孤独の行き着く先に

作者:質種剰


 暗い暗い森の中を、年端もいかぬ少年が歩いている。
 淡い月の光すら繁る枝葉に遮られて、足を引っ掛ける木の根も落ちている枝も碌に見えない。
 それでも少年は気にしない。
「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい生きたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」
 気にする必要がなかった。
「どうせ僕は生きてても仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない価値がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がない仕様がないんだから」
 気にしないよう努めていた。
「僕なんかいなくなっても誰も気にしない、気にしない気にしない……」
 何故なら、彼は森を出て家へ帰るつもりがなかったから。
「もう二度と帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰りたい帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない帰らない」
 日常へ戻るつもりはなかったから。
 否、本当は帰りたかったが、自分で自分にひたすら言い聞かせて、暗い森から逃げたい衝動を抑え込んでいた。
 死にたくない気持ちを抑え込んで。
 生きていたい希望を抑え込んで。
 少年は森の奥へ奥へと進む。
 彼にとって辛いらしい現実から目を背けるように。
「大丈夫、生きてて良いんだよ」
「えっ……?」
 そんな少年の張り詰めた心を針で突いたのは、寄生型攻性植物、フレッド・ネグローニ。
「君に生きる理由をあげよう」
 フレッドは情の籠らない上滑りな言葉を投げかけると共に、ゼラニウムの花が咲いた腕を伸ばして、少年を手招いた。


「神奈川県の市街地に、またも寄生型の攻性植物が現れるであります」
 集まったケルベロス達を前に、小檻・かけら(貝作るヘリオライダー・en0031)が焦った様子で説明する。
「その攻性植物も、やはり周辺の森からグラビティ・チェインを求めて降りてきたらしく、人々を襲撃するつもりでありましょう」
 一般人がデウスエクスに殺されると判って放っておく訳にはいかない。
 だから攻性植物が市街地へ入る前に、迎撃をお願いしたい——とかけらは懇願した。
「今回の攻性植物も、中に人間が捕らわれてるでありますが、例の如く何者かの配下となっていて、説得にて助け出すのは無理であります」
 捕らわれた少年は、森の近辺で最近行方不明になった人物と特徴が一致しているそうな。
「一体、何故お一人で森に入ったのかは解りませんが、攻性植物に捕らえられた以上、ご自身で赴かれたのでありましょう……少し気になるであります」
 首を傾げるかけら。
 今回出現する巨大松茸攻性植物は、その敏捷性を活かして『蔓触手形態』に変形し、近い相手1体へ触手を伸ばして締め上げてくる。
 エノキダケのように長い繊維に巻かれ、ぎっちり絡みつかれて捕縛される可能性がある為、気をつけて欲しい。
 また、『埋葬形態』に変形して、地面と接した根から戦場を侵食、敵群を飲み込む事もあるという。
 射程が長く、複数人の相手へダメージと催眠効果を及ぼす。ちなみにこちらは魔法攻撃である。
 そこまで説明を終えて、かけらは皆へ言い募る。
「重ねて申しますが……攻性植物に寄生されてしまった人を救う事はできません。これは、その人を攻性植物にした何者かの影響と思われます……」
 ですが、と彼女なりに励まそうともした。
「その何者かの発見は不可能でありますが、警戒活動を続ければ敵の動きを捕捉する事ももしかしたらできるかもしれません。焦らずに頑張ってくださいまし」


参加者
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)
ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)
村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)
ステラ・アドルナート(明日を生きる為の槍・e24580)

■リプレイ


 真夜中の市街地。
「やれやれ、ケルベロスになってからスカイダイビングを楽しむ機会が増えたな」
 そう苦笑しつつヘリオンから飛び降りたのは、村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)。
 しなやかな漆黒の髪と理知的な光を湛える藍色の瞳が、冷静沈着な内面をよく表している、物静かな空気の青年だ。
「寄生型攻性植物事件ももう何度目だよ。一向に収まる気配がないな」
 着地するなり、柚月はポケットから取り出した地図へと印をつける。
 今回は神奈川県の某所——その日本地図には、これまで寄生型攻性植物事件が起きた場所全てに印がついていた。独自にヘリポートで調べたのだろう。
「過日と同じケースの攻性植物さんの討伐……今回も寄生された方は救出不可能……」
 次いで飛び降りたニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)が、複雑そうな面持ちで呟く。
 赤いリボンで結ったポニーテールとクラシカルなエプロンドレスの可愛らしい、本職のメイドさんだ。
「こういう事にはあまり慣れたくはないですね。気を引き締めて臨むとしましょう」
 心優しい彼女だから、南天攻性植物へ相対した時と同じか或いはそれ以上に、被害者の少年を助けられない事が辛く胸を締めつけているに違いない。
 それでもニルスは気丈に、ライドキャリバーのトライザヴォーガーへ跨って、松茸攻性植物を討ち倒すべく待ち構えている。
「助けることは出来ないのですね……悲しいですけれど、少しでも被害を食い止められるなら……」
 クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)も、その穏やかそうな面差しへ憂いを帯び、沈んだ声を出した。
 絹を撚ったかの如き銀髪や鏡を述べたように澄んだ色の瞳、髪に咲かせた白い花と、彼女を形作る全てが優しい風合いを醸し出している、おっとりしたオラトリオの少女。
 オルトロスをオっさんと呼んで可愛がっているらしいが、オっさん当人は——その語感からか、呼び名を苦手としている模様。
「……わたくしたちも力を尽くしましょうね、オっさん」
 戦いを好まぬクリスティーネだが、市民を守る為にも懸命に気持ちを奮い立たせて、オっさんと頷き合うのだった。
(「……そうか、見つけられなかったんだな。生きる道を。認められなかったんだな。生きる望みを」)
 天音・迅(無銘の拳士・e11143)は、かつて病弱だった自身に重なるのか、攻性植物へ捕らえられた少年の心中を密かに慮る。
 赤い髪に藤の花房を垂らし、すらっとした長身と長い手足を持つオラトリオの青年。
「オレは1人の少年の哀しみを忘れまい。そして、弱さに付け込む黒幕も、きっと何処かに居るからには討たないとな」
 迅は強い決意を胸に——それでいて陽気で前向きな振る舞いは崩さず、松茸攻性植物がやってくるだろう森のある方向を見据えた。
 一方。
「……如何なる理由で日常から逃げてこのような姿になったのか、そんなものはどうでもいい……攻性植物と化した輩に対する思いは一つ」
 祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)は、既に松茸攻性植物へ呑まれた少年の事を割り切って考えているらしく、平坦な声を出した。
 否、すぐに声へ強い感情は籠ったが、決して少年への哀惜でも憐憫でもない。
「……ワタシはお前を祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい祟りたい……」
 それは、執ねき呪わしさとでも言うべきか——イミナが常々抱える衝動、彼女の根幹を成す欲求であった。
 長い黒髪を振り乱し、五寸釘とハンマー、そしてお気に入りの藁人形を持ち歩く白装束姿は、なるほどいかにも呪術が得意そうである。
「自ら命を捨て去るか……どの道、狩るしかないなら、ワタシの仕事あるね」
 ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)もまた、少年の末路を仕方の無い事と捉え、その上で仲間の精神的負担を和らげんとする口ぶりであった。
 お団子にした黒髪と赤々と光る瞳、青い拳法着がクールな雰囲気の美女で、常に隠している口元は心から信頼出来る者以外には見せたがらないそうな。
 そんなジンだが、先程の物言いや念の為に殺界形成で周囲の人払いを済ませているところからして、手段を選ばぬ暗殺者として生き己を律している心の底には、他者を思い遣る気持ちを秘めているのかもしれない。
 他方。
「取り込まれた一般人、か……ふふ、看取りと魂の案内はボク達ヴァルキュリアの仕事、ってね……!」
 こちらは努めて明るく振る舞っているのか、それともデウスエクス時代の素が出たのか、ステラ・アドルナート(明日を生きる為の槍・e24580)が元気そうに跳ねていた。
「相棒、今日も宜しく頼むよ」
 槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)は、ライドキャリバーの雷火へ声を掛けている。
 真っ黒なくせっ毛とジャージの上下が印象的な男で、柔和な表情をした自宅警備員。
 普段は飄々として日々中二病の度を深めていく清登だが、かつて社会人の経験があり年相応の落ち着きもあるせいか、時に鋭い一面を覗かせる。
 加えて、地味な見た目に反し、意外と熱血漢でもあるらしい。


 巨大松茸攻性植物が、いよいよ市街地へ姿を現した。
 白い柄の中に少年を取り込み一体化しているのだろうが、その表情どころか輪郭すら定かではない。
「死ねェェェェェェェッ!!」
 ただ、甲高い叫び声を上げるや、接地した根から戦場を侵食すべく地面を揺るがしてくるだけだ。
「埋葬形態が来る!」
 今回、催眠をかけられた際の対策を皆と話し合って備えてきた柚月が、巨大松茸の根の動きを察知して、声をかけた。
 もっとも、容易に避けられたり先回りして何か出来る訳もなく、せいぜい誰が喰らっても良いように覚悟を決め、すぐ対応に移ろうと心構えするぐらいだが。
 とはいえ、ディフェンダー達は柚月の声とほぼ同時に自ら動いていた。
「……祟る祟る祟る祟祟祟祟……」
 すぐさま、イミナがクリスティーネを、トライザヴォーガーは清登を庇って、多くのダメージを受ける。
 2人以外の後衛陣もダメージを食らい、地面に呑み込まれる感覚に耐えようと両足を踏ん張った。
「元人間だろうが敵は敵だ。元人間だったビルシャナだって容赦なく倒すだろ? やることは同じさ」
 柚月はどことなく自らへ言い聞かせるように呟いてから、重力宿りし飛び蹴りを炸裂。
 流星の煌めきが尾を引く蹴りを叩き込んで、巨大松茸の機動力を削ぎ落とした。
「……弔うように祟る。祟る。祟る祟る祟る祟る祟る祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ……!」
 反撃とばかりに、呪力を込めた杭を松茸攻性植物へ直接打ち込むのはイミナ。
 巨大松茸の傘や柄を何度も何度も深く打ちつけて、尋常ではない痛みを齎すと同時に、強い呪力で体の自由も奪った。
「こ、怖いですが、これ以上被害を出したくありません!」
 怖がりなクリスティーネは、巨大松茸の異様な外見や、さっきの大きな揺れへ恐れをなしていたが。
「小さく弱い光でも少しでも力になれば!」
 仲間の催眠を解くのを最優先に動こうと、光り輝く白百合をイミナへ捧げ、彼女の怪我を癒した。
 その傍らでは、オっさんがソードスラッシュを巨大松茸へ繰り出している。
「眼前にいるのは攻性植物、デウスエクス……倒す事に一片も迷いは無い」
 願わくば、良いバトルにしたいものだね……!
 ゲシュタルトグレイブを構え、勇敢に向かっていくのはステラ。
 稲妻を帯びた超高速の突きを浴びせ掛け、貫いた肉から伝わる電撃で巨大松茸の神経回路を麻痺させた。
「……参る」
 ジンは冷徹な目つきで巨大松茸を静かに見据えてから、分身の術を自ら用いる。
 埋葬形態から受けた傷を治癒すると共に、己の異常耐性を高めた。
「皆、大丈夫か? なるべく味方を攻撃しちまう事態は避けねえとな」
 と、白く荘厳な天使の翼を広げるのは迅。
 オーロラの如き光で後衛陣を包み、意識に巣食う催眠の根を摘み取った。
「中にいらっしゃる方……聞こえますか? もしも、聞こえているのなら、ご自身の意思で人に仇なす存在になったのか、或いはそそのかされたのか……教えては頂けませんでしょうか?」
 ニルスは懸命に巨大松茸の中へ向かって呼びかけるも、一体化した少年による返事は無く。
「人間は死ね……死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
 低く繰り返されるのは呪詛か恫喝か、どちらにしろそこに少年の思惟は残っていなかった。
「……もう、攻性植物の意志だけなのでしょうか……」
 哀切な声を洩らしながらも、ニルスはアームドフォートの主砲を一斉発射、松茸攻性植物へ少なくないダメージを与えて、その巨体に麻痺をも残した。
「俺は自宅警備員……向かったのが自分の部屋か、森かの違いだけで……案外、君と近いのかもしれない」
 清登も、ニルス同様に巨大松茸の中の少年へ穏やかな声音で語りかける。
 せめて幾許かでも鬱積を晴らし、心を軽く出来るように——と。
 それでも、既に攻性植物と一体化した少年へ、彼の声は届いていないのが哀しい。
「任せて下さい。コレで調べれば大概の事は分かります……しゃべってエンジェル、起動ッ!」
 気を取り直して、音声に反応して可愛いミニ天使があらゆる事象を調べてくれるアプリを起動する清登。
 戦闘に有益な情報を素早く検索して味方をサポートするものだが、滑舌が悪い為か、しばしば謎の単語が誤って検索されたりもする。
 だが、どのみち検索で得た情報なれば有益に違いなく、なんやかんやと活用されて前衛陣へ命中率上昇の恩恵を齎した。
 同じ頃、雷火やトライザヴォーガーは、それぞれ車体に炎を纏って突撃し、巨大松茸へ火傷を負わせんと頑張っている。


 松茸攻性植物は、埋葬形態と蔓触手形態を交互に使い分け、攻撃の手を微塵も緩めない。
「どうか皆さんが無事でありますように……。オっさんお願いします……」
 しかし、時にはクリスティーネの祈りが届いたのか、
「蔓触手が来るよ!」
 それとも柚月と手分けして巨大松茸の動きを注視していたステラの報告のお陰かは判らないが、
 ——バチィッ!!
 オっさんが、今しもエノキみたいな触手に巻きつかれかけていたジンの前へ身体を滑り込ませて、自分が代わりに捕縛される事もあった。
「うう、助けられなくて、すみません……すみません……!!」
 クリスティーネは、数多の触手を蠢かせる松茸攻性植物へガタガタ震えて怯えつつも、少年への謝罪を目に涙を溜めて繰り返す。
 そんな彼女の描いた守護星座の光が、前衛陣の異常耐性をつけると共に、オっさんの縛めを解いて体力も回復させた。
「……松茸とは中々贅沢なものに変貌したな。……焼いて喰らってくれる」
 ローラーダッシュの摩擦を利用し、エアシューズに炎を纏わせるのはイミナ。
 激しい蹴りを喰らわす事で巨大松茸へ炎を燃え移らせ、轟々と燃え盛るに任せて体力を奪った。
「少年の悪夢はここで終わらせよう——今はただ、安らかに眠れ」
 柚月は、手にした大いなる金属錬成の力を秘めたカードを発動させる。
「穿て銀の閃光! 顕現せよ! メタルバニッシュ!」
 金属を流体のように扱える力をドラゴニックハンマーの柄へ作用させるや、柄を鞭の如くしならせて重いヘッド部分を敵にぶち当て、強烈な殴打を見舞った。
「思う事、抱えるモノ、全部受けてやるから……ここで全部降ろして行けよ。そのキノコの着ぐるみと一緒にな」
 少年へ親身に話しかけるのをやめないまま、仲間の治癒や守護に奔走するのは清登。
 何より自分とクリスティーネ双方が催眠にかかってしまわぬよう気を配り、彼女を『真に自由なる者のオーラ』で包んで癒しの時間と異常耐性を与えた。
「生きるのが辛い? 死ぬのも怖い? ……そうだよね。実はボクもたまに、そう想う」
 けどさ、それでもさ。何も無いよりマシなんじゃない?
 ステラは、松茸の中の少年へ切々と語りかける。
「辛いのも、怖いのも、嬉しいのも。楽しめるのは、生きてる間だけなんだよ」
 彼女も、仲間達と同じで、もはや少年が完全に攻性植物へ意識を乗っ取られたと解っていても、変容する前の彼の胸中を思えば、声をかけずにいられない。
「キミはもう手遅れかもしれない。だったら、これからはボクが一緒に見せてあげる」
 そう宣言して、漆黒の瘴気纏いし拳を固めるステラ。
「だから――キミの魂、貰い受けるッ!」
 突き出した拳を覆う降魔の力が30もの鏃へと変じ、魂ごと食い破らんとそれぞれが別の軌道から巨大松茸へ襲いかかった。
「アナタ、脇甘いね」
 影から創り出した刀身に周囲の色を映し出し、死角から巨大松茸へ忍び寄るのはジン。
 先に振り下ろした右手の闇妖は囮で、本命は全くの不意打ちに斬りかかる、左手に握った透明な影の剣であった。
 いかに迷彩効果が完璧でなくとも、激しい攻防の中で使うには充分な効果を期待でき、殺傷能力も高い。
 今も、刀身の形状を維持できる数秒の内に松茸攻性植物を斬りつけ、その狙い澄ました太刀筋で深手を負わせた。
「散り逝く命、無駄にはしねえ。アンタに迫る道は切り拓く」
 迅は、己を戒めんとして、そして今この場にいない黒幕へ届けとばかりに宣言。
 かざした掌から『ドラゴンの幻影』を放ち、巨大松茸を焼き捨てる勢いで燃やし尽くした。
「躊躇わず、貴方を討たせて頂きます。だから……ごめんなさい……」
 ニルスは苦い思いを飲み込んで、バスターライフルの太く長大な銃身から、凍結光線を発射。
 目にも眩い光芒が巨大松茸の柄に命中するや、その物凄まじい破壊力は、熱だけでなく攻性植物の命をも奪ったのだった。
「はぁ……はぁ……こ、怖かったです……」
 無事に戦闘を終えた安堵から、腰を抜かしたクリスティーネがへなへなと道路にへたり込む。
 すぐにジンが近くで土を掘り、簡単な墓を作って巨大松茸の亡骸を埋めた。
 柚月はそれまでの間にも、攻性植物の遺骸として『何が残るのか』を見極めるべく観察している。
 ニルスは、前回同様な遺体は全て頽れて灰のようになって消えると予想し、静かに黙祷を捧げている。
「このような哀しい犠牲者をこれ以上出さない為にも、早急に元凶を探し出さなければなりませんね……」
 その傍らでは、ジンが自分の仕事は済んだとばかりに、一足先に帰ろうとしている。
「色んなもんが間に合わなかったな……安らかに眠ってくれ」
 迅は少年の死を哀悼し、これは黒幕を討たない限り繰り返される事態なのだと心に刻んだ。
(「キミの命を護る事は出来なかったけれど、その魂はこれから、ボクと一緒だよ……勿論、迷惑じゃなければ、だけどね」)
 ステラも少年の面影を悼んで、『寂寞の調べ』を小さく歌っていた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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