エクスガンナー・ベータ~ベータ、決戦

作者:のずみりん

 首都圏、京浜工業地帯。
 エクスガンナー・ベータと配下のガンドロイド部隊は一つの工場を襲撃し、占拠し、物資の搬出を始めた。
 動く影は指揮官ベータを含めて六体。グランネロスを出撃してから失ったものは多く、部隊の規模も三分の一までに減っていた。
「ですがそれもここまで……む」
 ベータは呟き半ばに口をつぐむ。まるでらしくないことをいってしまった、とでもいうように。
「指令、発行。連中は必ずやってきます。迅速に迎え撃ちなさい」
 この作戦を完了すればエクスガンナー計画は再始動する。ケルベロスの妨害も苛烈さを増すだろう。気を引き締めるように、ベータは傷を残したサングラスへと手をやった。
 
「エクスガンナー・ベータとガンドロイド部隊に動きがあった。恐らくこれが決着をつけるラストチャンスだ」
 リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は地図を指し示し、集まったケルベロスに告げた。
『次で決着だ、ケルベロス』
 前の襲撃で残したベータの言葉はハッタリではないだろう。今回、物資が輸送されればエクスガンナー計画は再始動する。全貌すらわからない計画だが、それが人類の驚異となることは想像に難くない。
「既に工場から一般人は避難させている。皆にはベータ撃退に全力を尽くしてほしい」
 作戦は二つ。今まで通り、運搬部隊が強奪品の輸送を始めた後をつくか、小細工なしの正面対決かだ。
「今回、運搬部隊を見逃すのはリスクも大きいが……ガンドロイドの半数、二体か三体を引きはがせるのは大きいだろう。短期決戦を考えているなら選択肢の一つだ」
 正面対決の場合、運搬部隊を気にする必要はないが、ガンドロイド五体とベータ全員を一度に相手にする必要がある。
 またベータ側からすればケルベロスの撃破が作戦成功の絶対条件となるため、守りを固めていた今まで以上に激しい戦いとなる事だろう
 
「敵の能力に関してはこれまでと変化はない。白スーツの男……エクスガンナー・ベータが指揮官タイプのダモクレスで、配下にガンドロイド五体を従えている。ガンドロイドは手にしたマシンピストル……連射型拳銃の掃射と精密射撃を、ベータは手にしたライフルの制圧射撃と二種のドローンによる支援が主なグラビティだ」
 ベータのドローンはヒールドローンと同型の治癒タイプ、オウガメタルの『メタリックバースト』に近い効果を発揮する指揮・管制タイプ『ドミナンスドローン』の二種。
 更に正面対決では制圧射撃の留まらず、ガンドロイド同様の精密射撃や掃射も使用してくる可能性がある。
 
「油断はできない、後のない状況だが……それは恐らく、エクスガンナー側も同じだ」
 一連の説明の最後に、リリエはふっと言った。
「皆ならば、大丈夫なはずだ。吉報を待っている、ケルベロス」


参加者
生明・穣(月草之青・e00256)
望月・巌(今宵の月のように・e00281)
緋川・涼子(地球人の刀剣士・e03434)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
ジェノバイド・ドラグロア(狂い滾る血と紫の獄焔・e06599)
ヴィンセント・ヴォルフ(白銀の秤・e11266)
フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)

■リプレイ

●決着の日
 運び出された資材の山を背に、ダモクレスとケルベロスは向かい合った。
「……来ましたか」
「あぁ、来たぜ。あまり驚かせなかったのは残念だがな?」
 望月・巌(今宵の月のように・e00281)の軽口に、ベータも瞬き一つと微笑で応じた。双方ともに臨戦態勢。選手宣誓かという並びと距離だが、手にするのは凶器であり、始まるのは殺し合いだ。
「観察してきたのはお互いさまです。万が一を避け、慎重に事を進める貴方たちだ。ここで取り逃す危険を冒す選択はまずしない……違いますか?」
「ごもっとも。随分と人間臭くなったものですね」
 頷き、生明・穣(月草之青・e00256)は切り口を変える。
「そこまで人を知った貴方は、地球文化へ某かの感情を持っている……違いますか? そも計画の全容自体を知らないのでは……」
「はは、これは面白い……戯言はナシにしましょう」
 呼びかけへの返事は構えられるライフル、飛び立つドローン。この期に及んで、あまりに唐突過ぎる話題だったか。手を取り合うにはお互い、多くを失い過ぎている。
 もはや言葉で語る時ではない。戦場の掟に従い、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は鋼に赤橙を加えた『AF65-V』アームドフォートを展開する。
「わかりやすくて結構だ。胸の穴は直したか? こっちは修理するのにアンタのスーツより高くついたんだ。借りは返させてもらうぞ」
 重層型エアシューズに支えられた上半身にはガトリング砲、愛用の『DMR-164C』バスターライフル。修理を完了したレプリカントのボディは決戦仕様のフル装備だ。
 唯一、ハッタリなのは費用だけ。だがまたベータも負けてはいない。
「安く見られたものだ。生憎と一張羅はマキナクロス謹製の一品でしてね。このような星では眼鏡一つ直せないのだから、困ったものだ……!」
 欠けたサングラスから赤光が漏れる。前進するガンドロイドを縫ってのヘッドショットにレプリカントの戦闘システムが起動する。
「重力装甲展開……SYSTEM COMBAT MODE」
「澄ましてられるのも今日までよ。ここまで散々手こずらされてきたけど、私もいい加減ウンザリしてきたし、今回で全部終わりにしてやるわ」
 斥力場が逸らした銃弾を弾き、緋川・涼子(地球人の刀剣士・e03434)は気合一閃、敷地を一気にかけた。
「エクスガンナー計画は潰す!」
 服を裂き、突き刺さるルーンアックスの刃。支援射撃が追撃を阻止せんと連射されるが、それを遡り漆黒……『黒き雷霆』がまた走った。
 それはヴィンセント・ヴォルフ(白銀の秤・e11266)からベータへの宣戦布告。作戦も段取りもなく、彼の心には撃たねばならぬ理由がある。
「失くしもの自慢に付き合う気はないが、貴様は殺す」
「そのコート……ほう」
 打ち込まれた雷撃の元をたどり、ベータも察する。彼自身の因縁ではない。だが大切な人から引き継いだ思い、大切な人を傷つけられた怒りが物静かなシャドウエルフの奥には激しく燃えていた。
「お互いこれを、最後の顔合わせにしたい所ね」
 二度続け、そして同じく友の因縁を背負いフォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)が突き付けるように言う。
 その意志の昂ぶりは『生命の場』のフィールドとなり、魂を揺さぶる共鳴を呼ぶ。其は魂の力、それぞれの『在る』の形が生を奏で戦う力を響かせていった。

●戦術、最終結論
 しかしまたベータも、強襲をただ受ける相手ではなかった。
「語るのならば、私も引けないものでしてね……!」
 声を高めたベータの懐から飛び立ったのは黒雷を受け流したヒールドローンだ。だが、その荒げた姿に嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は不敵に笑い返す。
「ノッてくれたな? こちらも種を蒔かせてもらう!」
 強敵に合わせるように『紫幹翠葉』の三つ揃えを大きく開き、彼もまた切り札を取り出す。ウィッチドクターである彼が取り出すのは戦場一帯の運気を左右するという医療呪術の微粒子。
 ジェノバイド・ドラグロア(狂い滾る血と紫の獄焔・e06599)の地獄の熱気に舞い上がる『運気調整呪霞』輝きはたちどころに力を表した。
「随分と生き延びてきたみてぇだが……因縁はここで終わりにしよーぜぇ!」
「行くぜ、ジェノ! 俺たちで切り開いていこう!」
 二人のクラッシャーの猛攻が文字通りに道を切り開く。二挺リボルバーの速射が盾となるドローンを叩き落とし、地獄をまとった『煉獄刀・羅刹村雨』の禍々しい刀身が両断。ただの一撃でガンドロイド一機が炎をあげて爆散する。
「まず一つ……!」
「まだ一つ、ですよ」
 唇を上げたベータの射撃。続くガンドロイドの連射がケルベロスたちを打ちのめす。敵の布陣は第二戦よりさらに攻撃へと傾いた強攻の布陣。
「ENEMY STRIKE INBOUND! WARNING! WARNING!」
「右翼は引き受けるわ。少しでも削る!」
 弾幕を張るマークの重装甲を負けじと打ち返す三体のガンドロイド。後衛へと集中する飽和火力は彼と涼子二人がかりでも庇いきれず、彼等自身にも傷を重ねていく。
「く、藍華……!」
 そしてこじ開けた隙に押し込まれるクラッシャー二体から必殺弾。決死に風を送るウイングキャット『藍華』を集中射撃が吹き飛ばす。うめく穣も動けない……かの相棒が盾になってくれなければ、何もできずやられていただろう。
「その思い、無駄にはしません……!」
「そうおっしゃらず……後を追わせてあげますよ」
 構えたトラウマボールだが銃撃はベータの方が早く、上だ。
「穣!」
 叫ぶ巌の銃撃が身を挺したガンドロイドに遮られる。間に合わない!
「大丈夫よ、まだ有利は揺るいでない」
 突き付けられた事実を覆しに差し込まれたのは、フォトナと盟友の放つ黒光。ドミナンスドローンの一機がが火花を上げて落ちていくのを、穣は傍に頼もしく見た。
「……ですね。手の内は全て見せてもらいましたから」
 ベータのライフル弾が掠めて消える。同時、放たれる黒色の魔力弾がベータを撃つ。
「なるほど……そういうことですか……」
「ええ、私達も学習したのよ。貴方の戦法を」
 メディックのポジションを取りつつ、時に特性を攻撃へと生かす。何度も戦った彼自身がフォトナたちにその有用性を示してくれた。
「遠くからチマチマとか趣味じゃねーんだ、邪魔モンが! 消し飛ばすぞ!」
「オレが言うのもなんだが、同意だな」
 援護を潰し、指揮官が封じられた間隙をジェノバイドが突進する。『冥府の処刑人』の銘に恥じぬ長双方天戟の重撃が、ドローン諸共にガンドロイドの頭蓋を砕く。
 なおも銃を構えるダモクレスをヴィンセントの轟竜砲がダメ押しと飲み込んだ。

●明日なき殲滅戦
「これで最後だ、逃さねぇぞ! かわせるかぁ!?」
 ジェノバイドの地獄から紫焔の竜が食らいつく。一気呵成に護り手のガンドロイドを噛み砕き、彼は合図と叫びをあげた。
「後詰は任せろ、いけ!」
 拡散された『運気調整呪霞』を蒔き直す陽治。白衣を朱に染めた友の姿を振り払い、巌は駆けた。
 二戦を経て削ってなお、戦力はエクスガンナー優勢なのだ。クラッシャー二機の火力は恐ろしいが、勝機は一点突破の短期決戦にしかない。
「随分と変わったもんだな、ベータ! 俺のことを覚えているか!?」
「そう見えるのは貴方がたの感傷ですよ!」
 口撃と共に打ち付けられる拳。地を裂く溶岩の如き誓いの思いから、ベータは言葉にあう軽やかさで身をかわす。燃え上がるジャケットをパージしたダモクレスから、軽やかなシャツ姿が現れた。
「ドミナンス!」
 宣誓と共に銃弾が飛ぶ。落ちかけのドローンに補正された銃弾は滑り込むように後衛へ。
「あ……っ」
 乾いた音と小さな爆発。
 ドローンが砕け、フォトナの豊かな胸に赤が弾けた。
「フォトナ!」
「攻めて……私はもう、無理……!」
 告死の眼球を握りしめた涼子を制止し、彼女は爆破スイッチを握る。
 わかっている、蓄積したダメージはヒールできない致命傷。なら肉体を凌駕した魂の力は、生きた仲間に託してやる。
「……今日は全員鉄くずにするまで帰らないわよ」
 追撃を浴びたフォトナの姿が極彩色の爆発に消えていく。自爆ではない、それは仲間たちを鼓舞する勇気の爆発なのだから。
「ベータッ!」
 氷の螺旋が、バスタービームの閃光がベータを捕らえ、身を削る。氷ついた肉が砕け、機械の身体がべろりと姿を露にする。
「貴様は、必ず……!」
「しつこい!」
 ヴィンセントの声を遮るベータ。
 呼応するガンドロイドが弾幕を絞った刹那、鋼の肉体が駆け込み、遮る。
「DAMAGE LEVEL……CRITICAL……SYSTEM……」
 火花を散らし、マークの身体が倒れていく。
 この戦場に華々しい勝利はない。ただ最後まで立っていたが勝つ、泥沼の消耗戦が敵味方を飲み込んでいく。

●最後に残るものは
「ダメだ……もう癒しきれん」
「十分よ。後は気力だけね……」
 陽治の腕から放たれたエレキブーストの輝きが涼子の身体に消えていく。
 効果は薄い。既に十分を軽くすぎた戦いで、最前線に立ち続けた者たちの傷は癒し手の限界を超えつつあるのだ。
 敵が凌駕すら阻む一撃を持つ以上、長くは持たないだろうが、それでも彼女はマインドシールドを掲げ、最後まで盾たらんと立つ。
「まだだ……まだくたばっちゃねぇんだよ! いい加減にくたばりやがれ!」
「あなたに言われたくはないですね!」
 急所を狙う銃撃を紙一重でかわし、ジェノバイドは紫焔の龍を撃ち続ける。ベータもまたガンドロイドを、ドローンを盾に銃撃を打ち返してくる。
 延焼がシャツを焼き、肉と金属の入り混じった肌が晩秋の寒風に叩かれる。
「さすがに鍛えています……ね……」
「精鋭の意地というもので……!」
 穣の身体が十字砲火に吹っ飛んだ。もはや涼子一人となった守り手では庇いきれない火力が、じりじりとケルベロスたちを追い詰めていく。
「それでも……!」
 力及ばずとも一矢は報いてやる。その執念の螺旋がガンドロイドを撃ち抜く。
「うおらぁっ!」
 同時、銃弾が涼子を撃ち倒すも、すかさず陽治。もはや役割を果たしきった癒し手は、砲撃モードのドラゴニックハンマーを力の限り握りこんだ。竜砲弾が凍り付いたダモクレスを打ち砕く。
「もう勝ち逃げなんてさせねえぜ。最後くらい付き合ってくれたって良いだろ……地獄まで」
 残り、二体。ライフルを構えるヴィンセントを横目に彼もまた膝をつく。その眉間をマシンライフルが強かに打ち据えた。

「お互い、一つか二つといったところか……!」
 懐の首飾りに手を触れ、ヴィンセントは照準を絞り直す。その根源が何かなど歯牙にもかけなかったが、この敵の執念は本物だ。
 石化光線が遮蔽に遮られ、弾幕が彼の身体を貫いていく。
「ヴィンセント! ジェノ!」
「その動き、迂闊ッ!」
 銃撃をものともせずに飛び込む巌も限界が近い。両手に構えたリボルバーの速射がベータの脚を切り裂くも、かのダモクレスは転がりながらも得物を手放さない。照準、発砲。
「残る、は……」
 体を引きずり、ベータは戦場を見回す。勝利を確信したように。だが。
「まだ少し、早い……!」
 ほんの少しのまばたき。だが閉じられた目が開く事は今、永遠になくなった。
「ガッ!? な!」
 狼狽して触れた手で、ベータは自分の半面が消えた事に気づく。それを成したのは、ヴィンセントが放った黒き雷霆。
「止めを確認しなかったのは、失策だったな」
「仕損じましたか……最後まで……」
 理解し、ベータはつきものが落ちたように微笑んだ。
「貴方がたの、執念勝ちだ……素直に祝福するとしましょう……ですが」
 力尽きるようにベータは目を閉じた。辛うじて原型を残した口が、息の抜けるような声をつむぐ。
「資材、エクスガンナー計画……完成を……」
「なんだと……!」
 それが最期だった。引き起こしたヴィンセントに、果てたダモクレスの残骸はもう何も語らなかった。

 助け起こされた穣は、聞かされた顛末へ黙祷するように目を閉じた。
「……そうですか。可能性の領域を信じてみたかったのですがね」
 レプリカント化した彼を見てみたい、というのは挑発だが本心でもあったのだが……ベータの言葉通り、兆候に見えたのは自分たちの感傷に過ぎなかったのだろうか?
「安い感傷かもしれんが、嫌いじゃなかった」
 横を見れば、傷ついた身体をおすようにマークが立っていた。情動でないにしろ、彼は部下を庇える指揮官だった。
 膝をつき、亡骸へと手を当てる。暫しの敬礼をもって、マークは彼を見送った。

作者:のずみりん 重傷:嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574) フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368) マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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