フクロウ・クラフトの妙

作者:柊透胡

「あなた達に使命を与えます。この町に、『フクロウ』をテーマに小物を作る職人が居るようです。その人間と接触し、その仕事内容を確認・可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「承知致しました、ミス・バタフライ」
「一見、意味の無いこの任務も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのですね」
「理解が早い子は好きよ」
 跪いて応じる道化師風の少女と猛獣使いを思わせる鞭を携えた少年を見下ろし、螺旋の仮面を着けたマジシャン風の女――ミス・バタフライの声音に笑みが混じる。
「ランとレン、必ずやご期待に沿って見せましょう」
 やはり螺旋の仮面を被る2人は、夜闇に溶け入るように姿を消す。
 ミス・バタフライも又――無人となったビルの屋上に、一陣の秋風が吹き過ぎた。

「フクロウは好きですか?」
 屈託ない仕草で、集まったケルベロス達を見回す笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダーen0003)。
「この頃、ミス・バタフライという螺旋忍軍が、活発に動いてますよね。今回は、『フクロウ』の小物を作る職人さんをターゲットにしたみたいです!」
 ミス・バタフライの命を受けた螺旋忍軍は、珍しい職業の一般人の所に現れて、その仕事の情報を得たり、或いは、習得した後に殺そうとする。
「この事件を阻止しないと、まるで、風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロスのみんなが不利になってしまう可能性が高いんです!」
 ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大事では無い。しかし、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという、ある意味、厄介な事案となる。
 勿論、デウスエクスに殺される一般人を見逃す事は出来ないだろう。
「ケルベロスのみんなには、フクロウ小物の職人さんの保護と、ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破をお願いします!」
 フクロウ小物の職人の名前は、福嶋・逢理(ふくしま・おうり)。岐阜県の飛騨高山に、ハンドメイド工房『福来朗』を構えている。木工、レザークラフト、手芸などを駆使して、様々なフクロウの小物を創り上げているようだ。
「基本は、ターゲットの逢理さんを警護して、現れた螺旋忍軍と戦う事になりますけど……事前に避難させてしまうと、敵も標的を変えてしまうので、結局、被害を防げなくなっちゃいます」
 幸い、ケルベロスも、事件の3日くらい前からターゲットの一般人に接触する事が出来る。事情を話すなどして仕事を教えて貰えば、螺旋忍軍の狙いをケルベロス達に変えさせる事ができるかもしれない。
「囮になるには、見習い程度の力量は必要です。かなり頑張って修行しなくちゃいけないかもです」
 尤も『見習い程度』の腕前ではあるから、全てを完璧に習得する必要は無い。木工、レザークラフト、手芸から1つ選んだ上で、如何にフクロウの特徴を捉えて魅力ある小物を作ろうとするかが重要だろう。
「囮になる事に成功したら、訪ねて来た螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が出来ます!」
 配下の螺旋忍軍2体を分断したり、一方的な先制攻撃などが可能となる訳だ。
「デウスエクスも、ケルベロスと同じく『眼力』を持ってますけど……一芸に秀でた一般人も似たようなものだと思って、特に怪しまずに接触してくるみたいです」
 螺旋忍軍は、10代半ばくらいの少女と少年の姿をしている。
「女の子は身軽そうな道化師タイプで、ナイフを使います。男の子は猛獣使いぽいですね。鞭が武器です」
 武器のグラビティの他に、道化師の少女は軽業めいた体術が得意であり、猛獣使いの少年は半透明の幻影獣を操るようだ。
「工房自体はそんなに広くないですけど、表に車が数台停められる駐車場がありますし、裏庭もあります。外の方が戦い易いと思います!」
 謂わば「風が吹けば桶屋が儲かる」という現象は「バタフライエフェクト」と呼ばれるとか。
「どんな理屈かは判らないですけど、バタフライエフェクト使いこなすなんて、厄介な敵ですよね!」
 だが、物事には何らかの『発端』がある。最初の蝶の羽ばたきさえ止めれば、問題は無い筈。
「だから、ねむは難しく考えなくてもいいと思います! いつもと同じように、デウスエクスをやっつけて、狙われた人を助けてあげてくださいね!」


参加者
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
牡丹屋・潤(カシミール・e04743)
ロイ・メイ(荒城の月・e06031)
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)
ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)
巫・結弦(射貫きの弓手・e31686)

■リプレイ

●『福来朗』にようこそ
 岐阜県は飛騨高山の郊外、緑長閑な一角に、ログハウス風のハンドメイド工房『福来朗』はある。
 ――その日の午前早く、ケルベロス8名(+テレビウム)という大所帯の訪れに、工房主の福嶋・逢理は目を瞠った。
「どんな御用でしょう?」
 人当たり良さそうな青年だが、突然の訪問に流石に怪訝そうか。
「実は……」
「わぁ、かわいい!」
 ロイ・メイ(荒城の月・e06031)より先に、歓声を上げるアイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)。思わず駆け寄ったカウンターに、ふわふわのフクロウのマスコットがずらりと並んでいる。
「わたくしもフクロウが大好きなのです」
「それはそれは」
 アイボリーの衒い無い言葉に、相好を崩す逢理。
「気に入った物がありましたらお声掛け下さい。特注も承りますので、お気軽に」
「あ、その……」
 どうやら、フクロウ小物を買いに来たと思われた模様。訂正しようとするロイだが、口下手を自覚するだけに咄嗟の言葉が続かない。代わって、巫・結弦(射貫きの弓手・e31686)が進み出る。
「福嶋逢理さん、あなたは螺旋忍軍に狙われています」
「え……」
 結弦曰く――3日後、螺旋忍軍2名が逢理の技術と命を狙ってくる事。
 逢理を守る為に、ケルベロスが来た事。
 ケルベロス自らが『囮』となる為に、フクロウ小物作りの修行をしたい事。
「修行、ですか……」
「私、フクロウさんの可愛さを生かした小物が作りたいな! イコちゃんも一緒に頑張ろうねっ」
 やる気一杯のルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)とテレビウムのイコは、元気よくエイエイオー!
「僕だってやる時はやりますよ」
 実はチャレンジャーの牡丹屋・潤(カシミール・e04743)も、拳を握り意欲をアピールする。
「フクロウさんがすきなきもちをギュッと詰められるように、ご指導いただけませんでしょーか」
 何処か陰鬱な風情の平坂・サヤ(こととい・e01301)だが、前髪から覗く碧眼は存外に親しみ易い。
「あなたのご安全を守る為にも、どうぞよろしくお願いいたします」
「私からも、宜しく願いたい」
 ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)も礼儀正しく頭を下げれば、逢理は却って恐縮した。
「事情は判りました。こちらこそお世話になります」
 そうして、アトリエに案内すると手招く逢理。
「僕は木工と革細工と手芸で小物を作りますが……3日間でしたら、何か1つ作ってみますか?」
(「カオス理論を狂信するデウスエクスか……」)
 仲間と逢理を殿から眺め、清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)は、内心で独りごちる。
(「バタフライエフェクトもある種の幻想科学や。後からなどんな理屈もつけられるってな」)
 吉凶そのものも結局、主観の問題だと光は思う。しかし、デウスエクスの犠牲を無くす為、ケルベロスは今日も奔走する。今はそれだけで十分だろう。

●フクロウ・クラフトの妙
 まずは1つ、フクロウ小物を作ってみる事になったケルベロス達。
「そう言えば皆さん、フクロウについては?」
 改めて問われると、漠然としたイメージしか湧かないものだ。
 小物作りにもモチーフの知識は必要。という訳で、フクロウ講座が開かれた。
「フクロウは、フクロウ目フクロウ科フクロウ属に分類される猛禽類です。温帯から亜寒帯にかけて世界中に広く分布しており、留鳥として定住性が強いですね」
 生物の時間の様相だが、逢理は何だか楽しそうだ。
「広義にフクロウ目の仲間もフクロウと呼ばれます。本種は10種の亜種に分類され、日本には4亜種が生息しています。北の亜種ほど体色が白っぽく、南の亜種ほど暗色です」
 フクロウの種類を1つ1つ、図鑑を指差す表情からして、フクロウへの愛情の深さが窺える。
「――では、こちらに写真集がありますので、製作の参考にして下さい」
 一通りの講義が終わった頃には、既にお昼を回っていた。簡単な昼食の後、いよいよ工作の時間だ。
 見本として、逢理は幾つかの作品を並べてくれた。何れも温かみある風情で、丁寧な拵えに確かな技術が見える。
「うちに任せとき、と言いたいけど……こういう細かい作業は苦手なんよ」
 苦戦を予想して、思わず頬を掻く光。だが、何事もやってみなくては始まらない。
 木工、レザークラフト、手芸に分かれて、製作に取り掛かるケルベロス達。
「福嶋先生、よろしくお願いします!」
 元気よく挨拶して、早速2種類の木材を手に取る潤。ルルもイコと並んで、木材をあれやこれや選び始める。結弦も木工の予定だが、まずはデザインを考えて、写真集に手を伸ばした。
「キーケースを作りたい。フクロウのシルエット型の……明るい茶色がいい」
 訥々と、浮かんだイメージを言葉にするロイ。呟きに合わせて、スケッチブックに鉛筆を走らせていく。
(「……そういえば、うちのフクロウは耳が大きかったな」)
 ジゼルはフクロウ型の小銭入れを作りたいようだ。
「顔のパーツは蓋にする。胴の袋部分に小銭を入れると、膨らむ様子を真似出来ると考えたのだが」
「面白いアイデアですね」
 デザイン画を見せて説明すると、逢理は感心の表情で褒めてくれた。
 レザークラフトに挑戦する2人に、逢理は牛革の脚部分を勧めた。適度な厚みがあり、強度も申し分ないとか。
「サヤはフクロウのお手玉を作りますねえ」
 どんな表情にしよう――ワクワクしながら、和柄の端切れを手繰るサヤ。その瞳は、好奇心でキラキラしている。
「救急箱もばっちり用意済みです。くじけ! ません!」
 アイヴォリーが挑戦するのはフクロウのぬいぐるみ。大切な人に想いを込めて贈りたいと、まずは型紙通りに羊毛フェルトを裁断していく。
 熱心でいて楽しげなケルベロス達の様子に、逢理も嬉しそうだった。

 修行2日目。朝から、黙々と勤しむケルベロス達。
「ヤスリって難……いたっ!」
 アイヴォリーが用意した救急箱は、専ら潤がお世話になっている。完成の頃には絆創膏だらけになっていそうだ。
 フクロウの置物が作りたい潤。ポイントは「木材を二色使ってお腹と背中の毛の違いを表す」工夫。だが、木材を綺麗に繋ぎ合わせる技術は、相当に難しい。ついでに、それなりに大きな作品となると、職人でも数週間は掛かるとか。
 このままでは、到底間に合わない。流石に見かねたのか、逢理が取り出したのはエンジュという木材。辺材は淡黄白色、心材はやや赤みを帯びた褐色と色調が全く違う。
「この辺材と心材の境界辺りを切り出して使ってみては? やや硬さはありますが、強靭で割れ難いですし」
 ルルは翼を広げたフクロウを平彫りしている。翼部分にフックを取り付け、お腹にはパールやキューブの付いたピンを挿して可愛らしく。
「壁掛けですか?」
「フックに軽めの花やキラキラした物をぶら下げたりして、インテリアとか用途は沢山あると思うの!」
 木目から割れてしまわないよう、気を付けて。
 結弦は、フクロウの写真から描き起こした下絵を丁寧に彫っていく。
(「福が来るように、と。祈りを込めて、ですね」)
 工作は学校の図工で習った程度。彫刻刀の扱いは最初こそ覚束なかったが、そこはケルベロス。刀剣の扱いも学んでいたので刃物への恐れはない。すぐに手に馴染んだようだ。
 レザークラフトに挑戦中のジゼルとロイは、前日、型紙をけがいて裁断したパーツのトコ処理から。革の裏側であるトコ面をトコ処理剤で磨き、毛羽立ちを抑えて艶を出す。
「トコ処理剤は、ギン面……革の表に付くとシミになる恐れがあるので、気を付けて下さい」
「わかった」
 丁寧な逢理の教示に、生真面目に頷くロイ。折角。時間を割いて教えて貰うのだから、きちんとやり遂げたい所。
(「まあ、この技術を習得して連中が何をするのか、不可解だがな。意図が読めない……」)
 続いてパーツ同士を張り合わせて、その切り口であるコバの処理。仕上げとして磨くと完成度がぐっと上がるとか。
「……」
 張り合わせる箇所をサンドスティックで荒らして、接着剤の付きを良くする等、細かなコツは幾つもある。
 地道な工程を、黙々とこなしていくジゼル。金属の装飾加工を副業としているせいか、手先は器用なようだ。
 手芸組もせっせと手を動かしている。ミシンもあるけれど、細かな縫い付けは手縫いの方が綺麗に仕上がる、ような気がする。
「随分と丁寧ですね」
「わたくし、手芸は嗜み程度で、素人で……けれど、フクロウは幸福を招く鳥なのだと知って、あげたいひとがいると、思ったのです」
「頑張りましょう」
 はにかむアイヴォリーに笑顔で頷き、逢理は縫い代の処理を手ほどきする。
(「皆、すごいです」)
 仲間の工作が気になるのか、せっせとお手玉作りを勤しむ傍ら、サヤは興味津々の面持ちで、彼らの手元を肩越しに覗いてみたり。
「お手玉、沢山だね。まるっこくて可愛い♪」
「この巾着、フクロウなのか……面白いな」
「ルルの壁掛けも素敵です。ロイのキーケースは……ウサギフクロウ? あの子の事、大好きなのですね」
「別に……あいつはそんなのじゃない」
 特に顔見知り2人と、休憩時間に見せ合っている。
「皆、偉い熱心さんやね。けど、根詰め過ぎたらあかんよ」
 シンプル小物を早々に完成させた光は、雑用係を買って出ている。殆ど手付かずで冷めたお茶を淹れ直し、いっそのんびりと声を掛けた。

●フクロウ小物と徹底的先制攻撃!
 3日目――作業も佳境に入る。
 必死に彫り続ける潤。フクロウの頭部に紐を付け、バランスに腐心するルル。結弦は小物にニスを重ねていく。
 レザークラフトは縫製へ。ワックスを付けた縫い糸の両端に針を通し、2本使いで縫い合わせる。
「革は年数経て良い色に変わっていくと聞いた。きちんと使える様、しっかり縫わねば」
「なるほど。使い込む事で革が馴染み、フクロウの色合いに近付くのだな」
 頷き合い、ジゼルとロイは一心不乱に針を動かす。
 針仕事は手芸も同様。巾着のパッチワークが予想外に遅れて焦るサヤだが、多少縫い目が歪んでも愛があれば味になる、筈。
「うーん……」
 ――いよいよ、襲撃当日。アイヴォリーは大きく伸びをする。
「頑張り、ました!」
 一針、一針丁寧に。納得行くまでやり直し、インソムニアも使って徹夜した成果は、少女を鋭く見上げている。
「何や、1番乗りはアイヴォリーさんか」
「実は、泊り込みです、けど」
 早々に顔を出した光は、既に戦闘態勢。少し悔しそうな彼女に、少女はエヘンと胸を張った。

 ――果たして、昼過ぎに訪れた面妖なる2人組を、ケルベロス達は何食わぬ顔で裏庭に案内する。
「折角秋の良い陽気なのですよ。青空教室なんてすてきですよねえ」
 しれっと裏庭の円卓を指差すサヤ。卓上にはケルベロス達の努力の結晶が並ぶ。
 サヤのフクロウお手玉は表情も多彩。5つを抱くパッチワークフクロウ巾着もかわゆい。
「ああ、緑に囲まれたハンドメイド教室も、乙なものだ」
 何処か得意げに、フクロウ小銭入れを披露するジゼル。
「わたくし、フクロウ作りの楽しさを知ったばかりです。この気持ちを、新しい方にも伝えたくて――」
 フクロウぬいぐるみを抱っこするアイヴォリーは、「拳で」という内心をおくびにも出さない。
「どれも立派なお手前で」
 何処か上滑りな2人組の感想に、ミニフクロウの金具に紐を通したストラップを見せながら、(彼女なりに)愛想よく応じる結弦。
「こういう工作、趣味から始めるのもいいですね」
「じゃあ、材料を取りに行きましょう! こっちです」
 木の色合いを生かしたミニフクロウの置物を置き直し、手招く潤に2人組が応じた次の瞬間。
「イコちゃん!」
 ルルがペトリフィケーション、ならぬアイスエイジが道化少女、ランを貫く。すかさずイコの凶器攻撃が炸裂した。
「なっ!」
 ランの足をサヤのエアシューズが刈る。怯む彼女に、アイヴォリーの月光斬とジゼルのコアブラスターが追撃する。
「ラン!」
「簡単にはいかさへんよ」
 思わず悲鳴を上げる彼女に寄ろうとしたレンの動きを牽制する光の轟竜砲越しに、工房内の逢理を守るべく、キープアウトテープを巡らせたロイも駆け付ける。
「油断大敵です!」
 戦力揃った前衛にライトニングウォールを構築する潤。全身から光輝くオウガ粒子を放ち、結弦も急ぎ援護する。
「まさか、ケルベロス!」
「ご名答。もう遅いが」
 忌々しげな声にジゼルは冷ややかに言い放つ。直後、速撃ちの銃声が轟き、くの字に身を折ったランに更なる攻撃が殺到する。やはりルルがデスサイズシュート、の代わりにシャイニングレイを浴びせれば、アイヴォリーの戦術超鋼拳が守りを砕く。
「遊ぼうか」
 ロイがパチリと指を鳴らした瞬間、爆ぜた地獄の杭は火柱となる。
「おのれっ!」
 満身創痍の道化少女の斬撃は、ジゼルの血潮を啜る。続いて猛獣使いの少年が鞭を鳴らせば、重圧が前衛4人+1体に圧し掛かった。
「お……お邪魔します!」
 己の生命エネルギーを結晶化し、前衛周辺に漂わせる潤。これで、敵からの武威は通り難くなるだろう。結弦もブレイブマインで、厄を掃う。
「散り乱れ、緋色の花を咲かせ!」
 怒涛の先制攻撃を浴びせれば、こんなにも脆い。光の緋色芙蓉の斬がランに引導を渡し、骸は忽ち失せた。
「な……畜生!」
 怒りの声も構わず、続く刃はレンへ奔る。アイヴォリーのズタズタラッシュに裂かれ、サヤの縛霊撃に捕われ、ロイのブレイズクラッシュに灼かれ、少年は身を捩らせる。
 幻獣の咆哮が轟くも、潤のメタリックバーストが植付けられた厄を霧散する。ルルのオラトリヴェールが優しげに輝いた。
 もう回復は不要だろう。結弦のトラウマボールが炸裂し、高らかな詠唱が響き渡る。
「開け――"The Silver Key"」
 ジゼルが召喚した光り輝く鍵に宿る『いたずら妖精』が、変則の軌跡を描いて魔力を放つ。
「死ぬ前に白状しとき」
 次の企みを問う光だが、レンは一言も返さず崩れ落ちた。

 斯くて、然したる反撃も許さず、螺旋忍軍を撃破するケルベロス達。勿論、逢理も無事だ。
「お疲れ様!」
 些か荒れた裏庭を、イコとヒールして回るルル。光もヒールドローンで直す。
「ええ、お土産になるんよ」
 小物を手に呟く光に頷き、結弦も大事にストラップを仕舞う。
「フクロウは縁起物でもあります故、きっと福がくるのですよ」
(「あのこの幸せを、きっと見つけてくれますように」)
 サヤがほんわり笑めば、ぬいぐるみを抱くアイヴォリーは静かに祈る。
 早くキーケースを使いたくてそわそわするロイは、ふと小首を傾げた。
「蝶の羽ばたきが何を起こすのやら……にしても、潤もフクロウを飼っていたんだな」
「え? え……あいたっ!」
 オリジナルグラビティを使って貧血の潤の頭に、日本に生息しない筈のスズメフクロウが降りたのは、又別の話。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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