冥龍空中戦~海の上の戦場

作者:りん

 太平洋に浮かぶ孤島……月喰島。
 数十年前にデウスエクスに襲撃されたその島は地図から消えたと、誰もが思っていた。
 だがつい先日。その島はケルベロスたちの調査によって発見され、行ける死者のような敵が潜んでいる事が発覚した。
 その島を調査していた調査隊は危機に陥ったが、彼らを助けるために駆けつけた救援チームと協力し、無事に月喰島の怪異を解決することに成功。
 これで帰還できるとケルベロスたちがヘリオンに乗り飛び立った時、突然、月喰島全体が鳴動した。
 ぼちゃぼちゃと、今まで月喰島を形成していた土や木が水しぶきを上げながら沈んでいく中、ケルベロスたちの前に姿を現したのは巨大なドラゴン。
 その名は、冥龍ハーデス。
 ハーデスは激しく怒っているのか、撤退するケルベロスたちを追いかけ、ヘリオンへと向かってきていた。
 今はまだ距離があるとは言え、ヘリオンとハーデスではハーデスの速度の方が速い。
 このままでは日本にたどり着く前に、ヘリオンは海の中に叩き落されてしまうだろう。
 この状況に日本に残っていたケルベロスたちは撤退するヘリオンを救出するため、迎撃作戦を行うことを決定したのだった。


「緊急の依頼が入りました。歩きながら説明しますので付いてきてください」
 千々和・尚樹(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0132)はそう言って、早足でヘリポートへと向かう。
 いつもとは違う尚樹の様子に何事かと問えば、彼の口から出たのは衝撃的な言葉だった。
「月喰島から出現した冥龍ハーデスが、その島から脱出したヘリオンを追って日本に向かってきています」
 追ってきている冥龍ハーデスは高空を飛行している為、戦闘を行うことは難しく、特殊な迎撃作戦が必要となる。
 報告によれば、ハーデスはどうやら怒りに我を忘れているような状態であるらしい。
 だとすれば多少の進路誘導ができるだろうと判断し、進路上に百を超える熱気球を浮かべて迎撃することとなったのだ。
「この熱気球は皆さんの足場となります」
 密集させた熱気級を太いロープで結び合わせたそれを使い、空中戦をするのが今回の策戦だ。
 不安定な足場ではあるが、ケルベロスの身体能力であれば恐らく可能だろう。
「冥龍ハーデスは気球ごと皆さんを攻撃してくるでしょう。気球は破壊され、数が減るものと思ってください」
 徐々に足場がなくなっていくが、ハーデスの巨体の上に取り付くことができれば戦闘は継続可能だという。
 ハーデスの上に取り付いての戦闘は大ダメージを与えることができるだろう。だが振り落とされればどうなるか。
「先ほども言ったように今回は前代未聞の空中戦です。気球から落ちる、また冥龍ハーデスから振り落とされた場合、戦線復帰はほぼ無理でしょう」
 落ちた先は海なので命を落とすということはないが、戦闘中にそこから引き上げる手段がない。
 落ちないよう細心の注意が必要だろう。
「そしてこの振り落とすという行動なのですが、この行動をとった場合、他の攻撃ができないようです」
 この行動が利用できれば、気球からの攻撃との連携で事を有利に進められるかもしれない。
「冥龍ハーデスですが、大きいです」
 元々は島のフリをしていたことを考えれば、その大きさはかなりのものだろう。
 攻撃方法はブレス、炎による攻撃、そして爪の攻撃。
 ブレスと炎は広範囲への攻撃になるらしく、攻撃対象が分散してしまうと、一気に気球の数が減らされてしまう可能性がある。
「ある程度でいいので、まとまった人数で行動するのが良いかと思われます。そして攻撃代わりの振り落としについてですが、うまく耐えれば有利に戦えるかもしれません」
 しかし気球もだが冥龍ハーデスの上も足場がいいとは言い難い。
 足を滑らせたり、移動に手間取ったり、何か特殊な行動をとった場合は攻撃が行えない場合もあるので注意が必要だろう。
 冥龍ハーデスが月喰島で行っていたのは神造デウスエクス・屍隷兵を生み出す実験。
 その実験台とされたのは元々月喰島に住んでいた人々だ。
 命を弄ぶような行為は到底許せるようなものではない。
「冥龍ハーデスを撤退させ、ヘリオンを救出できれば目的は達成となります」
 だが後のことを考えればここで撃破しておきたいところだ。
「ハーデスの撤退についてなのですが、今、冥龍ハーデスは怒りに我を忘れている状態です。しかし、冷静さを取り戻した場合は戦闘を中断して撤退していく可能性があります」
 足場のことも、攻撃のことも、よく考えて作戦を組む必要があるだろう。
 考えている間にヘリポートに到着し、尚樹はケルベロスたちを振り返る。
「難しい依頼ではありますが、皆さんならば無事に目的を達成してくださると信じています」
 ケルベロスたちは力強く頷き、ヘリオンへと足を踏み入れたのだった。


参加者
ブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)
アゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528)
片桐・宗次郎(星を追う者・e17244)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)
ケオ・プレーステール(燃える暴風・e27442)

■リプレイ


 一番高い位置にある気球のうちの一つに降り立ち、ケオ・プレーステール(燃える暴風・e27442)は腰に手を当てて戦場を見回した。
「ほう! こんな素晴らしいシチュエーションでこんな強敵と戦えるとは熱いな! 我が情熱もたぎるものだ!」
 こんなことがなければ恐らく一生訪れることがなかったであろう空の上。
「一列10個で、10列ですね」
 アゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528)の言葉にケルベロスたちは足元を確認する。
 直径15メートルの気球は事前情報通り、それぞれを太いロープで結んであった。
 近づけすぎると危険なためか、気球と気球の間はそれぞれ50メートルとかなり空いている。
 そして前後の列の気球が重ならないようにと少しずつ横にずらしてあるそれは、壁というよりも野球場のスタンドに近い印象を受ける。
「横に移動するときはあのロープの上を走って……」
「上下への移動は太いロープに垂れさがってる細いロープを利用するんですね」
 チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)とセデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)が移動方法を確認して表情を引き締めた。
 戦闘を行いながらこの足場を移動するとなるとかなりの集中力が必要となるだろう。
「来たぜ」
 武器を構えた神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)の声に視線を上げればこちら向かってくる黒い影。
「あれが冥龍ハーデス……」
 愛用のライトニングロッド、セミラミスを握りしめ、空木・樒(病葉落とし・e19729)は唇に笑みを乗せた。
 微かに震える指先を握りしめ、片桐・宗次郎(星を追う者・e17244)は一歩前へと踏み出した。
「神様か、なんだか知らないけど……」
 ここで確実に打ち取らねば。
「私は命を愚弄する行為を赦せん……奴は此処で討つ」
 一気に大きくなった影に向かい、神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)は言い放つと同じくメディックである樒の隣に移動した。
「まずは一発、お見舞いすることにしましょう」
 ブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)は愛用の簒奪者の鎌……デスブリンガーを持ち上げる。
 ケルベロスたちを乗せていたヘリオンも遠くへと避難を終えていて、他の3班の面々も気球に上に降り立っている。
 黒影は速度を一切落とすことなくこちらに向かっており、このまま気球の群れに突っ込んでくるつもりだろう。
 まずはその速度を落とすべく、ケルベロスたちはグラビティを解き放ったのだった。

 放たれたグラビティが冥龍ハーデスの身体に直撃し、辺りに轟音を響かせる。
 32人分の攻撃は一瞬、ハーデスの姿をかき消しその姿を見失わせるほどで、恐らくこれを受けて無傷とはいかないだろう。
 それが証拠にハーデスは移動スピードを落としていた。
 怒りを湛えた瞳がケルベロスたちを捉え……ハーデスは一気にこの気球に接近してきたのだった。


『目障りな、邪魔をするなら容赦はせぬぞ』
 戦場に響く言葉と共にハーデスの口から吐き出されたのは炎。
 真っすぐにこちらの班に飛んでくるその炎は前衛のメンバーを飲み込んでいく。
「ぐっ……!」
 幸い気球は壊れなかったもののその威力は侮れたものではなかった。
「一撃目に選んでもらえるとは、光栄だな!」
 庇ってもらったのでケオ自身は何ともないが、それがなければ彼女の体力では危うかったくらいの威力だ。
 それが証拠にケオを庇った彼女のテレビウム、キオノスティヴァスは次の攻撃には耐えられないほどのダメージを受けている。
「せっかく寒さ対策してきたのに、こんなに熱くされるなんてね!」
「ハーデスはここで必ず撃破しましょう。……これ以上死という理を乱さない為に」
 チェリーが纏わりついた炎を払うようにエンシェント・ドラゴニカを構えて砲撃形態に変形させれば、セデルはエアシューズで気球の上を走っていく。
 轟竜砲と蹴りがハーデスの顎に命中すればセデルのビハインド……イヤーサイレントも巨体に向かって金縛りをかけていった。
 仲間たちが攻撃をしている間にと次に動いたのは回復の面々。
 雅の描いた守護星座が光輝き、宗次郎と樒の放ったオウガ粒子が体を包み込めば、キオノスティヴァスの画面に応援動画を流して前衛の傷を癒していく。
 宗次郎のライドキャリバー、ギンが炎を纏って突っ込めば、アゼルの体から大量のミサイルポッドが飛び出してハーデスの顔に飛んだ。
 そのミサイルを追いかけるようにブリキが飛んで顎を殴りつければ、そこにケオの掌から生み出されたドラゴンの幻影が炎を放った。

 2つの気球が破壊されるのを横目で見ながらケルベロスたちは取り付きの為に移動を開始していた。
 巨大なハーデスは気球のどこに居ても攻撃ができるのだが、取り付きとなるとまた別だ。
 常に翼を羽ばたかせているハーデスの体は大きく上下しており、その体に取り付くとなるとそこそこの運が必要だろう。
 後衛の面々を気球に残し、前衛と中衛の面々は不安定な気球の上で助走をつけた。
 若干遠い位置で踏み切ったチェリーはダブルジャンプを駆使してハーデスの体に飛び移る。
「っと……!?」
 着地したはいいものの、まるで絶叫マシンにでも乗っているような状態で慌ててハーデスの身体を掴んで落ちるのをどうにか耐える。
 ハーデスに無事に取り付けたのはどうやらチェリーとアゼル、ブリキの3人で、他の面々は上手く行かなかったようだ。
 下でグラビティの音が響いているので、どうやら無事ではあるらしい。
 飛び移ったハーデスの体の上は本当に不安定であった。
「ここでアイゼンを着けるのんは得策ではなさそうですね」
 飛び乗ってから装着する予定だった滑り止めだが、足場は何の予告もなく上下左右に揺れ、とてもではないが両手を離してアイゼンを装着する余裕はない。
「ハーケンも固定できるほどは刺さりません……自分たちの身体で頑張るしかないでしょう」
 ブリキとアゼルの声に頷きながら、チェリーはハーデスに攻撃を開始したのであった。

 バリバリと空気が震え、戦場にハーデスの声が響き渡る。
『煩わしい奴らだ、一網打尽に振り落としてくれる』
 その言葉が終わらないうちに今までとは比べようもないほどの揺れがケルベロスたちを襲った。
 あまりの衝撃に幾人ものケルベロスたちがハーデスの体から空中へと放り出される。
「予想以上、ですね……」
 先ほど飛び移った3人は何とかその場に踏みとどまるが、それもたまたま運がよかっただけだ。
 まだ戦場から離脱したケルベロスは居ないようだが、いつまで耐えられるか。
 そしてハーデスの巨大な爪が、一人のケルベロスに向かって振り下ろされたのだった。


 ゴゥ、と再びの炎が前衛の面々を炙る。
「っ!」
 ケルベロスたちからの攻撃を一身に受けているはずのハーデスの炎はは衰えることなく、むしろ一回目よりも激しくなっているようにすら感じられる。
 その攻撃から宗次郎と樒を守ったライドキャリバーとテレビウム、そして炎をまともに受けたビハインドはその場で姿を消すが、それを見送る間もなく足場の気球がぐらりと揺れる。
「! 移動するぞ!」
 雅の声に慌ててロープを伝い他の気球へと移動をすれば、それを待っていたかのようにその気球は小さな爆発を起こし黒煙を上げながら落ちていく。
 これで破壊された気球は3つ。
 まだまだ足場は残ってるが今後の攻撃が読めない以上、やはりある程度まとまっての行動が望ましいだろう。
 手早く後衛の回復を済ませれば、ハーデスは体に取り付こうとしている別の班のケルベロスへと爪を振り上げているところであった。
 こちらの前衛もまた取り付きに行ったらしく、今度は無事、全員がハーデスの体に取り付くことができたようだ。
 このまま全員で帰還できるよう祈りを込めながら、樒は彼らに向かい長針を投擲したのだった。

「振り落としが来るぞ!」
 そう叫んだのは戦場をよく観察していた雅だ。
 その声に即座に反応したのは前衛の面々。
 彼らは姿勢を低くして振り落としに耐えたが、飛び移ったばかりの宗次郎はそれに即座に反応できず、バランスを崩してハーデスの体から落ちていく。
「ちっ……!」
 振り落とされた宗次郎だが素早くオウガメタルを鋼の鬼と化すと、離れざまにハーデスへとその拳を叩きつける。
「タダじゃ終われねぇ!」
 重たい音が響くがどれくらいダメージが蓄積しているのか。
 ダブルジャンプを駆使して後衛のいる気球に降り立つと、宗次郎は再び取り付くために助走を開始したのだった。

 来る。
 そう判断したケルベロスたちはいっせいに身構えた。
 そしてそれは予想通りの威力でハーデスに取り付いたケルベロスたちを襲う。
 だが幾度か経験し、見てきたその攻撃は誰一人としてケルベロスを落とすことなく動きを鎮める。
 その隙を逃すようなケルベロスたちではない。
「今だよ!」
「参ります」
 チェリーがドラゴニックハンマーを振り下ろして体の一部を凍結させれば、セデルが惨殺ナイフを手近な傷口へと突き立てる。
「ユニット固定確認……炸薬装填……セーフティ解除……目標捕捉、これより突撃する!」
 出現したアタッチメントを使い、アゼルはハーデスの体に直接杭を打ち込んでいく。
 火薬の爆裂音と共に打ち付けられたのはブリキの痛烈な一撃。
「せいっ!」
 その一撃がハーデスの一部を抉り破壊すればそこにケオが喚び出したドラゴンの幻影が炎をぶつける。
「ハハッ! 行くぞ! 焼き尽くしてやろう!」
 とりついたケルベロスたちの攻撃にハーデスは身を捩り、そして。
「!!?」
 ハーデスの再びの振り落としに反応できたものはそう多くはなかった。
 二連続の振り落としはケルベロスたちを四方八方に吹き飛ばしていた。
 運悪く気球とは反対方向に吹き飛ばされたケオの体は重力には逆らえず、ただただ海面へと落ちていくしかない。
 それでも最後にファミリアシュートを打ち放ってできる限りダメージを与えたケオは仲間に向かって大きく叫ぶ。
「すまない! 後は任せた!!」
 叫ぶケオの声に応えるように唯一ハーデスに残れたブリキが手を上げる。
 一番気球に近かったセデルが真っ先に着地をし、次いでチェリーがその隣に降り立てば同じ場所に向かってアゼルが空中を蹴り上げる。
 そのアゼルの体を追ってきたのはハーデスの爪。
『逃がすものか。死ね』
 振り上げられた爪は装甲を容易く貫き、爪に引っかかった彼の体を思い切り海面へと振り落とす。
「ぐ……っ!」
 アゼルの口からごぽりと鮮血が溢れだす。
 激しく損傷した四肢は装甲をまき散らしながらぱらぱらと空中を舞い、彼の体と共に戦場から姿を消したのだった。


 ケルベロスの数が徐々に減っている。
 威力の高い爪の攻撃が一人一人確実にケルベロスを行動不能にし、炎のブレスは足場を破壊する。
 だがこちらの攻撃が通っていないわけではない。
 仲間を減らされながら、それでも確実にその体力を奪い続けている。
 ハーデスの振り落としも幾度も目にしたケルベロスにとってはあまり効果はなく、かなりの人数が取り付いての攻撃を成功させていた。
 再度行われた二連続の振り落としを耐えたケルベロスにハーデスは思考を切り替えたのだろう、標的を気球の上のケルベロスに定め直しその爪を振り下ろしていた。
『千千に引き裂いてくれるわ』
 先ほどはケルベロスだけを排除しようとしていたその攻撃は、ケルベロスの排除と共にその背後のロープを切り裂いていく。
 攻撃を受けたケルベロスが戦線を離脱し、そして上から三段目の右側、三つの気球が制御を失いこの足場から離れていく。
「もしやハーデスの狙いは……」
「足場を崩すことでしょうね」
 離れていく気球を横目で見送りながらケルベロスたちは表情を硬くした。
 このままの調子でどんどん足場を壊されてしまっては戦える場所がなくなっていく。
 再び振り上げられたハーデスの爪に真っ先に動いたのはセデル。
「やらせません……!!」
 自らハーデスの鋭い爪に体当たりをするように躍り出る。
 体当たりする勢いで前に出たセデルのおかげで、爪はロープに触れることなく振り下ろされた。
 そのロープの代わりに切り裂かれたのはセデルの体。空中に赤い滴が飛び散り下へと落ちる。
 先ほどの攻撃で意識を失ったのだろう、力なく海面に向かい落ちていく彼女を奥歯を噛みしめながら見送り、樒は握った拳に螺旋を籠める。
「これがボクの、桜色の想い! きちんと受け止めてよねっ!」
「悪いけど、此処で止まってもらう」
 チェリーの纏っていたオーラが桜の花弁に代わりハーデスの体に張り付けば、宗次朗の放った魔術弾が螺旋の茨をハーデスの体に絡めつかせる。
 動きが鈍ったところを狙うのは雅。
「汝、断罪者にして罪人。その身は全てを凍てつかせ、その顎は全ての罪を噛み砕く。汝が名は……」
 召喚された絶対零度の氷牙竜はハーデス足を飲み込みかみ砕き、そこに樒の拳が叩き込まれた。
 それでもまだハーデスの動きは止まることはない。
 吐き出された炎は再び1つの気球を破壊して足場をなくすが、しかし。
「威力が落ちたか?」
 これまで観察してきた雅が先ほどの炎を思い出しながらぽつりと呟く。
 気球こそ爆発したものの、炎の攻撃を受けたケルベロスたちのダメージはさほどではないように見える。ということは。
「あと少しなはずだ!!」
 雅のその言葉の通り、冥龍の体力は限界に近いのだろう。ハーデスは明らかに今までと違う動きを見せ始めていた。
 ゆらりと体が揺れたかと思うと気球から距離を取ろうとし始めたのだ。
 逃げる気だと真っ先に感じ取ったのはハーデスの上に乗っていたブリキ。
 同じくハーデス上のケルベロスたちは同じことを感じたのだろう、一斉に攻撃を開始していた。
「――いただきます」
 ブリキは目の前の堅い皮膚に迷いなく齧りつく。
 他の班のケルベロスたちとタイミングを合わせて固い皮膚を無理矢理嚙み千切ればハーデスの体ががくりと震えた。
 取り付いているケルベロスだけの力では倒せない。そう理解したブリキは仲間に向かって声を上げていた。
「皆さん! お願いします!」
 彼の声に応えるようにチェリーが、宗次郎が、雅が、樒が、一斉にハーデスへと攻撃を叩き込む。
『馬鹿な、冥龍ハーデスが、このような場所で……。ありえるはずが……』
 ゆっくりと力が抜けていくハーデスの体を蹴ってブリキが気球に向かって手を伸ばせば、その手を樒が引き上げる。
 傾いた冥龍ハーデスの羽ばたきが収まれば後は真っ逆さまに落ちるだけ。
 巨体が水面に落ち盛大な水しぶきが上がるのが見える。
 事切れた巨体が島となることはもう二度とないだろう。
 島の人々の冥福を祈りながら、ケルベロスたちは海に落ちた仲間たちの救出へと向かったのだった。

作者:りん 重傷:アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528) セデル・ヴァルフリート(解放された束縛メイド・e24407) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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