エターナル・ディストピア

作者:七凪臣

●闇のメシア、降臨
 深淵の底に眠る漆黒の玉を溶かしたような、とろりとした闇の中。
「なんでっ、なんで、なんで……っ」
 牙の王冠を頭上に戴く女は、逆さ十字の祭壇の前に膝をつく。
「なぜ、俗世の者たちは!! 己が真の姿から、目を、逸らすのかっ!!」
 されこうべを象ったステンドグラスから注ぐ青い光が、黒い天鵞絨のローブに包まれた女の姿を照らす。その細い肩は、口惜し気に細かく震えていた。
「何故、何故、何故……何故!!」
 叫びは、苦悶に満ちている。目深にかぶったフードが彼女の顔を隠しているが、眉根はきつく寄せられているに違いない。
「なんで? どうして!? 厨二病は皆が必ず通る道でしょう!?」
 ……。
 ……。
 ……。
「男の子は邪神のしもべになって、女の子は光の贄になるものでしょう!?」
 暗い室内を、よぉく見たらば。そこかしこにそれっぽいグッズが並べられていた。まぁ、その。怪しげなカードだとか、大小様々な水晶だとか、剣のレプリカとか、羽根とか、錬金術にでも使えそうな実験道具とか、魔女風の衣装とか、そんなのが。
 ただし、全部。うっすらと埃を被っている。序に言うと、雰囲気的にはお誂え向きな蜘蛛の巣が、天井の隅に出来ている。
「うう、うう。知ってるのよ。だって私も今年で四十だもの。こんなお店開く方がバカだって……!」
 その時だった。彼女の胸を、巨大な鍵が貫いたのは。
「!?」
 突然の出来事に、女は息を飲む。未知との遭遇に、うっかり喜色が浮かびかけたのは、きっと気のせいだ。
 だって、彼女は――。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 現れた第十の魔女・ゲリュオンによって『後悔』を奪われ、意識を失ってしまったのだから。
 代わりに、覚醒したのは闇のメシア……っぽい、ドリームイーター。

●卒業できない人は少なからずいると思います
 自分の店を持つというのは夢である。
 叶えた時はさぞかし嬉しいものだろう。だからこそ、店が潰れてしまった時の後悔は計り知れない。
「闇の聖女……もとい、熊谷清美さんも、そんな後悔に苛まれたようですね。結果、ドリームイーターに襲われてしまった、と」
 慣れた口調で事件の概要を語るリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)の眼差しは、いつもよりちょーっと遠い所を見ている。
「というわけで、皆さんには清美さんから奪った『後悔』を元にして現実化したドリームイーターを倒してきて欲しいんです」
 理由は一つ、彼の年齢。そう、リザベッタは現役中学二年生。今回の一件に、何をか思う処もあるのだろう。例えば、「なんで中二ってだけで、そういう年頃だって思われるんだ」とか、そんな感じのことを。
 ともあれ、彼の内心の葛藤は右か左に置くか、棚に上げることにする。だって既に新たなドリームイーターが産声を上げてしまっている――『後悔』を奪った方のドリームイーターはもう姿を消してしまっているけれど――のだ。このまま放置したら、新たな犠牲者が出てしまう。あと、清美にも目を覚まして欲しいし(いろんな意味で)。
「というわけですので、詳細をお話させて頂きます」
 なんとか気分を持ち直し、少年紳士はあくまで紳士的に自分が予知したことを詳らかにする。
 敵は、基本は若い男性体。特筆することと言えば、額と掌には漆黒の宝玉が埋まっていることと、これまた漆黒の一枚羽を有し――『闇のメシア』という店名が描かれたエプロンをしていること。
「あ、彼。店長型ドリームイーターですから」
 なるほど。確かに本格的なそれっぽい恰好をしていたら、客の興味も惹けるだろう。
「あと戦う時は、それっぽい呪文を唱えたり、額や掌の宝玉から闇の波動を発したりするようです」
 うん。そういうところも、それっぽい。
「で、ですね。ここからが、まぁ、重要と言えば、重要なんですけど……」
 リザベッタが一瞬だけ言い淀んだのは、ここから先を語るか語るまいか、迷ったからだ。何故なら、この店長型ドリームイーター、普通に店に突入して戦いを挑んでも構わないが、客のふりをして店を訪れ、そのサービスを心から楽しんであげると、満足して戦闘力が減少したりしちゃうという特性を持っているのだ。
 つまり、一緒に厨二病を楽しめと。むしろ、厨二病を存分に発揮しろ! と。
「僕にはそんなこと、良識ある皆さんにはとても言えません……っ」
 そんな事を、ぜぇんぶ語った後にリザベッタが言ったりしたのは、これまたどっかに置くとして。
 十月といえば、ハロウィンもありますし。
 皆さん、ここぞで厨二病を炸裂させてみるのは如何でしょうか?
 それでデウスエクスを倒せて、人を救うこともできるんですから、いいことだらけですよ! きっと!!


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
赤羽・イーシュ(朱音色纏イシ地獄ノ奏者・e04755)
天月・光太郎(ユメを観る月・e04889)
オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)

■リプレイ

「ありがとうございました」
 澄んだ瞳で、女は去りゆく背中を見つめる。
「……大丈夫、私。まだまだやっていけるわっ」
 力強く握り締められた拳には、新たにした決意が満ちていた。

 これは、ある女と、その女の絶望と、彼女を救う為に降臨した八人の獅子(+お供のサーヴァント二体)が織り成す終焉と再生の物語である。
 ――多分。

●導かれし者、襲来
 ぎぃぃいい。
「ククク……感じる、感じるぞ! 我を呼ぶ邪神の声が……!」
 重い鉄の扉が軋む音は、囚われた魂の叫び。だが、そんな耳障りな音色も心地よいとばかりの歩みで、天月・光太郎(ユメを観る月・e04889)は闇の祭壇の広間へ足を踏み入れた。
「何奴っ!」
 ばさり、漆黒の片翼が淀んだ鈍色の世界に閃く。振り向き問いかけたのは、逆さ十字の真下に立っていた男(異質な筈のエプロンがやけに似合う)だった。
「――それを訊くのか?」
 挑発するよう光太郎は肩を聳やかして顎をしゃくる。実は巻き起こった風がちょっと埃っぽかっただけなのだが、いい感じに尊大な感じに片翼の男の眼には映ったことだろう。
「……あぁ、そうだとも。私に分からぬ事などない! 全てはこの第三の目がお見通しなのだか――」
「ククク、やはりな」
 焦りを誤魔化す救世主の台詞をぶったぎり、全身に纏わせたアクセサリーをじゃらりと鳴らし青白いながら禍々しい顔をした――単純に、ヴィジュアル系メイクを施しているだけ――が赤羽・イーシュ(朱音色纏イシ地獄ノ奏者・e04755)が場に割って入る。
「俺こそが地獄より来たりし冥府の音楽家(ヘルロッカー)Eashだ! 闇の気配に導かれるまま来てみたが……中々に珍妙(ロック)な場所じゃねぇか。俺の好奇心(ロックハート)をそそるぜ……!」
「Eashだと!? まさか、貴様までがっ」
 名乗ってくれたのを良いことに、救世主、全乗っかりだ。連呼されてるロックも、気にしてない。
「闇のメシア。お前の饗し(ロック)を、存分に披露(ロック)してくれ!」
 というかイーシュのロック劇場、続いてた。
「承知(ロック)した。さすればこの魔弦(ロック)などどうだ?」
 救世主、なおも乗っかり。錆びついたブロンズ弦を引っ張り出す。
「なるほど、これは俺の新たな作品(ロック)への血肉となりそうだ。お前の心意気(ロック)、確かに俺達に届いたぜ……!」
 イーシュ、完全に救世主と通じ合った。だが、品待ちなのは光太郎も同じ。
「次は俺に見合う剣を出して貰おうか。これだけの波動を感じるここならば、あるだろう?」
 ずい。
 闇の剣士であり、その強大な力ゆえ手持ちの剣が破損寸前という設定の光太郎が、救世主へ詰め寄る。
「っ、勿論だとも。だがその前に貴様の力を測らせて――」
 救世主、店内をうろつく。が、目当ての品に宿りつくより早く、
「まさか、私と同じカルマ(右腕)の持ち主と此処で邂逅(であえる)とはね……」
 再び、じゃらんじゃらん。救世主の言葉を華麗にぶった切り――彼に休みを与えない作戦だ!――、原型が分からなくなるほどボンテージ風のベルトやチェーンやジッパーでごてごて飾った雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)が、意味深な歩みで男たちの会話に割って入った。
「異端者同士、惹かれ合う運命というわけか……」
 シエラ、握手を求めるように右腕を救世主へ差し出す。その腕は、包帯でぐるぐる巻きだ。
「――ようこそ、同志よ!」
 それだけで右腕疼き仲間と察した救世主の瞳がキラッキラ。しかし、救世主の高揚とは裏腹に、シエラの内心はドン引きの冷え冷えだった。
(「……違うっ。同志じゃないよっ。っていうか、もしかして私も普段からこんな目で見られてるのかな……」)
 シエラの右腕は地獄で補われてる。でもって、幻視痛的な意味で、彼女はリアル右腕が疼いちゃう子なのだ。ぜ・つ・ぼ・う! 強く、生きて!!
 そんな感じで始まったケルベロスによる潜入作戦。店の外にはキープアウトテープがばっちりだ。主に、黒歴史まっしぐら確定だろう自分たちの姿を、よそ様に絶対に見せない為に。
「ここに強力な封印具があると聞いたのだが」
 此方、エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)さん。十五歳の可憐な少女。だけど今日は、左目に大悪魔が封印されている修道女☆ なんちゃって眼帯が良い味だしてる。
「ほう、それならば……」
 次から次に押し寄せて来る客(?)に救世主も慌ただしい。ともあれ、リクエストに応えようと店内を見渡して――。
 ぱちり。
 天井付近を見上げ、何かと目が合った。
「うひっ」
「これは失礼。我、天界より舞い降りし、神の獣……(約:こんにちは、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)です)」
 すちゃっ。白きライオンの獣人が高みより舞い降りる。つまりレオナルド、出番がくるまで両腕両足つっぱって天井に張り付いてたっぽい。
「魂共鳴せし、同胞……(訳:店長さん、素敵なお店ですね)」
「おっ、おぉう」
「我が漆黒の眼(まなこ)に焼き付けん(訳:少し、中を見て回っても大丈夫でしょうか?)」
「ヌッ、も、勿論だ」
「偽りの心臓が鳴動する……!(訳:素敵なアイテムばかりですねドキドキします!)」
「それは何よりだ!!」
 レオナルドの斜め上をいく登場の仕方に、完全に度肝を抜かれてしまったっぽい救世主。なんとか調子を取り戻す。あと、なんだかんだでレオナルドの厨二言語についていっているのは流石だった。

●厨二でも可愛いは正義
「あのな、俺は世界中を旅する冒険者なんだ!」
 にこ。
「そして遺跡発掘チームの護衛に雇われてた時に、これを発見したんだ!!」
 ずい。橙色の瞳を輝かせたドワーフの少年が突き出した手には、豪奢な彫が施され中央に宝玉が配された腕輪があった。
 にこにこ。
 明らかにブカブカなそれに、少年――アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)の背伸び具合を悟ってか、陰鬱な筈の救世主の顔も謎の和らぎを見せている。
 その一方で。
(「あー、なんだ? 厨二っての? 演じながら倒せって?」)
 某メタルバンドよろしくな白塗りメイクを決めまくったジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)の容貌の方が鬼のようになっていた。
(「なんだって、そんなクッソ面倒くせェことやんなきゃいけねェんだ?」)
「この腕輪には霊魂が宿っていて、俺はこの霊魂を相棒にして……あーっと、何か頑張ってる!」
「なるほど、まさに呪われし法具という事だな!」
 にっこにこ。
 とりあえず良く分からないから自分の口で全部説明しちゃったアバンに、救世主が最大のデレを発揮している。だってこの世は可愛いが正義。例え厨二であっても!
「その通り! お前にもこの霊魂を見せてやるんだぜ――」
 勢い付いたアバン、何もない虚空に向かいそれっぽく手を伸ばし――何故かそのタイミングでうっかり我に返ってしまった。
「……(むなしい)」
「だ、大丈夫だ! 私にも見えている!」
 救世主が思わずアバンに助け舟を出してしまったのも、彼の可愛さ故。いや、きっと本人はカッコいいと思って欲しいだろうけど。だが、それくらい救世主はアバンにめろきゅーなのだ。それでもって、最初っから苛ついていたジョーイのイライラは、悪役らしからぬ闇の救世主の態度に臨界点突破。
「おい、てめェ! 闇の救世主ならそれっぽくしろよ!」
「(とか言いつつ、ジョーイもノリノリだよね)」
 シエラ、こそり。
「(えっ、ノリノリなんですか?)」
 エレ、びっくりこっそり。
「(ノリノリだな)」
 光太郎、ぼそり。
「(俺は知ってるぜっ。ジョーイは地獄に住む悪魔で、悪魔法を破った罪悪魔を裁く処刑人で、年齢は100035歳っていう設定をっ)」
 期せずして似たようなヴィジュアルになってるイーシュが、こっそり暴露。
「(ほほう。それはばっちりノリノリですね!)」
「おいてめェらも聞こえてんだよ!」
 レオナルドのひっそり感心まで内緒話モードだったのに、さすが悪魔は地獄耳。聞こえていたジョーイがブチ切れる。
「そもそも、救世主。やんならしっかりやれってんだ。付き合わされてるこっちの身にもなれ!」
「……付き合う、ですと?」
 聞き捨てならなかったらしい(?)現実を思わせる詞に、救世主の目が吊り上がった。だが、長命な悪魔はこれくれくらいの窮状だってお手の物。
「っち、あの光が眩しいせいで、変なこと言っちまったぜ!」
 咄嗟の判断でジョーイ、未だ名乗りを上げていなかったオーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)へ全力で話を振った。何故なら、オーキッドは――。
「ふふふ、ボクはこの聖獣ナルティメットに選ばれし勇者オーキッド……」
 聖獣ナルティメット(究極獣っぽいぞ!)こと、ウィングキャットのなるとを腕に抱いた竜族の少年は、まさに闇の救世主とは対極の存在。
「これからキミを暗黒の支配から解放する! そしてぞくせの救世主、光の救世主になるのっ!!」
 そして高々と闇の救世主に宣戦布告したった。満面の笑顔を全力で煌かせて!!
 だって厨二病が何たるかを知らなかったオーキッド(実はエレもレオナルドも知らなかった。知らなかったけど、レオナルドは事前に本を読んで目一杯勉強した。で、あれだけの厨二言語を使いこなした!)、他の皆のなりきり度に感動しまくっていたのだ。すごい、すごいなって、出番が来るまでドキドキしてたのだ。
 と、なれば。
「成程、貴様は我が宿敵か……そういえば、そこな獣も神の獣と言っていたな」
 闇の救世主も全力で応えた。わざわざ片翼を羽ばたかせレオナルドを一瞥する風情は、確かに堂に入っている――けれど。
「くっ……もう無理だー! 私もうダメ! このテンションが続くと、私の中の大事な何かが壊れる!!」
 ……ついにシエラがギブアップ。うん、よく頑張りました。意味深ルビ満載な台詞放ちまくったしね。
 ともあれこれを機に、そろそろ頃合いかとケルベロス達は臨戦態勢に入る。このままだと永遠に茶番劇が終わりそうになかったし。
「『闇の飯屋』! 貴様は悪魔法に反した! 故に、処刑人たる吾輩ジョーイ藤原が貴様に罰をくれてやる、フハハハハ!!」
 かくてジョーイの『救世主』と書いてメシアと読むから『飯屋』と勘違い(意図的なかもだけど)な哄笑にて、一方的蹂躙という名の戦いの幕が上がる!
「やっぱり、ジョーイが一番ノリノリだな」
「なりきるってやっぱり凄いんだぜ」
「光太郎、アバン! 聞こえてんだよっ!」
「ジョーイ、ずるいずるいよ! そういうセリフは勇者オーキッドのものだよ!」
 今日のケルベロス、とっても賑やかだ。

●えたーなる・でぃすとぴあ
「見せてやるぜ、俺達の絆! 因みに俺はこれから俺に憑り付いてる同胞達の霊魂から霊力を貰って――(暫し語り)」
 ここでもしっかり技の説明をしたアバン、青白く輝く拳で力一杯、闇の救世主――ドリームイーターの横っ面をぶっ飛ばす。その顔が、ちょっと嬉しそうに見えたのは気のせいだといいな。
 そしてその耳をつんざいたのは、ジョーイの悪魔の雄叫び。十万年生きた悪魔が如き、3オクターブ高いCの音の咆哮に、続・デレ中だった夢喰いの身体も硬直する。
「断罪の残響(コンビクションリフレイン)!」
 隙を見逃さず、オーキッドも先行したなるとを追って、デウスエクスへアスガルドの偉大なる斧を叩き込む。
 ちなみに今のグラビティはただのルーンディバイト。オーキッド、頑張って全部の技に厨二な名前を考えていた。全てお披露目できないのが残念っ。
 とまぁ、こんな感じで。先ほど一方的蹂躙とお伝えした通り、存分に遊んであげた甲斐あって闇の方の救世主の力はすっかり半減。結果、戦いはケルベロス達が圧倒的有利!
「暗黒の星よ煌け、この凶つ一閃はエターナルディストピアへ導く闇となる!」
 普段は光に満ち満ちてる詞を闇に変え、光太郎は彼だけが持つ力をゾディアックソードに乗せて放つ。
 ざくり袈裟懸けに刻まれた傷から、チラチラと無数のモザイクが散る。
「響かせてみな、てめぇのロックをよ!」
 徹頭徹尾ロックなイーシュ、バイオレンスギターで夢喰いをぶん殴った。一緒に来ている箱竜のロック(ここにもロックが!)も、体当たりをぶちかます。
 闇の救世主、もうへろへろだった。だが最後の力を振り絞――。
「俺の右手が疼く……」
「それだけは赦さない。同族扱い本気で勘弁だよっ! 燃えろ……っ! 何処までも……!」
 振り絞ったけど、足が絡まりすっこけて。そこへ私情込み込みシエラの業火が襲う。うん、焼き尽くしたかったんだね。色んな意味で。
(「魔女・パッチワーク、奴らの影がこんな所にも――何度だって、振り払ってみせます! そしていつか奴らの喉元に!」)
 元を正せば、諸悪の根源はレオナルドの宿敵。だから戦う時の気持ちは真面目に(いや、ずっと真面目だったけど)レオナルド、雷宿す刃で敵を貫く。
 そうすれば、闇の救世主はただボロボロのドリームイーター。
「これで、終わりだ!」
 最後はちゃっかりノリノリ――ただし顔には一切出しません――エレが構えた。
「それは夢か現か幻か……。見えぬ真実に翻弄されて、惑い、儚く散れ!」
 なんちゃって眼帯を外し、見開いた眼で敵を射貫き。暗黒の修道女服の裾を気合で起こした風に踊らせ。
「そんな、馬鹿な! 私が敗れるとは……!」
 そうして深い霧を最高に厨二病風に操ったエレの一撃で、哀れ闇の救世主は最期までそれっぽく散って逝った。

「え、待ってロック。今、俺の足に走ってる鈍痛はお前の仕業?」
 はぐはぐ。出番不足なロックがイーシュの脚を食み食みする頃。
「は、恥ずかしいぃぃっ」
「私、知ってる。これ、黒歴史っていうんだよね……」
 或いは、光太郎とシエラが羞恥にもんどりうつ頃。
「だいじょーぶ? 痛い所があったら、ボクとなるとで治してあげるからね、あげるからね!」
 オーキッドに覗き込まれながら無事に目を覚ました清美はと言うと。
「お店の商品とか、買ったりできないけど(金欠だから)……俺、楽しかった! つまり……ワクワクできる夢をありがとうって事だな!」
「汝に闇の祝福を(訳:頑張って下さい、応援してます)」
「はうあ!!」
 アバンとレオナルドからの思わぬエールに感極まって、要らぬ活力をチャージしていた。

「ちゅうにびょうって、不思議な病気もあるものですね……。え? 病気じゃないんです? 日本っていろいろあるんですね……」
 ウィッチドクターのエレが首を傾げるのもさもありなん。というか、ぜひエレには其の侭、知らず清くって欲しいと願いながら。
「こういったクッソ面倒くせェ事は! 金輪際ッ二度とやらねェからなッ! 絶対だぞッ!」
 ノリノリだったジョーイの怒りの絶叫で物語は幕を閉じるのだった。南無。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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