秋、幽玄に燃ゆる

作者:高峰ヨル

 夕暮れとともに、祭りの熱が宵闇と混ざりながら灯篭の灯に照らされる。
 今日は田の神への感謝を奉じる秋祭りだ。小さいながらも歴史ある神社の境内は、日ごろの深閑とした空気と打って変わり、賑やかな喧騒に満たされていた。
 冷たくなり始めた夜風も、ここでは火照るほどの人の熱に遮られる。
 祭りと言えば、様々な出店も楽しみの一つ。おいしそうな匂いで客を引き寄せるたこ焼きや焼きもろこし、色とりどりの綿飴やリンゴ飴、じゃがバターなど定番は大体そろっている。地域の住民達は縁台で団扇を使いながら談笑し、子供たちは小銭を握りしめて出店をのぞいてまわる。
 喧騒の中でもよく通るお囃子は、休むことなく鳴り響く。
 社の板戸を開けば、そこは舞台となり、厳かな巫女舞が始まった。
 素朴ながらも幽玄な舞が奉納される中、祭り囃子に誘われるようにどこからか現れたのは、マグロの奇妙な被り物をした浴衣の少女だった。
「くらーい! ふるーい! つまんなーい!!!」
 少女は叫ぶなり、社の舞台に駆け寄り、飛び乗った。
「あっ、こら君! 降りなさい!」
 少女の正体に気づかず制止しようとした男性は、浴衣の袖に触れる前に火達磨になる。
 悲鳴が上がった。
「暗いから明るくしてあげる♪ キャハ♪♪」
 少女の笑みが炎の陰影に禍々しく浮かび上がる。浴衣の袖を翻し楽し気に手のひらをかざせば、次々と炎の塊が放たれる。
 タールの翼からこぼれた黒い沁みが舞台に黒点を打ち、血飛沫が飛ぶ。
 木造の社は炎に包まれ、逃げ惑う人々も次々と炎の海に飲まれていった。


「埼玉県川越市の祭りがマグロガールに襲われるらしい。マグロの被り物をしているからマグロガール……わかりやすいな」
 弥生・九子(ウェアライダーのヘリオライダー・en0238)は妙なところに感心しながら、説明を始める。
「マグロガールとはシャイターンというエインヘリアルに従う妖精八種族の中の一部隊だ。目的は一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ることだろう。祭りを狙うとは効率の良い方法だが、他にも理由があるのかは不明だ。もちろん、どんな目的であれ見過ごすことはできないな」
「炎か……嫌な予感がこんな形で当たるなんてね」
 ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134)が女性と見紛う整った表情を曇らせると、九子は頷く。
「いかにも、このマグロガールは炎を使う攻撃を得意とするようだ。武器は惨殺ナイフを持っている。自分で創造した蛇を喰らって回復する手段もあるようだな。目立ちたがり屋らしく、境内に現れるとすぐ巫女舞の行われている舞台に向かう。まあ嫌でも目立つ格好なのだが」
 境内の見取り図を広げて舞台となる社を指さしながら、九子の猫耳が困ったように垂れる。
「この辺りは特に人が密集していてな……だが人々を事前に避難させることはできない。そうすれば、マグロガールは他の場所に襲撃場所を移してしまうだろう」
 九子は顎に手を当て、考え込む。
「なにしろ祭りの最中なので、全員避難させるのは難しい。ここはいっそ、戦場を移動してしまうのが得策だな。マグロガールはケルベロスが現れれば先に邪魔者を排除しようとする。この性質を利用すれば、挑発しつつ人の少ない場所に移動することが可能だと思う」
 九子の指が見取り図の一か所を指す。社の裏の林の中にある円形の空き地だ。
「古墳らしいと言い伝えのある少し小高い場所だ。この辺りだけ木々が生えず空き地になっていて、中央には灯の入っていない小さな灯篭が一基立っている。立ち入り禁止になっている場所だが、まあこの際仕方ないだろう。何、祟りなどは気にするな」
 九子は腰に手を当てて、何故か豪快に笑う。状況が状況だけに迷信を気にしている場合ではないのも事実だ。
 そして九子は真顔になる。
「このマグロガールの戦闘力はあまり高くないが、万が一失敗すれば被害は甚大になるだろう。心してかかってくれ」
 そうだ、と九子は付け足す。
「マグロガールを撃破したらお祭りを楽しんでくるといい。巫女舞を見物するもよし、屋台で食べ歩きもよし。ちなみに私はリンゴ飴が好きだ。赤くて丸くてかわいいだろう? 祭りに行ったら必ず買うことにしているのだ」
 九子は赤い蜜を纏った果実を想像したのか一瞬ユルい顔になるが、すぐ頭をブンブン振って、キリッと表情を引き締める。
「どうかこの災厄から人々を救ってくれ。頼んだぞ!」


参加者
ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
浜咲・アルメリア(シュクレプワゾン・e27886)

■リプレイ


 夕暮れの神社。遠く聞こえる祭囃子を聞きながら、ケルベロス達は石鳥居をくぐる。
 石畳の両脇には灯篭が並び、その灯で足元に蟠る影は濃く夕闇に溶けていく。
「縁も所縁もまるで有りはしない筈だが、奇縁と言うものか」
 古刹の風景に溶け込む白い狩衣姿――ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134)は呟きながら、些細なことだとすぐに思考を切り替える。悪夢と成り得るならば、其の悉くを断ち切るまで。
「秋祭りを襲撃とか無粋だな……さっさと決着つけてお祭りを楽しもうか」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)もまた四乃森流の秘術を編み込んだ式服を身に着けている。古い血脈を受け継ぐ陰陽師故か、彼にもこの場になじむ空気がある。
 夜店の多い中央は祭り客で混雑していた。
 間もなく起きる凶行など知る由もなく、人々は心から祭りを楽しんでいる。
「悪逆非道……絶対に見過ごせん。この忍務、必ず成し遂げる。――ケルベロスだ。デウスエクスが現れた、すぐ避難してくれ」
 樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が人々に声をかける。
 警戒心露わにカルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)が周辺を睨めつけると、人々は只事ではない空気を察した。
「神さんと人が一時立場を忘れて楽しむ時に荒事持ち込むたァふてぇ奴だぜ。空気を読めない無粋な奴にはここらで一発キツイお灸を据えてやんねぇとな――林と反対側に逃げろ! 間違ってもこっちには来んじゃねぇぞ!」
 レンの殺界形成とカルナのドスの利いた声で緊張感が伝わると、一般人はケルベロスに従い移動を始める。
「落ち着いて、戦場には近寄らないで」
 浜咲・アルメリア(シュクレプワゾン・e27886)が呼びかけ、戸惑う人々を落ち着かせてまわる。

 夕と宵の間、灯篭の陰からふらりと現れたその姿は、すぐにケルベロス達の目に留まった。
 奇妙なマグロの被り物をした、浴衣の少女。
 その銘は氷纏舞刀・結祈奏――ユウが二振りの斬霊刀を携えてマグロガールの前に立つと、舞台に向かって駆けだそうとしていた少女は目を見開いた。
「挑発の言葉は仲間に任せよう」
 端的に告げ、ユウは静かな瞳でマグロガール見据えた。
「オイオイ見ろよ、魚が人間サマの祭りに参加してやがるぜ! まさか目標のデウスエクスってのはコイツのことか? ……ってんなワケねーか、全っ然弱そうで話にならなそーだしよ」
 突然、草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)が指さして大声で笑った。
 思わずびくっとなるマグロガール。
「ここは陸地ん中の陸地だぜ?マグロの被りもんしてるくらいだったら大人しく海にでも帰んだな」
 ぎゃははは。カルナも笑う。
 仰々しい甲冑姿のシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)が堂々と名乗りを上げる。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参! 私たちはケルベロスだ。魚並みの脳みその貴様でも、ケルベロスの名前くらいは知っているだろう? グラビティ・チェインを得る邪魔をされたくなければ、まずは私たちから先に倒すことだな」
「ケルベロス……知ってる」
 少女が答えると、沙雪が畳みかける。
「そうだ。おまえにとって邪魔者なのに、それをスルーするのか? ああ、そんなふざけた被り物しているくらいだし、知恵までは回らないのか」
「ふざけてないもん! これはゆにほーむなの! 決まりなの!」
 反応するところが違う気もするが、少女はぷんぷんと怒る。
 シヴィルが尋ねる。
「ひとつ疑問があるのだが、どうしてマグロなんだ? デウスエクスの星にも、マグロが生息しているのだろうか」
「それは秘密」
 少女はふん、と拗ねたように横を向いてしまう。
「いずれにしても、お前の思い通りにさせるわけにはいかない」
 寡黙な巨人、ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)は表情を動かさずに言った。それにしてもマグロガールは何と珍妙な形をしていることか。ギヨチネは理解に苦しむ。
 あぽろは子供っぽい少女に呆れながらやれやれと。
「悪ぃけど、デウスエクスの参加はご遠慮くださいってな! 巫女の舞は終わるまで静かにがマナーだぜ?」
「知らない知らない! あそびたいの!」
 駄々をこねる少女に、アルメリアが声をかける。
「あたし達はケルベロスとしてあなたを止めにきた。勝負の場所を用意したわ。正面勝負……逃げないわよね? それとも、あたし達に勝つ自信がないかしら」
 一瞬、その提案に躊躇するマグロガール。
「うーん、どうしようかな~。あっちのほうが楽しそうだしな~」
 舞台を横目にチラチラ見る。
「貴様の求めているグラビティ・チェインは、彼ら一般人よりも私たちケルベロスのほうが豊富だぞ?」
 シヴィルが冷静に突っ込むと、少女はその点を失念していたらしく、はっとする。
 レンが嘲笑う。
「ふん、シャイターンは妖精8種族で最弱の臆病者と聞き及ぶが確かにその通りか。我らケルベロスとは戦えないと見える。――そうでないというなら……ついて来い!」
「上等だよ! そんならお前らから火達磨にしてやる!」
 マグロガールはあっさり挑発に乗ってきた。


 古墳とされる空き地には灯りのない古い灯篭が一つ。周囲にはユウとレンが設置しておいた明かりに照らされていた。
 沙雪は神霊剣・天の刀身を刀印を結んだ指でなぞるような仕草をする。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪、参ります」
 指先が滑り、切っ先にかかるかの刹那――鋭い突きがマグロガールを強襲。避け損ねた浴衣の袂がはじけ飛び、白く細い腕が剝き出しになった。
「へー、結構やるじゃないっ!」
 ボッ
 マグロガールの両手に炎塊が現れる。浮かび上がる笑顔はかわいらしい造作のくせに、ゾクゾクするような狂気に染まっていく。沙雪に向かって突っ込んでくるや否や、炎の塊を叩きつけた。
 燃え上がる炎に、薄暗い空き地が一瞬昼間のような明るさになる。炎を得意とするという前情報通り、その火勢は侮れないものがあった。
 シヴィルは表情を引き締め、サン・ブレードを逆手に構える。
「ふざけた格好の敵だと聞いて、思わず気が緩んでしまっているな。人々を守るために、気を引き締め直さなければ!」
 炎を照り返す甲冑姿――タックルでマグロガールの側面から攻めると、変形した刃を突き立て、引き裂く。
 渇いた土がむき出しになった地面から蔓植物が這い出し、周囲に花園が展いた。
「詩人の後胤よ、我が見るは、汝が母なり」
 法悦の殉教女――瞑目したギヨチネの表情は堅く変わることはないが、咲き乱れる花々の芳香に心なしか悦の光がほの見える。
「太陽の巫女の舞はつまらねーか? もっと激しく踊ってやるよッ!」
 あぽろの古き太陽神の力を宿す刀が魔力を纏えば、加護はより密度を増す。太陽の加護が敵の炎を圧倒し、打ち払う。
 アルメリアは、そんなあぽろを眩しそうに見ていた。無表情に淡々と、輝ける太陽とは対照的な落日を思わせる茜の袖に、秋草模様が舞い躍る。祭のひとつの余興のように、放出されたオウガ粒子が覚醒を呼ぶ。
「大丈夫。あたしが、守る」
 守る事がアルメリアの戦いだった。ウィングキャットのすあまが主に続き、清浄の翼をはためかせて駆け抜けた。
 レンが螺旋氷縛波で追撃をかける。
「命の重みを、定命の魂がGチェインを秘める意味も知らず――只々炎に狂い略奪とは哀れな」
 覆面に半ば隠した表情は、目元だけでも雄弁にその思いを語る。
 ユウは二振りの斬霊刀を鞘に納め、無銘のゾディアックで前衛陣へとスターサンクチュアリをかける。圧倒的な光の中でなお、星々は静かな煌きで仲間に加護を齎す。
 そして、俄かに激しい黒煙が光を掻き乱す。カルナのエアシューズに装着されたウェポンエンジンが黒煙を吐き、放電を放つ。突きの如く鋭い蹴りが、マグロガールの被り物に突き刺さった。


「うー! もう怒った!」
 残った袂からするりと滑り出した惨殺ナイフは、その刃にあぽろの姿を映し出した。
「え、やだ……っ! なにこれ!」
 咄嗟に、何かを振り払うように跳び退るあぽろ。
「しっかりしろ、ただの幻だ!」
 レンの分身があぽろに寄り添い、そのトラウマを掻き消した。
「あはは、いい気味!」
 マグロガールの襟元から這い出た蛇は、ぬるりとした光沢の鱗に炎の艶が照り返す。そいつを頭から啜り齧り、マグロガールはニタリと嗤った。
「ハッ、性格といい一々癇に障るヤロウだぜ。その浮ついた性根に焼き入れてやんよ――哭き叫べ、『Brute howl.』!」
 カルナは口の端を持ち上げ、殺意の笑みを閃かせる。機械式の右腕が肘から先が黒光りする銃の砲身に変化し、真っすぐに、直向きに敵を狙った。放たれた渇望の魔弾は、二度とは離さぬ獣の執念で喰らいつく。
「お前もお前もお前もぉ! お前も燃えろぉ!」
 マグロガールが投げる炎塊――ギヨチネは多数をその身で受ける。全身を炎に包まれ、微かに唸りを漏らす。だが敵にすら憐みの籠った静かな眼差しは、焔の中でも揺らがない。
「自分たちを倒せないようではまともに仕事も出来ないだろう」
 挑発し、炎の中から火の粉を纏った拳で殴る。
「いったーい! この死にぞこないがぁ!」
 マグロガールはますます激昂を募らせ、炎が荒れ狂う。
 最中、ゆらりと静かな白い狩衣が動いた。
「丁度今は祭りの最中だ。精々、踊り狂うと良い。眠れ。永久の世界――ユメの中で」
 ユウの夢幻凍奏――時の理の停止した真白の世界。独自の固有技法で生み出された一振りの槍が、炎を圧する冷気を持ってマグロガールを貫いた。
「調子に乗るな……お返しだ!」
 沙雪は自らのグラビティ・チェインを叩きつけて、マグロガールの盾を割る。
 アルメリアの周囲に薄紅の靄が立ち込め、徐々に幾重もの花弁と化す。曰く、『芍薬無くして霊華は咲かず』――浄化の氣を持つ芍薬がギヨチネを苛む炎を掻き消し、靄に溶けるように癒していく。
 味方の持ち直した好機、レンが攻勢に出た。
「命の重みを、定命の魂がGチェインを秘める意味も知らず、只々炎に狂い略奪とは哀れな。今俺達が安寧を授けてやる。覚悟!」
 螺旋の力を込められた草草が、数多の分身に変わる。
「この世を照らす光あらば、この世を斬る影もあると知れ」
 レンの分身の包囲に逃れる術はなかった。再びマグロガールの盾が消し飛ぶ。
「鬼魔駆逐、破邪、建御雷!臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 沙雪の破邪聖剣・建御雷。刀印を結び、九字を唱えつつ刀印を結んだ手で印を四縦五横に切れば、指先に生じた光の刀身が魔を斬り伏せる。
「ぅう……! もうやだ。ケルベロスなんてやだ! もう帰る!」
 浴衣を翻して駆けだそうとすると、
「逃がさないよ」
 アルメリアが退路を塞ぐよう立っていた。マグロガールは立ち止まり――その逡巡が命取りとなった。
「祭りより派手で激しいモン喰らわせてやるよ……!」
 あぽろの超太陽砲が待っていた。右手に力をバチバチとチャージ。至近距離から極太の焼却光線。
「喰らって消し飛べ!『超太陽砲』!!」
 轟音と共に空に伸びる光の柱は勝利の祝砲となった。
 炭の塊となったマグロガールは、塵となって霧散した。


「お前もエインヘリアルの滅びの犠牲者なのだろうな。その魂の救いと重力の祝福を願う――どうか安らかに」
 瞑目し、片合掌するレン。
 シヴィルと沙雪がヒールで周辺の被害を修復してまわる。
 沙雪の弾指が戦場の空気を日常に引き戻す。握りこんだ拳に籠っていた力は抜け、手のひらを開閉して微笑んだ。
「せっかくだから、お祭りを楽しんでいこうか」
「ああ、そうだな」
 ギヨチネは相変わらず無表情だったが、同意する。

 祭りを救ってくれた恩人ということで、ケルベロス達は人々から大いにもてなしを受けた。
 無料でいいと申し出る出店が多かったが、カルナは断った。
「射的は賭けてないと面白くないだろ?」
 にんまり笑うと、台の上に身を乗り出し、いっぱいに伸ばした腕でコルクを詰めた空気銃を撃つ。
 ぽんっ
 見事、特大のキャラクター人形を仕留めた。
「よし、もう一回な!」
 小銭を店主に放ってコルクを詰め直し、カルナは片目をつぶって構えなおす。しばし童心に帰って熱中するのは楽しかった。
「私は昔から、じゃがバターには目がなくてな」
 シヴィルは湯気の立つイモに笑顔になる。溶けたバターのしみこんだ熱い塊を頬張ると、甘しょっぱい風味が口の中に広がる。シヴィルはあっというまに平らげてしまうと、さらにたこ焼きを買って巫女舞に向かう仲間と合流した。
 沙雪は屋台を巡りながら、恋人のために持ち帰る食べ物を見繕っていた。彼女の顔を思い浮かべながら、どんなものを喜ぶだろうと。店主たちはあれも持っていけこれも持って行けと、土産を山ほど持たせてくれた。
 公民館の更衣室を借り、浴衣に着替えたギヨチネ。褐色の巨人は浴衣姿もなかなか様になっている。香ばしい香りの焼きトウモロコシの屋台を見つけ、一つ求める。かぶりつけば、果汁にも似た甘い汁が甘辛いタレと交じり合う。旨い。
 ユウは特に目的も無く仲間に付き合う様にして行動していたが、ふとアルメリアの姿が目に入る。
「こんなに、沢山でお祭りに行くの、はじめて」
 アルメリアは着物の袖を振り振り、祭りを楽しんでいた。
 甘いものが大好きなアルメリアはリンゴ飴の屋台の前で立ち止まる。赤だけでなく、色とりどりの色飴をまとったリンゴ達。元々入院生活が長かった身には物珍しくて、つい目を奪われた。
 そんなアルメリアに、ユウが声をかける。
「おごろうか」
「え、いいの?」
 ユウはこくりと頷くと、九子へのお土産も含めてリンゴ飴を三つ買う。
 いつも淡々とした表情のアルメリアは、少し不器用に礼を言ってリンゴ飴を受け取った。
 レンも九子がしきりに気にしていたリンゴ飴を買った。光沢を纏った果実をまるごと串に刺したそれをしげしげと眺め、覆面を解いてかじってみる。パリッとした飴と爽やかな香りが口の中で弾けた。
「初めて食べるが……うん美味い」
 レンも気に入ったようだった。

 お囃子の調子が変わり、巫女舞が始まった。
「へぇー、改めて見るとここのも見事な舞だな」
 火の巫女であるあぽろは同業者として舞に興味があった。
 炎を思わせる激しい舞とは異なる、秋の趣の幽玄の舞。
 この時ばかりはカルナも静かに鑑賞していた。
 仲間と雰囲気を共有し、シヴィルは心地良い連帯感を覚える。
 ギヨチネは巫女舞を眺め、老人にその意味や由来などを尋ねている。
 リンゴ飴に舌鼓を打ちながら、レンは巫女舞を鑑賞する。祭りの喧騒が、賑やかな音や声、笑い声が心地よかった。
「俺達が護ったもの、だな」
 これからも守り続けよう。仲間の心強さと温もりとを感じながら、レンはそう誓いを新たにするのだった。
「……守れて、よかった、ね」
 アルメリアは心からそう思った。

作者:高峰ヨル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。