道化師の驚怖

作者:幾夜緋琉

●道化師の驚怖
 深夜。
 秋風が吹き始める頃の、僅かに肌寒くも感じる頃。
 年頃12、3歳位の少年が、布団の中で……うーん、うーん、と唸り声を上げている。
 額には大粒の汗が浮かぶ少年……その夢の中では。
「ほーらほら♪ どーんどんおーきくなっていくよー♪」
 と、ピエロの格好をした道化師が、少年に渡した風船を、どんどんと大きく、空気を送り込んでいく。
『や、やめてよぉ……』
 と、恐怖に風船を手放そうとするが、それを許さないピエロ。
 そして。
「さーさ♪ これでさ・い・ごー♪」
 と、言うと共に、風船は大きな音を立てて破裂。
 それと同時に。
『……!! は、はぁ、はぁ、はぁ……』
 跳ねるように飛び起きた少年。
 周りを見渡し……それが夢であった、と改めて認識した、その瞬間。
 ……その少年の心臓を、背後から突き刺すのは、第三の魔女、ケリュネイア。
 そしてケリュネイアは。
「私のモザイクは晴れないけど、あなたの『驚き』、とても新鮮で楽しいわね」
 と呟き……そして少年はそのまま、また眠るかのようにベッドに倒れ込むと、その傍らに現れるドリームイーター。
 道化師の姿をしたドリームイーターは、人を馬鹿にしたかのような笑い声を上げるのであった。
 
「ケルベロスの皆さん、集まって戴き感謝ッス! それじゃ早速ッスけど、説明させて貰うッスね!」
 とダンテは、集まったケルベロス達に挨拶すると、早速説明を始める。
「ケルベロスの皆さんは、子供の頃にビックリする夢を見たこと無いいッスか? 理屈は全く通ってないのに、とにかくビックリする夢で、夜中に飛び起きたり」
「今回、そのびっくりする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われ、その驚きを奪われてしまう事件が起きてるんッスよ」
「この驚きを奪ったドリームイーターは、既に姿を消している様ッスけど、奪われた驚きを元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしてるんッスよ」
「そこでケルベロスの皆さんには、この現れたドリームイーターの被害が出る前に、撃破してきて欲しいんッス。このドリームイーターを倒す事が出来れば、驚きを奪われてしまった被害者もきっと目を覚ましてくれる筈ッスから!」
 そして更にダンテは、詳しい説明を続ける。
「今回のドリームイーターッスけど、一体のみで配下は居ない様ッス」
「このドリームイーター、夜の市街地に出向き、驚かせたくってしょうがないって感じで通りがかる一般人に風船を私とても大きく膨らませて、目の前で破裂させる、って事を繰り返しているみたいッス。つまり皆さんが市街地を歩いていれば、恐らくドリームイータの方から仕掛けてくると思うッスよ」
「ちなみにドリームイータ、驚かなかった相手を優先的に狙う様ッスから、それを利用すれば攻撃を引き付けるのも楽かもしれないッスね?」
「因みにこのドリームイーターは、風船を破裂させて、所謂風船爆弾を次々と投げつけてくる事で攻撃する様ッス。接近させないように、何度も何度も投げつけてくるから、その辺りは注意ッスよ!」
 そして、ダンテは最後に。
「何にせよ、子供達の無邪気な夢を奪い、ドリームイーターを作り出すなんて許せないッス。被害者の子供が、再び目が覚めるよう、ドリームイーターの討伐、宜しく頼むッスよ!!」
 と、拳を振り上げるのであった。


参加者
望未・空明(抱く希望とポケット一杯の夢・e00146)
クリス・クレール(盾・e01180)
桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)
プロデュー・マス(サーシス・e13730)
リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)
磯野・小東子(球に願いを・e16878)
デルテロシエル・ルルアルテリエ(生へのロマネスク・e29163)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)

■リプレイ

●驚き続いて
 秋風の吹く、肌寒い秋の一日。
 とある街角の深夜の刻……そこに、第三の魔女・ケリュネイアの作りし驚きの、道化師のドリームイーターが現れるという話。
 夢から醒めた、少年の驚きを利用したドリームイーターは、道化師のドリームイーターを作りだし、一般人達を驚かせている。
「やれやれ……またこいつの差し金かい。子供を襲うとか、全くタチが悪いったらないさね!」
 と磯野・小東子(球に願いを・e16878)が肩を竦め、溜息を吐くと、デルテロシエル・ルルアルテリエ(生へのロマネスク・e29163)も。
「そうだな。悪趣味……というよりガキの戯れの程度だな。まったく、常に面倒事を供給為てくれる輩だ。ある意味、退屈はしないが……お望み通り驚いた振りをしてやらねばならんとは……やれやれ、面倒なものだ」
 と。
 普通に驚かすだけなら、まだいいかもしれない。しかし……このドリームイーター、驚かない人を殺そうとしてしまう、というのだから、更に面倒な話である。
「……驚かない相手を優先的に、か……自己同一性を否定されたからかな?」
「んー……どうだろう。驚きの無い世界……どんなのかよく分んないけど……夢とか楽しい事とかがなくなっちゃうんなら、つまんないよね!」
「ん。他人を驚かせて喜ぶってのはね、子供の発想なんだよ。ましてや力を持ってる存在が、そんなことをして喜ぶべきじゃない。そういうのは大抵ロクなことにならないんだから……とは言っても、こいつらに言っても仕方ないか。そういうアイデンティティなんだし、さっさと始末してしまおうね、うん」
 とプロデュー・マス(サーシス・e13730)、望未・空明(抱く希望とポケット一杯の夢・e00146)、リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)の会話に、クリス・クレール(盾・e01180)、リョウ・カリン(蓮華・e29534)、桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)らも。
「無垢な事もを狙うとはな……」
「子供は好きだよね、風船。そんな風船を故意に破裂させて驚かせるのは嫌がらせ以外の何でもないし、ささっと倒してその驚きを返して貰おうかな」
「そうだな。何か人が悪りぃピエロだがな……ま、軽くぶった斬るとすっか」
「ああ。彼の意識、返して貰うぞ」
 と、三人、言葉を交し合い、そして……ケルベロス達は、ピエロの出没する町へと繰り出していくのであった。

●驚くは求める
 そして、ケルベロス達は道化師の誘導作戦を開始する。
 ……とは言っても、夜の市街地に向かい、歩く……それ以外、道化師のドリームイーターを誘い出す、上手い方法は無い訳で。
「ともかく、まずは敵をおびき寄せないとだね」
 と小東子の言葉に皆も頷きながら、歩き回る。
 又、夜目を使いながら、誘導先に適当そうな場所も……歩き回りながら探す。
 そして……歩き周り初めて、小一時間程が経過した時。
『ククク……』
 ……風と共に、ほんの僅かな笑い声。
 小さすぎて、その笑い声に気付けた者は居ない。だが……その笑い声の主、ドリームイーターは、ケルベロス達をターゲットに定めた様である。
 そして……音も無く、その背後から近寄る。
 と、その時に。
「しっかしよ、なんか風船を割って驚かすピエロみてぇなのがこの辺りに居るらしいじゃねーか。今時風船で驚かすってなー」
 と笑いながら言う綾鷹に、プロデューも。
「そうだな。確か、ドリームイーター、だったな。夢か……果たしてドリームイーターは夢を見るのだろうかな……」
「そうだなー。まぁなんだ、そんな風船ぐらいで俺は驚いたり……」
『クスクス』
 その瞬間……背後から近づいてきていたドリームイーターが、大きな風船を突如目の前に出現させる。
 そして……大きな音と共に、風船を破裂させる。
 パァァン、という音に……。
「うぉっ!?」「うわぁ!!」「おわっ! お、驚かせんじゃねぇよ!」
 プロデュー、リルカ、綾鷹が次々と驚く。
 ……ちなみに隠密気流で隠れていた空明も、耳と尻尾がピーンと。
「だ、大丈夫、大丈夫だからっ! こ、これバレてないよねっつ!」
 と慌てて取り繕うが……明らかに驚いているのはバレバレ。
 そんな驚いたケルベロス達に対し……全く驚いていないのは、クリス、小東子。
「現れたな! ドリームイーター!」
「さー、もう逃がさないよ! 一般人達を驚かして何が楽しいんだい!」
 そんな二人の言葉に、明らかにつまらなさそうな表情を浮かべるドリームイーター。
 そして……次の瞬間。
『シンジャエ』
 と、一言呟いたかと思うと……次の瞬間、跳ねるようにして距離を取る。
 そんなドリームイーターの跳ね回る動き……退路を包囲囲するのはリョウ、デルテロシエル。
「……まったく、本当に面倒臭い敵だな……さっさとやられろ」
「そうそう。故意に破裂させて驚かせて……あなたの出来る事って、その程度なのね。子供と同じよ」
 と、挑発気味に道化師に声を掛ける。
 それに対し、道化師はうーん、と言った感じにおどけて見せながら、両者から距離を取るポジションにつく。
 そんなドリームイーターに、更に包囲の陣を狭めていき……退路は、完全に断つと。
「もう飛び跳ねたって無駄だからね。覚悟おし! さ、いくら、回復頼むよ、頼りにしているからね!」
 と小東子の言葉に、テレビウムのいくらは凶器をぶんぶんと振って応える。
 そして、ドリームイーターはまた、懐から風船を出すと……みるみる内に巨大化させていく。
 そして巨大化した風船を、ふわぁ、とケルベロス達……先ほど驚いてくれなかったクリスと小東子の方へ放り投げる。
 目前で、パァァンと弾け飛ぶ風船……風の刃が、鎌鼬の如く斬り付けてくる。
「っ……殺気に命じる。目標単体……欺け」
 そんな攻撃、腕を盾に為て耐える小東子。そしてすぐ、小東子は自分自身にマインドシールド、クリスは『黒の幻惑』を発動し、道化師の注意、というか怒りを強く自分へと惹きつけて行く。
 そして引き付けた隙を狙い、空明、デルテロシエルは。
「ちょこまか出来なくなるよー!」
「ふん、夢の中へ還るがいい。驚きというのは良くも悪くも直接完成に結びつく物だ。お前ごときにやれる易い物ではない」
 と、エスケープマインに、レゾナンスグリードでバッドステータスを積み上げる。
 続く、キャスターの綾鷹と、スナイパーのリルカ。
「今度はこっちが驚かせる番だ、ビビリ過ぎて漏らすなよ!」
(「……驚かせやがって……絶対、ぶっころしてやるこんちくしょう」)
 と頭上から放つホーミングアローと、ポジショニングの構え。
 そしてプロデュー、リョウのクラッシャーが、今迄のバッドステータスに動きが鈍くなった所に。
「冬にはまだ早いけど……凍てつけ」
「さあ、さっさと倒れろ!」
 と、アイスエイジ、フレイムグリードの猛打を食らわせていく。
 ……そして、ケルベロス達の行動が一巡し、最後にいくらが仲間達の体力状況を見て、一番怪我を負っているクリスに応援動画で回復を行う。
「感謝する」
 とクリスの言葉に、凶器を振って応えるいくら。
 そして、次の刻。
 小東子はクリスにマインドシールドを賭けて強化する一方、クリス自身はデストロイブレイドを叩き込み、更に怒りを蓄積。
 ともかく、敵の攻撃はクリスに集中させる作戦……その結果、ドリームイーターはものの見事に、攻撃をクリスに向けて行く。
 そして、他の仲間達、クラッシャーを除き、大量のバッドステータスを積み重ねることで、敵の動きを制限……そして、クラッシャーの二人が、大ダメージの一撃を叩き込んで行く、という作戦。
 元々、1対8という数もあるが、驚きを期待する、作り出されたドリームイーターは、その風船爆弾以外の攻撃手段は持って居ない様で……次第に圧倒されていく。
 そんなドリームイーターの苦境に、小東子は。
「風船は割れた後は、ちゃんと片付けるのがルールなんだよ! 人を楽しませない使い方なんて言語道断!! しっかりと成敗させてもらうからね!!」
 という宣告。
 ドリームイーターは、ちっ、と舌打ちの仕草をしつつ……最後の悪あがき。
 しかしそんな悪あがきは、形勢逆転の光明になることもなく。
「この槍からは逃れられない、穿てゲイボルグ!!」
 と、リョウの放ったゲイボルグ投擲法が、ドリームイーターを直撃すると共に……プロデューが。
「イグニションエヴォルト!」
 と、渾身のフレイム・フィストを叩き込み……ドリームイーターは、其の場に崩れ墜ちて行くのであった。

●求める末に
 そして……無事にドリームイーターを倒したケルベロス達。
「ふぅ……終わったか。まったく……本当に面倒臭い相手だ」
 と、一息つく出るテロシエル。
 倒れたドリームイーターの姿はもはや消えており、暗闇に包まれた空間は静寂が覆い隠す。
 そして消えゆくドリームイーターに、空明が。
「ケルベロスの活躍で王子様は目が覚め、幸せに暮らしました……とさ。まぁ、本当にそうなればいいんだけどね」
 とくすりと笑いながら言う空明に、そうだね、と小東子も頷いて。
「さーて、周りの壊れた所をぱぱっと修理したら、少年の所に行くとしようかね!」
 と。
 そして周りの片付けをちゃっちゃと行い、そしてドリームイーターの現れた、少年の元へ。
 少年はまだ、気絶している状態……。
「さーて……眠れる王子様は起きたかなぁー? 起きてなかったら、ちゅー……はしないけど、イタズラしちゃうぞー!!」
 と空明が驚かす様に言うも、少年はうう、ん……と身じろぐ程度。
 そんな少年の傍らに座ると、小東子が。
「怖い夢はもう終わり。今度はいい夢を見れるはず……」
 と言いながら、毛布をふわり、と掛けて上げる。
 なんだか……その寝顔を見ていると、起こすのも申し訳無くなってしまう。
 苦しみもしてないし、身じろぎもしているし……夜が明ければ、程なく目も覚める事だろう。
 そして……ケルベロス達は、彼のこれからの成長を祈りつつ、その場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。