葛西臨海公園近くの工事現場。
建築士の女性が図面を抱えながら小走りに駅に向かっていた。
「何であんなトコに釣り具忘れるかな……しかも餌箱のフタ開けて! ちゃんと閉めろよ! 中身出て来ちゃって、カバンの中で赤黒いワームがわちゃわちゃ……ってギャー! 思いだした!」
どうやら現場近くに釣り具の忘れ物があったようなのだが、確認のためにカバンの中をのぞいた時、その状況を目撃してしまったらしい。
「ああ、思い出すのもヤダ……キモキモキモキモキモ」
脳裏のワームに嫌悪感で目をつむった瞬間、誰かとぶつかった。
「あ、ごめんなさい……!」
顔を上げ、目の前に立つ第六の魔女・ステュムパロスと目が合った時には、すでに手に持った鍵で心臓を一突きされていた。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
女性が意識を失って崩れ落ち、膝を折ってその場に倒れると、隣に生じたモザイクから、赤黒い巨大なワームドリームイーターが姿を現した。
少ししょっぱい顔をしている言之葉・万寿(高齢ヘリオライダー・en0207)が説明を始める。
「私も釣りはやりますが、大量の生き餌の中に指を入れるのは、未だに慣れませんな……。虫が苦手な方は多いかと」
この苦手なものへの『嫌悪』を奪い、事件を起こすドリームイーターがいるらしい。
「すでに『嫌悪』を奪ったドリームイーターは姿を消しているようなのですが、奪われた『嫌悪』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターで、事件を起こそうとしているようなのです」
怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してほしいというのが、今回の依頼だ。
このドリームイーターを倒す事ができれば、『嫌悪』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれるだろう。
戦闘場所は葛西臨海公園内にある、夕凪の広場付近。
日が沈めば人通りはなくなるが、たまにカップルがいたりするので注意してやってほしい。
「広い公園となっているので戦闘場所には困りませんが、敵の攻撃が少々厄介のようですな……」
このドリームイーターは、『地中から襲撃』を行ったり、『溶解液』を飛ばして敵の精神に影響を与えるようなグラビティを得意としている。
「外見が外見なので、あまりじっくり観察したくはないでしょうが……地中からの攻撃に備えて注意して下さい。それと、穴の中に引きずり込まれないよう、お互いのサポートも必要かと」
色々と敵の攻撃を想定して戦略を練って欲しい。
「全く、ドリームイーターどもは、人の感情を何だと思っておるのでしょうな。野放しにはできませぬ。楽しみましたぞ」
見たくないモノを見に、いざ参らん。
参加者 | |
---|---|
癒伽・ゆゆこ(湯治杜の人形巫女・e00730) |
エリヤ・シャルトリュー(籠越しの太陽・e01913) |
死屍・骸(空想的フィロソフィ・e24040) |
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685) |
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191) |
比良坂・陸也(化け狸・e28489) |
クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
●生き餌の逆襲
葛西臨海公園、夕風の広場に訪れたケルベロスご一行。
まず目についた広場の広さに、キープアウトテープを手にしたマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)とクロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)が声を漏らす。
「思ったより広かったですね……」
「これじゃ全部は張れないね。張れそうな場所だけにして、あとは口頭で呼びかけるしかないか」
そういうことならばと、死屍・骸(空想的フィロソフィ・e24040)が両手を広げたりクロスしたりと、周囲をせわしく走り回りながらの避難勧告。
「逃げてーっ、大きい虫さんがやってくるのっ!」
もう大分陽も落ち、広場にあまり人は見かけられない。カップルが数組、何事だとこちらを見ているくらいだ。避難は何事もなく終わるだろう。
キープアウトテープを張る手伝いをしているフェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)が、ウイングキャットのまろーだー先輩と共に周囲を見回す。
「被害者の人はどこかなー?」
みるみる陽が暮れ始め、広場の電灯がつき始める。
攻撃によって電灯が破壊された場合を想定し、エリヤ・シャルトリュー(籠越しの太陽・e01913)がせっせと光源のランプを設置していた。
それから引きずり込み対策として、ブラックスライム、オウガメタルなど、互いの武器を繋いでおこうと試みたが、どちらも言うことを聞いてくれそうにない。
マルレーネが残念そうにため息を漏らす。
「むりか……。ケルベロスチェインで対応するしかないですね」
比良坂・陸也(化け狸・e28489)はアウトドア用品のライオットを光るように設定し、それから靴を脱ぐ。
「何で裸足です?」
癒伽・ゆゆこ(湯治杜の人形巫女・e00730)が首を傾げると、化け狸の口元がニヒルに微笑む。
「直の方が伝わりやすいんじゃねぇかってね」
敵は地中のワームだ。彼は振動を足の裏で読み込むつもりなのだろう。
フェニックスも事前感知の方法を考えてきたようだ。小さな鈴をあちこちに撒いてみる。
「鳴った方向の地中から攻撃くるかなーって、気休め程度に警戒しちゃおう」
そうこうしているうち、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が駅よりの木陰で倒れている被害者を発見した。
「被害者の方がいましたよ! こっちです」
エリヤが意識を失っている被害者を抱え上げると、陸也が首をひねった。
気のせいか? 今、足の裏がこそばゆかったような。
さほど間を置かず、小さく鈴の音が小刻みに鳴り始め、フェニックスも声を出す。
「あーっ!! 聞こえる!! こっち来てる!!」
咄嗟にゆゆこが戦闘態勢に入り、周囲に意識を向ける。
「うねうねもぞもぞなワームさんのあたっくはかなーりあぶなそうですけど、襲われちゃった人を助けるためにも頑張りますですっ」
クロエも構えた。
「敵の引きつけに専念するわ。早く彼女を安全な場所に運んで」
見えない敵を警戒しながら、骸が口を開く。
「ワームも小さいのならかわいいんだけどなーっ。それに釣りをするのならゴカイとかの虫を触れないなんて論外だし、見れないなんて以ての外ねっ。まぁ最近は出来の良いルアーとかもあるし一概にそうとは言えなくなってきたけど」
時々、親の影響で釣りもするので生き餌にはなれてる彼女であったが、数メートル先の地面から勢いよく伸び上がる赤黒い巨大ワームを目に入れ、笑いながら若干引きつった。
「別に蟲は嫌いでも好きでもないけど……大きすぎると確かに不快かも」
●地中からの攻撃
エリヤが被害者を安全圏内に運んでいる最中、他のメンバー達が意識をコチラに向けさせている。
あまりじっくり見たくはない形状だが、致し方あるまい。
「通常サイズならまだ我慢出来るけれど、巨大サイズは、ね……まだローカストの方が、生理的嫌悪感は少ないかも」
山羊の頭骨を被っているクロエの表情は見えなかったが、何となく想像はできる。
マルレーネも無表情でそれに同意。
「キモいですね」
虫に対して嫌悪感を持っていない奏過はじっくり相手の様子を伺い、じりじりと間合いを詰めた。むしろ彼は栄養があるなら食料としても有と思っていたので、このテの任務は容易いものだ。
同じく、陸也も平気なクチで。
「こいつ使って蠱毒やれたら楽しそーなんだけどなぁ。良い呪物になると思うんだが、倒せば消えるし、もったいねぇ」
流石鹵獲術士、隙あらば鹵獲を狙っているようだ。
敵のワームは、間合いに入り込んだケルベロス達を察知すると、身をよじらせて地面を叩き始めた。
まだエリヤが戻っていなかったが、戦闘開始となる。
「ま、四の五の言ってもしゃーないか。駆除はじめっぞ」
陸也の台詞で、ゆゆこがライトニングウォールを前衛に。
続いてマルレーネが禁縄禁縛呪で相手の動きを鈍らせるべく、半透明の御業で敵を鷲掴みにする。これはかなり手応えがあった。
クロエが稲妻突きを食らわすと、これがワームにアサルト!
フェニックスが入れ替わりに旋刃脚、まろーだー先輩がその彼女のいる前衛に清浄の翼をかけた。
奏過が相手の動きや予備動作の有無を観察しつつ、ヴァルキュリアブラストで突撃、続いた陸也が魔蝕之霧をしかけようと祈りの言葉を口にした途端、ワームは地中に潜り込んだ。
「カミサマカミサマオイノリモウシアゲ……あっ!? チッ……!」
意識を足に集中し、気配を探る。振動は伝わるが、方向が定かではない。
骸が不自然な地面の隆起を目に入れ、それを指さす。
「右!!」
一際突き上げるものが強くなった時、陸也の右手から土が盛り上がり、その中心からワームが襲いかかる。
陸也が咄嗟にケルベロスチェインを放つと、マルレーネが同じく自分のケルベロスチェインをその鎖に絡ませ、思い切り引き寄せた。
それを追ったワームが長く伸びたが、陸也は引かれたままの状態で魔蝕之霧を唱える。
「カミサマカミサマオイノリモウシアゲマス オレラノメセンマデオリテクレ!」
ワームの胴体に霧が巻き付き、驚いた敵が身を縮め始めると、その隙に骸がゲシュタルトグレイブで百烈槍地獄を繰り出した。
痛みで身をよじらせたワームは、その巨体の尖端から奇妙な溶解液を吐き出し、最も気味悪がっているだろう気配……クロエに向けて発射する。
奏過が素早くその間に滑り込み、溶解液を身体で受け止めた。
ジューという音の後、頭上からエリヤが舞い戻る。
「お待たせ! サポートや回復は任せてよ」
全員が揃ったところで、再びこちらのターンだ。
●穴に注意
ワームの体液を振り払う奏過を見ながら、フェニックスが顔を歪めている。
「う~……気持ち悪い攻撃多いの嫌だなー」
再び土の中に身を隠すワームから少し距離をとり、ケルベロス達が思考を巡らす。
ボコボコと土が盛り上がり、あちらこちらから顔を出しては、また潜るの繰り返し。
しかけようにも、向こうが土から出て来てくれないのでは、攻撃が届かない。
「外見が気持ち悪いのは平気なんだけど、地中から急に出てくる攻撃は見えないからなんだか苦手……。どうやったら避けれるかな?」
フェニックスの疑問に、マルレーネが口を開く。
「……さっきから地面に沢山穴を開けてますよね。敵が地面に潜ったら、その穴に一斉に炎系の攻撃をぶち込んでみてはどうでしょう。逃げ場のないトンネル内に炎をぶち込まれれば、回避もできないだろうし、相当に痛いはず」
お、と顔を上げた数名。
「いいなそれ、面白そうじゃん」
陸也がニヒルに笑うと、炎系のグラビティを所持しているクロエと奏過も頷いた。
ゆゆこが胸の前で拳を握る。
「さぽーとは、私たちにまかせてくださいー」
エリヤもケルベロスチェインをビンと張り、頷く。
意見がまとまった所で、マルレーネがワームの穴を睨み付ける。
「私の熾炎業炎砲が合図です」
骸とエリヤが振動を耳に気配を追う。
再び間合いに入り込んできたケルベロスを察し、ワームは更に地中を激しく移動し始めた。近くの木を根からなぎ倒し、進む度に土をほじくり返す。
倒れた木を見て気がついたのか、陸也はそこに滑り込むと、せっせと砕けた木から生木を拝借し、近くの穴に放り投げている。
地鳴りが近くに寄ってきた時だ、マルレーネが目の前にある穴に向けて熾炎業炎砲を放った。
それを皮切りに、クロエが近くの穴目がけてドラゴニックミラージュ。
「害虫は燻し出す……!」
奏過のグラインドファイア、陸也の熾炎業炎砲と続き、一瞬にして穴から炎が吹き上がる。
急に振動が激しくなり、周囲の土が激しく盛り上がった。
陸也が押し込んだ生木が隙間から煙をあげ、亀裂から焼けたワームが飛び出すと、広場の中心でのたうち回りながら、近くにいたフェニックスの身体を巻き込んで地中に戻ろうと始めた。
まろーだー先輩が慌てて彼女の髪を引くが、みるみる身体は呑み込まれていく。
「きゃあ……!! きゃあきゃあ!!」
「いけない!!」
エリヤが咄嗟にケルベロスチェインを放ち、フェニックスの腕をとる。ゆゆこもそれに加わり、自らのヴァンパイア・バスターを彼理鎖に絡めて思い切り引いた。
「今日はぱわふるにれすきゅーなのですー!」
フェニックスと共に引きずり出されたワームが顔を出した所を狙い、骸が走り込んでブラックスライムを捕食モードに変形、レゾナンスグリードで敵を丸呑みにした。
外に投げ出されたワームが身をよじり、体液をまき散らす。
傷ついたフェニックスにエリヤが気力溜めを施しているのを確認した後、ゆゆこが構え、杖からほとばしる雷を敵に向けて放った。
ライトニングボルトは体液を伝い、ワーム目がけて鋭く集まった後、激しく発光すると、敵を直立させる。
「そんなに土の中が好きなら、そのまま引きずり込まれてバラバラになるといい」
クロエがBaroness Cimetiereで最期を仕留めると、炎と煙にまかれて消え失せるようにドリームイーターはいなくなった。
●餌は餌箱に
戦闘終了後、夕凪の広場をヒールし、やっと一息ついたケルベロス達。
奏過は口元に笑みを浮かべ、胸元からセンスの良いスキットルを取り出して口に運ぶ。
燻された周辺のニオイも落ち着き、ウイスキーの香りがそれに乗って心地良い。
そんな奏過と対照的に、ゆゆこが身を震わせていた。
「あうぅ……こういう敵は、いろんな意味でぞわぞわですー……」
意識を取り戻した被害者に付き添い、エリヤが苦笑い。
誰の忘れ物か知らないが、一騒動あったのだ。生き餌の管理はしっかりとしてもらいたい。
すっかり陽は暮れてしまい、見えるのは広場で灯りのついた場所と、遠くに流れるテールランプの赤い筋。
「今倒したワームみたいだねーっ」
骸の一言に、女子数名がげんなり顔。
どうか今晩の夢に出て来ませんように。
そんな思いを胸中に秘め、帰路につくケルベロス達でありました。
作者:荒雲ニンザ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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