流星シュガー

作者:東間

●甘いお星様
 夜空に浮かぶ色とりどりの金平糖達が、時折くるりと回っては、ぴたりと止まる。
 その中の1つ、淡い桃色をしたものがぴかりと光った。くるり一回転した直後、光の尾を紡ぎながらひゅーんと流れていく。
「あっ! ま、まって! まっ……! ああ……」
 慌てて甘い流星を追い掛けた少年が、原っぱにぽすんと落ちて消えていく金平糖を切なそうに見送った。
 夜空に浮かぶ金平糖。流星になったそれを上手く受け止められれば、自分の物。逃せば原っぱに落ちて、今みたいに溶けて消えてしまう。
 少年はぺちぺちと両頬を叩き気合いを入れ直した。しっかり地面を踏みしめて、夜空の隅から隅まで見ようと視線をあっちこっちへ廻らせる。
「つ、次はキャッチするんだからな! さあ来い!」
 どんな金平糖だってキャッチして、何味か確かめて、と決意を燃やすその瞳にぴかっと黄色い光が映った。
「あっ! あれ多分レモン味! 今度こそ――……えっ!?」
 自分の方へと降ってくる黄色い金平糖。しかも他の金平糖まで後に続いて降ってくれば、逃げ場なんてどこにも無い。
 哀れな少年は、1つも食べられないまま、流星となった金平糖達に激突され――る直前で目が覚めた。バクバクと鳴る心臓を押さえて何度も深呼吸。ああ良かったと安堵する少年だが、危機はすぐそこに存在していた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 鍵で心臓を一突きされ、ぱたりと倒れ込んだ少年の隣にドリームイーターが生まれる。それは、少年が夢で見たのとよく似た姿をしていた。
 
●流星シュガー
「金平糖が空から降ってきたら、どうする?」
「うーん……動画を撮ってSNSに投稿する。かな?」
 ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)の返答に、小華和・凛(夢色万華鏡・e00011)が、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
 『金平糖が空から降ってくる』――これがただの夢、もしくは楽しい現実なら何の問題も無い。しかし、そんな夢を見た子供がドリームイーターに襲われ、その『驚き』を奪われてしまったとなれば話は別だ。
 それはこれまで起きた事件と同様のものであり、今回もまた、子供を襲ったドリームイーターは既に姿を消しているという。
「襲われた子の意識を取り戻す為にも、みんなには、この『驚き』を元に現実化したドリームイーターの撃破を頼みたいんだ」
 外見はビーチボールサイズの金平糖で、常に浮いている。大小様々な金平糖を使った攻撃を得意としており、勢い良く回転する事で傷を癒す事も出来るらしい。
「被害者宅近くに公園があるから、そこで待機するといい。夜の住宅街って事もあって人通りは皆無だから、『驚かせたい』って意気込んでいる向こうから来てくれるよ」
 接触後はそのままそこで戦うのが最良だろう。公園は長方形の広いタイプで遊具や照明の類は端にある為、開けた中央で戦えば支障は無い。
「因みに、金平糖ドリームイーターは被害者が夢で見た通りの姿……淡い黄色の金平糖さ」
 被害者である少年が『レモン味だ』と想像していたから、その通り――かどうかは、囓ってみなければ判らないとラシードは笑った。ただ、ドリームイーターの為、味や満腹感は一瞬。すぐに失せてしまうだろう。
「淡い黄色の金平糖か……レモンじゃなければ蜂蜜味かな」
 少し考える様子を見せた凛の足元、ウイングキャットの白雪がもふもふの手でちょん、と凛を突いた。白雪と視線を交え、ふ、と笑った凛はケルベロス達を見る。
「夢が膨らむけれど、まずは、すべき事をしよう」
 少年が夢の続きを楽しく見られる様に。
 そして、人々の平穏を守る為に。


参加者
小華和・凛(夢色万華鏡・e00011)
クィル・リカ(星還・e00189)
梅鉢・連石(午前零時ノ阿迦イ夢・e01429)
羽乃森・響(夕羽織・e02207)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
深景・撫子(晶花・e13966)
アテナ・エウリュアレ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16308)
咲宮・春乃(星芒・e22063)

■リプレイ

●甘き星を待つ
 見上げれば黒色の夜空で星が瞬いている。住宅街だからか両手の指にも満たない輝きに、小華和・凛(夢色万華鏡・e00011)は自分の予感を重ねていた。
「まさか、本当に金平糖が降ってくる事になるなんてね」
 双眼鏡で星を見ていた梅鉢・連石(午前零時ノ阿迦イ夢・e01429)は、星を見ながらニッコリ笑った。
 少年の驚きから生まれた金平糖型の夢喰いは、今見ている夜空から来るのか、それとも公園の入り口からやって来るのか。どこから来ても、その『画』は驚きに満ちてるのだろう。
「それにしても、金平糖が降るのに相応しい、いい夜空デスネ」
 驚く準備万端デス、と拳を作るその隣では、華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)も色々な意味で準備万端だ。
「金平糖って瓶に詰まってるだけでも可愛いですよね。ましてや夜空に輝いているモノなんて、きっと夢のような味がするに違いないです!」
 夜空で輝く星みたいに白いものは、ひんやり涼しい薄荷味かも――灯が膨らます想像に、咲宮・春乃(星芒・e22063)は青藍の目を輝かせている。
「きらきらな金平糖! それが降ってくるなんて本当に夢みたいなお話だね、くーくん」
「そうですね、ハルさん」
 甘い。星。金平糖。好きな要素ばかりが詰まった会話に、小さく頷いたクィル・リカ(星還・e00189)の目も静かに輝いていた。
 そんな二人の会話に深景・撫子(晶花・e13966)も笑みを零し、そっと夜空を見上げる。夢の中で金平糖達が見せた景色を想像すると、不謹慎だとわかっていても心が躍ってしまうものだ。
「金平糖の流れ星なんて、可愛らしい夢ですわね。どんな味がするんでしょうか?」
 暫く食べていなかった金平糖。もしかしたら今日、久方ぶりに食べる事になるかもしれない訳だけれど。
「うーん、本当に金平糖が降るのならどんな味がいいかな……」
 撫子の疑問に春乃は腕組み思案顔。夢を見た少年は、淡い黄色の金平糖はレモン味だと思っていた。夢の中には他の色もあったろう。
 ビーチボール大のそれが降ってきたら――想像し、ぷるり震えた連石だが味は気になるもので。
「意外とコーンスープや玉子焼きの味がしたりしませンカネ? わくわくデスネー!」
「コーンスープ!? ねえ、くーくん、砕いてお湯に溶かしたらコーンスープになるかな?」
「コーンスープですか? うーん……」
 インスタント金平糖スープの予感が漂った時、羽乃森・響(夕羽織・e02207)が近付いてくる気配に気付き、夕焼け色の髪を翻す。
「皆、お仕事を忘れないでね。相手はドリームイーターなんだか……ら……」
 言葉が途切れた。実物が小さく上下しながらふよふよとやって来たのだが――。
「美味しそう、ね」
 公園に設置されている街灯と、クィルが用意したランプ。それらの光を受ける金平糖は、確かに美味しそう――なのだが、流石にあれが降ってきたらそれどころではなさそうだった。
「でかっっ! これは食べごたえがありますよ……!」
 灯は驚きながらも口元を拭う仕草。アテナ・エウリュアレ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16308)もまた、その眼差しを一瞬和らげる。
「金平糖のお星さま……幼い頃はそう夢見た時期もありましたね……。しかし、子供の夢を襲撃に利用させるわけには参りません!」

●牙と星の輝き
「普段は可愛い金平糖も、流石にこの大きさは痛そうだ。……子供の夢は、かわいい金平糖のままでお願いしたいね」
 凛は指先で転がしていたカプセルをぴん、と弾き飛ばす。砕けて飛散したと同時に白雪の名を呼べば、翼猫の白雪が毛並みと同じくらい真っ白な翼をはばたかせた。優しく包み込んでくる風で、クィルの髪がふわ、と揺れる。
「金平糖は大好きなのですけど……、食べられるものではなくて残念ですね」
 開いた掌から現れた幻影竜が灼熱を喰らわせる。降り注ぐ激しい熱でぶるっと震えた、あの金平糖。一番好きな水色金平糖とは違う色で良かった、そうと思うのと同時に。
「可愛らしい外見のようですけど、叩いたら砕けたりするのでしょうか」
「砕けたら……小さい金平糖に戻ってくれたりしないかな」
 クィルと凛の会話に連石は頷くばかり。何故なら、相手は通常の物よりずっと大きく、表面の凹凸が非常に目立っていた。
「改めて見ると、なかなか攻撃的な形状デスネ」
 おどける様に顔を顰めて肩を竦めるも、敵を視界から外さない。放った光は宙を一直線に奔り、金平糖を貫いた直後、鮮やかな色彩が爆風と共に公園を駆けた。
「私達もキラキラと攻撃的にいけば負けませんね!」
 爆破スイッチを手にした灯がフフンと胸を張り、撫子は頷くと同時にチェーンソー剣の音を響かせた。
「そうですね。それに、流れ星は燃え尽きて消えゆくものですもの。そのまま退場して頂きましょう!」
 幼少時、金平糖が詰まった瓶を眺めるだけで心は躍った。今見ている金平糖は夢喰いで、思いもしない大きさをしているが、敵の甘く可愛らしい見目に対し油断は欠片も無し。
 一閃と同時に翔た衝撃は二層となり、淡黄色の甘い体に炎を刻み付ける。
 体勢を立て直す様に金平糖がくるっと回って、ぴかり。と、同時、ぽこっと浮かんだモザイクが見る間に桃色の金平糖を形作り、ぎゅんッと飛んだ。灯は地面を踏み締め、自分目掛け降ってくる桃色を見据える。
「躱した方がいいのはわかります! しかし、ケルベロスとして逃げるわけにいきません!」
 少女は果敢に挑んだ。どう挑んだかというと。
「これは苺味ですね!!」
「苺……」
「わぁっ、いいな!」
 クィルが一瞬だけ、そわっ、として、春乃は期待と憧れを浮かべ地面に星辰の剣の切っ先を走らせる。
「支援はばっちり任せてね! みーちゃんと一緒に頑張るんだよ~!」
 声を受け、一つ星煌めく青藍の首輪を付けた翼猫・みーちゃんが羽ばたいた。その中を、金平糖の一点を見抜いたアテナが駈け抜ける。
「人々が安心して眠れる夜を守る為……そして、御義父さ―……大首領様の為、オリュンポスが聖騎士アテナ参ります!!」
 純粋な心で満ちた宣言は、子供の夢を悪事に利用させまいという正義と共に、金平糖の『内』に凄まじい衝撃を与える。
 しかし、墜ちかけた金平糖はすぐに浮かび上がった。次が来る前に。響はオウガ粒子を放出する。
「お出で。皆に護りを――力を貸して」
 相手が何味か気になる甘い金平糖であろうとも、この戦線を崩させはしない。
 その想いを宿した輝きは、狙っていた耐性を高めるものではなかったが、仲間達を支える確かな光となって戦場を満たしていった。

●星の行き先
 時間が経つにつれ、状況が悪化したのは金平糖だった。ケルベロス達の攻撃が重ねられていく毎に、金平糖に刻まれた傷も呪詛も増えていたのだ。
 時に上手く動けず、時に思った程癒す事が出来ず。たとえ勢い良く回転する事が出来ても、甘い身を浸食したウイルスが、その回復量を妨げていた。
 それに、一つ祓ったとしても、また一つ重ねられていく。
 公園に姿を見せた時は透明感のある淡黄色を誇っていた金平糖だが、今ではあちこちに亀裂が刻まれ、その透明感は薄れつつあった。
 ――そして、判った事がある。

「流れ星との追いかけっこなんて、滅多に出来ませんわね。さあ、いってらっしゃい」
 紫水晶の花から溢れた光は、撫子に促されてすぐ、金平糖にその爪を向けた。光が金平糖を惑わし魅了する刹那、花の色を見た撫子はそういえば、と呟く。
「先程受けた紫色の金平糖……あれは葡萄でしたわ」
 すぐに消え失せてしまった味を思い出しながら言えば、指輪から盾を具現化させた響も、アテナの傷を癒しながら言った。
「本体と同じ色をしたものは蜂蜜味で、澄んだ水色は曹達味だったわね」
 本来の物と同じサイズの金平糖達による一撃。その一部を不可抗力で口の中に入れてしまった時、蕩けるような甘さと弾ける爽やかな味が広がったのを覚えている。
 金平糖を捉えた凛は、さて、と呟く。確か桃色は苺味。目の前の淡黄色は、仲間が味わったのと同じ蜂蜜味か否か。
「レモンもいいけど、パインや……柚子も良いなあ」
「実に気になりマスネ! 少年の夢は果たして甘いか辛いか、いざ、いただきまーすデスヨー!」
 ぱちんとウインクした連石だが、その前に、と囁き不敵に笑う。
「金平糖の雨ナラヌ、鋼の雨をプレゼントしますデスヨ!」
 降り注ぐ鋼の連写で金平糖に穴が空き、凛が砲撃形態に変じさせた竜槌も同じ様に火を噴いた。
 響が放出した光で精度を増していた攻撃は戦場に轟音を響かせ、欠片を飛び散らせる。孤を描きながら落ちてくる欠片を、開けた口で受け止めれば――。
「オオ、見た目通りの甘い味! そしてほんのり酸っぱく爽やかで、夢を裏切らない清く正しいドリームイーターデスネー! ……いや、正しくは無いデスネ」
 つまり。
「レモン味だった」
「まあ。蜂蜜味以外もありましたの?」
「皆、しっかり。夢に攫われないように――……うん、私もね」
 撫子の目が興味の色を浮かべ、響がその目を僅かに伏せて頷く。
 そしてアテナの目は、淡黄色に向いていた。武器を大型の楔に変え、投擲したそれで金平糖をその場に打ち据え――一瞬だけ迷う様子を見せた後、金平糖をひと囓り。幼少時、彼女もまた『金平糖の星』を夢に見ていたのだ。
 春乃は暫し目を輝かせたアテナと敵を見比べる。
「淡い黄色でも味は2種類なの? あたしも、かじってみたいけど……うう、食べてもいいのかな? だいじょうぶかな?」
 だって金平糖はお星様じゃあ――?
 どうしよう、と視線を受けたクィルの指が一瞬バスターライフルを離れ、空を弄る。機会はこれっきりかもしれない。皆も、食べていた。だから。でも。
「二人とも、GOですよ!!」
 翼を広げ、くるりくるり。金平糖に負けない輝きを放ちながら飛び蹴りを見舞った灯が、ぎゅるるんと回ってみせた金平糖に対抗して負けじと回転を決めていた。
 それは攻撃にもヒールにもならない回転。だが、華麗な動きと大きな声は、逡巡していた二人の背をドーンと押していた訳で。
「食べてみましょう、ハルさん」
「そ、そうだね、くーくん! でっかいおほしさまを受け止めて、男の子には夢の続きを見てもらおうね!」
 金平糖が見たのは、戦場に現れた鋼の鬼と、輝く二つ星。
 金平糖がもたらしたのは、爽やかで、ほんのり来る酸味が何ともいえぬ甘み。
 それが、甘い流星との戦いの、最後だった。

●星、散って
「なんだか甘い物が食べたくなってしまいました」
「クィル様も? 実は、私もです」
 撫子は夜空を見上げた。こんな気分になるのも、戦闘中、ずっと大きな金平糖を見ていたからだろうか。今輝いている星々が、本物の金平糖となって降ってきてくれたら――ちょっぴり幸せなのだけれど。
「あー、わかりマスヨー。美味しかったデスシネ!」
 楽しい夢でシタケド、と連石は笑って軽く伸びをした。夢から醒めたら綺麗にサヨナラしたい所だが、うっかりすると腹の虫が自己主張を始めてしまいそうだ。
 しかし今は夜。草木も眠る、といって良い様な時間だ。
「もうお店も開いてないですし、明日になったら買いに行こうかな……」
 クィルの考えに、それがいいと言ったのは響だった。レモン味も蜂蜜味も、どちらも素敵な夢を見せてくれそうな味わいで、流星のように降る金平糖はとてもとても魅力的だったけれど。
「甘い星はお店に探しに行くのが一番ね」
 それなら自分目掛け降ってくる事も無い。
 同意した凛は、足元にふかふかの身を寄せてきた白雪をひと撫でした。
「これだけ大きな金平糖を相手にしたんだ 今夜の夢に出てきてくれるかな」
 その時は、ぜひとも仲良くしたいものだ。仲良く出来れば、白雪も金平糖と戯れる事が出来る。ボール遊びをしている様に見えるだろう光景を見たら、夢だとしても和まずにはいられないだろうし、一枚でも写真に収めたと願う気がした。
 ――戦闘中、そんな事を考えていたというのは、白雪には秘密である。
「男の子は夢の続きを見られるかな?」
 ぽつり呟いた春乃は、ふるると首を振って笑った。
「――きっと、あまーい夢を見られるよね!」
「ですよね! そうだ、夢を見た子にも味を教えましょう!」
 食べられなかった淡黄色の金平糖が何味だったのか、気になってる筈。
 甘い夢を見た少年と、甘い星と戦ったケルベロス達。
 語り合ったなら――新たな『甘くて美味しい夢』が、広がるかもしれない。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。