夢見る乙女に眠りし不安は

作者:長野聖夜

●唐突な襲撃への驚愕
 歓声がこのステージ全てを覆っている。
 彼女……瑠歌は今、ステージに立っていた。
 自作した歌詞をバックダンサーと音楽に添えて、沢山の観客の前で披露する。
 それは正しく泡沫の夢。
 夢の舞台でアンコールにも答え、瑠歌は大歓声と拍手の中、ステージを後にする。
 そして舞台裏から出て行こうとしたその時に、其れは起きる。
「瑠歌ちゃ~ん!」
 そこに姿を現したのは、一人の不細工な男。
 その彼を見た時、瑠歌は例えようのない恐怖に心臓を鷲掴みされる様な感じを覚える。
「僕の愛しの瑠歌ちゃ~ん! これからもずっと、ずっと……僕達は一緒だよ!」
 何処か自己陶酔を感じさせる声音で話し掛け、その手に握り締めたナイフで迫り来る男。
 男が迫って来た所で……瑠歌はガバリ、と目を覚ます。
「ゆ……夢……?」
 バクバクなっている心臓に、そっと手を当てながら、涼しい季節になっているにも関わらず、流れ落ちた汗を拭って息をついた。
(「私は歌姫になりたい。けれども……」)
 歌姫になって、もし人気になったらこういうストーカーまがいのことをしてくる人も、増えるかも知れないという恐怖を感じ、静かに深呼吸を一つする。
 ――そんな、時。
 フワ、とカーテンが風になびく音が聞こえた。
 同時に目の前に現れたのは、1人の白い鹿に乗った少女。
 少女は、何処か無機質な微笑みを浮かべている。
 それはまるで、夢の続きの様にも思えて。
「えっ……?」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても楽しかったわ」
 瑠歌が何かを言うよりも早く、少女が何時の間にか手に握り締めていた鍵で、彼女の心臓を穿つ。
 瑠歌がベッドに倒れると同時に……その傍に現れたのは、心臓にモザイクの掛かったドリームイーターだった。 

●夢と恐怖と驚愕と
「自分がなりたいと思う職業につけば、もしかしたら自分が怖いと思う場面に遭遇することもあるかも知れない。夢を持つことはとても良い事だと思いますが、その夢の先にある困難を想像する人はどの位いるのでしょうね?」
「セリカさん? どうしたの?」
 空を仰ぎ、想いを馳せる様子のセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の呟きに、ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)が首を傾げる。
「以前、貴女が仰っていた懸念が当たりました。近日、とある町の少女が、歌姫になって舞台を終え、帰る途中を待ち伏せしていたファンを自称するストーカーに襲われる夢を、ドリームイーターに奪われる事件が起きました」
「起きちゃったんだ……」
 小さく呟くティリクティアにはい、と頷くセリカ。
「夢によって現れたのは、一人の男です。彼はどうやら、誰かの所にいきなり押し寄せて驚かせることを楽しみとしている様です。……ティアさん、このドリームイーターによる被害を抑えるために、彼を撃退して頂けませんでしょうか?」
「うん、任せてよ!」
 セリカの願いに、ティリクティアが元気よく返事を返した。


●夢見る少女とストーカー
「今回のドリームイーター……ストーカーと呼称しますが……彼は、いきなり人の所にナイフを持って押し寄せて、驚かせたくてしょうがないようです」
「それは、驚く以上に、怖いよね?」
 ティリクティアの問いかけに、セリカが頷く。
「まだ、瑠歌さんの家の周囲を歩いているだけなので、被害はないようですが、もし本当に襲われたら、驚くどころか、刃傷沙汰になりかねませんね。最も、彼自身はあくまでも驚かせる手段としてナイフを使用している様ですが。いずれにせよ、皆さんが付近を歩いていれば、彼の方から驚かせる為にやって来ることでしょう」
 故に、戦いとなれば、ストーカーがその手に持つナイフを使って攻撃をしてくることは、想像に難くないだろう。
「ストーカーは、自分が相手を驚かせることが出来なければ、その相手を優先的に狙って来るようです。その性質を利用すれば有利に戦えるかもしれません。それと、これは直接戦闘とは関係のない話ですが……」
 実は瑠歌は、沢山の人と一緒に居るのが苦手だ。
 歌姫を夢見ているのも、沢山の人を喜ばせられる一方で、ある程度人の群れと距離を取ることが出来るから、という理由もあるらしい。
「ストーカーを倒せば、瑠歌さんは目を覚まします。もし、瑠歌さんの夢を応援したいのなら、その辺りのことも思いやってあげた方がいいかも知れませんね」
 セリカの言葉に、ティリクティアが頷いた。


「……誰かが思い描いている夢。そこに在る潜在的な危険に驚愕している彼女の夢を奪って、ドリームイーターを作り上げる敵を見過ごすことは出来ません。瑠歌さんを目覚めさせてあげる為にも、ストーカーを必ず撃退し、事件を解決してください。……お気をつけて」
 セリカに見送られ、ティリクティアとケルベロス達は、静かにその場をとにした。


参加者
永代・久遠(小さな先生・e04240)
フェル・オオヤマ(焔は白銀の盾へと至る・e06499)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
クー・ルルカ(ショタ妖精・e15523)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)
ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)

■リプレイ


「夢の先にある困難を、ですかー」
 深夜の町中で、アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)と一緒に出入り口にキープアウトテープを張りながら、永代・久遠(小さな先生・e04240)が、何処か共感を感じさせる表情で呟く。
 駆け出しではあるが、教師としての夢を叶えたはいいものの、教師として多くの問題に追われる日々を思い起こす久遠。
「うーん、確かに夢が叶った後も油断してちゃ駄目なんですよねー」
「なるほどなー! 因みにアラタは好きな事にはできるだけ手をかけたい、シチューをコトコト煮込む様にな!」
 アラタ達がキープアウトテープを周囲に張り終わるのを確認しながら、ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)がふと、何かを思うように夜空を仰ぐ。
(「歌姫を夢見る女の子」)
 誰かを笑顔にするというのは、とても素敵な夢よね、と思う。
 ただ……セリカから聞かされた夢に至った経緯を思うと、少々の気掛りを感じずにはいられなかった。


「……夢、ね」
 少しだけ退屈そうに小さく欠伸をしながら、マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)は、ふと思う。
「私の夢……かぁ。今は皆の笑顔を守る事……かな、と思うんだけど、マイアさんはどんな夢があるの?」
「うーん、私は名声とかお金には興味ないし、イケメンやかわいい子揃いの酒池肉林とかかしらねぇ?」
「……随分と分かりやすいな」
 フェル・オオヤマ(焔は白銀の盾へと至る・e06499)へのマイアの疑問符付きの返答にクリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091)が周囲を警戒しつつ苦笑を零す。
「まあ、今を楽しく過ごせれば正直後のことはどうでもいいわね」
「マイア様の様な考えの方もいらっしゃいますね。でも先ずは全員で無事に帰れるように頑張りましょう」
「そうだね」
(「歌は、万人の心を揺り動かす素敵なもの……そんな歌姫になりたいと思う瑠歌さんを苦しめるなんて、許せない!」)
 リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)の呟きに、クー・ルルカ(ショタ妖精・e15523)が心の中で闘志を滾らせつつ周囲を警戒。
 リュティス達囮役と一緒に行動することで、より相手が驚かせる対象を増やそうというクリスティの提案は効果的だったらしく、自分達がやって来たのとは逆方向から足音が響く。
「わぁ~! かわいい子が一杯だぁ~! そ~れ!」
 ベース声でデップリと太った男が、電灯が消えかかった暗がりの向こうの道から、わっ、とナイフを持って飛び出してくる。
「……きゃっ?!」
 それまで気を抜いていたリュティスが驚きの声を上げ、隣のクリスティもビクリ、と頑張って身を竦ませて、驚いた振りをする。
「あらっ……?!」
「キャッ……キャァッ?!」
 わざとらしく息を呑んだマイアに合わせてフェルが黄色い悲鳴を上げた。
 男……ストーカーは、あまり驚く様子のない、クリスティに対して不服そうな目を向け、全く驚かないクーには不快そうに眉を顰めた。
「何で君達、驚かないの?!」
「すまんな、驚いてもこんな顔なんだ」
 肩を竦ませて何となく恐縮した様に言い訳をするクリスティ。
「どうしたの、お兄さん。ボクに何かご用事?」
 一方で、驚くどころか天使の如き愛らしい満面の笑顔で返してくるクーに、軽くコメカミの辺りに青筋を浮かべるストーカー。
「ぼ……僕のナイフを見て驚かないだとぉ……!」
「絶対に驚かないよ! どうしても驚いて欲しいなら、こっちにおいでよ!」
 パラパラと暗闇の中でも眩く見える鱗粉の様な光を蝶の翅から零してからかいながら、パタパタと、走ってアラタ達が用意しているであろう、人払いを済ませた戦場へと向かうクー達。
 そんな彼等をナイフを前に携えたまま、その体に似合わぬ機敏さでストーカーが追っかけた。


「わっ、わわっ?! いきなり刃物を出してやって来るなんて危ないじゃないですかっ!」
 漆黒の帳を引き裂きキラリと輝くナイフを真っ直ぐに構えて走って来るストーカーの様子に、久遠が思わず驚きの声を上げながら、小型の自動拳銃である、P239を天空に向けて撃ち出す。
 パッ、と照明弾が周囲を照らし、光源を確保する。
「あの、リュティスさん、髪、まとめて貰ってもいいかな?」
 無事、戦場に辿り着きクルリと反転、素早く目元から頬にかけての隈取りの様な戦化粧を施しながら、クーが少しだけ甘えるような口調でリュティスに聞く。
「畏まりました、クー様」
 リュティスが小さく頷き、クーの腰元まで届いていた紙を手早くポニーテールに纏める。
 そうして戦準備を整えている様子を見ながら、ストーカーが憤怒の鼻息を一つつき、そのままクーに襲い掛かった。
 クーの髪を手早く纏めたリュティスが入れ替わりにその前に立ちはだかり太腿に仕込んでいた惨殺ナイフを射出し、その攻撃から注意を逸らす。
 その刃にグロテスクな光景が映り、それを見せつけられたストーカーが、肩を震わせながら僅かに後退。
「そこだな」
 阿吽の呼吸でクリスティがその手に握り締めていた護符を弾けさせる。
 護符が弾けるとほぼ同時に、ストーカーの周囲を囲っていた氷の花が雪月花の様に宵闇の中で美しく舞い、幻想的な光景と共に、ストーカーの全身を花びらが斬り裂いていた。
「今ですね! 支援しますっ! 抗体弾、ロード!ファイア!」
 囮となったルーを守ったリュティスに向けて、『癒しと賦活』の力を封じ込めた特殊弾のマガジンをロードし、素早く撃ち出す久遠。
 微粒子化された弾丸が最初の一打によって傷を負ったリュティスの傷を癒し、更にシーリーがバタバタと猫の羽を羽ばたかせ、清浄な風を前衛へと吹き付け、その身を守る青白い結界を作る。
 更にマイアが結晶花『Amber Misteleten』に咲く色取り取りの花から琥珀色の実を射出し、シーリーの清めの風と組み合わさった美しい結界を生み出す。
 マイア達の生み出した結界に守られながら、フェルが一筋の線となり、流星の力を籠めた蹴りを放つ。
 放たれた蹴りがストーカーの腹部を蹴り飛ばし、更にアラタが上空でくるりと舞い、そのまま流れ星の軌跡を描いた蹴りを放つ。
 上空からの蹴りにより、軽い脳震盪を起こして動きを鈍らせたストーカーに、クーがアラタが上空に飛ぶことによって生まれた影から姿を現し、水神の霊剣Hordadを撥ね上げてシャドウリッパー。
 影からの急襲がストーカーの足を深々と斬り裂いた。
 すかさずどるちぇがストーカーのナイフを持つ腕に喰らい付く。
「さっきはちょっと驚いたのよ」
 ティリクティアが小さく呟きながら接近、『御霊』を縄状に変形させて、ナイフを持つ腕を締め上げていく。
「お……お前ら~……!」
 苦しげに呻き声を上げながらも、ストーカーがナイフを振り回し、リーに襲い掛かる。
 その攻撃は、シーリーが代わりに受け止めていた。
「くっ、くっそぉ~!」
「あなたを倒さないと、瑠歌さんともお話しできないの。だから……あなたは倒すよ」
 ナイフに斬り裂かれ傷を負ったどるちぇの傷を気力溜めで癒しながら、何処か強い意志を籠めた瞳でティリクティアがストーカーを睨み付ける。

 ――まるで、瑠歌がこの戦いを見ているのではないかと考えているかのように。


 戦いは一進一退を続けていた。
 敵の怒りは、どんなにナイフで襲っても驚こうとしないクーへと集中していた為、対処もそれほど困難ではなかった。
(「でもちょっとたいくつよねぇ。まぁ、しょうがないけれど」)
「……ふふふ、私の世界に連れて行ってあげるわ。……さぁ、『Amber MIstelten』。……私と共に行きましょう」
 マイアが艶やかな声音で囁き自らの攻性植物、Amber MIsteltenを撫でると、Amber MIsteltenの琥珀色の実が色とりどりの花を咲かせてストーカーの周囲に花園を形成。
 その結晶花の庭園に生まれた花が次から次へと枯れていき、花びらとなってストーカーを襲い、最初の痛打によって足に来ているストーカーを絡め取った。
「ぐ……ぐぅぅ~、おのれ!」
 満足に動けぬままナイフをマイアに投げ返すが、極めて至近距離にいたクーがその斜線に割込みその攻撃を受け止めていた。
 ただ、囮として攻撃を受け続けた影響か、クーの足元はふらついている。
「わわわっ! 無茶はしちゃ駄目ですよー! 気力弾、ロード! ファイア!」
 久遠がP239のマガジンを素早く差し替え、自らの気力を籠めた弾丸を撃ち出し、クーの傷を癒す。
「負けないんだよ……! 氷漬けになっちゃえぇ!」
 傷を癒されながら大きく息を吸い込み、全身を震わせて渾身の叫びを放つ。
 ――人の心を揺り動かしたい夢を持つ瑠歌さんを苦しめる……そんな奴を!
 想いを乗せた音声(ハウル)が、マイアの花園で身動きを取れなくなっていたストーカーの周囲を凍り付かせる。
 その絶対零度の寒さは、正しく極寒であり、ストーカーが悲鳴を上げながら全身を振るわせるに十分な一撃だった。
「今だな」
 その身を凍り付かせたストーカーの様子に小さく頷き、上空から、彗星の如き加速を載せた流れ落ちる滝の如き滑らかな蹴りを放つクリスティ。
 その一撃に千鳥足となるストーカー。
「クリスティ様。流石です」
 称賛しつつ、リュティスが惨殺ナイフでジグザグスラッシュ。
 戦いの中で上乗せされていた様々な氷や、腕の傷を更に広げた。
「今ですね! 悪夢を打ち倒す!」
 フェルがカツン、と杖の様に地面に構えていた杖を叩きつけると、周囲に強大な氷の魔力が集う。
「風よ! 氷よ舞え!」
 詠唱が始まると同時に、ストーカーの足元に周囲に集められていた魔力たちが一斉に向かっていき、巨大な水だまりの様な塊を作った。
「そして我が前に立ち塞がる敵を切り刻め! フリーズストローム!」
 水たまりか巨大な水流の竜巻が生み出され、其れが氷と冷気が舞うことによって彩られる。
 その様は、正に氷の舞踊。
 竜巻の中の氷と冷気たちが水晶の様な煌めきを見せる様は美しいが、それによって切り刻まれる様は、あまりにも無残。
「が……ガァァァァッ!」
 身体中を侵食していたありとあらゆる火傷、凍傷が深くなりナイフを握りしめるのもやっとという程の様子のストーカー。
「命を奪っても、瑠歌の人格を自分に振り向かせたことにはならないだろう? 思い込むのは自由だが、奪われたくないから全部御破算! なんて、手抜き根性丸出しで愛がないと思わないんだろうか?」
 傷だらけのストーカーに語り掛けながら、アラタが、艶やかな赤いエナメルと可愛いリボンで装飾されたDe rede Skoで大地を疾駆し、左足と化している地獄の炎を纏った回し蹴りを叩きつける。
 地獄の炎を纏った蹴りによる一撃に、正しく地獄の業火に焼かれる罪人の如き悲鳴を上げるストーカー。
「そろそろ終わりね」
 傷だらけのストーカーの状態に頷き、其れまでディフェンダーの回復に徹していたティリクティアが自らに御霊を下ろして網を射出し、その全身を締め上げる。
 苦痛にのたうち回るストーカーを、どるちぇがエクトプラズムで斧を作り出して袈裟懸けに敵を斬り裂き。
「さっさと、終わりにするわよ」
 マイアが時空凍結弾でその身を凍てつかせ。
「その人への想い 星に還すよ……」
 クーのサーベル型の刃が下段から上段にかけてその身を斬り裂き、上段から振り下ろしたゾディアックソードの重力が袈裟懸けにストーカーの身を斬り裂いた。
「ぐ……グァァァァァ……」
 その二刀の一撃を最期に。
 ストーカーがその場に崩れ……そして光の粒子となって消えて逝った。


「皆さん、無事ですか!?」
 ストーカーが倒れたのを確認しながらフェルが久遠達を見やる。
「はいー、大丈夫ですよー!」
「こっちも大丈夫だ。……ルルカが頑張ったからな」
「私も、シーリーも無事ですわ、フェル様」
「アラタも問題ないのだ!」
「ま……この程度の相手に苦労はしないわよ」
 久遠、クリスティ、リュティス、アラタ、マイア、其々からの返事を受けてフェルが良かったという様に息をつく。
 フェルがそうしている間に、リュティスと久遠が協力して、氷漬けになったり、色々と台無しになってしまった建物や電柱などの修復を行った。
「これで、ひと段落ね。みんな、お疲れ様。後……そこにいるのね?」
 仲間を労った後、ティリクティアが近くのマンションの一室から光が零れ落ちているのに気が付き、そっと其方へと向かっていく。
 クリスティやフェル、アラタがティリクティアと共に其方へ向かう。
 アラタが用意してくれたハンズフリーライトで、ベランダを照らすと、そこには、目が覚めたのか小柄な女の子がいて、少しだけおどおどした様子でアラタ達を見つめていた。
「瑠歌さん、よね?」
 ティリクティアがそっと問いかけると、おずおずと言った表情で少女が頷く。
 ティリクティアがそっと息をつく。
「気になったから、少しだけ言わせてもらうわ。……歌姫になったからといって、大勢の人と距離が取れるわけじゃないわ」
「……!」
 僅かに肩を震わせる、瑠歌。
「もっと、ちゃんとあなたがなりたい夢を調べて、学んで、そしてもう一度、夢について考えてみて」
 それから少しだけ声音を柔らかくするティリクティア。
「夢について反対している訳じゃないの。ただあなたの今の考えで行くなら、きっといつか壁に当たると思うから」
「そうだな。でも、夢は大切な者を大切に扱えて、其れを相手に喜んでもらえたらもっと嬉しい。叶えるって、そういう事だろ?」
 アラタがパチン、と軽くウインクをし、クリスティが微笑を零す。
「リーズはああいったが、それでも君の夢は、きちんと大切にして欲しい。それがきっと君の力になる筈だ。そう……これから待ち受けているであろう困難を乗り越えるためにも」
「もし、夢を追い求めるなら、瑠歌さんには誰かと協力することを大切にして欲しいんだ。夢は一人では叶えるのは難しいからね」
 優しくそう告げるフェルに考え込むような表情になりながらも小さく頷く瑠歌にアラタ達は背を向けた。
(「人の振り見て我が振り直せ。わたしも気をつけないと、ですねー」)
 戻って来たティリクティア達と瑠歌の会話を想像し、小さく頷く久遠。
「さっさと、帰るわよ」
 マイアが疲れた、という様に両手を組んで体を伸ばした。
「ねぇ、僕、頑張ったよね?」
「はい。クー様は頑張りましたよ」
「クーさん、とっても頑張ったよね」
 何かをねだる様に上目遣いになるクーの頭を優しくリュティスが撫で、フェルが褒める。
 年上の女性2人に褒められ、笑顔を浮かべるクー。
「さぁ、行きますよ~?」
 リュティス達の様子を見ながら久遠が促し、戻って来たティリクティア達と共に、静かにその場を後にした。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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