死神が招く黄昏狂想曲

作者:相原きさ

 とある廃屋で、それは行われていた。
『グギギギギギガガガガ……』
 1体のマネキンを思わせるダモクレスに、球根のような何かが植え付けられている。
 何かを探すように辺りを見渡し、そして、何かを見つけた様に一点を見つめているようだ。
「さあ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです」
 マネキンのようなダモクレスの傍にいた、黒衣の女性……いや、これは死神。その女がそのダモクレスに指示を出す。
 それに従うように球根をつけたダモクレスが唸りを上げる。
『グガガガガッ!! ヒト、コロスコロスコロスコロス、グガガガガッ!!』
 廃屋の窓を蹴破り、ダモクレスはそのまま市街地への方向へと向かって駆けだした。
 会社帰りや学校帰りの人々が溢れる、その市街地へと。
 
「皆さんには、市街地へと放たれたダモクレスを倒していただきたいんです」
 そう説明するのは、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。
「場所はこの地図にある市街地です。どうやら、死神によって『死神の因子』を埋め込まれたダモクレスが暴走しているようです」
 セリカの話によると、死神の因子を埋め込まれたダモクレスが、大量のグラビティ・チェインを得るために人々を虐殺しようとしているらしい。地図を広げながら、更に説明を続ける。
「もし、このダモクレスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死ぬことになれば、死神の強力な手駒になってしまうでしょう。そのためにも、ダモクレスが人々を殺してグラビティ・チェインを得るよりも早く、撃破しなくてはなりません。急ぎ、現地に向かい、ダモクレスを撃破してください」
 今回の依頼は、ダモクレスが人々を襲う前に倒すことがなによりも重要となる。
「敵は、マネキンのような姿をしており、レプリカントと同じ攻撃……コアブラスター、スパイラルアーム、マルチプルミサイルを使うようです。どれも威力があるようなので、気をつけてください」
 回復しないことが幸いだろうか。だが、どれも油断はできない攻撃だ。戦うときは気をつけるべきだろう。
「それと大事なことが一つ……このダモクレスを倒すと、その死体から彼岸花のような花が咲き、どこかへ消えて……恐らくその因子をつけた死神が死体を回収するのだと思います。ですが、ダモクレスの残り体力に対して、過剰なダメージを与えて死亡させた場合は、死神に回収されずに消し去ることができます」
 ダモクレスを仕留めるときは、更に過剰なダメージを与えることが重要なようだ。セリカの説明を聞いていたケルベロス達が、こくりと頷くのが見えた。
「とにかく、死神の企みを阻止するためにも、このダモクレスを皆さんの手で止めてください。新たな惨劇を生み出す前に……」
 そう言って、セリカはぺこりと頭を下げたのだった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)
ソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532)
チャールストン・ダニエルソン(グレイゴースト・e03596)
鮫洲・蓮華(ペルソナ・e09420)
デンドロビウム・トート(黒骸メランコリー・e26676)
真神・小鞠(ウェアライダーの鹵獲術士・e26887)
リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)

■リプレイ

●黄昏時に誘う
 青い空がゆっくりと茜色に染まっていく。
 町は家路を急ぐ者達で、賑やかさを増していた。彼らは知らない。その近くまで危機が迫っていることに。
 ケルベロス達が降り立ったのは、人々を襲うダモクレスの進路上にある空き地だ。
 既に水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は、敵を誘い出すためにダモクレスの現れる方向へと向かって、ここにはいない。
 染まっていく空を見上げながら、チャールストン・ダニエルソン(グレイゴースト・e03596)は口を開いた。
「浜の真砂は尽きるとも、世に死神の因子は尽きまじ……ですな。この手の事件も随分と続いてますが、やはり本体をどうにかしないことには何とも……」
「例の死神の事件だね。もう随分前から事件を起こしているけど、ここで阻止して、少しでも近づいて掴まないとだよね」
 そう鮫洲・蓮華(ペルソナ・e09420)は、可愛く意気込む。
「この前サルベージされたデウスエクスと戦ったんだけど……生きてても死神の因子埋め込まれて操られちゃうんだね。なんか怖いかも」
 両腕を抱くようにぶるりと身震い。小さい真神・小鞠(ウェアライダーの鹵獲術士・e26887)の姿がさらに小さく見えるのは気のせいだろうか。
「ええ、無理やり操って、人々を襲わせるなんて……そんなことは許せません。見つけて沢山言いたいことはありますが、まずは、人々の安全を守ってからですね」
 リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)の先には、殺界形成を使い、周囲の一般人を巻き込ませないよう準備を進めるデンドロビウム・トート(黒骸メランコリー・e26676)の姿が見えた。
 その傍では、念のためにとコーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)が、せっせとキープアウトテープを貼っている。
「死神の思い通りにはさせないわ……」
 最後のテープを貼り終え、コーデリアは顔を上げた。
 と、遠くで大きな物音が響く。恐らく鬼人がダモクレスを見つけ、引き付けているのだろう。
「行くよ、チェネレントラ」
 周りに人がいないのを確認し、デンドロビウムは、傍で彼女を見上げるメスのボスクドラゴンに声を掛けた。

 一気に駆けてゆくマネキンのようなダモクレスは、すぐに見つけることが出来た。
 どうやらダモクレスは、倒すべき人間以外は目に入らないらしい。家々の屋根を飛び越えながら、一直線に人々が集まる方向へと向かっていた。
「こんなに早く見つけられるとは、好都合だな」
 そんなダモクレスを見つけ、鬼人は敵が地面に着地するのに合わせて、絶空斬を放つ。
 ダモクレスは攻撃を受け、鬼人を見上げた。どうやら、敵だと認知したようだ。
「死んでからも……殺される為に生き返させられる、か。敵とはいえ、哀れだな」
 そう呟き、鬼人は仲間のいる空き地へと移動を開始。
 敵も攻撃を仕掛けてくるが、それらをなんとか避けながら、誘導していく。
 そう離れていないため、思ったよりも早く目的が果たせそうだ。
 仲間達がいる空き地に着地し、敵を見据える。
「突破はさせん、ここで潰す」
 ゲシュタルトグレイブを回し、ソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532)は待ちかねたように、そうダモクレスに言い放った。

●黄昏色に染まる
 空き地にたどり着いたダモクレスは、ケルベロス達を検知し、やって来た早々、胸部の発射口からエネルギー光線を放った。狙うは小鞠。
「きゃっ!」
 驚き、とっさに小鞠は日本刀を盾にするが。
「やらせるかよ!」
 その光線が当たる前に鬼人が立ちはだかり、その身で代わりに受けた。お蔭で小鞠は傷つくことなく、そこに立っていられた。
「貴様、それが誇りあるダモクレスのやり方か!?」
 それを見たソネットが、苛立つように魂を喰らう降魔の一撃を放つ。
 蓮華は空き地から出さないような位置に立ち、声を張り上げた。
「逃さないように、進行方向を塞いでくよ!」
 そう言ってダモクレスへと向けた掌から、ドラゴンの幻影を放ち、敵を焼き捨てる。
「どっちにしても、今は倒さなくっちゃいけないからね!!」
 その間にリビィは指輪にそっと口づけして。
「光の祝福を、貴方に……」
 浮遊する光の盾を具現化、味方を防護し、傷ついた鬼人に癒しを与える。
「大丈夫ですか、鬼人さん」
「ああ……助かった。にしても、アイツの攻撃、かなり強烈だぜ?」
 周りに聞こえるよう、注意を促すように鬼人が立ち上がる。
「ミミック、お願い!」
 コーデリアの声に従うように、傍にいたミミックは、剣を持った黒猫のぬいぐるみを飛ばして打撃を与える。
「今日は大丈夫そうね……あっ、私も負けてられないわ!」
 ミミックが善戦しているのをみて、コーデリアも続いて精神操作で伸ばした鎖で敵を締め上げ、その動きを抑えていく。
「勝手に、因子を植え付けられて操られるのには、同情いたしますよ」
 ≪ Crime Kaiser ≫をダモクレスに向けると、チャールストンは敵に喰らいつくオーラの弾丸を撃ち出した。
「このダモクレス、絶対、町には行かせてあげないんだから!」
 そう小鞠は構えると。
「小鞠必殺! 肉球ぱーんちっ!!」
 特別に肉球が出てくるわけでもなく、必殺なわけでもない……けれどちょっと強烈な気合の入ったビンタがダモクレスにジャストミートした。
 と敵を指さし、詠唱する声が響いた。デンドロビウムだ。
「断罪する」
 デンドロビウムの手から放たれた気功弾、いやconvictは、的確にダモクレスを撃ち貫いていく。
『ギギギ、グガガガガ……ケルベロス、コロスコロスコロスコロス!!』
 壊れた様に頭を回転させ、そして。
『ググググ、グアァーーーー!!!』
 立ちはだかるケルベロス達へとマルチプルミサイルを放ったのだった。

●奏でるは黄昏狂想曲
 遠くで烏のなく声が響く。
 今頃、家では子供達の帰りを待つ母親の料理が湯気を上げているに違いない。
 だが、ケルベロス達の前には、そんな暖かな家庭へと変える人々を襲おうとする凶悪なダモクレスが立ちはだかっていた。
 平和な街を守るため、そして、無理矢理死神に操られてしまった哀れなダモクレスを止めるため、彼らはダモクレスの様子を逐一見逃さないように確認しながら、ダメージを与えていく。
『シネシネシネーーーー!!』
 少し前までは、弱そうな者を狙った一撃を放っていたが、今では大勢を巻き込むかのようにマルチプルミサイルをケルベロス達へと撃ち込んでいる。
「見切られるというのに、それでも多くを巻き込もうとするのか……」
 デンドロビウムは悲しげな瞳で、両親から受け継いだリボルバー銃で、敵の頭部を素早く正確に撃ち抜いていく。
 既にこの戦いでサーヴァント達は、早々にリタイヤしてしまっていた。今は更にやられぬよう、より後方で体を休めている。
「煌めく星々よ、我が友に加護を与えん……」
 ダモクレスから受けた攻撃を癒すため、リビィはすぐさま地面に描いた守護星座の光で、前衛に癒しを与える。
「死神さん、私、こういうやり方嫌いだよ」
 ここにはいない死神に向けた想い。その想いを乗せた縛霊撃で攻撃するのは、小鞠。それでもまだ、ダモクレスは止まることはなく。
「前のめりな戦闘、嫌いじゃないわよ」
 そういうコーデリアはどこか楽しそうに見える。だが。
「その戦い方が貴方の意志なのか、否か、分からないけど……ね」
 その動きを止めるべく、鋼の鬼と化したオウガメタルの拳で、敵の装甲を砕いていく。
「『人の一生はその人が死ぬまで幸福か不幸かと言う事はできない』と古代の格言にあります」
 そう語り始めるのはチャールストン。
「こういう形の死はたぶん望んでいなかったでしょうから、望まぬ形での死を迎えるアナタは、幸福ではないかもしれない。でも……」
 ≪ Ghost Zapper ≫から撃ち出された跳弾射撃が的確にダモクレスを撃ち貫いた。
「因子の消滅と共に死神の手駒にならず、永遠の静寂に包まれて生きられるのならば、アナタは幸福なのかもしれません」
 そうチャールストンは結ぶ。
『グオオオオ……ケルベロス、タオスコロスタオスコロス!!』
 次にダモクレスが狙ったのは、後衛にいる仲間達だ。
「きゃあ!」
「ぐっ!!」
 突然の攻撃にディフェンダーは間に合わず、ダメージを喰らってしまう。
 だが、それでもケルベロス達は怯むことはない。
 蓮華がきゅるーんとポーズを決めて、そのコスチュームをふわりと変えた。
「サキュバスミストの応用編~! みんなにお届け♪」
 金髪になった蓮華が散布する癒しの力で、仲間達の傷が癒されていく。
「無理やりそんな異物を埋め込まれて、あなたも大変でしょう? だから少し、大人しくして下さいね。そうすれば、早く楽にしてあげますから……」
 未だ動きの鈍らないダモクレスに一撃を加えるために、リビィは攻撃に転じる。
「わたしの空中乱舞に、見とれないで下さいね?」
 空中での三次元機動によるアームドフォートからの連撃乱舞が繰り出される。それが、リビィの飛翔乱舞だ。
「奴の動きが止まった!」
 それにいち早く気づいたのは、ソネット。
「攻撃の際は沈着冷静に、お願いしますね」
 その声に呼応するように、チャールストンが攻撃補助の【Hit the Target】を施し。
「みんな、決めにいくよ!」
 蓮華も背後にカラフルな爆発を発生させ、爆風を背にした皆の士気を高めていく。
(「――こいつに意識があれば泣きたいだろうな。死神の奴に弄ばれて……その上、もう一度死んで来いなんて、屈辱以外、何も無いだろう」)
 見つめる先にいる傷ついたダモクレスを、鬼人はそっと憐れむ。
「せめてもの手向けだ。死神の目標が達成されない様、殺してやるよ」
 一気にダモクレスとの距離を詰め。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ!」
 左切り上げ、右薙ぎ、袈裟の順に愛刀を振るい、そして、その三撃の刃筋が重なる中心を刺突でぶち抜く。
「このまま、一気に行くぞっ!!」
 デンドロビウムが止めの一撃に選んだのは、もっともダメージの与えられるシャドウリッパー。影の如き視認困難な斬撃を繰り出し、密やかに敵の急所を掻き斬っていく。
「ソネットさん、これを!」
 コーデリアが先頭に立つソネットへと禁断の断章を紐解き詠唱。ソネットの脳細胞に常軌を逸した強化を施していく。それをありがたく受けたソネットは。
「機械として、使命に殉ずることすら許されないか……。良いわ。それなら、その前に完膚なきまでに叩き潰してあげる」
 よろめくダモクレスを見据えながら、そう呟くと。
「我が気、我が心、我が一撃を以て徹す」
 己が意志を貫き通すため、阻む者を打ち砕くために振るわれる一撃が頑強な守りをも突き崩す、不惑拳『気徹』を放つ。
「誰にも利用されないところで、ゆっくりと眠りなさい」
 そう告げるソネットの後ろで、ダモクレスが音もなく崩れ去った。

●薄れゆく黄昏
 この町に再び、平穏が取り戻された。
 ダモクレスの残骸から何かわからないかと思っていたが、それらしきものは残念ながら見つからず。
「はーい、ここもヒールっと♪」
 蓮華は荒れてしまった空き地をヒールで元に戻していた。
「これで空き地も大丈夫だね」
 小鞠もヒールをかける蓮華の後ろでぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる様子。
「お疲れ様、今回も格好良かったぞ」
 仲間に頼んで回復したチェネレントラをそう労うのは、デンドロビウム。その声色はいつもよりも優しく響いているようだ。
 その傍でチャールストンが煙草を吹かす。
「そろそろアタシたちとご対面していただきたいですね。彼女が『引きこもり』でなければ」
 髪をかき上げ、呟くように。
「今はこうして一つ一つ、彼女の企みを阻止していってその機会を待ちますかね」
 と、ロザリオに手を当て、冥福を祈っていた鬼人が顔を上げた。
「あー、もしよかったらでいいんだが……この後、夕飯でもどうだ?」
 遠慮がちにそう声を掛けると。
「構わん。して、店は何処だ?」
 まだ顔は若干不機嫌そうだが、ソネットのその足取りは軽やかに感じる。
「さんせー♪ 店まだ決まってないなら、知り合いに聞いてみるけど?」
 そう声を上げるのは、蓮華だ。
「チェネレントラも連れて行ってもいいのなら、私も参加しよう」
「私もミミックと一緒にいいかな?」
「では、私もお供させて下さい。ちょっとお腹が空きましたし」
 デンドロビウムとコーデリアも嬉しそうに賛同した。どうやら、皆、喜んで参加する様子。
「じゃあ、行くぞ!」
 そう掛け声をかける鬼人もまた、嬉しそうに空き地を後にしていく。
 こうして、ケルベロス達は誰一人被害者も出さずに、死神の企みを阻止することに成功した。
 黄昏色に染まっていた空は、いつの間にかキラキラと星が瞬き始めていたのだった。

作者:相原きさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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