苦しみは黒きペチュニアに包まれて

作者:陸野蛍

●弱者を呼ぶ攻性植物
 午前0時。
 本来なら、この時間にこの森へと足を踏み入れるものはいないだろう。
 だが、学ランを着た長い前髪で表情の読み取りづらい青年は、まるで夢遊病者の様に森の中をゆっくりと進んで行く。
 そして、青年は自分を此処へ呼んだ存在を目にする。
 身体の大半を植物に侵されながらも、薄気味悪い笑みを浮かべる金髪の男。
「待ってたぜ。お前もカースト下位の人間なんだろ? こんな世界壊れちまえばいいよな? だから、俺様が力を与えてやるよ」
 その言葉を聞くと青年は、こくりと頷き、その男……攻性植物の緑の洗礼に身を委ねた。
 数刻後、市街地の家々が次々に植物の化け物に襲撃された。
 襲撃された家々の共通点は、高校生男子が住む家庭と言う事だけだった……。

●青年に死と言う眠りを
「みんな、お仕事の説明を始めるぞ。集合!」
 資料片手にヘリポートに現れた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、いつもの如く大きな声でケルベロス達に呼びかける。
「ある市街地の近隣の森から攻性植物が現れ、家々を襲撃しようとしている事が分かった。攻性植物の目的は、グラビティ・チェインの略奪だ。みんなには、攻性植物が市街地に侵入する前に接触してもらってこれを撃破して欲しい」
 そこまで言って、雄大は頭をクシャクシャと掻く。
「撃破対象の攻性植物は、中に人間が囚われているんだけど、何者かの配下になっているみたいで説得での救出は無理みたいだな。攻性植物と切り離すのも不可能、酷だと思うけど攻性植物ごと眠らせてやるしかない」
 雄大としても、苦渋の判断なのか顔を歪める。
「囚われたのは、玄田泰明。高一男子。数日前から捜索願いが出てたらしいんだけど、俺の予知に引っかかったと思ったら、もう取り返しのつかない状態になってたって感じだな……」
 言いつつ、雄大は少し引っかかる何かがある様で、指を顎に当てる。
「運悪く一人で森に入って、攻性植物に捕えられてしまったってことなんだけど、高校生にもなって一人で森に入る事ってそんなにあるかな? なんか嫌な感じがする……予知じゃなくて予感なんだけどな」
 雄大本人もその感覚が上手く説明出来ないのか、渋い顔をする。
「とにかく、泰明を取り込んだ攻性植物は撃破するしかない。敵の戦闘力について説明するぞ。攻性植物のベースとして近い植物は黒いペチュニアで、その攻撃手段は、黒い花弁を風に舞わせて攻撃する広範囲斬撃、四肢の葉での斬撃、最後に独特な香りにグラビティを込めた催眠攻撃の3つだな」
 香りによる攻撃は視認不可能なので、特に注意が必要とのことだ。
「攻性植物の目的は、グラビティ・チェインを略奪して何処かへ持ち帰る事と仲間になり得る人間を連れ去り攻性植物化することだと思われる。なんか作為的だから、それ以上の目的があるかもなんだけど、それ以上は分からない。とにかく、撃破対象をちゃんと撃破出来れば、攻性植物の思惑は潰せる。撃破対象の討伐を第一に考えてくれ」
 ケルベロスが万が一負ける様な事になってしまえば市街地は、甚大な被害を受けてしまうだろう。
「辛いだろうけど、攻性植物に取り込まれてしまった、泰明を救う事は出来ない。要因として考えられるのは、泰明を攻性植物化した、何かもしくは何者かの力が働いているって所だな。原因に関しては俺の方でも調べてみるけど、警戒活動に力を入れた方がいいかもな」
 敵の全容が分からない以上、また同じような事件が引き起こされる可能性が十分に考えられるからだ。
「ますは、目の前の脅威だ。攻性植物の撃破、そして泰明が人を殺める前に眠りにつかせてやってくれ。頼むなみんな!」
 真摯な瞳で言うと、雄大はヘリオンへと駆けて行った。


参加者
無拍・氷雨(レプリカントの自宅警備員・e01038)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)
川北・ハリ(風穿葛・e31689)

■リプレイ

●不条理な戦い
 木々を揺らす風も冷たくなり始めた、秋の夜。
 ケルベロス達は、敵……いや、殺さなければならないモノとなってしまった青年が現れるのを待っていた。
「……元に戻せず。本来なら私達がお守りするべき命を、私達自身の手で終わりにしないといけないだなんて……本当に悔しいです」
 辛そうに眉を潜め、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)が、そう口にする。
「……攻性植物さんの動きが変わっている様で気になりますけれども……今は、出来るだけ早く泰明さんを解放して差し上げましょう」
 今回の相手は、攻性植物だ。
 高校生である、玄田泰明をその身に囚えている。
 岳の言う解放とは、死をもって眠りにつかせると言うことだ。
 泰明はまだ罪を犯していない……言わば、デウスエクスの被害者と言える。
 普段のデウスエクス事件と違って、中々割り切れない者も居た。
「泰明さん……救うことが出来ないなんて、悔しいです……」
 風に靡く橙の髪を左手で抑え、ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)も悲しげに言う。
「けれどせめて……これ以上『心』が失われない為にも……」
 心が完全に失われれば、人は人で無くなってしまうだろう。
 だからこそ、ルーチェは泰明が罪を犯す前に……人の心が残っているうちに、人として泰明を眠りにつかせたいと思っていた。
「それにしても……」
 羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)が仲間達に問いかける様に言葉を発する。
「大淀さんの言っていた様に、どうして泰明さんが森に入ったのか……そこが気になります」
 紺は、ヘリオンでの移動中もずっと考えていた。
 ヘリポートで雄大が口にした疑問……。
『高校生にもなって一人で森に入る事ってそんなにあるかな?』
 紺が思案しても確かにそうなのである。
 高校生男子が1人で森に入り、攻性植物化し街を襲う。
 不審な点が多すぎるのだ。
 何かが裏で動いている……そう考えるのが自然かもしれない。
「何でもいいので手がかりが欲しいところです」
 泰明と対峙する事で、その疑問の一端でも分かればと紺は考えていた。
「……現れたみたいだな」
 煙草に火を灯しながら、ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)が呟く。
 森から這い出る様に、体中に黒のペチュニアを咲かせた攻性植物……玄田泰明を取り込んだモノが現れる。
「さぁて、状況開始だ……」
(「……慈悲は無い。己の弱さで、他者を巻き込む様な破滅を導く結論に至るのは、生身に戻れたとしても救いようが無いからな」)
 ラズェの煙草の先が赤く蛍火の様に光ると、一陣の風が吹き攻性植物の黒い花弁が宙を舞った。

●強さを求めて
(「包囲陣形から逃がさない様に」)
 刀に月の輝きを映しながら、無拍・氷雨(レプリカントの自宅警備員・e01038)は、攻性植物へと斬撃を放つ。
「救えないのなら……せめて、地獄の番犬が彼岸へと送ろう」
 ライトニングロッドを掲げると、新条・あかり(点灯夫・e04291)は、前を固める仲間達を守る為に雷の障壁を作り出す。
 あくまでクールに、地獄の番犬ケルベロスとして戦場に立つ事を誓っていた、あかりだったが、実際に攻性植物を見てしまえば、心がチリチリと痛む。
 攻性植物が身体の大半を侵食しているとは言え、泰明自身の人としての顔や体もまだ、目に映るのだから……。
 口に含んでいたカモミールキャンディを思わず噛み砕くと、口の中に広がるのは、ほろ苦さ……今、感じている心を締め付けられる思いに似ていた。
 泰明を救えない無力感、そして悔しさ……それら全ては胸にある。
 それでも……。
「……だって僕は地獄の番犬だから」
 表情に出さず淡々と自分に言い聞かせるように言うと、あかりは二度目の障壁を構成する為のグラビティ・チェインを高めていく。
「タカラバコちゃん、みんなのカバーをよろしくね!」
 相棒の『タカラバコ』にそう声をかけると、火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)は、手にしたチェーンソー剣で一度、攻性植物を引き裂くと半歩下がり、右手薬指のリングに願いを込める。
(「お願い……。わたしが最後まで強くあれるように守って」)
 そう願わずにいられない程、ひなみくの心も揺れていたのだ。
(「……助けられない任務……私達には、眠らせてあげることしか出来ない。……悔しい。……助けてあげたいのに」)
 心の中で呟いても、自分達が成さねばならない事は、ひなみく自身が一番よく分かっていた。
「……終わらせてあげるよ、泰明くん。そして……絶対絶対、元凶を倒してあげる!」
 優しさの中に強さを込めて、ひなみくは改めてチェーンソー剣を攻性植物に向ける。
「撃たれたいなら、仕方ありませんね」
 リボルバー銃『霜月』に淡緑色の魔力弾を込めると、川北・ハリ(風穿葛・e31689)は、狙い澄ましてその弾丸を攻性植物に撃ち込む。
(「泰明さん……」)
 ハリの心にあるのは、泰明を救えない憤り……そして、泰明をこんな姿にした、何者かへの怒り。
(「……泰明さんを攻性植物に取り込ませた何者かの目的が、何であっても……こんな方法を用いる相手なら、容赦しなくていいですよね」)
 まだ、相手に辿り着く糸口も掴めていない、何者かもわからない……それでも、辿り着く事が出来たのならば、この悲しみを怒りをその何者かにお返ししなければ気が済まない……いや、納得出来ないと言った方がいいかもしれない。
 きっと、泰明が本当に望んでいたのは、こんなカタチにされる事では無かったと、ハリは信じていたから。
「打ち抜け、太陽のビート! サンライト……インパルス!!」
 熱く叫ぶと、打ちつけた拳から特殊な波長を攻性植物に流し込むルーチェ。
 拳に手応えはある……だが、ルーチェの表情は冴えない。
 ルーチェは普段から、魔法少女であらんと華やかに勝利を勝ち取って来た。
 だが、今は……この攻性植物と戦っている間は、憧れの魔法少女でいる事が躊躇われた。
 理由は自身にも漠然としか分からない……ただ、嫌な予感……胸騒ぎがするのだ。
 泰明を侵食している攻性植物から感じる、何かしらの悪意が胸を締め付けるのだ。
 ただの杞憂かもしれない……けれど、ルーチェは自身が泰明の歯車を狂わせた一つの要因に絡んでいるのではないかと思えて仕方なかった。
「ルーチェちゃん! 前! タカラバコちゃん動いて!」
 一瞬動きの止まったルーチェを庇う様に前に出たタカラバコが、ルーチェの代わりに、攻性植物の斬撃を受ける。
(「今は、戦闘中です。余計なことは考えちゃ駄目です。泰明さんを倒す事を躊躇っては、駄目なんです」)
 泰明を助ける事が出来ない悲しみを心の奥底に押し込み、ルーチェは攻性植物を『キッ』と睨む。
「雷光の守護を!」
 岳が雷を降らせれば、タカラバコの傷が癒えていくと共に、守護のグラビティが仲間達を包む。
「色々と嫌な事があったのですね。さぞお辛いでしょう……」
 岳が泰明を憐れむ様に語りかける。
「でも、思い出してください。貴方のご家族やお友達を……幼い時から今までの事を」
「目標捕捉。撃ち抜かせてもらうぜぇ?」
 岳の言葉を遮る様にラズェの声が響くと、ラズェの『十二式縮展迫撃砲』の主砲が一斉発射される。
 次々と攻性植物に降り注ぐ砲弾。
「そう言うのは、もう少し動きを止めてからの方がいいと思うぜ。……負けちまったら誰も救えねえんだぜ?」
 攻性植物から視線を逸らさず、ラズェが岳……いや、仲間達に言う。
「ラズェさんの仰る通りです。私達の任務は泰明さんを助ける事では無く、攻性植物を撃破する事です」
 淡々と口にしながら、紺はドラゴニックハンマーを砲撃形態にすると、竜砲弾を撃ち放つ。
(「事件の手掛かりは少しでも欲しいところですけれど」)
 氷雨のブラックスライムが捕食の形で攻性植物を襲えば、ひなみくの流星の軌跡を描く蹴りが攻性植物にヒットする。
「……僕の」
「えっ?」
 攻性植物……いや、泰明が初めて口を開いた事で、あかりが思わず聞き返す。
「邪魔をするなーーーー!」
 泰明の叫びと共にペチュニアの黒い花弁が夜闇に勢いよく舞うと、ケルベロス達を一気に傷つける。
「あかりさん、回復をお願いします! 私が惹きつけます!」
 口早に言うと、ハリは『霜月』を攻性植物に向け引鉄を引く。
「岳さん! パラライズの解除を手伝って!」
 あかりが雷撃の癒しを仲間達に施すが、付与されたグラビティを完全に除去する事が出来す、岳に助けを求める。
「はい! みんなを傷つけさせません! 雨が花弁や香り……ペチュニアの悪しき力を吹き飛ばします」
 岳が天に手をかざせば、癒しの雨がケルベロス達に降り注ぐ。
「……からかわれるの嫌だよね」
 癒しの雷雨を受けながら、ひなみくが静かに口を開く。
「でも、今の姿でわたし達の目を見られる? 自分の意思で向き合ってるって言えるの? 違うよ、そんなのは強さじゃない!」
「邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ、みんな嫌だー!」
 ひなみくの言葉を聞いても泰明は否定の言葉を繰り返すだけだ。
「断ってしまえば良かったんだ! それが強さなんだよ!」
 緑の瞳に強い意志を込めて、ひなみくはハッキリとその言葉を泰明にぶつけた。

●黒きペチュニア
「トラウマを植え付けても、有益な情報はくれないみたいだね」
 ナイフを片手に氷雨が呟く。
 戦いの中で、氷雨は攻性植物にトラウマを見せ続けていたが、時折発狂する様な声を挙げるだけで、泰明は攻性植物に至るまでの情報を口にしていなかった。
「辛いでしょうが、学校での思い出をもう少し思い出してもらいます。戦い争う者の宿命です。どこへ行こうと、決してあなたを逃しません」
 紺の呼び声と共に戦いの最中に散った者の怨嗟が、おぞましい幻覚となって、攻性植物を……泰明を襲う。
「止めろ、止めろ、止めろ、止めろ――!」
 泰明が叫べば、ペチュニアの甘い芳香が辺りに香り出す。
 だがすぐに、あかりがオウガメタルに語りかけることで、その芳香の威力を打ち消して行く。
「ペチュニアの香りはこんな使い方をするものじゃないよ。ペチュニアの花言葉は『あなたと一緒なら心が安らぐ』……あなたは誰かを憎んでいた訳でも、壊したかった訳でもないんじゃないのかな……」
 あかりが泰明だったモノに語りかける。
「あなたは、ただ……心安らぐ様な誰かに一緒に居て欲しかっただけじゃないのかな? ……どうして、森へ行ったの? そこに安らぎはあった?」
「壊すんだ、壊すんだ、壊すんだ……こわすんだ」
 うわ言のように言葉を繰り返す泰明に、ルーチェのオーラを凝縮した一撃が直撃する。
 それに続く様に、手の平を攻性植物に向けたラズェの声が響く。
「念仏はあの世で1人唱えとけっ!!」
 ラズェの手の平が一瞬光ると、攻性植物の周囲のグラビティ・チェインが分解され、強力な熱エネルギーと電子エネルギーとなって攻性植物を襲う。
「ペチュニアの語源は嫌いじゃあねぇが、そういう事だ。散ってくれ」
 あくまで任務として、ラズェは攻性植物になったモノを壊して行く。
(「お仕事なんです!」)
 目頭が熱くなりながらも、ハリはリボルバー銃の引鉄を引き続ける。
(「攻性植物に取り込まれて、助からない相手が……もし親しい相手だとしたら……私はそのヒトを、敵と認識して撃つことができるのでしょうか……今の様に」)
 攻性植物に取り込まれた泰明を被害者として同情はするし、助けたいとも思う。
 だが、ハリにとって泰明はあくまで一般市民の内の1人でしか無い。
 多くの市民を助ける為の犠牲ならば、そこに罪悪感はあっても、引鉄を引く事は出来る。
 だが、自分の親しい人に向けて銃口を向けられるか……今と同じ状況になった時にケルベロスとして引鉄を引けるか……。
(「……今は分からないけれど、きっと何よりも怖くて、何よりも悲しいこと、ですよね」)
 答えが出る事では無い……そうならない様に祈ることしか出来ないのだから。
「この世界は、人達は……決して貴方を拒んでいた訳ではないでしょう? 沢山の光もあった筈です。どうかそれを思い出して下さい。貴方はなぜ夜の森に入られたのですか?」
「痛い、苦しい、壊したい、もう嫌だ……」
 岳の問いにも泰明は答えず、苦悶の表情で負の言葉を繰り返す。
「……そんな姿に変えられて。世界から切り離されて、さぞご無念でしょう。……今お救いします」
(「込める誓いはトルマリンの輝き……石言葉は希望。せめて心に希望を宿して眠りにつかれますように……どうか……」)
「『想い』の力、受け取って下さい!」
 岳が思いの丈を込めて大地を割ると、亀裂から夥しい光が溢れ、その光は衝撃波となって、大地のエネルギーで攻性植物を飲み込む。
 夜闇すら照らす、光が消え去った後に残ったのは、腰から下と左手を失い、右顔を攻性植物に侵され横たわる青年だけだった……。

●安らぎが欲しかった
「……力を貰えば何かが変わると思ったのかな」
 無惨な姿となった泰明は、瞳を閉じ、何もかも悟った様な口調で周りにいるケルベロス達にそう言った。
「……ねえ泰明くん、その人とはどうやって出会ったの?」
 ひなみくが辛そうに聞く。
「……呼ばれたんだ」
「それで、森へ行ったんですか?」
 紺の言葉に泰明は頷く。
「泰明さん、あなたと目を見て話をしてみたかったよ……」
 あかりは、紫色のペチュニアのブーケを泰明に捧げながら呟く。
 紫のペチュニアの花言葉は……『追憶』そして『あなたが必要』
「僕は……安らぎの日々が……普通の日々が欲しかっただけなんだ……」
 そこまで言うと、泰明の身体は植物が急速に朽ちていく様に、グラビティ・チェインが溢れ出し、形を失っていく。
 ほんの数十秒後には、泰明が居た証は何も無くなっていた。
「せめてお身体を、ご家族の元へ帰してあげたかったです……」
 攻性植物の力を一度受け入れてしまったとは言え、遺体すら残らなかったというのが、岳は悲しかった。解剖して、原因を探ると言う目的も有ったが、仲間達の気持ちを考えると、それを口にすることは、憚れた。
 ひなみくは、自分の髪に咲く白菊を泰明の為に、そっと一輪風に流した。
 彼が弔いなど望んでいないと分かっていても……。
「恨み恨まれ。救える手は限りなく少ない。今回は市民の手を取るしか無かったってことさ。……悪く思うなよ」
 煙草の煙を吐き出しながら言うと、ラズェは1人その場を後にする。
 それに続く様に仲間達がその場を後にする中、ルーチェだけは動けずにいた。
 自分はヘリオライダーでは無い……だから予知では無いと分かっている。
 それでも、ルーチェは確信にも似た思いを抱いていた……。
 この事件はまだ終わっていない……。
 秋の夜の風がルーチェの不安を一層強めていった……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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