丑三つ時のひとりかくれんぼへの興味、あんだろ?

作者:ひなせ弓狩

 町外れ。今は誰も足を踏み入れる者のいない森の奥には、古い社と何本も連続して並ぶ大きな鳥居がある。その鳥居はどこまで続くのか、山へと向かう獣道に延々と続いていて……。
「ここだな。丑三つ時に、この一番手前の鳥居の陰に一人で隠れて、十まで声出して数えてから『もういいよ』っつうと、奥からでけえ赤鬼が降りてきて、さがしに来るってんだろ」
 若者の間で今流行りの『丑三つ時のひとりかくれんぼ』の噂を確かめにやってきたのは一人の少年。
「時間よし、撮影準備よし。っしゃ来い!」
 赤鬼を動画に収めて、明日仲間連中の度肝を抜いてやろうと、数を数え始めた少年の後ろからはしかし、鬼とは似つかぬ女の声が。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があるわ」
 声に驚き、振り返った少年は、第五の魔女アウゲイアスに心臓を一突きされ意識を失ってその場に倒れる。
 その横には大きな赤鬼が現われ、咆哮すると鳥居の奥へと消えていった。
 新たにかくれんぼをする者を待つかのように。
 
 不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件。 
「今回は、『丑三つ時に、古い神社の鳥居の前で一人でかくれんぼをしていると、赤鬼がさがしにやって来る』という噂話に興味を持って、調査を行おうとしていた少年が襲われてしまいました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の事件の報告を、集まったケルベロス達と共に聞いていた幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)が、ふと呟いた。
「丑三つ時のひとりかくれんぼ。か……」
 その呟きになにやら思い当たる節があるのか、八重子はそっと口元を笑ませたが、九助は見て見ない振りのよう。何があったかなかったか。それは姉弟だけが知る事らしい。九助はセリカに説明の続きを促した。
「第五の魔女アウゲイアスは既に姿を消しているようですが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしているので、撃破して頂きたいのです。そうすれば、被害者も無事、目を覚ましてくれるでしょう」
 怪物型のドリームイーターは、身の丈は三メートル程の赤鬼の姿。配下は存在しない。
 その赤鬼は、人間を見つけると『自分が何者であるか』を聞いてきて、正しく答えると何もせずに去っていく。なので逆に言えば、間違った答えや、何も答えなかったりすると怒って襲ってくるという事になる。
「また、ドリームイーターは自分の事を信じて行動したり、噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるので、うまく誘き出せば有利に戦えます」
 とセリカはケルベロス達に説明をし、
「この様な時間に、この様な若い方が出歩いていたという事はさておきまして……、興味を持つものは人それぞれです。その興味を使って化け物を生み出す事は許せません。被害者の少年を救うためにも、これから起こそうとしている事件を防ぐためにも、どうかこのドリームイーターの撃破をお願い致します」
 深々と頭を下げ、撃破を願った。


参加者
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
片白・芙蓉(兎頂天・e02798)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
ミュラ・ナイン(想念ガール・e03830)
レイグ・キルスフィー(ただの読書家・e04462)
武器・商人(闇之雲・e04806)
幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)
狗塚・潤平(青天白日・e19493)

■リプレイ

●丑三つ時のひとりかくれんぼ
 件の鳥居の前に立つ、片白・芙蓉(兎頂天・e02798)とミュラ・ナイン(想念ガール・e03830)が噂話を弾ませている。傍には霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)のボクスドラゴン、ノアと幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)の八重子だ。
「やり方は……綿を抜いた人形にお米を入れて、爪や髪の毛を更に入れる……うっわータチ悪いですねコレ」
 フィナンシェを食べつつスマホで調べながら噂話をするミュラ。好物を食べながらなのは気持ちを奮い立たせているのかもしれない。
 反対側。社に近い鳥居の付け根には、倒れている少年と、鬱蒼と生える草陰に潜む灰色の狐耳。
(「物語にゃありがちだが、現実に鬼なんざいねぇよって」)
 少年を保護する為、動物変身で真っ先にそこへ辿り着いていたレイグ・キルスフィー(ただの読書家・e04462)だ。
(「ま、鬼よりも恐ろしいのは大勢いるがな……」)
 噂話組が鬼を引き付けている間の保護を狙って頃合いを慎重に見計らう。
 社の中では、翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)、悠、九助、武器・商人(闇之雲・e04806)狗塚・潤平(青天白日・e19493)の待機組の面々が周囲に注意を払い、息を潜めて見守っていた。
「しかし一人で遊んでる子に構ってあげるなんて、鬼とは思えないお気遣いの紳士ね! 泣いた赤鬼という童話もあるし、きっとメンタルイケメンね! 間違いないのだわ!」
 そこで芙蓉はひらめいた。
「これは一人かくれんぼ、やるしかないわね……!」
「!? そ、そうですね、わー、アタシやってみたいなぁ……!」
 流石は可愛い私! 名案ね! と自信満々な芙蓉に対して、誘き寄せの為、ひとりかくれんぼをする事になったミュラは若干涙目。
 仲良しの可愛い年下の女の子のミュラへ小声で(「頑張るのよ!」)と応援し、そそそ……と離れる芙蓉、八重子、ノア。
 ミュラは腹を括って一人、鳥居の前で数え始めると鳥居の奥から、ズゥン、と音がして赤い大きな足が段々見えてくる。
 現れるのがドリームイーターならミュラはもう平気だ。草むらに一時潜んでいた芙蓉、八重子、ノアもミュラの側へと戻る。
 鳥居の真ん中まで降り立った赤鬼は、大きな体を屈めてミュラ達の方へ向く。
(「今だ」)
 赤鬼が背を向けた絶好の機会を逃さずレイグは変身を解除し、少年を抱えると颯爽と社へ駆けた。
『儂は何者だ』
 レイグと少年の姿が無事社の中へと消えたのを目にした芙蓉は堂々と、
「良い夜ね赤鬼さん! ご機嫌いかが!?」
 と答え、ミュラは指さして
「つのつのにーほん青鬼どん!」
 ドヤァってし、さっきまでとは打って変わり、どうだ! という顔で答えた。
 ミュラの答えは良い具合に赤鬼の怒りを買ったらしい。かっと目を光らせると体を伸ばして鳥居を壊し、大きく咆哮した。
 それを合図に社に控えていた面々も出て、戦闘開始だ!

●鬼さんこちら
 振り降ろされる金棒を、ミュラはスケートのように滑り踊りながら避けると、その軌跡から生まれた魔法の氷は金棒と地面とを凍らせて接着させた。  
 赤鬼が氷に抗う内、仲間達は少年がいる社を背に守り、陣形を整えた。
「鬼さんこちら、手のなるほうへ、……だっけ。さあ、あそびましょうか」
 ロビンの誘いに、赤鬼は地面から金棒を引きはがし、咆哮した。
「――おいで、フレイム」
 ロビンが纏う魔女の鎧、べスチアの焔は燃えず翡翠色の炎の様に見える。けれど、今てのひらにひとつ呼んだ炎の子は、ひとかけら顕現させた硝子片を貪り食い、まだ足りぬと嘆き真っ赤に燃える。
「おおきな図体だもの、ね。……転ばせられればいいんだけど」
 炎の子は頷くように揺れ、紅蓮の尾を引き赤鬼の足目がけて飛び込むと、静かに激しく赤鬼の体を足元から燃え上がらせる。
 炎を振り払った赤鬼が、鋭い眼光をミュラに投げつけ、口腔に炎を宿したのを芙蓉は見た。
「やらせないのだわっ」
 可愛い彼女らをなんとしても守りたいと本気の芙蓉がゲシュタルトグレイブを構え、赤鬼目がけて駆け出した。
 赤鬼の吐く炎は前衛全体を襲うだろう。自分が耐性をつけてやれるのは一度に一人。だが芙蓉ならやってくれると九助は信じた。
「そぉら、任せたぜ、可愛い芙蓉!」
 絶妙のタイミングで九助から霊薬を投与された芙蓉は、己が力が高まるのを感じ、
「ナイスよー!」
 九助に声をかけ、勢いそのまま超高速の突きで赤鬼を貫いた。痺れ呻く赤鬼の姿はその威力を物語る。
「フフフ、かわいこちゃんに手を出せると思ったかしら! 実際こういう場所には何がしかいらっしゃったりするし、感じられるのなら良いことだけれど、何とかの正体見たりデウスエクスとか、オチとしてはヨワヨワね! 無し!」
 まくしたてる芙蓉へ赤鬼が手を伸ばすがそれは届かない。八重子がポルターガイストで阻害している間、九助が、おい、当たっちまうぞ。と芙蓉を引っ張りかわしていた。
「さて。鬼退治、と。行きましょー、か、ね」
 入れ替わりに悠が駆け抜ける。
「鬼と遊ぶ、てのはハジメて、だわ」
 ルーンを発動させた悠は、光り輝く呪力と共にそれを赤鬼へと振り下ろす。狙い続けられた赤鬼の足の傷口は、ぱっくりと大きく裂けて血が噴き出す。
「鬼サン。此方―……て、違う遊び、?」
 ノアール、と呼ばれたノアは悠の意を汲み、ボクスブレスを放射して悠が裂いた傷口を深める。そこへ潤平が駆け込み、流星の煌きと重力を宿した跳び蹴りを食らわせると、赤鬼は痛みに唸り、金棒を地に突き立てて膝が折れるのを堪えた。
「図体でっけえやつは速さで翻弄! ってな! ってか、ホントでかくね!? 一撃食らったらキツそうだよな」
 と間近で見た赤鬼の攻撃力を危惧し、エアーシューズで動き回って翻弄しながらも潤平は、張り合いのある戦闘に胸を躍らせる。
「鬼さん此方、手の鳴る方へ……ヒヒヒヒヒ!」
 赤鬼が商人の方へ顔を向ける。常ならば避けられたかもしれないが攻撃を受け続けた赤鬼は避けられない。
 轟音を伴う強大な雷撃が赤鬼を穿つ。雷気が抜け出る時、足指全てがすっぱりと体から離された赤鬼は咆哮する。
「とりあえずお前とは仮契約だ! どんなもんか見せて見ろ!」
 レイグに語り掛けられたブラックスライムは、捕食モードに変形すると期待に応えて赤鬼を丸呑みした。
 呑んだ衝撃は本来ならば凄まじい。けれどまだ名のない彼の相棒は痛みに慣れていないレイグの代わりに衝撃を受け持ってくれた。そんなブラックスライムに、レイグも好意的な反応を返した。

●転機。そして……
 攻守見事にバランスの取れたケルベロス達の度重なる攻撃は、赤鬼を追い詰めていた。
 商人の御業の大きな白狐は赤鬼に噛みついて動きを止め、更に強く噛みついて赤鬼の戦闘への意を削ぐ。
「よっしゃ、このまま沈めてやるぜ!」
 弱る赤鬼に好機と見た潤平がもう一押しと攻め込んだその時、赤鬼が力を振り絞って金棒を振り回した!
「あぶない!」
「ミュラ!?」
 咄嗟に潤平を庇ったミュラが高威力の金棒攻撃を受け、後方へ吹き飛ばされた。
 レイグは記憶の本棚から引き抜いた本を透明な姿で実態化させると、今この時に相応しい物語、桃太郎を詠唱して、側で倒れるミュラに勇気と力を与えた。
「大丈夫か!」
「平気! 今そっちに戻るよ!」
 負傷の痛みは今は感じない。気遣った潤平に、癒しを受けて立ち上がったミュラが元気に答え、戦線へと戻る。
「お供はちと多いが……まぁ、きびだんご無しでも俺達は集まる性分でね」
 唸る赤鬼にレイグは言う。
「ガリバーの如く転ばせてやりますよ!」
 ミュラもやられてばかりはいない。ストラグルヴァインで足を狙って反撃する。
 赤鬼の非道な振る舞いに静かに怒りを燃やすロビンは、手に馴染んだ大鎌、レギナガルナの刃に死の力を纏わせ、首筋目がけて振り下ろし、傷口から鮮血を噴かせた。
「なかまを、傷つけるのは、ゆるさないわ」
 柄の先にはめられた燃ゆる色の赤い石は、ロビンの心内を映した様。
 ミュラを案ずる芙蓉は回復を考えたが一転、赤鬼へと駆けた。
「九助、ミュラをお願いするわ!」
 後ろには頼れる友人がいる。今度は芙蓉が九助を信じた。
「任せろ!」
 やり取りを耳にした悠は、溜めていたオーラを解くと臨機応変に戦術を変えた。
「ンじゃァ、俺も、鬼サン、足止めする、ね」
 芙蓉が赤鬼を殴りつけた時、ちりんと鈴が鳴いた。
「にゃあ、お。」
 それは彼等への合図。何処からとも無く出てくる陰。翳、影。まるで百猫夜行のそれらは赤鬼の足元に絡み憑く。遊んで構ってと飛びつきじゃれる爪が赤鬼を裂く。
 赤鬼がそれに苦戦し、ノアが万一に備えてミュラへ属性をインストールし、八重子がポルターガイストで赤鬼を足止めしているうち、九助の医力籠ったエレキブーストがミュラへと走る。傷口は見る間に塞がっていき、残ったのはすり傷程度。ミュラは礼を言い、仲間を守る手足に今一度ぐっと力を籠める。
 ミュラの姿にほっとした潤平は、打って変わって、きっ、と赤鬼を睨みつけた。赤鬼は金棒を振り回すが、突っ込むと見せかけて間合いを取っていた潤平は見事かわし、
「同じてつは踏むかっての! さっきはよくもやってくれたな! お返しだぜ!!」
 炎を纏った激しい蹴りをお見舞いすると、赤鬼は、とうとう膝をついた。
 攻撃一辺倒だった鬼が酒を取り出す。レイグと九助は目を合わせ、息を合わせた。
「「させるか」」
 レイグの栞型のウイルスカプセルに追撃する形で九助のウイルスカプセルが投射され、赤鬼はそれを避ける隙がない。二人の殺神ウイルスをもろに食らった赤鬼は酒を使えどヒールの効果はほぼない。撃破まではあと少し。
 ミュラが地面に氷を張りながら滑り踊り、赤鬼の武器を凍らせる。商人から脳髄の賦活を受けていたロビンが繰り出す斬撃は、密やかにけれど途方もない破壊力。急所を搔き斬きられた赤鬼は巨体を傾がせる。
「鬼さんそっちね!? 本職が行くわー!」
 本職故ノリノリな芙蓉は飛び上がり、空中で正座っぽい体勢を取ると膝から突撃した。なんだか凄い攻撃だが、なんとこれはれっきとした鬼祓い。
 ノアがボクスタックルを、悠がルーンアックスを確実に容赦なく振り下ろして連携を決め、八重子が金縛りをかけ、潤平が赤鬼目がけて突っ込む。振り上げた拳は真っ赤な地獄の炎を纏わせる。もはや息も絶え絶えな赤鬼は潤平の気迫に怯み、引こうとしたのか体を捩る。
「お天道様に顔向けろ。逃げるな。そしてその身にしっかり刻め。これが狗塚組の生き様だ!!」
 逃さず、赤鬼の鼻っ柱へ振り降ろした潤平の炎の拳の一撃。
 静寂の後。鬼はぐらりと巨体を揺らし、轟音を響かせて地に倒れ、それきり赤鬼は動く事はなかった。ケルベロス達は戦闘を労い、勝利に沸いた。
 ……その後、地に数本転がっていた赤鬼の足指がぴくり、と動いた様に見えた商人は、皆から離れたそこへ近づき、おもむろに魔導書を開いて、そして。
 ヒュゴッ!
 現れた白狐が消した様にも魔導書の中へ引き込んだ様にも見えたが、それは商人だけしか知らぬ事。あァ、最後はこう言うのだっけ、と思い出した商人は、
「私の勝ち」
 と、静かに魔導書を閉じた。 

●帰路
 社に寝かされていた少年は無事目を覚まし、芙蓉は度胸を褒めつつも優しく注意を促した。
「少年はナイス度胸ね! けど今のご時世危険もモリモリよ!」
「すいませんっす……」
「好奇心は抑えようのないもんだよな、うんうん。わかるぞ少年!」
 やんちゃそうな少年がしゅんと肩を落とし、きちんと反省した様子に、潤平は少年を励ました。
 鳥居の前ではヒールを終えた九助とロビン。
「鳥居のむこうは、神様の場所なんだっけ」
 二人共が成るべくなら元の姿に近く、と気遣ってヒールをしたおかげか左程の違いなく鳥居も周囲も直った。
「ここも、神様が通ったこと、あるのかな……神様なんて、よく、わからないけど」
 かみさまみたいだったひとはもういない。
「いるのかよと思う事もあるが、取り合えずは、ま、こうしてなんとか生きてるしな。さて、あいつらも待ってる事だし、帰るとするか」
 不自由な右半身。ビハインドの八重子。それでも尚、笑んでそう答える九助に、ロビンは遠くない日に出来た、帰りを待ってくれているだろう大事な友人達を思い浮かべて頷いた。
「そうね。少年も、おうちに送って、いかなきゃ、ね」

「なーんか懐かしくなってきたなぁ、せっかくだしかくれんぼでもするか? ここじゃ鬼じゃねぇ別の何かが出てきそうだけどな? なんつって」
 かくれんぼか。幼馴染達とよくやってたな。と懐かしくなった潤平は、今も近くにいるすっかり『大人びて』しまった彼等を思い出して笑ってみたりした。
「鬼サン、以外とも出会っちゃいそーな、時間帯」
「……出たら、ちょっとおもしろそうかも。って、思わなくもない」
「そー、ね。其の気持ち、解る、かも」
「ええ!?」
 悠と、そして社の側に戻ったロビンまでもがぽつりとそんな事を言い、ノアも楽し気に尻尾を揺らし、まさかのかくれんぼ再びという雰囲気にミュラは悲壮な声。
「そういえば、同じ名前の都市伝説があったね。内容は今回とは全然違うようだけど。まァ、どちらも結論から言えば、"居ない"ものを"居る"ことにしてしまうのは危ないってことさ。ヒヒヒ……」
 そう言う商人は、前髪で目が隠れてどこを見てるんだかわからないけど見ちゃいけなそうなものももしかしたら見てるかもしれない。
 怖がるミュラの後ろから……。
「わっ!!」
「みっ!?」
 縦に飛んで何かに隠れようとするミュラ。その驚きっぷりに潤平は笑ってしまう。楽しい事が大好きで、怖がる人は驚かせたくなる性分なのだ。悪気はない。その証拠に、怒るミュラに潤平は詫びていた。
「もうそういうのはノーセンキューです! おばけなんていないよ! おばけなんて迷信だよおお!」
 おばけなんてなーいさ! おばけなんてうーそさ! とミュラは歌いながら頑張って帰ろうとする。
「まぁ、そういうスリルが楽しいのは、わからんでもないけどなぁ。俺も昔やってたんかな……こういう遊び」
「お前の子供時代は? そん時から本の虫か?」
 レイグと友人であり、年上として様子が気になる九助が問いかけた。
「もうちょっとそうだったら助かるんだけど……」
 レイグの返答に不思議そうにしつつも、九助は優しい顔で少年のいる前の一行を見た。
「いつの時代も、子供は悪い遊びを覚えるもん、か。ま、悪さをしてやらかした時に、護ってやるのが大人の役目だ」
 自分の時は八重子が見つけてくれて安心した。だから今回も。そう思っていたのだ。
 隣に並ぶ九助と優しい笑みの八重子を見て、姉弟の仲の良さを知っている芙蓉は(「何か思い出があるのね」)と穏やかな気持ちで二人を見守るのだった。

作者:ひなせ弓狩 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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