夢の詰まった宝箱

作者:神無月シュン

 少年は一人、狭い通路を歩く。片手にランプ、もう片方には剣を握りしめ、ただひたすら通路を歩く。
 どれだけ歩いただろうか、不意に視界が開ける。たどり着いた小部屋の中央、目的の物はあった。
「やっと見つけた」
 少年は黄金の宝箱へと駆け寄ると、足元にランプと剣を置き、深呼吸をひとつ。そして宝箱の蓋を開ける。
「何が入ってるかな」
 ワクワクと胸を躍らせながら、宝箱の中を覗き込む。すると、宝箱の中央に一つ目がギロリ。それと同時に蓋が閉じられ、少年の頭に噛みついた。
「うわぁぁあああ!」
 驚き周囲を見渡せば、そこはいつも見慣れた自分の部屋。
「なんだ……夢か……」
 安堵し、ほっと一息ついたのも束の間――ブスリ。何かが少年の胸に突き刺さる。
 顔を上げると、そこには『鍵』を少年の胸に突き刺し、微笑む少女の姿。獣人のような姿に、胸にはモザイク。明らかに人間ではない。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 そう言うと少女――第三の魔女・ケリュネイアは、ドアを開けるかのように『鍵』をひねった。
 ケリュネイアが『鍵』を引き抜くと、少年は意識を失いバタリと布団に倒れた。その横には、黄金に輝く宝箱が姿を現していた。

「ビックリする夢を見て、飛び起きることってあるっすよね」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、集まったケルベロス達に説明を始める。
「そのビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われ、その『驚き』を奪われてしまう事件が起こっているっす」
 『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消している。しかし、奪われた『驚き』を元にして現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているとのこと。
「現れたドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して欲しいっす」
 このドリームイーターを倒す事ができれば、『驚き』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれるだろう。
「敵のドリームイーターは1体のみで、配下などは存在してないっす。対象は被害者の家の近所の公園っす」
 ドリームイーターが現れるのは深夜。周囲に人影はない。
「見た目は1mほどの、黄金の宝箱、外見通り結構硬いっす。攻撃方法は、噛みつき攻撃に、箱の中からお宝を色々飛ばす攻撃っす」
 ドリームイーターは、自分の驚きが通じなかった相手を優先的に狙ってくるようだ。この性質をうまく利用できれば、有利に戦えるかもしれない。
「やっぱり宝箱の中には、お宝が入っていて欲しいっすよね」


参加者
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)
レイ・ヤン(余音繞梁・e02759)
紫藤・大輔(繋がれていた鎧装騎兵・e03653)
草間・影士(焔拳・e05971)
亜桜・真音(みにまむれでぃ・e09889)
音無・凪(片端のキツツキ・e16182)
前田・龍(悪字鬼・e20612)
愛宕・幸(空気を読まない無貌のヒト・e29251)

■リプレイ

●公園にたたずむ黄金の宝箱
 深夜、ケルベロス達は宝箱があるという、公園にやってきた。周囲は外灯があるものの薄暗く、暗がりにあったら見つけることが出来るか怪しい。
「ドリームイーター……しかも最近事件を起こしてる奴か……とにかく、今は起こした奴よりも生れ出た奴が先決だな」
 紫藤・大輔(繋がれていた鎧装騎兵・e03653)が呟きながら、入り口付近の木の影を調べる。
「宝箱、良い響きだねぇ……」
 音無・凪(片端のキツツキ・e16182)が目を瞑り、宝箱の中身を思い浮かべている。
「夢の宝箱を現実にね。宝箱は驚きが詰まってるもんだが、そいつを奪おうってのは許せないもんだ。こいつはひとつ、大事なお宝を護ろうとしましょうかね」
 前田・龍(悪字鬼・e20612)が被害者の少年の意識を取り戻す為、気合いを入れる。
「見つけたよ」
 草間・影士(焔拳・e05971)の声に、ケルベロス達は公園の中央に向かう。そこには外灯に照らされ、ど真ん中に堂々と宝箱が置かれていた。1メートルほどの宝箱は、光を反射しまぶしいほどの黄金の輝きを放っていた。
「夢の詰まった宝箱……ですか。どちらかというとパンドラの箱のような気も致しますが……」
 ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)が場違いな宝箱を見て、感想をもらす。
「子供の頃はすごくこういうの好きだった」
 ゲーム好きとしてはたまらないと、レイ・ヤン(余音繞梁・e02759)は目を輝かせる。
「光りかがやく宝箱……とまで聞けば聞こえはいいけれど、中身は一体どうなってるのかしら、ちょっと気になるわよね」
 遠くから様子を見る、亜桜・真音(みにまむれでぃ・e09889)。
 その隣で、愛宕・幸(空気を読まない無貌のヒト・e29251)が、ほうじ茶を飲みながらじっと宝箱を観察していた。
 凪が少し興奮気味に写真を撮っているが、宝箱は微動だにしない。
「どう見ても、罠……ですよね」
 ヒスイが呟く。
 公園の真ん中に黄金の宝箱なんて、どう考えても怪しい。しかし、軽く叩いてみても反応は一切なく、罠だろうが開けるしかない。このまま放置しておいて、一般人が開ける方が遥かに危険なのだから……。
「それじゃ、開けるよ」
 影士が準備はいいか。と他のケルベロス達に視線を送る。皆が武器を構え、頷いたのを確認して、宝箱を開けた。鍵などもかかってなく、重い蓋が持ち上げられる。暗がりを覗き込むと、不意にバスケットボール大の目玉が、影士の顔の前に現れた。
「うわっ! なんだいきなり」
 影士は驚いたと同時に、後ろへと飛びのき一気に距離をあける。
「嘘だろ!? 宝箱のままでいてくれよ!!」
 浪漫をぶち壊わされ、思わず凪が叫ぶ。
 龍は驚いて武器を落とし、慌てたようにすぐさま拾った。
 ケルベロス達が、わざとだったり本当に驚いていたりする中。
「……ふーん」
「もきゅー?」
 冷静に宝箱を見つめるレイと、ボクスドラゴンの太郎。全く動じず武器を構えたままの大輔。ディフェンダーの面々が驚かずにいた。
 驚かせたくて、しょうがなかった宝箱ドリームイーターは、驚いてくれなかったケルベロスへと敵意を向ける。
 ここからが勝負だと、ケルベロス達は武器に力を込めた。

●驚きの詰まった宝箱
 ヒスイが地面へとケルベロスチェインを展開し、前衛を守護する為の魔法陣を描きだす。
「リベレイション!」
 レイが叫び、竜の力を解放する。口を開け、炎の息を宝箱ドリームイーターへと放つ。吐き出された炎は、宝箱ドリームイーターとその周囲を火で包んだ。側に控えていたレイのボクスドラゴン、太郎が主を護るため自分の属性をレイへと注入した。
 影士がエクスカリバールの先端の曲がった所を、力任せに宝箱ドリームイーターへと叩きつける。ガンッという大きな音が響く。しかし軽い傷がついただけだった。流石に宝を入れて護るための箱、物凄く頑丈にできている。
「随分と頑丈なようだが、じっくりと解体させてもらおうか」
 これは長期戦になるなと、影士は次の攻撃に備える。
 宝箱ドリームイーターが口を開け、大輔へとナイフを飛ばす。飛んできたナイフは腕をかすめ、ナイフで付いた傷口から毒が広がっていく。
 反撃とばかり大輔が距離を詰める。五角龍刀『天武・改』を握りしめ――抜刀。居合い斬りによる攻撃が、宝箱ドリームイーターに傷を付ける。
「あぁ、本物じゃないってことは分かってたよ……でもなぁ、期待に応えて宝箱のままでいるって選択肢を捨てたテメェは許さん、焼くなり凍らせるなり好きにやらせてもらうぜ!!」
 凪が叫び、まずは下準備と『五界・陽炎』を発動し、前衛の守りを高める。
「それじゃ、いくわよ、えーいっ!」
 真音は素早く接近すると、マインドリングから光の剣を具現化し斬りつけた。
 幸が達人の一撃を放つと素早くその場を離脱。
「さぁ、飛ばしていこうか!」
 飛び上がっていた龍が、ルーンアックスを宝箱ドリームイーターの頭上へと叩き込む。
 ヒスイがケルベロスチェインを伸ばし、宝箱ドリームイーターを締め上げる。そこに間をあけずに、レイが電光石火の蹴りを放つ。
「覚悟は出来てるだろうな。これで焼き払ってやる」
 炎を纏った激しい蹴りを放つ影士。
 宝箱ドリームイーターが炎のついた体のまま、レイに噛みつき、体力を吸い取っていく。攻撃を受けたのを見て、大輔がヒールドローンを展開。前衛の傷を癒す。
 凪のブレイズクラッシュによって、宝箱ドリームイーターが更に炎に包まれる。
 真音の破鎧衝、幸の大器晩成撃、龍のルーンディバイトが次々と宝箱ドリームイーターを襲う。
 攻勢に出ていたヒスイが回復を優先するために、後方へと下がった。移動を援護するように、レイ、影士、凪が攻撃を加える。
 宝箱ドリームイーターが口を開き、金貨を飛ばす。レイは攻撃を喰らいながらも、お宝が出てきたと喜んでいる。
 大輔の放つスターゲイザーが宝箱ドリームイーターの機動力を奪う。動きが鈍った隙に、幸が斬霊斬を放つ。
「これ以上悪ささせないんだから!」
 古代語の詠唱を終えた真音が、魔法の光線を放った。
「さぁて、お前の味はどんな味だぁ!」
 龍が『強欲なる暴食』を活性化。宝箱ドリームイーターへと喰らいつく。
 レイが虚ろな瞳で、気力溜めを――宝箱ドリームイーターへと放った。傷は癒え、燃え盛っていた炎等も消えていく。
 さっきの金貨に目がくらんで、寝返ったようにも見える。原因に気がついたヒスイが薬液の雨を降らせる。雨を浴びてレイの瞳に光が戻っていく。
「どうやらさっきの金貨、催眠の効果があるみたいですね」
 催眠効果は稀とはいえ、万一の場合を考えて、催眠はすぐに直そうとヒスイは皆に告げた。
 影士がグラインドファイアを放ち、再び宝箱ドリームイーターに炎をつける。
 宝箱ドリームイーターから噛みつき攻撃を受けた大輔が、フォートレスキャノンで反撃する。そこに幸の大器晩成撃、龍の稲妻突きが繰り出される。
 バッドステータスを増やそうと、凪が絶空斬、真音がチェーンソー斬りをそれぞれ放つ。
 ダメージの蓄積している、大輔へとヒスイがウィッチオペレーションを行い、大輔の傷を癒やしていく。
 宝箱ドリームイーターがレイに向かって毒ナイフを飛ばすが、太郎が間に割り込んで代わりに受け止めた。太郎に感謝し、レイが旋刃脚を放つ。
 影士がエクスカリバールから釘を生やし、宝箱ドリームイーター目掛けてフルスイングする。そこに大輔の居合い斬り、凪の達人の一撃が連続で浴びせられる。
 真音の『小さな嵐の舞踏』が、宝箱ドリームイーターの傷を更に増やしていく。
 龍が驚きを与えるため、練りワサビのチューブを宝箱ドリームイーターの口の中へと放り込んでみた。しかし、辛い物が平気なのか、それとも味覚がないのか、何事もなかったかのように練りワサビのチューブは地面に吐き出された。
 その様子を幸がほうじ茶で一服しながら眺めていた。

●財宝のない宝箱
 宝箱ドリームイーターの守りをなかなか崩せずに、長期戦を強いられるケルベロス達。宝箱ドリームイーターもケルベロス達も、回復しきれない傷が増えてきていた。
 宝箱ドリームイーターが大輔へと金貨を飛ばす。すぐさまヒスイがメディカルレインで治療する。
 レイがオーラの弾丸を放つと、宝箱ドリームイーターを追尾し、喰らいついた。
 影士が炎を纏った激しい蹴りを放ち、大輔、凪、幸が斬撃を加えていく。
 真音がマインドソードで攻撃し、怯んだ隙に龍がスカルブレイカーを放つ。
 体力が少なくなってきている宝箱ドリームイーターが、体力を吸収するべく側にいた真音に噛みつき、歯が深々と食い込んだ。
 ヒスイが真音をウィッチオペレーションで回復する。
「たとえどんなに私そっくりの模造品がいても、誰も本物の歌には叶わない。死神さえも私の歌に伏すのだ。癒しの歌を聴け、さすれば」
 詠唱を終えたレイが『小夜啼鳥』を活性化させる。鼓舞するような力強くも美しく奏でられる歌が前衛を元気づける。
 影士がエクスカリバールをフルスイング。そして流星の煌めきと重力を宿した、大輔の飛び蹴りが炸裂する。
 凪の達人の一撃、幸の大器晩成撃が後に続く。
「ぜったいに、やっつけてやる!」
 真音がチェーンソー剣で斬りつける。
「砕けちまいなぁ!」
 龍がルーンアックス『魂喰』のルーンを発動させ、宝箱ドリームイーター目掛けて振り下ろす。衝撃に耐え切れずに、宝箱ドリームイーターの表面に亀裂が走る。
 止めとばかりにケルベロス達は、一斉に攻勢に出る。
「アンタが身をもって受けてみるといい」
 ヒスイが『グレイスファル カタストロフィ』を放ち、続いてレイがドラゴンブレスを放つ。
「この力。生に導くか死を手繰り寄せるか。試してみるか?」
 魔力を両腕に集中し、影士が紅いエネルギーの奔流を放出する。
 倒されまいと宝箱ドリームイーターが、毒ナイフを飛ばす。それを凪がギリギリでかわし、ブレイズクラッシュを叩き込む。
「さぁ、まおとおどりましょ――メリィ・メリィ・ランページ!」
 真音の『小さな嵐の舞踏』で怯んだところに、幸が斬霊刀を非物質化させ、斬撃を放つ。
「自慢の口だろうが、俺も口には自信があってね。喰らってみやがれ!」
 龍が宝箱ドリームイーターへと喰らいつく。
「切り札を切らせてもらうぜ!! 必殺拳『ハートブレイカー』!」
 大輔が腕を回転させながらのストレートを、急所に向けて叩き込むと同時、宝箱ドリームイーターの内部で爆発を起こし、宝箱ドリームイーターはバラバラになった。
 バラバラになった宝箱の残骸を見てみると、そこには財宝など一切なく……。あるのはバスケットボール大の目玉と、その周囲に絡みつくモザイクだけだった。
「これで、あの子も起きるだろうよ。驚き、というのは大事なもんだからな。驚きがあるからこそ、人生は楽しい。それを奪うのは許せないからな」
 龍が宝箱の残骸を見ながらつぶやく。
「それでは宝箱さん、ごきげんよう」
 消えゆく宝箱ドリームイーターへと、真音はスカートをちょんと摘まみ、お辞儀する。
「そろそろ寒くなってきたし、おでんとかどう?太郎」
「もきゅー!」
 レイと太郎が仲良く手をつないで歩き出す。
「そう簡単に中身を拝めないから浪漫があるとも言えるけどさ……。宝箱、本物だったら良かったのにねぇ……」
 凪が光の反射が強すぎて、うまく撮れてなかった写真を見ながら、残念そうに歩き出した。
 少年が今度は素敵な夢が見れるようにと、願いながらケルベロス達は公園を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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