
晴天に恵まれたその日、とある県立高校では体育祭が行われていた。
晴れたのはいいが、まるで季節が逆戻りしたかのように日差しは鋭い。
昨日まで降り続いていた雨のせいでグラウンドにはまだ湿気が残っており、よりにもよって無風。
「はー、暑いねー」
「ホント、この蒸し暑さ、どうにかならないのかな」
と、女子生徒たちは辟易した様子で、ジャージの襟元にぱたぱたと風を送っていた。あるいは、膝までズボンをまくり上げている者もいる。
その光景を見て、憤怒する者がひとり。
「だったら、その芋ジャージを脱がんかいッ!」
その怒声は、女子生徒達の耳には届かない。
校舎の屋上で大声を放った『そいつ』は、全身を羽毛に包んだ異形の男。ビルシャナだった。
「忌まわしき芋ジャージめ! 体育祭だろう? 正式な運動着に着替えるべきだ!
まして暑いならなおさら! 芋ジャージを脱いで、Tシャツと短パン姿に、なぜならん!
それがもっとも美しい、運動の姿ではないか!」
まぁ確かに、えんじ色で側面には白ラインまで入ったそれは、まさしく一昔前の田舎の学校指定。
そのダサさと、『気合いの入った』運動着で生足を晒すのとを天秤にかけた結果、彼女らは前者で妥協したのだが。
ビルシャナは激高して、傍らに控える信者どもに指図をする。
「タナカ! 貴様らは手当たり次第に芋ジャージどもを襲い、ひんむいてしまえ!
ヤマダ! 貴様らは、正門で待ち受けろ。逃げ惑う芋ジャージどもを、1人も逃がすな!」
「ははッ! 女生徒たちすべて、美しく爽やかなTシャツ短パン姿にしてくれます!」
信者どもが散っていく方には目も向けず、
「悔い改めて着替えるならよし、さもなくば、ここで焼き払ってくれよう!」
眼下の体育祭を睨みつけた。
「ジャージのなにが悪いんですか! 素晴らしいんですよジャージは!
外出着に良し室内着に良し……!」
「いえ、そう言われましても……」
憤激してレピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)に詰め寄られたセリカ・リュミエールは、困り果てたように視線をそらした。
彼女が告げたのが、ビルシャナによる体育祭襲撃である。
「聞こえるようです。若人の悲鳴、すべてを焼き尽くす邪悪な炎……」
と、目を閉じて思わせぶりなことを口走ったのは是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)。自分だって同年代のくせに。そしてすべて、ヘリオライダーがさきほど説明したことの受け売りなのだが。
その発言は適当に聞き流しつつ、状況を整理する。
ビルシャナは『芋ジャージは許せない。Tシャツ短パンにしろ!』という主義を唱え、賛同した信者どもを従えているようなのである。
ビルシャナは校舎の屋上に陣取り、信者どもに女生徒を襲わせるようだ。
事件現場となる高校を模式的に表すと、方形に塀で囲まれており、上側に正門がある。
校舎はL字型になっている。右上に空いた空間がグラウンドだ。
タナカと呼ばれた信者と5名ほどは、L字型校舎の右端から降りて体育祭を襲う。
ヤマダと5名ほどは校舎の上端から降りて、逃げる生徒たちを正門で待ち構えるようだ。
ビルシャナ自身は、校舎の屈曲部にある給水塔で様子をうかがい、混乱を見極めてから襲いかかるという手はずのようである。
信者どもは、ビルシャナに従う限りはケルベロスさえ傷つける力を得ている。一般人では太刀打ちできないだろう。生徒たちを傷つけるつもりはなく、ジャージを脱がせ、引き裂くのが目的なのはせめてもの幸いだが。
「彼らを、正気に戻すことはできないのでしょうか……?」
と、奈々が呟く。
ケルベロスが本気を出せば負けるような相手ではないが、数が多ければ生徒たちの危険も増すし、厄介だ。
信者どもはビルシャナの教義を盲信しているため、道理を説いたところで耳を貸すまい。なにか、衝撃的なものが必要だろう。
「いったいどうすれば……」
どうやら奈々は妙案が思いつかなかったようで、
「私は、人々を守る盾となりましょう」
それだけ言って、沈黙した。
「キュッキュリーン☆ だったらレピーダちゃんが、ジャージの素晴らしさを教えてあげましょう!
ビルシャナなんか、やっつけちゃえ!」
参加者 | |
---|---|
![]() 橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125) |
![]() エピ・バラード(安全第一・e01793) |
![]() ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476) |
![]() 野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493) |
![]() 九十九折・かだん(ヨトゥンヘイム・e18614) |
![]() クピド・ニコラウス(恋する瞳に恋してる・e20317) |
![]() レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744) |
![]() 鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334) |
●芋ジャージ軍団
「なんでみんな、芋ジャージ着てるの?」
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)が女性陣に、聞きたかったことをやっとここで口にした。
そのとおり、ロディと是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)以外の全員は、上下ともえんじ色のジャージ姿。
鼻息荒く、得意げに腕組みして応じたのは、レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)。
「芋じゃないッ! 外でよし、家でよし。ジャージの魅力にみんな気づいたから、着てくれてるんです!」
「いや、それはないカナー?」
「ないねぇ」
クピド・ニコラウス(恋する瞳に恋してる・e20317)と鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)とが、にべもなく首を振る。
「えええッ?」
「私たちが芋ジャージを着ているのは作戦のためだが……これ、けっこう動きやすくていいと思うぞ」
野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)は、レピーダを慰めるように肩を叩く。
が。
「普段着にはどうかと思うが」
と、しっかりととどめを刺す。
「んが」
「そうね。運動するときに着てて何が悪いとは思うけど、普段着にはね」
「だよねー。普段着が芋ジャージの人の女子力は……疑問だよね」
ケルベロスたちの見事な連携。橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)と美沙緒とが、さらに追い打ちをかけた。
「ちょっと、なんでレピちゃんがディスられる流れになってるんですかぁ?」
「いや、レピちゃんは可愛いよ、レピちゃんは」
ロディの言葉は、なんのフォローにもなってないわけで。
九十九折・かだん(ヨトゥンヘイム・e18614)は着ているジャージの袖を引っ張りながら、
「芋色も可愛いと思うよ。悪くないよ、芋色。すてきだぞ、芋色」
「も、いいです……」
「さぁ、敵のお出ましです! 皆様、応戦しましょう!」
信者どもが校舎の外壁を雨樋を伝ってえっちらおっちら降りてきたのが見えた。
エピ・バラード(安全第一・e01793)は笑いをこらえられない様子で、一同を促す。
「レピ様のジャージは芋ですが、ジャージ女子を馬鹿にし、襲う輩は捨ててはおけません!」
「エピセンパイ、ちょっとあとで校舎裏に。話したいことがありますから」
●トキメキ妄想
「奈々、正門に向かってくれ」
かだんは校庭の向こうを指さして、指図してみせる。
「わかりました!」
頷いた奈々と、エピ、美沙緒たちが一緒に走っていった。
かだん自身はほかの仲間たちとともに、生徒たちに襲いかかるタナカたちを食い止める。
「芋ジャージ許すまじ! Tシャツ短パンに、今すぐ着替えるのだ!」
タナカが、立ちすくむ女子生徒の上着を掴んで、一気に引き裂いた。ファスナーが飛び、下のシャツが露わになる。すかさずほかの信者が下半身に飛びつき、ズボンをグイッと引き下げた。
「きゃあああ!」
上はともかく、ジャージの下に短パンをはいたままという人間など普通いないので、薄緑の下着が……。
「なにをしてくれるんだ、このエロ信者どもッ!」
大きく跳躍した不律は、体をぶつけるようにして腹にパンチを食い込ませた。
「ぐほぉッ!」
信者は吹き飛び、校庭に吐瀉物をまき散らすが、大丈夫、手加減してるしてる。死にはしない。
「無理矢理なんてひどいんじゃナイ?」
クピドは殴りかかってきた信者からひょい、と身をかわし、足払いで転ばせた。
「け、ケルベロスか!」
「そのとおりだ。
……皆、対処は我々に任せて、避難してくれ。正門は駄目だ。そう、屋内に!」
生徒たちが逃げまどい怒号が飛び交う中でも、不律の声はよく響いた。
「女の子を無理矢理ひん剥くなんて、ゆるせないわね。大丈夫?」
女子生徒を助け起こしながら、芍薬が信者どもを睨む。ずり下げられた拍子に転んで、手首を捻ってしまったようだ。それも、癒してやる。
「運動着を語るなら、機能性の話をしなさいよ。ジャージはいいわよ? 体冷えないし、素肌より安全だし」
「そうだそうだ! なんで芋ジャージを憎むんだ? 家族でも殺されたっていうのかよ!」
殴りかかってくる信者どもをあしらいながら、ロディが怒鳴る。
数を頼りに襲いかかられると厳しいが、幸い、この場はケルベロスが優勢だ。パンチをよけたのち、銃の台尻で脳天をガツン。
「え? そうじゃない? だったらお前ら、単なる生足目当てだったの? 『爽やかさ』とかいいながら、爽やかさのカケラもない動機だな!」
かだんもレピーダも、襲い来る信者どもの腕をとって組み敷き、押さえ込んでいく。おかげで、奴らは生徒たちを襲う余力を失った。
「この、むっつりスケベ!」
芍薬も嵩に掛かって挑発……いや説得する。
信者どもが、いっせいに振り返った。
「うるせー!」
「芋ジャージでは、心がときめかないんだよ! 爽やかなエロス! それを求めて何が悪い!」
「露出を増やせということだな、エロ坊主どもめ」
不律が呆れたように、鼻を鳴らした。
「だが若い、若いぞ。ただ露出するよりも、着込んでいた方が想像の余地があるんだぞ」
「そうですよ」
と、クピドは上着をサッと脱ぎ捨てた。
「おぉ!」
「どう? この瞬間、ちょっとドキッとしナイ?」
食いつく信者どもに微笑む。
「いつもは覆い隠されているからこそ、シャツ姿になったときにトキメキが生まれる! ジャージとシャツとは共存可能、着替えさせる必要なんてナイんだよ!」
「キュッキュリーン☆ 気持ちが揺らぎましたね?」
これは好機、そう見たレピーダが、両手を頬に当てた。サイズがあっていないのか、袖は長めで指先が少し出るくらいだが……これが作戦!
「大きいでしょ? これがもし、あなたたちのジャージだったら……どうです?
彼シャツならぬ、彼ジャーですよ」
「なんだその新語」
ロディの呟きは、誰の耳にも届かない。
レピーダの説得に、信者どもはうっとりと妄想を膨らませる。
●ゴミ
一方、正門付近。
「ははは、待ちかねたぞ芋ジャージども! ……ん?」
「あいにくですが。女生徒の皆様は、こちらにはいらっしゃいませんわ!」
生徒たちは皆、屋内へと誘導した。念のためエピは、キープアウトテープを張って万が一にもこちらに来る生徒たちが出ないようにして、ヤマダたちと対峙する。
「うぬぬ、芋ジャージとケルベロス……実に憎い組み合わせだ。そちらのチビから、ひん剥いてやる!」
「チビじゃない! 着ているジャージが高校生用だから大きいんであって、ボクがちっこいわけじゃないんだから!」
と、美沙緒は突きを繰り出した。雷の力がヤマダに襲いかかり、その服が引き裂かれる。
「女の子の薄着が見たいだけの、芋ジャージを引き裂く悪い奴らは、逆にビリビリに破いてやるんだよ!」
「や、やりすぎは危険ですよ」
奈々が敵から美沙緒をかばいつつ、たしなめた。
「わかってるんだよ。でも、話し合わないとわからないんだよ、きっと! 思いをグラビティにのせて、ぼっこぼこにするんだよ!
お洒落な女の子が、学校指定だから仕方なく芋ジャージを着てるとか、そういうのもあるんだよ! ギャップ萌えってやつだよ!」
「ギャップか……」
わずかに矛先を鈍らせた信者どもだが、まだ、押しが足りない。
信者どもがエピに襲いかかった。彼女なら十分に避けられるはず。それなのに。
「あー、れー!」
「ははは、見たかケルベロ、ス……?」
エピのジャージを引き裂き、高笑いしたヤマダ。しかしその笑みが、戸惑いとともに収まっていく。
中から現れたのは……!
黄ばんでヨレヨレの、生地も薄っぺらくなって、首回りなんて波打ってるTシャツ! 胸にでかでかと書かれた、なぜかわからない『たらこ』の文字!
短パンだって、だるっだるになって股引みたいになった代物!
「あの、エピさん。パン……見えてます」
ウエストのゴム紐もだるだるで、短パンが腰からずり下がっていた。奈々に囁かれ、さすがにこれは直す。
「これがあなたたちの望んだ姿! さぁ、とくとご覧あれ!
『ジャージの方がマシ』と思いましたね? あなたたちの負けです!」
「それ、自前なのかな? 作戦とはいえ、それで人前に出られる女子力……5だよ。ゴミめ」
美沙緒が呆れたのか感心したのか、にゃははと笑った。
●芋ジャージに幸あれ
「先輩のジャージ、あったかいですね。先輩の匂いがします……」
立て続けに繰り出される、レピーダの胸キュン台詞。信者どもはたじろぎ、これで決着か。
そう思いきや。
「惑わされるな、愚か者がッ!」
校舎の屋上から、ビルシャナが飛び降りてくる。眩い閃光が襲いかかり、ケルベロスたちを傷つける。
「考えてもみるがいい、学園生活にそんな胸キュンが仮にあるとしても!
そんなもの、我々にとっては遠い異次元の出来事であることを! そんな甘酸っぱい青春、お前らにあったかッ!」
「うぅ……ありません!」
「女子とは事務的な会話しかしたことがありません!
「俺、『彼氏に? ないわー』って言われたことあります!」
号泣する信者ども。あまりに悲しい。
「そうだろうそうだろう。あり得ない嘘偽りで惑わすケルベロスなど、皆殺しだ!」
ビルシャナに煽られ、信者どもはケルベロスたちに襲いかかった。
しかし、その前に神宮・翼(聖翼光震・e15906)が立ちはだかって、攻撃を受け止める。
彼女は大げさなくらいに倒れ込み、破れたジャージを自ら広げてみせるようにして、
「ひどい……! まだ、好きな男にも肌を見せたことないのに……汚されちゃった!」
「いや……無理があるだろ、そのキャラ」
ロディが、友人のこれ見よがしな『痴態』に嘆息する。
信者どもは興奮し、
「そう! 俺たちはこういうのでいいんだ! 直接的なエロで!
そばでジャージを脱いでくれる女の子も、着せてあげられる女の子も、俺たちにはいないんじゃあ!」
「本当にどうしようもないビルシャナどもね……」
芍薬が『スターサンクチュアリ』を展開し、仲間たちを守る。
「信者どもは任せろ」
そう言うかだんに委ね、ロディ、不律、クピド、レピーダの4人が一斉にビルシャナに襲いかかった。
「持ってけ、ありったけ!」
ガァンッ! 1発しか聞こえない銃声。しかしそれは神業めいたロディの連射。
不律は背中から垂れている出力端子を、ビルシャナに突き刺した。
「これが私の、心」
「ぐおおおおおッ!」
無数の弾丸と、不律の心の内側からわき上がる感情。同時に襲いかかられたビルシャナが、悶絶する。
「魅力と露出とをはき違えちゃ、いけませんよ!」
「ハートごとブチ抜いてアゲルッ!」
飛来する、レピーダの恐るべき威力を秘めた傘……のような、バールのようなもの。かろうじて致命傷だけは避けたビルシャナに、クピドの『恋の弾丸』が襲いかかる!
「うおぉ、恋などいらぬ! 恋などよりも生足! 透けるブラ!」
うめくビルシャナは渾身の力で跳躍し、弾丸を避けた。
「あぁ、ビルシャナ様!」
信者どもは救いに向かおうとするが、かだんが立ちはだかる。
「お前たちはこのジャージをダサいダサいというが、果たしてこれが芋であることを証明できるのか?」
「え?」
「お前らはこれを芋ジャージと呼ぶが、何をもって芋とする?」
「ええ?」
「色か? サツマイモは、食欲をそそる秋の色合いだろうが。それをダサいなどと……サツマイモに謝れ」
「えええ……? あの、意味がわからないんだけど」
「いいから謝れ、サツマイモさんごめんなさい、だ。さん、はい」
「ええと……ええ? ちょっと俺、わけがわからなくなってきた」
「さん、はい」
信者どもは混乱し、わけがわからないうちに、とりあえず謝らされた。
エピと美沙緒も、駆けつける。
「ぷふー! なんですかエピセンパイ、そのダサTは!」
「よけいなお世話です! 最近、盛り乳までしおってからに!」
エピはレピーダを踏みつけて跳躍し、ビルシャナに跳び蹴りを命中させる。
「脱がされる側に気持ちにも、なってみるといいよ!」
美沙緒のオウガメタルが鋼の鬼と化し、ビルシャナの全身を覆った羽毛を吹き飛ばした。
ビルシャナは怒りにまかせて『孔雀炎』をまき散らすが、芍薬とエピのテレビウム『九十九』と『チャンネル』とが味方を庇い、『応援動画』を流す。
「いけそうね。
エネルギー充填率……100%! いくわよ、インシネレイト!」
芍薬は灼熱の掌を、ビルシャナに叩きつけた。しかし敵も炎を放って迎え撃ち、深手は負わせられない。
「往生際が悪いぜ!」
腰を落とし、ロディは主砲を一斉斉射。直撃をうけたビルシャナは、テントを倒壊させながら吹き飛ばされた。
体勢を整えようとするビルシャナだが、そのときにはすでに不律が間合いを詰めている。
両手に構えたナイフが煌めくと、全身を切り刻まれたビルシャナは鮮血をまき散らした。
「信者にも見限られたビルシャナは、哀れなものだな!」
「キュッキュリーン☆ もうおしまいですよ!」
「倒れるか! 倒れるものかぁッ!」
両足を踏ん張ったビルシャナの、理解不能の経文がレピーダに襲いかかる。
「しっかりしな!」
さらなる敵の追撃を防ぎつつ、かだんはレピーダの頬を、
「気合い」
と、音高らかに張り飛ばした。
「お、おっけーです。気合い入りました……!」
目眩は残るものの、レピーダは傘の柄でビルシャナを殴りつけた。
「こじらせることなく、まともに恋をしていたら……こうならなかったかもね」
恋せよビルシャナ。クピドは心を貫くエネルギーの矢を、膝をつくビルシャナに向けて放つ。負傷のせいか動きの鈍いビルシャナはそれを避けきれず、喉元近くに受けた。
「芋ジャージ女ども相手に、恋もクソもあるものかッ!」
ビルシャナはおびただしい量の血を吐き出しながらもクピドに迫り、そのジャージを焼き付くさんとした。
しかし。
「背中がお留守なんだよ!」
いつの間にか間合いを詰め、ビルシャナの側背に回った美沙緒が、霊力でできた剣を大上段にかまえる。
「建御雷神よりさずかりし、悪神を斬り伏せる剣よ! ここに!」
「グエエエエエッ!」
振り下ろされた剣は、怪鳥のごとき断末魔をあげるビルシャナの首を叩き落とし、勢いよく地面にまで食い込んだ。
「お疲れさまー」
すべてが片づき、帰ろうとするレピーダの腕を、クピドがガシッと掴む。
「おっとレピちゃん、そんな芋ジャージでどこへ行くつもりカナ?」
「ささ、可愛い服でも選びに行きましょう。悪いようにはしないからとっておきのメイドふ……いえ、お楽しみにね♪」
と、芍薬も背中を押す。
「いや、普段着と寝間着と勝負服と、ぜんぶジャージで揃ってるんだけど……」
それでいいと思っている女子力が問題なのであるが。
「せめて、可愛い服を選んでもらってくれ」
拉致されていく様を見送り、ロディは呟く。
「だから、それがジャージですよぉー……!」
作者:一条もえる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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