スイーツども爆発しろ

作者:つじ

●もうたべられないよ
「おたんじょうび、おめでとう!」
 少年は父と母と、それからたくさんの友達に囲まれていた。
 皆が座れる数の椅子と、その中央に大きなテーブル。ジュースの容器とグラスが並んで、その内側にはお皿がたくさん。
 ふわふわのシュークリーム。色とりどりのマカロン。そして真ん中には、大きな大きなホールケーキ。
 不思議な姿の料理人は、テーブルの脇から縄飛びみたいな指を伸ばして、ケーキの上のキャンドルに火をつけた。
「みんな、ありがとう!」
 大きく息を吸い込んだところで、少年は気付く。
 眩く火花を散らすそれは、キャンドルではなく導火線。小さな火種は、息を吹きかける間もなくそれを伝い、大きなケーキは大爆発を起こした。

「なんでっ!?」

 爆発に飲み込まれた少年が、悲鳴とともにベッドの上で身を起こした。荒い息を何度か吐いて、夢と現の区別がようやくついたその頃に、その心臓を巨大な鍵が貫いた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 その一撃は、ドリームイーターが人の夢を得るために行うもの。
 鍵を手にした『魔女』の前で、少年が再度ベッドに倒れこみ――。

 代わりに、新たなドリームイーターが立ち上がった。
 
●爆発オチ
 夢とは得てして理不尽なもの。怖い夢、驚く夢で飛び起きる、そういったことに覚えがある人も多いだろう。
 そんな夢を見てしまった子供が、ドリームイーターに襲われ、『驚き』を奪われる事件が起きている。
 シャドウエルフのヘリオライダー、セリカは集ったケルベロス達にそう切り出した。
「『驚き』を奪った個体はすぐに気配を消してしまいますが、その『驚き』から生まれたドリームイーターは、そのまま行動を開始するようです。皆さんにはこのドリームイーターによる被害が出る前に、撃破して頂きたいのです」

「今回現実化したドリームイーターは、パティシェのような姿でお菓子を配り歩いているようです」
 場所は被害者の家のある夜の住宅街だ。その姿は一部のモザイクに気付かなければ、ケーキ屋の宣伝か何かに見えなくもない。だが発生源である夢の内容を考えれば、配り歩いているそれは……。
「はい、爆発します」
 察したようにセリカが頷く。
 このドリームイーターは、基本的に「誰かを驚かせよう」として動いているらしい。付近を歩いていれば、向こうからやってくるだろう。
「攻撃方法も、この無尽蔵に生み出されるスイーツがメインになるでしょう。爆発による攻撃範囲に気を付けてください」
 そのほか、どうやら爆発しないものも生み出せるようで、それを使って自分を回復する事もあるようだ。
 
 一通りの情報を提示した後、セリカはケルベロス達へまっすぐな視線を送った。子供の無邪気な夢を奪ってドリームイーターを生み出す、そのような非道に対する意思が、その眼にはあった。
「被害にあった少年が再び目を覚ませるよう、そして彼の夢がほかの誰かを傷つける事が無いよう、皆さんには事件の解決をお願いいたします」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)
リーア・マルデル(純白のダリア・e03247)
ヤマダ・タエコ(ボッチなアニソンロッカー・e11869)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
神座・篝(クライマーズハイ・e28823)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)

■リプレイ

●夜のお菓子
 太陽はとうに沈み、月が辺りを照らすそんな時間。静かだった住宅街に、一際賑やかな一団が通りかかった。
「お腹空いてきちゃった~。甘い物食べたくなぁい?」
 ゆるい調子で尋ねるリーア・マルデル(純白のダリア・e03247)に、カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)と篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)が頷いて返す。
 道中に良いお店があったか、どこかで有名店がオープンした噂が、などと言う会話に、どことなくうっとりした調子でロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)も続く。
「皆様は、どのようなお菓子がお好みですか? 私は最近調べて知った、わさびスイーツなる物が気になっておりまして……」
 少々騒がしくはあるが、「微笑ましい」と流せる範囲だろうか。とはいえ、彼等の目的は雑談の内容とは別にあった。
「夜の散歩っつうのも涼しい時にはいーね」
 一見すればただの散歩ではあるが……神座・篝(クライマーズハイ・e28823)の言葉に反し、一同の目は抜かりなく周りに向けられている。
 目的は、『今回発生したドリームイーターに、こちらを見つけさせる』こと。この近くに発生していることは分かっているのだ、こうする事で、戦場になる場所をある程度操作できるだろう。

 敵の接触を待つことしばし。独特のテンポゆえか、会話に混ざり損なっていたヤマダ・タエコ(ボッチなアニソンロッカー・e11869)が、歌を口ずさみだす。
「~♪」
 ダイヤ模様のタイツに黄色のジャケット。派手なパフォーマンス衣装に身を包んだ彼女は徐々に自分の世界に入っていく。そう、言葉はいらない。アニソンがあればそれで良い。
 だが夜の住宅街にて突然のゲリラライブが始まろうとしたその時。
「オ菓子、イカガデスカー?」
 お菓子職人が、角を曲がって姿を現した。両手にはホールケーキを一つずつ。そして愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が向けたライトが、その指先のモザイクを照らし出した。
「良いの? ありがとう」
 そしてそのまま、瑠璃はケーキを受け取るために手を伸ばす。
 待ち受けていた敵との遭遇、彼女の後ろで、ケルベロス達は素早く自らの武装を紐解いた。

●飛び交う甘味
「ドーゾ、召シ上ガレー」
 ケルベロス達の敵対意思を知ってか知らずか、ドリームイーター、パティ・ジェンヌちゃんがホールケーキをぶん投げる。弧を描いたそれはケルベロス達の上で爆発。火花とスポンジと生クリームを撒き散らした。
「うお、何で爆発すんのすごくね!?」
「びっくりしました……」
 降り注ぐそれらから腕で身を庇いつつ、篝とロフィが声を上げる。
「料理下手の漫画表現で、よく『料理が爆発する』ってのがあるけどね」
 まさか本当にやる奴がいるとは。瑠璃達のその反応が届いたか、ドリームイーターは嬉しそうにその場で一回転してみせた。
「でもスイーツは爆発するものじゃなくて……」
 甘いもの好きのメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)も心情的に黙ってはいられない。少し考える素振りを見せた後、彼女は焦糖爆花弾で応戦を開始する。
「ほら、いっくよー!」
 魔法の炎で熱され、弾け飛ぶのはキャラメル味のポップコーンだ。まさかのお菓子による反撃に、パティちゃんが目を丸くする。
「すごいね、花火みたい」
「賑やかだよな。それじゃオレも――!」
 飛び交うそれらを見上げつつ、メノウが守護の陣を描き、篝のドラゴニックハンマーが号砲を鳴らす。近所迷惑、という単語が一瞬彼の脳裏をよぎったが、ここまで派手にやれば逆に寄ってくるものはいないだろう。
「それじゃダルちゃんも、お願いねぇ」
 リーアの声に、やけに貫禄のあるウイングキャットが応え、清浄な風を送る。そして自らは前へと出るリーアに、ロフィと瑠璃のサーヴァントも続いていった。

 ケーキ、キャラメルポップコーンに続き、シュークリームやマカロンが宙を舞う。パティちゃんの手で投げ込まれたそれらを、リーアとヤマダ、そしてテレビウムのクーとウイングキャットのプロデューサーさんが受け止めていく。
 一見ただのお菓子であるそれらは、漏れなく爆発するわけだが。
「うわ! また爆発した!?」
「心臓に悪いね、この攻撃!」
 メノウと瑠璃が上げた悲鳴に、ドリームイーターはやはり満足気な表情を見せる。分かりやすい、前情報通りの動き。これならば作戦を通すことも容易か。
「ほんと、とんでもないねー」
 と考えたところで、カッツェの声に敵の動きが止まった。
「ンー……?」
 怪しむようなパティちゃんの視線と、「ちょっとわざとらしすぎないか」という仲間の目が彼女に集まる。
「びっくりしたよ、ね。カッツェ?」
「うん、すっごく驚いたよー」
 メノウへの答えも変わらずどこか白々しい調子だが、首をかしげていたドリームイーターも、結局確証は得られず普通に攻撃を再開し始めた。
「どんだけ出てくるんだよこのスイーツ!」
 無限か、と声を上げる篝を、リーアが庇う。
「きゃ~っ」
 飛んできた沢山のマカロンが彼女を襲い、次々と弾けて連続した爆発音を響かせる。ダメージを引き受けたリーアは、気力溜めで自らの傷を癒しつつ感想を述べる。
「いまの、爆竹みたいだったわね~」
 その調子はとてものんびりしたもの。こちらは演技ではなく、彼女の生来の気質によるものだろうが……。
「ムムム……」
 ここまでの行動で明らかなように、この敵は「驚かせよう」という意思が攻撃に混じっている。ドリームイーターにとって、彼女のゆったりとした反応は不満に感じられたらしい。
「オカワリ、スル?」
 ケルベロス達の配置の妙か、作戦か。敵の攻撃対象が、明らかに偏り始めた。

●爆発
 篝の日本刀が緩く弧を描き、敵の足を斬りつける。タイミング良く入ったそれに、ドリームイーターの姿勢が崩れた。
「お、いけそう。でけえの宜しく!」
「任せて!」
 篝の声に瑠璃が応える。跳躍からの降下攻撃、転倒した敵に靴底が叩き込まれる。足止めと捕縛、それらの効果を生かしつつ、徐々に攻め手を増やしていく構えである。
「いたーい。メノウここやられたー」
「待ってて、すぐに治すから」
 一方、運悪く直撃をもらったカッツェに、メノウから前衛丸ごと巻き込んだメディカルレインが向けられる。癒しの慈雨が降り注ぐ中、また自らの役割を果たすべくヤマダが立ち上がった。
 すう、と一度大きく息を吸い込み、口をついて出たのは勿論歌声である。
「Let's Go!」
 地獄への道連れ。曲に合わせた攻撃はもとより、彼女の狙いはもう一つある。
「……アレー?」
 歌に入り込む事で、不動の心と集中力を発揮する。スイーツの爆発を無視して突き進む、その心はまさに明鏡止水。
 だが当然パティちゃんはそれが面白くなかったようだ。ステップを踏んで迎え討ったドリームイーターは、手に持ったチョコケーキをおもむろに叩きつけた。
「美味シクナアレー」
「もぐっ!?」
 モザイクに包まれた右手が、ヤマダの顔の輪郭を二周する。
「うわっ、今度は爆発しねえ」
「羨ましい……」
 精神攻撃よろしく塗りたくられるその攻撃の隙に、篝とロフィが仕掛ける。
「前衛に配置して頂ければ、一切驚かずに全て私が受けさせて頂きましたのに……」
「ロフィ……?」
 怪しげなコメントと共に放たれるグラインドファイアに、メリルディの凍結弾が続いた。

「召シ上ガレー、召シ上ガレー」
「こんなには食べられないわね~」
 フリスビーの要領で飛んでくる無数のワッフルを、リーアが迎撃。隙を見てヤマダがスターゲイザーの一撃を決める。
 こうして防御を固めた前衛へと攻撃が集中する中、攻撃手を担う者達は、逐次驚いて見せながらもダメージを重ねていく。足止めを行い、炎に氷と積んでいったそれらは、時間の経過とともに戦況を動かしていた。
「ナラ、私ガ貰ウー」
 それらの影響を察し、ドリームイーターも対策に動く。生み出したお菓子を自らの口の中に放り込んでいくと、傷と共に積まれた効果が消えていった。
「なに、剥がされてもまたなぐりゃいいのよ」
「そうよね、こっちももう一回……!」
 だが完治には程遠い。それを見越した篝が再度御業で敵を絡め捕り、メリルディのナイフが塞がりかけた傷口をもう一度抉っていく。作戦通りの展開。徐々に、だが確実に、ケルベロス達は獲物を追い詰めていった。

「あんた達は、子供の夢を使って出てきたのよね?」
 寄せの一手。瑠璃の手の内でルーンが輝き、断罪の斧が振り下ろされる。
「どんなジジョーがあるか知らないけど、絶対許さないわ!」
「篁流剣術、”三日月”!」
 続けてメノウの刃が黒い三日月を描き、炎が、氷が、より激しさを増す。
「ほら、よ~く狙って?」
 頃合いと見たリーアがSessrumnirの力を発揮。狙いの誘導に沿ってウイングキャットが華麗に舞う。さらには篝の月光斬がその爪痕をなぞり――。
「そろそろ驚きも品切れだぜ、菓子は爆発するもんじゃなくて――」
「食べた人を笑顔にするものよ」
 言葉を継いだメリルディの凍結弾が敵の余裕を削ぎ落した。
「ムムム!」
 再度生み出されるスイーツ。しかしもはや驚く必要も無くなり、何度も同じ事をされて慣れてしまったケルベロス達が動じる様子は全くない。
 怒った様子のドリームイーターがケーキを振り上げたその時。
「こっちだよ」
 死角からカッツェが躍り出た。そして目を丸くするパティちゃんの手に手を添えるように、一撃。
「それじゃ、召し上がれー」
 生じたケーキがドリームイーターの口に放り込まれ――。
「ムゴッ!?」
 盛大に、爆発した。

 目を回したようにふらふらと歩き、力尽きたパティちゃんはその場にばったりと倒れた。

●勝者
 静寂を取り戻した住宅街。終戦の気配を察してきた住人達の相手をしつつ、ケルベロス達は戦いの痕にヒールを施していく。
「(本物のスイーツが食べたいけど、がまんがまん)」
「どうしたの、メノウ?」
 黙々と作業を続けるメノウにカッツェが訪ね、きっと同じ気持ちだろうと察したロフィが相好を崩した。
「一緒に食べに行きますか? 私、辛いものが大好きでして……」
「え、そっち?」

「……なかなか本体にたどり着けないなぁ」
 一方、同じくヒールの作業中に、メリルディが思わずそう口にする。ここで言う本体とは、言うまでもないが今回の事件の発端であるパッチワークの魔女達を指している。
 その影を捕らえる事はできなかったが、しかし。ケルベロス達は確実に一歩を刻んだ。この先が、あの敵まで続いている事を信じよう。
「男の子は、元気になってくれたかな?」
「きっと大丈夫よ」
 メリルディの問いに瑠璃が答える。今回の夢の主である少年も、朝日が昇ればきっと目を覚ます事だろう。そして彼の家では無事に、平和に、本当のパーティが開かれるに違いない。
 それは、一年にたった一度。自分だけの記念日で――。その光景を心に浮かべ、瑠璃はそっと空を仰いだ。
「誕生日おめでとう」

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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