おぞましき緑の野菜

作者:塩田多弾砲

「って、和樹! あのバカ弟めー……両親留守の今晩、『俺も部活で泊まりだから、晩飯作っとく』っていうから期待してたら、こういう仕打ち? ったく!」
 大河内蓮華はうんざりした顔で、冷蔵庫内の『それ』……すなわち、『ピーマン料理』を見つめた。それ以外、冷蔵庫には調味料しか入っていない。
「しょうがない、コンビニでも……って、手持ち無かったーっ。はあっ、なんでピーマンみたいな野菜がこの世に存在するのかしら。苦いしマズいしキモイし………」
 そこまで言って、振り返ったその時。
 いきなり現れた『少女』が手にした巨大な『鍵』に、蓮華は自分の胸をいきなり貫かれた。
「……えっ? な、何を……」
「あはは、『嫌悪』してるね。あなた」
 その少女は、流れるような長髪に、深緑色の帽子と、緑と赤色のスカート姿。鳥の翼のような両腕には、うっすらとモザイク模様が浮かんでいる。
「私のモザイクは晴れないけれど、その『嫌悪』の気持ちは……わからなくはない、かな」
 嘲りめいた口調と共に、少女は手にした『鍵』をひねる。
 意識を失い、台所に倒れた蓮華。そして、少女……ステュムバロスの脇に、巨大な『何か』が現れた。
 その『何か』は、そのまま……一軒家のリビングの窓から、夜の空気の中へと躍り出た。

「先日の『スラッジ』は、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)さんたちにより退治できましたが……また、ドリームイーターが出現しました」
 君たちに連絡するは、セリカ・リュミエール。
「今度のドリームイーターは、ピーマンへの嫌悪から生まれたものです。ですが……それゆえに厄介な相手になるかと」
 ピーマンの姿に身をやつしていながら、それは食欲をそそらない、むしろ減退させるというのだ。
「これに『ピーマゴット』とコードネームを付けましたが、『嫌悪』の感情から生まれた故か、おぞましい姿をしています」
 例えるなら、それは『ピーマンを鎧のようにまとった、巨大な芋虫または蛆』。
 これが、夜の街中に飛び出し、住宅街の道路を歩き回っているという。
「この怪物……『虫』の顔は、昆虫の幼虫の類に似てはいますが……あくまでも『それっぽく見える』だけで、蛸や蛇や悪魔や恐竜に比べ、若干虫に近いだけです。頭部はモザイクのかかった複眼と、伸縮自在な口吻がありますが、これらも危険ですので注意すべきです」
 危険とは? その質問を受け、セリカは一呼吸おいてから説明した。
「その『口吻』は先端が鋭く、アスファルトを軽くえぐり、穴をあけるほどに頑丈で強力な『嘴』になっています。接近戦はもちろん、口吻自体もかなり長く伸ばせるので、距離を取っていたとしても十分な注意が必要ですね」
 それで……と、彼女は話を続ける。
「それで、『複眼』ですが。こちらはモザイクがかかっています。が、この複眼を見つめると……精神に異常をきたすようです。運悪く遭遇した通行人が、この怪物の複眼を見つめて……そのまま発狂する様が見えました。事実……私もあまり気分が良くありません」
 ケルベロスならば、直視してもすぐに致命的な影響は受けないようだが、長時間直視した場合は……どうなるか保証できない、というわけだ。
「それに加えて……この、外装とした『ピーマン』。これは防御用の装甲となる以外にも、あちこちに『切れ目』が走っており、その『切れ目』の内部には何か見えました。ひょっとしたら、切れ目は棘やガスや液体など、何かを放つ発射孔か、あるいは何か形態変化するためのものかもしれません。こちらにも、注意が必要です」
 そして更に必要なのが、この怪物の存在を許さぬこと。再び『スラッジ』の悲劇を繰り返さないために、殲滅する必要がある。
「どうか皆さん、このドリームイーターを倒し、平穏な日常を取り戻してください」


参加者
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)
千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
椿木・旭矢(雷の手指・e22146)
ポネシー・シンポル(情けは巡る・e23805)
アレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)

■リプレイ

●おぞましき前兆
「何やら、夜風に感じますなあ……」
 夜。
 敵が発生した、民家。そこに接する道の一角にキープアウトテープを張りつつ、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)は何かを感じ取っていた。
 普段の『臭い』とは異なる、精神的な『におい』を。
 時間は夜。夜空から、アレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)が偵察飛行から戻り……赤煙の目前に、着陸した。
「先刻に、巨大なピーマンを発見しました!」
「!?」
 凛々しい口調でそう告げる彼女に、赤煙は一見身を固くする。
「よく見たら、それは深夜営業していたスーパーのディスプレイでしたが」
「……そうですか、それは何よりです」
 アレスへそう返答するのに、赤煙は若干の時間を要した。
「ですが、そのピーマン……勇者の名において誓いますが……実によくできた造形物でした。ええ、私に流れるヴァルキュリアの血が訴えています」
「……左様ですか」
 いささか返答に苦しんでいた赤煙のところに、
「赤煙先生、こっちの方、テープ張り終わりました。アレス、偵察はどうだった?」
 椿木・旭矢(雷の手指・e22146)が近づいてきた。
「特に何も。小さな公園の藪が大きくえぐれていましたが、変わった点は見られませんでした」
 それを聞き、赤煙は再び思考する。
 小さな公園? この民家のすぐ近くに確かにあったが……まさか、そこに?
 赤煙は、アレスへと向き直る。
「アレスさん。その公園、案内してくれますか?」
 数刻後。
『公園』の場所に。そこは小さな広場で、植えられていた草木が……何か巨大なものに押しつぶされていた。
 その『巨大な何か』の痕跡は、確としない。が、その公園裏の道は、テープにより塞がれている道に合流している。
「据灸庵さん。そろそろ、私の方も行った方がいいでしょうか?」
 そして、合流した他の仲間……氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)の言葉に、赤煙は頷いた。
「そうですね。おそらく『やつ』も……すぐ近くで待機しているのかもしれません」
 赤煙の言葉から数刻後。周辺にうっすらとした煙が漂い始め、やがてそれは、周囲の状況を『観にくく』していった。
 そして、煙……バイオガスが漂うその状況下で。
 何かの巨塊がずり歩くような、虫唾の走るおぞましい音が、どこからか響いてきた。

●妖虫出現
 ケルベロス達は、アレスの言っていた公園、そして民家との間に立ち、周囲に気を配りつつ……その巨塊のずり歩く音に耳を澄ませていた。
「んー? ……ねえ、聞こえた? 何かが爆発したような音、したよね?」
 光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)の問いかけに、
「んー☆ 聞こえた聞こえた♪ あんじゅちゃんの耳にも、ばっちり聞こえたよ~」
 千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)が返答した。
 彼女たちのすぐ後ろで赤煙はアレスとともに並び立つ。
「爆発したような音? 確かに……なんでしょうな」
「ふむ……まさか奴は、放屁したとでも?」
 アレスの言葉に、さすがにそれは無かろうと思った赤煙だが。
「……なんだか、青臭くないですか?」
 かぐらの言葉通り、赤煙の鼻孔にも臭気が突き刺さる。放屁はともかく、先刻からの『精神的なにおい』を放つ存在が、おそらく出している。ドラゴニアンは直感的にそう思った。
 そして、かぐらのさらに後方には。旭矢とともに並び立つ者二人の姿。
 一人は、小柄なドワーフ。
「へっ……どんな能力持ちか知らないけど、その秘密こじ開けてやるぜ」
 アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)。その言葉には、何の動揺も無い。否、戦いに対する期待と闘志とに満ちている。
「さて……。レウム、貴方の準備はいいですか?」
 一人は、細身で長身の、レプリカントの美青年。柔らかな物腰で、彼は足元に立つテレビウムへと、穏やかに声をかけていた。
 レウムと声を掛けられたテレビウムは、『任せとけ』とばかりに腕を突きあげている。
「今回も、よろしくお願いしますね」ポネシー・シンポル(情けは巡る・e23805)は、レウムへ言葉をかけると……まだ見ぬ目前の脅威へと向き合った。
 どういうわけか、先刻の公園から……かのドリームイーターは姿を消していた。
「……おかしいわね。音はするのに、なぜ姿を現さないの?」
 かぐらが疑問を口にする。道路の向こうはバイオガスのせいで視界は悪くなっているが、巨体ならばシルエットくらいは見えても良い頃合い。なのに……何も見えない。
「そうだねー。あんじゅちゃんのお耳には音聞こえるのに、姿はなっしんぐ? なぜにホワーイ?」
「んー、っていうか……どこか、別の場所にいる? 透明ってわけじゃないんなら……」
 アンジェリカとともに、周囲を見回す睦。何かを見落としているなら、それはどこか……?
「……上だ! 右の方!」
 アバンのの声とともに、全員がそちらへと視線を向ける。
 そこには、悪夢がいた。悪夢そのものの生き物が這いずっていたのだ。

●戦闘開始
 そいつは、確かにピーマンを鎧よろしく着込んだ、芋虫または蛆のようだったが……最初に説明を受けた時に言われたように、正確にはどんな生き物にも似ていなかった。
 しかし、そいつがケルベロス達の右上、住宅や建物の屋根伝いにもぞもぞと巨体を這い回らせている様は、枝葉の間を這い回る幼虫を連想させた。
 ピーマン部分には、継ぎ目あるいは切れ目が数多く走っていたが、その多くはぴったりと閉じていた。切れ目があるのは、胴体中央部と後半身であり、特に後半身のそれは数え切れないほどの数がある。
 ドリームイーター『ピーマゴット』は……建物の屋根から身を躍らせ……。
 ケルベロス達の目前に、着地した。
 その顔面にある口吻は象の鼻に似ており、先端部には太い針または衝角めいたものがあった。
 複眼は切子状で、モザイクがかかっていたが……絶えず千変万化の色を発して煌めき、その煌めきの一瞬ごとに、心が引き寄せられ魅了されるかのような光が放たれている。
「……まずい! 直視しなくてもこれかよ!」
 旭矢、そして他の者たちも、すぐに正気に戻り、精神を戦いのそれへと向けた。
 愕然とさせられた事を恥じるかのように……ケルベロス達は怪物へと闘志を向け、それをぶつける。
「いっちばーん!『バリケードクラッシュ』!」
 睦のエクスカリバールが、うなりをあげて『ピーマゴット』に叩き付けられる。
 が、直撃を受けたはずなのに、相手はそれほど堪えていない。
「うわーっ、きーもちっわるぅーい! にっばーん! 正義の鉄拳☆くらわせちゃうんだからっ♪」
 続き、アンジェリカが放った縛霊手による破鎧衝が、同様に『ピーマゴット』のピーマン装甲に直撃。が、やはり目立ったダメージは見受けられない。
 逆に怪物は、口吻を長く伸ばし……それを以て怒涛の刺突を放つ。
「うわっ! ……ちょ、ちょっとタンマ!」
「ひええっ! あんじゅちゃんやっぱり虫もピーマンも嫌いっ!」
 防ぎきれず、怯む二人に。
「って、ふえっ!」
「ふにゃああっ!」
 口吻に薙ぎ払われ、二人は周囲の塀に投げつけられ叩き付けられたのだ。
「大丈夫ですか!」
 二人には赤煙が、そして怪物にはアレスとかぐら、アバンとが向かう。
「止めてみせる!」チェーンソー剣を叩き付けるかぐらだが……。
 そいつの巨体の、表面を僅かに削り取る程度に終わった。
「なっ……くうっ!」
 口吻先端の衝角が、かぐらを襲う。
「危ない!」
 聖楯イージスを携えたアレスが、それを受け止め事なきを得たが。
「ぐっ……ぐあああっ!」
 刺突は止められても、衝撃までは止められず、後方へと弾き飛ばされ……転がされた。
 怪物が追撃するが。
「させるかよっ!」
 流星の如き蹴撃、旭矢のスターゲイザーがそれを阻んだ。
『ピーマゴット』はそれに対し、ピーマンの装甲の「切れ目」をわずかに、開かせる。
「もらった!」
 すかさず、アバンが手にしたエクスカリバールを投擲した。放たれた武器は怪物の体内に突き刺さり……緑色の粘ついた体液が迸った。
 口吻が激しく打ち振られ、胴体が悶えつつ、左右の塀や家の壁に叩き付けられる。
「どうやら、痛みを知っているようだな。もっと知ってもらうとするか!」
 斬霊刀に武器を持ち替え、更に迫ろうとするアバン。
「ヴァルキュリアも助力するぞ!」
「私も!」
 アレスはゾディアックソードと楯、かぐらはチェーンソー剣を手にして、怪物に追撃する。
 やがて、『ピーマゴット』は……。
 ピーマンの装甲を、変形し始めた。
「へっ、どうやら装甲を翼に変化させて、空を飛ぶんだろうさ」
 アバンのつぶやきを聞きつつ、赤煙、そして彼に治癒された睦とアンジェリカも戦列に戻ったが……。
「これって、何よ! どういう事!」
「こんなの反則! あんじゅちゃんぷんぷんだよっ!」
 二人の少女は、驚きと戸惑いが合わさった表情とともに『ピーマゴット』の変容を見ていた。

●変態完了
『ピーマンの装甲を翼に変形させ、空を飛ぶ』。アバンの予想は、そこまでは正しかった。
 しかし……翼を羽ばたかせて飛行しているわけではなかったのだ。胴体中央部のピーマン装甲の切れ目は、桐子細工が組合わさるかのように、飛行機のような固定翼に変化。
 そして後半身に走っていた『切れ目』は、その全てが『展開』し……隠されていた『噴射口』を露出。怪物はそこからジェットのように炎を噴出させ……空中を浮遊していたのだ。赤煙は悟った。アレスと共に先刻聞いた爆発音は、これだったのだと。
 噴射口のうち数個は、先刻のアバンの攻撃で潰されていたが……その傷は目に見える速度で回復しつつある。
「すまない、破壊失敗だ! ……来るぞ!」
 旭矢の言葉に、
「……任せて下さい! 翼を狙えばっ!」
 再びアバンは、今度は翼に変化した部位へ、エクスカリバールを投げる。
 が、
「なにっ!?」
 バールは弾かれてしまった。そして、『ピーマゴット』のジェットが噴出し……。巨大な砲弾もかくやの勢いで、ケルベロス達を強襲した!
 その『勢い』は、ケルベロス達の予想をはるかに超えていた。
「くそっ! ならば!」
 アバンに変わり、旭矢がドラゴニックハンマー『赤日』ですれ違いざまに叩き落とそうとしたが。
 ハンマーを叩き付けたとたん、旭矢は逆に弾き飛ばされた。道路をたっぷり数十mは飛ばされ、転がされ……大きく頑丈な壁にぶち当たり破壊してしまう事で、ようやく勢いが止む。
「椿木さん!」
 アバンはかろうじて、怪物の強襲を避けられたが……。
「きゃああっ!」
「むつみちゃん!?」アンジェリカの前で、翼を当てられた睦が弾き飛ばされ、
「がはあっ!」
「かぐら!?」アレスのすぐ脇で、かぐらがモザイクのかかった複眼を直視してしまい、その隙に口吻による打撃を。
 二人もまた、旭矢と同じくらいに飛ばされ、叩き付けられ……血みどろの様相となりその動きを止めた。
「ポネシー! 椿木さんの治癒を頼む!」
「わかりました! レウム!」
 ポネシーが旭矢へ、テレビウムは睦の方へ。そして赤煙はかぐらの方へと向かっていく。
「……これは、いささかまずいですね」
 赤煙が苦々しさとともに、小さくつぶやいた。

●飛虫迎撃
 アバン、アレス、そしてアンジェリカ。
 三人は、上空でホバリングしている『ピーマゴット』から目を離さずにいる。
 次で、終わりだ。もし怪物が呟けるならば、そう呟いていたに違いない。噴射口からの噴射角度を調節し……まるで対地攻撃ジェット戦闘機機がごとく、急降下してくる。
 が、絶望的な状況の中。
 迫りくる怪物へ……。
「三度目の正直! いっけーっ!」
 三度目の『投げバール』を放つアバン。その一撃は……見事に『翼』の根元に突き刺さった。
 高速で動く目標に、高速でバールを投げつけ……突き刺さったのだ。それは大きな裂け目を産み出し……。
『ピーマゴット』の片翼を、切断した。
 混乱したかのように、口吻を振り回す怪物。だが、勢いの付いた巨体を今再び空に舞い戻す事は不可能だった。バランスを失った怪物は、勢いを殺せぬままに地面と接吻し、転がった。
「これが……」
 そして、自身の翼を用いて『ピーマゴット』の背中に降り立ったアレスは、
「……勇者の力です! 『星乙女の鉄槌(ハマー・アストライアー)』!」
 己のゾディアックソードに煌めく光を纏わせると、怪物の背中に走る切れ目の一つに。柄まで刃を突き刺し、そのままずいと数メートル切り裂いた。
 途端に、『ピーマゴット』の体が震え、痙攣する。口吻の一撃が、アレスを打ちすえて背中から叩き落とした。
「……『咲いた、咲いた、赤い薔薇』……」
 更なる追撃にと、アンジェリカが『唄』を唄い始めた。
「『……咲いた咲いた大きな薔薇。赤い花は彼岸へ流し、彼方の空へ』……」
 地の底から響くような、恐ろしい歌声。それが彼女の口から、言いよどむ事無く響いてくる。
『血咲き唄』、それが、この恐ろしき唄の名前。己が歌声を地獄化している彼女の歌は、耳が有ろうがなかろうが、目前の怪物へと、着実にダメージを食らわせ続けている。
 ジェットを噴射し、空へと逃れようとする『ピーマゴット』。
 だが、
「逃がさないわ!」
 赤煙により回復したかぐらが、怪物の後方にその姿を現したのだ。その手にあるガトリングガンの連射が、開いたピーマン装甲の隙間から噴射口に突き刺さり、弾丸が食い込んでいく。
 蜂の巣にされた蛆は、ピーマンの装甲も切れ目の部分から弾き飛ばされ、粘液を飛び散らさせた。
 多大なダメージを喰らった『ピーマゴット』に……。
「あんたなんか! ピーマンなんか私が片付けてやる!」
 レウムにより復活した睦の『降魔真拳』が、蛆の後半身に叩き付けられる。
「……しばらく、ピーマンはいらん」
 そして、最後にポネシーにより回復した旭矢の『雷の手指』……天空より召喚した指で……目前のおぞましき緑をつまみ取り、その悪夢の命も取り去る事で……おぞましき怪物への、とどめと為った。

●悪夢終焉
 台所。
「あれ……私?」
 赤煙と旭矢、ポネシーの目前で、蓮華は目覚めた。
 どうやら、異常はなさそうだ。
 他のケルベロスらは、外でヒールをかけ、戦いの後始末を行っている最中。それも、じきに終わる。
「もう、大丈夫ですよ」
 蓮華へと、赤煙が穏やかに言葉をかける。が、その心中に渦巻く思いは、穏やかではなかった。
『……ピーマゴット。我々に倒されなければ、奴はどんな生涯を送ったのだろう? 人の嫌悪から生まれて、嫌悪されるしかないデウスエクス……』
「赤煙先生、どうかしました?」
「赤煙さん?」
 旭矢とポネシーの言葉に、我に返ると。
「なんでもありませんよ。青椒肉絲でも食べて帰りましょうか……?」
 笑みと共に、赤煙は二人にそう告げた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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