夜中の旧校舎探検

作者:なちゅい

●秋の夜長のミステリー
 夏ほどは聞かないものの、秋になっても、怪談話というのは興味が尽きないもの。
 中学生の少女、明石・泉もその1人だ。
「折角、校舎に忍び込んだんですもの。絶対、幽霊を見つけ出すわ!」
 泉の通う中学校の旧校舎には、幽霊が住み着いていると囁かれている。今夜はその幽霊の発見をと、彼女は携帯のカメラを起動しながら歩く。
「なんか感じるわ……!」
 実際、泉の後ろから何かが迫る。そして、泉は突然、何かに背中から突き刺されてしまった。
 それは、大きな鍵だ。そして、それを持っていたのは……確認する前に、泉は廊下に倒れて意識を失ってしまう。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 そこにいたのは、ぼろぼろの黒い衣装を纏い、ひどく病的な肌をした魔女だった。
 第五の魔女・アウゲイアス。モザイクに包まれた腕を操るこの魔女はドリームイーターなのだ。
 鍵に貫かれた泉だったが、血が流れ出るどころか、胸には傷一つついてはいない。
 その代わりにというべきか、倒れる泉のそばには、人影が立っていた。一見すればこの学校の女子生徒にも見えるが、顔は崩れており、その下半身がモザイクに包まれている。
「あたし、は、誰……?」
 そいつは崩れた顔面で周囲を見回しながら、旧校舎を彷徨い始めたのだった。
 
 とあるビルの屋上にて。
 ケルベロスの来訪を待つ間に、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)はとあるケルベロスから怪談を聞いていた。
「その時、後から、ぴしゃり、ぴしゃりと足音が……」
 同じく、聞いていたケルベロス達の反応は様々だが、リーゼリットは青い顔をして身を震わせていた。
 そこへ、やってきた神居・雪(はぐれ狼・e22011)。彼女のお陰でその話は中断することになる。
「夜の学校への興味を奪うドリームイーターが現れるって、本当か?」
「う、うん……」
 リーゼリットは頷きながらも、なんとか身体の震えを止めて説明を始める。
「正確には、夜の学校に現れると噂される幽霊に『興味』を持った少女が、ドリームイーターに狙われてしまうようだよ」
 その噂話はどの学校でも噂になりそうな、荒唐無稽な話でしかない。
 ただ、それに強い『興味』を持って、実際に自分で試した少女がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまう。
「奪われた『興味』を元にして、怪物型のドリームイーターが現実に現れてしまうよ。この夢喰いが事件を起こそうとしているようだね」
 すでに 『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消している。元凶を叩きたくはあるが、今は被害が出る前に怪物型のドリームイーターを討伐したい。
「このドリームイーターを倒せば、『興味』を奪われてしまった少女も目を覚ますはずだよ」
 今回、『興味』を奪われたのは、明石・泉、中学2年生だ。
 感情を奪われた泉は彼女の通う中学校、旧校舎の廊下に倒れたままだ。ドリームイーターを撃破できたなら、夜中に学校へと忍び込んだ彼女に説教をしたり、あるいは怖い目にあったフォローなど行ったりすると良いだろう。
「夜中に『興味』から生まれたドリームイーターは何かを求めて、この中学校の旧校舎内を彷徨っているよ」
 この夢喰いは、『夜の旧校舎に幽霊が現れる』という話を信じていたり、噂をしていたりする人に引き寄せられる性質がある為、それを利用すれば有利に戦えるはずだ。
「ドリームイーターは怪物型が1体、配下などは従えていないようだね」
 一見すれば、この学校の女子生徒にも見える。ただ、顔面が崩れており、下半身はモザイクに包まれている。
「怪物型のドリームイーターは、人間を見つけると『自分が何者であるかを質問してくる』よ」
 この返答によっては、相手を殺そうとするようだ。現状は旧校舎を彷徨っているが、場合によってはそこから出てしまい、出くわした一般人が危機に瀕する可能性があるので、早めに対処したい。
 もちろん、ケルベロスとしては見過ごすわけにはいかないので、返答内容に関わらず早々に討伐したい。
「ドリームイーターは金縛りや体温吸収で攻撃してくるようだね。下半身のモザイクを飛ばして惑わすこともあるようだから注意が必要だよ」
 一通り説明を終えたリーゼリットは、最後にこう続ける。
「夜中に旧校舎に忍び込んだ彼女はもちろん悪いのだけれど……、ドリームイーターの被害に遭わせるわけにもいかないよ」
 だから、まずは彼女を救い出して欲しい。リーゼリットは事件の解決を、ケルベロス達に願うのだった。


参加者
サフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)
橘・楓(気高き白・e02979)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)
シャルロッテ・ルーマン(深淵の咎・e17871)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
朝影・纏(蠱惑魔・e21924)

■リプレイ

●夜の旧校舎で
 夜――。
 ケルベロス達は、とある中学校の敷地内を歩いていた。
「夜の旧校舎に幽霊が現れる……。さて、どんな幽霊だろうな?」
 美人かもしれないし、あるいは、事故で大変なことになってるかも……。
 今回のチームで唯一の男性であるウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)は、脳内であれこれ想像を巡らせる。
「……学校をさまよう幽霊ね。どうせ偽物なんだろけどさ」
 悪態づくアンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)はストリートチルドレンであり、学校に通ったことがない。
「学校ってのは、そんなに楽しいもんかのかね」
「さてね」
 物珍しげにアンナが尋ねるが、ウィリアムが両手をあげる。彼もまた、通学の経験がないらしい。
「幽霊……、殴って倒せるなら全然怖くないわね。正体は何でもいいけれど」
 愛用の黒セーラー服で参加する、朝影・纏(蠱惑魔・e21924)。彼女もまた、あまり学校には行ったことがないらしい。
「幽霊……だが、その正体は興味を奪うドリームイーターなのだろう?」
 ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)がそこで、さらりと仲間達に返す。
 彼女にとっては、怪談の類や夜の学校の探検といったものはさほど重要ではなく、このドリームイーターが何の為に行動を起こしているか、その存在のあり方に強い興味を抱いていた。
 レプリカントの彼女は、それが自身の探す正義の手がかりとなると考えているのだろう。

 程なく、目的の旧校舎へと到着した一行。
 静まり返る校舎。中に入れば、月明かりすらもあまり差し込まない。
「夜に学校って、何だか雰囲気があってドキドキするわね」
 真っ暗な校内を歩く纏は少しだけ、心を躍らせる。
「廃墟探検とか楽しいとは思うけど、単純に建物が劣化してたりして危ないんだよねぇ」
 一方で、髪の菊と牡丹が印象的なサフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)は、ハンズフリーライトで校内を照らしながら足を踏み出す。きしむ音を立てた床に頼りなさを覚えていたようだ。
 一行はサフィーナとルージュのライトを光源としつつ、2階へと上がる。すぐに、使われていない教室を発見したメンバー達は、この後の戦闘に備える。
 ぼんやりとした印象の荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)は机を端へと寄せ始め、纏や橘・楓(気高き白・e02979)もその片づけを手早く行う。
「さあて、幽霊ちゃんを誘き出すとしましょうかね」
 机を運び終えたウィリアムが仲間に促すと、シャルロッテ・ルーマン(深淵の咎・e17871)が頷いてから口を開く。
「ここに幽霊が出るって本当?」
 仲間へと噂話を促すシャルロッテは、本心では幽霊を信じたくはないらしい。
「聞けば……、この旧校舎には……。曰く失恋で……、曰くいじめで……、曰く事故で……、非業の死を遂げた……女性の幽霊が……」
 いつも聖職服を纏っており、信心深い綺華。彼女が真顔で語ると、なぜか真実味を帯びて聞こえるのが不思議である。
「怪談話は……ちょっと怖いけど……、でも……なんだかワクワクしますよね……。不思議です……」
 聞き手に回る楓。人見知りな彼女は仲間達からやや距離を置き、怪談話に身を震わせていた。それでも、話には興味は引かれるらしく、しっかりと聞き耳を立てている。
「僕が聞いたのは……、使われてない鍵のかかった空き教室。そこに現れる幽霊に捕まると、何か大切なものを奪われてしまうらしい」
 それはかつて、夜の空き教室で大切なものを奪われてしまった幽霊の亡霊だとルージュは語る。今でも、『夜な夜な旧校舎に幽霊が現れる』と語り継がれるのだそうだ。
「……言われてみたら、すっごくそれっぽい雰囲気だわ」
 シャルロッテは何かの気配を感じて呟く。
「ドリームイーターは出るんでしょ」
 噂話をしているケルベロス達のところへ、音もなく近づいてくる人影。
 いや、そいつは人の形をしてはいるが、人間ではない。この学校の女子用制服こそ着てはいるが、顔面は崩れ、腰から下がモザイクに包まれている。紛れもなくドリームイーターだ。
「中途半端に人型を残してるから、グロテスクだねぇ……」
 仲間の話を聞きながらも、教室の入り口を警戒していたサフィーナがいち早くその存在に気づく。
「あたし、は、誰……?」
 ややくぐもった声で、そいつ……ドリームイーターはケルベロス達へと問いかけてくる。メンバー達も話を止めてそいつに対して構えを取る。
「……トンカラトン!」
 サフィーナが最初に声を荒げて告げた。それはまた、別の都市伝説である。
 しかし、夢喰いは満足せずに他のメンバーにも問いかけてきた。
「ロッテはロッテよ。あなたはだあれ?」
「あなたは……死者……あるべきところに……帰してあげます……」
 シャルロッテ、綺華が自分なりに考えた答えを返す。綺華の言葉にはある程度の納得した反応を示してはいたものの、自らの望む返答をしないメンバーには敵意を示して近づいてくる。
 回答を控えていた纏、すぐさま討伐をと動く楓も応戦の構えだ。
「俺にはわからねェが、オタクはあるべき場所ってヤツに帰るべきだと思うぜ。お嬢さん」
 軽口を叩くウィリアムは高く跳躍し、夢喰いを狙う。

●闇夜の教室で幽霊退治!
 ウィリアムは、ドリームイーターに先んじて攻撃を仕掛ける。彼は敵の攻撃を阻害すべく、頭上から流星の如き蹴りを食らわせた。
「女の子……にしちゃエグい相手だがな」
 敵は少女の興味から生まれた夢喰いなのだろうが、女性の容姿をしているのには間違いない。
(「小せェ頃、好きな女の子にいじわるした奴いたな……。ああいう気分だぜ」)
 ウィリアムがそんなことを考えていると、夢喰いはすぐに反撃してくる。そっと手を伸ばして、彼の体力を吸い取ろうとしてきたのだ。
「その攻撃は通さない……よ!」
 夢喰いの前へと飛び出したサフィーナ。敵の手は非常に冷たく、全ての熱を持っていかれそうな感覚を覚える。
 しかし、サフィーナは意識をしっかりと持ち、縛霊手を嵌めた手で殴りつけて夢喰いの身体を霊気の糸で包み込む。その後方から、サフィーナと瓜二つの容姿をしたビハインド、カミヒメが教室の椅子を投げ飛ばし、夢喰いの足を鈍らせた。
 メンバーの為にと身体を張る綺華。自身と仲間が敵の攻撃に耐えられるようにと、紙兵を撒き散らして警護に当たらせる。後方では黒毛金眼のペルシャ猫のウイングキャット、ばすてとさまが翼を羽ばたかせることで、夢喰いの使うグラビティに対抗する力を同列メンバーに与えていたようだ。
「皆、僕に合わせてくれると嬉しい」
 できる限り仲間に合わせて攻撃をと考えるルージュは、他のメンバーが攻撃態勢に入るのを見て、刃に死の力を纏わせた大鎌を夢喰いへと振り下ろす。
 すぐさま纏がブラックスライムを飛ばし、夢喰いの身体を呑み込ませて動きを封じれば、後方の楓がバイオレンスギターから発する音波を弾丸に変えて夢喰いへと撃ちこむ。その弾丸は、夢喰いの被弾箇所を凍らせていった。
「撃ち抜く」
 アンナは、愛用のスティック状のスナック菓子に気を通して投げ飛ばす。これも、彼女が齧った仙道を応用した術。鋭い刃となしたそれらは夢喰いの身体を貫き、身体に痺れを走らせる。アンナに合わせるように、名もない彼女のビハインドが夢喰いの身体を心霊現象で縛り付けた。
「ちょっと痛いの、あなたにあげるわ」
 シャルロッテは前で飛ぶウイングキャットのアースガルズに守られながらも、ローラーダッシュの摩擦を使うことで燃え上がらせたエアシューズで一蹴する。
「戦う相手がドリームイーターでよかったわ」
 殴打箇所を燃え上がらせ、身体を煽られた夢喰いへ、シャルロッテが言い放つ。幽霊に見えるだけのドリームイーターに、彼女は恐れを見せる事はなさそうだ。
「だって、こんなふうに攻撃、しっかり当たるじゃない?」
 もっとも、彼女は幽霊やお化けの類と出会ってグラビティを試したことなどないのだが。

 その後も、ケルベロスの攻撃は続く。
 仲間との連携を重視し、攻め入るルージュ。彼女の中の正義は、かつて散ったケルベロスより引き継がれたもの。
「少なくとも、君を放置することは僕の正義に反する……!」
 ルージュは音速を超える拳を、目の前のドリームイーターへと叩きつける。
 ぐらりと揺らぐ敵の隙を、纏は逃さない。
「貴方の心を……幽霊にも心臓はあるのかしら?」
 正面から飛び込んだ纏は、敵の胸へと掌底を打ち込む。相手の心臓にショックを与えて一時的に心停止すら引き起こすこの一撃は、動きを麻痺させてしまう。
 だが、ドリームイーターは抵抗して見せ、下半身のモザイクを撒き散らす。
 モザイクは後方へと飛んでいく。ケルベロス達はサーヴァントを含めた壁役が多いこともあり、そのほとんどは受け止められたのだが、運悪く、緊急手術で仲間の回復を行っていた楓にモザイクが取り付いていく。
 モザイクの嵐で思考を乱される楓。徐々にドリームイーターの存在が自分にとって大切な人に思えてきて……。
「その人を……傷つけさせない」
 虚ろな目で、楓は夢喰いへと手術を施そうとしてしまうのを見て、サフィーナが溜めた気力を楓へと撃ちだし、正気に戻す。
「聞こえる? ……意識が戻ったようだね」
「す、すみません……」
 楓はすぐさま、仲間の回復へと戻る。
 カミヒメが金縛りを起こして敵の身体を縛り付けてくれるのを目にしながらも、サフィーナもまた前列で正気を失いかけた仲間に気力を飛ばしていたようだ。
「それでは……、行くです……」
 ばすてとさまの翼から起こる風で我を取り戻した綺華は、ステップを踏み始める。オラトリオの彼女は翼を羽ばたかせ、夢喰いの周りを舞う。
「のろわれた者ども……わたしから離れて……。悪魔と……その使いたちのために……」
 言葉を紡ぎながら、綺華はリボルバー銃を機敏な所作で扱い、弾丸を夢喰いに叩き込んでいく。
「用意された永遠の火に……入れ……です……」
「うう、ううっ……」
 弾丸を浴びるたび、夢喰いは小さく呻く。
 そこに、アンナが飛び込む。基本的には中国拳法崩れのラフファイトが彼女の戦法だ。拳や蹴りを叩き込んでいたアンナは、素早く取り出した惨殺ナイフを煌かせる。
「お前には何が見えるのかな」
 その刃に、アンナは夢喰いが覚えるトラウマを映し出す。それが何かはケルベロス達には分からなかったが、夢喰いはそれを見て悲鳴を上げ、虚空に見ていた何かに向けて縛りつけようとグラビティを行使していた。
 お陰で、夢喰いに大きな隙が出来る。ここぞとメンバー達は一気呵成に攻め込んでいく。
 腰に差した2本の刀をメインに、夢喰いを攻め立てていたウィリアムも仕掛ける。
「――Fiat lux.」
 その呼びかけと共に、白く透き通った無数の女の腕が伸びる。全てを迎える大いなる腕は、夢喰いの身体を抱いて離さない。
 教室の備品を壊さぬようにと出来る限り攻撃をアースガルズに受け止めさせ、自らのグラビティも気がけて飛ばしていた。
「怠惰な王に、わたしは傅く」
 シャルロッテもタイミングを見て、静かに詠唱を始める。
 呼び出したるは、黒色不定形の出来損ないのドラゴン。漆黒の杖を手にしたシャルロッテは、天から堕ちた怠惰なる地獄の支配者に願い乞う。
「食事の時間に、しちゃいましょ」
 教室内を暴れる邪竜はその一言で獲物と見定めた夢喰いの身体を蹂躙し、喰らい尽くしてしまう。
 ドラゴンが消え去った後。そこにはモザイクの欠片しか残されておらず。それもまたすぐに霧散して消え去ったのだった。

●好奇心猫をも殺す
 ドリームイーターの討伐を確認したケルベロス達。
 戦闘によって壁や床に穴が開いたり、端に寄せた机や椅子も壊れたりと教室にも被害が及んでいた為、纏は桃色の霧を展開していく。
「さあ歌おう、この想い伝えるために。さあ奏でよう、大切なモノのために」
 楓は情熱の歌を歌い、破壊された箇所を幻想で埋めていく。
 仲間達がヒールに当たる中、ルージュは痕跡を調べ、何か手がかりはつかめないかと探していたのだが。残念ながら目に付くものは発見できなかったようだ。
 他のメンバー達は3階廊下で倒れている少女、明石・泉を介抱し、教室へと連れて来ていた。
「大丈夫? 怪我はない?」
「うらめしやー」
 サフィーナは目覚めた泉へと声をかけると、横からにゅーっと纏が幽霊の真似をして顔を出す。
「……なによ、その反応は」
 微妙な仲間や泉の反応に、纏はそっけなく返す。
「よ、お嬢さん。幽霊には会えたかい?」
 ウィリアムの問いかけに首を横に振る泉へ、纏がさらに告げる。
「ま、幽霊を探しに来たなら残念だったわね、私達が退治したわよ」
 その言葉に、泉は複雑な表情を見せた。折角、こうして夜の旧校舎までやってきても、目的の相手を自身で確認できなければ、意味がないのだ。
「1人でこんなとこに来たら、悪い狼に食べられちゃうのよ」
「好奇心は良いですが……、これからは……もう少し安全に……探検しましょう……」
 泉の身体を気遣っていたシャルロッテも、彼女を真剣に窘める。続けて、話すのが苦手な綺華も彼女なりの言葉で泉を諌めていた。
 楓も夜の旧校舎を女の子1人で歩く危険を注意し、泉を諭す。
「今回みたいな事もそうですし……変な人だっていっぱいいるんですから……」
 デウスエクスもそうだが、世の中どんな人間がいるか分からないのだ。
 アンナはそれを聞いて、幽霊探しは勝手にすればいいとしながらも、さらに続ける。
「夜中に、戦えない女が一人で出歩くなら、覚悟くらいしとけよ。身を守る覚悟でも、守れない覚悟でも」
 痛い目に遭って生き残っても、懲りないのであればもう知らないとアンナが告げる。次はケルベロスが助けてくれるという、絶対の保障はないのだ。
「これからはこういうことはしちゃダメ……わかりましたか?」
 楓が言い聞かせると、泉は小さくこくりと頷いた。
「やんちゃすんのもイイが、危ないコトだっつーのを忘れねェようにな」
 家まで送るというウィリアムの申し出に応じ、泉はケルベロスと共に旧校舎を後にしていったのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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