月のうさぎ

作者:天枷由良


「お月さまはまんまるだけど……ほんとにいるのかなぁ」
 まだ現実に染まりきっていない声で呟き、夜更けの小山を行くのは、1人の少女。
「それに……うさぎさん、なんでお餅ついてるんだろう? これで見たら、わかるかなぁ」
 片手に双眼鏡をぶら下げて、もう一方の手には懐中電灯。
 ただ『興味』の赴くまま、目指すは山の頂。
「……お母さんもお父さんも怒るかなぁ?」
 どう考えても、子供の出歩く時間ではない。
 けれども止まらぬ小さな足。そして忍び寄る、影。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 闇の中から現れたのは、第五の魔女・アウゲイアス。
 アウゲイアスは少女の胸に鍵を突き刺し、月のうさぎへ抱かれた『興味』を奪い取る。
 ぱたりと、軽い音を立てて少女は倒れ。
 その傍らに形を成していく『興味』は、大きな杵を担いだ、うさぎの姿をしていた。


 ヘリポートに集ったケルベロスたちの前で、ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)が夜空を見上げている。
 釣られて見ると、漆黒の中に浮かぶのは白銀の正円。
「私はあまり見られないから、代わりに味わっておいてね」
 ぽつりと零して、ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は依頼の説明を始めた。
「月うさぎの伝説に興味を惹かれて、それを確かめようとしていた女の子が、アウゲイアスというドリームイーターに襲われてしまうわ」
 アウゲイアスは既に姿を消しているようだが、奪われた『興味』を元に怪物型ドリームイーターが現実化してしまった。
「このドリームイーターを倒してくれるかしら。『興味』を奪われた女の子は意識を失って倒れているけれど、ドリームイーターを倒せば、目を覚ましてくれるはずよ」
 向かう先は、ある住宅街と隣接する小さな山。
「山、というより丘って呼んだ方がいいのかしら。とにかく、ちょっと小高い、くらいの場所ね」
 その中頃で少女は襲われ、茂みの陰に追いやられている。
「怪物型ドリームイーターは、女の子のことなんか放って山をうろちょろしてるみたい。たぶん、登り始めて間もなく出会うと思うわ」
 敵の姿は、かなり大きめのうさぎだ。
「6、70センチくらいかしら。立ち上がった2足歩行の状態で、これまた大きな杵を担いでいるわよ」
 その杵による打撃と、強靭な後肢による蹴り、そして噛み付きが、うさぎドリームイーターの攻撃方法らしい。
「皆と遭遇すれば、まずは自分が何者か問うように首を傾げるわ」
 見たままを好意的に答えてあげれば、敵は何もしないで去っていくかもしれない。
「けれど目的は、うさぎドリームイーターの撃破。必ずしも答える必要はないし、答えが正しい必要もないわね」
 もう一つ、存在を信じていたり噂している者が居れば、そちらに引き寄せられるという性質もある。此方は使い方次第で、戦いの役にも立つだろう。
「それじゃあ、うさぎドリームイーターの撃破、よろしく頼むわね」


参加者
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)
梅林寺・マロン(インフィニティポッシビリティ・e01890)
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)
氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)

■リプレイ


 人の住処が放つ光から、幾ばくか離れたところ。
 緩やかな勾配の道を、ランプやカンテラ、そして押し迫るハロウィンにぴったりな南瓜型ランタンの灯りが照らしていた。
 もちろん、その持ち主は魔女でもお化けでもなく。
 ドリームイーター退治に向かう、ケルベロスたち。
「ね、いちまる。ほら、お月さますごいよ」
 一行の中で一番幼いプルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)が、大きなフォークを担ぐテレビウムのいちまるに見上げるよう促す。
 夜空には真ん丸の綺麗な月が浮かんでいて、その輝きはケルベロスたちの持つ灯り程度では揺らぐこともない。
「今夜は満月だったんだね」
 獣の耳を小刻みに動かし、少し落ち着かない様子の梅林寺・マロン(インフィニティポッシビリティ・e01890)が仲間たちを見回した。
 若いものばかりで構成された一団だからだろうか。ケルベロスの足取りは怪物退治というより、夜半の散歩といった雰囲気。
 けれども決して浮かれているわけではなく、また彼らの行軍には、多少なりとも楽しげになれる要素があった。
 それは敵を誘き出すために必要な、あの空に揺蕩う真円と関わり深い生き物についての噂話。
「月のうさぎかぁ……小さい頃はよく話したっけ」
 暗闇に目をやりつつ、ごく自然な動作で頭の上に置いた手をぴょこぴょこと動かしながら凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)が言った。
「わたしも絵本で読んだことあるよ。でも、それと戦うことになるなんて夢にも思わなかったよ」
 困ったように笑って、ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)が返す。
 そう、彼らがこれから矛を交えるのは、あちらこちらに伝承として語られる月うさぎ――を、模るドリームイーターだ。
「日本では月にウサギがいる、なんて話があるんだね」
「国によっては兎じゃ無かったりするらしいんだぜ」
 知ったばかりの言い伝えに興味を示すマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)へ、タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)が答える。
 この星の何処から見ても月は同じ面を向けているはずだが、地域によってカニやライオン、或いは何かを運ぶ人の姿だったりと捉え方は様々。
 しかしやっぱり、うさぎが一番可愛らしくて、ロマン溢れる見方ではないだろうか。
 何故ならば。
「――だって、わたしもうさぎさんと一緒にお餅つきしてみたいもん!」
 はしゃぐプルトーネの言う通り、月に居るうさぎは餅つきをしているというのだ。
「最初に言い出したのは、一体どんな方なのでしょうね」
 微笑みを湛えつつ、氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)が素朴な疑問を零す。
 由来についてはルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)が多少通じていたが、辿ることが出来るのはせいぜい異国の説話までだ。
「オモチついてるウサギかぁ。ほんとにいるなら会ってみたいなぁ」
「うさぎがついたお餅なら、私もちょっと食べてみたいかもしれません」
「……なんのために作るのかな? どんな味がするのかな?」
 マヒナに沙夜、ルチアナが口々に言っては月を見上げたので、他の仲間達も僅かに足を止めて彼女たちに従う。
 中秋の名月でも十日夜の月でもないが、やはり今宵も満月は美しい。
 見とれる一行。その中でタクティが、ふと何かを思い起こすように呟いた。
「……そういや、月のクレーターは兎の餅つき後って聞いたことがあって、強すぎじゃね? って戦慄したことあったなぁ……だぜ」
 ロマンが、さらさらと砂のように崩れる。


 それから間もなく。
 月とうさぎについての噂話を続けながら進む一行は、草木が大きな音を立てて揺れたのを感じ取る。
 未だ見つからぬ被害者の少女……であるはずがない。少女は意識を失っていて、何処かの茂みに追いやられていると聞いた。
 ならば野良の動物か、或いは。
 身構えるケルベロスたち。その目に、ぴょんと伸びる白く長い何かが映った。
「……月が、綺麗だね」
 マロンが声を掛けると、のそのそと這い出てきたそれは人語を解せないかのように首を傾げる。
「もっとこう……何ていうか、小さくて餅つきしてるとこ見てほっこり出来るサイズだったら良かったのになぁだぜ」
 思わずタクティがぼやいてしまうほどに、それ――うさぎ型ドリームイーターは、ずんぐりとした体躯だった。
 予知の通り二足で歩き、背筋を伸ばせば70センチほどだろう。
 ずるずると引きずっているこれまた大きな杵と、血で満たしたような真紅の眼が、伝承の神秘さでなく何処か恐ろしい雰囲気を漂わせている。
「真ん丸で大きな月を見ると、心がウキウキワクワクしてこないかな?」
 マロンが言葉を継ぐが、うさぎから答えはない。
「……? キミは、月のウサギだよね?」
 ならばと仕切り直したところで、ぴこりとうさぎの耳が動いた。
「こんばんは、月のウサギさん」
 確かめるようにマヒナが繰り返せば、より激しく耳が揺れる。
 正解正解大正解。私は月のウサギです。えっへん。
 胸を張って、そうとでも言わんばかりの態度は、しかしすぐさま悠李によって止められた。
「んー、僕には――」
 言いながら抜き放った、白黒対成す輝きを湛える二振りの刀が大気を裂く。
 途端に木々の合間から冷ややかな風が流れ、中性的な容姿の少年は赤い瞳をギラつかせて続けた。
「空想を最低の形でブッ壊す悪夢が、うさぎの皮を被って歩いてる様にしか見えないけどねぇ……あはっ♪」
 ゾッと、寒気を感じたのは仲間たちだけでなかっただろうか。
 相対するドリームイーターは毛を逆立たせ、それが落ち着いていくのに従って、じわじわと敵意を染み出させてくる。
「……お前は、伝説にあるうさぎとは違う」
 2本のエクスカリバールを手に、ルトが進み出た。
「ドリームイーターが生み出した、ただの悪夢だ」
「そして猟犬が、ケルベロスが満月の夜にそれを狩るのよ!」
 同じように抱えた2本の雷杖を差し向けて、ルチアナが言い放つ。
 気付けばうさぎも大杵の柄を握り直し、今にもケルベロスたちを叩き伏せんと構えていた。
「紛い物はオレたちケルベロスが消し去ってやる! さあ、かかってこい!」
 ルトの口振りに煽り立てられ、うさぎは後肢で力強く地を蹴って飛ぶ。
「さーて始めようか、楽しませてよねぇ……♪」
 満月を背に黒い影となった敵を見上げ、悠李がぺろりと唇を舐めた。


 身の丈よりも大きい杵が、風を巻きつけるようにしなって迫る。
 その威圧感に動じることもなく、飛び退いて避けるタイミングを計っていた悠李の視界に緑の髪が割り込んだ。
「杵持ってんのなら人じゃなくて餅でもついてろだぜ!」
 声を荒げながらマインドシールドを生み出した直後、杵はタクティの腕を叩いて、鈍い音を鳴らす。
 衝撃は一瞬、しかし苛烈。タクティの足下が沈下して、僅かに埋まった。
 だが、生み出した盾と備えた防具が、うさぎの攻撃から大きく力を削いだらしい。
 見た目ほどのダメージはなく、タクティは打撃の反動を使ってくるりと宙を舞ったうさぎを追うように、地面から足を引き抜きつつサーヴァントのミミックへ指示を出した。
 宝箱型の疑似生命体は、肉を食い千切らんと牙を露わにしながら突撃していく。
 着地したうさぎは杵を支点に身体を浮き上がらせることでそれをいなしたが、再び大地へ降り立つ前に迸る雷を受けて、無様にも顔から、どしゃりと落ちてきた。
「いちまる、行って!」
 まだ小さく雷が弾ける杖でプルトーネが示した方に向かって、今度はテレビウムが跳ねる。
 掲げたフォークは月の光を返して煌めき、敵を打ちのめす凶器としてうさぎを捉えた。
 ぶすりと、肉に突き刺さった光景は些かスプラッターなものだったが、見た目にそぐわぬ残虐ファイトでトラウマを植え付けられたのはうさぎの方。悶えて逃れるなり、何かを払うように頭を振り始める。
 その一瞬で、高ぶりを抑えきれない少年がぐっと詰め寄った。
「――あはっ♪」
 下から上へ、逆風で放たれた斬撃は緩やかな弧を描き、地上に三日月の軌跡を残す。
 本物のうさぎなら、もうバッサリと切り開かれて鍋の具にでもなっていただろうが、相手は獣の皮を着たデウスエクス。
 血が吹き出すわけでもなく、少し淀んだ瞳を恨みがましげに悠李へと向けようとする。
 しかし、うさぎより軽やかに山道を飛び回る少年の姿は既に無く、代わって現れたのは黒き鎖と半透明の御業。
 熊のような獣人姿に変貌したマロンが操るケルベロスチェインでぐるぐると締め上げたところに、マヒナの御業が重なって、鎖ごと敵を捻り潰さんばかりに鷲掴んだ。
「……アナタが寝ないと女の子が起きられないから。ごめんね」
 見た目は可愛らしいものを痛めつけることに、若干の後ろめたさを感じてマヒナは言うが、御業を緩めはしない。
 得物の杵すら動かせず、されるがままのうさぎ。
 そこへ伝承を模った不埒な敵を罰するように、二つの光が閃いた。
「今日の夜空は、あなたのための舞台よ」
 囁くルチアナの元から飛び立った一つ目の光は、稲妻で形作られた翼竜。
 姿と違わぬ雷鳴の如き声を上げて、瞬く間に敵を貫いた竜はそのまま空へと飛び上がり、月に溶けていく。
 その名残を導き手に、彼方からルトが喚び出した二つ目の光は、まさしく神の如き雷霆。
「貫き穿つ! お前の体も、その魂も!」
 腰に携えたジャンビーアを鍵のように捻り、開いた扉の向こうから来る閃光が敵を言葉の通りに貫き、穿つ。
 弾き飛ばされたうさぎは重たそうな身体を何度か山道に打ち付け、ゴム毬みたく跳ねて転がり、ぱったりと動かなくなった。
 追い打ちとばかりに、癒し手を担う沙夜までもが時空凍結弾を撃ち込む。
 びくんと震えたうさぎは両手足を伸ばして固まり、また空気が抜けたように、ふにゃふにゃと力なく伏せる。
「あれ? もう終わりなの?」
 肩透かしを食わされたと感じ、悠李が酷くつまらなさそうに言った。
 それなら少女を探して、あとは帰るだけ。
 ……と、ケルベロスたちが思うか思わないかのところで、うさぎはふらりと起き上がり、おもむろに杵を振り上げた。
 そして地面を一叩き、二叩き。
 ぼこすこにやられた憂さを晴らしているつもりなのか、うさぎの周りはあっという間に、穴だらけ。
「……やっぱり、月の凸凹はうさぎが作ったに違いないんだぜ」
 息を漏らし、拳を構え直すタクティへ向かって、うさぎは再び跳ねた。


 数分の時が経ち、うさぎは未だ大立ち回りを演じている。
「――すぐに治しますから、ちょっと動かないでくださいね」
 うさぎの杵に吹っ飛ばされ、木に叩きつけられたタクティの元へ駆け寄って、沙夜が緊急手術を始めた。
 小盾のついた右腕が何だか変な方向に曲がっている気もしたが、魔術で切開してショックを与えればだいたい元通りだ。
「助かったんだぜ……」
 ふぅと一息ついて、立ち上がったタクティが戦線へ復帰すると、そこにはこの山に随分と場違いな、ヤシの木が出来上がっていた。
「そろそろ月に帰る時間だよ、ウサギさん……!」
 幻のヤシを生み出したマヒナが言うと、木の上から幾つもの固そうな実が落ちてくる。
 が、ぷっつんとキレたうさぎは杵を手に大車輪の如く回って、降り注ぐものを全て打ち返した。
 かと思えばぴたりと止まって、凶器を手に近づいてきたいちまるに組み付き、液晶テレビの顔を砕いてしまうのではないかというほど齧り倒す。
「いちまるになにするぴょん! ……あ」
 ついうっかり口走った言葉にはにかんだのもつかの間、飛び跳ねたプルトーネが足に重力を宿してうさぎを蹴りつけ、相棒から敵を引き剥がした。
 何とか間に合ったらしい。いちまるはあちこち砕けてふらふらだが、タクティにマインドシールドを張り付けてもらい、まだまだ頑張ってくれるようだ。
「……なかなかやりますね」
 他人のサーヴァントとはいえ、傷だらけの姿は見るに忍びない。
 より強力な攻撃でうさぎを追い詰めるべく、マロンは満月に似た光球を生み出して見つめ、自身にぶつけた。
 高まる凶暴性が滲み出て、赤い闘気のように立ち昇る。
 その様子に煽られたのか、うさぎは鋭い歯を剥き出しにする恐ろしい形相で、ケルベロスたちへ向けて低く唸った。
 次はどいつを、餅の代わりにぺったんぺったんしてやろうか。
 ぐるりと見回したうさぎは、同じ色をした目と視線を交錯させ、それを獲物と定めて飛び跳ねる。
 そのままずどんと、杵を叩きつけて……しかし、潰されて下敷きになっているはずの少年は、何故か宙より降りてきて、地にめり込む杵の上に立っていた。
「アハッ、遅いんだってばァ!」
 嘲り、笑い、叫ぶ悠李が刀に空の霊力を込めて振るうと、白い毛が肉片混じりに飛んだ。
 構わず杵を振り回すうさぎ。
 しかし、満月から見えないロープでも手繰り寄せているかのように、ふわりふわりと舞う悠李にはかすりもせず。
 そのまま闇雲に攻撃を続けたうさぎは、不意に杵を取り落とした。
 斬撃や鎖、御業などで積み重ねられた異常が、此処にきてぐっと、うさぎにのしかかったのだ。
 好機。ルトがエクスカリバールに地獄の炎を乗せて叩きつけ、それを追ったルチアナが、2本の雷杖で力の限り殴りつける。
 炎と一緒に流し込まれた膨大な雷がうさぎの何もかもを焼き、微かに漂う異臭を辿ったマロンが、夜空に赤い月を描くように、燃え盛る炎を纏う足で更にうさぎを蹴り上げて、共に宙を返った。
「さ、今宵の夢はこれにてお終い」
 落下点で刀を携えた、悠李の口元が歪む。
「……次はもう少し愛嬌を持って出直して来なよ♪」
 真紅の魔力で覆われた刃が一閃。
 うさぎは両断され、煤と煙になって空に昇っていった。

 うさぎを仕留めたケルベロスたちは、程なく少女を保護して、そのまま山を降りていた。
「ほら、あの模様がうさぎさんに見えるだろ? さっきのお話に出てきたおじいさんの為に、ああやってお餅をついてあげているんだぜ!」
 時折足を止めては、望遠鏡を手にルトが月うさぎの伝承を少女に説く。
「……ま、もしかすると、本当に居たりしてね」
 深呼吸一つですっかり落ち着いた悠李が呟くと、マヒナが笑った。
「居るも何も、さっき会ったばかりよね?」
「すっごく力持ちで、すばしっこいんだよ」
 恐ろしげな部分は取り除いてルチアナが付け足せば、少女の目がキラキラと輝く。
「でも、もう一人でこっそりと夜に抜け出してはいけませんよ」
 ご両親を心配させるような子とは会ってくれませんからねと、目線を合わせて窘める沙夜に、少女は聞き分けよく頷いた。
「……あ、そうだ」
 無事に家まで送り届けての別れ際、マヒナは自分の名前が月を意味するものだと伝えて、少女にも名を尋ねる。
 返ってきた言葉には、ずばりそのまま、月という文字が含まれていた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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