ツクモガミ

作者:baron

「ここかのう? いろんな物を供養しておる場所は」
 女が神社を訪ねて来た。
 その御寺は古くなった品を祭る寺社の一つで、全国的にはそれほど有名ではないが地方ではそれなりに知られていた。
 観光地としては見るべきものはないので適さないが、人が居ないので色々と調べて回るには面白いのかもしれない。
「ふふふ。鄙びておるが、逆に、ここならばツクモガミの一つもおるじゃろう。どーれ、探し出してくれよう」
 いまどきツクモガミも無い物だが、女はフンフンと鼻を鳴らして境内に入り込んで行った。
 まず、どこから向かおうか……と思案した時のことだ。
「神主さん? いや、今はおらんはず。まさかタヌキ!? じゃなくて、人間化したツクモガミか!」
「いいえ。私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 らんらんと輝く目で女は振り返るが、残念なことに最後まで小さな探検を終えることができなかった。
 まず見えたのは胸に突き刺さる鍵。
 そしてグラリと転がる女が最後に見た者は、不景気な顔をした女と……箱が浮かびあがる奇妙な光景であった。


「不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
 ユエ・シャンティエが巻き物を開きつつ、脇に地図やメモを添える。
 巻き物には『感情のドーリームイーター事件』と書かれ、その一部に『興味』と記されている。
「今回は器物の妖怪とされる付喪神に興味を持った女の方が襲われ、奪われた感情を元に怪物型ドリームイーターが出現します」
 黒幕の女は既に姿を消してしまったようだが、出没した怪物型が周辺を襲ってしまうようだ。
 ユエは大きな箱を描き、中から色々な物が飛び出してくる絵をメモに描く。
「戦闘方法に関しては箱を開き、宝石が怪しげな光を放ったり、色々な品を飛ばしてきます。それと、ですが……」
 ユエはそう言うと、一枚のメモに戦闘方法を描く。
 そこまでもう一枚。
 サラサラと、『誰のモノ?』と書きつける。
「ツクモガミの入ったこの箱は持ち主を探しているようです。『貴方が買ったの?』『貴方が持ち主?』などと言うつもりで尋ねて来ると思いますので、そうだと答えれば襲われない可能性がありますし、逆の意味で答えれば優先的に襲ってくるかもしれません」
 不要だ・捨てたなどには怒りだすし、持ち主でなくとも、欲しい・既に買ったなど人形に対して肯定的であれば襲われない可能性はあるらしい。
「正解を答えれば襲われないかもしれない……とはいえ感情を奪い、人を襲うドリームイーターを放置できません。お手数ですがよろしくお願いしますね」
 ユエはそう言うと怪物を倒せば被害者も元に戻り、敵は人の少ない裏通りを徘徊し始め、時間をかければ表通りに出てしまうかもしれないと口にした。


参加者
トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)
コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)
モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)
真夏月・牙羅(ドラゴニアン巫術士・e04910)
ルイ・コルディエ(菫青石・e08642)
仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)
中条・竜矢(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e32186)

■リプレイ


「居ないかな、居ないといーな」
 ルイ・コルディエ(菫青石・e08642)は鼻歌を歌いながら社務所を覗きこみ。
「肝試しの季節は過ぎたのに妖怪退治だなんて、ハロウィンの前倒しかしらね?」
 と軽口を叩く。
 そんな彼女に、油断だけはするなよと仲間が声を掛ける。
「まっ、誰も居ないならもっけの幸い。この社が火の海にならないように頑張ろうや」
 モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)はルイに声を掛けながら、飾られた小道具を興味深そうに眺めた。
 古ぼけた手鏡に行灯から柳行李と、今は使われなくなった古物が並んでいる。
 その年季から愛着を持って扱われたことが分かり、これらの持ち主はどんな人々であろうと……、つい自分の記憶を元に想像しそうになった。
「九十九か……俺は神仏を信仰する方ではあるけどよ、こういった形で呼び出されるのは違ぇよな。つーわけで、大人しく散ってもらおうじゃねぇか」
 モンジュは古い光景を思い出すと、薄い笑顔を張りつけたまま、思わず刀を握り締める。
「ツクモガミ……だっけ? 武器とかに宿ったりしたら素敵そうよね」
 そんな彼の変化を知ってか知らずか、ルイは話題の矛先では無く、手にした刀の方を眺めて笑顔を浮かべる。

 そして……。
 合流してきた仲間や、簪や紅緒を眺めていた別の仲間が、物音に気がついて顔をあげる。
「物を大事にするのは良い事ですが……物に執着しすぎるのも困りものですね。……おや? あちらに人はいない様に見えましたが」
 周囲を見回っていたトリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)が、遠目ながら誰も居ないことを確認していた。
 となると、一見、物に見えながらそうでは無いモノである可能性が高い。
 首を傾げ、元居た道へ踵を返す彼に、目に見えて仲間達も同じ方向を眺めた。
「ここにあるものも、一度は主人に愛された物であろうに……と、すまぬ、今回はあくまで、興味から作った偽物であったな。後ろ髪は惹かれるが敵とあれば仕方あるまい」
 仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)は紅緒が擦り切れ、日に焼けていることから舞いに使う物だろうと思いを馳せて居た所だ。
 軽く頭を振って余計な考えを追い出すと、手元の扇子を閉じる事で意識を集中させる。
「片してからゆるりと見物と参ろう」
「そうですね。人が居ないのに、あれだけの物音……ドリームイーターに違いありません」
 手毬も物音をした方に向かうトリスタンの後を追い始めた。
 既に向かっていた者や、他方へ向かった仲間達も、次々に合流し始める。
「えっと、アレ……ですかね? 職業上、宝石類は幾らあっても有り難いですし、出来ればもっと種類も欲しいですが……」
 凄く困った顔をしていた和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)は、顔を輝かせた。
 啼いたカラスがもう笑ったと言う言葉があるが、花綻ぶような笑顔を浮かべる。
「トリスタンさん、凄いですよ……アレ。錬金に仕えて顔料にもなるラピスラズリに、酢で溶かすと薬になる大真珠……。すごく、すごく、あったら有り難いですし魔術研究の幅が広がって嬉しいのですが……」
「紫睡さん、見とれすぎないようにお願いしますね。判って居るとは思いますが、一応お気を付けて」
 勘違いしないように先に言っておくが、トリスタンのことを紫睡は別にアレではない(ハズ)。
 単に、彼女が極度の自己不信で、見知った人が居る事によってようやく安心できたからだ。
「ですよね……。あれは幻でそもそもドリームイーターだから倒さなければ……。あぁ、本当に沢山の宝石があればあんな研究やこんな研究、試してみたかった研究が……」
 紫睡はアワアワと両手で目を覆い隠しながら、最後まで未練を覚えて指の間から向こう側を眺めた。
 そこには彼女が先ほどから見ている、美しい木箱と輝きがある。


『貴方が、私達の、マスター、ですか?』
 奇妙な物音を立てて木箱のフタが開く。
 そこに居たのは、小さな人形。
 そして皿が音を立て、宝石が光って引き付けているのだ。
「私のものではありませんが、いいものですね。欲しいです」
 ゴクリと喉を鳴らしながら、中条・竜矢(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e32186)はダラリとチェーンを緩めていく。
 何時でも攻撃できるようにしながら、仲間が完全なる否定を答える瞬間を待ちわびる。
「(まったく、怪しいわね。南瓜とかお菓子とかお清めの塩とか持っておいたほうが良いのかしら? そっちは?)」
「(私は箱の持ち主でもないので回答する意味はないと思われます。それと、この場合はお菓子も塩も適切ではないかと)」
 声には出さずルイが呟くと、コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)は軽く首を振った。
 二人とも武装を解放していくが、ルイは防御に星剣の加護を祈り、コスモスは竜矢と同じチェーンを手繰る。

「いいや。儂は御主など知らぬよ。――すまぬな」
「そう……。全部、俺が昔に捨てた物だ」
 手毬とモンジュは異なる口調で、否定の言葉を口にした。
 方や所持の是非を端から意味する否定であり、方や所持を肯定しながらも、未練を否定する言魂である。
 ヤマトの国は言魂のまどろう国、一度言の葉に載せれば取り返しはつかぬ……。
 いや、それこそを、望んで居たのだ!
「……色々出てくるなぁ。だが、これは俺が全部捨てたもんだ。今も要らねぇな『碧を注ぎし我が器……満ちて零すは月の滴』そうだ、今がありゃ……四六時中振り返るモノでもないさ」
 モンジュは苦笑しながら思い出の品々を振り返った。
 中には飛んでくる皿や器もあったろう、だが、今はコレだけあれば佳い……と、どこからか杯を取り出す。
 そして白昼の残月にかざすと、五里霧中の未来を闇夜の海に見立てて、現在を満足することで足りると、不満を飲み干したのである。
『ゆる……許せない、ナンデ……ナンデ捨てたの!』
 そして、浮かぶ品々は、否定の言葉を返した者に、災疫として降りかかる。
「な、正体不明(トラツグミ)! 女性を守れ!」
 真夏月・牙羅(ドラゴニアン巫術士・e04910)は被害者の女性でないことからホっとしながらも、それでも思った対象でないことから少しだけ急いた。
 てっきり強い言葉で否定したモンジュに向かうと思ったのだが、心情を理解できぬから狙ったのか、あるいは理解したからこそ外したのか、無数の皿が手毬に襲いかかったのだ。
『夜に聞こえる、不気味な声よ、恐怖を与え、具現化せよ、正体不明の怪物よ!』
 てけり、てけり、てけりり。
 牙羅が招請したナニカは、雷鳴とともに奇妙な物音を立て始めた。
 取りの声にも似た声を立て、空飛ぶ木箱や皿に襲いかかる!
「早逃げろ!」
「いやいや、儂もケルベロス。たまさか幽世(かくりよ)に迷い込んだ被害者ならともかく、不要じゃ。ただ……『なれば皆々、お手を拝借――』これで問題あるまい」
 息(意気)を整えれば、不正不自然な魔酔い(迷い)は消え失せる。
 手毬が舞い踊ると、リズムが体を縛るナニカの束縛を打ち砕く。


「私のものではありませんが、とても綺麗ですね。誰かに贈るときにはこうした美しいものが欲しいです……。という訳で、行きますよ!」
「撃ちます! 一足先、いえ二歩ほど先に援護しますので突入してください」
 トリスタンが馬鹿正直に断ってから、竜矢が作り上げる援護射撃の下へ躍り出た。
 バールを間に握り込み、文字通りの鉄拳乱舞。重力の鎖が鈍らせた器へ容赦なく力の奔流を浴びせていく。
 バリケードすら一蹴する連打で、五客一組の皿やら大皿を叩き割って行く。
「えっと、逃がさないでください。壊しちゃだめですよ、そーっとそーっと。ああ……こういうのは一枚でも一セットが足りないと、価値が」
 天に座す白昼の残月は、紫睡が投げつけたトパーズの輝きで一瞬のみ、夜の輝きを取り戻す。
 そして最初は法陣を描いた宝石たちは、蛇がうねるように、グラビティの網を引きずりながら四方へ散って行った。
「セットかー。そう言えばセットって、箱の裏書きとかも重要なのよね。見るからに渋い色あいだし、これは期待出来るかも……」
 なんちゃって♪
 剣を突き立てて結界を敷いたルイは、地面に刃を突き立てたまま走り出した。
「せっかく怪我人が自分で治療したことだし『ぶち抜くわ。』そーれっと」
 ルイは刃を白熱化させて、豪炎を宿すと、地面に焼印を刻みながら逆手抜刀。
 そのままクルリと体を返し、逆袈裟へ流れるように切り捨てた。
 もったいないもったいないと木箱に刻まれた印を惜しむ者が居れば、そうでない者も当然存在する。
「生まれや目的がどうであれ排除します」
 情け無用躊躇無用の連続ファイアー!
 いつもと違い軽装のコスモスは、左手に持つ重力の鎖を引き寄せると、そのまま右手のチェーンガンを連射して行った。
 不規則に揺れ動く自身と敵を追加したブースターで小刻みに修正し、砲弾を撃ち込んで行く。
「……とはいえ、この施設は使われているようです。全て終われば修繕するとしましょう」
 ガンガンと皿や人形を撃ち抜き、大地を抉る銃痕にコスモスは溜息をついた。

 とはいえそれも気のせい、敵は強く、いつも通りに油断出来る相手では無い。
 単に引き付け易い為、普段より庇い易いから、苦戦してないから余裕があるだけだ。
「やれやれ、もういいって言わなかったか? そういうのは相手を選べばいいんだがね」
「言うほどの知能が無いんだろう。人形が喋ると言っても、所詮は怪物型だよな」
 モンジュは一瞬だけクラリしたものの、集中力を発揮し、鉄拳を叩きつける。
 彼がグラビティを吸収しながら下がって一息ついたところで、牙羅は周囲を爆破して追い打ちをかけた。
「チャンスですね。攻撃します!」
「うむ。少々陣が崩れるが、もはや気にするほどでもあるまい。ここで追撃を掛けるべきだの」
 竜矢は重砲弾を装填し、箱竜にも積極的な攻勢をかけさせる。
 彼が重爆撃を掛けた所で、手毬は一回転して人形に裏拳を叩きつけた。
 逆手に爪を伸ばしたまま、いつでも治療に移行できるように、呼吸を整える。
 もはや体勢は決まっているが、油断すると思わぬ被害を受けるからだ。


 壁役を立ててから継続戦闘から、包囲戦に移ったことでディフェンス役以外が攻撃を食らってしまった。
「あの、その一枚……二枚。高そうなお皿が……勿体ない……中世ではとっても高額だったのに……今度は宝石が!? もう、見て居られません!」
 紫睡は口とは裏腹に、積極的に飛び付いて行った。
 まだ無事なセットの皿、一枚二枚と抱え込んで関節技を掛け、うまく無傷で捕まえれば、研究資金になるは……ゲフンゲフン。
 そんな中、昔懐かし鉱物採集セットが飛んでおり、それを破壊しようとした仲間へ、バールを振りあげ……。
「ハイハイ、それまで、どーどー。誰か現実に戻してあげて」
 ルイは気力を映し、錯乱した誰かさんを治療する。
 せっかく有利に戦闘を進めたのだ、最後まで景気よく行くとしようじゃないか。
「ゴホン。紫睡さん、見とれすぎないようにお願いしますね」
「これは素敵な宝石達が……。ハッ、すみませんトリスタンさん! 私は一体何を見ていたんでしょうか……」
 宝石に見惚れていた彼女を、トリスタンは揺さぶって起こしてあげた。
 紫睡は恥ずかしそうにしたあと、手にしたバールをポイ!
 そして、最初に使って宝石を、もう一度掴み取る。
「さっきのはナシです!『夜に淡く、柔らかく、月色の加護を受けし鏃を持って、霧中より我が穿つ者を探せ』あの……宝石には宝石返しですよ」
 再びトパーズが天に登る。
 だが、月の顔が毎晩違うように、今度の軌道は直線的に敵を撃つ。
 蛇が草むらを駆けるように、素早く激しく撃ち付けていった。
「物騒ですし終わりにしますか『Deprived force type Grendel』まだまだ用事もあることですしね」
 トリスタンは握り込んだバールを投げ捨てると、本気の本気で殴りつけた。
 ナックサックル代わりに握り込んだバールは、むしろ手加減だったのだ。
 まるで巨人の如き一撃で、トリスタンは箱を粉砕して行った。
「遠慮は不要と言う事ですね……ならば試験運用を開始します」
 コスモスは『腕部開放、対象を破壊します。』と告げると、とうに焼け落ちたはずの左手を解放した。
 封印を解除され、全力を発揮し始めた左半身は、装甲を越えられぬまま……左手という出口から射出される。
 槍のように噴出する炎を、コスモスはまさしく火力として運用する。
 この膨大な反動を抑えるために、今日この日のブースターはあったのかもしれない。
「絶景じゃの。儂はもう必要あるまい、あとは任せたのじゃ」
「援助ってガラでもねえが、まあ出来るだけの事はして来るさ」
 手毬が傷ついた仲間の傷を癒しに向かうと、同じ壁役のモンジュは闘気を叩きつけ攻撃に参加した。
 もはやどちらも手が必要と言うほどでもないが、座して見守るというのも無用な話だ。

「終わったか……。しかし噂で妖怪が出るなら、鵺の話が流れれば……」
「そうならない為にも、御参りでもしましょうか」
 トドメを誘うかと待機していた牙羅が、斧を離すと、正体不明な存在も姿を霧散させていく。
 竜矢はその言葉を受け、壊した社を修復しながら、手を合わせる。
「お参りもしたし、後はお茶でもして帰りましょ!」
「そうですね、ああそうだ。娘へのプレゼントなのですが……選んでもらえないでしょうか」
「え、プレゼントを私が考えてもいいのですか? お、お任せください! 頑張ります!」
 ルイが一件落着を告げたところで、トリスタンは残念そうに社を眺める紫睡を誘ったのだが……。
 その視線の先に、鉱物標本や魔法のステッキがあったりして、一同は最近の御払いも変わったなあと、思うのであったそうな。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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