「そろそろ、あなたに働いてもらうわ。判ってるわよね?」
「出逢う者には死を」
釧路湿原の奥地で、魚の群れに囲まれたナニカ。
脇に居る誰かが声を掛けると、のそりとナニカは動き出す。
後ろに魚を引き連れて……、いや、たまたま同じ方向だと錯覚しそうなくらいに、ナニカは魚を見向きもしなかった。
ナニカは途中にあった大小の棒きれ……、おそらくは自身の持ち物であろう。
それだけを反射的に掴むと、黒きタテガミを翻して町の方へ歩いて行った。
●
「釧路湿原近くで、死神にサルベージされた、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスが暴れ出す事件が起こるようです」
ユエ・シャンティエは釧路湿原付近の地図を持ち出して、説明を始めた。
「このデウスエクスは、釧路湿原で死亡したものでは無いようで、なんらかの意図で釧路湿原に運ばれたようです。さらに、この個体は死神により変異強化されており、周囲に数体の深海魚型の死神を引き連れているのでご注意ください」
変異強化しているのは面倒だが、場所的に人気の心配が無いのはありがたい。
いまのところ相手の意図は不明であるが、被害が出る前に倒してしまおうとしよう。ケルベロス達がそう考えた所で、ユエは説明を続けた。
「敵は黒獅子のウェアライダーで、両手に大小の刀剣を所持しています。どうやら、武器の技をそれぞれ1つずつ、そして種族の技を含めた3つの技を使用するようですね」
そう言ってユエは、日本刀とナイフ、最後に獣の駒を用意した。
それぞれ色々な技が使えるはずだが、1つずつ使い慣れた技だけを覚えているのかもしれない。もちろん覚える知性が無いのではなく、単に特化しているだけかもしれないから、油断は禁物である。
「この個体はかなり強力ですが、怪魚たちと連携を取らないようなので、厳しいという程の戦いにはならないでしょう。先に魚を倒すか、彼を倒すかは作戦次第ですので、お任せいたします」
怪魚型死神は強くはないようなので、実質的に、黒獅子個人の強さが危険度と言えるだろう。
知性はあまり高くないようであるが、この個体が相当な強さなのは確かなので、魚をどうするかが作戦の分かれ目かもしれない。
「死せる者を復活させ、更なる悪事を働かせようとする死神の策略は放置できません。被害を出さない為にも、よろしくお願いしますね」
ユエはそう言うと、軽く頭を下げて皆を送り出す為にヘリオンへと行った。
参加者 | |
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カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366) |
松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374) |
国津・寂燕(刹那の風過・e01589) |
雨宮・流人(紫煙を纏うガンスリンガー・e11140) |
パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155) |
隠・かなめ(霞牡丹・e16770) |
片桐・与市(墨染・e26979) |
ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392) |
●
「秋の釧路湿原とは素晴らしい景色が見れそうですね」
フンフンと鼻を鳴らし、陽気なステップ。
少女は仲間達を振り返りながら微笑んだ。
「依頼が終わったらゆっくりウォーキングでもしてみましょうか……。何より、アイスクリームが美味しいらしいのです」
「ああ、そうだな」
焼もろこしを食べながら語る隠・かなめ(霞牡丹・e16770)に、ケルベロス達はとりあえず頷いた。
まだ食う気かよと言ってはいけない、デザートは別バラなのである。
「避難は必要なさそうですかね? 適当な場所で迎え討ちましょう」
「その辺の配慮が不要なのは助かるな。さてと、再生した獣の相手をしてやるか」
かなめが人影を探していたことは知って居たので、パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)は自分の腰に下げた懐中電灯を叩いて答える。
念のために一般人や暗夜対策をしていたが、今回は不要だったようだ。
敵が訪れると予想された方角を眺める。
そこには魚を引き連れた……というよりは、同じ方向に移動しているだけの影が見られた。
「ククッ、何だよ、何も考えてないだけじゃねぇか。主義も主張もあったもんじゃねぇんだなぁ。まあ楽でいいがね」
パーカーが見た所、敵は剥き身の真剣を構えて一直線に歩いて来る。
魚どもはその勢いに追いつけず、置いて行かれたり、スピードをあげて、また置いて行かれてと繰り返しているに過ぎない。
こちらに気がついて居る筈なのにペースが変わらないのは、肝が太いと言うよりは、何も考えていないのだろう。
「さぁて、仕事の時間だ。基本に忠実、まずは雑魚から片付けるぞ」
「何時も通りってやつだな。ぬかるんじゃねえぞ!」
雨宮・流人(紫煙を纏うガンスリンガー・e11140)は闇追い払う銀の意思を弾丸に刻みつけると、パーカー達に撃ち込むことで自陣を活性化させていく。
英気を養うと言う言葉があるが、これはむしろ、根性を注入すると言った方が正しいだろう。
パーカーはボリボリと頭をかきながら、暑苦しいおっさん(まあ俺もだが)に手を振りつつ、敵味方の頭越しにぶっ放す。
「委細……承知」
彼らのエールに応えた訳でもないが、片桐・与市(墨染・e26979)は短く答えて両足を交差させる。
決して足を同時に地より離さず、斜めに横切るように、摺り足を重ねていく。
向かう先は当然……。
『死ねい』
「(強い。だが……及ばずながら、この陣の――引いては人々の盾として、役目を完うしてみせよう)」
与市は振り降ろしの強烈な斬撃を、斜めに受け流す事で軽減させる。
勢いを流し、返す刀で弧を描いて刃を戻した。
白黒の剣閃がぶつかり合い、ここに戦いは幕を開けたのである。
●
「強者の二刀使い、相手に不足無しだねぇ」
国津・寂燕(刹那の風過・e01589)は感心したように溜息つくと、腰から二刀を抜いて魚の方に向きあった。
同じ二刀使いとして気にはなるが、役割分担と言うものがある。
後ろ髪惹かれる思いで暗い剣気をまとう刃を振り抜くと、ピっと音がした瞬間に、魚型の死神に血飛沫があがる。
そして抜き撃った敵に向かいつつ、黄泉還ったウェアライダーに向かう敵の方へチラリ。
「もっとも、俺達が魚を裁く間に、そっちで倒してしまっても構わないのだけどね」
「それもいいかもな。……黒獅子はこっちで止めておく、その間に雑魚を片付けてくれ。なるべく手早く頼むぜ」
寂燕が健闘を祈りながら魚に向かうと、流人は紫煙を吹かしながら背を向けた。
強敵だがなんとかしておくと笑う仲間の為に任せ、寂燕は一意専心、今度は桜の如き剣気をまとう刃に、咲き誇らんばかりの精神力を注ぎ込んで行った。
「さてさて、毎度死神の目的はよく分からないが……。傷は大丈夫か? もっと本格的な治療をする手もあるが……」
「大丈夫だ、問題ないだろう」
そんな中で、松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374)は敵の攻撃を防いだ与市の傷を確認。
援護に留めるか、本格治癒に移行するかを見定める。
「それなら向こうに任せるか。死神のする事をほっとくと、碌な事にならないのは、ほぼ間違いない。何かが起こる前に、片を付けてやらないと、な」
丈志は傷が深くないと返事があったこともあり、傷はもう一人の治療役……かなめに任せて仲間達の周囲に雷の結界を張った。
さっさと片付けた方が早い事もあり、魚型を倒すまで彼の治療は援護であり、彼女の方に任せておくことにしたのだ。
「まぁお互い運が悪かったってことで! まずは……陸では刀の雨も降るんだよ、お魚さん!」
ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)はウェアライダーに軽く目をやった後、足元に剣で線を引いた。
それはまるで、ここから先は通さないと言っているかのようでもあり、同時に魚を呑みこむ口にも見える。
果たしてその実態は、グラビティにより無数の剣を生み出す扉であった。
「ここね。あの人を苦しめる宿敵を倒すためにも強くならないと……。まずは一体目」
カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)は箱竜のクロクルが放つ息吹を吸い込むと、竜気を体に廻らせながら、腰を落とした。
右手に構えたハンマーを展開し、うねる竜の紋様を一直線に延ばす。
「体内竜気解放、タイミングのカウントダウン省略……『抉れ、砕け、千切れ、弾け、潰れようと――わたしは護りぬくと決めたから。わたしはきっと大丈夫』当たれ!」
蓄積された竜気は体内を巡る稲妻へと変化し、電気の騎士とでも言わんばかりの力が宿る。
それを解放する事で、時空すら歪ませかねない神鳴を解き放った!
空へ伸びゆく鎖が、稲妻を帯びてどこまdめお飛んで行く。
「次! さっさと倒して援護に向かうわよ」
「そんじゃ、雷撃には雷撃で続くとしますか……逃げるな避けるなシビれろっ!」
カタリーナが鎖をたぐってハンマーを強制的に戻す。
そしてルカが祈るように組んだ指を開きながら……スパークする雷撃と共に駆けだした。
二人の……いや丈志も含めて三人の繰り出す電撃が、入れ替わるように戦場を駆け巡ったのである。
●
『オーン!!』
ケルベロスたちの猛攻により、二体目の魚型も風前の灯。三体目すら長くは保たないだろう。
だが、この戦いは元より黒きウェアライダーとのもの。
猛り狂う力の奔流に、戦場は一時騒然となる。
「サルベージって厄介ですね……」
かなめが操る重力の鎖に、ビリビリとした衝撃が伝わって来る。
仲間達の周辺に張って居る結界越しに、強烈な咆哮が叩き込まれた。
「私が食べた事のある美味しい食べ物とかもサルベージというか、出したりできないでしょうか? 出来たら、そっちをやって欲しいですね♪ そーれっと」
かなめは印を切って、次なる攻撃に晒され始めた仲間へ向けた。創り出すイメージは無限の循環、夢幻の境地。
それは過たず、絡み合う二本の刀の軌道を変えるのである。
『そろそろ死ねい……ウヌ!?』
「この先に在るのは戦場ではなく、人々の平穏な日常……通す訳には行かぬ……おう!」
打ちつけられた愛馬を弾いた瞬間に、逆手に構えた刃が与市の腹を抉る。
ザクリと突き刺して、そのまま横腹から肩口へと切り上がるハズであったが……、不思議な事に血飛沫があがって居ない。
横滑りするように駆け抜けて、刃の先にのみ血が塗れている。
「助かる。危く落とされるところだった」
「いーっていーって。でもできたら、味噌ラーメンでデートしましょー」
己の周囲に佇む姿を眺めながら、与市は手裏剣を放つ。
かなめが作りだしたソレは良く似たポーズで動くのだが、与市が礼を口にしたのに対し、かけられた声は後ろからだ。
かくしてケルベロス達は協力して猛攻を凌ぎきり、戦線を一つにまとめるため、動き出す。
突撃しかしないゆえにまとまって居るように見える敵だが、連携を持たない為に、打ち崩されつつあったのだ。
「ッチ。こいつで終いにするぞ。そろそろ向こうがヤベエ」
「いやはや、攻撃特化型って奴は辛いねぇ。まあ、これで連中の方が先にカンバンだろうさ」
パーカーのガトリング砲が嵐の様に弾を吐きだすと、寂燕は魚の鱗に直接、花の紋様を描き始めた。
それは彼が持つ刀の剣気を映した者であり、強烈な精神力が焼きつけているのだ。
「動くなよ、これ以上。それがお互いの身の為さ」
丈志はトーテムに祈りを捧げると、詠うように調和と秩序をもたらした。
即ち死、生を操る邪なる魔性に、因果応報の一撃を浴びせたのである。
精霊の力によって導かれたその弾が、吸いこまれるようにして魚型死神にトドメを刺したと言う。
「わたしには目的がある……。そのためにも、黒獅子にはわたしの経験のひとつになってもらおうかな」
スライディングを掛けていたカタリーナは、『踊ろうか黒獅子。せっかくだから』とハンマーを軸に、その重さを利用して体を跳ねあげた。
起き上った後は、体をひねって銃身(重心)を移すと、再び砲火をあげさせる。
唸りをあげる雷鳴が迸り、解き放たれるのだ。
「同情はするけど、手加減はしないかんな。お前さんのトラウマはなーにかなっと……うーん、踊り、ダンス? よく判んないや」
ルカはナイフを引き抜くと、敵に過去の出来事を突きつける。
それに対し黒獅子と呼ばれた敵は、蜘蛛の巣やロープを切るような動きを見せるが……。
なんというかトラウマというのは他人からは判らないものである。
「からめ手で殺されたのかねえ? ……おっ。騎兵隊の御到着だな。いいトコ持って行きやがる」
「良くもまあ、保ちこたえたよ。専門出ないとはいえ、一撃一撃が重すぎらぁな」
精神力を銃弾に込めてぶっ放していた流人は、回り込んで来た仲間に軽口を叩く。
寂燕は笑って参戦しつつ、突如降り降ろされた刀に、二刀を交差させて致命傷を逃れた。
足を止めて小数だとカバーし易いが、流石に多人数で包囲するとそうもいかない。
強烈な一撃を食らって、軽く膝をつきかけた。
●
「ヒュウ。ったく油断ならねえな。んだが……よし、こっからが本番だ。畳み掛けるぜ!」
流人は縛鎖の展開を取りやめると、急所に向けて銃を向け直す。
そしてバースト連射で確実に、関節や手足を狙って穿ち始めた。
「本命はこいつだもんね! つってもやることは一緒だから、こうしちゃうよ!」
ルカは刀を背負うようにして防壁に変えると、残った片手を突き出しながら、稲妻を纏う。
雷神を連れた貫手を繰り出し、避けようとしたところで、弾けさせて強引に巻き込むのである。
「狂ってくれると見てて楽しいのだがねぇ。さっきのより面白い踊りなんだろうしな。踊れ踊れ!」
これまでずっとガトリングのみを放っていたパーカーは、突如として弓を放った。
狙いもつけない一撃だが、彼にしてみればこれで十分!
直撃したのを受けて、今度はガトリングで手元狙いと共に使い分け始める。
『おのれ、死ねシネしね!』
「いくらシンプルでも勝てなきゃ逃げるだろうに……思考でも制御されてんのかね? その姿、正直見るに耐えねぇな……。俺達が休ませてやるよ」
仲間の回復に協力していた丈志は、跡形も無くしてやるさとハンマーを変形させる。
彼が放った轟音に続いて、仲間達が切り込み、最後の攻勢に移り始めた。
『散り急げ…死出のあだ花添えてやろう』
寂燕は空間ごと黒獅子がまとう闇を切り割いた後、手首、そして腰を軸に体全体を捻った。
屈強のケルベロスでも狙って出来ない高速連撃、そこから偶然にも、連続斬撃が見舞われる。
これぞ『死出のあだ花』っとも言うべき、幕引きであろう。
「――もうお前は見飽きたよ、そろそろ終わりにしようか」
「貴殿の居場所は戦場でも此岸でも無く、彼岸故に今一度、眠りに就くが良い」
カタリーナと与市は同時に走り出し、カタリーナが先にハンマーを叩きつけ、即座に神鳴りを規制し始め……。
その一撃が見舞われる前に、与市の一撃が弧を描いて黒獅子の眉間を抉って行った。
頭に刀が突き刺さって居ては、さしもの獅子も生き延びる事は叶うまい。
「やった……のかな」
「多分な。油断は禁物じゃあるが……」
ルカが首を傾げながら覗きこむと、流人は火を付けないまま煙草を加えた。
まるでそれを合図にしたかのように、黒獅子はバタリと倒れて大地に還っていく。
元は無残な死体だったのだろう、闇が消えると同時に徐々に崩れ始め……。
『剣で死すか……それならば悪くなかろう』
「……」
与市は最後を身取った後、軽く目を伏せ一礼。
「正気のお前さんとも戦ってみたかったねぇ。せめてもの供養だ、受け取っとくれ」
寂燕は袂の酒を取り出すと、残骸に還り、そのままバラバラに朽ちていく灰へ酒を手向けた。
「しかし、こんなところにやって来た真相は何なんだろうな」
「この作戦にどんな意味があるのやら? わからんし俺らも酒でも飲むか。送り酒っていうのがあるか知らねえが、オツじゃね?」
丈志が片付けと修復を始めると、パーカーはノビをして帰還の準備。
「くっ、未成年なのが残念です。早く呑めるようになりたいなー。とりあえずはタンチョウとか色々な動植物居るらしいですし、紅葉とか見ながら美味しい物に期待しておきます」
「いやまあ、俺も未成年だぜ。どこかで飯食って帰るかね」
かなめと丈志は酒呑みたちの会話を聞きながら、どこの農場が美味いだの言いながら帰還を始める。
「いつかこの強さに届く時が来るのかな? 焦る事はないと思うんだけど……」
カタリーナは大地に還った敵の強さを思い出しながら、ギコチナイ動きを見せる自分の体を、徐々に馴らして通常稼働に戻して行く。
ちょっと全力使ったらこの有様だと自嘲しながら、一歩一歩踏み締めていくしかないと、明日へ向けて歩き出したのである。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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