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暗い闇夜に包まれた藪の中、少女は静かに手を合わせる。
彼女の前には古びた塚があった。
塚と言っても簡素なもので、大きな丸い石がひとつあるだけだ。
かつてこの場所で切腹を遂げた侍がここに埋葬されているという言い伝えがある。今となってはそれが本当なのかどうか確かめるすべはないが、どことなく近寄りがたい不気味な雰囲気を持つ場所だった。
少女が帰ろうと思ったその時、背後で何かが動く気配がした。
少女はおそるおそる振り向く。
そこには甲冑を着込んだ鎧武者が立っていた。全身が淡く発光しており、背後の景色が少し透けて見える。
「ゆ、幽霊……!?」
鎧武者は無言のまま腰の刀を引き抜くと、少女のほうに歩いてきた。
「ち、違うんです! 私は塚を荒らすつもりはなくて、ただお参りに来ただけで……」
少女の弁明に耳を貸さず、鎧武者は刀を構えて走り出した。
と、そこで目が覚めた。
布団で寝ていた少女はガバッと飛び起きる。
「何だ……夢かぁ~」
少女は安堵して寝ぼけまなこを擦る。
だが部屋に見知らぬ女性の姿があった。
その女性――第三の魔女・ケリュネイアは手にした鍵を少女の胸に突き刺していった。
鍵は心臓を貫いたものの、少女はケガもせず死にもしない。これはドリームイーターが人間の夢を得るために行う行為なのだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
ケリュネイアはそう言うと部屋の窓を開けた。驚きを奪い取られて布団にパタリと倒れ込んだ少女の体が発光した次の瞬間、窓の外には少女の夢に登場した化け物の姿が具現化していた。
鎧武者の姿のドリームイーターは一度辺りを見渡すと、ゆっくりと歩き出す。
布団に横たわる少女は一見すると眠っているだけのように見えるが、ドリームイーターを倒さない限り彼女は永遠に目覚めることはない。
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「子供の頃って、あっと驚くような夢をよく見たりしますよね! 理屈は全く通っていないのですが、とにかくビックリして夜中に飛び起きたりとか……そのビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われて『驚きを』奪われてしまう事件が起こっています!」
ヘリポートに集まったケルベロスたちの前で笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が説明を始める。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『驚き』を元にして具現化されたドリームイーターが、事件を起こそうとしています。被害が出る前にドリームイーターを撃破して下さい!」
ドリームイーターを撃破すれば『驚き』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるだろう。
敵は鎧武者の亡霊のような姿をしており、心がないため胸元がモザイク化している。
「なお、敵が使用する技は『日本刀』に準拠したグラビティです」
敵のグラビティは近距離攻撃のみだが、威力が強力で一撃が重い。
現場への到着予定時刻は夜になる見込み。夜なので人通りが少ないとはいえ現場は街中である。何かしら人払いをしておくと安心して戦えるはずだ。
「街の人々を守るため……そして眠っている少女を救うため、ドリームイーターを撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
参加者 | |
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花道・リリ(失せモノ探し・e00200) |
テルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524) |
テンペスタ・シェイクスピア(突進する救護士・e00991) |
大原・大地(元守兵のチビデブ竜派男子・e12427) |
立花・吹雪(玲瓏たる鍔鳴り・e13677) |
レクト・ジゼル(色糸結び・e21023) |
ヒストリア・レーヴン(鳥籠の騎士・e24846) |
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503) |
「影武者の亡霊ねぇ。まだまだ可愛らしい悪夢じゃあないの。でも具現化されては堪らないわ」
ドリームイーターが出現した地点へと向かう道すがら、花道・リリ(失せモノ探し・e00200)が言った。まばらな街頭が並ぶ夜の街は、薄暗くて静かだった。
「気兼ねなくボコれる相手は良いな。すごく良いな」
テンペスタ・シェイクスピア(突進する救護士・e00991)は敵との戦いに備えて素振りを繰り返している。
「鎧武者の亡霊ですか……肝試しには遅く、ハロウィンには少し早い気もしますね。何にせよ、ゴーストバスターしましょうか」
冷静にそう話すのはテルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524)。そのうちマシュマロの巨大オバケとかが現れるのでは……と彼女は内心ひそかに危惧していた。
「日本の鎧武者、確か戦国時代に使われていたんだったかな? 昔の技術はすごいなあ……」
ずんぐりした体形の大原・大地(元守兵のチビデブ竜派男子・e12427)はライトを手に辺りを見回す。
「一刻も早く穏やかな夜を取り戻しましょう……!」
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)は敵襲に備えて周囲を警戒している。
戦闘予定地へと到着した彼らは、敵が来るのをその場で待った。
「鎧武者の亡霊を模したドリームイーターが相手ですか。刀を用いた戦闘を得意としているようですね。どれほどの使い手か興味深いです」
立花・吹雪(玲瓏たる鍔鳴り・e13677)は続ける。
「少女の夢から現れた亡霊を打倒し、彼女を悪い夢から救い出すためにも負けられませんね。皆さん油断せずに参りましょう!」
吹雪とテンペスタはキープアウトテープで辺りを封鎖していく。
それからほどなくしてドリームイーターが現れた。
鎧武者の幽霊の姿。甲冑を身にまとい、腰に刀を差している。体全体が青く発光し、背後の景色がほんの少し透けて見える。
ドリームイーターは腰を沈めて刀の柄に手をかける。その所作からして一筋縄ではいかない相手であることは分かった。
「驚き……だけじゃなく、感情を集めて何をしたいのでしょうね。ドリームイーター達の動きは謎ですが、企みを1つずつ確実に潰していきましょう」
レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)は万全を期すため殺界形成を発動する。確かにこの鎧武者がいきなり背後に現れたら誰だってびっくりしてしまいそうだ。
「肝試しには少し遅いようですけど……これでみなさん全力で戦えますよ」
レクトは辺りに人がいないのを確認した上で身構える。
「怖い夢を見て、起きたところをドリームイーターに狙われるとは……悪夢が未だ終わっていないようなものだな。早く終わらせてやらねば」
ヒストリア・レーヴン(鳥籠の騎士・e24846)は率先して味方の前へ出つつ、大人びた口調で言った。
ドリームイーターは柄に手を触れたまま刀を抜かず、気力を充足させている。
少しの間様子をうかがっていたケルベロスだったが、敵が仕掛けてくる様子がないため先手を取ることにした。
「さ、とっとと夢の中にお帰りいただきましょ。その格好は甚だ時代錯誤であるのでアンタも恥ずかしいでしょう」
リリはペトリフィケイションを放つ。
ドリームイーターはかわそうとしたが、よけきれず足に魔法光線を受けてしまった。いきなりBSを付与されてしまった敵は、こちらの攻撃を警戒して一度距離を取る。
その隙にケルベロスはエフェクトの付与を行った。まずテルルがブレイブマインを発動して後衛の力を高め、そしてラグナシセロが『オーディンの箴言』で後衛の士気を高めていく。
エフェクトの付与が終わると、ヒストリアが飛び出した。彼は駆け出しながら稲妻突きを放った。雷が渦巻く槍を持ち上げ、重い突きを繰り出していく。
敵はその場から一歩も動かずに刀の柄を握ると、一気に抜刀して居合斬りを放った。槍と刀が打ち合わされて周囲に雷が弾け、僅かに力負けしたヒストリアは後ろへ飛ばされてしまった。
だが、すかさず吹雪が月光斬を叩き込む。刀を大きく払って至近距離から斬撃を浴びせると、彼女はすぐに飛び下がった。
ドリームイーターは前衛のケルベロスのもとに駆け寄ると、刀を振りかぶって縦に振り下ろした。容赦ない一撃がリリの頭めがけて振ってくる。
「これで防ぐ!」
大地が叫ぶ。彼は太陽の大盾を構え、かろうじて敵の刀を受け止めた。大地は後ろにのけぞりつつも、何とか力づくで押し返し、ドリームイーターを大盾で弾き飛ばす。そして相手が体勢を立て直す前にボクスドラゴンにタックルをさせた。
「リーチが短いとはいえ、広範囲を巻き込むグラビティは要注意ですね」
レクトは前衛に声をかけながら轟竜砲を放つ。砲撃形態に変化したハンマーから、轟音と共に竜砲弾が打ち出される。敵は弾道を見切って砲弾を真っ二つに切り裂いたが、割れた砲弾が爆発して炎が広がった。ビハインドは煙の中の敵に狙いを定め、金縛りをかける。
やがてドリームイーターは刀を振って煙を一蹴した。そしてこちらへ向かって駆け出しながら、刀身に青いオーラをまとわせて刀を振り抜く。すると切っ先から青い斬撃が伸びてきた。アスファルトが切り裂かれ、辺りに青い光が巻き上がる。
「くっ、鋭い一撃っ……」
前衛の味方が吹き飛ばされる中、負傷しつつもなんとか踏みとどまったテンペスタはナパームミサイルを放つ。
「しかし私のHPは6000超えっ。ディフェンダーでなくとも簡単に削り切れると思うなっ!!」
テンペスタはキリッとした表情で言うと、大量の焼夷弾を次々と打ち出した。敵は焼夷弾の雨から逃れようと駆け出すが、彼女は狙いすまして正確に弾丸を当てていく。
テンペスタが執拗に銃撃を浴びせている間に、テルルはブレイブマインを発動する。色鮮やかな爆発を巻き起こして前衛の三人にヒールを施し、同時に力も高めていく。そして主人が回復行動を取る一方、テレビウムは顔から閃光を放って敵の気を引くのだった。
ドリームイーターは刀を握り直すと、再び走り寄ってくる。一方、ヒストリアは敵の一太刀を槍で受け止めつつ、後衛にブレイブマインをかけた。
ヒストリアが引き下がり、代わりにラグナシセロが飛び出す。彼は日本刀に雷をまとわせて雷刃突を繰り出した。闇夜の中で眩しく発光する刃が甲冑の僅かな隙間を捉え、敵の体を貫いていく。エフェクトの重ね掛けによって破壊力を増した強烈な一撃が稲妻と共に叩き込まれた。
その後も戦闘は続いた。敵は強力なグラビティを次々と繰り出して前衛の体力を削りにかかったが、ヒストリアと大地が積極的にかばい、またテルルのヒールで持ち直していく。
敵のBS、それから後衛の味方のエフェクトもいい具合に累積してきた。被弾をいとわず攻撃を仕掛けたいところだったが、敵の一撃が重いため、うかつに隙を見せると返り討ちに遭うおそれもある。
それでもテンペスタは支援機に飛び乗って敵に突っ込んでいく。
『すべてを飲み込めっ、アヴァランチスライダー!!』
テンペスタは雪の結晶のようなエネルギーの粒子を周囲にまき散らしながら、敵に向かって突撃する。
「この無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きを見よっ!」
彼女の体当たりとともに、雪崩のような結晶が打ち付けられた。甲冑が凍り付いていく。
ドリームイーターは刀を翻し、テンペスタめがけて斬撃を放ってきた。青白く光る鋭利な刃が煌めき、重い一振りが繰り出される。
だが大地が間に回り込み、両手を広げてみずからの体で斬撃を受け止めた。
「うおおおおお――!」
大地は表情を歪めながらもシャウトで自身を回復し、かろうじて持ちこたえる。
『楽にしてあげましょう。……冗談ですよ?』
ディフェンダーの残り体力を考慮し、テルルはメディカルバレットを放つ。彼女は大地に銃口を向けて一発の銃弾を撃ち込んだ。短い悲鳴を上げてパタリと倒れる大地。
仲間にトドメを刺したようにも見えるのが、撃ったのは免疫力を強化する薬液が入った特殊な弾丸。
弾丸は大地の傷を癒し、BSを解除していった。
「残念だけれど、私たちはアンタをみたところで驚きはしないわ。慣れっこなの。ごめんあそばせ」
リリは肩をすくめる。ドリームイーターは刀を引きずるようにして迫ってきた。
『機嫌を損ねたアンタが悪いのよ』
リリは敵の刃を脇腹に浴びつつも、『癇癪玉のカムクァット』を叩き込む。その痛烈な一撃は甲冑に亀裂を走らせた。
ドリームイーターは後方に跳躍して反射的に距離を取った。砕けた甲冑の欠片がぱらぱらと地面に落ちる。
敵はその場で腰を沈めると、気力を充実させてこちらへ駆け出してきた。そして刀を大振りして、青い軌跡を描く斬撃を打ち出した。
広範囲を巻き込む凄まじい一太刀。ヒストリアはすぐさま味方の前に出ると、稲妻を帯びた槍で突き上げ、青い斬撃を受け止めた。
力と力がぶつかり合い、二つのグラビティが拮抗して周辺に雷が走る。グラビティの相殺を試みたヒストリアであったが、さすがに一人では勢いを殺し切れなかった。青い斬撃が彼の胸を切り裂いていく。だが背後の仲間に攻撃を通さず食い止めただけでも十分だった。
槍を落としたヒストリアに、さらに敵が斬りかかる。
「たとえ厚い鎧に覆われていても確実に蝕む力をあなたへ」
レクトはストラグルヴァインを放ち、敵の行動を阻害する。ツルクサのような攻性植物で敵の刀を絡め取ると、甲冑ごと縛り上げて圧迫していく。
ドリームイーターは刀にまとわりついた攻性植物を力づくで振り払って走り出した。だがその刃が味方を捉える前に、ラグナシセロがファミリアシュートを放つ。
「手強い相手ですが、こちらも負ける訳にはいきません。我々はお守りすべき方々のために力を尽くし戦っているのですから!」
彼はファミリアロッドを小動物の姿に戻すと、敵めがけて投げ放つ。そしてボクスドラゴンも続き、果敢にタックルを繰り出す。
ドリームイーターの胸に、小動物とボクスドラゴンが同時に頭からぶつかった。
敵が一瞬ふらついて体勢を崩すと、そこへ吹雪が駆け寄る。
「貴方の剣は見せていただきました。次は私の剣をお見せ致しましょう」
斬魔刀を手にした吹雪は『雷華』を放つ。
『雷光一閃……貴方に見切れますか?』
雷を全身に駆け巡らせ、己の身体能力を限界まで高めていく。吹雪は雷光のような動きで敵に迫ると、雷をまとった刃で切裂いた。甲冑が割れ、花のような雷が咲く。
ドリームイーターは大きくのけぞって一瞬発光すると、音もなく薄れて消えていった。
少女の夢から生まれた怪物は静かに姿を消した。
幻のような鎧武者であったが、路地に広がる破壊の跡はそれが現実の存在だったことを証明している。
敵の撃破を確認したケルベロスは、ひとまず胸をなでおろす。
「滅茶苦茶になってるし、とりあえず直しとこうかな」
テンペスタはクールな表情で破壊跡のヒールを開始した。
「さ、これで彼女は目覚めたかしら。私もとっとと帰って寝てしまいたいわ」
リリは口ではそう言いながらも、敵の呪縛から解き放たれた少女が、今度はよく眠れるよう心の中でそっと祈るのだった。おそらく二度寝しているであろう少女へ、風に乗った百合の香りが届けばよいのに、とひそかに思う。
「そういえば、知ってますか? この辺りには昔、塚があったらしいんですが、最近取り壊されてしまったようなんです」
テルルは眼鏡の奥の瞳を光らせ、不穏な声音で続ける。
「その後、取り壊しに関わった人達に連続して不幸があったとかないとか」
「やめてくださいよ、こんな夜に……!」
吹雪は半信半疑だったが、若干不安そうな表情だ。
「お疲れさまです。今回も無事で良かったです。少女は無事起きたでしょうか」
レクトはケガをした仲間にヒールを施しつつ、誰に聞くでもなく尋ねる。
「ええ、きっと無事でございます。被害者の女の子、次は鎧武者を格好良くやっつける夢が見られると良いですね」
ラグナシセロは微笑みながらそう返す。もう夜も遅いので彼らは帰ることにした。
「みなさん、紅茶でもいかがですか?」
大地は水筒に入れてきた紅茶を紙コップに注いで仲間に配り始めた。
ケルベロスは歩きながら一口すする。辺りは少し肌寒いため、温かい紅茶を飲むと身も心も温まった。
一方、ヒストリアは少女の無事を確認するため彼女の家へと向かった。
優雅な所作のウイングキャットを頭にのせたままま彼が窓を覗き込むと、少女は布団でスヤスヤ眠っていた。
「二度寝の最中のようだな。また何かわんぱくな夢でも見ているのか……?」
仲間のもとに戻ったヒストリアはそう言うと、大地から紅茶を受け取った。
作者:氷室凛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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