単眼人形の忌諱

作者:犬塚ひなこ

●モノアイドールの怪
 ――嫌だ、嫌だ、気持ちが悪い。
 仕事を終えた青年は身震いをして、先程まで触れていたモノを思い出す。彼は清掃業者であり、特に空き家や手付かずの廃墟の片付けや整理を行う仕事についている。
「何だよ、あの人形……! 人形だってだけでも気持ち悪いのに!」
 今日、彼はドール収集家が住んでいた家を清掃するように手配された。家の持ち主が亡くなってまだ日が経っていないので家の中は比較的綺麗だったのだが、問題はコレクションルームにあった。
「顔の中心に目がひとつしかないって……う、思い出すのも嫌だな……」
 棚やガラスケースにずらりと並んでいたのはどれもが単眼のドールだった。元から球体関節が苦手だったうえに彼の常識の中ではありえない、一つ目という存在。
 無論、ドールや単眼に興味を示す者も多く居るだろうが彼は違った。
 もう一度体を震わせた青年は記憶を振り払おうと首を振る。そのとき――あはは、という笑い声が彼の耳に届いた。
「私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 次の瞬間、彼の胸元に大きな鍵が突き刺さる。
 声の主はパッチワークの魔女・ステュムパロス。彼女は青年の胸から鍵を引き抜くと、くるりと踵を返して何処かへ去ってしまう。
 青年はその場に倒れ、その代わりに彼の『嫌悪』を具現化した存在が現れる。
 その姿は漆黒のドレスを身に纏った少女人形。白磁のような肌に背中まで伸びた金糸の髪、手足は球体関節。
 そして――顔の中心には、大きな硝子眼球がひとつだけ埋め込まれていた。
 
●単眼のまなざし
 人は在り得ないものに嫌悪を抱き、恐怖するという。
 その心がドリームイーターに奪われたという話を語り、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は仲間達に協力を乞う。
「ある男の人の『嫌悪』は単眼……モノアイドールが苦手で嫌いだというものでした。夢喰いになった嫌悪の形は今、夕暮れの街を彷徨っていますです!」
 このままでは人が襲われてしまうと話したリルリカは、事件が起こる前にドリームイーターを倒して欲しいと願った。
 今回の戦うべき相手は一体。
 金髪の少女人形の姿をした敵は子供程度の大きさで一見すれば普通の少女が歩いているように見える。だが、よく見れば手足は人形のそれ。そして顔の三分の二ほどの大きな碧眼はたったひとつきり。
「単眼って、好きな人はきっと好きだと思います。ですが急に単眼人形が襲ってきたらびっくりしてこわいに違いないです」
 その光景を想像したらしきリルリカは小さく震えた。
 人形型夢喰いは或る路地裏を通ることが分かっている。其処で待ち伏せして戦いを仕掛ければ、そのまま本格的な戦闘に持ち込めるだろう。
 敵は配下こそ連れていないが、その力はとても強力だ。魔力を使って幻影の単眼人形群を放ったり、大きな青い瞳で見つめて行動を縛ったりと侮ることは出来ない。
「でもでも、皆様が協力して戦えば怖い相手ではありませんです。ぱぱっとやっつけちゃってください!」
 誰にでも苦手な物や嫌いな物はある。だが、それは個人の中だけの感情や思いであり、それを化け物にするなど言語道断だ。
 そうして、ぐっと掌を握ったリルリカは仲間達に応援の眼差しを向けた。


参加者
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)
大石・千代子(フィレナワール・e01170)
シルヴェストル・メルシエ(白百合卿・e03781)
角行・刹助(モータル・e04304)
海野・元隆(海刀・e04312)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
夢浮橋・密(ドルチェビート・e20580)

■リプレイ

●人形少女
 人気のない路地裏にて、来たる敵を待つ。
 周囲に満ちた空気は何処か不気味に感じられて嵐の前の静けさのようにも思えた。
「モノアイドールか、世の中いろんな趣味があるもんだな」
 海野・元隆(海刀・e04312)は軽く肩を竦め、これから訪れる敵の容姿を思い浮かべる。夢の主となった青年は単眼人形が苦手で仕方ないらしい。
 シルヴェストル・メルシエ(白百合卿・e03781)も元隆と同じように思いを巡らせ、そうだな、と緩やかに頷いた。
「モノアイ、俺は嫌いではないが好みはそれぞれ、かね」
「単眼かー……あれは確かに人を選ぶ属性のひとつだからなぁ……」
 八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)も彼らに同意し、青年を哀れに思う。嫌で仕方なくとも清掃の仕事をした上でデウスエクスの被害に合うなど不幸過ぎるだろう。
 建物の屋根の上に潜んでいたティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)も仲間の声にこくこくと首を縦に振り、確かに、と口にする。
「あまり見慣れませんから、ちょっと不気味かも」
 だが、自分が狙撃するときも或る意味で単眼だと考えたティは傍らのボクスドラゴン、プリンケプスに視線を落とした。
 その間もベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)は警戒を抱き続ける。いつ敵が訪れるか分からない為、気を張るに越したことはない。
「しかし魔女か、嫌悪……己を忌み嫌うものを探し、殺すか」
 悪趣味だと呟いたベルンハルトは大人びた瞳で路地裏を見遣った。大石・千代子(フィレナワール・e01170)は何かが近付く気配を感じ取り、顔をあげる。
「綺麗な子だから、きっと誰かの手元にあれば大事にされたんだろうなぁ」
 それが人の嫌悪となり、具現化されてしまっては可哀想だ。何かヤな感じ、と肩を落とした千代子は路地の向こう側に小さな影を見つけた。
 ゆっくりと杖を構えた角行・刹助(モータル・e04304)もそれが敵だと察し、それが此方を目指していると判断する。
「ケルベロスは夢の力が一般人より大きいんだったか。餌を発見すれば敢えて避ける気も起こすまい。強者故の傲りに付け込まさせてもらおう」
 ゆらりと長い髪を揺らした人形は一見は本当の女の子のようにも見えた。刹助が仲間達に目配せを送れば、夢浮橋・密(ドルチェビート・e20580)が視線を返す。
 モノアイドール。それは奇妙な一つ目の少女人形。無表情なその顔、中心に据えられた大きな青い瞳は元隆やシルヴェストルの姿を鮮明に映し出していた。
 爽が双眸を薄く細めれば、密も笑みを浮かべて目の前の敵を見つめる。
「そこの金髪のお人形さん、ひとつ俺らと遊ぼうぜ?」
「ふふ、恐怖というより好奇心の方が強いわ。だって――」
 『在り得ないもの』と出逢えるだなんて胸が高鳴る。
 密は不可思議な高揚を覚えながら敵の姿をしかと瞳に映した。刹那、単眼人形との戦いの火蓋が落とされ、路地裏は戦場へと変わってゆく。

●単眼視線
 動いたのはケルベロス達が先でも、戦いの先手を取ったのは人形の方だった。
 ベルンハルトは即座にその動きを察知し、人形乱舞をその身を以て受け止めに駆ける。鈍く重い痛みが襲ったが、少年は何とか耐えて見せた。
 流石はデウスエクスだと感じ、ティは相棒竜に呼び掛ける。
「今回も安全第一で大怪我しないように気をつけてね。……行くよ、プリンケプス!」
 ティは弾丸を嵐のように撃ち出しながら屋根の上から飛び降りた。仲間達が布陣していく最中、ベルンハルトも反撃に移る。
「趣味趣向にどうこう言うつもりはない。だが、人に仇なすなら放ってはおけない」
 ベルンハルトは片手を掲げ、小型治療機を飛ばして仲間の援護と自らの痛みを癒していった。シルヴェストルは初手は回復は必要ないと察し、剣の切先を敵に差し向ける。
「俺からの贈物だ、受け取り給え」
 一瞬後、解き放たれた凍結弾が人形の身を穿った。
 されど敵はまだびくともせずに次の攻撃に移ろうと動きはじめる。千代子はそうはさせまいと駆け、ブラックスライムを捕食モードに変形させた。
「生まれたばかりのとこ申し訳ないけど誰かが怪我する前にボクらで壊させてもらうのよ」
 喰らいつくように迸った一閃。千代子は上手く攻撃が巡ったと感じ、すぐに身を翻して射線をあけた。其処へ間髪入れず、密が指先を人形に向ける。
「硝子に色づく青い瞳がとても綺麗ね。ねえ、あなたの心はどんな果実をかたどるの?」
 甘やかな問いと共に歌声が響き、戦場に巡っていった。
 魔力によって具現化されたブルーベリーの果実がふわりと浮かび上がり、千代子はそれを手繰り寄せる。刹那、甘い歌とは裏腹な痛みが敵を襲った。
 衝撃に揺らいだ単眼人形だったが、すぐに顔をあげて刹助を睨み付ける。
「なんだぁ……? ガンつけてんじゃねーぞテメー」
 珍しく刹助が口調を荒げ、敵を睨み返した。忌避感は特に感じないが、目線の高さがだいたい同じなのが気に食わない。見下ろされるより妙にむかつく、と口にした刹助が放った超重の一撃が冷たい痛みを齎した。
 更に元隆が破鎧の衝撃を打ち込みながら、単眼人形を改めて見遣る。
「ま、ちゃっちゃとやっちまうか。こいつは酒の肴にはちときつそうだ」
 サイクロプスのようなものかと思っていた元隆だが、これはまた違うのかと首を傾げた。しかし、少なくともドリームイーターという存在である以上は長くは生かしておけない。
 爽は元隆の一閃に合わせて地を蹴り、流星めいた一撃を追撃として加える。
「パッチワークの魔女の好き勝手にさせねえよう、俺もきっちり仕事をしねーとな」
 敵の足止めが見事に決まり、爽は小さく頷いた。
 ベルンハルトも防護役として皆を守ると決め、真剣な眼差しを差し向ける。
 それでも未だ戦いは序盤。気を引き締めて行かなければならぬと誓い、爽とベルンハルトは次なる攻撃に向けて立ち回ってゆく。
 人形も不気味な瞳を差し向け、刹助を再び見つめた。
「おっと。しかし目障りな視線だ……」
 同じ目線の攻撃に肩を竦めながら、刹助は衝撃に耐える。其処にシルヴェストルが蠍を宿す星辰の刺突剣を掲げ、癒しの魔方陣を描いていった。
「猛き蠍の加護を」
 放った癒しの光が交差し、削られた仲間の力を回復していった。更にシルヴェストルの力は前衛の耐性を高め、確かな守りとなっていく。
 攻撃の際以外も人形はケルベロス達をじっとりと見つめていた。密はギターを構え、生きる事の罪を肯定する旋律を響かせていく。
「うふ、そんなに見つめられても、密の心までは縛れないよ」
 お人形は愛される存在。だから『嫌悪』だなんて似合わない。密の奏でたメロディは仲間の不利益を癒し、戦う力へと変わっていった。
 ティはプリンケプスに更なる仲間の援護を行うことを願い、自らは敵に狙いを定める。
「その大きな単眼、戦場ではちょっと目立ちすぎなようですね」
 部位を狙った一閃が鋭く宙を舞った。
 重力地場によって敵に吸い込まれるように飛翔したそれは、着弾と同時に弾丸の質量エネルギーを全てグラビティに変換する。ティの一撃によって硝子の瞳が傷付き、青い目に大きなひびが入った。
 シルヴェストルは其処に転機を感じたが、まだまだ戦いが終わらないことも知っている。
 かわいい人形相手には少し心が痛んだが、千代子もダメージを与えられるように全力で攻撃を行っていく。元隆は敵の強さを改めて確認し、力を紡ぐ。
「見た目に寄らずかなりの耐久力だな。それでも――」
 癒しも攻撃も盾も、皆それぞれの役割を確りと全うしている。元隆自身も地面を強く踏み締め、幾ら敵が強力であろうとも負ける気は少しもないと己を律した。
(「まだ自分ひとりの力は足りないが、仲間となら……」)
 ベルンハルトは己の実力不足を自覚しながらも勝利を目指して戦い続ける。祖母譲りの銃捌き、そして爺様譲りの剣法。それらを駆使しながら皆が思い切り攻撃できるように、盾となる。それがベルンハルトが抱く確かな思いだ。
 ベルンハルトが更なる盾になれるよう駆け出した最中、爽はスマートフォンを取り出して手早く操作を行っていく。
「ずっと見てたが、あー……これは子供ギャン泣き案件だわ」
 二次元の造詣はそこそこあった爽は単眼萌えという属性も知っていた。しかし、自身にその気はなく、動く単眼人形は恐怖だろうと判断する。
「見ようによってはミステリアス……? ……や、俺はわかんねぇ世界だわ。すまん」
「うんうん、綺麗だなーとは思うけど、しょーじき目を合わすのはちょっと怖いね」
 爽の言葉と炎上攻撃に重ね、千代子が深く頷いた。
 そして、千代子は古代語魔法を詠唱していく。後方支援に慣れた身として、先頭で戦うことに不安はあった。だが、今は背中に仲間の存在を感じる。
 だからもう、不安なんて何処かへ消し飛んだ。次の瞬間、千代子が放った魔法の光線が戦場を貫くかのように駆け抜け、眩さが辺りに散った。

●人形劇の終焉
 戦いは続き、激しい攻防と攻撃の応酬が繰り広げられてゆく。
 ベルンハルトと刹助、元隆達が仲間を庇いながら立ち回り、その間に千代子と密が敵の動きを止めたり妨害していった。爽とティは狙い澄ませた一閃で以て敵を確実に穿ち、シルヴェストルは与えられる不利益や痛みを癒していく。
 単眼人形も自らを癒して体勢を立て直したが、それは向こうの攻撃の手が緩まるということでもある。今の内に、と呼び掛けたシルヴェストルの声に応えた千代子が駆け出す。
「もうすぐのはずだよ。一気に行こう!」
 不意を突き、人形の横に回り込んだ千代子はブラックスライムを 鋭い槍の如く伸ばした。その一撃が敵を揺らがせた隙を見計らい、ティが銃を構えた。
「一対一の状況じゃないので少しずるいですが、どちらがより優れたスナイパーなのか勝負です!」
 負けませんよ、と告げたティはもう一度、超長距離射撃を狙う。
 目標補足、抵抗は無意味。弾丸に込められた破壊グラビティが敵に向けられ、弾けるような衝撃が与えられた。だが、単眼人形もティを狙って視線を向ける。
 それを即座に察知した刹助は庇いに駆け、凝視から生まれる呪いめいた痺れをその身に受けた。く、と小さな声が零れ落ちたが刹助は何とか耐える。
「少しばかり無理をしすぎたか」
 倒れそうになる自分の身体を押さえ、刹助は呼吸を整えた。血液に充ちる生命エネルギーを循環させ、練り上げた氣の力で作り出したのは第三の手。それから癒しの力を発動させた刹助は自らを奮い立たせた。
 仲間の様子を見遣り、ベルンハルトは不思議な頼もしさを覚える。
 敵となった人形自体に罪はない。それを利用し人を傷つけんとするモノこそ悪だ。だから、とベルンハルトは己の力を紡ぎあげた。
「今は、安らかに眠ってくれ」
 心象世界たる瓦礫の樹海を周囲に出現させ、少年は手を伸ばす。機械化した植物か、歪な生命とも無機物ともつかないものが人形を己の領域に引きずり込まんと花粉を放った。
 それに合わせて爽が電脳空間に保管した魔術陣を鉱石に宿す。
「苛烈に散りな」
 金剛石の加護は絶対的な兇器と成り、言葉通りの苛烈で鮮烈な一閃となってゆく。
 爽の攻撃が上手く巡ったことを確認した密も最後に向けて意志を固める。単眼少女人形は自分にとって魅力を感じさせるもの。
「密は、あなたを愛したい。金糸の髪も、白磁の肌も――その一つ目の、青い瞳も」
 だからもう一度、その果実を。
 華やかにデコレーションしたピンク色の携帯を差し向けながら、密は甘い旋律を紡いだ。ベリーの香りまでも具現化しそうな勢いで力が弾け、人形を包み込む。
「そら、次は海の香りでも味わわせてやろうか」
 足元には気をつけな、と告げた元隆は海に連なるものに伝わる秘儀の一つを発動させた。人形の足元はいつの間にか巨大なアカエイの背になっており、目覚めたそれはまるで深海に帰ろうとするかのように沈み始める。
 それは異界への潜行か、それともただの幻覚か。逃れられぬ力に囚われた単眼人形はもがこうとするが、シルヴェストルがそれを許さなかった。
 人形は好もしい。壊れるまで、愛でて愉しめる。
「破壊の美も悪くないな。さあ、佳い旅を」
 異様さとある種の美しさを兼ね備えた存在を見つめ、シルヴェストルは別離のスイッチを入れる。猶予は煙草に点火する、ほんの一瞬。戦場に既に撒かれた爆弾は連なりながら衝撃を弾けさせ、そして――骨まで焼き尽くすような、情熱と共に人形が爆ぜる。
 轟音が収まった時には既に夢喰いは跡形もなく消え去り、辺りに静けさが満ちた。

●思いは其々
 嫌悪の夢は潰え、路地裏にいつも通りの空気が戻る。
「これでちゃんと終わったんですね」
 辺りを見渡したティは平穏が戻ったのだと感じ、プリンケプスの健闘を褒めてやった。何処となく誇らしげにしている匣竜に愛らしさを覚え、ベルンハルトは双眸を緩く細める。
(「……可愛い」)
 そっと感じた思いは胸に秘め、少年は安堵を抱いた。
 爽はその様子に微笑ましさを覚えながらお疲れ、と仲間達に言葉を掛けていく。シルヴェストルも労いの思いを皆に向けつつ、先程の戦いを思い返した。
「硝子の瞳は美しかったな。持ち帰れぬのが惜しい」
「んーあいつがせめて普通に二つの目なら……いや、まぁそれも普通に不気味か?」
 人形は難しいと呟き、元隆は溜息を吐く。
 だが、どちらにせよ悪夢はこれで終わりだ。刹助は例の単眼人形を思い返し、もしかすれば自分よりも身長が戦ったかもしれないとふと思う。
「まあ、どうでもいいか」
「ん? やっぱり、夢見るんならいい夢みんとな」
 刹助が落とした言葉の意味は察せなかったが、元隆はにやりと笑って事件の解決を喜ぶ。密もくすりと笑み、良かったと笑みを見せた。
「浮世離れしたあの姿には惹かれたけれど、怖いと思う人の前には現れない方がいいね」
「夢を奪われてた人も無事に目が覚めたかなー」
 密の言葉に同意し、千代子は夢の主を思う。きっと今頃は自宅で目を覚まし、何事もなく普通の生活に戻っているだろう。
 嫌悪から生まれ人を襲い、壊されたドールを思うと少し物悲しく思えた。大好きなチョコミントを食べてもすっきりしない気持ちを抱え、千代子は少しだけ俯く。
「ボクのうちにあるぬいぐるみは今よりもっと大事にしよっと」
 だが、すぐに顔をあげた千代子は思いを新たにした。
 何を苦手とするかや何を好ましいと思うかは人それぞれ。誰かの嫌いは、きっと別の誰かの好きになるはず。そんな希望を込めて――。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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