秋晴れの下、秋桜の丘

作者:雨音瑛

●秋晴れの丘で
 秋の陽光を浴びた秋桜が、丘一面を埋め尽くしている。そのふもとで開催されている「秋桜祭り」は、付近の神社の祭事であった。
 参道に並ぶ屋台からは、どれも美味しそうな香りが立ち上っている。丘に咲き乱れる秋桜は風に揺れ、訪れる人々をなごませている。
 そんな穏やかな空気の中に、不穏な者がひとり。
「思っていたより人が多いですね。好都合ですが」
 呟くのは、マグロのかぶりものをした浴衣姿の少女。秋桜の写真を撮影する男性の後ろに立つと、少女は無言で掌から炎を噴出させた。男性は、あっという間に消し炭となる。
 異常な状況に気付いた人々は、我先にと逃げようとする。少女は彼らを逃すまいと、容赦なく炎を放った。ひとり、またひとりと、少女は人々の命を奪ってゆく。
 やがて秋桜の花弁は散り、炎の中に消えていった。
 
●ヘリポートにて
 雲一つ無い、秋の空。ケルベロスたち集まったのを確認して、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が口を開いた。
「エインヘリアルに従う妖精8種族が一つ、シャイターンが行動を開始したようだ」
 ウィズによると、動き出したのは「マグロの被り物」をしたシャイターンの舞台。彼女たちは日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしているそうだ。
「祭り会場を狙う理由は不明だ。だが、お祭りの場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを強奪する作戦である、という可能性が高い。このシャイターン——外見から、仮に『マグロガール』とでも呼ぼうか、彼女が現れる祭り会場に先回りして、未然に防いでくれないだろうか」
 マグロガールが現れるのは、秋桜祭りの会場だという。それは、アルノー・シュヴァイガー(アッシェ・e27270)が危惧していた場所でもあった。
「今回戦うことになるのは、マグロガールが1体。このような見た目で、攻撃方法は——」
 ウィズが、掌に「マグロのかぶりものをした浴衣姿の少女」の立体映像を出す。この少女は、ナイフで斬りつけてトラウマを見せる攻撃、幻覚をもたらす砂の嵐に巻き込む攻撃、灼熱の炎塊を放つ攻撃を仕掛けてくるという。
「随分と愉快な見た目ですが……油断しない方が良いでしょうね」
 柵夜・桟月(地球人のブレイズキャリバー・en0125)が立体映像を凝視する。
「ああ。存外攻撃力が高い。そして祭り会場の人々なのだが、事前の避難は行えない。避難させてしまうと、マグロガールが別の場所を襲撃してしまうためだ」
 とはいえ、マグロガールはケルベロスが現れれば、邪魔者の排除を優先しようとする。挑発しながら人の少ない場所に移動して戦闘を行えば、周囲の被害は抑えられるそうだ。
「現場に到着したら、戦闘を行えそうな場所を探したり戦闘開始後の人々の避難方法を考えておくのも良いかもしれないな」
 ウィズが出していた立体映像が消えると、アルノーが口元に手を遣った。
「戦闘場所の確保、避難、戦闘……成すべきことは多いですが、撃破の暁には秋桜の丘を散策してみたいものですね」
「ああ、良い気分転換になるだろう。そのためには、しっかりとマグロガールを撃破しなくてはな、頼んだぞ」
 ウィズが笑顔でうなずき、ケルベロスたちに頭を下げた。


参加者
アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
アルノー・シュヴァイガー(アッシェ・e27270)
佐竹・灯子(餅とエルフ・e29774)

■リプレイ

●秋晴れ
 肌を撫でる風が、どこか冬の気配すら帯びている。咲き誇る秋桜たちは、まるで気にしないような素振りで陽光を浴びていた。
「戦うのなら、ここがいいんじゃないかな?」
 佐竹・灯子(餅とエルフ・e29774)が示すのは、秋桜の手入れ道具が置かれた一角。人も秋桜も比較的少ない場所だ。
「おう、いいんじゃないか? マグロガールが現れた際はここに誘導するとするか」
 ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)がうなずく。場所を確認したろで、ケルベロスたちは散開した。
 丘に残る黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)とアルノー・シュヴァイガー(アッシェ・e27270)は、周囲の警戒に務める。
「平穏奪う行いを、見過ごせる訳がありませんからね」
 アルノーの独白に、満開の秋桜が揺れた。その思いは、カルナも同じだ。
(「私も元は奪う為作られた人形だった……けれど、今は違う」)
 ケルベロスとしての力は護るために使うという誓いは、今も確かに胸の中に。
「人と花が織り成す、この暖かな光景を踏み荒そうだなんて……許しません」
 儚い花弁に触れ、語気を強めるカルナ。マグロガールの出現を見逃さないよう、周囲の様子に気を配った。
 本殿に移動したクラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は、無言で警戒にあたる。ボクスドラゴンの「クエレ」は、丘にいる仲間にとともにいる。マグロガール出現後は本殿に参拝している人々を避難させるのが、クラムの役目だ。また、マグロガールが本殿に現れた際にも、やることは決まっている。
 屋台が建ち並ぶ参道に向かうは、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)。こちらもテレビウムの「マギー」を丘にいる仲間に預けていた。
「たまには祭りの雰囲気を楽しもうと思ってたんだけど、デウスエクスが現れるんじゃ仕方ないなぁ」
 肩をすくめつつも鈴カステラを購入し、周辺を確認する。少し冷える空気は、人々や屋台の熱気でいくらか温かい。立ち上る焼きトウモロコシの煙をちらりと見つつ、ピジョンは鈴カステラを口に放り込んだ。

 雲が流れ、空の色が変わりつつある。異変に気付いたのは、アルノーだった。
「現れましたね」
 双眼鏡を下げ、目を細める。秋桜の合間から見える、マグロのかぶりもの。丘を登る、マグロガールだ。すかさずリュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)が特製ワイヤレスヘッドセット付通信機で、クラムとピジョンに連絡を取る。
「マグロガールが現れました、持ち場にいる一般人の避難をお願いします!」
 その隙にマグロガールの前に立ち塞がるのは、アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)だ。
「あなたの相手は私たちケルベロス、だよ」
「我らは番犬――貴方の目論見を、叩き潰しに参りました」
 冷たく言い放つカルナ。アルノーがうなずき、続ける。
「招かれざる客のお相手は我々が務めましょう――此処は決して、譲りません」
「私と餅子が相手してあげる!」
 と、灯子とナノナノの餅子も臨戦態勢。マグロガールとの戦いは初めてではない灯子の気合いは十分だ。さらに拳を眼前で握りしめたムギが挑発する。
「他の奴らを燃やすなら、まずは俺を燃やしてみせろ。……まあ、所詮お前程度の炎では俺の筋肉はビクともしないがな!」
「そう。それじゃ、遠慮無く」
 マグロガールは無表情で灼熱の炎塊を放った。

●挑発と避難
 デウスエクスの出現で、丘は混乱状態に陥りそうになる。
「皆様も花々も、必ず護ります」
 カルナが武装すべてを重武装モードへと変形させる。ケルベロスの登場とあれば、頼もしい。人々は応援の言葉をなげかけ、避難をしていく。
 柵夜・桟月(地球人のブレイズキャリバー・en0125)とともに、リュセフィーも避難活動にあたる。
「ご協力ありがとうございます。さあ、ここは私たちにおまかせください」
 もともと一般人はケルベロスに協力的だ。リュセフィーの呼びかけに、素直に避難をしてくれる。
「避難完了まで、あと少しというところですね。……マグロガールの相手をしている方々は大丈夫でしょうか?」
 桟月が、独り言じみた呟きを漏らした。
「避難、完了です。アルノー様たちと合流しましょう」
 カルナの言葉に、リュセフィーと桟月がうなずいた。剣戟の響きを頼りに、仲間の元へと向かう。どうやら、最初に見つけた場所への誘導は成功しているようだ。
「お待たせしました! 状況は——」
 小さめの羽を羽ばたかせ、リュセフィーが戦列に加わる。急ぎ仲間の状態を確認するリュセフィーの目に、盾役をしていたムギとサーヴァント2体が傷だらけになっているのが映る。思わず息を呑むと、肩で息をするムギが笑顔を向けた。
「おう、早かったな!」
 と声をかけ、素早くマグロガールを見遣る。
「俺の目の黒いうちは誰もやらせん! その程度の炎で俺の筋肉を燃やせると思うなぁぁあああ!!! 唸れ筋肉、魔力を糧に倒れぬ強さを示せ!!」
 ムギが咆吼を上げる。魔力が迸り、急激な筋肉再生を起こす。怪我の治りきらぬムギを中心に、カルナが黄金の果実を実らせて照らす。
「今さら遅いわ」
 マグロガールが手を掲げ、砂嵐を巻き起こす。砂塵をかいくぐる者がひとり。マグロガールの背後に回りこんだアイリの雷刃突は、存外素早い動きをするマグロガールに弾かれる。だが、すぐさま距離を取って体勢を立て直す。
「私は、あなたを殺すよ」
 アイリにとって、お祭りはとても大切な行事。ハレの場であり、生きる喜びを感じられるお祭りを壊すようなことは、到底許せる行為ではない。負った傷には見向きもせず、ただ敵を怜悧に睨む。
 視線を受け止めるマグロガールを、灯子の伸ばしたブラックスライムが穿った。命中を確認し、ブラックスライムを引き戻す。
 その隙に、リュセフィーがムギにウィッチオペレーションを施す。
「秋桜祭りを滅茶苦茶にするなんて、ひどい事をしますね……」
「私はグラビティ・チェインが欲しいだけ。祭りを滅茶苦茶にしたいわけでは——」
 首をかしげたマグロガールに、アルノーがクイックドロウを撃ち込んだ。
「グラビティが欲しいのならば、篤と与えて差し上げましょう――その心臓へ、死を以て」
 穏やかに突き放す物言い。マグロガールは無表情に、傷口を撫でた。
「不快だわ」

 一方、参道の避難は間もなく終わろうとしていた。
「——落ち着いて避難を! ……と、これで最後かな」
 ピジョンが参道を見回し、一般人が残っていないことを確認する。丘に向かう途中にある本殿で、クラムと合流する。
「本殿の避難、完了だ。そッちも完了したようだな」
「それじゃ、丘まで急ごうか」
 一瞬だけ視線を交わし、ピジョンとクラムは丘へ続く道を駆けだした。

●護る刃
「マギー!」
 丘に到着したピジョンが、マギーに声をかける。それもそのはず、何度も味方をかばっていたマギーは、満身創痍だった。また、クエレも似たような状態であった。誇らしげな視線を向けるクエレに、クラムはそっと手を添える。
(「話にャ聞いていたが、本当にマグロの被り物してんのか。恰好から意図が読めなさ過ぎて逆に怖ェな……」)
 マグロガールのかぶりもの、そして浴衣に視線を移すクラム。
「わざわざ浴衣着てんなら素直に祭りを楽しんどけよ……」
「祭りも楽しいわよ」
 ホントかよ、とクラムは毒づいた。
 そんなマグロガールとてデウスエクス、ケルベロス数人でやっと勝てる相手だ。ケルベロス側が人数を減らした状態で、楽に撃破できるものではない。
「ところで……これで全員?」
 ほとんど無傷のマグロガールが、ケルベロスたちを見渡した。

 マグロガール優勢に傾いていた戦況は、次第にケルベロス側が主導権を握り始める。的確に行動を阻害し、ダメージを与えるケルベロスたちを相手に、瞬く間にマグロガールは追い詰められてゆく。余裕の無表情に、焦りが見え始めた。
 マグロガールとの距離を確認し、クラムが大きく呼吸した。
 クラムは決して、敵に近寄ることはない。理由を想起させる後悔、恐怖、苦痛は今もまだ、クラムの中に。しかし今はそれら全てを、歌に乗せて。
「――耳を塞いでも無駄だ。内側に留まり籠れ、停滞の歌」
 クラムの口から紡がれるのは、絶望と嘆きを込めた歌だ。強力な負荷をかけられてふらつき始めたマグロガールに、クエレが体当たりをしようとする。が、マグロガールはひらりと回避してしまう。回避した先に、ピジョンの生み出した針と糸が迫っているとは知らずに。
「銀の針よ、縫い閉じよ」
 マグロガールの動きがさらに鈍る。そこへカルナがガトリングガンを連射する。
「人と花が織り成す、この暖かな光景を踏み荒そうだなんて……許しません。ご退場頂きましょう」
 戦いの余波で、秋桜の花がわずかに散っているのが見える。
「——散るのは貴方一人で良い」
 アルノーの放つフロストレーザーは、一切の容赦なくマグロガールの一部を凍結させる。
「痛い。しかも冷たい」
 まるで表情を変えないマグロガールに首をかしげる灯子。
「効いてる……んだよね? うん、じゃあいくよ」
 灯子の手元から、シャーマンズカードが放たれる。
「雷の、おまじない」
 帯電したカードは、いっそうマグロガールの動きを封じる枷としての役割を果たす。気がつけば、餅子がマグロガールの正面まで迫っている。
「なに?」
 餅子がぎゅっと目を閉じ、マグロガールへと尻尾を突き刺した。その後は灯子の元へ戻り、二人でハイタッチまがいのことをして喜ぶ。
 状態異常が多く残る前衛に向けて、リュセフィーがオラトリオヴェールを展開する。
「ミミック、戦闘サポートの方をお願いします」
 主にそう告げられたミミックは、勢いよくマグロガールに噛みついた。流石に顔をしかめるマグロガールを尻目に、桟月はアイリを癒やす。
「……攻撃、回復、めざわりだわ。いい加減、私もつらい」
 馬鹿正直に、マグロガールが自信の状態を告げる。終わりは近い、ということだろう。
 マグロガールは大きく息を吐き、炎を放った。弧を描く熱源は、アイリめがけて急加速してゆく。
(「——避けきれない」)
 覚悟を決め、斬霊刀「宵桜」を盾にするように構えるアイリ。怯むことなく炎を見据える彼女の前に、大きなシルエットが落ちる。
 ムギだ。
 背中で炎を受けたムギの服は焼け落ち、見事な筋肉が露わになる。
「ふん、なんだその程度。俺の炎はちっとばかし熱いぞ……」
 炎には、炎を。不適な笑みを浮かべ、ムギがオウガメタルに炎を纏わせて叩きつけた。次いで振り返り、アイリを見る。
「トドメは頼んだぜ、やっちまえアイリ!」
 アイリが頷く。瞬間、アイリの気配、殺気、存在——それらがまるで影のように、マグロガールの意識の「闇」に潜り込む。それは、ほんの刹那の出来事。マグロガールには動揺する暇すら与えられない。
「隙だらけだよ、あなた」
 冷たい声に続いてマグロガールを襲うのは、認識外からの刃。見えない刃の閃きは、マグロガールへの最後の一撃。
 マグロガールは霧散する。被り物がぽてりと落ちたが、それもすぐに消滅した。
「……お休みなさい」
 アルノーが呟き、目を閉じる。花々が揺れる音だけが耳元を過ぎ去ってゆく。
 ピジョンは武器を収め、ため息をついた。
「何でまぁそんな愉快なかっこしてたのか知らないけど、せめて冥福を祈るよ」
 などと、少しばかり疑問が残しつつも。
 ケルベロスたちは、見事マグロガールに勝利したのだった。

●秋風とともに
 散ってしまった植物は戻せないが、大きくえぐれた地面は修復できる。再び丘を訪れる人々が怪我をしないようにと、カルナ、アイリ、ピジョンの3人がヒールを施した。
 それでも、咲く花々はまだまだたくさん。
「秋桜きれいですね……」
 丘いっぱいの秋桜を見渡し、リュセフィーが呟く。
「この秋桜を守れて、良かったです」
 微笑み、うなずく。リュセフィーの青い瞳に、薄紅色が映り込んだ。
 気付けば、避難した一般人たちも戻り始めていた。アルノーが呼び戻したのだ。
「お騒がせ致しました……今一度、皆様が心穏やかに過ごせますよう」
「もうご安心ください」
 カルナも頭を下げ、優しい言葉をかける。ねぎらい、感謝、あたたかい声が、ケルベロスたちを包み込んだ。

「餅子、大丈夫?」
 頭の上にわたがしをくくりつけた餅子を心配しつつ、灯子が参道を歩く。灯子の両手には、屋台で買ったたこ焼きや焼きトウモロコシ。
「ナノ!」
 まかせて、と言わんばかりの得意げな表情を浮かべる餅子に、灯子は大きくうなずいた。
「よし、それじゃあ丘まで競争ね!」
 抜きつ抜かれつ、丘を目指す二人。それを横目に、クラムは屋台で串焼き牛タンを購入した。香ばしく焼ける匂いが立ち上る。
「ほら、食え」
 クラムの差し出す肉に目を輝かせ、クエレは嬉しそうに噛みつく。戦闘で受けた傷も、今ではすっかり癒えていた。がぶがぶと嬉しそうに、そして美味しそうに肉を頬張るクラム。
 クラムはごく小さく「お疲れ」と述べた。

 仲間のもとに到着する寸前、灯子は僅差で餅子を抜かした。
「私の勝ちだね! あっ、アイリさーん! これ、どうかな?」
 と、アイリに駆け寄る。買ってきたものを差し出しながら、アイリの隣に座る。
「わあ、ありがとう。素敵な眺めに美味しい食べ物。うん、いい思い出になりそうだね」
 お酒は飲めないけど十分楽しいね、と、アイリはそばにいるムギを見た。
「秋の桜か、確かにこりゃいい眺めだな……」
 日本酒をあおりながら、ムギが呟く。酔いの回り始めた視界に、秋風と花々が心地よい。戦闘で張り詰めていた気持ちも、今では平穏そのものだ。人々が丘を、参道を散策し、祭りを楽しんでいるのも見え、なおさら安堵する。
 守ることのできた風景に満足しつつ、ピジョンはカメラを構えた。
「それじゃ撮るよ、マギー」
 秋桜を背景に、マギーがポーズを決める。撮影音が短く響き、写した写真が表示される。出来はなかなかで、ピジョンは思わずひとりうなずいた。秋桜の花弁を通して、落ちかけた陽の色がピジョンを暖かく照らしている。
 誰もが穏やかに祭りを楽しむ光景を見て、アルノーは目を細めた。
(「地獄に飲まれたこの目と心には、一層眩く映える光景。護る事が出来――この情景と人々の心が曇る事なく済み、良かった」)
「それを美しいと思える心と、護る力を得られて、本当によかった」
 そっと目を閉じ、カルナがしみじみと呟いた。そしてアルノーに歩み寄り、声をかける。
「アルノー様。花と共に記念写真を撮りませんか?」
 折角ですし、皆さんも、と。カルナにとって頼もしい先輩は、ゆるりと微笑んだ。
 撮影をしながら、帰り際には神社で参拝しようとカルナは思う。願うのはもちろん、この地の平穏だ。
 見渡す限りの秋桜は、ケルベロスたちがもたらした平穏を喜ぶかのように揺れた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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