冥龍空中戦~逆鱗

作者:彩取

●逆鱗
 太平洋の孤島、月喰島。
 それは数十年前デウスエクスの襲撃を受け、地図から消えた島である。
 だが、ケルベロス達の調査によって、幾つかの事実が判明した。
 月喰島は実在し、現在、生ける死者のような敵が潜んでいる。
 島を発見した調査隊と、彼らの危機に駆けつけた救援チームのケルベロス達は協力して、月喰島の怪異を解決する事に成功。彼らはヘリオンに乗り込み、帰還の途に就いた。
 しかし、ヘリオンが飛び立った時。突如、月喰島は鳴動した。
 島を崩壊させながら現れたのは、巨大なドラゴン――冥龍ハーデス。
 ハーデスは怒りに我を忘れたかのように、撤退するヘリオンを追って日本へと迫っている。このままでは、本土到着よりも先に、ヘリオンがハーデスに撃破されてしまう。
 それを防ぎ、撤退するヘリオン救出の為、冥龍ハーデスを迎撃する運びとなった。

●冥龍空中戦
 月喰島から出現した冥龍ハーデス。
 それがヘリオンを追って日本本土へと向かってきている。ジルダ・ゼニス(青彩のヘリオライダー・en0029)はその事実を口にして、これを迎撃する事になったと告げた。
 本来、戦闘圏外の高空を飛行するドラゴンとの戦いは難しい。
 故に、特殊な迎撃作戦が必要となるのだが、
「今回は、敵の進路上に百以上の熱気球を浮かべて、迎撃拠点とします」
 これは、ハーデスが怒りに我を忘れてヘリオンを追っている事から、進路誘導が可能な状況であると加味した上での作戦だ。熱気球同士は密着させており、更に太いロープで結び合わせるので、ケルベロスは気球を足場にして空中戦を挑む事が出来るだろう。
 ただ、敵は気球ごと皆を攻撃する為、気球は次々に破壊される筈だ。
「全ての気球が破壊される前に、冥龍ハーデスを撃破すれば作戦は成功です」
 仮に全ての気球が破壊されても、敵の巨体の上に取り付く事が出来れば、戦闘は続行可能だ。この状態での戦闘は、大ダメージを与える事が出来るが、注意点もある。
「もし振り落とされれば、海面まで落下してしまいます」
 落下すれば、戦線復帰は不可能だ。すると、ジルダは言った。
「ただ、ハーデスは振り落とす行動をした場合、他の攻撃が出来なくなるようです」
 よって、気球からの攻撃との連携次第では、敵を振り回す事も可能かもしれない。
 
 冥龍ハーデスの攻撃は、爪による攻撃と、強力なブレス、炎による攻撃の三つ。
 ただ、爪以外の攻撃は列攻撃であるため、注意が必要だ。
「攻撃対象が分散しすぎていると、一度の攻撃で多くの気球が破壊され兼ねませんので」
 敵の攻撃が広範囲にならないように、ある程度まとまった人数で行動すると良いだろう。先程伝えた取り付きや振り落としの件も含めて、皆で考えて立ち回って欲しい。
 ハーデスは攻撃の代わりに取り付いたケルベロスを振り落とすような行動を取る事もある。振り落とされたら戦線離脱となるが、うまく耐えられれば有利に戦えるだろう。
「もう一つ。ハーデスは冷静さを取り戻すと、途中で撤退する可能性もあります」
 故に、敵が冷静さを取り戻さない戦闘を心がけるのも策の一つだ。
 敵を撤退させれば、目標は達成した事にはなる。
 しかしそれはあくまで、最低限に過ぎない。
 敵側に何の対策もない機会だからこそ、撃破を望む者もいるだろう。
「それを可能とするのに必要なのは、十分な対策と連携です。御武運を」
 実現に至るか、辛酸をなめるか。全てはケルベロス達の手に委ねられている。


参加者
トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
久条・蒼真(覇斬剣闘士・e00233)
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)
シア・アレクサンドラ(イツワリノウタヒメ・e02607)
キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)

■リプレイ

●阻む気球
 50mのロープが10の熱気球を繋ぎとめる。
 それが、様々な高さで漂い、そのゴンドラからはロープが垂れ下がっている。
 冥龍を阻止せんと現れた壁のように、気球は空を覆っていた。
「迎えに来たよ、みんな」
 遠くに見えるヘリオンに呼びかけるように、キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)は手を伸ばす。そんな彼女の肩を励ますように叩くのは、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)だ。
「ヘリオンを追ってきたようですわね。やらせませんわ」
 シア・アレクサンドラ(イツワリノウタヒメ・e02607)は、優雅な仕種でそう意気込む。
 ゴンドラに揺られながら、メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)は、震える手に力を込めた。
「……相手にとって不足なし、ね」
 ほんの少しの強がりと、高揚を感じながら、メロゥは前を向く。
 と、ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)が、ミミックを連れた他の仲間へと視線を向ける。言葉を交わすことはなかったが、きっと思いは届いているはずと。
 気球の方へと向かうヘリオン。追ってくる冥龍。
 このまま飛び込んで来れば、気球はひとたまりもない。
 ケルベロス達は、すぐさま武器を手に取り、攻撃へと転じる。
 ルードヴィヒは僅かに笑みを浮かべ、頭の帽子を正す。
「さーて……やりますか」
 冥龍への有効性を探るべく、ルードヴィヒは妖精の加護を宿した追尾する矢を放つ。
「機は此方にあり」
 指先から放った殺気の針を、機動力の要となる箇所に撃ち込み対象の動きを削ぐ。それが、トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)の暗殺技の一つ、伏穿だ。
「お前様の事はあたしが覚えておくから、さっさと消えて」
 ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)が放つのは、物質の時を凍結させるための弾丸。
「何人たりとも、死者を利用するその存在を見逃すわけにはいかない。ここで貴様を葬らさせてもらうぞ」
 久条・蒼真(覇斬剣闘士・e00233)が、ジゼルの攻撃に重ねるように鎖を伸ばし、敵を締め上げる。
 ここにいる8人だけでなく、他にも集った24人も一気に攻撃を仕掛けていく。
『目障りな……邪魔をするなら容赦はせぬぞっ!』
 冥龍はそんな攻撃をものともせず、気球に乗るケルベロス達へと向き直り……一気に加速し、激しい炎を吐き出した。気球の爆発は免れたが、それをもろに喰らってしまった仲間達は、かなり辛そうな表情を浮かべている。だが、被害が少なかった事を考えると、威力を抑えた威嚇攻撃と見るべきか。
「油断は禁物か。打ち合わせ通りに行くぞ」
「ん、そうやね。うちらも早く強化しないと」
 レーグルやキアラだけではない、後方でメディックを担うシアとジゼル、それに中衛のメロゥもまた、味方に強化を施していく。
 彼らだけでなく、他のチームも攻撃を重ねていくのが見えた。
「やはり、弱点らしいところは見当たらないか」
 不機嫌そうに瞳を細めると、レーグルはキアラの方を見上げる。
「準備が出来たら、どんどん攻撃するんや!!」
 頷き、キアラはそう仲間に声をかける。
「まだまだ始まったばかりだよ!」
 その言葉を受け、ルードヴィヒは上部にある気球から、冥龍の頭部を狙い撃つ形で攻撃を仕掛けて行く。
 仲間が強化を施す中、トレイシスも攻撃を浴びせる。
 と、その時だった。
『小賢しい、矮小なる者どもがっ!!』
 冥龍に取りつこうとした他のチームの仲間を、その爪で切り裂いたのだ。
「あの攻撃はっ!?」
「気を付けるんや!! 爪の力は尋常やない!!」
 レーグルとキアラがすぐさま、仲間達に呼びかける。
 その声に応えるように、メロゥは頷き、
(「私の最愛が在る、この世界を守りたい……」)
 その強い意志を持って、最上の力を発揮する。
「満ちる空の輝き。降り注ぐ星の、瞬きの歌が――ねぇ、あなたにも聴こえるでしょう?」
 その刹那、空から雨のように降り注がれる光が、目も眩む閃光が、冥龍を貫いていく。そう、これがメロゥの天上の火の威力だ。
『煩わしい奴らだ、一網打尽に振り落としてくれる』
 冥龍が次に取った行動、それは自らの体に取りついた仲間達を振り落とすことだった。想像以上に激しいその動きに思わず息を飲む。
「振り落としには警戒して!」
 奮い立たせるかのようにキアラが先陣を切る。
「ハーデス! もうおんなじ事はさせへん!!」
 キアラの鋭い槍と化したブラックスライムを冥龍に撃ち貫き、その傷口から汚染していく。
 それを筆頭に次々と強化を終えた仲間達が攻撃を重ねて行く。
 ぐるりと、冥龍がこちらの方を見た。
『貴様が指揮官か?』
「えっ!?」
 突然、かけられた声にキアラは反応できず、
『ならば、死ねっ!!』
 鋭い爪がキアラへと迫る。思わずキアラは両手を前で組み、その衝撃に備えようと、
「キアラっ!!」
 彼女の前に立ちはだかるのは、共に戦っているレーグルだった。二度の爪攻撃にレーグルは跳ね飛ばされる。
「レーグル、レーグルっ!!」
 遠ざかるキアラを見つめながら、レーグルは僅かに口元を緩める。血だらけになりながら、レーグルはそのまま、海の方へと落ちて行った。
 頬からつうっと流れる血を乱暴にキアラは拭う。レーグルが盾になってはくれたが、その威力までは抑えきれるものではなかった。それでも、キアラは冥龍を見据え、自分の役割を果たすため、力強く向き直る。
「さあ、目を凝らして」
 自分に攻撃を引き付けるための、天呪:君迎を放った。

●猛き焔
 冥龍との戦いは激しさを増していく。
 もちろん、気球や冥龍の上で戦うケルベロス達も次々と攻撃を重ねている。
「とにもかくにも、冥龍か……」
 蒼真が思わず悪態をつく。
「当初の想定だと、気球の数が2割を切るまでは気球で戦おうと思っていたのだけれど……」
 シアの言葉にトレイシスが頷く。
「あぁ、確かに。気球が一つ破壊されるだけで、隣接した気球からの移動が困難になる。移動しながら戦える足場として考えると、2割も破壊されれば、そこまでだ」
 飛び付く為の条件の一つを改めなければならないだろう。
「かなり、厳しくなってきたね……」
 最初に冥龍に飛びついたのは、盾役として前衛にいたキアラだった。冥龍が他のチームへと攻撃している隙に、何とか冥龍の体に取りつく。
 その間にも、他の仲間達も気球を移動しながら、次々と攻撃を仕掛けていく。
「計画を台無しにされての怒りは察するが、人類にとって許容し難き所業。潰さずにいられるものか」
 相手のトラウマを刀身に映した野分で斬りつけながら、トレイシスが思わず呟く。
 遠くでは、冥龍がまた爪で味方を切り裂くのが見えた。
 ケルベロス達も、負けじと攻撃を仕掛ける。
『落ちろ、落ちろ、落ちろ!』
 冥龍の激しい振り落としがキアラを襲う。
「な、なんとか……大丈夫や」
 取りついたときに何とか繋げたロープが、彼女を助けてくれたようだ。
 そんなキアラに気が漫ろになったのか、
「くっ、足場を失ったか」
 二段ジャンプを使って蒼真は、爪攻撃している冥龍に何とか取り付くことが出来た。
『ふぅぅぅ。良かろう、あれらを追うのは、貴様達を全て滅ぼしてからとする。まずは、そこからだ』
 息を吐き、少し落ち着きを取り戻した冥龍が狙った先は、
「みんな、逃げてっ!!」
 キアラの声と同時に放たれるは、冥龍の紅蓮の焔。
 灼熱の炎が次々と後方で戦うケルベロス達を巻き込んで行く。
 炎と煙の中、すぐさま禁断の断章を紐解き詠唱する。ジゼルだ。
「お前様の攻撃に油断したつもりはなかったのですが……なかなか来てます、ね」
 ジゼルの常軌を逸した強化では全てを癒すことが出来なかったが、移動できるくらいには回復している。
 すぐさま回復を行った理由、それは、
「早くしないと、気球がまた爆発するよ!」
 ぼろぼろになりながらも、無事な気球へと向かって飛び上がる。それと同時に、今まで乗っていた気球が激しく爆発した。
「こっちだ、手を伸ばせ!!」
「トレイシス様っ」
 もう少しで爆発に巻き込まれるほんの一瞬、トレイシスの伸ばした手が間に合った。
 お蔭でシアは、多少ダメージを受けたものの、なんとか生き残ることが出来た。あのまま残っていたらと思うと、ぞっとするものを感じる。
「お前ら、大丈夫かっ!?」
 蒼真の声に応えるかのように、仲間達は煤けた顔に笑みを浮かべた。
 幸いにも、この炎で戦線離脱する者がなかった事に、蒼真は、密かに胸をなで下ろす。
 ならばと蒼真は、
「これでも喰らえ!」
 再び冥龍へと鎖を伸ばし、動きを抑えていく。続いて仲間達も次々と攻撃を仕掛けていった。
 と、その瞬間。
 キアラと蒼真の足場が激しく揺れる、いや冥龍が突如、振り落としを仕掛けてきたのだ。
「くっ!!」
「捕まって!!」
 警戒していたお蔭か、二人は協力して何とか留まることが出来た。
「うちらを振り落とすには、足りんかったようやな!」
 そう、キアラが言い放った、その瞬間。
『……恐れ慄け!』
「な、何っ!?」
「きゃあっ!!」
 先ほどよりも激しい揺れ。その勢いでキアラを支えていたロープが千切れ、そのまま空中へと投げ出されてしまった。傍にいた蒼真は冥龍の体に取りつくのに精一杯で手が離せない。
「後は頼むよ!」
「キアラっ!! くそっ! これでも喰らいやがれ!!」
 彼女の無念を込めた蒼真の放った激しい爆発が、冥龍の固い鱗の一部をはぎ取った。

●狙う爪
 次々と戦場を離脱していく仲間達に胸を痛めながらも、ケルベロス達はその攻撃を緩めることはなかった。
「こうも高所だと、恐怖も感じないな」
 高さに慣れてきたのか、それとも高所での対処に慣れてきたのか。トレイシスは思わずそう呟きながらも、杖から迸る雷を放った。
 前衛が一人となった今、攻撃を緩めることはできない。
「違う場所で戦う友達もたくさんいる。待っている友達もたくさんいる……」
 余力があるうちにと、ジゼルは狙い澄ませる。
「だから、ここで退くわけにはいかない、の。何とか食い止めて次に繋げる、のっ!」
 ありったけの力を込めて、精製した時を凍結する弾丸を射撃。
 その間にも、冥龍は、他のチームへと攻撃を仕掛けてくる。炎よりも爪を使ってくる辺り、ケルベロスの数を一人でも減らそうとしているのかもしれない。
(「私の最愛が在る、この世界を守りたい」)
 別の方向へと攻撃を仕掛ける冥龍を前に、メロゥは、静かにその力を高めていく。
「だから、どんな手を使ってでも、あなたを倒すわ」
 掌からドラゴンの幻影を放ち、冥龍を焼き捨て、炎を付加した。
『貴様達の足場、崩してやろう!』
 また気球が二つ、爆発して落ちて行った。激しい炎は、メロゥ達にも襲い掛かったが、
「皆様、大丈夫でして!?」
 少し離れていたシアがすぐさま光輝くオウガ粒子を放出し、味方の超感覚を覚醒させ、皆を癒していく。
「まあ窮鼠猫を噛むっていうからね、羽虫の力……見せたるわ!」
 前衛で立つルードヴィヒが、冥龍の頭部へと簒奪者の鎌を回転させながら投げつけた。
 次に冥龍が取った行動、それは振り落としを連続で行うことだった。
 しかし、冥龍にとりついていたケルベロス達はその行動を予測していたらしく、それで振り落とされる者は少なく、すぐさま戦線に復帰していく。
「少し慣れてきたが……振り落とす回数が増えたな」
 冥龍の振り落としに堪えながら、蒼真もまた、幾度目かの攻撃を浴びせた。
『これでも、振り落とせぬのか!』
 冥龍の悔し気な声が空に響き渡る。
 ならばと、冥龍はぐるりと首を動かした。
 その先にいるのは、後方で攻撃や癒しを施していたメロゥとジゼル。
「ま、まさかっ……」
 その予感は悪い方向へと的中。
『千千に引き裂いてくれるわっ!!』
 勢いのある爪が、メロゥを切り裂き、紅い華のような血が舞い。
「きゃあ!」
 気を失った彼女は、ゆっくりと海の方へと落ちて行った。
 いや、それだけではない。
 ばちんと勢いよく切り裂かれたのは、気球と気球を繋ぐロープだった。
「冥龍め、知恵をつけやがったっ!!」
 遠く離れようとする気球から、ルードヴィヒがすぐさま別の気球へと乗り移る。
 そう、冥龍が狙ったのは、ケルベロス達が足場としている気球だった。

●冥龍ハーデス
 このチームで残っているのは、ルードヴィヒ、トレイシス、シア、ジゼルと冥龍の上にいる蒼真の5人。だがそれでも彼らは、攻撃の手を緩めることなく、戦い続ける。
『何故だ、何故引き裂けぬ』
 見れば、冥龍は焦っているのか、気球のロープを切ることに執心している様子。
 それを、阻止しようとした他のチームの仲間が鋭い爪の斬撃を受け、落ちていく姿が見える。
「そ、そうですわ! ロープを守りましょう」
「あたしも、守るわ」
 シアの言葉にジゼルも頷く。この気球が無くなれば、勝機はない。それだけは阻止しなくては。
 と、彼らがロープを守るように陣取った時。
『我が炎よ、全てを燃やしつくせっ!』
 冥龍が今までよりも一層、勢いのある激しい焔を吐き出し、ケルベロス達と気球をと狙って来たのだ。
 ぼぼんと、激しい音を響かせ、気球が一つ、青い海へと落ちていく。
 その様子にいち早く気づいたのは、トレイシスだった。
「あれほどの焔なのに思った程被害が少ない……もしや、ハーデスの力が弱まっているのか?」
 その言葉を受けて、ルードヴィヒは口の端を上げ、ややずれた帽子を被り直す。
「ならば、好都合じゃないか」
 ジゼルは傷ついた仲間を少しでも癒しながら。
「ここで終わりにしましょう」
 シアも覚悟を決めた表情で、力強く頷く。
「ええ。残る私達で一気に……」
 逃げ出そうとする冥龍を見据え、全員が動き出した。
 恐らくこれが、最後となるだろう。
「道を切り拓く覇道の力――全力を持って受けてみろ!!」
 蒼真がいち早く、止めにと残していた殱戟の覇剣を放つ。
 トレイシスは気球を飛び出し、上手く冥龍の背に降り立った。
「屍隷兵造りを邪魔された怒りはその程度か?」
 捕食モードに変形させたブラックスライムをその背に打ち込み、次に飛びついたジゼルもまた、
「ちく、たく……」
 思い出を媒体にした午前三時を解き放つ。
 後方でシアはStarlight paradeを爪弾き、響かせながら、
「眠りなさい、魂の帰る場所、優しさに包まれながら」
 穏やかに死に至る謡をその歌声に乗せていく。
『馬鹿な、冥龍ハーデスが、このような場所で……。ありえるはずが……』
 その冥龍の声は最後まで紡がれることなく。
「Remember, you can always stoop and pick up nothing」
 ルードヴィヒが放った血色の狼犬を、Stray Dog Runを受け、冥龍はゆっくりと海に沈んでいくのだった。

作者:彩取 重傷:レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079) メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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