ディヴィエイション・オブ・ローカスト

作者:鹿崎シーカー

「うおぁっ!」
 勢いよく振り払われ、ローカストの重鎮は尻もちをついた。見上げる先には尊大に腕を組んだローカストの王、太陽神アポロン。
「朕の臣民共よ、奮励せよ、邁進せよ! 黙示録騎蝗による勝利を、朕に捧げるのだ!」
「もうお辞めくださいアポロン様! 不退転侵略部隊、ストリックラー・キラーに続き、阿修羅クワガタさんまでいなくなりました! グラビティ・チェインもありません!」
「既に脱落者が多数出ています。ここは降伏し、ケルベロスから供給してもらうべきでは……」
 重鎮たちはそろって悲惨な現状を訴える。示される黙示録騎蝗中断の提案。しかしアポロンは、腕のひと振りでそれらを全て払い飛ばした。
「朕を崇めよ、ローカストを救う事ができるのは、黙示録騎蝗と太陽神アポロンのみであるのだ」
 傲慢にも言い切るアポロンに、重鎮たちは沈黙する。絶望的な状況の中で、アポロンだけが燃えていた。彼らの母星、レギオンレイドを黒光で照らす、暗黒色の太陽めいて。

 一方その頃、鳥取県の某山村では。
「た、助けてくれぇぇぇ! 助けッ……」
 悲鳴を上げる老人の首が消え失せた。その身にはいつの間にか長い手足が絡みつき、つぶらな瞳を持った白色の頭が哀れな男をむさぼっていた。飛ぶ血飛沫の両端を、別の白い影が駆け抜ける。それらはつまづいた老婆を、車に逃げ込む男性を、家を閉じる親子を長い腕で引きずり上げ、血肉を散らして食らい始めた。
 地獄のような光景の中、住民を食い荒らしたローカストたちは我先にと違う獲物を追い求め、言葉もなく噛み砕く。したたる血が彼らを赤く染め上げる。
 黒い複眼が、血みどろの村を油断なく見まわす。飢えに飢えたその眼光から理性は消え失せ、口からはゴアと化した人だった肉が言葉の代わりにあふれていた。


「…………。ハッ!」
 資料を眺め、絶句していた跳鹿・穫は数分を経て我に返った。
 先日、皆がローカストの猛者阿修羅クワガタさんの挑戦は、ケルベロスによる正々堂々とした戦いによって勝利を収めた。各自複雑な思いはあろうが、まさしく見事な戦いだった。
 広島のイェフーダー事件に続き、阿修羅クワガタさん達もいなくなってしまったことで、ローカストの残存勢力は大きく減退。二度に渡ってグラビティ・チェイン奪取に失敗したのも相まって、壊滅一歩手前と言ってもいいかもしれない。
 だが、これにともなう形で、新たな問題も発生したのだ。
 深刻なグラビティ・チェイン枯渇の影響で、理性を失ったローカスト達が鳥取県の山村を襲撃する事件が起こった。
 彼らは黙示録騎蝗からも脱落し、獣のようにただただ周囲の人々を襲い食らう怪物と化してしまっている。皆には被害が拡大する前に、このローカスト達を討伐してほしいのだ。
 皆に相手してもらうのは、白い体色のゲジゲジ型ローカスト五体。装甲は極めて薄いが素早く、なおかつ極限の飢餓状態で特攻してくるので予想外の強さを見せるかもしれない。
 そして今回の作戦は、襲撃される村でローカストを迎え撃つか、村に向かってくる途中のローカストを発見して迎撃するかのどちらかを選択して実行することとなる。
 前者は素早く戦闘に入れるが、ローカストが村人の捕食を優先する危険性があり、後者は発見こそ比較的簡単であるものの、索敵に失敗すると村の人々が全滅する危険がある。そして、ローカストの戦闘能力を考えると、二手に分かれるのはケルベロスの各個撃破と村民の全滅という最悪の結末を迎えることになってしまうので、よく考えて決めてほしい。
 ちなみに村は畑や一軒家がいくつかある以外はこれといった特徴はない。ただ、強いて言うなら一家に一台移動用の車などがあったりする程度だ。
「かわいそうではあるけれど、こっちも人を死なせるわけにはいかないよ。みんな、頑張ってきてね」


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
夜船・梨尾(黒犬と獅子の兄弟・e06581)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
アシュレイ・クラウディ(白翼の騎士・e12781)
平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)
シファ・コネリー(浚花・e32183)

■リプレイ


 山の茂みがカサカサ揺れる。
 色づく木の葉を巻き上げ風のように走るのは、エノキダケめいて白い体を持つ何か。手足を動かし、黒い瞳をぎらつかせて一目散に駆けていく。ガチガチと鳴る口からは、ねばついた唾とうめき声。飢えと、甘美な気配に誘われるまま彼らは獣めいて走った。
 近づいてくる獲物の匂いを追う中で、彼らは開ける森を見る。集落、肥えた畑、確かに感じるまばらな獲物!
「ギィィィイイイイイッ!」
 おぞましい歓声を上げ、白い風はジャンプする。本能の求めるまま、矢のように茂みから飛び出したその直後。
『我々は……グラト、クラブ…………飢えたる祖国……地に潜ると決めた……恐らく、生きては……』
 ガガピーガガガガ! 大音量のノイズと割れた声。そして閃光! 喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)と相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は腕につがえた光球を一気に膨らます!
「来たぞおおおおッ! 撃てえええええッ!」
 光球発射! 出会い頭の一撃は白い影を光に飲み込み、大爆発を引き起こす! 揺らぐ地面に背後でざわめき。爆発地点をにらみつけ、グレーのパーカーにサングラスといった出で立ちのアシュレイ・クラウディ(白翼の騎士・e12781)は澄み切った白刃を構えた。
「……来てしまいましたか。シファ!」
「だめ……全員は、入らない、って……!」
 離れたところでシファ・コネリー(浚花・e32183)。不安そうな表情をする村人たちを背に、泰地は顔を強張らせた。
「そういうことか。オレとしたことが抜かったぜ」
「だから、避難させる。時間、ほしい……」
 シファが言い終わる前に煙が吹いた! 獣めいた四足歩行をする白色のローカスト達! 飢えた五匹のゲジは獲物を前に、耳ざわりな奇声を上げる!
『ギイイイイイイイイッ!』
「行かせっかァッ!」
 ロケットスタートしたゲジに向かって平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)が踏み込んだ! 機械仕掛けの刀が喚く!
『Hey,bullshits! You dumb broad!』
 口汚く罵る刃を生白い手が握り込む。片手から鮮血を噴き、もう片方の手でつかみかかる。目にもとまらぬ速度のアイアンクローが届く寸前、時枝の髪が赤く輝く! 紅蓮の光は爆発し、一体を吹き飛ばす!
「ほれほれ! 虫退治はアタシらに任せな! さっさと逃げた逃げたぁ!」
 シファがうなづき、きびすを返すのと同時、そばに止まったヘリがプロペラを回して浮き上がる。逃がすまいと走る二匹に夜船・梨尾(黒犬と獅子の兄弟・e06581)とレーヴェが立ちはだかった。組み合い、進軍を押しとどめる!
「思い出してください!」
 梨尾の首に下げられた、赤い鍵と懐中時計。それらと一緒に揺れるサナギ状の装置がノイズ混じりに語りかける。
「これは祖国を救おうとした、貴方の仲間の声でしょう!? 豊穣を願った仲間は、こんなことを望んでません!」
 遺言、決意、願いを述べる記憶のサナギ。大音量で繰り返される文言に……ゲジは反応を示さない。真っ黒な目は相手の姿を捉えておらず、逃げ去っていく人々を、非力な食料を追いかける。唾液が口からしたたった! 組み合う両手に力がこもる!
「ギギッ……ギィィィィィッ!」
「悠乃、今です!」 アシュレイが森に声を張り上げる。森にたたずむ木のそばにドーム状の気流がうずまき、隠れていた彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)が現れる。足元で弧を描く銀の鎖に、手にした杖を突きたてた! 鎖の端はアシュレイの手に!
「皆さん、もう少し耐えてくださいね……行きます」
 鎖を包む虹色の光。杖から降りたそれは銀鎖を伝い戦場を陣の形に斬り抜いてゆく。梨尾は両手に光をまとい、一歩踏み込む!
「通さない……ここは、絶対に!」
「ギガァァァァァァア!」
 波琉那と格闘していた一匹が飛び出した! ゆっくりとせり上がる壁に、緑の粒子をジェット噴射しながら特攻。際限なく加速する! 空高く飛翔したヘリにつかまり、エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)は血のように赤いペンダントを握りしめた。
「アナタ達が欲しがってるのは……本当は、アナタ達自身の為に求めたのでは無かったはずよね。……ごめん。アナタ達には、あげられない」
 呪文めいて小さくつぶやき、宙に身を躍らせる。細身の鎧の端々からどす黒い液体が噴き出し蒼に染まった。複雑に絡み合った蒼の血は、跳躍したゲジめがけて降り注ぐ!
「第参術色、限定解除!」
 巨大な槍がゲジをかすめ地面を穿つ。衝撃で撃ち落とされたローカストとオーロラをはさんで向かい合うエディス。銀の翼を大きく広げ、黒い瞳の視線をさえぎる。
「ここまでよ。あの人たちを食らいたいなら、せめて戦って勝ち得なさい」
 四つん這いのままゲジはわずかに後ずさる。悠乃が展開するヴェールが円の中心で収束し、結界となる。退路、進路を共にふさがれたローカストたちの歯軋りが響く。散らばった五匹を見まわし、波琉那は瞳を揺らした。
「身勝手な思いで仲間を飢えさせるような神の生贄にしたくないけど……私も覚悟キメないとね」
「ギッ……ギゴゴゴゴゴ……」
 お預けを食らった犬めいてうなるゲジの目は、今だ遠くを見据えている。ただならぬ気をまとい、裸足で土を踏む泰地。
「おいおい、どっちを見てやがる。お前らの相手はオレ達だ。これ以上先には行かせねえ……」
 本能で危機を察知したか、ローカスト達が振り返る。みなぎらせた闘志の波動を、雄叫びとともに解放した!
「このまま止めさせてもらうぜ、念入りにな! ぬおおおおおおおおおッ!」
 極光の結界を圧倒的波動が満たす! 怯えたように震える空気に縛られ五匹のゲジは敵の方に目を向けた。本能的な恐怖を耐え難い飢餓感が上書きしていく。爆発しそうな結界の中、白い甲殻から一斉に粒子を吐きだした。
『ギイイイイイイイイイィィィイイイ!』
 金属質な遠吠えを合図に、五匹の獣は地を蹴った。


「行くぜ! まずは舞台を整えるッ!」
 結界の中央に立ち、時枝は刀を地面に突き刺す。足元に刻まれる悠乃のルーン。粒子を噴射しながら時枝を狙うゲジの前にビハインドのレーヴェが割り込む! 肩口をえぐる白い指! 負けじとライオンの腕が白い細身がっちりつかんだ。
「レーヴェさんっ! 押さえて!」
 助走をつけて梨尾は横から飛び蹴る。狙いすました一撃がローカストの足をへし折り、あらぬ方向へねじ曲げた。唾液混じりの絶叫が響く! 直後、結界の真上が開き星空のような無数の光が瞬き始める。
「フライングはご法度だぜ、お客さん!」
 握った刀を一層深く差し込む時枝! 星は剣に形を変えて、結界の内へ落下する。まるで流星群! 次々と降り注ぐ斬撃の雨を、オルトロスのシキがスプリント! 同じく高速移動していた一匹に斬りかかる。
「ギィィィィアッ!」
 片腕をジャンプで回避しキリモミ回転。すれ違いざまに胴を切り裂く! 立ち込める土煙の中から悲鳴! 出来上がった剣の草原の上に立ち、時枝は銃と刀を抜いた。
「待たせたな! 舞台整ったから開演だ! さぁ踊ってみようじゃないの!」
「まったくもう。ちょっと死ぬかと思った、よッ!」
 苦笑気味につぶやく波琉那は剣の雨を潜ってきたローカストに視線を集中。目と目がかち合ったその瞬間、波琉那の赤い瞳が妖しく輝く。目を覆い、叫びながらひっくり返るゲジ! しばし殺虫剤を浴びたゴキブリめいてもがいた後に立ち上がり、零距離でアシュレイに拳を浴びせる別の個体に襲いかかった。シキが吠え、二匹をまとめて炎に包む!
「すみません、助かりました!」
 口早に礼を述べ、引き戻した鎖を放つ。燃えながら噛み合う二匹を縛って悠乃に迫る一体に投擲。背中に命中、体勢を崩した襲撃者を悠乃はオーロラに似たヴェールで拒絶! そちらを狙って泰地は拳を引き、ピッチャーのように片足を振り上げる!
「悠乃ッ! そのままでいてくれよッ!」
 勢いよく振り下ろした足を踏ん張る。鍛え抜かれた肉体をバネに、破壊の光を宿した拳を振り抜いた!
「フンンぬぁぁああああッ!」
 拳からエネルギー弾が放たれた。狙いすました一撃は三匹に直撃し大爆発を引き起こす! それらから離れ、悠乃は杖をかかげる。オーラと雷、二条の光線がそれぞれ梨尾と時枝に伸びる! 梨尾は交叉した黄金バールの片方で膝を砕かんとしたローカストの足を振り払い、もう片方で肩を打つ!
「レーヴェさん、こっちお願いします! 時枝さんっ!」
「ああ、わかってるよッ!」
 電気ショックに歯噛みをしつつも、足元に刺さった剣の鍔を蹴り上げる。乱暴に引き抜かれた剣の柄はゲジのあごをしたたかに打ちノックバック。スラングを吐く刀に余った電気をまとわせ刺突を放つ。
 心臓に刃が食い込む寸前で全身から粒子を放出。空を切る感触。勢いで起き上がったゲジの腕が赤髪を結った頭を狙う! ドロウした凍結レーザーが手先を氷の彫刻に変えるも構わずつかみかかってくる! その時!
「行けッ!」
「ん……」
 漆黒の液体が虹色のオーラを貫いた! 黒い波は腕の凍ったゲジに食いつき、周囲の剣もろとも押し流す。その先、相棒のミミックをビート板代わりにつかんだシファが流れに乗って突撃を敢行。鋼鉄化した拳で細い脇腹を思い切り殴った!
「ごめん、ね? ちょっと、遅れちゃった」
「かっこよく来やがって。憎いぜ」
 ミミックを抱いて着地しながらシファ。ブラックスライムに自身を引っ張らせエディスも戦場にダイブする。巨大なハンマーを落下の勢いとともに捕らえたゲジに振り下ろした。枯れ木のように細い体が無残に潰れ、鈍色が混ざった体液がエディスの顔に飛び散った。
「お待たせ。全員、安全圏まで避難させたわ」
「お疲れ様です。これでメンバーがそろいましたね」
「……うん。じゃあ」
 前に立つシキと刀を構えるアシュレイの横で、波琉那が表情をくもらせる。腹を潰されたゲジの死体を眺めるその肩を、泰地がたたく。
「悪いが、迷ってるヒマはねえ。ともすりゃやられんのはオレ達の方で、そしたらもっと大勢食われる。ここで戦って、勝つしかねえんだ」
 拘束を脱し、炎上と催眠からも解放された四体が不服そうに鳴き始める。不協和音を奏でながら黒い目に怒りと憎悪を燃え上がらせる。肩で息をし唾を落とす姿に、誰一人として言葉をかけない。ノイズ混じりの宣誓が流れる。
『どちらにしても命はない……しかしながらそれで仲間が救われるなら……祖こ、う胞……滅びずに、むなら……この命惜しくはない……』
 極光の内でにらみ合う。じりじりと煙のような粒子をまとい、ゲジは距離を詰めてくる。再びノイズ。
『……どうか、祖国に……豊穣を……』
 ブツッ。声が途切れると同時、梨尾とアシュレイ、時枝、エディス、シファが地を蹴った! 奇声を上げローカスト達も加速する! 蒼いスライムにガントレットを覆わせながら、エディスは凄絶な笑みを浮かべる!
「待たせたわね。アタシとも拳で語らいましょう!?」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
 泰地の猛々しい波動を追い風に、わずかに勢い緩んだ一体と激突! 恐れを振り切るように跳躍したゲジとパンチを繰り出し、至近距離で殴り合う! 一方で走りながら回る時枝は宙に銃を連続発砲!
「もう一発だッ! 派手に行こうぜ!」
 彼女の斜め後ろを飛ぶ弾丸が光を放ち形を変える。鋭利な剣は見えざる力に引かれるように、雨のように降り注ぐ。クロスカウンターをたたき込んで距離を取るエディスに替わり剣が殺到! 両腕に亀裂を入れたの身をズタズタに引き裂いていく! 体液と粒子を飛ばし絶叫する仲間の隣を通り過ぎていく三体。
「……シファ、まもりたいの。まもりたいから、たたかう、の。手伝って」
 シファのミミックが口を開いた。エクトプラズムがシファのすらりとした足に絡みつき、ブーツに変じる。陽炎めいてゆらめくそれでシファは一体を剣の林に蹴り込んだ。吹き飛ぶそれが突如炎上! 松明と化したゲジをアシュレイが一閃し真っ二つに引き裂き場にくずおれる。一体が彼の腹に足を埋めていた。
「ぐっ……」
「ギィァアアアアッ!」
 首筋めがける音速の拳。吠えるシキの声を聞き、波琉那は閉じていた目を開く。閃光。ゲジの拳が止まる!
「そうだ……迷ってられない。私は覚悟を決めたからッ!」
 魔力を込めて手を振り下ろす。莫大な冷気が白い竜巻となって広がり、冬将軍を呼び起こす。一瞬にして飲まれる戦場! 斬られた個体と腕を石にされた個体が氷像と化し、残る二体は身をひるがえす。渦巻く吹雪を切り裂いて跳ぶ泰地! 吹雪に飲まれた仲間たちを悠乃が電光で繋ぐ。空中で勢いよく回転して泰地は足元を走るゲジに飛び蹴りを放った!
「行くぞおおおおおッ!」
 吹雪の中から光が飛び出す! 蒼いスライム、魔術の視線、銀鎖、霊力の網。足をつかまれ転ぶ二体。一体の背を泰地の裸足とシファの手甲が打ち砕く。もう一体の真上に時枝と躍り出る梨尾。
「いつか、人もローカストも一緒に暮らせる日が来るまでは、あなた達のことは忘れません。どうか、安らかに」
「……閉幕だ。決めるぜッ!」
 撃発された刀と爪が首を刈る。細長い手が力なく伸ばされ、指先までが凍りついた。


「舞って、降って。いやしの雨……」
 シファに抱かれたミミックが、もくもくと雲を吐きだす。雲はやがてわだかまり、静かな小雨を降らせ始めた。ほんのり暖かい雨で血を洗い流したエディスは湿った髪をなでつける。
「じゃ、アタシ達は村の人たち呼んでくるから。そんなかかんないと思うけど」
「わかりました。こちらの方は任せてください。……私の出る幕はなさそうですが」
 苦笑気味に応えるアシュレイ。おすわりしたシキとたわむれていた時枝は頭をなでて立ち上がる。
「出る幕ないって……やることないか聞きゃあいいだろ。アンタ男なんだしさ」
「いえ、その……お恥ずかしながら、虫は少々苦手でして……」
「……そうかよ。けど、シファは行っちまったみたいだぜ?」
 小走りに駆けていくシファをあごで指し示す。離れていく視界の奥では、泰地と梨尾がローカスト達の死骸を丁寧に並べていた。
「うっし。これで全部だな」
「はい。わざわざすみません」
 かたわらに屈み、悠乃はメスの入ったケースを取り出す。手入れの行き届いた道具に触れている間に、波琉那は一体の手を握った。
「ごめんなさい。私達はまだ未熟だから……こういう方法でしか悪い因縁を絶つことが出来なかった……せめて、ゆっくり眠ってね」
「命は助けられませんでした。それでも、私はあなたたちを助けたい。アポロンの捨て駒としての死から。あなたたちを圧政で苦しめた、あの太陽神を倒したい」
 悠乃は電気メスを死体にあてがう。そして一瞬、祈るように目を伏せ、刃を滑らせた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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