飢餓に狂いし者達の晩餐会

作者:長野聖夜

●聞き届けられぬ諫言
「朕の臣民共よ、奮励せよ、邁進せよ! 黙示録騎蝗による勝利を、朕に捧げるのだ!」
 ローカストを統べる太陽神アポロンの叫びが、山の空気に虚しく響く。
「太陽神アポロン様。どうか、これ以上の黙示録騎蝗の実行はお止めください」
「このままこの作戦を続けていては、ローカスト全体の存続の危機となります」
 必死の表情で黙示録騎蝗の中止を訴え続けるローカストの重鎮達。
 だが、太陽神アポロンは聞く耳を持たず、黙示録騎蝗の続行によるローカスト軍の強化を続けている。
 中には既に理性も知性も失い、黙示録騎蝗の軍勢から脱落していくものも出始めている。
 だが、それでも太陽神アポロン権威に抗うことが出来る者はいない。
「朕を崇めよ、ローカストを救う事ができるのは、黙示録騎蝗と太陽神アポロンのみであるのだ」
 これは正に、権威と言う名の鎖であり、その絶対的な鎖から、ローカスト達が逃れる術はない。
 太陽神アポロンが黙示録騎蝗の中断を命じるか、或いは死ぬまで続くだろう。
 或いは……グラビティ・チェインの枯渇により、理性を失うその日まで……。

●理性無き者達の狂騒曲
 ――広島県、某山村。
 その時まで、その山村はいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
 住民は野良仕事や、建設業など自分達の仕事をこなし、子供たちは皆学校に通っている。
 そんな日常の中、野良仕事に精を出していた村人の1人が一息つき、滴り落ちる汗を手拭いで拭いながら、何気なく周囲を見回した時の事だった。
「? なんじゃい、あれは?」
 彼が見たのは、6体の巨大なクワガタ。
 そのクワガタたちが、ギチギチと何かを求めるかのように音を鳴らして此方に向かって来る。
「ギシャァァァァ!」
「ひ……ヒィィッ!」
 獲物を認めるや否や、クワガタの中の一匹が男に襲い掛かり、悲鳴を上げてその場に腰を落とした男を角で挟みこみ、そのまま頭から、グシャリ、グシャリ、と貪り食らう。
 他のクワガタたちも標的を見つけるや否や、手当たり次第に人々を喰らった。
 ――それから程なくして、その村から人は一人残らず消えていた。
「ギシャァァァ……!」
 山村の村人を全滅させたクワガタたちは次の餌場を求めてその場を去る。
 ――自分達の飢えを満たす為に。

●飢餓に狂いしローカストの群れ
「皆さん、阿修羅クワガタさんと気の良い仲間達との戦いの勝利、おめでとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が微笑を浮かべて一礼する。
 其々の表情を返すケルベロス達に1つ頷くと、セリカは微笑を消し沈痛な面持ちになって言葉を続ける。
「ストリックラー・キラー部隊の撃破に続いて、阿修羅クワガタさんの勢力にも勝利した今、ローカスト勢力がグラビティ・チェインを回収する為に大規模な行動を行うことは不可能となりつつある筈です。ですが……」
 ローカストのグラビティ・チェインの枯渇は決して良い事ばかりではない。
「実は、広島県に存在するある山村が、グラビティ・チェインの枯渇により理性を失ったローカスト達に襲撃されるという事件が起きるのが予知されました。皆さんには現場となる山村に行き、理性を失ったローカストの群れを殲滅して欲しいのです」
 セリカの呟きに、ケルベロス達は其々の表情を浮かべて返事を返した。

●状況分析
「今回、皆さんに相手をして頂くのは、6体のローカストです。クワガタの形をしたローカストでそれ程協力ではありませんが、飢餓状態で襲い掛かって来るので、予想外の強さを見せる可能性もあります。……もし戦力を分割して戦えば皆さんが各個撃破されてしまうでしょう」
 尚、この6体のクワガタ型ローカストはその角を使用した戦いを得意としている様だ。
「今回、皆さんが介入できるタイミングは2つです。1つは、ローカストを村で迎撃こと。但しこの手段の場合、飢餓状態のローカスト達は、皆さんとの戦いよりも村人を餌としてグラビティ・チェインを得ることを優先する可能性があります。もう一つの方法は……」
 村に向かう途中のローカストに強襲を掛ける事。
「ローカスト達は、一直線に村に向かっておりますので、発見は比較的容易です。ですがもし、ローカスト達を発見できなければ村を襲撃されてしまい大きな被害が出る可能性があります。どちらの手段を取るかは、皆さんにお任せ致しますが、どちらの方が正しいとは言い切れないことは、気に留めておいて下さい」
 セリカの言葉に、ケルベロス達が其々の表情で頷いた。
「何の罪もない人々が飢えたローカスト達に食われてしまう惨状を見過ごすことは出来ません。どうか皆さんの力で村人達を守って頂けるよう、力を尽くしてください。……お気をつけて」
 セリカの祈りの言葉を背に受け、ケルベロス達は静かにその場を後にした。


参加者
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)
武田・由美(空牙・e02934)
テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)
真上・雪彦(血染雪の豺狼・e07031)
伊・捌号(行九・e18390)
夜識・久音(ホーリープレイ・e20233)
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)

■リプレイ


「理性をなくしているって事だから音とか結構するとか思うんだけどなぁ」
「だよなぁ」
 武田・由美(空牙・e02934)の小さなボヤキに、鋭い狼の耳を持って音を探す真上・雪彦(血染雪の豺狼・e07031)が同意する様に頷いた。
 空のヘリオンのプロペラ音と、虫が鳴らしているであろう鳴き声の音を上手く聞き分けられる様に耳を澄ませながら周囲を見ていく。
「そっちから、少し真っ直ぐ行った方角に、異様に倒れている木々があるっすよ」
 ヘリオンを利用して空中からローカスト達を探索していた伊・捌号(行九・e18390)の声が雪彦の無線機を通して入って来る。
「急ぎましょう」
 夜識・久音(ホーリープレイ・e20233)が周囲の植物を避けさせ、進路を作る。
「……うるさい、ですね」
 久音によって作られた道を進んでいく内に、ギチギチギチと言うとてもただの虫とは思えぬ狂気じみた音を耳にして、エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)がボソリ、と呟いた。
「おいでなさったみたいだよ」
 明らかに巨大な群れが動いている様を気配で感じ取り、由美が雪彦達を促し、一路其方へと向かう。
「地上班だ。ローカストを捕捉したぜ」
「了解っす」
 その通信を最後に、地上班からの連絡を受け取った捌号がテレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)を初めとする空中班の仲間達を見る。
「聞いた感じだと、この辺りからなら奇襲が掛けられそうね」
 カチリ、と伊達メガネを掛け直して、素早く地図を確認しそう呟いたのは、ミミックである椅子に腰かけたリナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)。
「そうですね」
 無表情ではあるが、ミニスカメイド姿故の寒さに少しだけ身を震わせながら返事を返すテレサ。
 リナリアの提案に頷きながらも、レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)は表情を曇らせている。
(「ローカストの残党狩りか……あちらも手段を選んでいられない訳か」)
 放置しておけば間違いなく起きる悲劇の連鎖。
 それを止めたいがためにレスターは此処にいる。
 けれども……ローカストと言う強者によって、一般人と言う弱者が食われるのを止める為に、ローカストの命を奪うしかないのはやり切れない。
 程なくして、リナリアが導き出した地点に地上班が辿り着き、その背後に自分達が回り込んだのを確認し、ヘリオンから降下した。


「テメェらが飢えて人を襲うってんなら、此処で引導を渡してやるのが筋だよなァ!」
 6体のクワガタの群れを視認するや否や、口元に獲物を見付けた狼の様に獰猛な笑みを浮かべて、雪彦が日本刀を鞘走らせる。
 キラリ、と銀閃と共に刃を抜き放ち、大上段からローカストの一体の頭を叩き割ろうとする。
「ギシャァ!」
 まるで、餌を見付けた獣の様に。
 鳴き声を鳴らしながら、本能的に割って入ったクワガタの体の一部を斬り裂いた。
 斬り裂かれたクワガタが休む間もなく、その角で雪彦を挟み込むべく突進してくるのに、ボクスドラゴンのメルが立ちはだかり、彼の代わりにその攻撃を受け止めながら、炎のブレスを吹き付ける。
 顔に炎を吹き付けられ踏鞴を踏んで挟み込んでいたメルを手放すローカスト。
 そこに、由美が素早く接近。
「空腹に耐えろってのは酷な話だよね。あんた達には同情するけど、こっちも譲れないのよ。恨んでくれても良いから安らかに眠らせてあげる」
 呟きながら、天衝輪廻に搭載されたロケットエンジンで超加速させた拳による一撃を叩きつける。
 その一撃はローカスを強かに打ち据えていたが、未だ倒れる様子を見せないローカストに溜息を一つ。
「流石に一撃必殺は虫が良すぎるか」
 クワガタが背後から飛び出し、狙いすました態勢で由美に襲い掛かる。
 静かにその動きを洞察し、最小限の動きでその攻撃を見切ろうとするが、飢えた虫の速度は彼女の予測をはるかに上回っていた。
「由美さん。あぶないですよ」
 エドワウが彼女の前に飛び出しその体当たりを受け止めて軽く血の混じった唾を吐き捨てながら、星の様にキラキラしているブラックスライムの中から星型UFOのドローンを出現させ、仲間達を守る防衛ユニットを作成する。
 更に久音が全身から光り輝くオウガ粒子を放出する間に、コーラスが属性インストールでエドワウの傷を癒す間に、捌号のボクスドラゴン、エイトがボックスの中に入って弱っているクワガタに体当たり。
「ガァァァァ!」
 ダメージを積み重ねながらも尚立つクワガタを庇うかのようにその後衛にいたクワガタが、羽音を鳴らす。
 それが森全体を揺さぶる振動波となるが、雪彦をコーラスが、由美を久音がメルがエドワウを庇い、攻撃による被害を最小限に食い止めていた。
 負傷こそ無いが、その音が余りにも耳障りで雪彦が顔を顰める。
「ちっ……こいつ、ジャマ―か!」
 だがすぐに獰猛な笑みへと表情を戻し、次の攻撃に備える雪彦に、ローカスト達が我先にと体当たりを敢行。
 群がって一斉に襲い掛かって来る3体のローカストの背後から……。
「椅子、行って」
 鎖状のエクトプラズムでローカストの一体を締め上げる椅子。
 更に……。
「当たれっ!」
 ヘリオンから降下する勢いでミニスカを風に煽られながら、ジャイロフラフープ内にある弾丸を撃ち出すテレサ。
 椅子の鎖に締め上げられ、虚を衝かれたローカストとは別の一体の羽がテレサの一撃により派手に吹き飛び、更に光り輝く翼で自らの身を加速させたレスターが二丁のバスターライフルからレーザーを撃ち出し、一斉に襲い掛かって来ていたローカスト達の背を焼き払う。
「大丈夫っすか?」
 背後からの突然の攻撃に攻撃の隙を奪われたローカスト達を一瞥し、捌号がサキュバスミスト。
 前衛過多の状態で狙いを絞ったのが功を奏したか、先の攻撃で負傷していたディフェンダー達を中心にその傷を癒していく。
「そこね」
 眼鏡の向こうで目を鋭く細めたリナリアが、上空から飛び降りながら撒いた『目に見えない地雷』を起爆し、ローカスト達の中心に爆風の花を咲かせた。
 
 ――緒戦は、比較的優勢に進んだ様だ。


 それから暫くの時間が経った。
「これがあたしの全力!」
 多数のディフェンダー達に守られ、負傷を最小限に抑えていた由美に向けて、本能的に護り手としての役割を果たしていた傷だらけのローカストの突撃を予測。
 その突進を左腕で受け流し、勢い余ってつんのめるローカストへと必殺の一撃を叩きつける。
 その拳は、『空』。
 善でも悪でもない……ただ、破壊し、粉砕する力。
 既に傷だらけのローカストがその一撃に耐えきれる筈もなく、グシャリ、と鈍い音と共に力尽きる。
「わが心、空なり」
 小さく一礼する由美。だが、ローカストはまだ5体いる。
「信じた神さんに付いていった結果がそれっつーのは、同情するっすよ」
 自分を救ってくれた『神』は確かにいる、と捌号は思う。
 故に、自分自身が信じているアポロンと言う『神』を信じた結果が、道具として利用された挙句の果てに、飢餓に苦しみただ暴れるだけの怪物と化してしまったいうのは、あまりにも酷い。
 そんなことを思いながら、捌号が護り手のローカストの後衛にいたジャマ―のローカストに向けて炎を纏った回し蹴りを叩きつける。
 放たれた紅蓮の炎がジャマ―のローカストを焼き、苦痛からか苦しげな呻きを上げる。
 そのローカストにテレサが旋風を纏った蹴りを叩きつける。
 風圧によって生み出された風が真空状態を生み出し、ローカストを斬り裂く刃となった。
 ズタズタにその身を斬り裂かれながらも、羽音を立てようとしたローカストだったが、大事な羽を斬り裂かれ上手く音を鳴らせない。
 その隙を突いて、エドワウが破鎧衝。
 放たれた痛打が、ミシリ、とその甲羅による走行を打ち破り畳みかける様に、メルがボクスブレスを吐き出し、その身を焼いた。
「ガッ、ガァァァァ……!」
 苦痛の悲鳴を上げるローカストを、雪彦が笑みを浮かべながら、左手のブラックスライムを捕食形態へと変形させ、丸呑みにさせる。
 その胸を、心臓ごと飲み込まれたローカストがドタリ、とそのまま地面に音を立てて倒れ伏した。
「テメェのその飢餓感も――これで終いだ」
 呟く雪彦を見逃すこともなく、他のローカストの内、一体が角で雪彦を挟み込むべく襲い掛かる。
 が、その時には久音がその前に立ちはだかり、角に挟み込まれて刻み込まれた傷から滴り落ちる血を、霧へと変換して傷を塞ぐ。
 コーラスがそれに追随する様に属性インストールでその傷口を塞いだ。
 けれども、それでも尚、滅茶苦茶に暴れ回りながら突進してくるローカスト達。
「着実に仕留めるんだ……!」
 防御役を潰すべきと本能的に考えたのか、久音へと目標を変えて突進してくるローカストの1体に向けて、レスターがバスターライフルに地獄を這わせ叩きつける。
 地獄の炎を纏った銃による強打がローカストの1体の全身を焼き尽くし、更にエイトのボクスブレスがそのローカストを焼き払っている。
 苛烈な攻撃を潜り抜け、体当たりをしてきたローカストの体当たりによる衝撃で久音が踏鞴を踏み、その隙をつく様に突進してきた次なるローカストの攻撃を、椅子が代わりに受け止めた。
 衝撃を受けながらも、偽の黄金を椅子がばら蒔き、それらが礫となってローカスト達に叩きつけられている。
 それに追随してリナリアが、ウィッチオペレーション。
 素早い切開手術で、傷の深い久音を緊急回復させる。
「ギシャァァァァ!」
 自分達の総攻撃を受けても尚、一人も倒れなかったことに業を煮やしたのか、ローカストの1体がその羽音をギチギチと鳴らす。
 森林全体を揺るがす様な音波が、テレサ達前衛を襲うが、それに対応する様に、久音が小さく祈りをささげた。
「ちいさな祈りをかさね かくして歌は紡がれる 闇夜に届け ほしのこえ」
 ――どんなに宇宙が暗くとも。その闇が深くとも。
 蒼き星に生まれ落ちた祈りが潰えることはない。
 その想いと共に紡がれた祈りの言葉と共に、蒼く柔らかい癒しの光が、前衛を包み込み、先程の羽音による負傷とそれによる催眠状態を解除する。
 庇うことに重点を置いていたメルにコーラスが属性インストールを施し、態勢を立て直したメルが、主のエドワウと共に羽音を立てたローカストに襲い掛かる。
「しめあげます……」
 エドワウがケルベロスチェインを撃ち出してその身を締め上げ、メルがブレスでその身を焦がす。
「拳だけに注意すればいい訳じゃないよ!」
 体を燃え上がらせるローカストに由美が流れるような動きで接近し、風の刃による蹴りを叩きつける。
 風の刃を纏った蹴りがその身を斬り刻み、ローカストがまた1体力尽きる。
「フシャァァァァ!」
「これで、半分かよ。まだまだ、倒したりねぇなぁ!」
 闘争心を剥き出しにした雪彦が一瞬で間合いを詰め、まだ息があって威嚇してくるローカストへと突撃。
 椅子が生み出した鎖でその敵を締めあげ、回復を捌号に任せたリナリアが接近して、星の力を纏った足で、四股を踏ん張り立つローカストに足払いを掛ける。
 星々の力の籠められた足払いに、態勢が崩れたローカストの頭部を、雪彦の一撃が確かに切り捨てていた。
「いきます」
 頭部を斬り裂かれ、それでも尚息のあるローカストにテレサがジャイロフラフープ内の弾丸を叩きつける。
 加速して放たれた弾丸がしっかと、ローカストの胸を射抜きガクリ、とその場で力尽きる。
「後2体、だな……」
 次々に倒れ逝く飢餓状態のローカスト達の惨状を見つめながら、レスターはふと、呟く。
 喰われるのが嫌なら強くなるしかない。
 しかし……此処にいるローカスト達は、ある意味で、自分達が喰われるのが嫌で強くなった結果、その心を喰われ失ってしまった存在。
 頭を砕かれても尚立っていられるというのは、心のみならず、体でさえも痛みを感じることが出来なくなってしまっていたということなのだろう。
「……痛みを感じる心すら失って、其れで生きていると言えるのかな」
 自らの想いを口ずさみながら、特殊な呪文が刻まれた魔弾をローカストに向けて撃ち出す。顔の右半分に紋章の刺青を浮かび上がらせるレスター。
 撃ち出された弾丸は、既に傷だらけのローカストの周囲に結界を展開。
 その中で跳弾した弾がローカストをズタズタに射抜いた。
「ここがデッドエンドだ!」
 叫びと共に、グラリ、とその場に力尽きる、ローカスト。
 これで、後1体。
「此処まで追い詰めれば回復は余計っすね」
 捌号がそう判断し、素早く御霊を自らの身に下ろし、その力で残されたローカストを締め上げていく。
 締め上げられ、動きを封じられたローカストに、エイトがすかさずブレスを吐き出した。
 ブレスに焼かれるローカストに、久音が殲術超鋼拳を叩きつけ、コーラスがボクス体当たりを叩きつける。
「一撃粉砕! 鉄拳制裁!」
 体当たりにより、傷だらけでよろけたローカストに由美が、天衝輪廻で加速した拳を叩きつけた。
 それは……ローカストの体を貫き、完全に止めを刺していた。


「……やりきれない、な」
 たとえ敵と言えど、命を奪うことが。
 レスターの言葉を耳にしながら、雪彦が日本刀を懐紙で拭い、静かに納刀する。
「まあ、コイツらは飢えて人の村を襲おうとしてたんだ。ならば、殺してやった方が、コイツらの為だぜ」
 ――少なくとも、飢餓による苦しみからは解放されるのだから。
 内心でそう思いつつ、せめて、とそっと目を閉じてローカスト達に黙祷を捧げる雪彦。
「まっ……運が悪かったこいつらは、弔ってやるのが筋っすよね」
 捌号が呟き、ローカストの遺体たちを静かに埋めて、黙祷を捧げ始めた。
(「次はまともな神さんの元にうまれますように」)
 そう思いながら。
「……駄目ね。流石に直ぐに特定するのは難しそうだわ」
 ローカストが進軍してきたと思しき方向を確認するが、獣道で尚且つ、無数の木々に阻まれて進路をその場で割り出すのは困難であることを悟り、リナリアが小さく息をつく。
 アポロンの居場所は一度戻って追跡、及び再検討する必要があるだろう。
「しっかし、こんな状態になっても闘うなんて、アポロンじゃなくてアホロンだね。……ご愁傷様」
 由美の憐れみを籠めた呟きが、シン、と静まり返った戦場の中で静かに響き渡った。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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