●ヴィランズ・カフェにようこそ
決算が終わった。この一年の売上は、仕入を限りなく上回る大赤字。
何が悪かったのかしら、と店主は思う。
自分の店、カフェを開くための資金を貯めた。お店の調度品もコンセプトに合わせ用意し、このカフェにぴったりと思う場所を探して見つけた。
それは廃墟寸前の館。
手入れはしたけれど、店のコンセプトとしてはこのままでいいと判断してどうにもならない場所だけ手をいれた。
そして出来上がった――ヴィランズ・カフェ。
廃墟寸前の館、看板は朽ちた感じで表に出している。
が、店内はちゃんとした飲食ができる店だ。蜘蛛の巣もかかっているが飾り。布などをたらし、雰囲気づくりをしているくらい。
料理の味は悪くない、というよりおいしい。物語の悪役達をイメージした飲物や食事、デザートはこういう雰囲気が好きな人が見れば、とても楽しいものだ。
「何がいけなかったの……人が来ないと売上はないし……やっぱりこの、廃墟寸前の館かしら……」
はぁ、とため息をつく。お店の場所はもっと、人通りのあるところにすればよかったかもしれないと後悔が彼女の心を占める。
その瞬間、とすっと。
女の胸を貫く一本の鍵。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
その持ち主である第十の魔女・ゲリュオンはそう言って鍵を引き抜いた。
すると女の傍らにドリームイータ―が現れる。
真っ黒なとんがり帽子、それに黒いローブとマント。悪役と言うような、魔女の姿をしたものがそこに佇んでいた。
●予知
「自分の店持つのは夢だよね、俺もほんと、それはすごくわかる」
夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)はそう言って、その夢を叶えたのに、店が潰れて後悔している人がドリームイータ―に襲われ、その『後悔』を奪われてしまう事件が起きるのだと続けた。
「その『後悔』を奪ったドリームイータ―はすでに姿を消しているんだけど、奪われた『後悔』を元にして具現化したドリームイータ―が事件を起こそうとしているんだ」
けれど現れたドリームイータ―はそこにいる。そのドリームイータ―による被害が出る前に撃破しなければならないのだ。
それに、このドリームイータ―を倒す事ができれば、『後悔』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれるとイチは続ける。
「で、この敵は……ヴィランズ・カフェという悪役をモチーフとしたカフェの店長の後悔から生まれているんだよね」
戦いの場となるのは潰れた店で。廃墟の、どうにもならない問題の部分だけ修理して店としているらしい。
館の見た目はおどろおどろしい感じだが、店内は少し薄暗いが至って普通。
椅子やテーブルなどは黒基調のアンティーク調のもので揃えられシックな感じになっている。
そして出てくる食事や菓子なども、物語の悪役をモチーフにしたものだ。
例えば。
意地悪魔女のびっくりミルクという、ホワイトカフェの底にラズベリーなど酸味のあるものが沈んでいるものとか。
腹ペコ狼の六色サンドという、白パンと黒パンにはさまれた六種類のサンドイッチとか。
首切り女王のプリンアラモードという、とにもかくにもフルーツクリームたっぷりのプリンとか。
「そんな感じの軽食なんかがでてくるお店だったんだよねー」
というわけで、敵の攻撃も悪役っぽいものになるとイチは続けた。
けど、戦いの戦いの前に。
「店に乗り込んでいきなり戦闘を仕掛ける事もできるけど、客として店に入って心から楽しむとドリームイータ―は満足して、その戦闘力が落ちるみたいで」
それに満足させてから倒した場合、意識を取り戻した被害者も、後悔の気持ちが薄れて、前向きに頑張ろうという気持ちになれるみたいだとイチは続けた。
「ヴィランズ・カフェ……!」
と、ザザ・コドラ(鴇色・en0050)はそこ、わたし、ぜったい、すき、と言っている。
「はいはい、じゃあ行ってきて。そして後悔を奪われてしまった人の為にも、ドリームイータ―を倒して、助けてあげてね」
よろしくねとイチは言って、ケルベロス達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
グレイン・シュリーフェン(ウェアライダーの降魔拳士・e02868) |
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004) |
ジョゼ・エモニエ(月暈・e03878) |
ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208) |
大成・朝希(朝露の一滴・e06698) |
無銘・スイ(待つ王子のいないいばら姫・e09949) |
花唄・紡(宵巡・e15961) |
ゼルダ・ローゼマイン(陽凰・e23526) |
●扉を開ければそこは
看板はあるもののわかりにくく。そして見た目はどうあっても廃墟。
その様を見て大成・朝希(朝露の一滴・e06698)は苦笑い。
「魅力は解るなあ。悪役の美学、と言うんでしょうか」
「あたしも、こういうお店、ぜったいすき!」
どんな魔法がかかってるのかなと花唄・紡(宵巡・e15961)の瞳は輝いている。
「お店作るのってむつかしいんだね?」
確かにホラーハウスみたいだけど、とルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)は言う。
「でもとっても楽しそうな雰囲気でわくわくしちゃうなっ、いっぱい楽しんじゃうぞ!」
もちろんお仕事もちゃんと! とルリナは焦る。
その様子に朝希は笑って僕も全力を尽くしますと言う。
終わってしまったお伽話に区切りをつけて店主さんが前を向けるように、と柔らかな笑み浮かべて。
そんなヴィランズ・カフェの扉を開ければ、中はちゃんと店の体を為していた。
「いらっしゃいませ!」
扉を開けて迎えたのは魔女。しかしそれは後悔の感情より生まれたドリームイータ―。
「絵本に出てくる魔女さんみたい!」
ルリナはわぁと声あげると魔女はどこか嬉しげだ。
一歩入ると、ぎしりと軋む床の音
「お、入る所から雰囲気あるな」
良い感じだとグレイン・シュリーフェン(ウェアライダーの降魔拳士・e02868)の尻尾が揺れる。
傍らの香鹿は、今日は服装も海賊を意識して黒系。
「わたしたち、悪役エリートだよね」
魔女と狼。ふふりとどこか自慢げに笑って、香鹿はそういえばとグレインを見る。
「グレインは海賊? 狼なのに」
グレインはワンポイントで海賊風バンダナにドクロのワッペン。
海より、山賊とからかう声にグレインは大きな差があるだろうという。
「差?」
「こう、浪漫とかだな」
「浪漫、ね」
笑い零しながら香鹿は席についてメニュー開く。グレインも唸りながら一緒に。
「うぅん、どれにしよう」
メニュー、見てるだけでもわくわくする。また片っ端から頼むかとからかい調子のグレインに香鹿は視線向ける。
シェアをするにも限度がある事は前に学んだのだけれども。
「……欲張りなのはね、魔女のさが、なの」
嘯く香鹿はふと、グレインの視線の先に止まる。
腹ペコ狼の六色サンドに釘付け。頼むの? と香鹿の視線が問いかける。
「な、なんだよ。そりゃ悪役ってなってるとそりゃ引っ掛かる所あっても仕方ねえだろ」
メニュー一つでも、話は色々広がっていく。
妖しげな童話の世界に迷い込んだ気分、とジョゼ・エモニエ(月暈・e03878)は周囲見回す。
「調度品も素敵ね、先生。思い描いた通りの悪役の根城だわ」
一緒に訪れた隼は早速メニューを開き、ジョゼもこれにしようと決定。
「お料理は『人喰い魔女の鍋』と『悪魔伯爵の棺桶』を」
「おお……またチャレンジャーな品を。俺はこれにしよっかな。ゴーストラテと暗黒竜の卵!」
決まれば料理が来るのも楽しみな時間。
「……何だか妙に雰囲気に合ってません?」
ちら、とサイガを見て無銘・スイ(待つ王子のいないいばら姫・e09949)が言うと間をおいてソレ褒めてんの? と。
「褒めてますよ、良いじゃないですか男前で」
本来これを言うべきは私ではないんでしょうが、と続く言葉はぽつりと零れたのは聞こえてはいない。
「アンタは逆サイド感あんね、お城にいそーなアレ」
今日のスイは黒と白のボレロとコルセットドレス。今は横に置いた帽子もあるのだが、確かにこの姿だけだととも思うところ。
「お城……まあ、ヴィランっぽくはないですよね、見た目は」
そう言いながらスイは自分が頼むものを決めて。
「……サイガさん何にします?」
「そうなあ」
ぺらりとめくったメニュー。怪物感MAXな真緑に黒のグラタンと、飲物は真っ青に濁った生き血のような。
「折角ならエグいのをな」
魔女さん魔女さんとゼルダ・ローゼマイン(陽凰・e23526)は声かけて。
「あなたのおすすめの飲みモノ下さいな」
メニューの装丁も素敵な使用と古い魔法書のようなそれを撫でる。
「あるふれっどはびっくりミルクにする?」
そう尋ねると画面の顔がくるりと変わる。
どれも迷って仕方ないという迷う表情にゼーはほっほっほと笑い零した。
「一口こうかんこ、じゃの」
「おじさまは何にします?」
その声にそうじゃのとゼーは頷く。
「温かな飲み物でお任せしようかのぅ」
それに悪役のドラゴンをモチーフにした甘味を共に、と。
すとんと席に座りエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)も客として楽しむべくメニューを開かず、あえて魔女を手招き。
「ケルト神話の女王メイヴをモチーフにしたメニューはあるかしら」
あらゆる男を魅了し、支配した女王。
ただ一人、自分の物とならなかった大英雄クー・フーリンを屈服させようと、策略によって追い詰め、遂には殺させてしまう。
「神話という物語に咲いた悪女の華……でも、欲望に正直なだけの可愛い女だったのかもとわたくしは思いますの」
嫌われるばかりでなく、どこか愛される要素があってこその悪役だと思いますわと言うと、魔女は頷いている。
「メニューに無さげ。だ、大丈夫かしらかしら!」
ザザ・コドラ(鴇色・en0050)が言うと魔女は問題ないというような動き。
「人魚の声ってどんな飲み物なのかな?」
メニューみて紡が迷いつつ選んだ物は魔女尽くし。
「ねぇねぇこんなのもあるよ!」
迷うと零しながらメニューをぺらぺらめくってルリナも決めて注文。
絵本を読んでいるみたいなわくわく気分の朝希も注文終えて、魔女は厨房へと向かってゆく。
それから料理が運ばれてくるまではすぐだ。
●悪役の物語
テーブルに並ぶ、飲み物、料理に甘い物。
男一人でこういう店に入るのは気が引ける、と思っていたレオナルド。しかし話に聞いた首切り女王のプリンアラモードは気になって。
「おぉ……これが首切り女王のプリンアラモード……!」
フルーツもクリームもたっぷり。写真とっておかないと、とぱしゃりと一枚。
「プリンもクリームもおいしいのです」
同じくそのプリンをほにゃりと幸せそうなオーラ漂わせキリエも食べている。
そのお隣の席で隼は震えていた。
カップから顔出すラテアートのお化けのお惚け顔。
「ジョゼちゃん見てこれヤバい超可愛い!!」
「だ、駄目よ飲んじゃ――やっぱり早く飲んで! お化けが萎んじゃう!」
勿体ないと言いつつ隼はそのお化けと一緒に一口。短い逢瀬が名残惜しい。
ジョゼの頼んだ魔女の鍋はグリーンポタージュ。添えられた人型のクッキーを浸しながら食べるそれを見ると別の魔女の鍋も目につくがそちらはプリンの様子。
そしてチョココーティングされた大きな丸い卵を割って、ごくりと隼は息を呑む。
中はたっぷりのクリーム。
「こ、これは……生半可な甘党では倒せない」
「生半可じゃないアタシが助太刀してあげてもいいのよ」
真顔には真顔。その代り棺の形を模したガトーショコラもお裾分け。ナイフ入れると真赤な木苺ソースが溢れだす。
その傍らでジョゼのウィングキャット、レーヴの尾が揺れる。
何時の間に頼んだのか、果実の宝石積んだ海賊船タルトを前に。可愛い! とジョゼは思わず。
そしてふと。
「物語に登場する悪役は魅力的だけど自分がなりたいとは思わない、かな……悪役って大抵独りぼっちだもの」
「キミは純粋だなァ」
隼は笑って悪人と善人は表裏一体だからねぇと零す。
「悪役だから独りぼっちなのか、孤独に耐えかねて悪役になったのか」
そう言いながら卵を一口、ジョゼの口元に。
「例えばお姫様を攫う暗黒竜のお話」
キミの様な綺麗なお姫様を手に入れる為なら、俺も悪の道に堕ちちゃうかも」
なんてね、とおどけて見せる隼に瞳を屡叩かせあっそと軽くあしらう。
「……もし孤独なお姫様が自ら望んで竜に攫われたのだとしたら」
本当の悪役は誰だったのかしらね、とジョゼは言う。
悪役と言えば堕ちた魔女と下僕の竜。ゼーの前にはパフェなのだが、竜を模した角と尾と翼のようなクッキー。
おじさまのお菓子も気になるとゼルダは一口交換こ、しましょと笑む。
「子供達のハロウィンと違うヴィランならではね」
毒々しい重厚な雰囲気も大好きだからとゼルダは言う。
そして傍らであるふれっどがびっくりしている様子にくすりと笑み零れた。
「そんなにびっくりしたの?」
こくこくと頷くあるふれっどにそれじゃあ口直しとゼルダは真っ白なチョコレートケーキを一口お裾分け。
メニューに無かったものを任せてと魔女は受けた。
それに答えた皿にエルモアは感嘆零す。
「テーブルの上に物語が広がっていますわ。それにとっても美味しい。素晴らしいわ!」
逸話に沿った蜂蜜入りの赤いドリンク。メインには伝説中最大の戦争を引き起こした事からメインは牛ステーキ。けれどそのソースは三種類と他にも物語を彩るものが添えられている。そして彼女の最後は、投石器で発射されたチーズの塊が頭に当たって死んだという所から一口サイズのチーズケーキ。
「さっきのお話でこんなに作れちゃうの凄い……」
「ザザさんも少しいかが?」
「じゃあ私のもお裾分けするわね!」
「ボクもちょっと欲しいな!」
代わりにこれをわけるよとルリナが示したのはハートの女王のパイ。
ハート型にラズベリーが敷かれたパイにナイフを入れると。
「あ、チョコレートが層になってる!」
甘いもの好きだから嬉しいとルリナの笑みは深くなる。
それと一緒に真っ赤なリンゴジュース。それは継母の毒リンゴジュースと名前はちょっと恐ろしく。けれどリンゴジュースの中に林檎に型抜きされたゼリーが心躍る。
よく登場する悪役と言えば魔女や狼。
けれど同じ題材に纏わる料理でも物語によっては個性豊か。
「すごいなあ、凝ってますねえ」
鉤型ピックが刺さったフィッシュバーガー。黒いココア生地がほんのりビターな毒林檎のアップルパイが朝希の前に。
「んにゃっ! すっぱ!」
と、そこで一声。意地悪魔女のびっくりミルクを飲んだザザが甘ーいと油断していたところにすっぱさで驚きの声あげすぐカップから口放す。
それは朝希の前にもあって、大袈裟じゃないかなぁと一口。
甘さを感じなんてことはないと思って飲み進めていると。
「!?」
これは先に底のベリーを潰して混ぜて飲むべきだったと朝希がくるくるカップをかき回しているとザザも同じようにしており、目があってうんうんと頷きあう。
その様子にくすっと笑い零した紡。
「お口直しにクッキーいかが?」
悪い魔法も甘くなったら何でもおいしい。ちょっとくらいの悪戯も許しちゃってぺろりと食べちゃうよ! と紡は笑む。
「……あっ、それもおいしそう……一口ほしい……いや、えへへ」
と、紡の目が留まったのは四羽の白鳥という白鳥に見立てた四つのシュークリーム。
「紡さんにクッキーのお返し!」
ザザは白鳥一羽を紡の方へお引越し。
と、そこへ魔女がヘクセンハウスをひとつ。けれどそれは大きなシェア用といったところ。
この人数なら思い切ってと朝希が頼んだそれをぱちぱちと拍手でお迎え。
「どこから食べようか迷いますね」
と、ふんふんと鼻先が見える。ザザの膝の上によじ上ってきたボクスドラゴンがヘクセンハウスを見詰めているのだ。
朝希はその屋根をとって、上下へと動かすと目が折ってくる。あげてくださいと渡すと礼なのか一声。
そんな様子をちらりと目にし、ザザとは趣味があいそうで、そのうちゆっくり話す機会があればとスイは思いつつ、こっそり、楽しめているなら良いのだけれどとサイガの顔色伺う。
デザートはフランボワーズのティラミス。赤く塗られた白薔薇のような作り。それにあう紅茶と量少なめで選んだ三兄弟のブルスケッタ。三種類の味違いで飽きない感じだが二枚ずつは多かった。
サイガのグラタンはバジルソースとフツーに食える味をほぼ空に。
しかし視線は感じていて、それにやっぱり気になる頼む量が少ないこと。
「なに、ハラヘリ?」
それならと差し出したゼリー。
「!?」
すると転がる球体はぎょろっと目玉。スイは目があって一瞬固まる。
「また凄いの頼みましたね……」
案外上出来よな、とサイガは感心顔で匙でつつき。
「あ、いえ寧ろこっちお願いします」
そこでブルスケッタを押し付けられ、サイガはひとつ手に取る。
「スイがこーいうトコ好きたあね」
「ふふ、人ってね、自分にない魅力に惹かれるんですよ」
そんなモンか、と緩く瞬くサイガ。けれど食べているうちに確かにと思う。
「馴染む空間な気ぃしだして笑えたり?」
構やしねえさ、中身が何だってと言えば目の前でスイはティラミスの一口目。
グレインと香鹿の前にはお菓子の魔女のカルドロンに嘘吐きうさぎの飛び石ショコラ。
魔女の使う大釜には怪しい薬ではなくプリンが満ち色々デコレーション。もう一皿はケーキとショコラのミニプレートだが物語が描かれているようだ。
そして強欲海賊の欲張りプレートはその名の通り。
溢れる財宝に見立てたとろり零れるオムレツを中心に色々なものが一口分ずつ。
「こりゃあ名に違わぬ……お、こんなの仕掛けてあるのか」
口に入れた丸いポテトからはチーズの驚きのお届けだ。
「ね。そっちのもう一口」
たのしくておいしいって、すごい。すごいのだがこの店はもうないのだと思うと残念でもある。
●後悔の終わり
お店を楽しんで、このまま帰る――という選択肢はない。
魔女も席を立つ様子を見て帰さないと臨戦態勢となる。
しかし――客の満足げな様子に魔女の戦闘力は落ちている。
「同じ魔女同士魔法勝負……と行きたいとこだけど使える魔法はひとつ」
あたしってば格闘派魔女だからね、と懐に滑り込む。流星の煌めきと重力をもって蹴り上げその機動力奪う。
「悪ーい魔女の魔法をさっさと解いて、このお店を正しい持ち主に返してあげなくっちゃ!」
紡の攻撃にのけぞる敵の身。続けて、敵の傍にエルモアが踏み込んだ。
「鏡よ鏡……世界で二番目に美しいのはだあれ?」
一番はわたくしですから聞く間でもありません、とそっと触れるだけの攻撃。けれど魔女の身の内崩すにはそれで十分。
だが敵のその手には毒林檎。
至近距離でそれはエルモアに向けられた。
「毒りんご投げ……チーズではなく林檎だったとする説もあったはず……」
どちらにせよ、不本意にもギャグキャラ扱いされるわたくしですが、とエルモアは言って。
「さすがにそんな死に方はしたくありませんわね……もちろん倒れるつもりもありませんのよ」
料理も雰囲気も存分に味わい尽くして、お互いに満足。
「御礼にしっかりやっつけてしまいましょう!」
だからこそと朝希は仲間達へ黄金の果実の恩恵を。
「おいしくって楽しいご飯をありがとね。でもボク達ケルベロスだから……ごめんね!」
戦闘が長引けば危なそう。だから一気に、とルリナは思いつつ召喚するのは巨大すぎる羊神。
もふっとした身体での突撃で敵は吹っ飛ばされる。
「さあて、ある意味メインといくか」
グレインの手から離れたのは手裏剣。螺旋の軌跡を描きその力帯びたそれは魔女の武装を穿つもの。
「――通して、頂きます」
スイが示した先へ向かい、鈴蘭の花弁が舞う。麻痺毒に特化したそれが苦痛と共に動きを鈍らせてゆく。
スイの動きに合わせて揺れる犬尻尾のようなアクセサリー。それと合わせた白黒の垂れた犬耳ついた帽子も一緒に揺れる。
ケルベロスチェイン伸ばしゼルダは前列の皆へ守りの恩恵を。
「夢を叶えたからこその後悔――今は難しいかもだけれど」
悔いを糧にまた夢が孵りますように、と願う。
だから彼女の後悔は私達が全部壊していくわ、と。
あるふれっどはゼルダの気持ちをくみ取って、その想い助けられるよう攻撃を。
援護は十分とジョゼは判断し、その手の杖をファミリアに変え、魔力を籠めて送り出す。
続けてレーヴも攻撃を。
ザザも続けて攻撃を駆けてゆく。
続く攻撃に魔女の力は削られてゆく。魔女からの攻撃もあるが手数は上。ゼルダが皆を癒しつつ、形勢が決まるのは早かった。
「このままお店が続いてたらまた遊びにきたいな」
そのためにも沢山美味しく味わって、今戦っているのだと紡は零す。
紡がハンマーもって踏み込む。振り下ろす鎚は進化可能性を奪う超重の一打。
「魔法は解けてしまっても――きっとまた、夢は見られますよ」
その声が成す不可視の牢獄。その魂の奔放を、異端を、革新を。
咎め囚える心の檻が魔女を捕えて終わりに導いた。
魔女は果てしばらくすると、糧となっていた女性も気が付く。
事情を話せば驚きはあるもののありがとうと彼女は笑んでいた。
「今度はあんたの手で楽しくて美味しい料理食わせてくれよ」
グレインの言葉にそうね、と彼女は笑む。
「すっごく楽しいお店だったよ!」」
ルリナもにこっと笑顔向けて一言。
「悪役の魅力が沢山詰まった愉しい夢だったわ」
そこへジョゼは声かけ、少し間おいてぶっきらぼうにありがと、と礼を。
女性は今度店を開くならもっと訪れやすい場所で。けれど店に入れば悪役の別世界にご招待できる店を作りたいわと笑み零した。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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