マジシャンは魔法を使わない

作者:秋津透

 岐阜県岐阜市、郊外の山の中。
 ほとんど人の立ち入ることのない山林の一隅に、異様な三人組が出現した。一人は奇術師のような派手な服装の若い女性、一人はだぶだぶの道化師服を着た性別不明の小柄な人物、一人は蝶ネクタイをつけた給仕のような格好をした大男だが、三人とも顔面を螺旋模様の仮面で覆っている。デウスエクス・スパイラス……螺旋忍軍だ。
 そして奇術師のような姿の女が、他の二人に命令口調で告げる。
「この街に、魔法を使わず、魔法を使っているかのような効果をトリックによって発生させ、見物人を驚かせ楽しませることを仕事にしている奇術師(マジシャン)と呼ばれる人間がいるようです。その人間と接触し、仕事内容を確認、可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「……はあ」
 我々は何もトリックなど必要とせずに超越の技が使えるのに、いったい、なぜ、そんなことを、と言いたげな風情で大男が首をかしげたが、小柄な道化師が甲高い声で応じる。
「了解しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの作戦も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう?」
「ええ、その通りよ。あなたたちの働きに、期待します」
 ミス・バタフライと呼ばれた奇術師風の女は、軽くうなずくとそのまま姿を消す。その後には、半透明な蝶が何匹か舞っていたが、やがてカードに変化して地面に落ちた。
 ……これは奇術じゃないのか?

「相変わらずというか何というか、ミス・バタフライのやることはわけがわからん」
 憮然とした表情で、久遠・征夫(静寂好きな喧嘩囃子・e07214)が唸る。
「今度は、奇術師(マジシャン)の仕事内容を確認、可能ならば習得した後、殺害だと? てめー自身が奇術師みたいな格好してるくせに、何を考えてるんだ、いったい?」
「ええと……岐阜県岐阜市で、螺旋忍軍のミス・バタフライが策動を行うという予知が得られました」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、当惑気味の表情で告げる。
「例によってミス・バタフライは、二体の配下に向け、岐阜市に住むある人物の仕事内容調査、可能なら技術技能の習得、そして殺害を命じました。今回狙われているのは、既に久遠さんが言われていますが……奇術師(マジシャン)です。魔法を使わず、トリックによって魔法のような効果を見せ、興行している人です」
 そう言って、康は一同を見回す。
「調べたところ岐阜市には、過去に日本各地やアメリカなどで大規模なマジックショーを行い一世を風靡した、ミスタークエスチョンという芸名の奇術師の方が住んでいるようです。今は、事実上引退されているようですが、おそらくミス・バタフライ配下の二体の螺旋忍軍は、この人に接触してくるでしょう。しかし、事前にこの人に警告して、避難とか身を隠すとかの対応をすると、アマチュアなどの別の奇術師の方が狙われるかもしれません。そうなると、防ぎようがなくなってしまいます」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「ミスタークエスチョン氏は、岐阜市郊外の邸宅に一人住まいされているようです。弟子入り志願をするか、マジックショーの開催を依頼するか、何かの取材と称するか……とりあえず急ぎさえすれば、螺旋忍軍に先んじてミスタークエスチョン氏に接触することはできると思います」
 接触した後どうするかは、状況次第だと思いますが、と、康は肩をすくめる。
「ミス・バタフライが差し向けてくる螺旋忍軍は、二体。予知の中では道化師の服を着た小柄な人物と、お仕着せ姿の大男の二人で、能力は不明ですが武器らしきものは持っていないようです。他の職業ならともかく、弟子入り志願か何かで奇術師に接触してくるなら、そのままの格好で来るかもしれません。どうやって接触してくるのかは、まったく分かりませんが、大柄と小柄の二人組に対しては、警戒が必要かもしれません」
 そう言って、康は一同を見回す。
「ミス・バタフライ……螺旋忍軍が、なぜ魔法を使わない奇術師の方をわざわざ狙うのかは分かりませんが、風が吹けば桶屋が儲かる式に、連鎖しての大事件を起こそうとしているのかもしれません。いずれにしても、螺旋忍軍が一般人を狙っているのを、放置はできません……どうか、よろしくお願いします」


参加者
マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)
柚野・霞(魔法少女まじかるかすみん・e21406)
巽・清士朗(町長・e22683)
セラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529)
アーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)
美津羽・光流(水妖・e29827)

■リプレイ

●弟子入り……と申しましても
「あんたに憧れてたんだ! 頼むぜ、弟子にしてくれ!」
 往年の大奇術師ミスタークエスチョン氏が弟子入り志願のケルベロスたち……木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)柚野・霞(魔法少女まじかるかすみん・e21406)巽・清士朗(町長・e22683)セラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529)の五人の前に姿を現すと同時に、ウタがいきなり土下座して告げる。
「あと、住み込みで頼むぜ! 給料はなしでいいからさ!」
「ふむ……どうも君は、いろいろと誤解しているようだな」
 ミスタークエスチョン氏……痩せて小柄、銀髪に薄い色付きサングラス姿の矍鑠とした老人は、弟子入り志願者たちが記載した書類と本人たちを見比べながら、抑えた口調で応じる。
「まず、私は弟子を『生徒』として扱う。技能としての奇術を教えるが、私の身の回りの世話などしてもらうつもりはない。給料は出さないし、逆に月謝を取るぞ」
「……え?」
 月謝を取られるのはともかく、それじゃ護衛する上で不都合なんだけどな、と、ウタは土下座体勢のままで老奇術師を見上げるが、相手は事務的に言葉を続ける。
「それから、住み込むことはできるが、別棟の寮を使ってもらう。寮費は取らんが、電気ガス水道代は使用者負担だ。それから何より先に……未成年者は、親の承諾書がなければ弟子にはできん」
「ええ?」
 ウタだけではなく、楓と霞も顔を見合わせる。霞は十八歳、ウタは十七歳、楓は十五歳……つまり未成年者だ。
「親は……いないんだ。事情があって……」
 ウタが告げると、老奇術師は三人をじろりと見やる。
「三人ともか? しかし、親はおらんでも保護者がおるだろう?」
「……私が保護者です」
 清士朗が前に進み出て、告げる。
「巽清士朗と申します。諸事情あり、この子らの保護者役になっていますが、私自身を含め、皆、奇術に興味があり、地元でサークル活動をしております。このたび木霊君が、憧れのミスタークエスチョン師に弟子入りしたいとのことで、ならばサークルメンバー皆で弟子入りをお願いしようと参上いたしました」
「なるほど。しかし、君たちは承知しているのか? 私の奇術は、危険を伴う極限状態からの脱出マジックだ。興行は命懸けになるし、訓練にも相応の危険が伴う。素人奇術サークルのメンバーが、ステップアップのために学ぶようなものではない」
 そう言って、老奇術師は一同を見回す。
「……おや? お嬢さん方を含め、皆、覚悟は充分なのか? ふむ……何か事情がありそうだが、無理に聞く気はない」
「畏れ入ります」
 頭を下げた清士朗に、老奇術師は数枚の書類を渡す。
「君たちは『巽サークル』として受け入れる。未成年メンバーについては、保護者の君に責任を負ってもらう。それでいいかね?」
「畏まりました。有難うございます」
 穏やかに応じて、清士朗は書類を受け取った。

「しかし、内弟子は取らないのか……ちょっと予定が狂ったね」
 老奇術師に寮の鍵を渡され、乗り込んだ一同は、集会室でミーティングを行う。ちなみに、現在他に弟子入り志願者はおらず、寮は彼らが独占状態で使える。
「ミスターの動向については、潜伏組に気をつけてもらうよう頼んだ」
 清士朗が、思案顔で呟く。
 潜伏組というのは、マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)と彼女のサーヴァントのテレビウム『てぃー坊』、そしてアーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)である。
 彼女たちは邸宅敷地内に身を隠し、弟子入り組のフォローをする予定だったが、むしろ、より自在に動けるポジションになったため、ミスターの動向を直接窺うことにした。 
「螺旋忍軍が事前連絡をしてくるか、いきなり訪れるか……」
「私たちがミスターに張り付けないのだから、仕事依頼組も先に動かしておいた方がよくない?」
 セラが進言し、清士朗はうなずく。
「そうしよう。今回は、出遅れるよりは先走った方がよさそうだ」
 呟いて、清士朗は仕事依頼者として動く予定の美津羽・光流(水妖・e29827)に連絡を取る。
 一方ウタが、少々苛立たしげに発言した。
「ミスターの身辺に付けず後手引くんじゃ、弟子入りする意味ないぞ? いっそ、ケルベロスだと明かして護衛した方がよくないか?」
「それも考えたが、ミスターが俺たちケルベロスや超常能力を持つ者にどんな感情を持っているのか、いまいち読めない」
 光流への連絡を手短に終えた清士朗が、穏やかに応じる。
「俺たちは、ミスターが設定している『危険を伴う極限状態』に嵌っても、死にも傷つきもしない。その事実を彼が知っているか分からないが、もし知っていたら、かなり腹立たしく思うかもしれない」
「……ですねぇ」
 霞が、溜息混じりにうなずく。ミスタークエスチョンは、鎖で封じられ湖底に沈められた鋼鉄の棺や、宙釣りになった爆薬付きの金庫などから、華麗に脱出して喝采を浴びてきた。しかしケルベロスは、そういった状況から脱出しそこなっても、何のダメージも受けない。
「立場逆だったら、わたしも怒るかも。からかいに来たのかって」
「うーん……そういう問題じゃないんだけどな」
 ウタが唸ったが、清士朗は穏やかな中にも決然とした口調で告げる。
「まだ一日目だ。焦るには及ぶまい。それより、螺旋忍軍が来た場合に誘い込む場所を設定しておこう。邸宅と寮の裏山は、かなり広い範囲でミスターの所有地になっている。これが地図だ」
 そう言って、清士朗は付近の地図を取り出した。

●特訓、そして……
「マジシャンに必要な能力は、まず体力だ。どんな種類のマジックでも体力は必要だが、危険を伴う極限状態からの脱出マジックを行う者にとっては、まさに生死を分ける」
 弟子入りの翌日早朝、朝飯前の時間に、ミスタークエスチョンは一同を裏山へ連れ出した。
「私は、自力で脱出マジックの興行をするには年をとりすぎたが、それでも必要最低限の体力は維持している。若い諸君なら尚更のこと、私が課したカリキュラムのトレーニングは最低限度、更に体力をつけてほしい」
「ふう……ふう、はあ……はあ」
 荒い息をつきながら、一同は老奇術師に続き、早朝の山道をかなりの速度で駆け抜ける。
 そして、小さく深い淵のある場所に降り、老奇術師は一同に小休止を告げ、言葉を続ける。
「では君たちに、私の脱出マジックの基本となる技を教えよう。それは、縄抜けだ」
「……縄抜け、ですか?」
 楓が首を傾げ、セラが尋ねる。
「つまり、手首の拘束を外せれば、他の掛けは何とでもなると?」
「その通りだ。手さえ使えれば、人間、たいていの状況には対応できるものだ」
 平然として老奇術師は告げ、いや、それも経験と技術あってのことでしょう、と、清士朗は苦笑する。
「手の縄抜けは、マジックの技術としては基本だが、これを正確に短時間で完了させれば、その後の対応に余裕ができる。というわけで、やってみせよう」
 そう言うと、老奇術師はウタを呼び寄せ、手首を縛らせる。そして、ぱきぱきと音をたてて手首の関節を外し、するりと縄を抜いて、関節を戻す。
「ほー、器用なものね」
 評するセラに、老奇術師は真面目な口調で告げる。
「そう簡単にはできないかもしれんが、これを身につけんことには先に進めん。ということで、やってみてくれ」
 最初は、外から指で関節を外し、嵌め戻す。その際の筋肉の動きを確かめ、逆に筋肉を動かし関節を外し嵌めるのだ、と、老奇術師は説く。
 そしてケルベロスたちも、大真面目で訓練を始めた。

「ええ、ごめんください。自分、九龍町役場の文化芸術振興課、美津羽いいます」
 その日の午後早く、光流が正式にアポをとって、ミスタークエスチョンを訪れた。
「町のイベントで、高名なミスタークエスチョン師にマジックショーをお願いできないか、御相談に参りました」
「ああ、御苦労さま。だが、私ももう年でね、以前のような派手な脱出マジックはできない」
 穏やかな口調で、老奇術師は光流に告げる。
「かといって世のイメージは、ミスタークエスチョンといえば大爆破危機一髪脱出マジックだろう。軽い手品と話だけで、お茶を濁すわけにもいくまい」
「自分としては、それもええかと思いますけど……お弟子さんとか、若い方に脱出マジック、肉体労働受け持たせ、お師匠様は悠々と解説、頭脳労働なんていかがでっしゃろ?」
 光流の提案に、老奇術師は小さく笑う。
「それは魅力的な提案だが、そこまで損な役目を引き受けてくれる殊勝な弟子はいないよ……少なくとも今はね」
「今は、ということは以前はいらした? あるいは、これから出る?」
 軽く身を乗り出して、光流は尋ねる。さすがに、昨日入門したばかりの清士朗たちが、そこまで信任されているとは思えないが……。
「そうだねぇ……」
 呟いて、ミスタークエスチョンが瞑目する。その時、奇妙な着信音が流れた。
「おっと、失礼」
 そう言って、老奇術師は自分の携帯電話を取る。
「はい……ああ、そうだ。弟子入り? いや、即座とはいかない。何か……履歴書と身分証明書持参して、うちまで来てくれ。……ああ、そこで相談しよう」
「早速弟子入り志願でっか? さすが、お師匠!」
 光流が少々無責任に囃すと、老奇術師は真顔で頸をかしげる。
「こんなことは滅多にないのだが、昨日、今日と申し込みが続いた……何か、不穏な予感がするな」
「ははあ……」
 爺さん、ええ勘しとるわ、と、光流は内心苦笑した。 

●お前たちの死に場所はここだ
「光流から連絡が入った。螺旋忍軍らしき弟子入り志願者が、こっちへ向かっている」
 清士朗が告げ、朝の訓練でへたれていたケルベロスたちは、一斉に飛び起きる。
「ミスターは勘が鋭いので、下手に会わせると相手がデウスエクスだと見破ってトラブルになる、というのが光流の意見で、俺も同意する。相手が来たらミスターに会わせず、囲んで裏山へ引き込み、螺旋忍軍ならそこで速やかに始末する。光流にも、潜伏組にも、そう伝えた」
「OK。さっさと、ケリつけちゃいましょう」
 セラが応じ、寮から出張った一同がミスタークエスチョン邸門前に並んだところへ、一台の車がやってきた。
 レンタカーでも借りたのか、運転するのはお仕着せ姿の大男。助手席には、小柄な道化師。
(「着替えてもいないのかよ!」)
 ウタが、内心激しく突っ込む。さすがに、螺旋の仮面の上にはゴム製のマスクをかぶって隠しているが、もう、どこから見ても怪しさ百二十パーセント。こりゃ、ミスターに会わせるわけにはいかない。
「ミスタークエスチョンに弟子入りの希望者だな?」
 車から降りてきた二人組に、清士朗が尋ねる、
「ソウダガ、オ前ラハ、ナンダ?」
「言葉遣いに気をつけろ。我々は、お前たちの兄弟子だ」
 入門が一日早いから、そりゃもう文句なしに兄弟子で目上だからな、と、清士朗は内心苦笑する。
「先生は、こちらだ。車を置いて、一緒に来い」
「……ワカッタ」
 意外に素直に、二人組はケルベロスたちの後に続く。裏山に入り、キープアウトテープで隔離しておいた一角に入ると、いきなり物陰から飛び出た少女が、小柄な道化師を居合で存分に斬り裂く。
「グワッ!」
「ナ、ナニヤツ! クセモノ!」
 道化師は一撃で絶命こそしなかったが、深手を負って転倒。大男は仰天して身構える。
「いいよね……私、ここまでずっと、陰で忍んで姿見せずに一生懸命働いてたんだから……戦闘場面ぐらい、目立ってもいいよね?」
 何やら切実な呟きを漏らすのは、今回潜伏組で裏方を担ったアーシィ。
 弧を描く斬撃で螺旋忍者を存分に斬った愛刀『星河』は、抜き身にせずに鞘に収め、再び居合の構えに戻っている。
 そして清士朗が一切の情容赦なく、倒れた道化師を蹴りつける。
「消えろ。刹那を練り上げた彼の技術は、怠惰なる永劫を生きるお前達が触れていい物ではない」
「グワアッ!」
 斬られた傷と、ゴム製の仮面の目、鼻、口、耳の穴、首周りから盛大に血を噴きながら、道化師はのたうつ。
「ブエルよ、50の軍団を統率する地獄の長官よ。癒しの力をかの者に」
 霞がオリジナルの治癒呪文『10番目の悪魔:五脚の星辰(ペンタステッラ)』を唱え、ウタの治癒力を高める。
 セラは、刃のような回し蹴りをしつこくのたうつ道化師に見舞い、道化師はアーシィに斬られた傷をぱっくりと開いて、何もできないまま息絶える。
「シ……死ンダ!? 貴様ラ、マサカ、ケルベロスカ!?」
「ケルベロスに会うのは、初めてか」
 アーシィと同様、今回は裏方に徹したマイが、嘲るというよりは呆れた声を出す。
「螺旋忍軍って、ここまで人材いなかったか? それとも単に、ダメな部署が動いてるってだけか?」 
 まあ、バタフライエフェクト狙って(そもそも狙うようなものじゃないのに)あげく予知されて阻止されてるって時点で、充分ダメだが、とマイは肩をすくめ、中和ビームゼログラビトンを放つ。
「ダ、誰ガダメ部署カアッ!」
 大男が吠え、マイに螺旋掌を打ち込もうとする。しかし間合は遠く、更にサーヴァントの『てぃー坊』に妨害されて届かない。
 そこへウタが、地獄化した左手に炎をまとって叩きつける。
「地獄の炎を味わえ!」
「グワーッ!」
 炎のパンチを受け、大男が絶叫する。そして楓が、オリジナル技『覚醒・逢魔之時(カクセイ・ホウマノトキ)』を使い、戦闘できる姿へと自分を変える。
「私に眠る脅威……異形の魂……お願い……私を……皆を助けてあげて……!」
 小さな、しかし切実な祈りのような言葉に続き、楓は髪は金色・瞳は紅・態度は高慢不遜な少女と変わる。
「人を笑顔にする御業を持つ老師、死なすには惜しい。そしてわらわは、お主等を仕留める以外の業など知らぬでな!」
 そして光流が、戦場へと走り込んでくる。
「お待たせや! 螺旋の奴ら、まだ生きとる? ……ふうん、一人は仕留めて、あと一人かいな。こりゃ、ええタイミングで来れたわ」
 気楽な口調とは裏腹に、険悪なまでに鋭い眼光を大男に向け、光流は螺旋手裏剣を取り出す。
「良ぅ見や!」
「そ、その技は、螺旋の……」
 驚愕する大男を、光流が投じた手裏剣が襲い、胴脇を深々と斬り裂く。
 そして疾風のように素早く鋭く踏み込んだアーシィが、二閃目の居合を放つ。
「戦場で私の前に立ちはだかるというのなら……いきます!」
「グ……ハッ!」
 気合とともに鞘走るのは、極低温を帯びた氷結の剣。大男は頭天から縦に唐竹割りにされ、凍りつき砕けて散った。 
  

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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