オーダーメイド・ウェディングドレス

作者:陸野蛍

●蝶が狙うは?
「……来ましたね」
 一言呟くと、ミス・バタフライは振り返る。
 その視線の先には、道化師とマジシャンの螺旋忍軍の姿がある。
「あなた達に使命を与えます。この街の外れに、オーダーメイドでウェディングドレスを作るデザイナーが住んでいます。その者に接触し、その技術を習得した後にその者を殺害なさい。グラビティ・チェインの略奪はあなた達の判断に任せます」
 ミス・バタフライが紅い唇でそう命じれば、道化師とマジシャンは恭しく頭を下げ。
「かしこまりました、ミス・バタフライ。わたくしどもには意味無く見えるこの作戦も、貴女様が命じるのであれば、きっと巡り巡って我々が地球の覇権を握る一手となるのでしょう。必ずや、成し遂げてお見せします。それでは……」
 そう言うと、道化師とマジシャンは闇に溶ける様に消える。
「……ケルベロス。必ず、地球は手に入れるわ。手段はいくつでもあるのだから」
 ミス・バタフライの唇は笑みの形を作っていた。

●お子様には女性の夢が分からない
「今回のターゲット。ミス・バタフライも女って事なのかなあ?」
「それは、どうでしょう? 確かに女性の夢を叶える方が今回のターゲットですけど、ミス・バタフライが乙女心を持っているかは甚だ疑問です。殺してしまおうとしているんですから」
「まあな」
 大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)の疑問に、ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)が、やや怒り気味で答える。
「じゃ、始めるか。みんな、お仕事の時間だー! 集合!」
 ヘリポートに雄大の声が響くと、少しずつケルベロス達が集まって来る。
「今回は、ここに居る、ティオのお陰でミス・バタフライの動きが察知出来た。ミス・バタフライは、今回もバタフライエフェクトを狙って、事件を起こそうとしている」
 直接的には大きな事件にはならないが、作戦が成功すれば巡り巡って、ミス・バタフライそして螺旋忍軍の利益になり、ケルベロスには大きな打撃になる様な厄介な事件を引き起こす布石として事件を起こすのが、ミス・バタフライの狙うバタフライエフェクトである。
「今回は千葉の郊外に居を構える、オーダーメイド・ウェディングドレスのデザイナーの技術と命が狙われている。みんなには、このデザイナーを守り、現れる螺旋忍軍を撃破して欲しい」
 ウェディングドレス。
 花嫁だけが着る事を許された、女性の永遠の夢とも言える衣装。
 世界に一着だけの自分だけのウェディングドレスを作ってくれるデザイナーが殺されてしまうと言うのは、女性にとってはとても悲しいことだろう。
 説明している雄大はと言えば、いまいちその辺りが理解出来ていないのだが。
「デザイナーの名前は、森山水連と言う女性で、旦那さんの宗介さんと2人でウェディングドレスを作っている。螺旋忍軍が現れるのは、3日後だけど、彼女達を事前に避難させてしまうと、敵が別の対象を狙ってしまい、逆に被害が大きくなってしまう可能性が高い。だから、彼女達を避難させることは出来ない。だけど、事情を説明して3日の間、彼女達から彼女達の技術を伝授してもらう事が出来れば、みんなが囮になることが出来る。簡単に言うと、ウェディングドレスを作れるようになってもらいたい訳だ」
 雄大はあっさりと言うが、かなり難易度が高い事を要求している。
 まず、ウェディングドレスのデザインは、センスが要求される能力であるし、オーダーメイドドレスと言うのは、その人にジャストフィットする縫製技術も要求される。
 そして、水連のウェディングドレスは、着る花嫁を最も輝かせる事が出来る幸せを呼ぶドレスだと言う。
 簡単に、習得できるとは言い難い。
「囮として、螺旋忍軍を誘き出せるラインは見習いレベルで大丈夫っぽいから、極める必要は無いんだ。それなら、何とかなるんじゃないかな。あと、1人で頑張ってもいいけど、1人でデザインも縫製もってなると多分無理だから、2、3人で一着を仕上げられるくらいの技術を身に付けるのがいいと思う。つまり、役割分担だな。それで、1番技術習得が上手くいったグループが囮になるって感じだな」
 技術習得が間に合わなければ、森山夫妻に螺旋忍軍と接触してもらうしかないが、危険なので出来れば避けたいと雄大は言う。
「じゃ、螺旋忍軍の戦闘能力の説明だ。今回の螺旋忍軍は道化師とマジシャンのペアだ。道化師はライトニングロッドでの支援がメイン、マジシャンは細身のゾディアックソードの二刀流だな。上手く、囮として螺旋忍軍を騙す事が出来れば、奇襲や挟撃、分断と言った戦闘を有利に進められる作戦も実行可能になると思うから、そこら辺も考えてみてくれ」
 螺旋忍軍を上手く信用させるだけの技術を習得するのは難しいが、その分のメリットも十分あると言うことだ。
「俺からの説明はこんな感じだな。ケルベロスとして一般人を守らなきゃいけないし、ミス・バタフライの目論見も防がなきゃいけない。それに、ウェディングドレスは、女性の憧れなんだろ? ティオ?」
「勿論です! 女の子ならウェディングドレスを一度は絶対着たいはずです! それも、自分の為の一着なら尚更です。絶対に螺旋忍軍の思い通りにさせる訳にはいきません!」
 雄大に話を振られたティオは、強い口調で言い切る。
「と言う訳だ。それに、自分がデザインしたドレスを実際に作れる機会って言うのも中々無いだろうし、完成したら着てみるのも有りだと思う。だからさ、大変だろうとは思うけど頑張って来てくれな♪」
 そう言うと、雄大は『ニカッ』と笑顔を浮かべた。


参加者
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)
クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)
ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)
ユヴィ・ミランジェ(また笑顔が作るから・e04661)
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)
白偲・トウキ(ビスクドール・e07431)
星廻・十輪子(惑いの一等星・e15395)

■リプレイ

●幸せを呼ぶ為の修行
「三日でウェディングドレスを作る様にか~。無理じゃないかな~」
 小柄な女性、オーダーメイド・ウェディングドレスデザイナー『森山水連』の第一声はそれだった。
「貴方達の命も、技術も……何一つとして奪わせないと約束します。お願い出来ませんか?」
 緑の髪を揺らし、珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)が水連にお願いをする。
「幸せを呼ぶドレスの噂は、かねがね聞き及んでいます。螺旋忍軍が狙っている以上、あなた方を危険な目に合わせたくないんです」
 ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)も、この事件を付きとめた故に、森山夫妻を守りたいと言う思いが強かった。
「三日間の押しかけ弟子だけど、ケルベロスとしてお守りしたいんだよね。駄目かな?」
 金の瞳で、白偲・トウキ(ビスクドール・e07431)がそう言えば、水連と共に話を聞いていた、夫の『宗介』が助け船を出す。
「水連さん、折角ケルベロスの皆さんがこう仰って下さってるんだから、お願いしたらどうかな? 俺も、水連さんに何かあったら嫌だし。俺達で、お手伝いできることは、してもいいと思うよ」
 優しげに、宗介がそう言えば水連も腹を括った様にケルベロス達に瞳を向ける。
「分かった。教えるけど、たった三日じゃ、何処まで行けるか分からないからね。しっかり頑張ってね」
 ハッキリとした口調に笑顔を乗せて水連はケルベロス達にそう言った。

●夢見るウェディングドレス
 ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は、悩んでいた。
 修行は既に二日目に入っていたが、未だにイメージするウェディングドレスのデザインが完成していないのだ。
 初日に軽く、ウェディングドレスの作成方法を教授され、各班に分かれそれぞれ制作に入った。
 ギルボーク自身、裁縫の腕には自信があったし、何より『ヒメちゃんの為を想って作るならばボクは無敵!』と言う、強い想いがあれば、出来ない事など無いと思っていたのだ。
(「ウェディングドレス……女性の憧れ。想う相手の為に作ることが力になるのならば……ボク以上にそれができる人なんていない!」)
 ここまで強く思っているのだから出来ない訳が無いと。
 ハッキリ言ってしまおう。
 思い込みである!
 思う気持ちだけで、ウェディングドレスが作れるのあれば、愛の強い男性はウェディングドレス職人になれてしまう。
 そして、水連の作るウェディングドレスは、着た花嫁を幸せにするウェディングドレスであり、オーダーするのは毎回違う女性である。
 たった一人の為に作るドレスという意味合いでは一緒だが、『幸せになって欲しい女性に作るドレス』と『自分が幸せにしたい相手に作るドレス』では意味合いが違って来るのだ。
 言い換えれば、ギルボークの愛する女性への愛が重すぎるが故に、作業を難航させていた。
(「ヒメちゃんの、美しさを引き立たせるにはシンプルかつ品のあるデザイン!)
 彼女がウェディングドレスを着て、自分の横に立ったらどれだけ美しいか想像するだけで幸せな気分になれると言うのに、ギルボークの作業は一向に進まない。
(「ウェディングドレスをボク自身が着せられれば一番ですけれど、それができるかは今後次第でしょうし……想いでは決して負けませんが! それだけでボクを見てくれるとは限りませんし。どちらにせよいつか来るその日に、僕の作ったドレスを着てくれるなら……それは想像するだけでも幸せだと思っていたのに……ヒメちゃんが可愛すぎて、僕の力量では無理なんですかー!」)
 恋するギルボークの葛藤は、彼の作業を更に遅らせる事となった。

「デザインはこんな感じでしょうか?」
「いいね、このデザインならパターンを作って縫製すれば見栄えが良くなると思うよ」
 水連の言葉にホッと胸を撫で下ろす、クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)。
 クロコは、インソムニアを使う事で深夜まで、水連に幾つものウェディングドレスのデザインを見せていた。
 水連のアドバイスは的確で、シルエットやコサージュの位置まで入念に添削をしてもらい、ようやくドレスとして仕立てるに値するデザインまで漕ぎ着けたのである。
(「うぅ、ウェディングドレスは一生着ることはないでしょうけど…… ウェディングドレスを作れるなんて光栄です。しかも、今わたしが手にしているこのデザインが形になるなんて……た、楽しみだなぁ」)
「じゃあ、パターンに起こしちゃうね」
「私は、このドレスに合う布選びをしなければいけませんね。ビーズにヴェール、あとこのドレスは、フリルをいっぱい使うんですよね」
 クロコが感動している横で、早速トウキがハトロン紙を広げ、クロコデザインのウェディングドレスのパーツを描き出して行けば、ティオはレースや小物と言った物の確認を始める。
 この三人が作るドレスはトウキのスリーサイズを採寸したもので作る事に決まっていた。
 3人共女性なので、自分が着てみたいと言う思いは当然あったが、引っ込み思案なクロコはそれがどうしても言い出せず、ティオはと言えば、ドワーフとしての物作りの興味の方が上回ってしまい、技術さえ身に付ければ、次の機会でもいいと辞退したのだ。
(「私みたいな体つきの者は、オーダーメイドで無いと着れません。いつか……自分のドレスを作りたいです。その為にもあらゆる技術を会得して、将来の旦那様の横に手作りのウェディングドレスで立つんです!」)
(「幼馴染と結婚……ちょっと、ドキドキしちゃうよね」)
 別チームの指導をしながら笑い合う、水連と宗介を見ながら、トウキはそんな事を考える。
(「僕の幼馴染は強くて……時々意地悪だけど、やっぱり優しくて……。かっこよくて、大好きだけど……」)
 考えてもこの感情が、どう言ったものか、まだ確信が持てない。
 そんな時、クロコの慌てた声が聞こえる。
「トウキさん! ラインずれてますっ!」
「あっ! いっけない! 集中だよね……集中」
 トウキが気合いを入れ直し、型紙を作って行けば、クロコがそこから布に写し取り、ティオが縫い合わせていく。
 概ね順調にクロコデザインのフリル増量ウェディングドレスは形作られて行った。

●『花』が着る為のドレス
「ふんふ~ん♪」
 鼻歌交じりに、針を操るのは、ユヴィ・ミランジェ(また笑顔が作るから・e04661)だ。
(「裁縫は、一番得意だし。今、着ている服も自作なんだよね♪ 自分のサイズは分かってるし、アレンジも出来ちゃうし……ウェディングドレス作り楽し~い♪」)
 ユヴィは真っ先に制作に取り掛かっていたし、事実手際も一番いいと宗介に褒められていた。
 チームで制作しているメンバーとも制作スピード的には大差が無かった。
「仮縫いでっきた~♪ 早速着て、チェックしちゃおう♪」
 奥の部屋に入り、自ら作ったドレスを身に纏うと、鏡に映った自身を見てユヴィは幸せのため息を吐く。
「オフショルダーのドレスにこの綺麗なマーメイドライン。斜めに入ったスリットもレースが覗いて綺麗……。これにヴェールを合わせたら、立派な花嫁さんだよね」
 美しいウェディングドレス姿の自分を見ながら、ユヴィが呟いていると、水連がその場に現れる。
「水連さん、これどうですか~? 綺麗に出来たと思うんだよ~♪」
「そうだね。確かに綺麗に出来てるねそのドレス。でも、それじゃあウェディングドレスとは言えないかな」
「え……」
 渾身の作を水連に否定されて、思わずユヴィの口から驚きの言葉が漏れる。
「そのドレスで、あなたは幸せかもしれないけれど、隣に立つ旦那様を喜ばせる事が出来ると思う?」
 突然の水連の言葉に、ユヴィは言葉が出て来ない。
 ウェディングドレスは、相手に真っ白で無垢な自分を捧げるドレスである。
 露出だけを強調したオフショルダー、レース入りとは言え、脚の大半が見えるスリットは、ウェディングドレスでは御法度と言ってもいい。
「オリジナルを加えるのは、悪いことじゃないよ。斬新なセンスが新しいドレスを生む事もあるから。だけど、何で大部分のウェディングドレスが白なのか考えてみて……花嫁さんはね、結婚式に集まるドレス姿の沢山の女性の中で、埋まることのない唯一のドレスを着ていないといけないの。ただのドレスじゃないんだよ……もう少し考えてみて」
 それだけ言うと、水連はユヴィを残して部屋から出ていった。

(「チェレスタが、幸せに、なれる、ウェディングドレス」)
 星廻・十輪子(惑いの一等星・e15395)は、ずっとその事を考えながら、何枚ものウェディングドレスをデザインしていた。
 十輪子のチームが作っているのは、チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)が、結婚式で着られるウェディングドレスだ。
 チェレスタから、お願いされたのは『白い花のイメージ』のウェディングドレス。
 チェレスタの金色の髪と白い羽に生えるウェディングドレス。
 彼女の希望は叶えてあげたい……けれど、きっとそれだけでは足りないと、十輪子は思っていた。
(「夜の、お星さま、わたしの、好きな、もの。チェレスタ、に、幸せ、に、なって、ほしい」)
 そう思った時、夜の星空の様な深い蒼も取り入れたいと思った。
 キラキラ輝くスパンコールが星空の様に光る様に……。
 チェレスタは白い花……花が際立つドレス……チェレスタが幸せに旦那様の隣に立てるドレス……。
 水連に習った事を頭の中で巡らせ、メロディーにして、ペンを走らせる。
 十輪子から、型紙を受け取ったチェレスタが、幸せそうにパターンを引いて行く。
 オーダーメイドのウェディングドレス……冬に結婚を考えているチェレスタは、自らが纏うウェディングドレスにどうしても関わりたかった。
(「一生に一度のことだから、思い出に残る式にしたい……。自分だけでなく、彼にも喜んでほしいから……」)
 綺麗だと言ってくれるでしょうか?
 私と幸せを感じてくれるでしょうか?
 幸せを期待すればするほど不安も増すのが乙女心なら、幸せになれるドレスを纏いたいと思うのも乙女心だろう。
(「……自分の手で夢が現実になっていくのが分かります。最後まで諦めずに頑張りましょう!」)
 チェレスタはパターンを引きながら微笑んだ。
「機械で出来ることを人がするから、良いのだろうね」
 宗介に付きっきりで縫製を教わりながら。久繁は一針一針ドレスを縫って行く。
(「人を幸せにするドレス……こういう形で何かを残せるというのも、素晴らしいことだと思うねぇ。だからこそ、螺旋忍軍に悪用させはしないのさ……」)
 思いつつ久繁の手は思わずポケットに行く。
(「つい癖で……。流石にドレスを作る場所でタバコは吸えないな……。螺旋忍軍を倒すまでは禁煙だな」)
 苦笑いを浮かべながらも久繁は、チェレスタの為のドレスをその機械の手で作っていった。

●教えを乞う敵
「お前達が、ウェディングドレスを作る者か?」
「そうだよ」
 道化師の質問に久繁が軽く答える。
「集団だったのか……。何でもいい。ウェディングドレスの作り方を私達に教えてもらおう」
「いいよ、教えてあげるよ」
 トウキが笑顔でマジシャンにそう言う。
「私達は厳しいですよ、覚悟してください。まずは型紙・生地等々……」
 ティオとクロコがそれぞれ、道化師とマジシャンの距離を開かせる様に動くと、正しいことの様に、螺旋忍軍に指導をしていく。
 そして、螺旋忍軍の注意が完全に指導される事に向いた瞬間、十輪子とチェレスタは視線で合図を送る。
 同時に構成される、黒鎖の陣と星の聖域がケルベロス達を包む。
「揺光の瞬き、ご覧あれ……あなたに見切れるかはわかりませんけど」
 隠れていたギルボークが、刀を抜き放ち目にも留まらぬスピードでマジシャンを切り刻む。
「お前に最後の舞を見せてやろう」
 ユヴィが3対の翼を広げ舞うと、零れ落ちる羽は光り輝く。美しくも妖艶なその舞の最中に零れた羽は輝く弾丸となり、道化師を貫いて行く。
「ウェディングドレスは、少女の夢の象徴です! その業を盗むならともかく、デザイナーを殺すなんて許せません! 覚悟してください!」
 ドラゴニックハンマーを道化師に振り下ろしながら、クロコが叫ぶ。
「まさか、お前達ケルベロス!」
「気付くのちょっと、遅かったね。僕のトモダチ『フレッドくん』!』
 トウキが友の名前を呼べば、茶色の帽子を被ったユニークな陶器の人形が両の鉤爪で道化師を引き裂いて行く、
「くっそ、回復を……」
「させないよ」
 道化師がライトニングロッドを掲げようとするも、久繁が一気に間合いを詰める。
「世界を包め、夜明けの如く」
 久繁にの肉体を走る魔術回路が過剰なエネルギー供給に光輝くと、その力を道化師に流し込み息の根を止める。
「ミスバタフライに、伝えておけないのは残念だな……こんな素晴らしいドレス、お前には役に立たないだろうってね」
 久繁の言葉が工房に響く中、ティオはマジシャンにナイフを向ける。
「私のナイフ術と貴方の剣術どちらが優れているか勝負!」
 舞い踊る様に、ティオは小柄な身体でマジシャンを切り刻んで行く。
 クロコの地獄化した右腕が龍王の闘気を帯びマジシャンを殴りつければ、チェレスタの幻想的なメロディーがマジシャンに天罰として降り注ぐ。
 マジシャンの剣が十字の軌跡を描き、ティオを狙うが、その刃をギルボークが刀で受けると弾き返し、返す刀で横薙ぎする。
 ユヴィのファミリアとトウキの雷がマジシャンの身体に幾度もダメージを与えると、マジシャンが膝を付く。
「これで、終わり。誇らしく、翼広げ、勝利の祝賀を」
 十輪子が力強く勇壮な声音で、天高く舞う鷹の如く謳い上げると、その歌声に一閃されマジシャンは絶命した。
 ……ミス・バタフライの放った蝶は、羽ばたく事無く消え去ったのだった。

●幸せの在処
「お疲れ様です。ご迷惑をお掛けしました。事件解決です。そして素敵な時間をありがとうございました。ドレス作りとっても楽しかったです」
 ティオが森山夫妻に笑顔で言うと、頭を下げる。
「幸せを呼ぶドレス……ユヴィにもいつか作れるかな?」
「あなたなら、いつか作れる様になるよ。ウェディングドレスは、心で作るものだから」
 ユヴィの質問に水連は優しい口調で、そう答える。
「これからも、誰かを幸せにし続けて欲しいと思うから……これを渡すよ」
 言うと、久繁は水連にケルベロスカードを差し出すが、水連は首を振る。
「ごめんね。私達はそう言うのは受け取れないよ。周りは、私のウェディングドレスが花嫁を幸せにしてるって言うけど、花嫁はね、みんな自分で幸せを掴むの。今回は、ありがとうね。機会があったらまた来てちょうだい」
 幸せそうな笑顔を向け、水連は隣に立つ宗介に寄り添うのだった……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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