巨大おはぎ現る

作者:氷室凛


「わぁ~、おはぎがいっぱい!」
 テーブルの上に無造作に置かれた大皿には、大量のおはぎが並んでいた。
 少女は早速ひとつ手に取って食べ始めた。食感のいいもち米。優しい口あたりの、甘すぎない餡子。
 普通のおはぎなら二・三個食べればもう十分だが、このおはぎなら甘すぎないので何個でも食べられる。
 少女は満面の笑みを浮かべながらおはぎを両手に持ち、幸せそうにぱくぱく食べていく。
 だが突如その背中に黒い影が落ちた。
 少女が振り返ると、そこには人間を押し潰せそうなほど巨大なおはぎがふわふわ浮いていた。
「でかい……何あれ!?」
 巨大おはぎは少女のほうに近づいて来た。
「わ~っ、何!?」
 少女は慌てて駆け出す。すると巨大おはぎもスピードを上げて追いかけてきた。
「勝手におはぎ食べてごめんなさい! もう許して!」
 少女はしばらく逃走を続けていたが、つまずいて転んでしまった。
 すかさず巨大おはぎが上にのしかかってきた。背中や頭に餡子がへばりつき、ずしりとした重みが全身に加わる。
「きゃーっ、おはぎに押し潰されるうぅぅ~!」


 と、そこで目が覚めた。
 布団で寝ていた少女はガバッと起き上がり、寝ぼけまなこをこする。
「何だ……夢かぁ~」
 安堵する少女。だが部屋に見知らぬ女性の姿があった。
 その女性――第三の魔女・ケリュネイアは手にした鍵を少女の胸に突き刺す。
 鍵は心臓を貫いたものの、少女はケガもせず死にもしない。これはドリームイーターが人間の夢を得るために行う行為なのだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 ケリュネイアはそう言うと部屋の窓を開けた。驚きを奪い取られて布団にパタリと倒れ込んだ少女の体が発光した次の瞬間、窓の外には少女の夢に登場した化け物の姿が具現化していた。
 巨大なおはぎの姿をしたドリームイーターは、ふわふわ宙を漂いながら夜の街を進んでいく。
 布団に横たわる少女は一見すると眠っているだけのように見えるが、ドリームイーターを倒さない限り彼女は永遠に目覚めることはない。


「子供の頃って、あっと驚くような夢をよく見たりしますよね! 理屈は全く通っていないのですが、とにかくビックリして夜中に飛び起きたりとか……そのビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われて『驚き』を奪われてしまう事件が起こっています!」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちの前で笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が説明を始める。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『驚き』を元にして具現化されたドリームイーターが、事件を起こそうとしています。被害が出る前にドリームイーターを撃破して下さい!」
 ドリームイーターを撃破すれば『驚き』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるだろう。
 敵は巨大なおはぎの姿をしている。また、戦闘中にこちらの気を引くため、まれに通常サイズのおはぎを大量に打ち出してくることがある。
「なお、ドリームイーターが使用する技は『巫術士』のグラビティに準拠した技です」
 現場への到着予定時刻は夜になる見込み。夜なので人通りが少ないとはいえ現場は街中なので、何かしら人払いをしておくと安心して戦えるはずだ。
「巨大おはぎから街の人々を守るため、ドリームイーターを撃破してください。それでは、よろしくお願いします」


参加者
万道・雛菊(幻奏酔狐・e00130)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)
ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)
レテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)

■リプレイ

「食べ物の夢って何度も見たくなっちゃうわよね~。でも、それで目覚めなくなっちゃう子がいるのはいけないことだわ~」
 ドリームイーターが出現した地点へと向かう道すがら、万道・雛菊(幻奏酔狐・e00130)は桃色のケモミミを揺らしながら、ふんわりした笑顔を見せる。
「子供は突拍子もない夢を見るものだけれど、だからといって奪われていいものではないわ。それにしても最近この手の話が多すぎる気がする……」
 イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)が呟く。こうも次から次へと夢を具現化されてはたまったものではない。
「ふわふわ宙に浮いてる大きいおはぎ……ほんとにあったらびっくりしそうですが、どうせなら食べられればよかったんですけどー……」
 ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)は作り物のウサミミを撫でながら歩いている。
「昔は良く見たな、驚くような夢。自分がトッピングになって、迫り来るスプーンを避けながらアイスクリームの上に自由落下する夢は未だ覚えてる」
 天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)は照明を腰にくくりつけながら、続ける。
「ま、夢は夢だから趣があるってもんだ。悪い夢からお姫様を助けにいきますか」
 周囲を警戒しつつ夜の街を歩いていると、不意に街灯の明かりが遮られ、足元に影が落ちた。
 頭上で何かが動く気配がした。見上げると、巨大なおはぎが夜空に浮かんでいる。
 ドリームイーターはこちらに気づいたのか、空中でぴたりと動きを止めた。
「巨大なおはぎ……実は食べると『驚く』ほどおいしい……とかだったり」
 着物姿の四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は敵の姿を確認すると、妖刀”千鬼”を引き抜き、剣気解放を発動する。
「おお、なんとも大きなおはぎなのじゃ。これは食べごたえがありそうじゃのう。じゃが、これはドリームイーターじゃな。しっかり討伐せねばのう」
 ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は付け髭をもさもさ動かしながら話す。
「食べきれないくらいの大きなもの、というのはある意味で夢の一種ではあります……が、些か大きすぎやしませんかね、これ」
 レテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)は気だるそうに言いながらも、ウェンディと共にキープアウトテープを周辺に貼っていった。
 ケルベロスは人払いを済ませた上で武器を構える。
「日本に来てもう一年になるが、そういえば『おはぎ』を食べたことはなかったな。確か、きな粉のものと餡子のものがあるのだったか」
 鎧をまとったカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が呟く。どれだけ変わった見た目をしていようと、相手はデウスエクス。きっちり倒さねばならない。
「……ところで、このドリームイーター、食べられるのか?」
 騎士のようないでたちのカジミェシュはマントを翻して剣を構える。敵の姿を見る限り、外見はただの巨大なおはぎ。食べようと思えば食べられるのかもしれないが……あるいは。

 ドリームイーターはふわふわ飛びながら、炎弾を打ってきた。ケルベロスはそれをかわしつつ、エフェクトを付与していく。
 まずカジミェシュが剣を地面に突き刺してスターサンクチュアリを発動し、前衛に異常耐性を付与した。続いてイリアがヒールドローンで前衛の守りを固めていく。
 敵は高度を下げ、地面すれすれを飛びながら迫ってきた。
 カジミェシュは地面に突き刺した剣をそのままにして、弓を構える。そして敵が十分に接近するまで待ってから、至近距離でハートクエイクアローを放った。オーラをまとった矢が餡子にズプリと突き刺さる。
「ちなみにこのおはぎは、こしあんなのかしら、つぶあんなのかしら~?」
 雛菊は地を駆け、電柱を蹴って飛び上がる。そして戦術超鋼拳を叩き込み、服破りを付与していく。鋼をまとった拳で殴りつけると、表面の餡子が少し吹き飛んだ。近くで敵の姿をよく見てみると、粒の存在が確認できた。特に深い意味はないが、粒餡派の雛菊は嬉しそうに微笑む。
 ドリームイーターは半透明の餡子で形成された巨大な手を生やすと、雛菊を掴もうと伸ばしてきた。だがその手が届く前に、別の方角から千里が突っ込んでいく。
「果たして中身は何だろう……ちょっと斬って覗いてあげる……」
 千里は雷刃突を繰り出す。
「遅い……それじゃ防げない……」
 敵は新たな手を形成して防ごうとしたが、間に合わなかった。千里は素早く稲妻の刃を叩き込む。表面の餡子が切り裂かれ、少しだけ中身が見えた。餡子の隙間から白いもち米がのぞいていた。
 ドリームイーターが半透明の腕を振り回してケルベロスを牽制する中、ウィゼは一気に距離を詰めていく。彼女を捕え損ねた手はアスファルトの地面に食い込み、深い穴を穿った。あれを喰らえばただでは済まないだろう。
 ウィゼは何とか敵のそばまで駆け寄り、スターゲイザーを放った。まばゆい光を帯びた蹴りが打ち込まれる。
「……って、おはぎを蹴り飛ばしてしまったのじゃ。勿体ないのじゃ」
 ドリームイーターは一瞬震えたが、すぐにまた半透明の手を掲げる。その手がウィゼをがっちりと捕えた。
「やめろ、放すのじゃーっ!」
 ウィゼは巨大な手に圧迫され、道路に叩きつけられた。衝撃でアスファルトの表面に亀裂が走る。
「せんせい、頼みます!」
 レテはウイングキャットを前に出してウィゼを守らせつつ、気力溜めを発動する。温かなオーラがウィゼの全身を駆け巡り、体の傷を癒していった。続いてウイングキャットも清浄の翼で彼女をヒールする。
 再度ウィゼが戦列に復帰し、ケルベロスはさらに攻撃を仕掛けていく。
 陽斗は足止めを狙い、助走をつけてスターゲイザーを放った。流星のような輝きを宿した蹴りが叩き込まれ、餡子が剥がれて泥のように飛び散る。
「シューズの軌跡がよく分かるんだが。食べ物粗末にしてる気がする」
 いつもと違う感触に、陽斗は若干複雑そうな表情だ。
 餡子を削がれて不機嫌になったのか、ドリームイーターは先ほどよりも大きな炎弾を打ち出してきた。見るからに火力が高そうだ。
 イリアは率先して仲間の前に出る。仲間の攻撃手に被弾させるわけにはいかなかった。イリアは手にした剣で炎弾を切り裂いた。火柱が上がり、彼女は一瞬にして炎に包まれた。
『Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis.』
 高熱に焼かれたイリアは気を失いそうになりながらも、福音書の一説を歌い上げてみずからにヒールを施し、体力の維持に努める。
『お願いなんでも、叶えちゃいましょうねー……』
 続いてウェンディが【導く白鳩】を発動する。白鳩が羽を落としながら宙を舞い、イリアの体力を回復させていった。そして体に燃え移った炎をも消滅させた。

 ケルベロスはその後も着実にグラビティを浴びせていった。こちらが攻撃するたびに敵の表面の餡子が飛び散り、そのたびにドリームイーターは不貞腐れて積極的に攻撃を仕掛けてきた。見た目に反して敵のグラビティは強烈なので、たまったものではない。
 とはいえ、敵を倒すには反撃を覚悟するしかない。彼ら自身もグラビティを浴びつつ、少しずつ敵の体力を削っていった。
「さて……おはぎをおいしくいただくとするかのう」
 ウィゼは攻性捕食を発動する。捕食形態に変化した攻性植物が牙を剥き、敵へと襲い掛かる。そしてハエトリグサのように噛みつき、牙をくい込ませていった。
 文字通り、植物がおはぎを食べている。何とも奇妙な光景だった。
 ドリームイーターは攻性植物を振り払うと、半透明の巨大な手を伸ばしてきた。
 イリアは二本の剣を交差させて受け止める。右手には水瓶座が刻まれた大振りの剣。左手には天秤座が刻まれた短剣。いずれも思い出深い大切な物である。
 イリアは両足で踏ん張って何とか敵の攻撃を食い止めた。
 彼女が耐えているうちに、ウェンディが飛び出す。ウェンディは縛霊手を振りかざし、力いっぱい敵を殴りつけた。次の瞬間、網目のような霊力が広がり、敵の体を絡め取る。その間に、彼女の横を飛ぶボクスドラゴンもブレスを放射した。
 敵はふわふわ宙を舞いながら一旦引くと、僅かに発光しながら表面にきな粉をまとい始めた。よりおいしそうな外見に変化すると同時に、みずからにヒールと破剣を与えていく。
 だが、それを見たケルベロスはすぐさま行動に移った。
 レテはブレイクを狙い、レガリアスサイクロンを放つ。竜巻をまとった回し蹴りを繰り出し、風圧と打撃を加えていく。表面を覆う餡子が半分ほど剥がれていった。
 ドリームイーターはいよいよ激怒し、ふにゃふにゃの体をよじりながら、ぷんすか怒っている。まるで柔らかいボールが地面を跳ねているかのような動きだ。
 敵がグラビティを打ってくる前に、陽斗は背後を取ってハウリングフィストを叩き込む。とは言っても、どちらが前なのかよく分からなかったが。
「何か柔らか過ぎて違和感が……」
 音速すらも上回る拳は、餡子が剥がれた餅の部分を捉えた。餅がふにゃりと窪み、敵は吹き飛ばされる。
 空中で体勢を立て直したドリームイーターは、餡子の中から通常サイズのおはぎを出現させ、次々と飛ばしてきた。
「あーもうっ、何てことするのかしら。もったいないじゃない~」
 雛菊は食べ物が無駄になってしまうことにプンプン怒りつつも、百狐夜行を発動する。
『は~い、皆出番よ~。百一匹コンちゃん大召喚~!』
 ばら撒いた札から半透明の狐が飛び出し、一斉に敵のほうへ飛びかかっていった。狐たちは小さなおはぎを全て飲み込み、敵の周りに貼りつくと、ぱくぱくと表面を食べていく。あっという間に表面の餡子は食べ尽くされ、敵はただのお餅と化してしまった。
 ドリームイーターは怒りのあまり、その体に炎をまとい始めた。周りに貼りついていた狐が焼き尽くされ、消滅していく。
 燃え盛るお餅にこんがりと焼き目がついていく中、敵は巨大な炎弾を打ち出してきた。
 カジミェシュは味方の前に立ちはだかると弓を引き、ハートクエイクアローを放つ。光り輝く矢が炎弾に突き刺さり、空中で炎を上げて炸裂した。カジミェシュは爆炎に飲まれながらも、両腕を広げて味方を守り抜く。彼はかたわらのボクスドラゴンに属性インストールを発動させ、主人である自分をヒールをさせた。
 ドリームイーターは炎を上げながら物凄い勢いでケルベロスのほうへ飛んできた。至近距離で炎弾を打って自爆するつもりなのかもしれない。
 だがもはや表面の餡子はすべて剥がれ落ち、見た目はただのお餅と化してしまっており、色よい焼き目までついている始末。敵の残り体力はそう多くないはずだ。
「黒くて……いや白くて丸い虚構の甘味……喰らう刀はここにある……―――さあ、お前も糧になれ……」
 千里は両手で千鬼を握り、敵のほうへ向かって走り出す。
『気づいたときにはもう遅い……さよなら』
 千里は長い黒髪をなびかせながら千鬼流・伍ノ型を放った。弓で射るようにして片手で刀を引き、重力エネルギーの塊をまとった鋭い突きを繰り出す。
 その刃はドリームイーターを団子のように串刺しにした。エネルギーを直接流し込まれ、敵は爆発して四散する。
 巨大な餅の塊が細かく千切れ、辺りに飛び散っていった。餅の欠片が周囲の路地やケルベロスたちの体にくっついていく。特に一番近くにいた千里は体中餅まみれになってしまった。
 だがしばらくすると餅の欠片はひとりでに消滅していった。言うまでもなく、ドリームイーターは息絶えたのだ。
 敵の撃破を確認したケルベロスはほっと胸をなでおろす。これで夢を奪われた少女も目を覚ますことだろう。
「あちこち壊れているので、修復しておきますね」
 レテは物憂げに呟くと、周辺の路地のヒールを始めた。削られた路地が少しずつ元の姿に戻っていく。
「おはぎを見てたら甘いもの食べたくなっちゃうわね~。でも他の餡子のお菓子も捨てがたいから悩んじゃう~」
 雛菊はにっこり笑いながら続ける。
「うふふ……たい焼き、どら焼き、お饅頭……帰りに何か買っていこうかしら」
 他の仲間も小腹が空いていたのか、その後、結局皆で表通りへと向かうことになった。
 その道中、ウェンディはふわふわしたウサミミを揺らしながらこう言った。
「おはぎが食べたいですー。周りにきな粉がついてるやつだと、なお良いですー」

作者:氷室凛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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