゃ、一般人を装う間は、レビくん……自分のサーヴァントと一緒には居られないんですか!? ではあたしは、誰と話をすればいいのでしょう?」
「サーヴァントと一緒にいたいなら、人前に出ず、戦闘になるまで隠れていればいいわ。私と同じようにね……でも、私はやかましいのは大嫌いだから、その場合は別行動にさせてもらうけど」
 詩音が告げると、杏奈はテレビウムを持ちあげて差しだす。
「お預けします。よろしくお願いいたします」
「……実際に預かるのは、あなたが一般人を装って人前に出る間際でいいと思うけど?」
 この子ウザい、心底ウザい、と、口には出さずとも冷たい視線で告げながら詩音が指摘し、杏奈は更に身を縮める。
 一方ガンバルノは、無表情を装いながらも瞳をきらきら輝かせる。
「詩音さんが辞退されるなら、成年に達しているのは私だけですね。ではガンバルノ・ソイヤソイヤ、早野キンゾー様の内弟子役を務めます。どうか、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
 苦笑混じりに、早野氏が応じた。

●罠にかけたか、かかったか
「……キンゾーさん、いったいどうしたの、この子たち?」
 詩音を除く七人のケルベロス少女たちをぞろぞろ連れて、打ち合わせ場所に現れた早野氏を見やって、相手方のスタッフ……中年の女性と若い男性の二人が目を丸くする。
「ああ、ちょっとね……事が収まるまで詳しい事情は話せないが、浮いた話じゃないとは言っておこう」
 苦笑を浮かべて、早野氏は告げる。
 すると、早野氏がテーブルの上に置いたスマートフォンに、着信表示が出た。
「……ちょっと失礼」
 断って、早野氏はスマートフォンを取る。
「はい、早野です。……ほう、僕の弟子になりたいと。許すか否かは、直接会ってみてからだけど、僕は今、外で仕事中なんだよ。僕の家を知ってるかい? ……そうだよ。ならば家に行って、弟子の女の子たちと話していてくれ。……ああ、君や仲間が僕に弟子入りするなら、姉弟子になるね。僕も、仕事が終わり次第家へ戻る。それじゃ、のちほど」
 ごく自然に告げると、早野氏は通話を切り、ケルベロスたちに訊ねる。
「どうやら『敵』が接触してきたようだが、これで良かったかな?」
「最高です! さすが、我らが師匠、早野キンゾー先生! 名演技でした!」
 ガンバルノが感動した声を出し、あぽろが仲間に告げる。
「すぐに、早野先生のお宅に戻るぞ。後手踏んじゃいけねぇ」
「わしは、師匠の傍に残る」
 狗狸狐が、きっぱりとした口調で応じる。
「今の電話が師匠と我らを引き離す策かもしれんし、全然無関係な弟子入り志願者の可能性もある。ほんの少しでも、敵が師匠の方に来るおそれがあるうちは、わしは傍を離れん」
「いい配慮だ。頼むぜ」
 にやりと笑ってあぽろがうなずき、狗狸狐も微笑して続ける。
「螺旋忍軍二人を確実に捕捉し、戦闘になったら呼んでくれ。全速で駆けつける」
「了解だ。……それじゃ、師匠、のちほど。朗報をお届けできるよー、全力を尽くします」
 あぽろが早野氏に深く礼をし、狗狸狐を除く六人のケルベロス少女たちは、風のようにその場を立ち去った。 

(「ひゃー! 怪しい! 怪しすぎるよ、その変装!?」)
 ケルベロスたちが早野邸に戻って間もなく、二人組の男が訪問してきた。タクシーから降りた二人を見やって、緋色は思わず叫びそうになるのを、懸命に堪える。
 二人組は、予知された通りの大柄と小柄のコンビ。服装は普通に安物のジャケットだが、問題は顔面。さすがに螺旋忍軍のシンボル、螺旋の仮面は露出していないが、人肌には絶対見えないゴムマスクをすっぽりかぶっている。
 しかしガンバルノは結構如才なく、怪しすぎる二人組に対処する。
「弟子入り志望の方ですね。早野先生から、お話は伺っています。私は内弟子のガンバルノ・ソイヤソイヤです」
「ハイ、キンゾー・ハヤノ先生カラ一人芝居ヲ学ブタメ、異国カラ参リマシタ。私ハ『イワン』コノ者ハ『ニキタ』デス」
 小柄な方が挨拶し、大柄な方は無言で頭を下げる。
「ふむ、一人芝居を学びたいと……では先生がみえる前に、私たちがお相手します。ニキタさん、こちらへ」
「ワ……ワシ、デスカ?」
 大男が当惑した声を出したが、ガンバルノは平然として応じる。
「ええ、そうです。一人芝居演者としての力量や素質は、一人にならなくては見えません。あなたは、少々イワンさんに依存する様子が見えるので、試しを先にします」
「ム……」
 唸る大男に、小男が告げる。
「行ッテ来イ。マズ弟子ノ方ニ認メテモラワネバ、話ニナラン」
「……承知」
 短く答え、大男はガンバルノについて庭の方へ向かう。あぽろ、緋色、ホルンが続き、リリィと杏奈が小男とともに残る。
(「分散はできましたけど……正直、戦闘になったら、私たち二人だけで螺旋忍軍一人を足止めするのは厳しいですね」)
 せめてサーヴァントがいてくれれば、と、リリィは内心溜息をつく。
「さて、御同輩が終われば、当然、貴方の力量も見ますが、それまでどうします? 中に入って、お茶でもいかが?」
「イエ、オ構イナク」
 短く答え、小男は周囲を見回す。大男との戦闘は、早野邸の裏山まで引っ張っていって行う予定だが、さすがにこのまま野外で何もしない状態では気付かれるだろう。
 すると杏奈が、かしましい口調で尋ねる。
「あの、一人芝居って何なんでしょ? 早野先生、そーゆーのやってらっしゃるんですか?」
「え? 知らないの? 早野先生は、日本における一人芝居の第一人者なのよ」
 リリィが応じると、杏奈はあっけらかんと答える。
「あたし、弟子入り志願じゃなくて、新聞部の取材で来てるだけですから。あまり詳しくないんですよ~」
「それはいけないわ。早野先生の一人芝居公演を記録した映像があるから、一緒に見ましょう。イワンさんも、ご覧になりますよね?」
「エ? ……エエ、勿論デス」
 うなずいた小男と杏奈を引っ張るようにして、リリィは早野邸の鍵を開け、中に入る。
(「オーディオルームは完全防音……螺旋忍軍の感覚を遮断できるかは不明だけど、一人芝居の映像に集中させておけば、離れた野外での戦闘に気付かれずに済むかもしれない……」)
 でも、オーディオルームでの戦闘は避けたいわ、と、リリィは内心で肩をすくめた。

●忍軍死すべし 
「では、始めましょう。まず、そのゴムの仮面を外してください」
 ガンバルノに告げられ、大柄な男は躊躇する。
「イヤ、コレハ……」
「貴方の事情は存じませんが、一人芝居の役者が観客に素顔を晒さないというのは、ほぼ致命的弱点です。もし外せないなら、一人芝居を演じるのは諦めた方がいいですね」
 ガンバルノは冷淡に告げ、大男は渋々ゴムの覆面を外す。その下から出てきたのは、やはり螺旋の仮面だった。
「……コノ仮面ハ、外セナイ。一人芝居トハ、仮面ヲ付ケテイテハ、取得不能ナ技能ナノカ?」
「その通りです。ろくに調べもせず、実現不可能な指示を出した、馬鹿な上司を怨みなさい」
 ガンバルノの声が冷やかさを増し、狙い澄ましたあぽろの斬撃が大男を斬り裂く。
「グワッ!」
「螺旋忍軍、デウスエクス・スパイラス。侵略者の証明、螺旋の仮面を晒すとは、俺たち地球人もナメられたもんだな!」
 愛刀『GODLIGHT』を構え、あぽろが鋭く言い放つ。続いて緋色が、いきなり必殺技『PS-CC(パニッシングストライクコエドシティ)』を繰り出す。
「いちげきひっさーつ!」
「ギャアアッ!」
 緋色が川越市で抽出したグラビティチェインを、武器に纏わせ大ジャンプ。渾身の力で相手の頭上から武器を叩きつけると、何やかんやで大爆発が起きる。
「キ……キサマラ……タダノ地球人デハ……ナイナ?」
「だとしたら、何か?」
 冷たく問い返し、ガンバルノがガトリングガンをぶっ放す。全身ズタボロの螺旋忍者は、それでも何とか逃げようと跳んだが、そこへウィングキャットが飛びかかる。
「ルナ!」
「ちゃんと、戦闘には参加できるよう、用意しておいたわ」
 歓喜の声をあげるホルンに、今までどこに潜んでいたのか、サーヴァントたちを連れた詩音が物憂げに告げる。
「ありがとう、詩音おねーさん! よし、いくぞ!」
 勇躍、ホルンは禁断の巨大鎧装を召喚し、遠慮会釈なく必殺技『Light to the beginning(ハジマリヘイタルヒカリ)』を繰り出す。
「これは魂送る悼みの焔……次界を貫く光の階……何より早く時駆けた初源の洸陽……世界を生んだ始まりの炎にて、全て、無に還れ」
 少女の澄んだ声が宣告する後ろで、電子音声のような声が低く響く。
「カノンモードへ移行、フォトンライン全開放……ルナライズ正常稼動値内、S.B.A臨転開始……光状鎖杭射出、機体の空間固定を確認……S.B.A臨界。続き余剰光子による仮想砲塔構築へ。光素圧縮率下限突破……L.O.T.A.S施条刻転開始、熱壊防護膜を表層散布……光波によるレンジ修正ベクトル補正完了……目標捕捉、最終セーフティ解除……撃ちます」
 そして、巨大鎧装から放たれた高出力光子ビームが、大柄な螺旋忍者の全身を焼き尽くす。
「おっと! 間に合わんかったか!」
 連絡を受けて急行してきた狗狸狐が、少し口惜しげに言ったが、巨大鎧装をまとったままのホルンが応じる。
「敵は、もう一人いるんだよ! 急いで、師匠のお宅へ戻らなきゃ!」

「……ニキタさんの試験が終わりました。姉弟子は、続いて貴方の試験をすると言っていますが、よろしいですか?」
 リリィの言葉に、小男は何の疑いもなさそうに応じる。 
「エエ、勿論デス」
「では、外へ」
 画像再生システムを止め、三人はオーディオルームを出る。
 そして早野邸から出た小男は、周囲を見回し、待ち受けている少女たちに訊ねる。
「ニキタハ、ドコデスカ? 彼ハ、試験ニ合格シテ弟子入リデキルノデスカ?」
「残念ながら、ニキタさんの弟子入りは認められません」
 冷やかな口調で、ガンバルノが応じる。
「あなた方は、侵略者デウスエクス・スパイラス。螺旋の仮面を外すことはできず、観客に素顔を晒せない。それで、どうやって一人芝居を演じるのですか?」
「ヌッ!?」
 一瞬、驚愕した小男に、あぽろの必殺技『超克示す太陽神の火砲(ソーラービーム)』が炸裂する。
「芝居は教えてやれねーが、舞台の気分だけでもどーだ? スポットライトだ! 『超太陽砲』!!」
 陽の深奥を見せてやるよ、と嘯くあぽろは、草火部神社の太陽神『陽々(ひひ)』を自身に降霊している。吸収・増幅した太陽エネルギーと魔力を練りこみ、避けようのない至近距離から放つ。
「グワアッ!」
 巫術と魔法の融合による火力の極致に直撃され、小柄な螺旋忍者は黒焦げになるが、しぶとくゆらりと立ち上がる。
「オ、オノレ……ハカッタナ……」
「ええ、いくら怨んでいただいても結構! キンゾーさまを護るためなら、私たちは鬼にも夜叉にもなりましょう!」
 凛然と言い放ち、リリィが炎を伴う蹴りを放つ。続いて杏奈が、雷撃を撃つ。
「あなたも見ましたよね! キンゾーさんの一人芝居、至芸ですよ! デウスエクスなんかに会得できるものじゃない! まして殺すなんて、とんでもない!」
「ああ、師匠の身は我らが守る! 何があろうともな!」
 狗狸狐が咆哮し、刃のような回し蹴りを打ち込む。既にあぽろの一撃で瀕死状態の螺旋忍者は、この蹴りを躱せず、まともに喰らって頭部を吹っ飛ばされた。




作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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